俺が攻略対象とかありえねぇ……   作:メガネ愛好者

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メガネ愛好者です

お久しぶりです
少しアクシデントがあったせいで投稿が遅れてしまいました。すいません
もしかしたら投稿ペースが落ちるかもですが、一週間に最低一話は必ず上げようとは思っています
思ってはいるんです

それはそうと、皆さんはアンコール5を読みましたでしょうか?
自分としては令音さんの話がお気に入りです。他の短編も面白かったのですが、それでも私は令音さんの話が一番気に入りましたね
……アンコール読んでて遅れたわけではありません。はい

また、感想にて指摘のあった空白明けを今回取り入れてみました。読みやすくなっているとよろしいのですが……いや、それよりも誤字が怖い。確認はしましたけど、もしかしたらまだありそうな気がして……

それでは


第二話 「無頓着すぎるって? 知ってる」

 

 

 「ほれ、とりあえずプリンシェイクでも飲みながら話そうじゃねーの」

 

 「なんでそのチョイス?」

 

 「うまいからだけど……もしかしてプリンシェイク嫌いだったか?」

 

 「だ、大丈夫だ、問題無い」

 

 夜も深まり、空に浮かぶ淡い光を放つ月が千歳達の事を照らしていた

 住宅街の中、そこに設立された公園のベンチに腰を下ろしている士道へ飲み物を渡した千歳はその隣に腰を下ろした

 士道の隣に座った千歳は両手で缶を握りつつ、何処か遠くを見るかのように虚空に顔を向けている

 そんな千歳の様子に気づきつつも、士道は千歳が用件を話し始めるまで黙り続ける事にしたのだった

 

 

 

 士道の携帯に届いたメールは千歳が送ったものだった

 メールに書いてある通りに窓から家の外を覗いた士道は、家の前の道路に佇みながらこちらに顔を向けている千歳を見た事でメールの主を理解する

 急な千歳の来訪に困惑した士道だったが、士道がこちらに気づいたことを確認した千歳は再び士道にメールを送る

 

 『少し話がしたい。出来れば誰にも気づかれないように来てくれないか? お前に聞きたい事があるんだ』

 

 その内容を見た士道はどうすればいいかと悩んでしまう

 彼女は精霊だ。つまりこう言った場合は〈フラクシナス〉の司令官である琴里や解析官の令音などに話を通しておくべきなのだ

 しかし千歳は「誰にも気づかれないで」と言っている。これでもし琴里や令音に話したことがバレてしまったとしたら……千歳は機嫌を損ねてしまうかもしれない

 そう言った理由で士道はどうするべきかと悩んだ末に——コンビニに言ってくるとだけ伝えて外出したのだった。……琴里達に千歳の事を一切話さずにだ

 

 もしここで千歳以外の——それこそ士道のクラスに突如として転校してきた精霊の狂三であれば警戒もしたことだろうし、琴里達にも話を通した筈だ

 だが士道は……多くは無いが、千歳と言う少女の事を知っている。だから士道は誰にも言わずに千歳の元へと向かったのだった

 

 以前に十香と初めてデートする事になった際に十香と共に遊び歩いた少女が千歳だった

 口調は荒っぽくあまり目立つような服装ではなかったものの、着飾れば間違い無く美少女と呼べる程に容姿が整っていることだろう。平均よりも背が高いので年上の女性だと思われるが、その見た目とは裏腹に言動は何処か子供っぽい……そんな女の子

 

 そして——十香の初めての友達でもあった

 

 人間に対して疑り深かったあの時の十香が少しの時間で信頼できるほどに心を許している。今ではまた千歳に会いたいと毎日のように言っている程、十香は千歳の事を好いていた

 そんな彼女だからこそ、士道は琴里達に何も言わずに千歳へと接触したのだ。千歳が警戒しなければいけない様な危険な存在ではないと信じた故に……

 

 『シドー君……ホントに良かったの? 琴里ちゃん達にも言わずに出てきちゃってさ』

 

 (多分この方がいいと思う。千歳は無暗に危害を加えるような子じゃないと思うからな。それに……今の俺には詠紫音がついてるんだし、一人ではないさ)

 

 『おおっ、そうだったねー! 確かにボクがいるんだから問題はナッシングだったよ~』

 

 (あぁ、頼りにしてるぞ? 詠紫音)

 

 それに士道は別に一人で来たわけではない

 確かに士道は誰にも気づかれないようにはした。——しかし()()()()()()()()()者に関してはどうしようもなかったんだ

 士道の中にいた事で千歳の呼び出しを知ってしまった詠紫音。彼女もまた、士道と共にこの場に来ていた

 こればかりは仕方が無い。何せメールの内容を一緒に読んでしまったのだから隠しようがないのだ

 それならばと詠紫音は士道についてきた。もしばれたとしても言い訳が効くし、何より——

 

 

 『堕天使としての力は使えなくても、ボクの〈第四の瞳(ケセス・プリュネル)〉があれば逃げることぐらいは出来るだろうしねー』

 

 

 ——そう。詠紫音は現在堕天使を使えないのだが、その堕天使に宿っていた〈瞳〉は封印の対象外だったのか詠紫音と共に抜け出してきてしまったようなのだ

 これでいざというときの防衛策が出来た事になる。よって、もしも何かあった場合に対処出来るようにと詠紫音は士道についてきたのだった

 

 因みにこの〈瞳〉が何なのかと〈フラクシナス〉は検査をするも、今現在分かっている事が”天使、堕天使とは別に力を使用する事が出来る”のと”霊力の有無に左右されずに使える”という事だけだった。これによって〈瞳〉が天使とはまた別の力なのではないかと琴里達は考えており、これからも継続して解析していくことになったのだった……

 

 

 

 ……まぁ〈瞳〉の実態を知っている者は既にいたりするんだけどね

 

 

 

 『お母様、本当に大丈夫ですの?』

 

 (問題無ねーって。ようは俺が主人公クンに惚れなきゃいいだけの事だろ? それなら心配しなくても惚れやしないさ。(これでも元男だしな))

 

 『(フラグにしか思えませんわ……)』

 

 士道と詠紫音が頭の中で言葉を交えている一方で、千歳もまた姿の見えない隣人と頭の中で話し合っていた

 

 千歳の頭に直接語りかけるように響く声は、千歳の影に潜む堕天使——くるみんの物だった

 宿主である精霊に天使としての力を残しつつも、くるみんは天使だった時の一部の能力が使えるようなのだ。それこそが——影に潜む力である

 その能力によって千歳の傍に居続ける事を可能とし、同時に千歳だけに語りかける事も出来るみたいだ。千歳のサポートをするには効果的と言える能力であろう

 因みに千歳以外の影に潜んでも同様の能力を発揮出来るのだが、何故かくるみんはそれを拒んでいる

 「お母様の影以外に潜む気などありませんわ!」——と、千歳以外の者の影に潜む事が嫌な様子。これに千歳は苦笑いすることしか出来なかったのは余談だろう

 くるみん自身で制限をかけているようなものなのだが、千歳としてはそれを拒んだり否定する気は無く、言ってしまえばくるみんに任せると言ったところである。……決して面倒だった訳ではない

 

 そんな千歳とくるみんは隣りにいる士道の事について話し合う事になる

 

 『何度も申し上げますが、もしお母様が士道様に攻略されでもすれば恐れた事態になるやもしれませんのよ? 彼は天使を自身の身に封印します。……ですが、それは()使()()()にございますわ』

 

 (〈瞳〉はあくまでも”俺自身の力”であって、”精霊の力”の封印と一緒にされる訳じゃないって言いたいんだろ? ……〈瞳〉が堕天使に宿らない限りは)

 

 『えぇ。天使であったよしのん様が〈第四の瞳(ケセス・プリュネル)〉を取り込んだ事で堕天した結果——四糸乃様に宿る筈であった〈瞳〉がよしのん様と共に封印されてしまいましたわ。これが四糸乃様に宿っていれば、〈瞳〉は封印から免れていた事でしょうに……』

 

 精霊の力と〈瞳〉の力は決してイコールではない

 何故なら……精霊の力は霊力を必要とするが、〈瞳〉は霊力を()()()()()()()()()()

 つまり、霊力を封印する事で精霊を無力化する士道の封印では、〈瞳〉を封印することは出来ないのだ

 

 しかし、今回みたいに堕天使に〈瞳〉は宿ってしまった場合は一概にそうとは言えないのだ

 天使はいわば霊力の塊だ。それは堕天使と変質した後も変わらない

 そんな霊力の塊に〈瞳〉が混じってしまった場合、〈瞳〉は巻き込まれる形で士道の中に封印されてしまうことになるのだ。……まぁ先程詠紫音が言った通りに後から抜け出す事は可能ではあるのだが、その事を知らない千歳達にはどうすることも出来なかった

 

 それに、今千歳達が問題視している点は——そこではないのだ

 

 (……もしも主人公クンに封印されそうになった場合、俺の天使と同化している訳でもない〈瞳〉が封印時に天使と共に封印される可能性が限りなく低い訳で……そうなれば——)

 

 『……〈瞳〉の監視から逃れた〈心蝕霊廟(イロウエル)〉が顕現してしまわれますわ。——士道様を介して』

 

 (宿主である俺でさえ制御出来ないかもしれないっていうのに、主人公クンがそれを制御出来るとは思えねーんだよなぁ……下手すりゃ暴走まっしぐらってか?)

 

 『えぇ。ですから士道様とはあまり関わってほしくないというのがワタクシの意見ですわ。確証が無いとはいえ、態々お母様や士道様を危険に晒す事も無いでしょう』

 

 千歳の〈心蝕霊廟(イロウエル)〉が士道に封印されてしまった場合、千歳に宿る〈瞳〉は封印されないかもしれないので〈心蝕霊廟(イロウエル)〉が野放しになってしまう。もしもそうなったら何が起こるか見当もつかないのだ

 それを危惧したくるみんが、士道と関わるなと言いだすのは至って必然の事だろう。くるみんにとって、何よりも優先すべき存在が千歳なのだから

 だが——

 

 (そう言われてもなぁ……別に俺は主人公クンの事を嫌ってる訳じゃあないんだし、意図して避け続けるのは少し気が引けるんだよね。令音さんにもしばらくしたら会いに行くって言っちゃったし……)

 

 『お母様がそう仰るのは重々承知の上ですわ。——ですが、こうして士道様を呼んでまで話し合う必要は無かったのでは?』

 

 (……どうしても直接聞きたかった事があるんだよ。大丈夫、絆されやしないさ……)

 

 『……分かりました。可能な限りの支援は致しますが、それでも十分に注意を払ってくださいまし』

 

 (おう、助かるよ)

 

 千歳はやりたい事を素直に実行する性分な為、士道を避け続ける事など出来る訳がないのだ。……千歳にとって、今生初で唯一の男友達でもあるし

 ならばどうするのか? その答えを……千歳はすぐに考えついたのだった

 それは言う分には簡単な事。だが実行するには難しく、最早無策に近い不確実性な手段であった

 

 

 その策と言うのが——自分の意思で彼に絆されないことだ

 

 

 「自分は元々男なんだ、同性にデレるなんてありえない」——という思い込みと根性論による拙い策だった

 

 一定の関係を保ち続けていればいいだけなんだし、所謂『親友以上、恋人未満』であれば問題は無いだろう。”デレる”とは『恋人になっても構わない』という感情を持った末に起こるものだと千歳は考えており、ならば士道に対して恋心を抱かなければいいだけの事ではないか

 好感を抱いても男性の親友で留まり続ければいいじゃないか——と、そう千歳は考えたのだ

 最早策が無いのと等しい考え。もしも千歳の心が変わりでもすれば、途端に崩れ出してしまう程の不安定な道だった。泥船に乗ったようなものである

 

 そんな千歳次第でどうとでも転んでしまうような確証の無い方針を、くるみんとしては素直に頷くことが出来なかった

 当たり前だ。彼女は千歳を守る為に未来から来たのだから、そんな危ない橋を態々進ませるようなことをさせたくはないだろう

 

 

 ——しかし、くるみんは渋々ながらもその案を受け入れることにした

 

 

 基本くるみんは千歳の決めた事を尊重する事を意識している

 何せいくら反論しようとも千歳は考えを改めないし、何より……千歳には定められた運命に縛られてほしくないからだ

 彼女に取って千歳は親も同然の存在だ。何せ千歳がいなければ、くるみん(天使)が自我を持つことは無かったのだから

 そんな自身がこの世に生まれ出でるきっかけを作ってくれた彼女の自由を下らないしがらみによって奪われてしまうなんて我慢ならない。だからこそくるみんは千歳のやりたいようにさせるし、支援もするのだ

 

 

 確証が無い? 不確実? ——そんな事はどうでもいい

 母の自由を奪うというのであれば——それらの要因全てを詰み取ろう

 

 

 その結果に未来がどうなろうとも千歳が無事なら問題無い。ようは最良の道を進めればいいのだから、それ以外は粗末なことだ

 過程がどうであれ結果上手くいけば万々歳。千歳が満足するものとなれば尚良し

 千歳は未来の情報を拒んだが、ようは使っている事を知られなければいい。深くを考えようとしない千歳の事だから助言として語りかければ然程気にも留めないだろう。……まぁくるみんがいる時点で未来は既に変わっているのだが

 

 とにかく、千歳には千歳らしい道を歩んでほしいというのがくるみんの願いだ

 だからこそくるみんは基本的に千歳の意見を否定する気はないし、行動を制限させるような事もしたくはない

 千歳には……周囲のしがらみに縛られず、自由に生きてほしいのだ

 

 それでも危機感ぐらいは持ってもらうべく、くるみんは千歳の意見を二つ返事で了承しないことにしている

 子供が玩具を欲した時、結果的に与えてしまうようなものだろう。これではどちらが親なのかわからなくなりそうだ

 

 結論から言えば、くるみんはただ千歳の安全だけを優先しようとしている訳ではない

 千歳が納得した上で満足の行く未来へと導くこと……それがくるみんの役割であり、自身の与えられた”使命”なのだから

 

 

 

 「……主人公クン」

 

 「な、なんだ?」

 

 お互いに見えない相方と話し合った二組は、両者共に頭の中での会話を済ませていよいよ本題に移ろうとする

 この日を切っ掛けに千歳は士道達と関わりを持つこととなるのだが、果たしてそれが良い結果となるのかどうかは……今のところ、まだ誰にもわからないのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「茹でたブロッコリーにはケチャップとマヨネーズを混ぜたモノが美味しいと思うんだよ」

 

 「まさかその為だけに呼んだわけじゃないよな!? ……俺はマヨネーズ一択だ」

 

 ……それでも当の本人達の能天気さには、ただただ呆れるばかりだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ————————————————————

      なう・ろーでぃんぐ

   ————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で主人公クンとの対談だ

 さっき言った事で分かるとは思うけど、別に俺は攻略されに来たわけじゃねーからな? ただ単に話し合いたくなっただけだから変な期待すんじゃねーぞ?

 勿論主人公クンの立場はくるみんから教えてもらったよ。でもそれを抜きにして主人公クンには聞きたい事があったんだからしょうがないね

 

 さてと、それじゃ早速聞いて行くとすっか。夜も遅いし、主人公クンもあまり時間は取れないだろうから簡潔に聞いてさっさと解散する事にすっか。下手に長引いてそれっぽいこと言われるのも何かこう……嫌だし

 俺は心も女になった訳じゃねーんだから、口説き文句とかシャレにならん

 とにかく早いところ要件を済ませて帰る事にしよう。そんじゃ早速——

 

 「あのさ主人公クン……」

 

 「——っ、は、ははいッ!!」

 

 「……え? え、何急に? なんでそんなどもってるん?」

 

 「あ、いや……き、気にしないでくれ……」

 

 質問しようと主人公クンの方に顔を向けた俺は……そこで主人公クンの様子がおかしい事に気づく

 主人公クンは何やら先程までと様子……というか態度が変わっていた

 俺がジュースを買ってきたときはまだ自然体に座っていたのに対し、今の主人公クンは背筋を伸ばしてまるで面接でもしているかのように行儀よく座っている

 これって……もしかして主人公クン、緊張してるのか? 一体何に……

 

 『……おそらく、お母様の服装が問題なのではないかと』

 

 (ん? 服だって? 別に普通じゃねーの?)

 

 『部屋着としては構いませんが、外出するには薄着過ぎるかと』

 

 (だって着替え直すのめんどかったんだもん。別に気にするような恰好でもないと思うんだけど……)

 

 主人公クンの様子に疑問を浮かべていると、その原因かと思われる理由をくるみんが指摘してくるのだった

 ただそう言われてもなぁ……確かに薄着かもしれねーけどそこまでおかしな格好って訳じゃないと思ってたんだけど

 一応言っておくと、今の俺の服装は上が黒のノースリーブシャツで下が青のホットパンツだ。後は下駄を履いてるぐらいか?

 何故下駄なのかと問われれば……一番の理由は単に履きやすいからだな

 後は下駄の鳴る音が好きだからかな。あの『カランカラン』って音が聞き心地いいんだわ。和風サイコーです

 ……え? なんでそんな格好してるんだだって? それはさっきくるみんも言ってたけど、これが俺の部屋着だからだよ

 

 

 

 ——お風呂後のな

 

 

 

 実を言うと、主人公クンに会いに行く前までお風呂に入ってたんだわ

 お風呂からあがった後、何となしに時間を確認してみたんだけど……まだ寝るには少し早い時間帯だったんだわ、うん

 それで寝るまでの間に何かしておこうかなーって考えていた時に……ふと気になることが頭をよぎったんだよね。その気になることを聞く為に俺は主人公クンの元にやってきたという訳だ

 

 この時間帯なら主人公クン以外の子達(特に組織陣の関係者)に会う確率も低いだろう。そのうち顔見せに行こうとも思っていたので、俺は”突撃真夜中の自宅訪問!”を決行したのでした。……まぁ家の中に入る訳じゃないけどさ?

 因みに主人公クンの都合が悪かった場合はそのまま帰るつもりだったよ? そこまで急な要件でも無いし、こっちの要求を無理強いする気は元から無かったからな

 

 そんな訳で、主人公クンの方も問題が無かったみたいだからこうして静かに話せる場所で話し合うことにした訳なんですが……相手方がまともに会話出来そうにないっていうね

 そもそもな話、何が原因かが未だによくわかっていないんだよね。服装って言われたけどそれだったら公園に来る間にこうなってる筈でしょ? だから服装はあまり関係無いような気が——

 

 『一番の原因を申し上げますと、”入浴後”と言うのが問題だと思いますわ。こうして隣同士に座り合えば意識せずともお母様が纏うシャンプーなどの香りがするでしょうし、お母様が面倒だと言ってきちんと乾かさなかった髪が月の光に照らされる事で艶やかさを増しております。入浴後故に肌もほのかに赤みを帯びていますし、ハッキリと言ってしまえば……今のお母様、全体的にエロいですわよ』

 

 (エ、エロいっておい……流石にそれは言い過ぎじゃねーのか? ただズボラに見えるだけだろ)

 

 『いえいえ。中身はともかく容姿が整っているお母様が無防備な姿を晒しているともなれば……最早誘っているのではないかと思われてしまいますわよ? 士道様も年頃の男性ですし、勘違いしても何らおかしな話ではありませんわ』

 

 (俺はそんなつもりじゃ――)

 

 『無いでしょうね。知っていますわ。……ですが、今のお母様を見てどう思うかなど相手方次第なのです。少なくとも、士道様が動揺しておられることが何よりの証拠でしょう。もう少しご自身の事を理解してくださいまし』

 

 (うぐっ……)

 

 反論できないでござる……いやまぁ確かにそうなのかもしれないよ? 俺だって男のままそんな状態の女性に迫られたらこうなるかもしれねーもん。話すのはまだしも迫られでもしたら全力脱兎間違い無しだわ

 しかも夜遅くにだぜ? ……主人公クンには悪いことしたな

 

 「あー……すまんな主人公クン。配慮が足りてなかったわ」

 

 「い、いや……こっちこそ、その……すまん」

 

 くるみんの言葉を聞いて納得した俺は一旦主人公クンから距離を置くことにした。離れてしまえばシャンプーの香りなんかも薄れるだろうしな

 とりあえずベンチの近くにあったブランコに再度座り直しつつ、せっかくなので軽く漕いでみる事に

 ……ブランコの位置が低すぎて漕ぎにくいッス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま少し様子を見ていると、主人公クンが落ち着いてきたのが目に見えて分かるようになった。マジで俺のせいだったのねこれ

 とにかくこれで話し合う雰囲気にもなったんだし、早速主人公クンに要件を伝えていこうかな

 

 「……時間もあれだし、早速本題に入っていいか?」

 

 「あぁ、頼む」

 

 お、真面目な顔も出来んのか。……って当たり前か

 さっきまで狼狽えていた表情は何処に行ったんだと言わんばかりに真剣な顔つきになった主人公クン。確かに今の表情ならモテてもおかしくはないね

 中性的でもキリッとした顔つきになればそれだけでも人の雰囲気って変わるもんだしさ。やっぱ主人公だわーって感じ

 

 「……十香と四糸乃、よしのんは元気にやってるか?」

 

 「……え? な、なんで……」

 

 「この前お前さんと十香達が一緒にいるところを偶然見かけてな……それで気になったんだよ」

 

 はい、そんな訳で聞きたかった内容は十香達の事でした

 いや会いに行けばいいじゃんって思った人もいるとは思うけど、正直なところ……会いたいけど会いづらいんだよね

 十香とは勝手に居なくなってからは会ってないし、四糸乃は個人的に後ろめたい気持ちがあるのです。勿論会いたいよ? でもどんな顔をして会いに行けばいいのやら

 それに、多分〈ラタトスク〉の関係者が周りにいそうだからね。〈ラタトスク〉とはまだ接触しない方がいいよな?

 ならせめて、元気にやってるかどうかぐらいは直接聞いておきたかったのですよ

 

 「そんで? 三人は上手くやれてるのか?」

 

 「……あぁ、三人とも元気にしてるよ。いつも笑ってる」

 

 「そっかそっか、それならよかったよ……ホントよかった」

 

 「千歳……」

 

 

 

 

 

 そこからは普段三人がどのように過ごしているかなどを少し教えてもらった

 十香は主人公クンと共に学校に行っているみたい。四糸乃もパペットの「よしのん」と人間の「よしのん」と遊んだりしているみたいだ

 普通の人間と何ら変わらない生活を享受している。例え精霊だったとしても、やはりそれは変わらないのだろう……人と同じ心さえ持っていれば、何ら問題は無いのだ

 

 「——そろそろ帰るか。もう時間も時間だしな」

 

 「そういえば……」

 

 ある程度話し合い、十分に十香達の事を聞けた辺りで切り上げることにした

 主人公クンは、俺が精霊だって事はわかってるだろうけど、俺から直接話したことは無いから、まだ俺が精霊だってことを隠していると思っていてもらいたいんだよね。いつボロが出るかわからないんだから聞きたい情報だけ聞いて下手な事を言わない様にせんとだしね

 そんな訳で俺が帰ろうとブランコから立ち上がると——主人公クンが不意に話しかけてきた

 

 「……千歳、ちょっといいか?」

 

 「ん? なんだい主人公クン?」

 

 「とりあえず……その主人公クンてあだ名なんだけど、正直それで呼ばれるのは抵抗があるから普通に呼んでくれないか?」

 

 あれ? 不評だったのか?

 まぁいいや。わざわざ相手が嫌がるあだ名で呼ぶ気は無いし、素直に肯定しておこう

 

 「そりゃ悪かったな。じゃあ——五河って呼ぶわ。呼びやすいし」

 

 「別に名前でもいいけど……まぁいいか。それでなんだが……あー……なぁ千歳」

 

 「ほいほい、どったよ五河」

 

 何やら言うべきか言わぬべきかを迷っているような仕草をする主人公クン改め五河は、片手で頭を掻きつつ問い掛けるのだった

 

 「十香達に会う気は無いのか?」

 

 「あー……」

 

 やっぱ聞かれるか……まぁこれはしょうがないな。話を聞くだけ聞いて会いに行こうとしないんだから、なんで会おうとしないのか疑問に持つだろう

 とりあえず素直に答えとくか。まぁ〈ラタトスク〉関係は省くけどね?

 

 「なんつーかさ……あいつらの前にどんな顔をして会いに行けばいいのかわかんねーんだよ。俺はそんなに交友関係が広い訳じゃないから、こういう時にどういった対応をすればいいかわかんねーからさ」

 

 「普通に会いにくればいいんじゃないのか?」

 

 「いやだって……なんか気不味いじゃん、急に会いに行くってのもさ……」

 

 「そ、そうか(千歳って意外と照れ屋……なのか?)」

 

 とりあえず俺が思った事をそのまま伝えてみた。うん、ヘタレとか言うなし

 しゃーないやん、だって千歳さんだもの。……え? 理由になってない? 知ってる

 

 「……まぁ、その内会いにいく気ではいる。俺だって十香達に会いたいし、あわよくば遊びたいからな」

 

 「……ならさ、一つ提案があるんだけどいいか?」

 

 「んー?」

 

 俺の回答に五河は何かを決心したかのような表情になって問いかけてくる

 なんだろ? 今までの会話で何か疑問点でもあったかね?

 五河の様子に少し疑問を持ちつつ、開かれた口から放たれようとしている言葉に耳を貸すのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今度さ、試しに俺と遊びに行かないか?」

 

 ……え?

 

 




まさかのデートのお誘い(え? 予想通り? マジですか)

そんな訳でシド-君、千歳の反応を見て攻めてみました
因みに、千歳が隣にいた時は結構理性と戦っていたそうです。恐るべし風呂上がり

よーし、ようやくこの時がきましたぞい!
千歳さんの初デートじゃあああ!!(微笑ましい光景になるかと問われれば……うーん)

次回
『トリプル? 否、クアドラプルだ』
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