俺が攻略対象とかありえねぇ……   作:メガネ愛好者

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どうも、メガネ愛好者です

今回の話……最早閲覧注意です
独自解釈、キャラ崩壊、原作改変のオンパレードの数々に私自身「あれ? デアラってこんなんだっけ?」と首をかしげてしまった程です
それでも構わないという方は、どうぞご覧になられてくださいまし

それでは


第二話 「八つ当たりだって? 知ってる」

 

 

 どうも、千歳だ

 あれから水着選びも無事に終わり、当初の目的を果たしたことで今日は解散する流れになったんだ

 因みにだけど、俺やくるみん達は誰一人として水着を買ってないわ

 何せ俺達は精霊(一人は堕天使)だからな。霊力で服を形成することが出来る以上、態々衣類を買う必要がないんだよ。今日来たのだって今流行りの水着を見に来たようなもんだからな。所謂ウィンドウショッピングってやつさ。……まぁ携帯で画像検索すれば俺が【(コクマス)】でいつでも手元に出せるんだけども

 俺達が精霊である限りは着る服に困るような事態になることはないだろう。服にお金をかける必要がないとか年頃の女の子にしてみれば歓喜感涙ものじゃね? その上、精霊はいくら美味しいものを食べても太るようなことなんかも無いし……もしやこれ、女性にとっての理想郷=精霊なのではなかろうか?

 

 『精霊になれば幸せになりますよ。——ただし、嫉妬に駆られた女性(AST)に襲われます』ってキャッチコピーで精霊を世間に広められそう! ……え? それはないって? 知ってる

 

 

 

 …………さてと

 

 

 

 「……んで、俺に話ってなんだ?」

 

 「…………」

 

 

 現実逃避はやめて、目の前の白髪少女(鳶一折紙)をどう対処するか考えるか

 ははは、見かけたら連絡するってのがフラグになっていたとは思わなんだぜ。偶然出会いそうな気は薄々していたけれど、まさか五河に連絡する時間さえないなんてさ……はぁ、どうしようかなコレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は数分前の事だ

 五河達と別れ、俺はくるみんとミク、七罪と一緒に帰路についていた。その頃には既に三人の様子は戻っており、結局あの時に見せた三人の反応が何だったのかを知る事は叶わなかったけど……まぁ少し気になったってだけだし、別に知らなくてもいいんだけどさ

 

 

 そしてその帰り道、他愛の無い話をしながらマンションに向かっていたところで……俺は白髪少女と遭遇してしまった

 

 

 あまりに急な出会いに一瞬思考が停止したぜ。だって曲がり角曲がったら目の前にいるんだもん。思わず白髪さんを凝視してしまったよ

 白髪さんは白髪さんで俺を見て目を見開いていた。その反応から察するに、別に待ち伏せをしていたとかではないと思う。……まぁ目を見開いていたのも一瞬の事だったけどな

 

 それからしばらくの間はお互いに沈黙が続いたんだ

 それもしょうがないってもんだ。いくら五河の知り合い同士だと言っても、俺と白髪さんが敵対していることには変わりない。そんな和気藹々と会話が始まる訳がないんだよ

 ただ……流石に無言が続くってのは結構辛いものがあるわ。場の空気が悪い状況なんて気まずい以外の何物でもないからさ

 ……正確には俺がジッとしていられないという方が正しいのだが……そんなのは今に始まった事じゃないので触れないでもらいたい

 

 因みに曲がり角を曲がったのはまだ俺だけだったので、白髪さんはくるみん達に気づいていないようだった。なので、俺は白髪さんから顔を背けずにくるみん達に合図を送る事にしたんだよ。——『ここから離れろ』的な意味合いを込めて

 こういった時、目が髪で隠れているってのは便利なもんだな。違うところを見ていても、相手からだとこちらが見ていない事に気づきにくいからね

 その為、俺の合図にくるみんが渋々肯定するのも確認出来たのだった

 いつものくるみんならASTを前にして俺だけを残して離れるようなことはしないだろうけど、今は俺だけではなくミクや七罪がいるんだよね

 俺やくるみんは除外するが、ミクや七罪はあまり目立って行動をしていないから目の前の少女やASTに精霊だと気づかれていないかもしれない。それを考えると、くるみんには二人をこの場から離脱させてもらいたかったんだよ。二人の平穏の為にもさ

 

 そうして三人を密かに見送った俺は、改めて白髪さんに視線を戻す事にした

 そこには先程と全く変わらぬ表情でこちらを見つめ——いや、睨んでくる少女の姿が。おお、怖い怖い

 ……え? なんでそんな余裕そうにしていられるのかだって? まぁ……そりゃーね、逃げようと思えば速攻で逃げられるからね

 【(ビナス)】万能説である。おそらく一番使ってるんじゃなかろうか? いつもお世話になっておりまする

 にしてもホント敵意丸出しだな。まるで親の仇を見るかのように涙ぐみながら睨んで——

 

 「——って、ちょ、どうした急に!?」

 

 「……貴方には関係ない」

 

 「いや目の前で急に泣かれて関係ないとか言われても——」

 

 「泣いてない」

 

 「え、でもそれ——」

 

 「ただの欠伸」

 

 「全くの無表情なんですけどもぉ!?」

 

 一向に涙を流していることを認めない白髪さん。泣いてない事を肯定する為か流れた涙を拭きとろうとする素振りを見せない辺り、あまり触れてほしくない事なのだろうか?

 

 「……〈アビス〉」

 

 「俺には千歳っていう名前があるんだけどなぁ……」

 

 「……なら、千歳、貴方に聞きたい事がある」

 

 これには流石に驚いた。何せ、他人に頼み事をするときのような振舞いを精霊に対して行ったのだから

 まさかの事態に再びフリーズする俺氏。だって精霊絶対殺すウーマンみたいな子が精霊の名前を呼んだんだぜ? 明日は雪でも降るのではなかろうか……

 まぁいいや。あまり深追いしたくはないと思ってたけど、この際やれるところまでやってみっか。もしかしたら白髪さんを説得出来——いや、それはなんか無理そうな気がする

 

 「……とりあえず、さ。場所を移動しないか? 話すにしてもゆっくりと話せる場所の方がいいと思うんだけど……」

 

 「わかった。ついてきて」

 

 「え、ちょ、おまっ——って痛い痛い痛いッ!? めっちゃ痛いんだけど!?」

 

 とりあえず敵意は(多分)無さそうだったので、彼女の聞きたい事とやらに答える事にした。穏便に済むんならそれに越したことはないからな

 そして俺が落ち着いて話せる場所で話そうと提案すると……何故か白髪さんは俺の手首を掴んで何処かに連れて行こうとする。思っていた以上——てか予想外すぎる握力に俺の手首が軋んでいた気がするけど……白髪さんって人間だよね? なにこの馬鹿力、冗談抜きで骨が折れるかと思ったんだけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——そして現在、俺は白髪さんの部屋で彼女と対面しております

 うん、白髪さんの部屋だ。マイルーム、自宅、本拠地などなど、いろいろと言い方があるけども……これだけは言わせてくれ

 

 

 ……ここは要塞か?

 

 

 何なんだよこの部屋。くるみんの魔改造部屋に勝るとも劣らないぞここ

 赤外線センサーに催涙ガス、挙句の果てには自動追尾歩哨銃(セントリー・ガン)と、侵入者向けトラップの数々に言葉を失ってしまったぜ

 しかも設置数が尋常じゃねぇ。軽く数十挺は配置されてたぞ? 対空き巣にしてはやりすぎだと思うのは俺だけじゃない筈だ。下手すりゃ死人が出るぞこれ……

 ……え? なんでそれがあるのに気付けたのかって? いやさ、態々部屋に連れ込むぐらいだから何かあるのかもと思ったんだよ。それで念のために【(ティファレス)】で部屋の中を見たら……このありさまだ。精霊じゃなかったら震えが止まらなくなってたところだぜ。ははは、笑えねぇ

 因みに、それらのトラップは俺が部屋に入る前に白髪さんが機能停止にしてくれました。どうやら誘いこんで蜂の巣にする気はないようです。待ち伏せとかもないみたいだし、本当に話を伺いたいだけっぽい

 

 そして部屋のリビングに招かれてた俺が、改めて白髪さんに何の用事なのかを聞くところで冒頭に戻る訳だ。出来ればこんな物騒な部屋からさっさとオサラバしたいので早々に話を終えたいですハイ

 俺の問いかけに一旦黙り込む白髪さん。聞きたくても聞きにくい事なのだろうか? 態々精霊の俺に話を持ち掛ける辺り、余程複雑な事情なんだろうと予想してみる。……あ、これフラグになってない? なってないよねコレ?

 

 「……〈イフリート〉」

 

 「うん?」

 

 白髪さんの返答を待っていると、ボソリと呟くようにその言葉を漏らした

 〈イフリート〉…………確か五河妹の識別名だったっけか?

 つまり、白髪さんは五河妹について話を聞きたいという事だろうか? ……もしや、五河を手に入れる為に外堀から埋めていくということか!? 五河妹に「義姉ちゃん」と呼ばせることで五河に逃げ道を作らせないようにする為に俺に話を聞きに——

 

 ——あれ? それならなんで態々俺に聞きにくるんだ? 五河妹がどんな子なのかなんて、俺はそこまで知らねーぞ?

 そもそも五河妹の事を〈イフリート〉って呼ぶのにもなんか違和感がある。五河の妹に対して態々識別名で呼称するだろうか?

 まるで五河妹が〈イフリート〉だと気づいて————あ、もしかして気づいてないのか? むぅ……まだ話が見えないな。とりあえずここは聞く事に専念しよう

 

 「……貴方は、あの屋上で〈イフリート〉に襲われていた」

 

 「あー……まぁ、そうだな」

 

 「なら、貴方は〈イフリート〉の事を知っている筈。お願い……〈イフリート〉の事を教えてほしい」

 

 「…………」

 

 白髪さんは、俺から情報を得るためだけに——頭を下げてまで懇願してくるのだった

 ……もう、驚く事がありすぎて驚けないわ。敵視している精霊に頭を下げてまで、彼女は五河妹——正確には〈イフリート〉の情報が欲しいのか

 とりあえずここまでで分かった事は、この様子からして白髪さんは五河妹が〈イフリート〉だって気づいていないってことだろう。もしも正体がわかっているのなら、態々俺に話を聞こうとはしない筈だからな。下手すりゃ今頃五河家に乗り込んでいたレベルだ

 となると、彼女は今〈イフリート〉を探しているってことになるな……もうちっと探るか。あまり憶測だけで決めたくはないしね

 

 「……屋上で見たんじゃないのか? あの時、お前さんもいただろう?」

 

 「…………」

 

 「見れなかった、のか。そういや気絶してたんだっけ……」

 

 不意に思い至った疑問を投げ掛けたところ、白髪さんは苦虫を噛み潰したかのような表情を作った。その表情は、あの場で〈イフリート〉の素性を知ることが出来なかった事に対して悔いている感じがする

 あまり意識は回せなかったけど、確かに彼女を避難させるために【(イェソス)】で転移しようとしたときには、既に彼女の意識はなかったっけなぁ……きっと屋上にくる間に体力を消耗しちまったんだろう。そりゃあ知りたくても知れなかった訳だ

 

 そんな苦々しい表情をしてまで——精霊である俺に聞こうとしてまで、〈イフリート〉の事を知りたがる彼女の目的が……俺は気になってしょうがなかった

 

 

 だって、〈イフリート〉の話題が出た辺りからずっと————胸騒ぎがしてしょうがないんだ

 

 

 嫌な予感がする。今までなら可能性としてあり得るとしか考えず、頭の片隅で考えないようにしてきた……そんな、嫌な予感がして止まなかった

 そんな嫌な予感を頭の隅に押しやり、俺は彼女が何の目的で〈イフリート〉に——五河妹に迫っているのかを聞く事にした

 

 「……なんで、お前は〈イフリート〉の事を知りたがるんだ? それを教えてくれたら……教えてやる」

 

 「…………」

 

 彼女に何かしらの事情がある事はもうわかりきっている

 しかし、何を目的にしているのかもしれない奴に友人の妹の情報を渡す訳にもいかないだろう

 だから俺は、あえて情報を教える事を条件に相手の目的を聞き出す事にした。勿論内容次第では五河妹の事を話さずに速攻【(ビナス)】で退散させてもらう。例え五河の知り合いであろうとも、俺が話していいものとそうでないものがあるからな。俺が話したせいで事態を悪化させたくなんてない

 

 

 そんな思惑を胸に秘め、俺は白髪さんの言葉を待つ

 

 

 そして、彼女から放たれた言葉に——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「——復讐の為」

 

 

 

 ——俺は、覚悟を決めた

 

 

 

 

 

 

 

 ————————————

 

 

 

 ————————

 

 

 

 ————

 

 

 

 

 

 

 

 私は、精霊が憎い

 両親を死に追いやったあの精霊が、世界を滅ぼさんとする精霊達が憎くて堪らない

 ”あの日”から私は精霊を殺す事を自身に誓った

 ”あの日”から今日まで、私はその為にやれることをやってきた

 自身に鞭打ち、感情を殺してまで磨いてきた知識と経験によって、今の私は出来ていた

 全てはあの精霊を殺す為に。——そして、私のような者が生まれないように

 私は精霊を殺す。それだけを目的に今日まで戦ってきた

 

 今日()()、戦ってきたのだ……

 

 

 

 

 

 「……復讐、ねぇ」

 

 今、目の前にはその倒すべき存在がいる

 識別名〈アビス〉。総合危険度S。人の心を蝕む精霊

 最近は落ち着いた方だが、当時は多くの被害を出した

 最長で約一ヶ月、問答無用で昏睡させる能力を持つ

 更に、それ以外にも複数の能力が確認されている

 

 

 そんな危険極まりない存在を前に……私は、自身の目的を明かしていた

 

 

 何故。私は精霊を殺す事を目的にしていた筈だ

 目の前にその目的がいる。すぐさま殺しにかかるべきだろう

 それなのに……何故————

 

 

 何故私は——彼女を前に()()()()()()()()()()()()

 

 

 僅かに残っていた人並みの感情。それは”あの日”、()()()()()()()()()私を救ってくれた”彼”にのみ向けられていた筈だった

 しかし、あの精霊——夜刀神十香とこの精霊——千歳が現れてからと言うもの、私の中で何かが変わり始めている

 

 

 以前に比べ、精霊に向ける憎悪が微かに薄れてきているのだ

 

 

 精霊に対する激しい憎悪で覆いつくされていた筈の私

 それが今、こうして精霊に頼みごとをするまでに至っている

 精霊を殺したいが為に、精霊に助力を申し出た私

 矛盾している。殺すべき精霊に対して私は一体何をしているのだろう?

 あの精霊を殺したいのか? 全ての精霊を殺したのか? それとも……私は、気づかぬうちに()()()()()()を持ってしまったのだろうか?

 

 「……なぁ、一つ聞いていいか?」

 

 「……何」

 

 目の前にいる彼女がおもむろに問いかけてきた

 彼女は先程まで気の抜けたような態度を取っていた。おそらくは早々に立ち去りたいとでも考えていたのだろうけど、それにしては気を抜きすぎているのではないだろうか? 私が彼女にとって敵であることは彼女自身も知っている筈なのに……それにも関わらず、彼女から敵意と言うものが感じられない

 

 しかし、私が彼女に私の目的を告げた瞬間——空気が変わった

 

 姿勢はそのままだ。しかし、身に纏う雰囲気が先程とは打って変わって変化している。流されるがままに力を抜いた雰囲気から——周囲を注意深く警戒するかのような、剣呑な雰囲気に

 身震いがした。気をしっかりと持たなければ体が震えてしまう程の重圧を、私は彼女から感じとっていた

 先程まで見せていたお気楽な様子など最早見る影もない。今や彼女は——敵を前に臨戦態勢を取る将のそれと何ら変わりない

 

 

 それなのに……何故彼女は()()()()()()()()()

 

 

 私の事を警戒はしている。しかし、一向に構えようとしない

 雰囲気は変わった。しかし、危害を加えるような雰囲気は感じられない

 わからない。彼女が一体何を考えているのか……私にはわからなかった

 

 一部の同僚達をあのような目に合わせておきながら、悪びれもせずに街中を闊歩する彼女。そんな彼女の言動からは、やはり精霊は碌でもない存在なのだという事を再認識させる

 

 ……しかし、ならばあの行動は一体何なのだろうか?

 〈ハーミット〉を前に見せたあの態度。子供をあやすかのように抱擁し、自身の不甲斐無さを悔いながら懺悔するあの姿は……

 人を欺くための自作自演とは思えなかった。そうでなければ……これほどまでに私の心を揺さぶることはないだろう

 私は彼女達の姿を見ていられなかった

 殺したい存在であるにも関わらず、その光景を目にした瞬間——私は精霊を殺す事に躊躇いをもってしまったのだ

 今まで積み重ねてきた努力を、苦悩を、誓いを否定せんとするその意志に、私は堪らずあの場を逃げ去っていた

 不甲斐無い。あんなものを見せつけられただけで心が揺らぐなどあってはならない。自身の未熟さに目尻が熱くなる

 そうだ、私は精霊を殺すのだ。何があっても殺すのだ

 例えどんな危険を冒したとしても、私は精霊を……殺さなければいけない

 それがきっと……きっと————

 

 

 

 「復讐した後の事は考えてんのか?」

 

 

 

 ……………………え?

 

 

 

 「お前が復讐したいのはわかったさ…………それで? 復讐を成した後は何をしたいのか……お前は決めてるのか?」

 

 「何を……」

 

 何を……言っている?

 彼女は一体、何を言っているんだ?

 

 「……はぁ、お前復讐する事しか考てなかったのか? 全く持って勿体ない事を……」

 

 「……言っている意味がわからない」

 

 「そりゃーわからないだろうな。()()()()()()()()()()()()お前にはよ……」

 

 「っ……何が言いたい」

 

 彼女の言っている意味がわからない

 彼女が何を言いたいのかがわからない

 ただ……途方もなく、彼女に対して苛立ちが沸きあがってくる

 要領を得ない話し方に、私は無意識ながらに拳を握り締めていた

 無駄な話はしなくていい。すぐさま〈イフリート〉の情報だけ教えて目の前から消えろ。そう怒鳴り散らしたくなる程、私の感情は荒ぶり始めていた

 

 そんな私の気持ちも知らずに——彼女は爆弾を落としてくる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いつまでも()()()()()にこだわってねーで、さっさと前を向け馬鹿たれが」

 

 

  ——ガタンッ!!

 

 

 気づけば私は目の前にいる精霊を押し倒し、その額に懐に忍ばせていた拳銃を突き付けていた

 

 こいつは——こいつは言ってはいけない事を言った……ッ!

 

 八つ当たりだと? 両親の仇を討つことが……これ以上私のような被害者が現れないようにする為の行いがただの八つ当たりだと言うのか……ッ!?

 ふざけるなッ!! 貴様に何がわかる!! 大切な人達を理不尽に奪われた者達の気も知らずに、知った風な事を宣うんじゃない!!

 

 私は彼女を今にも殺さんとする勢いで拳銃を握り締めた

 おそらく私は憤怒の形相で彼女を睨みつけているのだろう

 こちらの事情も知らずに宣う彼女の言葉に、押さえつけていた感情の波が決壊する

 殺したくて堪らなかった。今や両親の命を奪う()()()()()()あの精霊以上に、目の前の存在が許せなかった

 この五年間、両親の仇を討つために積み上げてきたものを無遠慮に汚す行いをした彼女に、私は殺意に満ち溢れた激情を抱く

 その感情のままに、私は目の前の彼女に向けて銃口を向け——

 

 

 

 引き金を————引くことはなかった

 

 

 

 「……今、お前は俺を殺したくて堪らねーんじゃねーか?」

 

 「——っ!」

 

 一瞬……ほんの一瞬だけ浮かび上がった疑問に気づいた瞬間、私は引き金を引く事を躊躇ってしまった

 

 今……私は彼女を殺そうとした

 それに間違いはない。精霊である彼女を殺す事は、私の目的の一つであるのだから

 ……しかし、だ

 今私が彼女を殺そうとしたのは……両親の為だっただろうか? 被害者の為だっただろうか? 世界の為だっただろうか?

 

 ————いや、違う

 

 

 

 私は……彼女の言葉に苛立って殺そうとしたんだ

 

 

 

 「……前によ、お前が五河を撃っちまった時があったじゃん?」

 

 拳銃を額に突き付けられているのも関わらず、彼女は気にした素振りを見せずに語り掛けてくる

 

 その内容は——あの日、私が夜刀神十香を狙撃しようとして……夜刀神十香を庇う様に士道が身を挺した時の事だった

 

 あの日の事は今でも夢に見る

 原因はわからないが、士道は今も生きている

 しかし、もしもあの場で士道が死んでしまっていたとしたら? ——そんな悪夢を、夢に見る

 人の命を殺めてしまった。それも私に取って最も大切な存在である彼をだ

 

 まるで私が——両親の命を奪ったあの精霊と同じように思えて、目の前が真っ暗になっていく

 

 言ってしまえばトラウマだ。銃を持っているときに彼が現れると、毎度の如くあの時の光景を思い出してしまい、手が震えてしまう

 任務中はそのような事がないよう努めてはいるが、もしもまたあのような状況が起きてしまえば……次は、耐えられる気がしない

 

 そんな私に取って忘れたくも忘れ難い——いや、きっと忘れてはいけない記憶を、彼女は掘り返して来た

 何故今更あの時の話を持ち出して来るのか? その理由は——次の彼女の言葉で思い知らされることになる

 

 

 

 「あの時な……俺や十香はお前や他のAST、挙句の果てには世界が——憎くて憎くて堪らなかった」

 

 「——ッ!?」

 

 

 

 振り返る様にして紡がれた彼女の独白によって……彼女が何を言いたいのかを私は理解する

 理解……してしまった

 

 

 「五河が死んだと思った俺と十香は、世界に対して激怒した。世界が精霊を否定するとしても、あんな手段を取ることはないだろう? 例えお前に士道を撃つ気が無かったとしても……納得出来なかったんだ」

 

 

 あの時の彼女と夜刀神十香は……”あの日”の私と同じだった

 

 

 「だから暴れた。五河が死ぬ原因を作ったお前等(AST)を殺したくて堪らなかった。こんな理不尽な運命を課した世界が気に入らなかった。だから——五河の仇を討つために、俺と十香はASTに”復讐”したんだ」

 

 

 理不尽に奪われ、命を落とした大切な人の為に復讐する

 

 

 「……でもな? 例えの誰かの為に復讐すると大義名分を取り繕ったところで——」

 

 

 しかし、私がどれだけ両親の為、世界の為に復讐する事を誓ったところで——

 

 

 

 

 

 「——それは、ただ自分自身が気に入らない結果に対して憂さ晴らしをしたかっただけに過ぎないんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「…………」」

 

 ……いまだに私は彼女へと銃口を突き付けている

 しかし、今の私にはもう引き金を引く程の余裕はなかった

 

 復讐は……ただの八つ当たり

 大義名分を取り繕っただけの憂さ晴らし

 

 確かにそうとも言えるだろう

 別に私は両親から「仇を討ってほしい」と頼まれた訳ではない。私が一方的に誓いを立てただけであって、それは両親が願った事ではない

 ならば何故私は仇を討とうと……復讐しようと考えたのか?

 

 それはただ……私が精霊に苛立ちをぶつけたかっただけに過ぎなかったからなのでは?

 

 もしもそうだったとしたら、今まで私が積み重ねてきたものは……精霊に八つ当たりする為だけに積み重ね上げてきたものでしかない

 両親の為ではなく、世界の為ではなく、ただ単純に……私が抱いた憎しみをぶつけたいだけに過ぎなかったのだ

 

 「……よく聞く話に”復讐は空しいものだ”って言うのがあるだろ? それってよ……復讐する為に費やしてきた時間が、復讐を成したことで軽いもんになっちまうからなんじゃねーかって、俺は思うんだよ」

 

 「……何故」

 

 「そんなん目的を成した事で不要になっちまったからだよ。例え復讐を成したところで、得られるのは()()()()()だからな」

 

 例え復讐したところで両親が帰ってくる訳ではない

 精霊を一体残らず殲滅すれば、世界は精霊の脅威に脅かされることはなくなるだろう。……しかしそれは私の復讐に当てはまらない。あの精霊を殺すに至るまでの成すべきこと——過程でしかないのだ

 

 「お前は復讐以外にも目的を持った方がいい。復讐に捕らわれすぎた奴ほど……親不孝な奴はいないからな」

 

 「……え?」

 

 復讐を生きる目的にしていた私の価値観が、彼女の無遠慮な言葉によって覆されかけていた時に突き付けられた言葉に……更なる衝撃が私を襲った

 親不孝? 両親の仇を討つために復讐しようとしている行為自体が親不孝な事だとでもいうのか?

 そんな私の疑問を……彼女は淡々と告げてくる

 

 「お前がどうかは知らないけどよ……普通の親なら自分の子供の幸せを第一に祈る筈だろ? お前は——鳶一折紙は、親御さんに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 どんな子に……育ってほしい……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『——いつまでも、その愛らしい笑顔を絶やさず……幸せになってほしい』

 

 

 

 「——————ぁ」

 

 

 

 彼女の言葉に、古き記憶が蘇る

 今や聞く事が出来ない声が、私の脳裏に優しく響いてくる

 思い出されるのは五年前以前の記憶。両親がまだ私の隣にいてくれた頃の記憶だ

 その懐かしい記憶はとても温かく、今までの日々によって荒れた私の心を癒していく。——それでいて、もうその温かさを感じる事が出来ない事実に悲しみが溢れてくる

 

 駄目だ、今ここでその感情が溢れきってしまえば……戻れなくなる

 

 この五年間、必死に積み上げてきたものが崩れ去ってしまう

 

 そうなってしまえば、私は……私はっ……!

 

 

 

 「……何を我慢してんだよ」

 

 「——っ、わ、たしは……」

 

 「はぁ……あのさ、別に俺は復讐をやめろだなんて言ってねーだろ?」

 

 「…………え?」

 

 私の感情が溢れかえりそうになったその時、彼女は不意に言葉を漏らした

 彼女の言葉に耳を疑う。何せその内容は……私の復讐を肯定する言葉だったのだから

 

 「復讐なんてただの八つ当たりだ。それなら——開き直って復讐してくればいいさ」

 

 「……私は〈イフリート〉に復讐しようとしている。〈イフリート〉は貴方の同族の筈、それなのに何故?」

 

 「復讐なんてやめろ。……って、俺がお前に言ったところでお前は納得しないだろ?」

 

 「当たり前」

 

 「ならお前の気が済むままに暴れてこればいいさ。俺は精霊を守る、お前は精霊を倒す。……単純にそれだけでイイじゃねーか」

 

 ……やはり、彼女が何を考えているのかがわからない

 最初は私の復讐を阻止しようとしていたのだと思っていた。しかし、今では復讐する事を促している

 彼女は他の精霊を守りたいのか? それとも危険に晒したいのか?

 わからない。私は……彼女の思考が全く予想できなかった

 

 言いたい事を言い終えたのか、彼女が纏っていた剣呑な雰囲気が霧散する

 そして、いつまでも彼女を押し倒している必要もなくなった為、私は拳銃を下げつつ彼女の上から立ち退くことにした

 何故そうしたのか? 精霊を殺す絶好のチャンスだったというのに、何故私は身を引いたのか?

 

 

 それは——私が彼女を殺す事に対し、”馬鹿馬鹿しい”と感じてしまったからだった

 

 

 こんなよくわからない奴を殺す為に五年間もの間、身を削ってまで努力してきたと考えると……納得出来ないものがあったのだ

 〈イフリート〉は別として、もしも他の精霊が彼女のような精霊だったとしたら? ……そう考えた途端、私の心に燃えていた復讐の炎が揺らいでいくような錯覚を覚えてしまった

 

 確かに精霊は空間震によって街を破壊し人を傷つけている。その圧倒的なまでの暴力によって、世界を滅茶苦茶にする

 だから精霊は殲滅すべきなのだ。どんな精霊かなど関係ない、精霊は世界にとって害悪でしかなく、私がこの手で葬らなければいけない

 私は精霊を殺す。そして、この世界に精霊によってもたらされる被害をなくす

 その決意は、誰になんと言われようが変わる事が無い……筈だった

 

 何故こうも彼女の言葉は私の心に響くのだろう?

 私の胸の内で燃え上がる復讐心が、彼女の言葉を耳にする度に揺らいでいく

 信頼などしていない。信用などしていない。寧ろ敵意を持っていた筈の彼女の言葉が……何故こうも心に響くのか

 不可解だった。まるで自分が自分じゃない様な、そんな錯覚さえ覚えてしまう

 

 わからない。彼女が一体何者なのか……私はわからなくなってしまった

 

 「——さてと、んじゃあ約束通り、〈イフリート〉の事を教えてやるよ」

 

 「なっ……」

 

 「ん? なんだよその顔。もしかして話さないとでも思ってたのか?」

 

 当たり前だろう。精霊を守ると言っておきながら、何故その守るべき精霊の情報を敵に教えようとしている

 ……………………まさか

 

 「……その情報を元に私が〈イフリート〉を殺した場合、貴方は……自身の失態に納得できるの? とてもそうは思えない」

 

 「んなもん守り通せばいいだけの事じゃねーか。例え不利な状況になったところで、最終的に守り切れば問題ないだろ」

 

 「自分が手を出せない状況に陥ったとしても?」

 

 「何とかするし、何とかなるさ。どんなに困難な事があったとしても、不可能なんてこたぁ早々ねーんだから、諦めなければどうとでもなる」

 

 あぁ…………そうか

 

 

 

 

 

 ——何も考えてないのか、こいつ

 

 

 

 

 

 道理でわからない筈だ。理屈で計ったところで、彼女に理屈なんて通用しない

 だって何も考えていないのだ。道理に当てはまる訳がないだろう

 

 彼女は何もかも自身の感情のままに動いている

 だから何をしでかすかわからない。常識の内に彼女は当てはまらない

 

 

 言ってしまえば——馬鹿なのだ。この精霊は

 

 

 「はぁ…………」

 

 「な、何だよ急に、そんな深いため息なんかついて……」

 

 「私の不幸は、貴方と出会った時から始まっていた……」

 

 「ちょ、マジで急に何なの!? 人を疫病神みたいに言うのやめてくれる!?」

 

 「貴方は精霊。人じゃない」

 

 「た、確かに俺は精霊だけども! それとこれとは別もんだろーが!!」

 

 「……厄霊?」

 

 「……なんか疫病神よりも嫌だなその呼称」

 

 彼女を見ていると、不思議と今まで抱えてきた苦悩がどうでもよくなってくる

 私と違って感情の変化が激しい彼女からは、悩みなど一切無さそうに感じられる。それはまるで——何にも囚われずに空を飛ぶ鳥のようだった

 

 そんな彼女に……私は羨望の念を抱いてしまう

 羨ましいと思った。何も悩む事が無く、自身の好き勝手に生を謳歌している彼女の姿が……憎たらしい程に羨ましく思えた

 馬鹿馬鹿しいと思ったのも、彼女が呑気にしているせいだ。その言動一つ一つが、私の心を惑わしていく

 腹立たしい。憎たらしい。恨めしくて仕方がない。正直彼女に八つ当たりをしたい。——そう考えてしまう程に、彼女の姿は私が羨むべきものに見えてしまった

 

 

 ………………もしも、だ

 もしも私が抱えている苦悩から、苦痛から、復讐心から解放された時————私は、彼女のようになれるだろうか?

 何事にも楽しそうに、思うがままに未来を掴むことが出来るだろうか?

 今や失われてしまったあの頃の私に……戻れるだろうか?

 

 

 

 両親と、そして——()()()()()()()()()()あの頃の私に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あー……すまん、ちょっと横になっていいか? さっきお前さんに押し倒された時、思いっきり腰をぶつけたみたいなんだ。痛みが引くまで休憩していいか?」

 

 「……勝手にして」

 

 ……前言撤回。全然羨ましくなんてない。こんな奴と同じになんて絶対になりたくない

 

 情けない表情をしながら腰をさすっている彼女を視界に映し、私は頭を抱えながら溜息を溢してしまう

 本当に……彼女と出会った事が私の運の尽きなのだろう。これほどまでに疲労を覚えたのはいつ以来だろうか……

 

 例え今彼女から〈イフリート〉の情報を聞かされたところで……最早私に復讐する程の気力は残されてはいなかった

 

 




折紙さんが最早オリキャラではないかと疑うレベル。……まぁ、こうなった原因がきちんとあるんですがね? 原因は勿論——彼女です
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