「どうだ穂乃果?落ち着いたか?」
「うん。ありがとうカケル君」
カケルの問いに穂乃果は笑顔で答える。
先程までしばらくカケルに抱き着いて泣いていたが、ようやく泣き止みすっきりした表情になっていた。
「さて、もう日も暮れてきたし帰ろうぜ」
「・・・ねぇカケル君」
「ん?どうした?」
カケルが歩き出そうとすると穂乃果に呼び止められた。
「手、繋いでくれる?」
「えっ?///」
穂乃果にお願いされカケルは若干顔を赤らめ硬直してしまう。
「あ、でも嫌ならいいよ。さっきだってさんざん甘えちゃったし」
そんなカケルの様子を見て穂乃果は慌てたように声を掛ける。
「いや・・・行こう」
カケルは優しい微笑みを返しながら右手を差し出した。
「・・・うん!」
穂乃果も嬉しそうに微笑み返し、左手でカケルの右手を握り一緒に歩き始めた。
「えへへ、カケル君の手あったかいね」
「そ・・そうか?///」
確かに・・・本当に温かいな
そういえば以前、ゴールデンウィークにみんなで出かけた時もみんなで手を繋ぎ合って帰ったっけ
あの時も温かかったけど・・・なんだろう
あの時とは違った感じの温かさだ
手は温かいけど、心の中は熱いようにも感じる
これは穂乃果を見てるとたびたび感じる感覚によく似ている
でも・・・悪い気分じゃない
むしろ、とても心地がいい
音ノ木坂に来るまで、人との繋がりでこんな気持ちになれたこと・・・なかったな
俺をこんな気持ちにさせてくれる穂乃果って一体・・・
「どうしたの?カケル君」
「えっ?」
カケルは穂乃果に声を掛けられるとハッと我に返った。
気が付くと無意識の内に穂乃果の顔を見つめており、お互いに目が合ってしまっていた。
「いや・・・俺・・音ノ木坂に来れて、本当に良かったって思ったんだ」
「カケル君」
「俺はここに来るまで、ろくに友達なんていなかった・・・ずっと一人だった・・・でも、みんなもお前も、俺を受け入れてくれた。やっと俺の居場所が・・・仲間が出来たんだって、今日改めて思ったよ。みんなが俺を信じてくれたように、俺もみんなを信じて・・・みんなの思いにきっと応えてみせる!だから、これからもずっと・・・お前らの仲間でいさせてくれ!」
カケルは真剣な表情で穂乃果の目を見て、自分の決意を露わにしながら懇願した。
「もちろんだよカケル君。私たちはずっと仲間だよ」
「ありがとう穂乃果」
カケルの思いを聞いた穂乃果はにっこりと微笑みながら返し、カケルは今にも嬉し泣きをしかねないような表情でお礼を言った。
そしてやがて『穂むら』の前まで到着した。
「じゃあ、また明日な」
「カケル君。今日、夕飯・・・うちで食べていかない!?」
カケルが自分のアパートに戻ろうとすると、穂乃果が突然提案を持ち出した。
「え?いいのか?もう6時過ぎだし、今からいきなりお願いしたら迷惑になるんじゃ」
「大丈夫だよ。うち7時までお店の仕事やってそれから作り始めるから、今から頼めば作ってもらえるよ。それにお母さん喜ぶと思うし」
「いや、でも・・」
「いいからホラ行こう」
穂乃果はカケルの手を掴み、正面入り口から店の中へと入っていく。
「ええ。もちろんいいわよ。家族以外でご飯をご馳走するなんて久しぶりだし、食卓も賑やかになるわ。いいわよね?お父さん」
穂乃果とカケルは揃ってお願いをすると、瑞穂は快く承諾し健作も「いいぞ」と言わんばかりに頷いていた。
「ありがとうございます!」
カケルは頭を下げてお礼を言った。
「それじゃあ、お母さん張り切ってごちそう作るわ。カケル君、何が食べたい?」
「いえ、何でも大丈夫ですよ」
「じゃあ、目玉焼きハンバーグがいい!」
「穂乃果!あんたの食べたいもの言ってどうするの」
「じゃあ、それでお願いします」
「わかったわ。それじゃあ作ってくるわね」
「じゃあ出来上がるまで部屋で待ってよう」
「分かったから引っ張るなよ」
瑞穂が台所の方へ行くと、穂乃果はカケルの手を引いて部屋へと案内した。
家の階段を登りきると、ちょうど部屋から出てきた雪穂と鉢合わせた。
「あ、お姉ちゃん。それと、カケルさん」
「ただいま雪穂!」
「お邪魔します」
「どうも、お久しぶりです」
カケルは雪穂に挨拶をすると雪穂もお辞儀をしながら挨拶を返した。
「今日カケル君ね、うちでご飯食べていくんだよ」
「そうなの!?」
穂乃果は嬉しそうに伝えると雪穂は少し驚いた。
「うん。今日はよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「さあさあカケル君。早く部屋行こう」
「ああ、そうだな」
カケルと雪穂が更に挨拶を交わすと、穂乃果はさっさと自分の部屋にカケルを引っ張って行った。
その様子を雪穂は2人が部屋に入るまで呆然と見つめていた。
「あの2人・・・手、繋ぎ合ってる」
雪穂はぼんやりと呟いた。
雪穂はトイレから戻り再び自分の部屋に入ろうとすると、隣の穂乃果の部屋から2人の声がうっすらと聞こえてきた。
そして、そっと忍び足で穂乃果の部屋の方に近づき耳を澄ませた。
(お姉ちゃんはよくカケルさんの話をするけど、あの2人一体どういう関係になってるんだろう?)
そして襖の手前まで来ると、はっきりと声が聞こえてきた。
「はぁ・・はぁ・・か、カケル君・・・激しすぎるよ・・・」
「何言ってんだよ穂乃果・・・お前の方から来いって・・・言ったんじゃねえかよ」
(えええええええええええ!?2人とも何してるのーーーーーー!?)
「あぁ・・や、やめてカケル君・・・あぁ・・ああん・・・だめえぇぇ・・・」
(///////////)
再び穂乃果の喘ぎ声が聞こえ、雪穂は湯気が出るほど顔を真っ赤にしながら硬直していた。
(あの2人・・・もうそこまでの関係になってたの・・・・・・すごく気になる・・・・・・ちょっとだけなら・・いいよね)
雪穂は恐る恐る襖をわずかに開き、中を覗き込んだ。
「なあ穂乃果。ゲームくらいでそんな変な声あげるのやめてくれよ。気が散るだろ」
「だって~、悔しいんだも~ん」
2人はただ、携帯ゲームで対戦をし合っているだけだった。
(はぁ~~~びっくりした~~~)
雪穂は気が抜けたようにため息を吐き、部屋へと戻っていった。
それからしばらくして夕食が出来上がり、カケルを含めた全員が1階の食卓に集まった。
食卓には料理が並べられ、全員食卓を囲んで座り込んだ。
「ごめんなさいねカケル君。準備まで手伝ってもらっちゃって」
「いいえ。このくらい当然ですよ」
申し訳なさそうに言う瑞穂にカケルが返事を返した。
「さあさあ早く食べようよ~!もうお腹ペコペコだよ~!」
「もうお姉ちゃん!お客さんの前でみっともないよ!」
「お客さんじゃなくてカケル君でしょ!」
「そういうことじゃなくて!」
「こら2人とも!静かにしなさい!」
今度は穂乃果と雪穂が言い争いを始めてしまうが、瑞穂が諫めたことですぐに収まった。
(雪穂ちゃんはしっかり者なんだな。姉があんなんだと、さぞ大変だろうな)
2人の様子を見てカケルは少し可笑しくなりながら思った。
「「「いただきまーす」」」
一同は揃って挨拶を交わすと、食事にありつき始めた。
「さあさあカケル君!遠慮なくどんどん召し上がってね!」
瑞穂は笑顔でカケルに声を掛けるが、何やらソワソワと落ち着きがなくなっていた。
「お母さん・・・」
「分かりやす過ぎでしょ・・・」
「・・・(汗)」
どうやら瑞穂は自分の料理に対するカケルの反応が気になるようだった。
その様子を見て穂乃果と雪穂が小声で呟き、健作も無言でやや呆れ顔をしていた。
「それじゃあ、いただきます」
カケルは早速ハンバーグを箸で一切れ掴み、食べ始めた。
「・・・どう?カケル君」
「・・・おいしい!これ、すごくおいしいです!」
穂乃果が訊ねるとカケルは満足な表情で瑞穂に言う。
「そう!?よかったわ!」
瑞穂はホッとした表情を浮かべ、穂乃果も雪穂も健作も嬉しそうだった。
その後もカケルはじっくりと料理を堪能し、やがて全部きれいに平らげた。
「ごちそうさまです!」
「まぁ、本当によく食べたわね。付け合わせまできれいに」
「ご飯3杯もおかわりしちゃってたし、穂乃果もカケル君がこんなにおいしそうに食べるの初めて見たかも」
瑞穂と穂乃果はカケルのきれいに平らげられた食器を眺めながら呟いた。
「こんなにおいしい夕食は初めてです。ありがとうございました」
カケルは改めて笑顔で瑞穂にお礼を言った。
「そ・・そうかしら?こんなの普通の家庭料理よ」
瑞穂は照れながら返事を返す。
「そうそう。全然普通だよ」
「穂乃果・・あんたに言われると頭にくるわね!デザートあげないわよ!」
「そ、そんなぁ~」
「クスクス」
穂乃果と瑞穂のやり取りを見てカケルは可笑しくなりクスクスと笑いだした。
(カケルさん、なんだか楽しそう)
カケルの様子を見て雪穂は思った。
その後、瑞穂はデザート代わりとして小皿に乗せた大福3つとお茶をそれぞれに配っていった。
「はい、カケル君の分よ」
「ありがとうございます」
「その様子だと、もう大丈夫みたいね」
「えっ?」
「実は最近カケル君が元気がないって、穂乃果から聞いていたのよ。私もお父さんも何か力になってあげられないかって、ずっと心配だったわ」
瑞穂は穏やかな表情で言うと、健作も隣で頷いていた。
「そうだったんですか・・・」
カケルは瑞穂の言葉を聞き、さらに申し訳ない気持ちになった。
「でも、カケル君はもう大丈夫だよ!みんながついてるから!」
「はい。俺は大丈夫です。今の俺には穂乃果が、そして大勢の仲間がついててくれてます!」
穂乃果が言うと、カケルも駅伝部、そしてµ’sのみんなのことを思い浮かべながら笑顔で答えた。
「そう、よかったわ。でも、何かあったら相談に乗るから遠慮なく言ってね。私たちのことは家族だと思って何でも話していいのよ」
「そうだよカケル君、私たちはどんな時もカケル君の味方だよ」
「みなさん・・・はい!本当に、ありがとうございます!」
瑞穂・穂乃果は更にカケルを励まし雪穂も健作も笑顔でカケルを見つめている。
そんな高坂家一同にカケルは嬉し涙をこらえながら頭を下げてお礼を言った。
「そうそうカケル君!穂乃果ったらね、ここ最近カケル君の話ばかりしてくるのよ!」
「えっ?」
瑞穂は悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。
「ええっ!?そ、そんなことないよお母さん!他のみんなの話だって・・」
「いいえ!ダントツでカケル君の話が多いわよ!ねぇ、雪穂もそう思わよね」
「うん。お姉ちゃん、もうほぼ毎日カケルさんのこと話してるよ。既に聞いた話だってまた話したりしてるし」
穂乃果は顔を赤くしながら否定するが、瑞穂と雪穂がさらにたたみかけた。
「そ、そうなのか穂乃果?///」
「だ、だからそんなこと・・・な・・い・・・ううぅ///」
カケルが訊ねると穂乃果は更に顔を赤くし俯いてしまい、カケルも照れたように顔が赤くなり黙り込んでしまった。
(うふふふ・・2人とも可愛いわね~)
「・・・・」
瑞穂は2人の様子を見て不気味にほくそ笑み、そんな妻の様子を見て健作はやれやれと言った表情を浮かべていた。
「あの、カケルさん。ちょっとお願いがあるんですけど、いいですか?」
「ん?何?」
すると今度は雪穂がモジモジしながら声を掛けた。
「あの・・・宿題、見てもらってもいいですか?」
雪穂は数学の問題集を抱えながら言った。
「お姉ちゃんから聞きました。カケルさん、すごく頭がいいって。そこで、宿題でどうしても分からない所があるので、教えてもらえないかと思って」
「いや、そんな大したもんじゃないよ。でも、いいよ。出来る限り教えてあげるよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
カケルから承諾の返事を受けると、雪穂は嬉しさでパアッと明るい表情になりながらお礼を言った。
「それじゃあ早速始めようか。それで、どこを教えてほしいの?」
「この問題なんですけど」
「これか・・・ウンウン」
カケルは雪穂に見せられた問題に目を通し、頷きながら解き方を考え始めた。
「なるほど・・・ちょっとこのノート使ってもいい?」
「はい、どうぞ」
「いいかい、まずはこの部分を・・・」
カケルは雪穂が用意したノートに問題の解き方を書きながら教え始めた。
(あぁ・・走ってる時だけじゃなくて、勉強を教えてる姿もよく見ると格好いいなぁ)
2人の様子を穂乃果はぼんやりと眺めていた。
瑞穂がニヤニヤと様子を窺っていることにも気づかずに
「カケルさん、出来ました!」
雪穂は問題を解き終わりカケルが答えのチェックをする。
「どれどれ・・・うん、正解だよ!このやり方忘れないようにね!」
「ありがとうございました!カケルさんの教え方とても分かりやすかったです!」
「そ、そうかな?でも、力になれたならよかったよ」
雪穂に感謝されカケルは照れながら返事を返す。
「ほらね!やっぱりカケル君はすごいでしょ!」
「本当ね~!同じ高校2年生なのに一方は成績優秀・スポーツ万能の天才少年、もう一方は落ちこぼれ寸前のおっちょこちょい、ここまで正反対になれるものかしらね~」
「ちょっとお母さん!それどういう意味~!」
「ちょっと・・褒め過ぎですよ瑞穂さん」
さらに穂乃果と瑞穂に褒め称えられカケルはさらに照れだした。
「カケルさん・・・またいつか教えてもらってもいいですか?」
雪穂が再び懇願する。
「うん!いつでも来ていいよ!」
「・・あ、ありがとうございます///」
カケルが笑顔で返事を返すと雪穂は少し顔を赤らめながらお礼を言った。
「そうだカケル君!µ’sの新曲のダンスの動画、まだ見てなかったよね!?今から見てくれる!?」
「そうだったな、よし!見てみるか!」
「じゃあ早く部屋に行こう!」
「わ、分かったから引っ張るなって」
穂乃果はカケルの手を引いて、一緒に居間を出て部屋へと向かっていった。
「あの2人、どんどんいい感じになってるわね。それにしてもカケル君、本当にいい子よね~。ぜひうちの跡継ぎになってほしいくらいだわ」
カケルと穂乃果が出ていき瑞穂が微笑みながら語りだす中、雪穂は2人の背中をぼんやりと見つめていた。
カケルさんって最初はどんな人なんだろうって思ったけど、とっても優しい人だったなぁ
あんな素敵な人と一緒にいられるなんて、なんかお姉ちゃんが羨ましいな
でも・・・なんでだろう・・・・
ここは喜ぶべきなのに・・・さっきのカケルさんの笑顔を見てから・・・なぜが・・胸が苦しい・・・
一体何なんだろう・・・この気持ち
【6月14日 水曜日 放課後】
◎音ノ木坂学院高校 屋上◎
「1、2、3、4、5、6、7、8」
µ’s7人は今日も海未の掛け声の下で新曲のダンスの練習を行っていた。
「凛、ちょっと早いですよ」
「はい!」
「にこ先輩、しっかり身体の姿勢保ってください」
「分かってるわ」
「穂乃果、その動き忘れないでください」
「はい!」
「では、少し休憩です!」
「ゼェ・・ゼェ・・もうダメ~」
「はぁ・・はぁ・・きついです・・」
「PVの撮影まであと3日しかないんです!気合を入れてしっかり追い込まないと間に合いませんよ!」
息が上がっているにこと花陽に海未が発破を掛ける。
「そうだよ!ほら見て!駅伝部のみんなだって頑張ってるんだよ!」
穂乃果はフェンス越しに見える陸上競技トラックを指し、みんなも一斉に見下ろし始めた。
「ほら前来い前来い!じゃないとつけないぞ!」
「「ハイ!」」
駅伝部は集団で400mのインターバル走を行っていた。
その中でカケルが遅れそうになっているジョータ・ジョージに後ろから背中を押しながら声を掛けていた。
「13本目行きマス!よーい、ハイ!」
ムサを先頭にユキ・高志・ジョータ・ジョージ・カケルが後に続いて走り出した。
カケルは変わらず最後尾に付き、選手たちを鼓舞し続けていた。
「ほらここ粘んないと強くなれねえぞ!みんなで高校駅伝行くんだろう!」
「「「ハイ!!」」」
カケルの檄で部員たちはさらに気合が入ったようだった。
(カケル・・自分だけでなく、周りの選手のことも見れるようになってきたんだな)
ハイジは平田と王子を引っ張りながら様子を窺っていた。
「俺たちもカケルに続くぞ!必ずみんなで高校駅伝に行くんだ!」
「ハイ!」
「オウ!」
ハイジも平田と王子を鼓舞しさらに練習を続けた。
「すごーい!みんな気合い入ってるにゃー!」
凛が感嘆の声を上げる。
「カケル君、積極的にみんなに声を掛けてるね」
「そうですね。カケルが元気になってくれて本当によかったです」
ことりと海未はカケルの様子を見て嬉しそうに言った。
「さあ、私たちも駅伝部に負けないようにもっと頑張ろう!」
「「「はい!」」」
µ’sも穂乃果の檄によって練習を再開した。
澄んで輝く青空の下、駅伝部もµ’sも目的は違えど、それぞれが一つとなり新たなる一歩を踏み始めていった。
高校駅伝終わってしまいましたね。
そして次はいよいよニューイヤ駅伝、そして箱根駅伝です!
我が母校も出場するので全力で応援したいと思います!