Fate /The battle of Whirligig 作:ムナゾウ
「第3次聖杯戦争....じゃと? 」
魔術勢力の総本山の一つ、英国倫敦、その中心にそびえたつ時計塔。
魔術師たちの教育機関を兼ねる魔術協会の一大拠点。そんな場所に久々にウルトラ級の大物が還ってきていた。
「魔導元帥」「宝石翁」「万華鏡(カレイドスコープ)」。多種多様な異名を持つ、現存する「魔法使い」の一人にして、世に恐れられる「死徒二十七祖」の一人、「宝石のゼルレッチ」ことキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグその人である。
「気に入らないからという理由から『月世界の王』こと、死徒二十七祖の第三位、『朱い月のブリュンスタッド』に喧嘩を売り、そのまま倒してしまった」
彼の存在の異常さを語る上で、これ以上の逸話は不要だろう。魔導元帥などという大層な二つ名は伊達ではない。実際ゼルレッチはその二つ名に相応しい人外じみた力量を持ち合わせている、魔術師の頂点に立つといっても過言ではない人物なのだ。
だがゼルレッチが時計塔の一室に久々に現れたからと言って、積極的に彼に関わろうとする人間など滅多にいない。
なぜなら、時計塔の魔術師達、より正確に言うなら『魔術協会』にとって、ゼルレッチは「制御不可能な上に、突然現れて一騒動起こしては、またどこかに消える」自然現象扱いの存在だからだ。
魔導元帥と呼ばれるほど、魔術協会に強い影響力を持つゼルレッチだが、それは、どちらかといえば彼が願って手に入れたものというよりは、自由な行動の結果生まれてしまったものといったほうが正しい。
つまるところ、魔術協会にとってゼルレッチは、どうにもできない頭痛のタネであり、同時に世界を救った英雄でもあるという面倒くさい相手なのである。
そんな彼がいきなり、かつ久々に時計塔に現れた。そんな状況に遭遇したとして時計塔の魔術師たちの中に、ゼルレッチ本人に呼ばれるなら話は別だが、自ら向かおうという意思を持つものなど、ほとんどいなかった。
そう、たった一人を除いては。
「はい。あなたは知っているのではないですか?あの三度目の聖杯戦争について! 」
勢いよくドアを開けて入ってきたのは、この時計塔では珍しいアジア系の学生、日本からの留学生にして、伝統ある魔術師の家系の後継者、遠坂凛である。
「ちょっと落ち着けよ遠坂!いきなり失礼だろう? 」
そんな彼女を後ろから羽交い締めにして押さえる茶髪の青年がいた。彼の名は衛宮士郎。遠坂凛の弟子として時計塔に留学した生徒の一人。そして故郷での激戦を生き残り、正義の味方を志す若者であった。
ゼルレッチは突然の珍客二人組を興味深そうに眺めが、すぐに何か納得したような表情を浮かべ、手元の机に置かれた、いくつかの資料に目を移しながら言葉を発した。
「そう急くな、お主、ナガトの血を継ぐものじゃろう?なるほど、確かにあやつの面影を感じる顔立ちをしておるわい 」
懐かしそうに目を細めながら言ったゼルレッチは、次いで未だ凛を羽交い締めにしている士郎にじっと目線を向けた。
「えっと.....俺に何かついてますか?」
いきなりゼルレッチに注視され、士郎は少し不安げな表情を浮かべながら言った。
いくら魔術師として素人な士郎でもゼルレッチの名は知っている(というより凛に教え込まれた)。若干自慢が入っていた気もするが、凛よりゼルレッチが魔術師達、あるいは魔術業界の中でどれほどの大物なのかを士郎は嫌というほど教えられているのだ。
そんな人物にいきなり注視されては、
嫌でも不安を感じてしまう。
そんな士郎の内心を察したのかゼルレッチは、その口元をフッと緩め言葉を発した。
「若造、心配せずともお主には何も憑いとらんし、何の問題もありはせん。ただ『ここ』のお前さんの姿が珍しかっただけじゃよ 」
「はあ....... ってグッ!?」
投げかけられた言葉に頭に疑問符を浮かべる士郎だったが、次の瞬間息が詰まったような声を上げた。
どうやら、羽交い締めにされていた凛が思いっきり士郎の足を踏みつけたらしい。
もっとも苦悶の表情を浮かべながら蹲る士郎の疑問に答えるつもりはゼルレッチにはないらしく、彼は再び凛に視線を向けた。
「のう、遠坂の血を継ぐ者、ナガトの末裔よ。お主はそこの若造と共に、あの戦いを終わらせたんじゃろう?なぜ、今更過去の戦いのことを知ろうと欲する? 」
ゼルレッチの問いに凛は真っ直ぐな意思のこもった瞳を改めてゼルレッチに向けて答えた。
「これは私の個人的な懸念に過ぎません.......でもそう遠くない未来、もう一度、『あの聖杯』を巡る問題が起こる気がするんです。その時が起きた場合の為に過去の聖杯戦争のことを、もっとしっかり知っておきたいんです。もう二度と、あんなふざけた戦いで誰れかを犠牲にしないために!」
最後の方には感情が高ぶったのか、声を荒げてしまった凛をゼルレッチはしばし無言で見つめ、次の瞬間、声を上げて笑った。
「なにがおかしいんですか!? 」
いきなり笑われたことで余計に感情を刺激されて声を荒げる凛に対してゼルレッチは手をかざしてそれを制しながら、答えた。
「いや、すまんすまん、あまりにも昔見た光景そのものだったものでな。じゃが、なるほどな。納得がいった。しかし、つくづくお主達(ナガト)の血族は善い未来予想に殉ずる定めらしいの 」
そう言うとゼルレッチはその羽織うローブから一つの巻物を取り出すと凛に向けて放り投げた。
いきなり投げられた巻物を慌てて間一髪キャッチした凛に、ゼルレッチは言葉を続けた。
「まずはそれに書かれていることを頭に叩き込め。儂が伝えるにせよ最低限、あの戦いに関する知識を知らなければ理解できんじゃろう 」
「教えてくださるんですか? 」
「お主のことじゃ。協会の資料を調べて、一度目と二度目、それに四度目の戦いについては調べ尽くしたのじゃろう?だが、三度目に関してだけは『調べきれない』ことがある。違うかな?」
ゼルレッチの言葉に凛はやはりという表情を浮かべた。
「やはり、知っておられたんですね。あの戦いの真実を 」
「まあ、あの戦いは観測者として印象深いものだったのでな。真実かはともかく、儂は確かにあの戦いで、『なにがあったのか』を知っておる 」
凛は手元の巻物とゼルレッチを交互に見てしばし沈黙した後、ゆっくりと頷いた。
「分かりました。一晩でこの巻物の中身を頭に叩き込んで、明日もう一度来ます。だからそれまで時計塔(ここ)にいてください 」
凛はそう言って部屋を出ていった。部屋のドアを閉じた瞬間に聞こえた足音から察するに、恐らく部屋を出てから直ぐに廊下を走って行ったのだろう。時刻はすでに夕刻、アパルトメントの自室で早速巻物を読み解こうとしているのかもしれない。
そんなことを思いながら彼女を見送ったゼルレッチは、相変わらず足を押さえて蹲ったままの士郎に意識を向けた。
「おい若造、まだ痛むのか?」
「正直まだ痛いですけど大丈夫です。それより、あの、遠坂が失礼な事をしてすいませんでした。弟子として謝ります 」
遠坂に足を思いっきり踏まれた上に部屋に一人置いていかれたのにも関わらず凛の為に謝罪の言葉を述べる士郎にゼルレッチは感嘆とも呆れとも取れるため息をついて、呟いた。
「ナガト(あやつ)も大概じゃったが、お主も相当なお人好しじゃな......まあ、儂はそういう馬鹿は嫌いではない。そういう馬鹿は往々に世界を救うものじゃからな 」
ゼルレッチの呟きは小さなものだったため、士郎には届かなかったが、自らに向けられたゼルレッチの穏やかな視線には気付いたらしく、少し照れくさそうな表情を浮かべた。
「じゃ、じゃあこの辺りで失礼します。ありがとうございました 」
「少し待て、お主、エミヤと言ったな?」
部屋を出ようとした士郎は思いがけずかけられたゼルレッチの問いに、足を止めた。
「はい、そうですけど..... 」
「お主、正義の味方を志しておるのだろう? 」
ゼルレッチの口から発せられた思わぬ言葉に士郎は動揺を隠せなかった。なぜ、それを?と言いたげな困惑の表情を浮かべる士郎だが、相変わらずゼルレッチは、それに応えるつもりはないらしく、一方的に言葉を続けた。
「お主も明日、トオサカリンと共にここに来い。そして聞いていけ、儂の語る三度目の戦いを、あの『変転』の戦いを。さすれば、お主の探しているもののヒントが見つかるかもしれんぞ 」
「俺の......探しているもの? 」
「そうじゃ、これからの己のあり方、進むべき道、そういったものを決めかねておるなら、儂の昔語りを聞いておけ 」
「でも....... 」
「あり方を『見つける事』と、それを目指して『歩む事』は似て非なるものだ若造よ。儂の話はそれだけだ。気をつけて帰るがよい 」
そう言うとゼルレッチは、もう話す事はないとばかりに、再び机に置かれている資料に目を通し始めた。
「失礼しました...... 」
ゼルレッチの部屋を出た士郎は、時計塔内の廊下を歩きながら自問自答してた。
「(俺のこれからのあり方......か.......) 」
士郎がなりたいと欲するのは正義の味方、それは間違いない。かつてある男に仮初めの理想に過ぎないと断じられた夢、そして戦いの中で、自分の中にもはじめから存在していた事を理解した理想。
今ではそれは、明確な形を持って自分の中にある。そう思っていた。だが、ゼルレッチの言葉はそんな士郎のこころを激しく揺さぶった。正義の味方を志す、その思いに変わりはない。だが、どのような正義を為す道を進むのか、それはすぐに言葉にできるものではない。
かつて赤い弓兵が辿った道も間違いなく『正義の味方』のあり方の一つだったろう。義理の父、衛宮切嗣が辿った道も同じだ。結末が望んだもので無かったとしても、二つとも正真正銘、正義の味方を志す者の歩む道、そのあり方の一つだった。
だが、その生き方は必ずしも今ここにいる衛宮士郎と同じとは限らない。
「(ダメだ.......分からない。でも、聞かなければならない気がする。『変転』の戦いを、第三次聖杯戦争を.....) 」
決意を胸に秘め、士郎は歩みを速める。きっと今頃遠坂はアパルトメントの自室で巻物の読破に取り掛かっているだろう。彼女の性格からして、間違いなく徹夜コースである。
「(俺も付き合わなきゃならないわけだし、市場によって夕食と夜食用の食材を買っていかなきゃな) 」
自分の中の問題はともかく、今は愛する者のことを優先する。どこにいようと、どこに歩もうと、衛宮士郎は変わりなく衛宮士郎であった。
この作品を見てくださった読者の皆様初めまして!素人作家にして、皆さんと同じくFateシリーズのファンの一人のムナゾウと申します。
今回Fateシリーズであまり内容を語られない第三次聖杯戦争を題材に二次創作物を書いてみようと思い立ち、不遜ながら挑戦してみた次第です。
素人作品ゆえ至らぬ点が多々あるかと思いますが、優しく見守っていただけるとありがたいです。ご感想お待ちしています。どうか、よろしくお願いします。
さて、初回たるプロローグについて最後に少し解説を入れさせていただきます。
プロローグの世界背景はFate本編におけるUBWルートの後日談、アニメ版での最終話、士郎が凛の弟子としてロンドンに渡った後の世界という設定です。正確にはアニメ版の内容そのままではないのですが、とりあえず、そう考えていただければ幸いです。
また、凛がゼルレッチと会おうとした理由については、未来に遠坂家が関わる「ある事件」についての記述を参考にしています。
基本的にこの話は現代と過去を場面が行き来します。面倒くさいスタンスと思われるかもしれませんが、お付き合いください。
それでは、次の話でまた会いましょう!