Fate /The battle of Whirligig   作:ムナゾウ

3 / 5
夜の部屋 始まりの戦

「どうしようこの子たち....... 」

 

間桐の家の自分の部屋で、椿は頭を抱えて呟いた。

 

自宅近くの公園で幽霊と勘違いして、肘打ちで気絶させてしまった和服少女と最初から意識を失っていた謎の色白少年を椿は自宅へと運んできていた。

 

まさか、あのまま公園に置き去りにはできないし、なにより二人のうち少女の方は椿のせいで気絶させてしまったわけなので見捨てるわけにはいかなかったのだ。

 

とは言え、素性が分からぬ以上、家でいつまでも身柄を預かるわけには行かない。

 

「早く目を覚ましてくれれば事情が聞けるんだけど、無理に起こすのも気がひけるのよね.......とりあえず、この子の着替えでも用意しますか! 」

 

取り敢えず色白少年のボロボロの服を着替えさせようと、改めて、彼を寝かせたベッドに近づいた椿は、そこで初めて彼の身体に起きている異常に気がついた。

 

「これは......アザ?いえ、これは.....! 」

 

椿が見つめる先、ベッドに横たわる少年の右手には、まるで、なにかの花を象形的に描いたかのような刻印が刻まれていたのである。

 

「(これは.....お姉ちゃんが言っていたやつ......確か、令呪! じゃあ、この子は.....!)」

 

椿は正式に魔術師としての教育は受けていない、従って当然ながら姉が参加するという、間桐の家が代々戦ってきた「聖杯戦争」と呼ばれる戦いについても教えられてはいない。

 

だが、椿は姉である菊代より、その戦いについて、機会があれば話を聞き出していた。少しでも姉と同じ場所に立っていたいという思いからである。

 

それにより椿は少年の手に刻まれた刻印が、間桐の人間が作り上げた聖杯戦争のシステムの一つ『令呪』であることに即座に気づくことができた。

 

だがそれは同時に一つの事実を彼女に突きつける。即ち、この自分が助けた少年は、姉も参加する「聖杯を巡る殺しあい」におけるマスターの一人であり、姉の敵となりうる人物ということである。

 

「(はあ......なんでよりにもよって、たまたま助けた子が、お姉ちゃんの『敵』なのよ......いや、敵と決まってはいないだろうけども......) 」

 

椿は当然ながら姉を大事に思っている。当然、姉が参加する3回目の戦いには姉に勝利してもらいたいとも思っている。

 

だが、かといって目の前のボロボロの服を纏った少年を「敵」として扱うことも椿にはできなかった。

 

目の前の少年を敵として扱うということは、即ち間桐の敵として扱うことは、その身柄をあの妖怪爺に引き渡すことに他ならない。

 

血のつながっている筈の姉さえ、道具扱いするあの妖怪爺が、敵のマスターに対してどんな非道なことをするのかは創造に難くない。それは椿には許容できることではなかった。

 

「ああ、もう!本気でどうすれば良いのよこの子たち...... 」

 

「そのようなことわかりきっておるわい......のう、椿 」

 

部屋に響いた、静かなしかし悪寒を感じさせる声に椿はゆっくりと後ろを振り返った。いったい、いつそこに現れたのだろう。そこにはまさに先ほど頭に思い浮かべた妖怪爺、間桐臓硯が薄ら笑いを浮かべながら立っていた。

 

「戦いが始まる前にマスターの一人の身柄を確保するとは、儂の血筋をひくだけはあるわい。のう椿よ 」

 

クククと笑いながら、杖をついて近づいてくる臓硯に、椿は無意識に後ずさりながらも、なんとか声を絞り出した。

 

「お爺様......この子たちをどうするつもりですか.....? 」

 

「どうするか?決まっておるじゃろう。間桐の勝利のために『使う』のよ 」

 

『使う』、この平凡な言葉が臓硯に関して、そのままの意味を持つなどありえない。このままではマスターであるこの少年はおろか、彼と共にいた無関係の少女まで、非道な目に遭わせてしまう。

 

「(そんなのダメ......! ) 」

 

バッと反射的に椿は両手を広げて、少年の前に立った。

 

「何の真似じゃ椿?馬鹿なことをするものではないぞ? 」

 

相変わらず薄ら笑いを浮かべながらも、臓硯はその歩みを止めることはない。反射的に動きはしたものの、椿にもそれ以上の行動を取ることはできなかった。

 

姉の事をどうしようもないと、なかば諦めてしまったまま今まで過ごしてきた椿だが、それでも、いや、だからこそ、「誰かの助けになりたい、誰かを救いたい」という思いは日増しに強まるばかりだった。人は抑制されたものであればあるほど、その思いを増幅させていく生き物である。それは椿とて例外ではない。

 

「(でも、どうしたら......ん? ) 」

 

ふと、椿は部屋の中にいつもは感じない違和感があることに気づいた。視界の端に映る光景に違和感を感じるのだ。

 

「(なに?なにが起きてるの? ) 」

 

視線をその違和感の感じる方向に向けた椿はようやくその正体に気がついた。

 

そこには、少女がいた。あの『和服の少女』である。いつの間に目を覚ましたのだろう。少女はその幼き容貌を臓硯に向け、薄暗き部屋の闇を祓うような凜とした透き通る声音で言葉を放った。

 

「それ以上近づくなご老人。わが主にも、そしてわが恩人にも害をくわえさせるわけにはいかぬ 」

 

その容姿にはあまりにも不釣り合いな、大人びた、というより芝居掛かった喋り方をする少女、いやよくよく見れば幼女と言ってもおかしくない彼女に臓硯は、ここに現れてから初めてと言っても良い不快そうな表情を浮かべた。

 

「ごっこ遊びは大概にしておけわっぱ。貴様が守るだと?つまり、貴様がこのマスターにとっての『それ』だと?たわけた事を、ありえぬわ。自らの姿を顧みてみるが良い 」

 

臓硯の言葉に和服少女は、動じる様子もなく、静かに言葉を返した。

 

「信じられないというのなら、お見せするしかないであろうな 」

 

次の瞬間、臓硯の身体は一瞬で吹き飛ばされた。

 

「.........え?........ 」

 

それは文字どおり一瞬の出来事だった。椿の視界の端、和服幼女のいた辺りに現れた巨大な『何か』が宙を飛び、少年の近くまで来ていた臓硯の身体を部屋の壁ごと外に吹き飛ばしたのだ。

 

その光景は端的に一つの事実を指し示していた。

 

「うそ......じゃあ、あなたが....」

 

ようやく、その事実に気づいた椿に和服幼女はこくりと頷いて、言葉を告げた。

 

「我はお主たちの言う所のさーばんとの一人、わが主、アトラスフィールに仕える英霊が一人である存在。騎兵(ライダー)のさーばんとである。わが主を守ろうとしてくれたこと感謝する 」

 

そういってぺこりと可愛らしく頭を下げた和服幼女、いや騎兵(ライダー)のサーバントは、テクテクと椿の側まで歩いてきて、その手を握った。

 

「な、なに? 」

 

「このままここにいては、わが主どころかお主の身も危ない。面倒をかけて済まないが、この家から直ぐに離れなければならないぞ 」

 

言われなくてもそれくらいは分かる。間桐の当主に逆らった上、間接的とは言え、その殺害に関与してしまったのだ、家に居られるはずがない。もっともなんとなく、あの妖怪爺がそう簡単にくたばりはしない気もしていたが。

 

「今はまだ父さまは帰ってきてない。お姉さまに最後に顔を見せられないのは残念だけど、騒ぎが大きくなる前にここから離れるわ 」

 

「誠に済まぬ。だが、一体どこに向かおうというのだ? 」

 

「私ともう一人しか知らない秘密の隠れ家。多分今の時間帯ならいると思うわ 」

 

「いる?誰のことなのだ? 」

 

ライダーの問いに椿は無意識に笑みを浮かべながら答えた。

 

「私の親友、遠坂信義よ 」

 




はい、というわけで第2話をお送りしました。
前回後書きで予告しておきながら、結局「遠坂の男」は名前だけの登場になってしまいました。本当にすみません。次回こそ本当に登場することになるはずですから、どうかご容赦ください。

さて、今回当作品内において初めてのサーバントを登場させましたが、如何でしたでしょうか?
黒髪ロングの和服幼女の騎兵(ライダー)。謎の少年マスターに従う彼女の正体は、これから読み進めていただければ明らかになっていくでしょう。彼女のスペックが気になる方もおられるでしょうが、今回は敢えて載せません。その理由は間桐臓硯が彼女に発した言葉からお察しください。

まだしばらく皆様には臓硯と同じ状況から、彼女を見ていただきたいと思います。

最後に、ようやく名前が明らかになったボロ服の少年こと『アトラスフィール』についてですが、Fateファンの方なら、彼がどこの関係者なのかはすぐに分かってしまうでしょう。恐らく皆さんが予想されるものが、そのまま正解です。

アトラスフィール、間桐椿、そして(名前だけでしたが)遠坂信義。この3人が如何にして、この三度目の戦いに関わっていくのか、辛抱強く見守っていただければ幸いです。

それでは、次の話でまたお会いしましょう。ご感想よろしくお願います!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。