屋上の場面まで行けなかった……すいませんが、狂三(本体)との邂逅はお預けです
そして、少しシリアス入るかも……いや、これをシリアスと言ってもよいのだろうか?
とりあえず一言、これぞ『The・初見殺し』である
それでは
突如として二人の前に現れた千歳
彼女の登場で辺りには緊張が走り、普段見せない千歳の巨大すぎる霊力がこの場にいる者全てに更なる重圧を与え始める事となる
その重圧に真那は予想していた以上の力を感じて警戒心を高め、士道は実質初めて目の当たりにする千歳の威圧に怯んで声が出せないでいる。千歳に抱えられた狂三も、その
そして、普段見せない千歳の態度にこの状況を見ているであろう琴里を初めとした〈フラクシナス〉のクルー達にも緊張が走り、下手に動けないでいたのだった
千歳はそこにいるだけで場の空気を掌握したのだ。その異常過ぎる霊力波と普段からは見られない神妙な雰囲気のみで……
そんな今も尚周囲の者達から注目を浴びている千歳はと言うと――
(どうだったくるみん? カッコよくキマってたか?)
『えぇ! それはもうキマりまくりですわ! 今のお母様はその場の誰よりも凛々しゅうございます!』
(そ、そうか……なんか照れるな。でも悪い気分じゃないし俺も満足かも。こう「俺、強者!」って感じで)
『(やはりお母様は凛々しさと力強さを強調させるべきですわね。その外見も相まり、他の者達と比べて雄々しさが段違いですもの。ふとしたことで見せる動揺した姿も捨てがたいのですが……やはり、お母様らしさを出すなら
――内心は結構いつも通りだった
実を言うと、先程取った傲慢な態度も自身の影に潜んでいるくるみんに「ここは相手を威圧して優位に立つべきですわ。ですので、お母様が思い描く堂々たる姿で語り掛けてみてくださいまし」……と、そう言われた結果の物だった
そして、あまりやったことのない煽りだったが故にそこまで自信も持てなかった千歳は、その言動に不備が無いかとくるみんに確認している現状である
別にふざけている訳ではない。これも相手から主導権を得る為に行ったことであり、自分のペースに持ち込むためのアクションでもあったのだ
実際にそれは成功し、相対する
はっきり言えば、千歳としては大胆に特攻された方が対処に困る。それなら慎重にチキンプレイしてくれた方が、直接攻撃する気の無い千歳にとってはありがたいのだ
つまり、この状況は千歳にとって良い方向へと進んでいるのだった
(……さてと、んじゃさっさと済ませるか。まずは早く……狂三だっけ? 安全な場所に移さんとな。このままじゃ流石に不味いし)
くるみんに今の言動は問題無いかと確認した千歳は相手に動きが無いか警戒しつつ、瀕死の狂三を安全な場所に移動させようと行動に移すのだった
正直言って、千歳は今の狂三の姿をあまり見ていたくはなかった。見ていられなかったんだ
今にも息絶えそうな程に傷ついた彼女を見ているだけで心を締め付けられるような息苦しさを感じ、同時にやり場の無い怒りを爆発させてしまいそうで……その激情が表に出てしまいそうになってしまうが故に
確かにこの少女は数多くの人を殺してきたのだろう。分身体とはいえ、許されない事に手を染めてきた事はこの現状で十分に理解させられる
その対処に目の前の少女——光の刃を構える真那が殺そうとしたのも仕方が無い事なのかもしれない。狂三を殺せば、少なくともこれ以上の被害をこの分身体からは出さずに済むのだから
彼女の取っている手段が必ずしも間違いだとは千歳には言えない。寧ろ世界にとって災厄である精霊を殺す事は、人類にとっては”英雄的行為”になるのではないだろうか? 故に千歳は完全に間違いだとは言えないのだ
だからこそ——そんな事関係無しに千歳は狂三を助けようとした
理屈がどうとかは関係無い
ただ目の前で殺されそうになった少女を助けたかった
例え本体からすればただの分身体だったとしても、見て見ぬ振りをする事なんて出来なかった
自身をお母様と慕ってくれる少女と似た存在を……千歳は見捨てたくなかったのだ
何より自分は精霊だ。精霊の味方をして何が悪い?
千歳自身の交友関係を無しにした場合、千歳は”人”と”精霊”のどちらに味方をするかと聞かれれば……迷い無く”精霊”だと答えるだろう
元は確かに人間だった。自身が未だに人間だったとしたら人の味方につこうとしていたかもしれない。何せ精霊は人からすれば危険な存在でしかないのだから
しかし、今では自分が人間だったという自覚もかなり薄れてきている。”人”だった千歳は”精霊”の千歳へと価値観が変化し、多くの”人”よりもたった一人の”精霊”を優先するぐらいには考えが変わってきているのだ
だからと言って無暗に人を傷つけたりする気は毛頭無い。あくまで優先すべき相手が精霊なだけで、別に人と事を構える理由等は一切無い
あくまでも千歳は精霊を選ぶだけだ。例え人から敵視されても、友人達に嫌われたとしても……その”選択”は変わらないだろう
それらの理由によって、千歳は狂三を助けることにした。自分にとってはデメリット以外の何でもない行動であるにも関わらずにだ
この事で今後の千歳の立場は大なり小なり変化するだろう。少なくとも……いい方向で無いことは確かだ
しかし、最早そんな事で立ち止まる千歳ではない
そんな事はどうでもいい、この子を助ける為ならそこまで気にする事ではないと、狂三に救いの手を差し伸べる事で示すのだった
勿論千歳の影に潜むくるみんは反対した。行く必要はない、自分の身を危険に晒す必要はないと千歳を説得した
それが千歳の為を思っての反論なのは千歳も十分にわかっている。わかってはいるのだ
それでも千歳は分身体とはいえ、くるみんと同じ顔をした精霊が殺されるところをジッと見ている事が出来なかった。きっと違う顔の精霊でもそうしたであろう
最早それはエゴに他ならない。ただ千歳が納得できないから、気にいらないからそうしたいというだけの自己満足に他ならない
しかし、例えエゴであろうが千歳は自身の想いを曲げることは無いだろう
損得では語れない千歳の本質が、己が意思を曲げることを拒んでいるが故に……
――話を戻そう
そんな千歳だが、はっきり言ってしまえば傷や体力などを回復させるような能力が無かったりする。相手の肉体に直接的な変化をもたらすような能力を千歳は持ち得ていないのだ
医療の心得もありはしないし、医療道具を出しても正しい使用用途を知らない為十分な処置を施せない
何より、この傷では一般的な医療品など付け焼刃にもならないだろう。それ程までに狂三の傷は深いのだ
だから今の千歳に狂三の傷を治す手段などありはしなかった
まぁ……千歳
『この分身体の処置はワタクシにお任せくださいまし。元は同じ
ここまでに至る道中でくるみんからは事情を聞いていた。くるみんなら狂三の分身体を延命させる事が出来ると
くるみんは自身の性質上、理論上では分身体に干渉が出来るのだ
今は堕天使と化してしまったとはいえ、元は同じ天使であるくるみん
天使の力によって、過去の自分を霊力を用いり構成された分身体である狂三
どちらも結局は天使を媒体に霊力から生まれた存在だ。ならば、同一の天使から生まれた狂三をその媒体である
実際に、くるみんは千歳の存在を
(同じ
『承りましたわ。では分身体を回収後、そのまま
(あぁ、約束するよ。それじゃ――【
そして千歳は人知れず〈瞳〉の力を発動させる
【
それに伴いくるみんも影へ潜んだまま移動を開始、狂三の回収へとあらかじめ決めていたビルへと向うのだった
(……ごめんな、くるみん)
くるみんが自身から離れていく中、千歳はくるみんに対して後ろめたさを感じていた
自身のわがままで己が立場を悪化させているという事は、千歳に付き添ってくれているくるみんにも危害が及ぶかもしれないという事でもあるのだ。もし自身の代わりにくるみんに被害が及べば……千歳は何をするかわかったもんじゃない
何より、今回狂三を助ける為には自身の力だけでは足りなかった
もっと早くに駆けつけてさえいれば、狂三が痛い思いをする事もなかっただろうし、くるみんに迷惑をかける事も無かった
千歳は助けたいと言っておきながら、実質他人頼りになってしまった自分が許せなかった
だからこそ千歳はくるみんに対して後ろめたさを感じていた
自身の情けなさが、自身のわがままで他人に迷惑をかけているのが……気にくわなかった
(……帰った後、何かくるみんのお願いを聞き入れよう。助けてもらってばかりじゃ性に合わないし)
そんな千歳は自己嫌悪に陥りつつ、自分の為に体を張ってくれているくるみんに日頃のお詫びと感謝を伝えようと胸に抱くのだった
……このお詫びが、後に千歳の精神をガリガリと削ることになる事を千歳はまだ知らない
さて、これで千歳を支援する者は近くからいなくなった訳だ。後は自身の判断で動くしかないこの状況に、千歳は気を引き締めながら現状を整理する事にする
先程までは、真那は手に持つ光の刃を構えつつ隙を伺っているようだった
しかし、狂三が忽然と姿を消した事で少し目を見開いた辺り、真那は今の現象に驚いているようだった
そんな真那が警戒しながら千歳に問い詰め始め——
「……〈アビス〉、〈ナイトメア〉に何をしやがったのですか?」
「君が知る事じゃあないね。もし知りたいなら……そうだな、実力行使で聞いてみたら?」
「最初からそのつもりでやがりますッ!」
真那の力強い言葉と共に、千歳を殲滅せんと動き始めるのであった
(一体どんな精霊か……いや、関係ねーです。結果殺せればこちらのもんでやがりますからね)
千歳と相対する真那は、得体の知れない相手に対して最初から接近戦に持ち込むのは危険だと考えたのか、手に持っていた光の刃を肩の武装へと納刀する
そして、納刀と同時に肩の武装が変形し、そこからいくつかの銃口が展開された
現れた銃口は両肩合わせて十つ、そのどれもが千歳へと向き、真那は何の躊躇も無く銃口から青白い光線を放つのだった
この光線は彼女の得意とする攻撃手段の一つであり、狂三を瀕死にまで追い詰めたものと同様ものだ
十条の光線が真那の意思により様々な軌道へと変化しながら相手に迫り、その軌道は真那の意思によって予測不可能な軌道を描く
例え避けたとしても真那が相手の姿を捉えていれば問題は無い。避けられた瞬間にその矛先を再び対象へと向ければいい事なのだから
故に簡単に避ける事など出来はしないと、真那はその攻撃に自信を持っていた
……因みにだが、この攻撃を初見で回避しきった者がいる
その者は彼女の上司であり、世界最強の
まぁ、アレは人間やめてる為に不思議と納得する事が出来るのだが……
とにかく、真那はこの攻撃に大きな信頼を寄せていた。それは幾度なく狂三の命を絶って来た事からくる自信でもある
例え避けられたとしても、その間に目の前の精霊が天使の能力を使ってくれれば今後の対処も楽になる。いわば二段構えの行動だった
だからこそ、真那は自身の行動を決して間違いだとは思っていない
そして真那は、もし隙が出来ればそのまま接近戦に持ち込んで一気に殲滅しようと考える
下手に相手に猶予を与える必要がない為に……
「そんな物騒なもん使ってんじゃねぇよ」
しかし、その考えは脆くも崩れ去る。何せ——
「……え?」
――何の挙動も示さぬままに、千歳は真那を無力化したのだから
真那は一瞬何が起きたのか理解できなかった
千歳へと迫った光線は一つ残らず虚空へと霧散し、その上で自身の纏うCR-ユニットを
機能停止したユニットは真那の意思ではうんともすんとも反応せず、ただの鉄の塊と化していた。その急な異変に流石の真那も一瞬呆け、次の瞬間には焦りを隠せなかった
そして、CR-ユニットの唐突な機能停止に意識が向いている真那は未だに気づいていない。自身のCR-ユニットだけではなく、展開していた
「な、何が起こって――ッ!?」
そんな真那の隙を、その原因たる千歳が見逃すはずが無い
機能停止により戸惑う真那の隙を確認した千歳は、瞬きよりも速く真那の目の前に現れ、そして……”アレ”を発動した
「……体は大事にしろよ? とにかく今は……”眠っとけ”」
片手で頭を掴まれ、顔を正面に固定された真那は……”視て”しまった
――千歳が持つ”
千歳の髪の間から露わとなるは、周囲の光を取り込む程の仄暗さを宿した深緑色の〈瞳〉。それを真那は視界に入れてしまった
【
今では何がきっかけとなったのか、その症状に掛かっていた者達が次々と目を覚まし始めている
しかし、その
警戒していなかったわけじゃない。十分に警戒はしていた
最近では
そんな【
その結果は分かりきっていた。
そんな真那が最後に見たものは、その不気味でおそろしく……それでいて安堵感がこみ上がる、仄暗き深緑色の〈瞳〉だけだった……
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なう・ろーでぃんぐ
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……っ、はぁぁぁぁぁあああ……上手くいってよかったぜ
どうも、千歳です
今は慣れない戦闘を手早く終わらせて〈
……え? 〈
でも背に腹は代えられねーっていうじゃん? それにこれが一番相手を無傷で無力化するのに適してるし、何より発動条件が楽だったんだもん。しゃあないしゃあない
因みに、今の戦闘(という名の作業)でやったことは主に三つだ
相手の攻撃手段の無力化、目の前まで瞬間移動、強制昏睡の三つだ。どれもこれも反則臭い気がしてしょうがない
まぁ精霊だからこのぐらいは普通でしょ。……普通だと言ってくれ
とりあえず、せっかくだし順に解説していくとしよう
まず初めに、さっきラウンドテンで発動していた【
これによって急な攻撃からでもすぐに反応できるようにしてたんだよ。前にくるみんから強襲された時はパニクって状況判断が追い付かないままノックダウンしちゃったからね、あらかじめ戦闘になるかもって予想できてるんだったら初めに発動させておいて損は無いでしょ? って思った次第です
その事もあって、崇宮嬢が話を区切って攻撃してきたときもすぐに反応出来たよ。てかその肩の武装カッケーなオイ、剣と銃になるとかロマンがあるぜ。いいセンスだ
まぁそれは置いといて、その攻撃の対処法は今回やったこと以外にもいろいろあったんだけど、予想外の行動とかされても困るしさっさと終わらせたくもあったから、一番(俺が)安全で手っ取り早い方法を使ったんだわさ
それがこれ、【
……あ、そう言えば【
まぁ俺の【
【
これを一言で説明するなら、見た対象の機能を一時的に凍結させるってものだ
対象は生物以外、つまり人や動物の動きを止めるとかは無理っす。よしのんの〈瞳〉は出来るみたいだけどね
では俺に出来る事は何か? ぶっちゃければ無機物や相手の技能を一時的に機能不全or機能停止に出来るのです
これで崇宮嬢の武装やバリアーみたいなのを一時的に使用不可能にしたわけだ。目には見えないけど、ASTや崇宮嬢の使っているであろう魔力って言うのもついでに機能不全にしたのは正解だったね。そのおかげでレーザー消えたし
因みに効果時間は10秒。短いと思いがちだが、戦闘中の10秒は結構長いぜ?
まぁ動きを止められる事が一番だったんだけど、それは俺の【
そんな訳で、魔力やら武装やらを【
そして、その光景に唖然とした崇宮嬢の懐に【
……まぁ背に腹は代えられないってはいったけど、本当だったら〈
問題があるとしたら……後遺症がなぁ……
あ、後遺症ってのはようするに……あれだ、依存症になっちゃうんですよ。〈
人によって効果はまちまちではあるんだけど、効果が出てしまうと結構不味いかもしれない
理由としては、〈
「眠ればまたあの幸福を味わえるのではないか?」と言う依存症が心を蝕み、意識せずとも眠りたくなってしまうと言う後遺症がその人を襲うのです。症状が出てしまった方、本当に申し訳ない……
心が強い人なんかはすぐに克服も出来ると思うんだけど、全員が全員心が強い訳じゃない。その中で幸福だと感じてしまった人は、眠りにつく度に依存性が上がっちまう仕様は鬼畜過ぎると俺は思います
そして、そんな発症者達が最後に行きつく先に待つのは…………いや、考えるのはよそう。きっとそこまでにはならない筈だ
そうじゃないと……堪えられそうにない
……っと、今はこんなことを考えてる場合じゃなかったな
きっと崇宮嬢は後遺症とか大丈夫だろうし、とりあえずはこの場は早々に退散しよう。少しの間とは言え霊力を開放しちゃったわけだし、ASTが来るのも時間の問題だ
とりあえず俺は崇宮嬢を近くの木に運び、周囲に広がった血痕が届かない場所に寝かせることにする。多分ASTが保護してくれるだろう
そして俺は顕現させていた霊装を元の服装に戻しつつ……一部始終を見て唖然としていた五河に向き直るのだった
「……とりあえず、今日はもうお互い帰るとすっか。な? 五河」
「っ……」
俺が五河に話しかけると、今まで目の前で起きていた事に怯えた表情を浮かべつつ、何とか俺の言葉にゆっくりと頷くのだった
”怯え”、か……まぁしょうがねーか。少し前までは一般人だったみたいだし、この場の惨状や殺意に敵意が一瞬とはいえ交差された場に居合わせたんだ。恐くなってもしょうがない
寧ろなんで俺はここまで平然としていられるんだろう? 一応俺だって元は人間だったんだけど……まぁ別にいいか
それにしても……今回で五河にハッキリと知られちまったな。俺が精霊だってこと
多分〈ラタトスク〉からは聞かされていたりするんだろうけど、こうして実際に肌で感じないと現実味が無いもんだと思うんだよ
以前俺が十香と共闘した時は五河が目覚めてすぐに消えたから、五河は俺の事をきちんとは確認していなかっただろうしね。あの時は五河も十香の事で頭が一杯一杯だっただろうし
……だから、しょうがない
例え……友人から怯えられた表情をされようが、しょうがないんだ
「……じゃあな、五河」
「……ぁ、ち、千歳! 待っ――」
何かに気づいたかのように表情を変えた五河の姿を最後に、俺はくるみんと狂三が待つであろうくるみんの用意した部屋に【
……なんでだろう
なんか……心苦しいや……
千歳さん、いろいろと悩む
それにしても、劣化版とは言え数種類の能力があるとこうもやりたい放題できるものなのか……
とうとう魔術師キラーも出てきちゃったわけですが……白髪の少女ならなんか対抗できそうで困る
素のスペックが最早逸般人ですし……多分徒手格闘戦になったら千歳さん負けるんじゃね? と思う今日この頃
次回、多分章終話です。少なくとも三章は後2話以内で終わるかと