Fate /The battle of Whirligig   作:ムナゾウ

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前哨戦

「ハッ!! 」

 

気合一閃、騎士の振るう剣が宙を飛び襲い掛かる蛇の群れを切り裂いていく。

 

森に分け入った間桐菊代と、そのサーヴァントたる純白の騎士は、四方八方からとびかかってくる蛇の大群に道を阻まれていた。

 

魔力により生み出されているらしい使い魔たる無数の蛇たち。その存在は端的に一つの事実を示していた。

 

すなわち、この先にあるツリーハウスに少なくとも『魔術』に関わる存在がいるということ。そして、そこの存在を知り、かつ利用する可能性のある人物は菊代もよく知る『二人』しかあり得ないということである。

 

「まったく、キリがありませんな我が姫君 」

 

剣を休まず振るい続け、自らのみならず主に襲いかかる蛇たちも切り裂きながら、騎士は菊代に語りかける。

 

「私の見立てが正しければ、この蛇どもは何らかの『神性』を帯びた水で形作られています。どう考えても今代の魔術師に形作られるものではないですよ 」

 

「………そうでしょうね。妹に、椿にこんな高度な魔術を扱うことは無理。それに、仮にあの場所にノブくんがいたとしても、彼にもそんなことは絶対に不可能だわ。となると、これを仕掛けているのは……… 」

 

「間違いなく、ご当主殿を吹き飛ばしたという小娘。敵のサーヴァントの一人でしょうな。なぜ、妹様たちと行動を共にしているのかは分かりませんが……. 」

 

純白の騎士の言う通り、次々と飛びかかってくる蛇たちは水分で形作られた魔術的な存在だった。一匹一匹は大した脅威ではないが、こうも群れをなしてこられると、いかに騎士の器量が優れていようと押し込まれてしまう。

 

「このままでは埒があきません。なんとかできますか? 」

 

「姫君たっての願いとあれば、紳士としては応えるしかないですな。なに、『水』の扱いなら私も得意でありますよ!」

 

騎士がそう言ってロングソードを構えなおした直後、蛇たちの動きに変化があった。

 

これまでバラバラな方向から次々に飛びかかっていた蛇たちが、菊代たちの前方に集まり始めたのだ。

 

「これは、向こうさんも本気を出してきましたかな? 」

 

「…….そのようね 」

 

二人の目の前で集まった蛇たちは急速に絡み合いながら一つになっていき、一瞬で一匹の大蛇の姿を形作った。

 

「成程、これがあの蛇たちの本当の姿というわけですな…….ならばこちらも相応の一撃をお見せしましょう!姫君、サポートをお願いいたします! 」

 

そういうが早いが、純白の騎士は地面を蹴り、前方の大蛇に向かって一気に加速した。

 

「シャアァァァァ!!」

 

雄たけびと共に大蛇がその巨大な尾を横薙ぎに騎士に向けて放つ。

 

その放たれた一撃を騎士はもろに受けてしまった。

 

そのまま直撃を受けた騎士の身体は遥か上空に吹き飛ばされ、姿が見えなくなってしまった。

 

愚かにも正面から突っ込んできた敵を一撃で吹き飛ばした大蛇は、その瞳をギョロリと動かして、残ったもう一人の獲物、菊代に狙いを定める。

 

だが追い詰められたはずの菊代の顔に焦りは感じられない。彼女はその口元にかすかな笑みすら浮かべていた。

 

その余裕ぶりに違和感を感じたのだろうか。視線を周りに向けようとした大蛇だったが、それは行うことは叶わなかった。

なぜなら、その鎌首が周りを確認しようと動いた次の瞬間、その首は背後からの一閃により高々と宙を舞ったからである。

 

「今です、姫君! 」

 

いつの間にそこに現れたのだろう。大蛇の真後ろで右手に渦巻く水流を纏い、ローブをまとった青年が叫ぶと同時に、菊代はその右手を地面に着けると同時に、詠唱を叫んだ。

 

「Ты, Мать-Земля, за сосут кровь дракона, чтобы открыть рот! 」

 

次の瞬間、菊代の右手が光を放ち、同時に一瞬で地面に現れた魔方陣を基点に地面が大きく口を開き、首を切り飛ばされた大蛇の身体を飲み込んだ。

 

「Сжигание восхождение! 」

 

続けざまに菊代が発した詠唱と同時に、今しがた大蛇が飲み込まれた亀裂から巨大な火柱が上がった。

 

一瞬、すさまじい熱波が周りの木々を揺らしたが、それは一瞬のことで、すぐに地面の亀裂は元のとおりぴたりと閉じ、森は元の平穏を取り戻した。

 

「やりましたな、姫君 」

 

「ええ、念のために敷設しておいて助かりました。ですがあまりグズグズしていると次の手を打たれます。急いでツリーハウスに向かいますよ 」

 

「分かっております我が姫君。失礼いたします! 」

 

いつの間にか再び現れた純白騎士に御姫様抱っこをされて、間桐菊代は高速で森を駆けていく。

 

彼女にとっても大切な存在であり、守るべき存在、そしてそのうえで、今は戦わなければならない存在となってしまった愛する妹のいる場所に向かうために。

 

「今行くわよ、椿......! 」

 

 

「すまぬが、我の力ではそう長くは足止めはできぬ。だから、お主たちの力を貸してほしい。すべての事情を説明するにしても、まずはこの危機をどうかにせねばならぬ 」

 

同時刻、ツリーハウスでは、うら姫が椿と信義に対して説明を行おうとしていた。

 

「椿、お主は多少は我らが巻き込まれておる戦い、『聖杯戦争』について分かっていると考えてもよいのだな? 」

 

「ええ、全部ではないけど、大体のところは........ 」

 

「では、この戦いにおいて『英霊』を呼び出すのに、その媒介となる『聖遺物』が必要となるというのは知っておるな? 」

 

「ええっと........確か、呼び出す対象となる『英霊』にゆかりのある品、生前使っていた武器のかけらとかが必要なのよね? 」

 

「その通り。だが我はその『聖遺物』のありかは知っておるが、今それを手元に持っておらぬ。それさえあればお主たちの力になれるのだが........ 」

 

申し訳なさそうに言ううら姫だったが、彼女があえて語らなかったことに信義は素早く反応した。

 

「俺たちの力っていったか?それはつまり、俺たちにその『英霊』ってやつを召喚して、この戦争に『参加』しろってことじゃねえか 」

 

「...........すまぬが、確かに我はそういう意図をもってお主たちに説明しておる 」

 

「無茶だ!俺たちは『魔術』なんてほとんど知らないんだぜ!?それに椿はもし参加したら最悪『姉さん』と戦うことに.......!」

 

「ノブ 」

 

一気にまくしたてた信義の肩に手を置いて止め、椿は改めてうら姫を見つめた。

 

「うら姫ちゃん。あなたの言うとおりにすれば、少なくとも『戦う力』を手に入れられるのよね? 」

 

「うむ。少なくともこの戦いを生き残るための力は手に入れられるのは間違いないぞ 」

 

「わかった..........あのねノブ。私はノブの言った通り、魔術なんてほとんど使えない。でもね、私嫌なの。お姉ちゃんと戦うことも嫌だけど、誰かを守りたいと『思う』だけで『救えない』まま足手まといになるのはもっと嫌なのよ 」

 

椿の言葉には本人にしか分からないであろう苦渋が含まれていた。姉を『思う』だけで『救う』ための行動をとらなかったことが、今の事態、すなわち恐らく妖怪爺の命によってこちらに向かっている姉、菊代と戦う事態を引き起こしているからだろう。

 

「だから、教えてうら姫ちゃん。私はなにをすればよいの? 」

 

「うむ........今こちらに向かっているお主の姉は間違いなくサーバントを連れておる。それに対するには、お主たちが『聖遺物』を使って 『英霊』を召喚するしかない。そのために今から我らはこの場所を早急に離れ、『聖遺物』がある場所に向かわねばならぬのじゃ 」

 

「聖遺物がある場所? 」

 

「もしかしたらお主たちもしっておるのではないか?港に船が流れ着いておったじゃろう?」

 

「おい、まさか......... 」

 

「察しが良いのノブとやら。そのまさかじゃ。冬木港に流れ着いた不審船、その中にお主たちにとっての力は眠っておるのじゃ 」

 

「そう気安くノブって呼ぶな!それで、いったいどうやって、そこまで『聖遺物』を取りに行くんだよ?ツリーハウスから逃げるにしても、すでに追手がかかっている状態じゃ難しいんじゃないか? 」

 

「うむ........お主の言う通り、しもべたちもそろそろ限界のようじゃし。あと数分で追手はここに追いついてしまうじゃろうな 」

 

「え?じゃあどうするのうら姫ちゃん!? 」

「じゃから、今すぐ逃げる 」

 

慌てる椿に対してうら姫はあまりにもあっけなくそう返した。

 

「我はすでに話したとおり『騎兵(ライダー)』じゃ。こと機動力においてほかの者らに負けることはない 」

 

「とはいっても..........今のお前をどう見ても騎兵って感じはしないんだが.........馬でも呼び出せるのか? 」

 

信義の言葉にうら姫は口元をにやりとさせて言葉を返した。

 

「お主は、勘違いをしておるぞ? 」

 

「なに?」

 

「こと『英霊』に関して『乗る』対象は馬のみとは限らんのじゃ。ほかの動物にまたがる場合もあるじゃろうし、場合によっては無生物に乗る場合もある。そしてわれの場合は、それらとまた少し違う........ 論より証拠じゃ、すまぬが我が主を抱えて一緒に外に出てはくれぬか 」

 

 

相変わらず目を覚まさないアトラスフィールを抱えた信義、椿、うら姫はツリーハウスに設けられている外のテラスに出た。外はすでに暗闇に包まれてる。周りに明かりが確認されないせいか星空がくっくりと確認できた。

 

「さて、追手が追いつくより前に、ここを脱出しなければの 」

 

そういうとうら姫は、なにやら背中に手を伸ばした。と、次の瞬間、その手は何もないはずの背中の空間で『何かの』剣の柄を握った。そしてその『何も』ないはずの空間から引き抜くようにうら姫はその背丈には不釣り合いな長さの剣を引き抜いた。

 

「お前、いつから剣なんか? 」

 

「さあて、いつからじゃろうな?」

 

愉快そうに笑いながら、うら姫は出現した剣を片手で持ち、空に向けて掲げる。

 

その剣は柄に何も巻いていなかった。すなわち先端から持ち手の部分まですべて金属製。いわゆる鉄剣である。長さは80cmを超えるだろうか、そりのない刀身を持つ直刀であった。

 

「わが血の叫びに応えよ『天鳥船(あめのとりふね)』! 」

 

その叫びとほとんど同時だった。

 

何の前ぶれもなし3人の前の空間が揺らぎを生じ、次の瞬間には目の前に巨大な白木つくりの巨船が姿を現した。

 

「これは.......船? 」

 

呆然として呟いた信義と唖然としてる椿に、うら姫は何事もないように告げた。

 

「さあ、早く乗れ。急いで向かわねば巻き込まれるぞ 」

 

「これが、うら姫ちゃんの宝具.......でも、その名前...... 」

 

椿は釈然としない表情を浮かべた。聖杯戦争、正確には『冬木』の聖杯戦争を知る彼女には、うら姫が呼び出した存在について違和感が感じられたのだ。

 

「知識がある椿には、思うところがあるじゃろうが、今は逃げるのが先じゃ。先ほども言ったが、このままグダグダしていると巻き込まれる 」

 

「言い方が変じゃねえか?その言い方だとまるで....... 」

 

「お主の予想通りじゃよ 」

 

信義の言葉を途中で遮ったうえで、彼の内心をうら姫は肯定し、言葉を続けた。

 

「別方面に放った蛇たちが、椿の姉以外の魔力反応を察知した。速度から考えて恐らく同刻にここで両者がかち合うことになるじゃろう 」

 

そういうとうら姫は、まだ釈然としない表情を浮かべたままの椿と信義の背後に回り込み、少し後方に下がった。

 

「さあ、早く乗り込むのじゃ! 」

 

次の瞬間勢いよく加速したうら姫の飛び蹴りによって、2人(および信義の抱えるアトラスフィール)はテラスから宙を舞い、そのまま『天鳥船』の甲板に落下した。

 

落下したときの衝撃でそのまま気を失ってしまった2人の傍に、同じく着地したうら姫は、高らかに叫んだ。

 

「さあ、駆けよ『天鳥船』。偉大なる天(あま)が使いよ!」

 

その言葉に応えるように船体を一度眩く光らせた『天鳥船』は、その姿を蜃気楼のように揺らがせ、乗り込むうら姫たちごと、空間に消えていった。

 

 

 

その光景は、ちょうどツリーハウスにたどり着いた間桐椿、および椿とは別方向からツリーハウスに向かっていたもう一人の『参加者』にも見えていた。

 

偶然ではあるが同じ光景を同じ場所で見ることになった両者は無言のまま、巨船が消えていくのを眺め、次に互いが互いに視線を向けて向かい合った。

 

「どこの家も『身内』には苦労するもののようだ。そちらも大変でしょうな『間桐』の当主殿 」

 

「当主は私の父であって私ではありません。まあ、確かにこの戦いの『参加者』は私ではありますけれども。それに、あなたはこうなることは予想済みだったのでは?自分の身内、ことに血を分けた者に関することなのですから。遠坂明良(あきよし)さん 」

 

「いやあ、そういわれると頭が痛いですな。さて、どうします?ここで一戦交えますかな?今回は私もあなたも準備を整えるのがいささか早すぎた。まだ正式には『始まっていない』段階で戦うのはあまり優雅な方法とは言えないと思いますが」

 

何をもって『優雅』としているかは不明だが、つまるところ目の前の遠坂の当主は、ここでの戦いは望んでいないらしい。そう判断した椿は剣を構えて警戒する自らのサーヴァントを手で制して言葉を返した。

 

「無駄な戦いを避けたいのは私も同様です.......妹たちのことは両家にとって厄介な問題になるでしょう。いずれ話し合いの場を設けさせていただいてもよろしいでしょうか? 」

 

「仕方がないでしょうな。本来身内の不始末は身内のみで済ませるべきでしょうが、合流してしまっている以上、両家で対応するしかない。またご連絡させていただきましょう 」

 

そういうと遠坂明良は静かにつぶやいた。

 

「聞いているな?今日はここで引き上げる。帰るぞ 」

 

彼の傍には別段何者かの影があるわけではない。だが彼も聖杯戦争の『参加者』である以上、何に対して言葉を放ったかは明確である。

 

「それでは、またいずれ間桐のご息女 」

 

そう言い残し明良は森の道を歩いて去っていった。

 

その後ろ姿を黙って見送った椿は、その姿が完全に見えなくなると同時に深いため息をついた。

 

「大丈夫ですか我が姫君? 」

 

「大丈夫です。少し疲れただけですから.......それよりちゃんと『視ましたか』? 」

 

「はい。ばっちりですよ姫君 」

 

自らのサーヴァントの返答に椿は静かに頷いた。本来目的としていた相手ではなかったが、結果的に目的は達成することができた。まだ始まっていないこの戦いにおいて『下準備』は重要なものになってくる。『おじいさま』が自分に与えたサーヴァントが『彼』だったことからも、『おじいさま』が今回の戦いにかける意気込みが伺える。

 

まだ始まっていない『聖杯戦争』。その前段階、準備の段階でこのような事態になるのは『おじいさま』にとっても想定外のことに違いない。自らの計画に水を差された『おじいさま』がどういった措置を行うのか、それは容易に想像ができた。そしてそれを実行する役はおそらく自分になるのだろう。

 

自らの愛する妹のために菊代は静かに目を閉じて祈った。それが届かぬ祈りと知りながら、それでも彼女は願いを込めた。

 

『私への想いのために戦うあの子が、どうか私の為に自らを犠牲にすることがありませんように.......そして、願わくばあの2人が行く道が照らされたものでありますように....... 』

 

それはあまりにも美しく、清く、正しく、そして切ない祈りであった。

 

 




だいぶ投稿に間が開いてしまい申し訳ありませんでした。

今回はうら姫の持つ宝具の一つを登場させました。つっこみが入る前にあらかじめ説明させていただきますが、本作品には『我が国』の英霊が登場します。その理由についてはこれからの投稿で徐々に明かしていきたいと思いますが、メタな話をすれば私自身が『日本』に関係する英霊をぜひ『冬木の聖杯戦争』に参加せたかったのです。

Fate/Grand Orderではすでに『源義経』や『沖田総司』などが登場していますが、もっとどんどん出していってほしいと切に思いますね。

今回、学校裏の森で戦闘を展開した間桐菊代、彼女が詠唱した言葉は、少し調べてもらえばわかると思いますがロシア語です。これは間桐自体がロシア圏出身の魔術師の家系であることに由来します。また最後の方で菊代のサーヴァントの特性に関わるセリフを彼女が述べましたが、正直な話、これだけでは多くの方は、彼の正体は分からないかもしれません。あえてマイナーな存在を選んだので当然と言えば当然かもしれません.......ややこしくてごめんなさい(汗)。

菊代といえば、彼女の最後の祈りはある少年に重ねて描いて描きました。『切ない』祈りと書きましたが、それは『あの少年』が目指した先にあったものを知る人なら理解できると思います。その願いの、祈りの先に、本人はいないのですから.......

さて、次回の話ではいよいよ椿と信義の運命が本格的に『聖杯戦争』に巻き込まれていくことになります。制覇戦争開始前の前哨戦となる一連の戦いを二人がどうやって乗り越えていくことになるのか、見守っていただきたいと思います。

最近、バイトを本格的にはじめたこともあって、創作時間が限定されて、投稿間隔が遅くなってしまっています。なるべく間をあけないように頑張りますが、みなさんをお待たせしてしまうことが度々あると思います。頑張って物語を紡いでいく所存ですが、応援よろしくお願いします。



アトラスフィールの出番はいつになるのやら........







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