9人の女神と9人の戦士 ~絆の物語~   作:アイスブルー

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第36路 騒乱!駅伝部

◎カケルの部屋◎

 

 

 

 

「何!?王子が!?」

 

 

 

『はい!さっき凛ちゃんから電話があって、ランニング中に突然倒れて真姫ちゃんちの病院に運ばれたそうです!』

 

 

 

カケルは電話でジョージから連絡を受けていた。

 

 

 

「わかった!俺もすぐに向かう!」

 

 

カケルは通話を切ると、急いで部屋を出て西木野総合病院へと向かった。

 

 

 

 

 

「ったく王子の奴、無茶しやがって・・」

 

 

 

「あれ?カケル君?そんなに慌ててどうしたの?」

 

 

カケルはそう呟きながら穂むらの前を通ると、買い物袋を抱えて家に入ろうとしていた穂乃果に声を掛けられた。

 

 

 

 

 

「・・実は、王子が倒れたらしいんだ」

 

 

「ええっ!?王子君が!?」

 

 

カケルの言葉を聞き、穂乃果は驚きの声を上げた。

 

 

 

そして先ほどジョージから聞いた話を穂乃果に話した。

 

 

 

 

「偶然西木野さんたちに発見されて、西木野総合病院に運ばれたらしいんだ!俺はこれからそこに向かう!」

 

 

「わかった!私も後で行くね!」

 

 

 

カケルは穂乃果の返事を聞くと、再び駆け足で病院へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッ・・ハッ・・ハッ・・ハッ・・

 

 

 

今日も走らなきゃ

 

 

 

僕が一番遅いんだから・・誰よりも多く走らないと・・

 

 

 

それにしてもみんな・・・速いなぁ

 

 

 

みんなどんどん先に行っちゃってるよ

 

 

 

 

 

 

 

そろそろかな

 

 

 

走って20分くらい経つと、なんか軽くなってくるんだよな

 

 

 

みんなにも追いつけるし

 

 

 

うん、きたきた

 

 

 

 

 

 

 

ああ・・・気持ちいいな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・!」

 

 

 

 

「お、起きた」

 

 

 

「茜君!よかったぁ」

 

 

 

「大丈夫?王子君」

 

 

 

王子は目を覚ますと、ハイジ・花陽・穂乃果が声を掛けてきた。

 

 

 

そこは西木野総合病院の病室であり、王子は患者衣を着てベッドに横たわっていた。

 

 

病室には、連絡を受けて駆け付けた駅伝部の部員全員と穂乃果・真姫・花陽・凛が見舞いに来ていた。

 

 

 

 

「・・・僕は一体、どうなったんですか?」

 

 

王子は何が起きたのかわからず、ゆっくりと身体を起こしながら訊ねた。

 

 

 

 

「ランニング中に、脱水症状で倒れたんだよ」

 

 

ハイジが答えた。

 

 

 

「脱水?」

 

 

「君が倒れていた所に、偶然通りかかった彼女たちが病院まで運んでくれたんだ」

 

 

ハイジは安堵の表情で見守っている花陽・凛・真姫を指しながら言った。

 

 

 

 

「ホントにびっくりしちゃったよー」

 

 

「まったく・・たまたま病院の近くだったからよかったけど、ここまで運ぶの大変だったんだからね」

 

 

「まあまあ真姫ちゃん。とにかく、茜君が無事でよかったよ」

 

 

 

凛・真姫・花陽が言う。

 

 

 

 

「お前が着ていた練習着、病院でもらったこの袋の中に入ってるぞ」

 

 

「お前あんな暑い中よく走ろうなんて思ったなぁ」

 

 

「でもあんまり無理をしちゃダメだよ」

 

 

「そうだよ。王子がもっと速くなるために頑張ってるのはみんな知ってるから」

 

 

ユキ・平田・高志・ジョータを始め、駅伝部のみんなは口々に王子に労いの言葉を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

「素人が無茶するからこんな目にあうんだ」

 

 

その時、一人病室の後ろの方で黙って見守っていたカケルが口を開いた。

 

 

一同は全員カケルの方を振り返った。

 

 

 

 

 

「こんな気温の高い日に、何時間も走るもんじゃない。第一、こまめに水分を摂るのは基本だろ」

 

 

「・・・そうでしたね」

 

 

「そうでしたねって・・・毎日の練習でハイジさんがよく言ってるだろ!」

 

 

カケルが厳しい口調で王子に声を掛ける。

 

 

 

 

「運動経験のある俺たちは、水飲め 汗ふけって刷り込まれてきたけど、これまで万年文化系の王子には未だにそういう感覚が染みついてないのかもね」

 

 

話を聞いていた高志が考えながら言う。

 

 

 

 

 

「とにかく・・これで怖くなって、走るの嫌になったんじゃないか?」

 

 

カケルは王子を見下ろしながら冷たく言い放った。

 

 

 

 

 

「ちょっと!カケル君!」

 

 

 

「・・・別にそんなことないです」

 

 

 

カケルの言葉に対して穂乃果が咎めようとするが、王子が返事を返した。

 

 

 

 

「そりゃあ少しは怖かったですよ。倒れた後も少しだけ意識が残ってて、身体全体がしびれてギューッと萎縮していったのを覚えてますし・・けど」

 

 

 

「「「 ? 」」」

 

 

 

「これでジョーと闘うために無理な減量に苦しんだ力石の気持ちが少し分かった気がします」

 

 

 

「「「???」」」

 

 

 

王子はオタクらしく当時の状況を某ボクシング漫画の人物になぞらえながら答え、他のみんなはさっぱり分からないという表情で聞いていた。

 

 

 

 

 

 

「ふざけんなよ!!お前下手すりゃ死んでたかもしれなかったんだぞ!!中途半端に走ってるからこんなことになったんだろう!!」

 

 

 

「カケルさん!王子は中途半端な気持ちでなんか走ってませんよ!」

 

 

「王子だって一生懸命頑張ってるじゃないですか!2ヶ月前は5000m30分以上かかってたのを今は10分以上も縮めてるじゃないですか!」

 

 

 

カケルは王子に対して厳しく叱責するが、ジョータとジョージは反論し王子を庇った。

 

 

 

 

「っていうかカケルさん!最近変ですよ!」

 

 

「そうデス。カケルはここのところ、何かに悩んでいるのではアリマセンカ?」

 

 

「・・・・・」

 

 

ジョータとムサに図星を付かれ、カケルは押し黙ってしまった。

 

 

 

 

「そうなのか?カケル。言いたいことがあるんなら遠慮なく言えよ。もう2ヶ月も一緒にいるんだからよ、ちょっとぐらい相談乗るぜ。そりゃあ俺じゃあ頼りにならないかもしれねえけどよ」

 

 

「『ならないかも』じゃなくて『ならない』だろ実際」

 

 

「上げ足取んなよユキ!」

 

 

「フン」

 

 

 

平田はカケルに対して先輩らしく相談を勧めるが、それに対してユキが悪戯っぽく笑いながらツッコむ。

 

 

 

 

 

「・・・・何を」

 

 

 

「「「 ? 」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あんたたちに一体何を相談しろって言うんだ」

 

 

 

 

「「「!!??」」」

 

 

 

 

 

カケルは容赦なく言い放った。

 

 

仲間を完全に拒絶する発言に一同は驚きのあまり絶句していた。

 

 

 

 

 

 

 

「出たよ。まさに自分はできるって奴のセリフじゃねえか」

 

 

この沈黙をユキが一番最初に破った。

 

 

さらにユキは続けた。

 

 

 

「お前さ・・・今まで一度も挫折とかしたことねえだろ」

 

 

「!!」

 

 

「言っとくけどな、挫折に関しては俺たちの方が多少なりとも先輩だ。話聞いてやるくらいのゆとりはあるさ」

 

 

 

 

 

 

「あんたたちに話したって、何も分かるわけないでしょう!!」

 

 

しかしカケルは尚も突っぱねた。

 

 

 

 

 

「カケル!!君だけが苦しいわけじゃないだろう!!みんな毎日必死に練習してるんだぞ!!」

 

 

「た、高志・・」

 

 

「同じ練習してから言えよ!!この中に俺よりも速く走れる人がいるのか!?」

 

 

今度は、いつもは温厚な高志が珍しく声を張り上げカケルに抗議し、ムサが諫めていた。

 

 

それに対してカケルも大声で反論する。

 

 

 

 

 

その様子を見て、ハイジは目を閉じて俯き、ジョータ・ジョージ・平田は怒りの表情でカケルを睨んでおり、ユキは呆れたようにため息を吐き、真姫はカケルに対して軽蔑の眼差しを向け、花陽・凛はオロオロしながら様子を窺っていた。

 

 

 

その中で穂乃果は、無言で拳を握りしめながら俯いていた。

 

 

 

 

 

「所詮あんたらド素人がいくら練習したって、高校駅伝なんて目指せるわけねえよ!!素人に分かりますっつうツラされたくねえんだよ!!」

 

 

 

 

「カケル・・・・お前いい加減に・・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァァーーーーーーーーーーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイジはカケルに掴みかかろうとしたが、その前に穂乃果がカケルの横っ面を思いっきりビンタし、その音が病室中に響き渡った。

 

 

 

全員が目を見開きながら驚愕の表情を浮かべ、病室は一気にシンと静まり返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしてよカケル君!!!」

 

 

 

「!!」

 

 

 

穂乃果は両手でカケルの胸ぐらをつかみ上げ、大声で怒鳴りつけた。

 

 

 

 

 

「王子君は、もっと強くなるために倒れるまで精一杯努力してきたんだよ!!そんな王子君の頑張りをどうして分かってあげないの!!みんなだって、高校駅伝を目指すために毎日真剣に頑張ってるのに、どうしてそれを認めようとしないの!!カケル君が抱えてる悩みの大きさとか、私たちには分からないかもしれないけど、一緒に過ごしている中でみんなだって私だって、カケル君がいつもと違うことに気付いてるんだよ!!」

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

「みんなカケル君のこと心配してるんだよ!!だったらそれに応えてよ!!何かあるなら遠慮なく言ってよ!!私たち・・・友達だって・・・約束したじゃない!!」

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だから・・これからも・・・これからも私たち、ずっと友達でいようね!」

 

 

 

 

『当たり前だろう穂乃果』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それとも・・・あれは嘘だったの・・・・カケル君・・・・そんなの嫌だよ・・・ううぅぅ」

 

 

 

穂乃果はだんだんと目に涙を浮かべ、ついにカケルの胸ぐらを掴んだまま俯いて泣き崩れた。

 

 

 

 

「穂乃果サン・・」

 

 

ムサは穂乃果に寄り添い、持っていたハンカチを差し出した。

 

 

穂乃果は受け取ったハンカチで目を覆い、泣き続けた。

 

 

 

泣き続ける穂乃果をカケルは呆然と見つめることしか出来なかった。

 

 

 

 

「そうだカケル。穂乃果ちゃんの言う通りだ」

 

 

ハイジが口を開いた。

 

 

 

 

「速さを求めるばかりじゃ駄目なんだ。そんなのは虚しい。何のためにみんながいるのか、早く気付いてくれカケル!俺のようになる前に!」

 

 

 

「・・・ハイジさん」

 

 

 

 

 

(・・俺のようになる前にって、どういうことだろう?)

 

 

高志はハイジの言葉を聞いて思った。

 

 

 

 

 

「信じてほしいんだ。俺たちのことを・・・だから・・・・」

 

 

すると突然ハイジの言葉が途切れた。

 

 

そして次の瞬間、ハイジはフラフラとよろめくとカケルの方へと倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

「ハイジさん!!」

 

 

「「「ハイジ(さん)!!」」」

 

 

 

 

カケルは慌ててハイジの身体を支えた。

 

 

ハイジの表情は青ざめており、ぐったりと目を閉じている。

 

 

 

 

「ハイジさん!どうしたんですか!?」

 

 

「ハイジさん!しっかりしてください!」

 

 

カケルと高志が必死に呼びかけるが反応はなかった。

 

 

 

 

「どうしまショウ!完全に意識がなくなっていマスよ!」

 

 

「「「えーーー!!」」」

 

 

ムサが動揺しながら言うと、一同はパニックに陥った。

 

 

 

 

「お前ら、そっち側のベッドにハイジを寝かせろ!」

 

 

中でも一番冷静なユキが指示を出し、指示を受けた駅伝部員たちはすぐにハイジを抱え上げ王子の隣のベッドに横にした。

 

 

 

 

「ど、どうしよう・・」

 

 

「誰か・・誰か助けて・・」

 

 

「待ってて!パパを呼んでくるわ!」

 

 

凛と花陽が怯えながら呟くと、真姫はそう言って病室を出ていった。

 

 

 

 

 

「ハイジさん、死んじゃやだー」

 

 

ジョージがハイジを見ながらしゃくりあげ、ジョータがなだめるようにジョージの方に手を置いた。

 

 

 

 

カケルは祈るような表情でハイジの枕元に立った。

 

 

「大丈夫だよカケル君」と穂乃果に声を掛けられても、医師が来るまでハイジのそばを離れなかった。

 

 

 

 

 

 

やがて病室に、真姫と白衣を着て眼鏡を掛けた真姫の父親と思わしき医師が駆けつけてきてくれた。

 

 

真姫の父はハイジに近づき、瞼をめくったり聴診器を押し当てたり掌で熱の有無を確認したりした。

 

 

 

 

「どうなの?パパ」

 

 

心配そうに見守る一同を代表して真姫が訊ねる。

 

 

 

「うん。どうやら過労のようだな」

 

 

真姫の父が答える。

 

 

 

 

「過労・・ですか?」

 

 

「倒れたのは貧血によるもののようだ。だが、今は気絶しているというよりも寝てるだけのようだ」

 

 

高志が聞き返すと真姫の父は分かりやすく説明をする。

 

 

 

一同は一斉にハイジに視線を移した。

 

 

よく見ると、規則正しい呼吸と共に胸が静かに上下している。

 

 

悪い病気ではなかったことを知り、全員安堵の表情を浮かべた。

 

 

 

 

「おそらく睡眠不足で疲れがたまったんだろう。念のために栄養剤を打っておこう。しばらく休めばすぐ元気になるよ」

 

 

真姫の父は医師用の黒い鞄から注射器を取り出し、ハイジの腕に注射をした。

 

 

 

 

「さて、これで必要な応急処置は済んだよ」

 

 

「「「ありがとうございました」」」

 

 

 

一同は頭を下げて真姫の父にお礼を言った。

 

 

 

 

「みんな、改めて紹介するわ。私のパパよ」

 

 

「皆さんはじめまして。真姫の父の紳一郎です。この病院の院長を務めています」

 

 

真姫が言うと、紳一郎は丁寧に自己紹介をした。

 

 

 

 

「君たちはもしかして、真姫の友達かい?」

 

 

「はい。私たちは真姫ちゃんと一緒にスクールアイドルをやっています。まだあとメンバーは3人ほどいます」

 

 

紳一郎が訊ねると穂乃果が凛・花陽を指しながら答える。

 

 

 

 

「僕たちは音ノ木坂学院高校の駅伝部の者です」

 

 

今度は高志が駅伝部を代表して紹介した。

 

 

 

 

「そうか、君たちが。真姫から話は聞いているよ。いやーしかし真姫にもこんなたくさんの友達が出来て、お父さんは嬉しいよ」

 

 

「ちょっとパパ!恥ずかしいからやめて!////」

 

 

紳一郎は嬉しさがこみあげ始め、真姫は顔を赤らめながら咎めた。

 

 

その様子を一同はクスクス笑いながら微笑ましそうに眺めていた。

 

 

 

 

「お久しぶりです。西木野先生」

 

 

すると平田が声を掛けた。

 

 

 

「やあ彰宏君。久しぶりだね」

 

 

紳一郎は声を掛けられると挨拶を返した。

 

 

一同は不思議そうな表情を浮かべながら2人を見比べた。

 

 

 

「お父さんは元気かい?」

 

 

「はい。相変わらずバリバリ働いてますよ」

 

 

紳一郎が訊ねると平田が答えた。

 

 

真姫は2人の会話を聞き、以前平田が父親がよく病院に訪れていたと言っていたのを思い出した。

 

 

 

 

 

「そうか。でもまた何かあったら遠慮なく来てくださいと、お父さんに伝えておいてね。それと・・・・君も元気そうでよかったよ」

 

 

 

「ええ。まあ何とか・・」

 

 

 

「それじゃあ私はまだ仕事があるからこれで失礼するよ。どうか皆さん、真姫のことをよろしくお願いします」

 

 

 

「「「はい。ありがとうございました」」」

 

 

 

紳一郎は全員に挨拶を交わすと、一同は改めて頭を下げながらお礼を言った。

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

そして病室を出ようとしたが、その前に部屋の端の方にいるユキの姿が彼の目に入った。

 

 

紳一郎はユキを見つけると若干驚いた表情を浮かべた。

 

 

 

「・・・・」

 

 

ユキは軽く目礼をすると、紳一郎は何か言いたげな様子を見せるが、何も言わず微笑みながら目礼を返して病室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

「平田先輩、真姫ちゃんのお父さんと知り合いなんですか?」

 

 

「まあな。うちの親父が仕事で怪我した時によく診てもらってたから、その関係でちょっとした知り合いになったんだよ」

 

 

「へぇ~」

 

 

ジョータの問いに平田が答える。

 

 

 

 

「それとユキさんも、なんかあの人と知り合いっぽかったですね」

 

 

「確かにな。お前、西木野先生とどういう関係なんだ?」

 

 

今度はジョージと平田がユキに訊ね、他のみんなも一斉にユキの方へ視線を移す。

 

 

 

 

「別に・・・昔、剣道やって怪我した時にお世話になったことがあっただけだ」

 

 

ユキは冷静に答えるが、その目が若干泳いでいたことには誰も気づかなかった。

 

 

 

 

「それにしても真姫ちゃんのお父さん、カッコよかったよねー。さすがお医者さんって感じだよ」

 

 

「ハイ。それにとても子供想いのいいお父さんデシタ」

 

 

「あ、ありがとう・・ございます///」

 

 

穂乃果とムサは紳一郎のことを褒め称え、他のみんなもウンウンと頷いていた。

 

 

真姫も自分の親のことを褒められ、少し照れながらお礼を言った。

 

 

 

 

その中でカケルは、まだ眠っているハイジをジッと見つめていた。

 

 

 

「カケル・・・」

 

 

高志はその様子に気付き呟いた。

 

 

 

 

 

「俺のせいです。俺がハイジさんに心配かけたから・・・」

 

 

 

カケルはうなだれながら口を開いた。

 

 

悔しくて情けなかった。

 

 

自分の走りに集中しすぎるあまり、一緒に走っている仲間のことが目に入らなかった自分を激しく後悔した。

 

 

 

「カケル君・・・」

 

 

そんなカケルの様子を見て穂乃果が心配そうに呟く。

 

 

 

 

「そうじゃないですよ。僕がいつまでたっても速く走れないのがいけないんですよ。ハイジさん、練習の時はよく遅い僕についてくれましたから」

 

 

「茜君・・・」

 

 

ハイジの隣のベッドの上に座った王子が、力なく首を振りながら口を開き、花陽が呟いた。

 

 

 

一同はまるで通夜のようにしんみりとした様子でハイジのベッドの周りに集まった。

 

 

 

 

「考えてみりゃあ、俺たちはすべてをハイジに任せきりだったな」

 

 

「はい。毎日の練習メニューの提案から記録会へのエントリーとかまで全部やってくれましたし」

 

 

「練習についていくのでいっぱいだったのもありますけど、ハイジさんに負担をかけすぎてましたね・・」

 

 

平田・高志・ジョータが言った。

 

 

 

 

「あんなふうに急に倒れて、きっと今までずっと我慢してきたんだね」

 

 

凛が呟くと、駅伝部員たちは苦い思いを嚙みしめるようにうなだれた。

 

 

 

 

「王子・・・さっきはすまなかった」

 

 

カケルは王子に先ほどの行為を謝罪した。

 

 

 

「いいんですよ。なんだかんだで、僕が寝てる間ずっとこの部屋にいてくれたんですよね」

 

 

王子は微笑みながら答え、カケルは少し照れたように頬を赤らめた。

 

 

 

 

「とりあえずこれからは、せめて練習メニューは俺たち全員で話し合いながら決めていきましょうよ」

 

 

「お、いいこと言ったな」

 

 

ジョージがあえて明るい口調で提案をすると、平田を始めに部員たちから同意の声が上がった。

 

 

そしてこれからの改善案を話し合い始めた。

 

 

 

その中でカケルは1人しばらく考えた後に、みんなの前で宣言した。

 

 

 

 

「・・よし!決めた!」

 

 

 

「「「 ? 」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺も、これからは本気でみんなと高校駅伝を目指す!」

 

 

 

 

 

 

 

「カケル君」

 

 

カケルの宣言を聞き、穂乃果は嬉しそうな声を上げる。

 

 

 

 

「「「・・えっ!?」」」

 

 

しかし駅伝部員たちはみんな唖然とした表情だった。

 

 

 

 

「これからはって・・・じゃあ今までは何だったんですか?」

 

 

「いや、どうせ無理だと思ってて・・・とりあえず話を合わせておこうかなってくらいだったんだ・・・ゴメン」

 

 

ジョージに訊ねられると、カケルは正直に答えた。

 

 

 

 

「その程度のモチベーションで、よくあれだけ走れるね」

 

 

「つーか、この中で一番一生懸命走ってただろう」

 

 

高志は感心しきりな様子で、平田はすっかりあきれかえりながら言った。

 

 

 

「俺、走ること以外に得意なことないですから」

 

 

カケルが返すと、ユキがやれやれと首を振った。

 

 

 

 

 

「やっぱりカケルは変な奴だな」

 

 

突然声が聞こえ、一同は一斉にハイジのベッドを振り返った。

 

 

するとハイジが目を開けていた。

 

 

 

「どうやら事態は収束したみたいだな。よかった」

 

 

みんなの様子を見てハイジは安堵の表情をしながら言った。

 

 

 

 

「ハイジ!やっと目を覚ましたのか!」

 

 

「ハイジさーん」

 

 

「本当によかったです!」

 

 

部員たちは口々にハイジの回復を喜んだ。

 

 

 

 

 

 

(とうとう言ってしまった・・・でも、もう迷わない!やってやるぞ!)

 

 

カケルは駅伝部員たちを見回しながら決意を新たにした。

 

 

 

 

 

「よーしお前ら!俺たち9人全員の力で、絶対高校駅伝行くぞー!」

 

 

 

「「「おーーーー!!」」」

 

 

 

平田の掛け声で、駅伝部員たちはカケルも交え全員高々と拳を突き上げた。

 

 

 

 

同じものを目指していこうという気持ちが、はじめて全員の胸に等しく芽吹いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

「カケル君・・みんな・・・やっと一つになれたんだね」

 

 

「みんなカッコいいにゃー」

 

 

「うん。一時はどうなるかと思ったけど、よかったね」

 

 

「暑苦しいのは苦手だけど、まぁ悪くはないわね」

 

 

その様子を穂乃果・凛・花陽・真姫が嬉しそうな表情で眺めていた。

 

 

 

 

すると突然病室のドアが開くと、看護婦の1人が顔を覗かせながら声を掛けた。

 

 

 

「あのー、ここは病院なので、もう少し静かにしてもらえませんか?」

 

 

 

 

「「「す、すみませんでした」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて一同は、元気になった王子とハイジと共に病院を後にしてそれぞれ帰路につき始めた。

 

 

外はもう夕暮れ時となっていた。

 

 

 

カケルは現在、穂乃果と2人きりで帰り道を歩いていた。

 

 

 

しばらく無言が続き、お互いに気まずい状態となっていたが、カケルは意を決したように穂乃果の前に出て声を掛けた。

 

 

 

「穂乃果!」

 

 

「な、なに?カケル君?」

 

 

突然声を掛けられ穂乃果は驚いた。

 

 

そして次の瞬間、カケルは深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

「ありがとう!穂乃果!」

 

 

 

「カケル君」

 

 

 

「俺、ずっとイライラして焦ってばかりだった。自分のことで一杯一杯になって、周りが見えなくなってた。でも、お前のおかげで目が覚めた。本当に大切なものが何なのか、分かった気がしたよ。俺、これから本気で高校駅伝目指して頑張るから、その・・応援よろしく頼む!友達として!」

 

 

 

カケルは更に頭を下げて、決意を込めながら穂乃果に言った。

 

 

 

 

 

「うう・・ぐすっ・・・よかったぁ」

 

 

「ほ・・穂乃果?」

 

 

すると穂乃果の目に涙が浮かび、頬を伝って流れていった。

 

 

 

 

 

「私・・・怖かった・・・カケル君と・・友達でいられなくなるんじゃないかって・・・怖かったんだよ・・・でもよかった・・・やっと・・・もとのカケル君に・・戻ってくれたんだね・・・ぐすっ・・」

 

 

穂乃果は泣きながらこれまでの思いを吐き出した。

 

 

 

カケルは穂乃果の泣き顔を見ながら、これまでの自分の行いを振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初に約束したのは・・・俺の方だったじゃないか

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・正直、俺に何ができるか分からないけど俺なりに精一杯協力するよ。だって・・・友達だからな』

 

 

 

『ありがとうカケル君』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果はその約束を守ろうと・・・いつも俺のそばにいてくれたんじゃないか

 

 

 

 

 

 

 

『何か悩んでることでもあるの!?だったらお話聞くから遠慮なく言ってよ!私たち、友達でしょう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのに・・・俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うるせえよ・・・』

 

 

 

 

『お前には関係ない!!もう俺に構わないでくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな穂乃果を・・・俺は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんな穂乃果・・・お前の声に耳を傾けてあげなくて・・・お前との約束を裏切ろうとして・・・本当にごめん!!」

 

 

 

カケルは今度は謝罪を述べながら再び深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

「ぐすっ・・・やだ・・そう簡単には許さない・・」

 

 

穂乃果は涙を拭うとそっぽを向いてしまった。

 

 

 

 

「ええっ!?・・・わ、わかった!じゃあお前の頼みを1つ聞いてやるから、それで許してくれないか?」

 

 

カケルは穂乃果に拒否されやや困惑しながらも、必死に懇願した。

 

 

 

 

 

「・・・いいの?言っても?」

 

 

「ああ。何でも言ってくれ」

 

 

 

「・・・・じゃあ」

 

 

 

 

 

ガシッ

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

穂乃果はそう言うと、カケルの胸に抱き着いてきた。

 

 

 

 

 

「エエエエエッ!ほ、穂乃果!?/////」

 

 

 

「・・じゃあ、しばらくこうさせて」

 

 

 

「い、いや、でも・・・汗かいたから汗臭いぞ」

 

 

 

「いいの・・それにさっき、何でも言う事聞くっていったじゃん///」

 

 

 

穂乃果はお構いなしにカケルの胸に顔をうずめて離れなかった。

 

 

 

 

 

するとカケルは胸の中が濡れたように温かくなるのを感じた。

 

 

 

穂乃果はそれからしばらく無言で、カケルの胸の中で嬉し涙を流し続けた。

 

 

 

カケルはそんな穂乃果の頭を優しく撫で続けた。

 

 

 

そして頭を撫でながら穂乃果に優しく囁いた。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう穂乃果。これからもよろしくな」

 

 

 

「うん」

 

 

 

 

 




お久しぶりです!お待たせしてすみませんでした!


実はここのところ、資格試験の勉強や求職活動が忙しくてなかなか更新できずにいました。

今はとりあえず試験は終わり一段落つきましたが、最近新しく始めた仕事を覚えるのに忙しくなってきたので、なかなか思うようには更新できないと思いますが、必ず最後まで書き上げたいと思っていますので、どうかこれからも応援よろしくお願いします!




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