俺が攻略対象とかありえねぇ……   作:メガネ愛好者

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 心がぴょんぴょんするSSが書きたくなってきたんじゃ~
 ※ごちうさSS書きたい。そんでもって癒されたい。切実に。



 長らくお待たせしましてスイマセン。どうも、メガネ愛好者です。

 今回は難産でした。正直千歳さんメインじゃないだけでここまで書きづらいものなのかとビックリです。

 はい、そんな訳で今回のメインはシドー君です。……え? 前回のあとがきに千歳さんの秘密が明かされる的な事を言ってなかったかだって? あれはうs——あ、天丼は良いですかそうですかすいません。
 まぁアレですよ。あくまでも今章は琴里ちゃん攻略回ですからね。あまり詰め込み過ぎるのもどうかと思った次第で急遽変更しました。そうでもしなければ話数ががが……
 とはいえ、前回言った手前このまま暫くお預けと言うのも申し訳ない……よって! ここで朗報を一つ申し上げます!!





 次の章、千歳さん攻略回やで。(やっとか)


第六話 「俺信用されてない? 知ってる」

 

 

 ハプニングとはいつも唐突に起きるものだ。

 予想外のアクシデント。事前に回避する術はなく、予期せず起きてしまうからこそそれはハプニングと言えるのだろう。

 故に——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……で、何か言いたい事はあるかしら? 士道」

 

 「いやーははは、これには訳があってだな? 決して悪気があった訳じゃないんだごめんなさい」

 

 

 ——今回の事に関しては、決してハプニングとは言えなかった。

 

 

 オーシャンパークの一角で周囲から多大な注目を集めている集団がいた。

 そこまでの注目を集められる理由として、その集団にいる者一人一人が異なる魅力を放つ美少女達だったからだ。

 誰もが頭に”絶世の”や”傾国の”と称されてもおかしな話ではない美少女達で、そんな者達が水着姿を晒しているのだ。注目を浴びない訳がなかった。

 

 そしてその注目する民衆の中には、彼女達の事をよく知る者も含まれていたのが事の始まりだった。

 寧ろ含まれない訳がなかったのだ。彼等にとって、彼女達は特別な存在なのだから……

 

 

 

 その集団から少し離れた場所に、彼女達ほどではないにしろ注目を浴びている二人の男女がいた。

 青い髪の少年に赤い髪の少女。髪の色だけでも目立ちはするものの、彼らの注目はそれだけが理由ではなかった。

 

 「まぁ十香達の事は良しとするわ。どうせ令音辺りが手を回したんでしょうしね。……でも、なんで千歳までいる訳?」

 

 「そ、それはだな……俺達がデートしてる間、千歳が代わりに十香達の相手をしてくれるって話になって……」

 

 「はあぁ? あいつがぁ? あの現れる度に面倒事を確実に起こしていく傍迷惑女が十香達の世話ぁ? ……士道、貴方いつの間にそんな面白いジョークを口走ることが出来るようになったのかしら?」

 

 「いやジョークとかじゃなくて——」

 

 「あらごめんなさい。少し周りが騒がしかったのか、よく聞こえなかったわ。……もう一度言ってもらえるかしら。今、ナンテ?」

 

 「ナンデモアリマセン」

 

 笑顔を浮かべつつも額に青筋を浮かべている赤い髪の少女——五河琴里の問い返しに、少年こと五河士道は反論出来なくなってしまう。反論する事に命の危機を覚えたからだ。割とガチで。

 

 ……さてと。ではここで、何故二人に幾分かの注目が集まっているのかを説明しよう。

 とはいえ、簡単に言ってしまえばあの集団を見た琴里が事情を知っているであろう士道に問いかけているだけに過ぎなかった。——士道を床に正座をさせながらではあるが。

 琴里は休憩用のベンチに腰掛けている。そのスラリとした華奢な足を組み、その目の前で正座させている士道に向けて冷ややかな視線を向けている。それに顔を青くしながら小鹿のように震えている士道の何と情けない事か……それが周りの注目の原因となっていた。

 

 士道が正座をさせられているのにも訳がある。

 単純な話、”現状に琴里が不満を抱いた”……ただそれだけの話だった。

 無理もない。封印が目的とはいえ、己が好意を向けている最愛の兄と二人きりでデート出来る機会に恵まれたのだ。例え今の自分が()()()()()()()わからない状態だったとしても、それでも琴里は士道とのデートに幸福を見出していた。

 ——しかし、いざデートを初めてみればどうだろうか? 二人だけの時間だと思っていたのに、その行く先で知った顔の者達が遊んでいたのだ。それも士道に好意を寄せている者や、何をしだすかわからない要注意人物達がだ。

 見たところ二人のデートに介入する様子は見られない。きっとこちらの事情を知って距離を置いてくれているのだろうが……それでも彼女達が何故この場にいるのかだけは明確にしたかった。特に後者の者達に関しては、デートどころの話ではなくなる事をしでかす可能性があると琴里は考えている。何故いるかぐらいは聞いておかないと気が気では無い。寧ろ今にも感情が抑えられなくなってくるのだ。仕方ないじゃないか、だって精霊だもの。

 そう言った経緯で琴里は目の前で情けない姿を晒す愚兄を見下ろす事になる。その瞳はいつもより数倍冷たく感じたと後に語る士道なのだった。

 

 『いいですよーいいですよー士道君!! 誠もって羨ましい限りです!! これで今回のデートは大成功間違い無しですね!!』

 

 「何処をどう見たらこの現状を大成功だなんて言えるんですか……っ!! そう思えるのはあんただけでしょ!?」

 

 一方で士道は耳に取り付けたインカムから流れる神無月の言葉に対し、琴里に聞かれぬよう反論する。それと同時に琴里の機嫌をどうするかと名案を探るのだった。若干言葉が汚くなってしまったのは、この大事な局面でふざけているのかと疑いたくなるような事を口走っているから故仕方がないことだろう。

 

 薄々予想はしていたことだったが、やはりすぐにバレてしまった。水着に着替え終わった二人が合流したところで、既に着替え終わっていた十香達が無意識ながらに周囲の視線を釘付けにしていた事もあってあっさりとバレてしまった。故にこれは決してハプニングには入らないだろう。何せこれは、ただ粗末で穴だらけだった計画が早速頓挫しかけているってだけのことなのだから。先が思いやられる。

 

 とにもかくにもだ。今はこれ以上琴里の機嫌が悪くならないよう努めるべきであり、士道に悔いている暇など一切ない。現在の好感度がどのぐらいかはわからないが、行動しなければ何も始まらないのだから士道に後退の二文字は無かった。

 そして士道が無難にと琴里に謝罪を述べようとしたところで、士道は先に言葉を投げ掛けられることになる。

 

 「士道、一ついいかしら?」

 

 「ぅおう?」

 

 「……何変な声出してんのよ」

 

 「な、何でもない……コホン、何だ琴里?」

 

 暫くの間冷ややかな視線を送っていた琴里だったが、何か思い至ったのか唐突に士道へ問いかけたのだった。それによって出鼻を挫かれた士道は妙な相槌を打ってしまったしまった。それを誤魔化す為に咳払いをするも、今更誤魔化したところでどうにもならないだろう。

 

 「まぁいいわ。……ねぇ、士道」

 

 「な、なんだ?」

 

 さっさと話しを勧めたかったのか、琴里は適当に対応した後、改めて士道に問いかける。何やら神妙な顔つきで問いかけてくる琴里に、急にどうしたんだと士道は僅かながら緊張する。

 そして琴里は——前々から気になっていた疑問を士道に投げかけたのだった。

 

 

 

 「あんた、なんでそこまで千歳を信用出来る訳?」

 

 「——え?」

 

 

 

 琴里の言葉を、士道は少しの間理解出来なかった。

 士道は琴里の言葉を繰り返し脳内でリピートする事でようやくその言葉の意味を理解するものの、それでもわからなかった。何故琴里がそんな疑問を持つのかがわからなかったのだ。

 そんな疑問符を頭の上で浮かべていそうな士道に、琴里は呆れたかのように溜息をつく。

 

 「だってそうでしょう? まだ千歳とは数回程度しか会った事がないって言うのに、なんで千歳の事を全面的に信用してるのよ。今までの言動から何か私達に言えないような事があるのは明白なんだし、それが決して私達に優位に働くとは思えないわ。それなのに、なんであんたはそこまで警戒することも無く気軽に相手できるのかって聞いているのよ」

 

 「それは……」

 

 琴里の証言に対し、士道はすぐに答えを言うことが出来なかった。

 確かに琴里が言ったように、士道は千歳の事を深く知っている訳ではない。千歳にはまだ不明な点が多々あるし、そんな謎めいた彼女をすぐ信用出来るかと問われれば……普通は無理だろう。誰だってそんな怪しげな人物に関わりたがらない筈だ。

 しかし、士道は考えるよりも先に返答を返す事になるのだった。

 

 「まぁ……”千歳だから”としか言えないかな」

 

 「…………は?」

 

 「なんていうのかな……千歳が悪い奴だなんて思えないんだよ。確かに何かしら隠し事はあるんだろうけど、隠し事の一つや二つ、そう珍しい物でもないだろ?」

 

 「——っ、だからその隠し事が問題だって言ってるんでしょ!! 千歳は謎が多すぎる。感情優先に動くから何をやらかすか予測も立てられないし、まだあいつの天使だって明確に分かってる訳じゃないのよ!? もしも千歳が何か企んでて、その結果人類が滅びましただなんて笑い話にもならないわ!! そこのところ分かってんの!?」

 

 琴里は士道の返答に唖然とし、続く言葉に感情を爆発させた。

 何故士道がそこまで楽観視出来るのかがわからない。突き詰めれば不審点しか挙げられない千歳を、なんでそこまで受け入れているのかが琴里には理解出来なかった。それが苛立ちとなって表に現れ、気づけば声を荒立てるまでに血が上っていた。

 激情を晒す琴里の様子に士道は驚きを隠せなかった。まさか琴里がそこまで千歳を信用していないとは思ってみなかったのだ。

 士道が知る限り、千歳を好意的に見る者はそこそこ多い方だろう。士道は勿論の事、十香に四糸乃、詠紫音達は千歳の事を慕っていることが目に見えてわかる。〈フラクシナス〉のクルー達だって、千歳の問題行動に頭を抱えたりはするものの疑惑を持つような様子は感じさせなかった。

 確かに千歳を快く思わない者もいる。精霊に復讐せんとする折紙や、千歳に邪魔されたことで目的を成し得なかった狂三などは千歳を嫌っているか、苦手意識を持っているかもしれない。そういった人達がいる事は確かなのだ。だから士道は琴里が千歳に警戒心を剥き出しにしている事がおかしいとは思わないし、言わなかった。

 しかし、例え琴里が千歳を信用していないとしても——

 

 「確かに俺達は千歳のことを深くは知らないし、寧ろわからないことの方が多いと思う。……それでも、千歳は信用出来るよ」

 

 「一体どこから来るのよその自信は!! 何の根拠もないのに、どうしてそんなこと——」

 

 「言っただろ、千歳だからだよ」

 

 琴里が言う様に、士道がに根拠や確証なんてなかった。それでも千歳の事を信頼できるのは……一概に”そう思ったから”としか言えなかった。

 士道は千歳と話し、関わり合っていく内に千歳がどういった性格なのかを直感的に読み取っていた。

 結論から言うと、千歳は自分に正直な少女だ。自分の心に素直に生き、嫌なことは嫌だとハッキリ言うような性格だと士道は感じていた。その為、士道の目には千歳が何かを企んでいる様には——企むような精霊には見えなかった。

 

 「千歳は理由も無く暴れまわるような奴じゃないと思うんだ。確かにやりすぎる事はあるかもしれないけど……最後の一線を越えないようにしてるのはわかる。被害にあったのだってASTの隊員達だけだし、結果的には命を絶つような事をしてはいないじゃないか。昏睡した人達も今は全員目を覚ましてるんだろ?」

 

 「それは……っ、でも、あいつの力で眠らされたASTの奴等には後遺症が——」

 

 「その点はこう考えられないか? 後遺症が残ってるのは、自分や他の精霊達が襲われるのを防ぐか、抑える為だったって」

 

 「……え?」

 

 「精霊だからって言う理不尽な理由で襲われたから、自分の身や他の精霊達を守るためにあの力を使ったのかもしれない。「次に襲い掛かって来たときは覚悟しろ」って感じでさ? ある意味千歳なりの警告だったんじゃないかって俺は思うんだ。そうでもないと、千歳があんなことをするとは到底思えないからさ」

 

 「っ……」

 

 士道の言い分を聞くうちに、琴里は徐々に落ち着きを取り戻していった。

 琴里とは異なり、士道はあくまで冷静に対応した。こっちまで焦りを見せていたら収拾がつかなくなるだろうし、興奮した相手に刺激を与えては益々悪化するだろうと考えたからだ。それが効果的だったのか、琴里が落ち着きを取り戻すまでにさほど時間は要しなかった。

 しかし、あくまでも千歳を弁護する士道の言葉に、琴里は納得がいかなかった。あくまで琴里が抱いたことだが、士道が自分よりも千歳を優先しているようで腹が立ったのだ。だから琴里は頑なに千歳に拒み続けようとするのだった。

 

 「……あれが本性かもしれないじゃない。他人の事なんてどうでもよくて、特に目障りだったASTを再起不能にしたかっただけなのかもしれないわ」

 

 「それはないだろ。周囲の被害を顧みないような奴だったなら、あの時……学校で狂三が結界を張っていた時に学校の皆を避難させたりなんかしないだろ? ASTの事だって再起不能にしたいんならずっと昏睡させたままでいればいいし、それが駄目なら駄目で千歳なら直接殴り込みに行くと思う。少なくとも、千歳は下手な小細工を打つような奴じゃないだろ」

 

 もしもこちらに何かしらの危害を加えるつもりであるのなら、千歳は回りくどい事をせずに正面切ってぶつかっていくことだろう。難しい事など考えず、単純明快に物事を進めていく……それが千歳と言う精霊なんだと士道は語る。

 

 「……なんでよ」

 

 「うん?」

 

 「なんで……そこまで信じられるのよ。なんで疑わないのよ。確証も根拠も情報も無いのに、どうしたらそこまで……自信を持ってそうだって言えるのよ。私には全然、理解出来ないわ……」

 

 「…………」

 

 いくら琴里が否定しても、士道は千歳を肯定し続けた。

 別に琴里が間違っている訳ではない。寧ろ一般的な視点で見るのなら、琴里の主張は正しくあった。

 そこまで交友を持たない相手の事を、簡単に信用出来るほど琴里はお人好しではない。それはこの世界に生きる人間達のほとんどに言えたことであり、最初は誰だって相手を警戒している筈だ。——その「警戒する」と言う工程を飛び越え、少しの時間で相手を信用してしまうにまで至るのが士道と言う人間だった。

 それはただ単純に何も考えていないのか、それとも人を見る目があるからなのかはわからない。しかし、それが命取りになるかもしれない以上は看過できるものではないだろう。故に琴里は士道が時折見せる大胆さに肝を冷やすことになる。

 今回もそうだ。もしも千歳が士道の言った通りの精霊ではなかった場合、一番危険に晒されるのは間違いなく士道なのだ。士道の身に何かあってしまえば事実上〈ラタトスク〉は成り立たなくなるし、何より——実の兄の身を誰よりも案じる琴里にとって、そんな事態は最も堪えがたいものだった。想像さえしたくもない。

 普段から気丈に振舞い司令官としての任に就いているとしても、中身はまだ中学二年生の少女であり、五河士道の妹なのだ。いつだって士道の事を心配しているし、士道が危ない目に合う度に気が気じゃない想いに翻弄されている。例え自身の力によってある程度の怪我なら治ると言っても、士道が傷つくことには変わりないのだから、それを見せられて動揺するなと言うのは流石に理不尽というものだ。

 簡単に死なない事はわかってる。自分の能力だから、ある程度の危険なら士道は大丈夫だと頭ではわかっている。しかし……心まではそうも言っていられなかった。

 十香を庇って狙撃された時、こちらの指示も聞かずに四糸乃の元に向かった時、狂三が今にも士道を殺そうとしていた時……琴里は目の前が真っ暗になりそうだった。心臓が鷲掴みされたかのように苦しく、あまりの恐怖に体が硬直してしまっていた。それでも気丈に振舞えたのは、司令官として醜態を見せられなかった……訳じゃない。ただ……今の琴里(黒いリボンの私)で弱い自分を出す訳にはいかなかったのだ。一度でも出してしまえば、自身に施した”自己暗示”の効力が無くなってしまいそうだったから……

 そして今も、琴里は弱いところを見せる訳には行かなかった。あの琴里(白いリボンの私)では……とても耐えられる状況じゃないからだ。心境的にも、()()()()()

 

 そんな琴里が士道の主張によって徐々に顔を俯けていった。

 その時の琴里の声はあまりにも弱弱しく、思わず士道は目を疑った。今目の前にいるのがあの状態(司令官モード)の琴里だとは思えない程に弱っていたのだ、目を疑っても仕方がなかった。

 琴里がそうなった原因はわかってる。いや、今の今まで話していてわからないとは流石に言えないだろう。その為、士道は次に口にする言葉を慎重に選ばなければいけなかった。

 

 「琴里」

 

 「……何よ」

 

 一旦呼吸を整え、改めて琴里に話しかける士道。琴里は返事だけ返し、今も尚顔を俯けている。そんな琴里に、士道は————提案した。

 

 「一度千歳と二人きりで話してみろ」

 

 「…………は?」

 

 士道から出された提案に琴里は唖然とした。思わず顔を上げてしまう程に動揺を見せたのだった。

 一体士道はどうしたというのか? 急に千歳と話せなど……それも二人きりでなど、何の意味があるというのか? 琴里はすぐに理解することが出来なかった。そんな琴里の疑問を士道は解いていく。

 

 「千歳の事がわからないんだったら、直接千歳に聞きに行けばいいじゃないか。例え千歳が何を隠しているのかがわからなくても、千歳がどういった奴なのかがわかると思うぞ」

 

 実に簡単な事だった。

 知らないのなら、知る為に行動すればいい。わからない事があれば誰かに聞くように、千歳の事がわからないなら本人に直接聞きに行けばいいと言っているのだ。それに対するリスクなんて考えず、愚直に進めばいいと士道は言っているのだ。それはまるで——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あのさ。別に話が盛り上がるのはいいんだけど、人の名前で騒ぐのはやめてくれねーかな?」

 

 「「————」」

 

 最早二人だけの空間となっていたその場に突如として響いた凛々しい声。二人はその声に反応して発信源へと顔を向け——硬直した。

 そこにいた者は先程の集団にいた内の一人だった。片手にペットボトルを持ち、ばつの悪そうな顔を浮かべながら二人の横に立っている深緑色の髪の少女。

 そんな彼女の正体は……先程まで二人が口にしていた人物だった。

 

 「——ち、千歳!? 何時からそこに——ッ」

 

 「少し前。喉が渇いたのとお前等のデートが順調かどうかをこっそり覗こうとしたのがきっかけだ」

 

 千歳の来訪に慌てふためき始める士道に硬直から戻らない琴里。あまりに急な事だったせいで二人の理解は追いついていなかった。

 そんな二人に一旦落ち着くよう言い聞かせた千歳は、二人がある程度落ち着いたところで話し始めるのだった。

 

 暫くの間プールでくつろいでいた千歳は、少し喉が渇いたので一旦プールから上がる事にした。そして千歳は飲み物を買いに行っている間、十香達の様子は駆瑠眠達に見てもらう事にして近くの自販機に飲み物を買いに行ったのだという。

 そして自販機で飲み物を買った千歳が駆瑠眠達の元に戻ろうとしたその時、視界の端で何かを言い争っている士道達を千歳は確認するのだった。

 最初は二人に何かしらのトラブルがあったのかと不安に思い、少し近づいて聞き耳を立ててみる事にした。別にそこまで険悪な内容でなければ千歳が介入する事も無かったのだが……

 

 「内容が俺のことだったからさ……その上、俺のせいで二人が険悪になってるとか申し訳なさすぎるだろうが。今日はお前等二人のデートなんだろ? どっちから話を切り出したかは知らねーけど、デート中に部外者の話で盛り上がるどころか仲を悪くするなっての」

 

 「す、すまん……」

 

 「ふん、何よ偉そうに。元はと言えばあんたが——」

 

 「あー待った待った。五河妹が何を言いたいのかはわかってるよ。……でも、今はその事で時間を取ってる余裕はないだろ?」

 

 「っ……」

 

 自分のせいでデートが上手くいっていないと知った千歳は見て見ぬ振りが出来ずに介入する事にしたようだ。せっかくのデートを言い争いで終えるなど士道達も望んでいないだろうし、何より時間がない。いつまで琴里が霊力を抑えていられるかわからない状況なのに、余計な時間を割くなど愚の骨頂だ。

 そう改めて指摘された士道はぐうの音も出ず、琴里も反論しようとしたが千歳の言葉であえなく口を閉ざす事になった。

 

 「説教みたいになってすまねーとは思ってるし、理由はどうあれお前等のデートに首を突っ込んじまったのは謝るよ。ただ……頼むからさ、目的は見失わないでくれ」

 

 それを最後に千歳は二人の前から立ち去ろうと踵を返した。これ以上時間をかける必要は無いし、何より元を辿れば千歳のせいで琴里は霊力を取り戻してしまったのだ。今の琴里にこれ以上の刺激を与えては抑えられるものも抑えられなくなってしまうかもしれない。正直言って、介入するかどうかも結構悩んだりしたぐらいだ。

 とにもかくにも千歳の要件は済んだのだから、いつまでも二人の傍にいる訳にもいかないだろう。だから千歳は早々に立ち去ろうとしたのだが……その際に一言、琴里に向けて千歳は言葉を残すのだった。

 

 「あー……そう、だな。もしよければなんだけど、五河妹の都合がいい日でいいからさ……お互いのこと、話し合わないか?」

 

 「……え?」

 

 「いやさ。今回の事で結構な迷惑を欠けちまったし、その事で謝りたいとも思ってたし……まぁそういう事だ。それじゃ」

 

 一方的に話を区切り、千歳は今度こそ立ち去って行った。そんな彼女の後ろ姿を琴里は呆然と見つめ、今言われたことの意味を脳内で理解するのだった。

 

 「なんで……」

 

 何故千歳は自身と話し合いたいなどと言ったのか、それが琴里にはわからなかった。先程士道が言ったことを聞いたからなのかもしれないが、それを馬鹿正直に承諾するもの…………”馬鹿正直に”?

 

 「——あぁ、そう。そうなの」

 

 「どうした琴里?」

 

 「何でもないわ。それよりも、行くわよ士道」

 

 「は? 行くってどこに……」

 

 何かに納得した琴里は士道の返事を待たずに歩き始める。その後を追う士道だが、琴里の急な行動に戸惑いを隠せなかった。

 そんな士道に対し、琴里は一言だけ告げるのだった

 

 「そんなのもわからない訳? 私達は今、何をしてる途中なのかしら?」

 

 「——っ! ……そうだな、そうだったよ」

 

 琴里の言葉にハッと気づいたかの反応を示した士道は、改めて自分のやるべきことを再認識した。

 千歳が言ったように、今は言い争っている場合ではない。もっとやるべきことがあるのに、いつまでも立ち往生している訳には行かないだろう。

 

 士道はおもむろに琴里の手を握る。

 それに琴里がピクリと反応するも、振り払うような真似はしなかった。寧ろ自分からも握り返してた。

 

 「行こうか、琴里」

 

 「えぇ。——さぁ、改めて私達の戦争(デート)を始めましょう。士道」

 

 

 

 

 

 

 

 ————————————

 

 

 

 ————————

 

 

 

 ————

 

 

 

 

 

 

 

 千歳は士道達の前から立ち去った後、再び自販機の前まで来ていた。

 先程買った飲み物を飲み干したのでペットボトルを捨てるのと、戻るついでに駆瑠眠達にも飲み物を買って行ってやろうと考えての行動だった。

 

 「…………」

 

 自販機に硬貨を入れ、何がいいかと飲み物を選び始める千歳。——そんな彼女の様子は、何処か心ここに在らずな状態だった。

 

 「”千歳だから”……か」

 

 千歳は先程耳にした内容を思い出す。

 途中からだったものの、断片的に聞き取れた内容から千歳は士道達が何を言い争っていたのかを察することは出来ていた。

 千歳は二人の会話の内容を正しく理解する。琴里が千歳を疑っていること、そのことを士道に忠告していること、そして——

 

 「なんか……嬉しいな」

 

 そんな琴里の疑いを晴らそうと士道が弁護してくれていたこと。その全てを千歳は聞き取っていた。

 

 口から紡がれる言葉に若干の熱が帯びる。

 千歳は素直に嬉しいと感じた。琴里が言う様に千歳は士道達に隠し事をしているというのに、士道はそれでも千歳が信用出来る人物だと庇ってくれたのだ。その事に千歳の心は喜びに満ちていく。

 

 「なんでここまで嬉しいって感じるんだろうね……」

 

 千歳は不思議な感情に戸惑いつつも、何処か満足げに微笑んだ。

 決して嫌ではない。寧ろそれは心地良く、ほのかに感じる温かみに——今まで感じた事のない高揚に千歳は軽く酔いしれた。

 心地良い、落ち着く、もっと感じていたい——次々と沸き上がる衝動に、千歳の心が突き動かされそうになるも、千歳はその衝動を堪える事にした。

 これは駄目だ。きっと駄目になる。身を任せきってはいけない衝動だ。任せきったら()()()()()()()()()()()()

 

 「フフッ……」

 

 それでも溢れかえる感情を完全に隠しきることは出来なかった。

 気づけば口角が上がっていた。おそらく目尻も緩んでいる事だろう。生まれた幸福感に笑いがこぼれ、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「千歳」

 

 そんな完全にトリップしていた千歳に、背後から訪れた来訪者が話しかける。

 

 「…………」

 

 「聞こえているの?」

 

 「……え?」

 

 上の空になっていた千歳の意識は、その呼びかけで戻ってくることが出来た。

 淡々とした声色に聞き覚えがあった千歳が振り向くと、予想していた人物が千歳の背後に立っていた。

 

 「……あ、鳶一か」

 

 「……驚かないのね」

 

 「ここ(オーシャンパーク)に来いって言ったのは俺だしな。……まぁ本当に来るとはそこまで思ってなかったけど。てかよく俺がここにいるってわかったな」

 

 「ここの監視カメラをハッキングした」

 

 「いやそれ犯罪だから」

 

 「冗談」

 

 「……ホントにか?」

 

 「…………」

 

 「オイ目を逸らすな」

 

 そこにいたのは相も変わらない無表情を顔に張り付けた美少女——鳶一折紙だった。

 千歳の言葉に口数は少ないものの無視などをせずに返答する辺り、いくらかは友好的になったのだろうか? 少なくとも、精霊に復讐しようとしている彼女が精霊に対して冗談を言うなどありえないことだろう。事情を知っている士道辺りがこの場に居合わせたならば、驚愕のあまりに目を丸くしそうだ。

 

 そんな折紙は先日、千歳の情報によって己が仇である五河琴里に対し、どうするかを悩みに悩んだ。

 両親の仇なのだから復讐をしないなんて考えられない。しかし、復讐してしまえば唯一の心の拠り所である想い人(五河士道)に拒絶されるかもしれない。

 復讐を取るか、想い人を取るか、それとも別の選択をするか……折紙は一晩悩み続けたのだ。

 

 

 そして————答えは出た。

 

 

 「千歳」

 

 「おう」

 

 「私は……五河琴里に復讐する」

 

 「……そうか」

 

 やはりこうなったかと、僅かに抱いていた希望が消えた事で千歳は少し気落ちする。

 もしかしたら折紙が踏み止まってくれるかもと考えていたが、折紙の決意は固かった。この五年間、折紙は復讐する事だけを考えていたのだから、一朝一夕で心変わりする訳がなかったのだ。故にこの答えは順当な物なのだろう。

 折紙の答えを聞いた千歳はこの後どうするかと考え始める。

 正直に言って、今折紙に介入されるのは不味いのだ。俺のせい(なのか?)で士道達が言い争う事になった為、まだ二人はデートをしていないのだ。これでは例え折紙を退いたとしても、時間が足りずに琴里が暴走するかもしれないのだ。せめてある程度デートを満喫して封印可能直前までこぎつけた状態でなければ顔向けできなくなる。簡単に言えばピンチである。……千歳が原因で生まれた状況の為、千歳の自業自得ではあるのだけれども。

 

 「……ただ」

 

 「うん?」

 

 どう対処するかと内心で焦り始めた千歳の耳に、再び折紙の言葉が届いた。どうやらまだ何か言う事があるらしい。

 千歳は折紙の言葉に耳を傾ける。同時に内心で「こうなったら話を長引かせよう」と考える千歳だが、この口数の少ない彼女と話を途切れさせずに話し続ける事なんて出来るのかと軽く諦めかけそうになるのだった。

 そんな千歳の内心など知らない折紙は続けて言葉を継げるのだった。

 

 「私は()()()()()()〈イフリート〉に、五河琴里に復讐する」

 

 「お前のやり方?」

 

 「そう。私は————」

 

 折紙は千歳に自身のやり方を話していく。

 折紙が何をする気なのか、どういった方法で恨みを晴らすのか……それら復讐内容の全貌を明かしていく。

 そしてその内容を聞かされた千歳は……折紙に微笑みながら返答を返した。

 

 「いいんじゃねぇの? うん、俺はいいと思うぜ」

 

 「……いいの?」

 

 「いいも何もお前が決めたことだろ。それに俺がいちゃもんつけたところで意味がねーよ。……お前が後悔しない選択だってんなら、それでいいさ」

 

 「……そう」

 

 復讐の全貌を聞き、千歳は内心で安堵しつつ折紙の復讐を肯定した。それによってかはわからないが、表情は変わらないものの何処か嬉しそうな雰囲気を折紙から感じ取るのだった。

 

 「千歳、手を出して」

 

 「うん? 急になんだ?」

 

 「手を出すだけで構わない。少し、試したい事がある」

 

 「……? まぁいいけど」

 

 話がまとまったところで唐突に折紙が千歳に妙な要求を述べた。千歳は折紙の意図が読めず、首を傾げながらも言われたとおりに右手を出すのだった。

 因みにこの時、千歳は折紙に対して全く警戒していなかった。千歳が既に折紙の事を敵視していない証明であろう。言ってしまえば……油断していた。

 

 

 

 「——え?」

 

 

 

 折紙に手を握られた瞬間、千歳は唖然とした声を漏らした。

 わからなかった。()()()()()()()()()()が、何故彼女で……

 

 

 そこで千歳は気づいた。——()()()()()()

 

 

 「――そう、これが……そうなのね」

 

 「なっ……と、鳶一、お前なんで……」

 

 お互いに手を放した後、折紙は何かを確認、納得しながら片手を開閉していた。そんな折紙を見つめる千歳はまるであり得ないものを見るかのような表情を浮かべていた。

 

 事実、それはあり得る筈のない事だった。可能性はあるにしても、折紙が”それ”に手を伸ばすとは思いもしなかった。だってそれは——

 まさかの事態に千歳の思考は困惑から抜け出せないでいた。そんな千歳に、折紙は改まった宣言する。

 

 

 「これが私の選択。私が選んだ”復讐”だから」

 

 

 それを最後に折紙は千歳を前から立ち去っていく。そんな彼女の後ろ姿を、千歳は見えなくなるまで見つめる事しか出来なかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ごめん五河。なんか、予想以上にややこしい事になっちゃったかもだわ……」

 

 ……ただ一言、彼女の復讐を受け止める事になるであろう兄妹に、人知れず謝罪の念を送りながら。

 

 





 琴里ちゃんは人一倍千歳さんが信用できないようです。今回はとりあえず保留と言ったところですかね?

 何故あそこまで千歳さんを拒もうとしたのかには理由があるのですが、まぁそれは今後に明かされるでしょう。……え? 日頃の行いが悪いからじゃないかって? ……ぐうの音も出ないですが、他にもあるんです。

 そして、薄々勘の良い方は気づかれていたかもしれませんが……まぁ、そういう事です。
 折紙さん、復讐のために力を手に入れました。次回辺りに明かされるかな? うん。



 ・余談・
 まえがきでも書きましたが、最近ごちうさのSSを書きたくなってきているメガネ好きです。理由としては……作者の心が荒れ始めてるからとしか言えないですね。はい
 詳しくは先日書いた活動報告の方に乗せています。ぜひよかったら見てもらえると幸いです。間接的にもこの小説に関わってきますからね、主に投稿ペース的な意味で。
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