俺が攻略対象とかありえねぇ……   作:メガネ愛好者

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メガネ愛好者です

案の定1話に収まりきらんかった……
でも次話は間違いなく章終話です。これは間違いない……

さて、一体千歳さんとくるみんは狂三をどうするのでしょうか?

それでは


第七話 「本体は容赦が無い? 知ってる」

 

 

 五河の姿を最後に、俺はくるみんが用意したあの部屋へと転移した

 一瞬で変わった景色も今では慣れたものであり、特に新鮮味も無く転移した俺は一応目的の場所に転移できたかどうかを確認する為に辺りを見渡し始める

 視界に広がるのは最近見慣れる様になった部屋、くるみんが用意してくれた拠点の中だった。そこまで心配はしてなかったけど問題は無かったみたいです

 

 因みにだが、このくるみんが用意した部屋……まぁ俺が監禁されていた部屋なんだが、どうやらここは天宮市内に佇むマンションの一室みたいです

 一階の奥に位置するこの部屋は、どうやったかは聞いてないけど……くるみんが直接このマンションの管理人に”オハナシ”した結果、自由に使っていいこととなったらしい

 詳しくは聞かない。なんか聞くのが怖いから

 そんなくるみんが用意した部屋なんだが、どうやら他の部屋とは機能やら内装やらが違うらしい

 てかはっきり言うと……

 

 

 「これからここは、ワタクシ達の拠点となる場所です。ですので、未来にて身につけた技術を駆使して改ぞ――改装させてもらいましたの。いかがでしょう?」

 

 「言い直してもやったことには変わりないって言うよね? まさにそれが今の現状だよくるみん」

 

 

 ――くるみんが魔改造を施してしまった

 

 

 自由自在に内装が変わり、何もない壁から窓が出現する。あの重厚そうな扉だって一瞬で床へと完全収納し、そもそも壁やら部屋の配置等が端末操作一つで早変わり……ははは、物理法則どこ行ったよオイ。迷子か?

 あの外界の情報を完全遮断していた部屋が見事にごく普通な部屋へとトランスフォーム、またはビフォーアフターしたわけなんだが……俺から言わせてもらうと、未来技術も凄いがこの機能を施すくるみんの方がヤバいと思うのですわ

 これ一人でやったんだとよ。流石は堕天使ってか? 現代の大工が涙目だよお馬鹿

 ……いや、まぁ別に俺が困る事は何一つなく、寧ろ大助かりではあるけどさ? くるみんの未来技術で俺の常識がブレイクダンスしだす並みにアッパラパーになりかけてるんだよ。いや、もうなってるのか? ……自分で言ってて何言ってるのかももうよくわからんわ。千歳さんは難しい事を考えるのが嫌いなのだよ、めんどくさいから

 

 ――アレ? 今では空飛ぶ機械兵団だったり空中戦艦だったりと摩訶不思議化学が蔓延っているようなご時世だ。数年もすればこのぐらいの技術も不思議じゃない……のか? そう思いたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず俺は自室から廊下に出てくるみんの部屋へと向かうことにする。多分其処に狂三が運ばれただろうしね

 俺はくるみんの部屋の前まで行って扉を数回ノックする。予想通り部屋の中にはくるみんが居たようで、いつもの抑揚で返事をしてくれた

 そんな訳でくるみんの部屋にお邪魔する事に。そして、部屋に置かれたベットで横に寝かされている狂三(別に本体はこの場に居ないし狂三って呼ぶ事にする)と、その様子を見守るように佇むくるみんの二人を俺は視界に移したのだった

 どうやら二人とも何事も無く事が済んだようだ。とりあえず一安心だね

 もしかしたらくるみんが狂三の元に行く道中なんかでASTやDEM社等と遭遇するかもしれないしね。ちょっと不安だったりしてたんだけど……流石に考えすぎだったかな?

 ……考えすぎとか柄じゃねーな、うん

 

 「ご無事で何よりですわ、お母様」

 

 「おう、ただいま」

 

 とりあえず俺はくるみんの出迎えに返事する。安否確認は大事だぜ? 下手に隠したりなんかも絶対だめだ。もし怪我があった場合、後になって悪化したら大変だからな

 その報告とばかりに俺がくるみんへ返事を返すと、くるみんが眉をひそめるのが視界に映る……って、え? 急にどうした?

 

 「……お母様、どうかなされましたか?」

 

 「はい? いやどうもしてないけど。怪我もないし」

 

 「そうではありません。……何か、お母様の機嫌を害されるような事でもなされましたか? という事です。何やら浮かない表情をなされていましたので」

 

 「……気にすんな。特に問題は無いし今後にも支障は出んさ」

 

 ……鋭いなくるみん

 確かに今の俺は機嫌が良いとは言えなかった

 

 あの時、転移する前に見せられた五河の表情が……なんか、頭から離れられなくてな

 

 別にあの反応は人として普通の事だし、俺も特に気にしては無い……筈なんだけどさ。どうも頭に引っかかるんだわ

 怯えられた表情なんて、俺がこの世界に来た時にASTから沢山見せられたってのによ。半数程は恨みがましく睨みつけるような険しい表情だったけどね

 特にあの白髪少女、あの子は今でも覚えてるわ。精霊の俺に臆さず斬りかかって来た子だったし、あの親の仇でも見るような憎悪に満ちた表情は、俺の脳裏へ簡単に刻まれて中々に忘れられないものになってるし

 十香の時も、ASTで唯一剣を交えたのもあの子だったし……精霊に恨みでもあんのかね?

 ……無い、とは言い切れないか

 

 そんな訳で、別に人から悪く見られたとしても今更気にする事は無い筈だったんだよ。だからどうしても疑問に……あ

 あー……でもあれか。おじちゃん達から同じように見られても似たことになりそうだし、知り合いからされたら辛いものがあるってことなのかもしれねーわ

 五河は唯一にして今世初めての男友達だし、そんな相手から怯えられたらショックも受けるってことなのかも。いつからこんな豆腐メンタルになったんだよ俺氏

 とりあえずは、今度からそこら辺の配慮もする事にしよう。別に好きで嫌われようとしてるわけじゃねーし、極力は日々を面白おかしく生きていきたい俺にとっては周りとの関係を邪険にはしたくないからね

 ……多分そうだよな? 一先ず今はそう思っておこ……

 

 

 

 

 

 とりあえず今は、そんなよくわからない感情は頭の隅に追いやることにしよう

 ある程度頭を整理した後、俺は目の前にいるくるみんと、その横で眠りにつく狂三のこれからの事を話し合う事にするのだった

 

 「流石にこのまま本体の元に返すってわけにもいかない……よな」

 

 「そうですわねぇ……念のため、記憶を少々弄ってワタクシ達に関する情報を封鎖する事も可能ですが、今から本体と合流させてしまうのはいささか不自然すぎるでしょう」

 

 「やっぱり違和感無しに事を進めんのは無理っぽい?」

 

 「本体の狙いはあくまで士道様ですわ。その相手をしていた分身体が、一時的にとはいえ姿を晦ましたとなれば不信感も抱きましょう。本体も馬鹿ではありません、もしも分身体に何らかの細工を仕掛けられた事に気付いたとなれば……」

 

 「最悪”処分”されるってか? ……くるみんから話に聞いただけで、まだ本人とは会った事も無いから何とも言えんけど……そこまで容赦ねーの? 狂三って子は」

 

 「えぇ、それはもう。どこぞの鋼猿に牙獅子がネイ〇クラッシャーするが如く、問答無用で腹部を貫かれる位には容赦がありませんわ」

 

 「見事に風穴空いてるじゃないですかヤダー。……てかそのネタ、今時の子は分かるのか?」

 

 「少し前にゲームで復刻しましたし、分かる人には分かるのではないでしょうか?」

 

 「いや、その場面は戦闘でカットされて描写が無いから多分わからんと思うぞ?」

 

 まぁ分かるかどうかなんて関係なく、どっちにしてもシャレにならん事態になるのは明白なんだけどさ

 

 さて、どうしたものか……くるみんの話が本当なら、このまま狂三を本体の元に戻したとしても帰ってきた分身体に不信感を抱く確率が非常に高いのだ

 さっき言ったような事が原因で本体に「処分」されてしまったとしたら、何の為に狂三を助けたのかよくわからなくなってしまう……俺やくるみんもそれだけは避けたい事体なのだ

 

 今のところ俺が考えている案は「俺達と一緒にいてもらう」っていうありきたりなものだ

 彼女が近くにいてくれれば、何かあった時に俺やくるみんがフォローに入れると思うし、この子の安全を保つんだったらそれが最善だと思うんですよ。……別に、他に考えが浮かばなかったわけじゃねーぞ?

 ただ、それを決めるのも狂三次第なんだけどさ? 今後どうするか決めるのはあくまで狂三自身なんだし、俺等に決定権は無いのは勿論、この子の自由を縛るつもりなんて端から無いもん。出来る事は選択肢を与えてあげるってことぐらいだ

 

 ――でも、俺としては一緒にいてくれる事を選んでくれるとありがたい。……てか嬉しいんだけどね。友達が増えるみたいでさ

 もしこの子が俺達と一緒にいてくれる事を選んでくれたならば、俺は最大限に歓迎しようと思ってるよ

 ……とりあえず打ち上げ花火でも用意するか? 本格的な花火を100玉程

 

 しかし、もし狂三が俺達と一緒に居てくれるようになったらなったで別の問題が上がってくるんだわ

 

 

 それは……()()()方の狂三だ

 

 

 流石に本体も、いきなり消息を絶った分身体をそのまま放置するなんて事はないだろう

 サーチ&デストロイ。この言葉通りに分身体を探し、不要と思えば”処分”するかもしれないとくるみんは言っている。それだけは見過ごせない

 今この瞬間にだって、必死にとはいかないまでも捜索を始めているかもしれないんだ。今は眠りについている狂三も、起きてすぐには答えを出せないだろうし、今来られると非常にめんどくさい事になるんだよ

 はぁ、どうしたもんかなぁ……

 

 「……お母様」

 

 「ん? どうしたくるみん?」

 

 「一つ、提案がありますわ」

 

 俺がこの子の今後について頭を悩ませていると、唐突にくるみんから声をかけられた

 未だベットで眠っている狂三を眺めつつ俺へと語りかけてくるくるみんは、静かに……自身の案を提案するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――ワタクシが、この子(分身体)の―――――――となりましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ――――――――――――――――――――

      なう・ろーでぃんぐ

   ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クアドラプルデートを終えた次の日

 再び登校日となり、自身が通う学校へと足を進める士道は一つの覚悟を胸に抱いていた

 

 先日、千歳が立ち去った後に彼はすぐさま〈フラクシナス〉に回収された。千歳の消えた場所から目を離さずに固まる士道をその場に居続けさせる訳にもいかなかったのだ

 何せ現状が現状だ。周囲には数人分の血痕が広がり、傷が無いとはいえ近くにはASTが束になっても敵わなかった真那が昏睡した状態で横たわっているのだ。徐々に近づいてくるASTがその現場を見てしまえば、士道を重要参考人として連れていかれてしまうことになるのはわかりきっている

 そう言った理由で士道をあの場から回収した琴里達だったのだが……そんな琴里達は、回収した士道の様子に困惑することになったのだった

 

 

 

 士道は自身がやってしまった過ちを後悔しているかのように、拳を強く握りしめつつ歯を食いしばっていた

 

 

 ――何も出来なかった。怯えることしか出来なかった――

 

 

 狂三に人を殺させてしまった

 もっと早く狂三の元へと駆けつけられたら、その手を汚さずに止めることが出来たかもしれない

 

 真那に狂三を殺されかけてしまった

 あの時周囲の現状に耐えられたら、真那が狂三へ攻撃する事を止めることが出来たかもしれない

 

 千歳に真那が眠らされてしまった

 千歳が急に現れた時、俺がすぐに動けていれば真那は【心蝕瞳(イロウシェン)】に掛かることは無かったかもしれない

 

 

 そして、結果的には狂三を助けて穏便にとはいかないまでも真那を止めてくれた千歳に——怯えた表情を向けてしまった

 さき程まで楽しそうに笑顔を浮かべていた千歳に、あんな……辛そうな表情をさせてしまったのだ

 無意識にとはいえ、自身の態度に不甲斐無さを感じてしまう。一瞬でも怯えてしまった自分を殴りつけたくなる程、士道の心には煮え切らない想いが渦巻いていたのだった

 

 

 

 そんな士道だったが、事情を察した琴里や士道の様子を十香が支えてくれたおかげで自身のやるべきことを再確認する

 そして士道は今日、おそらく学校へ来るはずの狂三と接触する事にしたのだ。自身の想いをぶつける為に、彼女達精霊を封印——いや、救う為に……

 

 己が教室に足を踏み入れると、案の定彼女は自分の席に座っていた

 何食わぬ顔で自身の席に着く狂三に士道は歩み寄り、自身の意思を伝え始める

 

 その内容は士道が決意した”狂三を救う”という一方的な理想論。その想いは狂三の心を逆撫でするに十分なものだった

 士道の抱く価値観を自身に押し付けるなという拒絶の言葉を持ってして言い返す狂三だったが、結局士道の決意が変わることは無かった

 その強い意志が宿した士道の瞳を見た狂三は、仕方がないとばかりに後程屋上へ来るよう伝え、士道から興味を無くしたかのように視線を逸らすのだった

 

 

 

 

 

 

 そして放課後、狂三の指定した屋上へと足を運ぼうとする士道の周囲に異変が生じ始める

 嫌な空気と共に周囲が少々暗くなり、それと同時に士道を襲う倦怠感と虚脱感。何とか意識は保てるものの……周りの者達はそうもいかなかった

 苦し気なうめき声と共に周囲の生徒達が倒れ始め、次々に意識を失っていく。近くにいた十香も意識は保ってはいるが、かなり辛そうな事がその顔色から見て取れる

 

 この原因を作った者は……分かっている

 今朝、士道を屋上に誘った精霊の起こした事なのだと察し、インカム越しから流れる令音の言葉からも推測出来ていた

 そんな士道は重い体に鞭を打ち、彼女が待つ屋上へと一目散に駆け始める

 

 

 そして、開かれる屋上の扉。その先には――愉快そうに歪んだ笑みを浮かべる少女、狂三の姿があった

 

 

 「――ようこそ。お待ちしておりましたわ、士道さん」

 

 あの時の霊装を身に纏い、士道を確認するなり自身の霊装の裾を摘み上げ、上品に挨拶しながら顔を向ける狂三は……”わらっていた”

 

 

 

 笑って(わらって)嗤って(ワらっテ)嘲っていた(わラッてイタ)……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして始まった二人の口論

 この間にも結界内にいる者の”時間(寿命)”を吸い上げる〈時喰(ときは)みの城〉が徐々に生徒達から”時間”を吸い上げていく

 そんな危険な力を止めるべく、そしてこれ以上狂三が人を殺めるのを阻止すべく、士道は狂三を説得し続けるのだった

 

 そもそもな話、何故急に狂三は〈時喰みの城〉を発動したのか?

 その答えに狂三は言った。そろそろ”時間”を補充しておきたかったと、まるで生徒が餌だと言わんばかりに言っていた

 しかしそれはついでのようなもので、狂三にはそれ以上に()()()()()()があった

 

 それは——士道の発言を撤回する事

 

 不快極まりなかった。そんな自身を救うなどという士道の世迷言を取り消す為だけに、彼女は強行手段に出たのだった

 「その程度の事で?」と人は思うかもしれない。——しかし狂三にとってはそれ程までの事をやってでも撤回させたかったのだ。士道の言葉に気分を害したが故に

 

 しかし、それでも士道がその言葉を撤回することは無かった

 その上で結界も解けと催促する辺り、いい性格をしていると思う

 士道も譲れないものがあるのだ。彼女を救う事を諦めるなど、最早士道の中にそんな選択肢はありえていないのだから

 そんな士道の態度に苛立ち始めた狂三は——次の手段を取る事となる

 

 

  ウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――

 

 

 彼女は精霊にとって危険視とされてきている現象、空間震を起こそうとし始めたのだ

 狂三もこれで流石の士道も考えを改め直すだろうと考えた。〈時喰みの城〉と比べ、その殺傷性や被害は他の精霊で証明されているが故に、これできっと撤回するだろうと思い始める

 だからこそ、狂三は勝ち誇ったかのような表情を浮かべたのだ。焦りを見せる士道の顔を眺めながら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――しかし、どうにも狂三の思い通りにはいかないらしい

 

 

 狂三の言動を見た士道が、急に自殺を試み始めたのだ

 

 

 傍から見れば気が狂ったかの様な言動。しかし士道は、それにも臆せず自らの命を絶とうと屋上から飛び降りたのだ

 これには訳がある。狂三の言動と令音の報告によって、士道は先程から感じていた疑問を合点が合わさった故にきた行動だった

 

 彼女は……不慣れな想いに怯えていたのだ

 

 精霊である狂三、彼女は今まで殺伐とした時間を過ごしてきたはずだ

 人を殺し、自身が殺されてきた日々を――

 命を奪い、奪われる日々を――

 そんな、常に命のやり取りをしてきたからこそ狂三の心は摩耗していき、彼女にあった「平和」と言う文字が血の色で隠されてしまっていたのだ

 

 そんな日々に現れたのが、士道という名の穢れた物を浄化する水だった

 

 士道は狂三の心に張付いて固まった赤黒い血の色を徐々に消し去っていた

 それは優しく、温かい。初めて伸ばされた手は心が癒えるかの様な温もりに満ち溢れ、その熱が今の狂三を戸惑わせた

 士道に自身が変えられてしまう。汚れた血で濡れた自身の心を彼の綺麗な水で洗い流されそうで……それが怖かった

 自分という存在を変えられる……それが堪らなく怖く、恐ろしい

 

 しかし士道は、そんな狂三の心など知らんと言わんばかりに手を伸ばしてくる……曇りの無い、確固たる強い意思を持った瞳で狂三を見つめながら……

 

 

 そんな士道に、とうとう狂三は気を許し始めてしまう

 それが彼女に取って、自身の命が摘まれる事となるカウントダウンの開始の合図だとも知らずに……

 

 

 「士道さん、わたくしは……本当に……」

 

 

 

 

 

 ――そして、カウントはゼロとなった

 

 

 「――駄ァ目、ですわよ。そんな言葉に惑わされちゃあ」

 

 

 その声は狂三の背後から響き渡った

 不要と判断した”本体”が、その目の前にいる”分身体”を処分しようと動いたのだ

 これ以上は彼女にとって不毛である事は明白であり、その絆されゆく己が”分身体”を見ていることに不快感を抱いたが故に……”本体”は彼女の命を摘もうと手を伸ばしたのだ

 しかしその伸ばされた手は——

 

 

 

  ――パンッ

 

 

 

 「っ……!」

 

 ——急に振り返った”狂三(分身体)”の手によって弾かれた

 

 その行動に”本体”は目を見開き、瞬時に後方へ距離を取る。……その怪しく嗤う、自身の姿をした”得体の知れないナニカ”に警戒心を露わにしながら

 その”ナニカ”の背後にいる士道も、それを〈フラクシナス〉で現場を確認していた令音達も、二人の狂三を見て驚きのあまりに硬直してしまう

 

 

 

 「……くひひひ。やぁぁぁッぱり、このタイミングで介入するのですわね。相変わらずですわァ……それでこそ”わたくし(狂三)”です」

 

 

 

 士道の前に立つ”狂三(分身体?)”は、先程までの笑い方や言葉のニュアンスを変えて”狂三(本体)”へと話しかける

 それに”狂三(本体)”が不信感を抱くも、最早それは意味をなさない。既にここは——彼女の掌の内なのだから

 

 

 

 そして……変化が訪れた

 

 

 

 「それでは始めましょう? 今日を持って、この『わたくし(分身体)』は一つの個体となるのです!! サァサァおいでマセおいでマセ〈堕天・刻々帝(ザフキエルッ・フォォォルダウナァァァアア)〉!!!」

 

 

 

 その宣言と共に、彼女の左目——時針と分針があった時計のような瞳が絶え間なく回り続ける秒針へと変わった

 

 更に、彼女の手には黒を基準に紅い紋様が入った杖が現れる

 杖のグリップを掴み、反対側の先端にある石突で屋上の床を叩けば、より一層の変化が現れ始めるのだった

 

 赤と黒のヘッドバンドが頭部から消え去り、白バラをあしらわれたコサージュが左上部に出現する

 髪留めが無くなり、左右に縛られていた髪が解放される。その長く艶やかな黒い髪がまるで自由だと言わんばかりに風で靡き始める

 赤と黒をベースに作られたゴシックドレスの霊装も、胸や肩を隠すような落ち着いたゴシックドレスへと形状が変化し、その色も白をベースに一部が黒く染まった物へと変色する

 胸元には頭部と同じ白いバラを中心に、赤いリボンが着飾れられる

 

 霊装の変化も落ち着き、最後に時計を模した無機質な金色の左眼が紅く、深紅の右眼が……仄暗い黒曜色へと染まり終えることで全ての変化が終わりを告げた

 そんな、全体的に白と黒で着飾られた姿を見た士道がどこか……詠紫音の姿と被って見えたのだった

 それもそのはずだろう。彼女は正真正銘……詠紫音と同質の存在なのだから

 

 「……あなたは一体何者ですの?」

 

 そんな”彼女”に警戒し、更には……何処か苛立ちを込めた声色で問いかける狂三

 ”彼女”はそんな狂三の様子が可笑しかったのか、クスッと微笑みながら答えるのだった

 

 

 

 「では改めてご挨拶を……初めまして”わたくし(狂三)”。ワタクシの名前は駆瑠眠(くるみん)……”貴方”であって”あなた”とは異なる存在——堕天使にございます。親しみを込めてくるみんとお呼びくださいまし」

 

 

 くふふ……くひひひ……

 

 

 彼女は笑う、嗤う、嘲う。この現状を、面白可笑しく愉しみながら

 

 

 

 

 

 ――ワタクシが、この子の”スケープゴート”となりましょう――

 

 




スケープゴート。それは身代わりの意

はい、狂三ちゃんのお腹にネイ〇クラッシャー事件はくるみんによって阻止されたのでした
一体くるみんはこの後どうするのか? そもそも狂三(分身体)はどうなったのか?
それらの疑問は次回にて

……ネイ〇クラッシャー、皆さんは知ってますかね?

次回・時崎狂三大激怒の巻



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