9人の女神と9人の戦士 ~絆の物語~   作:アイスブルー

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第5路 廃校

◎教室◎

 

 

午前中の授業が終わり昼休みの時間となった。朝に廃校の知らせを聞いてショックを受けた穂乃果はカケルたちによって保健室へ運ばれてからまだ戻ってきていない。

 

 

カケル・杉山・ムサ・海未・ことりは一緒になって穂乃果のことを話した。

 

 

「穂乃果サン大丈夫でしょうか?」

 

 

「相当な落ち込みようだったからね」

 

 

「穂乃果ちゃん、この学校が好きだからショックだろうね」

 

ムサ・杉山・ことりがそれぞれ穂乃果の心配を口にする。

 

 

カケルは穂乃果が廃校の知らせを聞いた時のことを思い出しながら話を聞いていた。

 

 

あそこまでショックを受けるなんて、なにかこの学校に特別な思い入れでもあるのか?とカケルは思った。

 

 

「違います。おそらく穂乃果は勘違いをしているんだと思います」

 

海未が口を開く。

 

 

「それってどういう意味?」

 

海未の発言に杉山が訊ねる。

 

 

その時、教室のドアが開く音がした。

 

5人が振り向くと、がっくりと肩を落としている穂乃果が教室に入ってきた。

 

やがて穂乃果は自分の席に着くと、机に突っ伏してしまった。

 

 

「穂乃果ちゃん、大丈夫?」

 

「元気出してください。穂乃果サン」

 

「気持ちは分かるけど、落ち込んでたってしょうがないよ」

 

 

ことり・ムサ・杉山が穂乃果に慰めの言葉を掛ける。

 

その様子を海未はため息をつきながら眺めていた。

 

 

海未の様子を見てカケルは、さっき海未が言っていた勘違いというのはどういうことだろうと思いながら尚も机に突っ伏している穂乃果に視線を移す。

 

 

すると突然、穂乃果は体を起こしみんなの方を向きながら涙目になって叫びだした。

 

「どうしよう~!全然勉強してないよ~!」

 

 

穂乃果の言葉を聞き、海未は小さく「やはり」と呟き、他のみんなは何が何だか分からないといった表情だった。

 

 

「何を言っているんだ?穂乃果」

 

カケルは穂乃果に聞く。

 

 

「だって学校無くなったら別の高校に入らなきゃいけないじゃん。受験勉強とか編入試験とか!」

 

ああそういうことか、とカケルは海未が言っていた勘違いの意味が理解できた。

 

 

 

「穂乃果ちゃん落ち着いて。それは勘違いだよ。実はね・・」

 

穂乃果の様子を見て杉山が説明する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎中庭◎

 

 

その後6人は中庭のテーブルで昼食を取った。

 

穂乃果は先ほどの杉山の説明を聞き、安心した表情でパンを食べていた。

 

ちなみにムサには、穂乃果が倒れた後で杉山が説明済みであった。

 

 

「学校が無くなるにしても、今いる生徒が卒業してからだから早くても3年後だよ」

 

「でも、それが正式に決まったら来年からは新入生が入ってこなくなる。今の1年生には後輩が出来なくなってしまうってことだよね」

 

 

ことりと杉山が説明する。

 

 

「なんだか寂しいデスね」

 

ムサの一言でみんなは気持ちが落ち込んでしまった。

 

その中でカケルは廃校について冷静に分析していた。

 

 

 

 

 

 

廃校というのは少子化の影響が大きいのだろう。どの学校も生徒を集めるために色んな案を出したり、実績を上げようとしている。この学校だって、もともと女子高だったのを共学にしたのだって生徒を集めるための一つの案なのだろう。しかしそれでも入学者は増えるどころか減少傾向にあり、結局他校との競争社会に敗れ廃校という結果に至ったのだろう。穂乃果たちには気の毒だが、結果は結果で仕方のないことだ。

 

陸上と同じで、結果を出せているものが生き残りいつまでも結果を出せないものは切り捨てられる。

どの世界でも競争は避けられない運命なんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっといいかしら」

 

誰かの呼ぶ声が聞こえたので、6人はその方向へ体を向けると2人の女子生徒が立っていた。

 

1人は青い瞳に金髪でポニーテールをしており、背も高くスタイルも抜群で美人と言っていい容姿だった。

 

もう1人は緑の瞳に紫の髪を二つに分けている。カケルは一瞬その女子生徒の大きな胸に目がいってしまったがすぐに視線を反らした。

 

 

「この人たちは?」

 

カケルは転校してきたばかりであるため、小声で杉山に訊ねる。

 

「生徒会の人たちだよ」

 

杉山が説明すると、金髪の女子生徒がカケルの方を向き声を掛ける。

 

 

「あなたが昨日転校してきた生徒ね。私は絢瀬絵里。生徒会長を務めています。よろしく」

 

「ウチは東條希。生徒会副会長を務めておるんよ。ようこそ音ノ木坂学院へ。これからよろしくね」

 

「よろしくお願いします」

 

 

凛とした表情の会長に続き穏やかな笑顔の副会長が関西弁交じりで挨拶を交わし、カケルも挨拶を返す。

 

 

 

「南さん、あなた理事長の娘よね。理事長、何か言ってなかった?」

 

会長はことりに訊ねる。

 

 

カケルは、親が理事長であることに驚きつつも廃校についてのことだろうなと思い黙って聞いていた。

 

 

「いいえ。私も今日知ったので」

 

 

「そう。ありがとう」

 

 

ことりの返答に会長はそう一言返しこの場を後にしようとした。

 

 

「あ、あの。本当に学校なくなっちゃうんですか!?」

 

その時穂乃果は生徒会の2人に呼びかける。

 

 

少し間を置いた後に会長が口を開く。

 

「あなたたちが気にすることじゃないわ」

 

会長はそれだけ言って去っていった。

 

 

「ほなな~」

 

副会長は6人に声を掛けると会長の後を追った。

 

 

 

 

 

確かにな。穂乃果の気持ちは分かるが会長の言ったように、俺たちにどうにか出来る問題じゃないからな。

 

 

カケルは生徒会2人の後姿を見ながら思った。

 

 

 

 

 

 

 

◎教室◎

 

 

授業が終わり放課後になると、穂乃果は5人を集めた。

 

 

「私考えたんだけど、何かこの学校のいいところをアピールすれば入学希望者が集まると思うんだ。入学希望者が定員よりも集まれば、廃校にはならなくなるから」

 

 

穂乃果はみんなに自分の考えを述べた。穂乃果はどうしても廃校を阻止したいと思っているようだった。

 

 

カケルは本気かよ、と思った。

 

 

 

 

廃校を阻止だなんてどれほど困難なことなのか分かってるのか?少なくとも俺たち生徒にどうにかできる問題じゃないだろう。

 

 

 

 

「それはいい考えデスネ」

 

ムサが言った。どうやらムサも乗り気のようだった。

 

 

「宣伝できるほどのいいところといっても、何があるでしょう?」

 

 

「うーん。歴史がある」

 

 

海未の問いに穂乃果は考えながら答える。

 

 

「他には?」

 

 

「うーん。伝統がある」

 

 

「それじゃ同じ答えだよ」

 

 

「うっ・・じゃ、じゃあ、ことりちゃん何かない?」

 

 

穂乃果は杉山にツッコまれるとことりに意見を求める。

 

 

「そうだね~。強いて言えば、古くからあるってとこかなぁ?」

 

 

ダメだこりゃ、とカケルは思った。そして居ても立っても居られなくなり助言をする。

 

 

「そもそも歴史や伝統がある学校は音ノ木坂学院に限ったことじゃないから、いいアピールポイントにはならないだろう。もっとこの学校特有のいい点を見つけなきゃだめだ。例えば部活動の実績とかさ」

 

 

「なるほど~。さすがカケル君」

 

 

穂乃果はカケルの助言に感心する。しかしカケルは自分でも不思議に思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

あれ?何で俺助言なんてしちゃったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

「部活動の実績だったら少し調べて良いとこ見つけたよ」

 

「本当!?」

 

 

ことりが言うと穂乃果は期待のこもった目をしだした。

 

 

「とは言っても、あんまり目立つようなものはなかったんだ。うちの学校で最近目立った活動は・・」

 

 

ことりが説明した最近の実績はこうだった。

 

 

 

珠算関東大会6位

 

合唱部地区予選奨励賞

 

ロボット部書類審査失格

 

 

 

どれも微妙な実績で最後に至っては実績ですらなかった。

 

 

「そうだ!駅伝部は何か実績ないの?」

 

穂乃果が駅伝部3人に聞いた。

 

それはカケルも気になった。まだ駅伝部のこれまでの実績について何も知らなかったのだ。

 

 

「うーん、あるとしても去年の東京都新人大会5000m個人7位ってところだな。これは現部長の実績なんだけどね」

 

杉山が説明した。

 

なるほど、ハイジさんか。結局都大会止まりというわけか、とカケルは思った。

 

 

 

「ワタシ、この学校好きデス。無くなってほしくありません」

 

 

ムサが俯きながら呟いた。

 

 

「私もだよムサ君」

 

「私も」

 

「私もです」

 

「俺もだ」

 

 

穂乃果・ことり・海未・杉山もムサに続いて呟いた。

 

 

 

カケルはみんなのこの学校に対する思いの強さを感じた。

 

 

でも、俺たちに一体何ができる?とも思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムサ、杉山。そろそろ部活の時間だ。行こうぜ」

 

カケルが2人に声を掛ける。

 

 

「そうだね。じゃあ俺たちは行くね」

 

「さようなら皆サン」

 

 

「うん。3人とも今日はありがとう」

 

「皆さんありがとうございました」

 

「部活頑張ってね~」

 

 

みんなそれぞれ挨拶を交わし合い、カケル・杉山・ムサは教室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎廊下◎

 

 

 

「なあ杉山、ムサ。ちょっと聞いていいか?」

 

「何だいカケル?」

 

「何デショウ?」

 

 

「お前らはどうして駅伝部に入ったんだ?」

 

 

3人揃って部室へ向かいながらカケルは2人に質問をする。

 

 

 

「ハイジさんが熱心に誘ってきたんだよ。俺たちと一緒に高校駅伝を目指そうってね」

 

「ワタシもです。最初は、ワタシは陸上の経験なんてないので戦力にならないと断ったんですが、それでもハイジさんはワタシの力を必要としてくれていましたので、入部を決意シマシタ」

 

 

杉山とムサがそれぞれ答えた。

 

 

 

「無謀だって思わないのか?」

 

「えっ?」

 

「だって全国高校駅伝だぞ!?どの学校も高校駅伝への出場を懸けてハードな練習を何日もやって、それでも出場できるのは各都道府県で1校だけなんだぞ!?それなのに、ようやく予選に出れるだけの部員が揃ったっていう状況で出場を目指そうだなんて。傍から見れば冗談としか思えない」

 

さらにカケルは続ける。

 

「それに穂乃果たちにしたってそうだ。廃校を阻止だなんて明らかに規模が大きすぎる。俺たち生徒にどうにかできる問題じゃないだろう」

 

カケルはこれまで心の中で思っていたことを述べた。

 

 

 

「それはどうかな」

 

杉山が口を開く。

 

 

 

 

「俺とムサは君より1年長くハイジさんと活動してきたけど、少なくともハイジさんはふざけて物を言う人じゃないのは確かだ。あの人は常に本気だよ」

 

 

「だからって・・」

 

 

「俺は、本気で目指そうと思う。俺、中学までは群馬の山奥で育ったんだ。当時は野球をやっていてピッチャーだった。ロードワークでは山道を走りこんできたから足腰と持久力には自信がある。それに、高校駅伝に出られたらテレビで放映されるんでしょう?親も喜ぶと思うんだ」

 

 

「ワタシも高校駅伝を目指します。だって、みんなで一緒に一つの目標に向かって努力するのって素晴らしいじゃないですか」

 

 

 

カケルは2人の本気を知り、呆気にとられた表情で2人を見た。

 

 

 

みんなで一緒に、か。俺にもそう思えた時期が今まであっただろうか?

 

 

 

 

 

「それに穂乃果ちゃんたちだって、本当にこの学校が好きだからこそ本気で廃校を阻止したいと思ってる。さっきも言ったように俺たちだってこの学校が好きだ。だから俺たちは彼女たちの廃校阻止にも協力するつもりだよ」

 

 

杉山の言葉にムサは頷いていた。

 

 

カケルはもはや何を言っても彼らの気持ちは変わらないと悟り、何も言う気にならなかった。

 

 

 

「さあ、早く部室に行こう!練習が始まっちゃうよ」

 

杉山に促され、3人は急いで部室へと向かっていった。

 

 

「あ、あと俺のことは高志でいいよ!」

 

 

 




次からは呼び方を 杉山⇒高志にします。

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