~from カケル~
午前中の授業が終わり昼休みの時間となった。
俺はカバンの中から弁当を取り出した。この弁当も俺が自分で作ったものだ。食事はすべての源というように、ちゃんとした食事を取らなければ走りに影響が出かねないからな。そのために栄養バランスもしっかり考えて作っておいた。子供の頃に母親に教わってきたのと、前の学校の駅伝部の寮での料理当番の経験が生きている。
すると、前に座っていたオレンジ髪の女子生徒が振り向いて俺に声をかけてきた。
「はじめまして。蔵原君だよね?私は高坂 穂乃果。よろしくね」
「ああ。よろしく」
穂乃果という子はにっこり笑いながら挨拶をしてきたので俺も返事を返した。
「蔵原君って、最近よく走ってるよね?」
え?俺のこと知ってんのか?
「すんごい速いな~って思って。思わず見とれちゃったからよく覚えてるよ」
ああ。だからか。さっき俺をまじまじと見つめてたのは。
「蔵原君ってもしかして陸上選手なの?」
「ま、まあな。これから駅伝部に入ろうと思ってて」
とりあえず俺は、駅伝部に入るつもりであることを正直に話しておいた。
「駅伝かぁ。なんかかっこいいね」
「そ、そうか」
「じゃあ前の学校でも陸上やってたの?大会とか出たの?前に住んでた所ってどんな所だったの?」
彼女は興味津々で俺に色々聞いてきた。まいったなぁ。俺、過去のことについては話したくないのに。
っていうか顔近いって///
「穂乃果!初対面の人にご迷惑ですよ」
後ろの方から声が聞こえた。振り向くと2人の女子生徒が立っていた。
1人は長い青髪の凛とした雰囲気の子だった。どうやら穂乃果という子に注意をしたのは彼女のようだ。
「そうだよ穂乃果ちゃん。蔵原君困ってるみたいだし」
もう一人の子が言った。グレーの髪に緑色のリボンをつけたおっとりとした感じの子だった。
「はじめまして。私は園田 海未と申します」
青髪の子が俺に自己紹介をしてきた。それにグレー髪の子も続いた。
「私は南 ことりです。よろしくね蔵原君」
「こちらこそよろしく。高坂さん。園田さん。南さん」
「それじゃちょっと固い感じがするから、ことりでいいよ」
「それでは私も海未と呼んでください」
「私も穂乃果って呼んで。そのかわり私たちもカケル君って呼ばせて」
3人は下の名前を呼ぶように言ってきた。正直下の名前で呼ぶのはあまり慣れてないけど、俺はちょっと照れながらも呼ぶことにした。
「分かったよ。穂乃果。海未。ことり」
俺がそう呼ぶと3人とも嬉しそうに微笑んでくれた。
「じゃあみんなでお昼食べようか。カケル君も行こう」
穂乃果が提案し、俺はみんなに連れられて教室を出て中庭へ向かった。
◎中庭◎
中庭には木製のテーブルと椅子が置かれていて、俺たちはその一つに腰かけて昼食を取り始めた。
少し後になって、向かう途中に購買部に寄っていった穂乃果がパンをいくつか抱えながらやってきた。
それにしてもちょっと買いすぎじゃないか?
「穂乃果。いくらなんでも買いすぎですよ」
「だってお腹すいたんだも~ん」
「そんなに食べてると太りますよ」
「まあまあ海未ちゃん。美味しそうに食べてるんだから」
3人の会話を聞いていると、穂乃果は先陣を切って行動していくタイプで海未はそれに対して意見やツッコミを入れ、そしてことりがその場を上手く収める仲裁役といった感じか。この様子だと結構付き合いが長そうだな。
「みんなとても仲がいいんだな。3人はどれぐらい前から知り合ったの?」
俺は3人に聞いてみた。
「小さい頃からだよ!」
「私たち幼馴染なんです」
「小さい頃から私たちずっと一緒だもんね」
穂乃果・海未・ことりが順に答えてくれた。なるほど、幼馴染か。
こんなに長い間友情が続いているなんてすごいことだな。俺だって子供の頃はそれなりに友達はいたけど、陸上を始めて結果を求めるようになってからはみんなどんどん離れていったし、俺自身も別に友達が欲しいなんて思わなくなっていた・・・
「そうだ海未ちゃん!ことりちゃん!実は穂乃果ね、前からカケル君のこと知ってたんだよ」
突然穂乃果が思い出したように言った。
「それはどういうことですか穂乃果?」
穂乃果は俺が毎日ジョギングをしている所をよく見たことを話した。
彼女たちなら別に話してもいいと思い、俺は話を止めることはしなかった。
「カケル君って足速いんだね」
「毎日どれくらい走っているのですか?」
話を聞くとことりは感心し、海未は俺に質問をしてきた。
「そうだな。朝と夕方にそれぞれ1時間ずつ走ってるから、距離にすると合計約30kmは走ってるかな」
「さ、30km!?」
「すごーい!」
「毎日そんな努力を惜しまないなんてすごいと思います!」
穂乃果・ことり・海未から称賛され、俺はちょっと照れてきた。
だってこんなかわいい女の子に褒められるなんて初めてだから。
「それでね。カケル君は駅伝部に入るんだよ」
穂乃果が言いだし、俺はハッとした。
俺はさっき穂乃果にそのことを話していたのを忘れてたのだ。
「駅伝といえば、私は毎年箱根駅伝を見ていますが、10人の選手たちがそれぞれの思いを襷に込めて繋ぎ合っていく、とても素晴らしい競技だと思います」
「じゃあカケル君も箱根駅伝を目指してるの?」
海未は駅伝の素晴らしさについて語りだし、それを聞いたことりが聞いてきた。
「いや、まだそこまでは考えてないな」
「でも高校駅伝は目指してるんでしょ?」
「えっ!?」
ことりの質問にとりあえず答えると今度は穂乃果が聞いてきた。その質問内容に俺は言葉を詰まらせた。
「だってそのために駅伝部に入るんでしょ?」
俺はみんなの表情を伺った。3人とも期待に満ちたような眼差しで俺を見つめていた。
「あ、ああ。まあな」
その視線に負け、俺はつい返事をしてしまった。
「やっぱり!頑張ってねカケル君!穂乃果応援してるから!ファイトだよ!!」
穂乃果は目を輝かせ俺の手を握って激励してきた。だから近いっての///
「私も応援していますよ、カケル」
「ことりも応援してるからね。頑張ってねカケル君」
海未もことりもすっかり俺を応援していた。
まいったなぁ。俺は絶対駅伝は目指さないつもりでいたのに。どうしよう・・・