始業式の翌日の朝、カケルはいつものように朝練習と朝食を済ませ学校へと向かっていた。
学校へ向かいながらカケルは昨日の駅伝部の入部時のことを思い出す。
あの後、新入部員であるカケルと城兄弟は活動内容の説明を受けながら、練習場所を案内された。
駅伝部の活動は、通常は月・火・水・金・土の週5日で行われ平日は午後4時、土曜日は午前9時が練習開始時間となっている。
練習場所については、学校の人工芝の運動場の周りにある400mトラックを使うことになっている。本来は陸上部の優先場所であるが、学校と陸上部の許可をもらい駅伝部の練習場所としても使わせてもらっている。
立派な素材のタータンを使っており、とても走りやすかった。
校内にこんな立派なトラックがある学校はそうそうあるものではないため、それだけでも十分な練習環境が整っていると言えるだろうとカケルは思った。
しかし、問題なのは部員数だ。昨日カケルと双子が入ってやっと8人になったという状況だ。
そのため、今まで高校駅伝の予選に出場したことすらないことになる。
いくらこの学校に男子があまりいないとはいえ、さすがにこの人数は少なすぎる。
やっぱり無理だろ、と思いながらカケルは通学路を歩き続ける。
その時、誰かの呼び声が聞こえてきた。
「おーい、カケル!」
カケルは声がする方向に振り向くと、昨日会った黒人のムサが手を振りながら隣にいるもう一人の男子生徒と共にやってきた。
「おはようございます、カケル」
「おはよう」
ムサが挨拶をしてきたのでカケルも挨拶を返すと、ムサの隣にいる男子生徒がカケルに声を掛ける。
「カケル君だよね。はじめまして。俺は同じクラスの杉山高志。そして駅伝部の部員です。よろしく」
「ああ。よろしく」
駅伝部の部員と聞きカケルは目を丸くする。
なるほど。彼が最後の8人目の選手か、とカケルは思った。
ということは今ここにいる3人が2年生の部員ということになる。
「ムサから聞いたよ。君も入部してくれたんだってね。新たな仲間が3人も増えるなんて嬉しいよ」
「今日はカケルも初めて練習に参加しますね。これからみんなで頑張りマショウ」
杉山が嬉しそうに話すと、ムサも笑顔で言う。
2人の様子を見てカケルは、かなり張り切ってるようだけど2人は一体どこまで本気なんだろうと思った。
「おーい!カケルくーん!」
再び呼び声が聞こえたので振り向くと、穂乃果が手を振りながら海未・ことりと一緒にやってきた。
「おはようカケル君」
「おはよう」
「おはようございますカケル」
「おはよう、みんな」
穂乃果・ことり・海未がそれぞれ挨拶してきたのでカケルも挨拶を返した。
「えっと、2人は私たちと同じクラスだよね?」
ことりはカケルと一緒にいる杉山とムサを見て訊ねる。
「jambo!」
「え?じゃ、ジャンボ?」
ムサが母国語で挨拶をし、穂乃果は意味が分からず混乱する。
「君たちとは去年は別クラスだったよね。はじめまして。俺は杉山高志です」
杉山は穂乃果たちに挨拶をする。
「はじめまして。ケニアから来ましたムサ・カマラです。よろしくお願いシマス」
ムサもお辞儀をしながら挨拶をする。
「うわぁ。日本語上手だね~」
「とても礼儀正しいですね。穂乃果にも見習ってほしいものです。」
「余計なお世話だよ海未ちゃん」
ことりと海未はムサの日本語力と礼儀正しさに感嘆していた。
「私たちも紹介するね。私は南ことりです。ことりって呼んでね」
「私は高坂穂乃果。穂乃果でいいよ」
「私は園田海未です。海未と呼んでください」
「よろしく。ことりサン。穂乃果サン。海未サン」
「よろしくね」
3人が自己紹介をするとムサと杉山が返事を返した。
「ムサ君は留学生なんですか?」
「いいえ。ワタシは3年前にパパの仕事の関係で家族揃って日本に来ました。最初の2年間はインターナショナルスクールで日本の言葉や文化を学んで、それから音ノ木坂学院に入学しました。なのでワタシは留学生ではなく普通の生徒デス」
海未が訊ねるとムサが詳しく説明する。
「そうなんですか。しかしご家族と一緒とはいえ来日当初は言葉も分からず大変だったでしょうね」
「ハイ。それに音ノ木坂学院に入る時も、ワタシ一人だけが異国の人なので上手くやっていけるか不安デシタ。でも、そんなワタシに高志が一番最初に声を掛けてくれました。それから高志には色々と助けてもらって本当に感謝していマス」
「どうムサくん。日本にはもう慣れた?」
ことりがムサに聞く。
「はい。もうだいぶ慣れましたよ。みんなとっても優しい人たちばかりで辛かったことなんてありませんデシタ」
「よかった」
ムサの返答を聞き、ことりは安心したように微笑んだ。
「ねえムサ君。さっきのジャンボってどういう意味なの?」
穂乃果は先ほどの母国語での挨拶について聞いた。
「jamboとはスワヒリ語で、おはよう・こんにちは・こんばんわといった挨拶の意味が込められていマス。皆さんも一緒にどうぞ。jambo!」
「うん。jambo!」
「よーし!jambo!」
「じ・・jambo」
ムサに促されると、ことり・穂乃果・海未がそれぞれ順番にスワヒリ語で挨拶をする。
「よく出来マシタ」
挨拶を終えるとムサは拍手をしながら褒める。
「やったー!これで穂乃果、また一つ賢くなったよー」
「一言覚えただけじゃないですか」
「なんだかこうやって異国の人と触れ合っていく感じ、ことり好きだなぁ。ねえムサ君。これから私たちと友達になってくれる?」
「もちろんです。皆さんはもうワタシの友達デス」
「やったー。ありがとうムサ君」
ことりは友達として受け入れられたことが嬉しくなり、お互いにっこりと笑いながら握手を交わした。
「なんかムサ、すっかりことりちゃんに気に入られたみたいだね」
「そうですね。友達になれたのが本当に嬉しかったんでしょうね」
その様子を杉山と海未が微笑ましそうに眺めながら呟いた。
カケルはムサのおかげでこの場がとても温かい雰囲気になったのを感じ、ハイジさんの言った通り本当に人柄が良いんだなと思った。
「ちなみに俺たちは3人とも駅伝部に所属しているんだ」
杉山が言うと、穂乃果がわくわくした顔で聞いてきた。
「そうなんだ!じゃあやっぱりみんな高校駅伝を目指してるんだね?」
「うん!もちろんだよ」
「今年こそ出場目指して頑張りマス」
穂乃果の問いに杉山とムサが元気よく答える。
「もちろんカケルもデスよね?」
「えっ?あ、う、うん」
ムサに聞かれカケルはとりあえず頷いた。
「頑張ってねみんな」
「私たち応援していますよ」
ことりと海未が彼ら3人に激励の言葉を送る。
また頷いてしまった。2人ともやる気みたいだけどこれが無謀だなんて思わないんだろうか?
そう思いながらカケルはみんなと学校の門をくぐっていった。
カケルたちは今、廊下にある掲示板の前にいた。
そこには6人にとって衝撃的な内容が貼り出されていた。
「廃・・校・・?」
6人が目にしたのは音ノ木坂学院の廃校のお知らせだった。
全員驚きとショックのあまり声も出なかった。
「廃校って何デスか?」
この沈黙を破ったのはムサだった。ムサは廃校の意味が分からずみんなに訊ねた。
「それはねムサ」
杉山が重い口を開き、少し間を置いてから答える。
「この学校が無くなっちゃうってことなんだよ」
「エエエェェ!?」
杉山の説明を聞きムサは驚きの声を上げる。
そして次の瞬間穂乃果が涙目になりながら仰向けに倒れこみ、カケルに支えられていた。
「おい穂乃果!?しっかりしろ!」
「穂乃果ちゃん大丈夫!?」
「穂乃果!しっかりしてください!」
「穂乃果ちゃん!」
「穂乃果サン!」
みんながそれぞれ穂乃果に必死に呼びかける。
「私の、私の高校生活が・・・」
穂乃果はそう呟くとショックのあまり意識を失ってしまい、みんなは彼女を保健室へと運んでいった。
突然知らされた廃校の危機。この瞬間から女神と戦士たちの絆の物語が始まるのであった。