ペルソナ×ラブライブ!   作:藤川莉桜

14 / 20
第14話

「……希、四人の様子はどう?」

 

 校門にて、腕を組んで眉間に皺を寄せている希は、絵里の問いに対して首を横に振った。

 

「んー、悪いけど、少しだけ待ってくれへんかなあ。後もうちょいとで掴めそうなんよ」

 

「そう、お願い急いで。あまり待たせたら、あの子達への危険は増すばかりよ」

 

「はあ……あんな?えりち」

 

 大袈裟にため息を吐いた希は、耐えかねた様子で絵里を横目で睨んだ。

 

「あの子達が心配なのはわかるけど、頼むからそうやって急かすのはやめてくれへん?集中乱れたら、その分まで遅くなるんやから」

 

「ご、ごめんなさい。そうよね。気をつけるわ……」

 

 そう言って絵里は希の視界に入らないように、すごすごと後ろに下がった。再び目を閉じて集中を始める希。一方、絵里といえば希の背後でそわそわと体を揺らしながら、時折履いているローファーのつま先で床をコツコツ叩いている。

 音ノ木坂学院高校が誇る才媛の生徒会長は夜の25時を迎えてからずっとこの調子であった。大して時間が過ぎたわけでもないのにまだかまだかと何度も希に問い詰めてくる。あまりに落ち着きの無い親友の質問攻めにうんざり、とまでは言わずとも内心軽く呆れてしまっているのだった。

 

「その素直さをもうちょっと人前でも出せれば良いんやけどねえ」

 

 そうやって少し時間が経った頃、希は突如片眉を少しだけ吊り上げた。

 

「ん……この感じは……真姫ちゃんやね。どうやら無事みたいや」

 

「ほんとに⁉︎」

 

 報告を聞いた絵里は顔を綻ばせる。が、すぐに真剣な表情に切り替えた。

 

「こほん……西木野さんね。希、頼むわよ」

 

「はいはい。ほな、鏡に映すわ」

 

 苦笑いしながら希は手鏡に手のひらをかざした。以前、海未達に希の力の一端を披露した際と同じ手順だ。あの時は校舎に侵入しようとする穂乃果を海未達に見せていたが、今回の場合は赤毛の少女の姿を代わりに映し出そうというわけである。

 しかしながら、実際に映った光景には絵里はおろか希も唖然としてしまう。

 

『ハアッハアッ……!これで……ようやく最後っ!』

 

 黒い影が粉々に砕けて、そして大気中へと霧散していく。希は慌てて視点をスライドさせる。赤毛の少女の後姿が映し出された。真姫はたった一人で広間に中央にて、息を激しく弾ませながら立ち尽くしている。周囲を見渡し、自分以外誰もいないことを確認した真姫は深呼吸を始めた。激しく上下していた肩がやがて落ち着きを取り戻していく。

 一方、さっきまで空中に漂っていたはずの影の破片は、今や影も形もなく消え去っていた。まるで最初から何も存在していなかったかのように。

 この光景だけで、絵里と希の二人は全てを悟った。

 

「えりち、座標の指定は完了したわ。いつでもいけるよ」

 

「西木野さん」

 

 絵里は鏡の中の真姫に向かって『自分の声を飛ばした』

 

『うえええっ⁉︎生徒会長⁉︎』

 

 鏡の中の真姫がギョッと目を見開いて周囲をキョロキョロと見渡す。どうあやら絵里の声はしっかり届いているようだ。

 

「西木野さん……ずいぶんと息を切らしているようだけど、私は交戦はなるべく避けろって言ったはずよね?私と連絡が取れるまで待ってもらえなかったのかしら?」

 

『うっ!』

 

 あからさまな程には顔に出していないが、絵里の声には僅かながら怒気が含まれているのがわかる。絵里の顔が見えていない真姫もそれを察したゆえか、若干返事が裏返っているようだ。

 

『さ、避けてますよなるべく!だけど今回は必要が迫られたからやむを得ずで……』

 

「……西木野さんも中々一筋縄ではいかない子ね。このフロアの敵は大して強くないのが救いだわ」

 

 額に手を当てた絵里はため息を漏らさずにいられなかった。

 真姫との付き合いは、海未、ことりとのそれに毛が生えた程度でしかない。が、見た目に違わず高いプライドを起因とする自信過剰な面がたびたび浮き彫りになっており、絵里と希、理事長の間で議論の的となるのもしばしばであった。

 そして何より、ストレス解消の捌け口にしているのかまでは不明だが、この非日常的な状況をどこか楽しんでいる節が見られていた。

 同世代の少年少女に比べて理知的な印象を与えるとはいえ、彼女もやはり齢15のまだまだ幼い少女。第一印象に反して意外と安定感に欠ける真姫の精神面は、絵里の中では若干の懸念事項となっている。それでも現状、海未とことりよりも実力は先を行っているために絵里達もあまり強く言えず、とりあえず不問にしてきたのだった。

 

「まあ、そこら辺のメンタルに関する話はえりちにブーメランするんやけどね」

 

「ん?何か言ったかしら?」

 

「いーや、空耳やと思う。最近えりちも気を張りすぎてお疲れやからな。例の行方不明の子を助けだしたらゆっくり休んだ方がいいんとちゃうん?」

 

「そう、ならいいけど。一応休暇も少し考えてみるわ」

 

 口笛を吹いて目を逸らす親友から、再び鏡の中の背筋を伸ばして直立する真姫に向き直った絵里は腕を組んで考え込むポーズを作る。

 

「まあいいわ。もうすぐ他の三人の場所もわかりそうだし、少しそこで待機を……」

 

 だが、絵里が指示を出した途端、真姫の表情が険しくなった。

 

『待ってください。あれはいったい?』

 

「あれ?」

 

 手鏡の中で背を向けたままの真姫が通路の奥側を指差した。位置の関係で絵里達にはどうにも見えづらい。

 

「気になるわね。希、お願い」

 

「りょーかい」

 

 真姫が指し示す先へと早速鏡の視点が切り替わったが、映し出されている光景は広間の奥深く、カラスの体色よりも深い暗闇のみだった。先程の真姫の大げさなリアクションが腑に落ちない希は首を傾げる。それは手鏡を眺める絵里も同じであった。

 

「んー……別に何も反応は無いんやけどなあ。近くに大物がいる気配も感じないし」

 

「私にも何も見えないわ。と言うより、さっきから鏡には西木野さん以外何も映ってないわよ?」

 

 だが、

 

『ちょっと……ちょっと!意味わかんない!何よ、あんなデカいの⁉︎私は聞いてないわよ!』

 

「えりち、なんだか真姫ちゃんの様子がおかしくない⁉︎」

 

「落ち着きなさい西木野さん!あなたには今何が見えているの⁉︎」

 

『うえぇ!気づかれた⁉︎」

 

 今の真姫の取り乱し方は尋常ではない。見間違いか何かだろうと結論付けつつあった絵里達も流石に心配になってきていた。なにせ今彼女達が対峙しているのは、人智を超えた非常識的な存在や現象の数々なのだから。真姫の身に降りかかっているのは、そんな予期せぬトラブルではないのだろうか。

 

「いったいどうしたの西木野さん!」

 

 しかし、額から汗を垂らしながら逃げの体勢に入った真姫には、絵里の呼びかけが届いているようには見えていなかった。

 

「返事をしなさい!」

 

『マズいわ!こっちに向かってまっすぐ……』

 

 そこで鏡の映像が乱れ始め、やがて壊れたテレビのように全てが砂嵐に変わった。

 

「な、なんや、これは!こんなん初めてやわ!」

 

「西木野さん⁉︎応答して西木野さん!」

 

 何度呼びかけても返事は返ってこない。手鏡を覗き込んでいる絵里の顔しか映っていない。今、目の前ににあるのは、元の何も変哲の無い鏡面でしかなかった。突然の事態に絵里の顔から血の気が引き、元々色白だった肌が不健康な程に青くなっていく。

 

「えりち、あかん……」

 

 希が呆然としている絵里の肩を揺さぶる。

 

「たった今、めちゃくちゃデッカい反応が出よったわ。おまけにうちの索敵も妨害されてるみたい。こいつは前代未聞の大物かもしれへん!」

 

 絵里と同じく、希の顔も青色に染まりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?海未ちゃん?ことりちゃん?どうしてここにいるの?」

 

 月の光に照らされている中で、予期せぬ幼馴染達との遭遇を果たした穂乃果は首を傾げていた。

 

「もしかして二人も学校に忘れ物とか……って海未ちゃん達に限ってそんなのあるわけな……」

 

「穂乃果!」

 

「穂乃果ちゃん!」

 

ガツンッ!

 

「お、おっとっと!」

 

 海未とことり、二人分の突進を受け止めた穂乃果は勢いで軽くよろめいてしまった。

 

「どうしたの二人共?そんなに慌てちゃ……」

 

「馬鹿!」

 

「いいっ⁉︎」

 

 突然海未が大声で叫ぶ。あまりのボリュームに夜の教室を激しく木霊する。穂乃果もいきなりの音量MAXの罵声に思わず身を縮み込ませてしまっていた。

 

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!あなたは本当に大馬鹿者です!最低です!」

 

 穂乃果の胸元に顔を埋めたまま、海未は両手でポカポカと穂乃果を叩き始める。

 

「ちょ……いきなり馬鹿って何⁉︎しかもそんなに強く叩かれたら痛いんだけど⁉︎」

 

 流石の武道少女だけあってか、込められた力は結構なものだったようだ。穂乃果はたまらず白旗を掲げた。

 

「馬鹿の穂乃果にはこれくらいやらなきゃわかってくれないからです!馬鹿っ!宿題のために学校に忍び込むとか馬鹿以外の何なのですか!」

 

「うっ……気づかれてる。で、でも!それは海未ちゃんがちゃんと課題やれってうるさいからなんだから!」

 

 自分は悪くないと意地になっている穂乃果はプイッと顔を逸らした。何事にもストレートに感情を伝える穂乃果らしい反応であった。

 

「そりゃあ私だって海未ちゃんのことを馬鹿って言っちゃったけど、そんなに何度も言わなくてもいいで……しょ?」

 

 急に訳もわからないまま一方的に罵られたために憤慨していた穂乃果だが、顔を自分の胸元に埋める海未の姿を横目で見ている内に怒りの矛を収める。

 

「海未ちゃん?」

 

 海未に言い返してやろうと考えていた穂乃果の毒気は完全に抜かれていた。

 

「心配したんですよ……もしかしたら、もう……会えなくなるんじゃないかと思って……」

 

 海未が目元を擦り付けているパーカーは濡れていた。決して顔を見せようとしないが、間違いなく涙を流していた。

 

「もしも穂乃果に何かあったら……私は……私は……っ!」

 

 穂乃果には海未が何を言っているのか理解出来ていなかっただろう。自分が今置かれている状況に対して何も把握していないのだから。しかし、嗚咽を交えながら心情を吐露する姿を茶化すようなことはしなかった。表情は見せずとも、普段大人のように凛々しく振舞っているこの少女が流している涙は紛れもなく本物なのだから。

 

「海未ちゃん……」

 

 穂乃果がそっと海未の頭に手を伸ばす。そして、腰まで届く艶やかな黒髪を優しい手つきで撫で始めた。海未は髪に穂乃果の手が触れる瞬間、ビクッと身を震わせるが、そのまま黙って受け入れる。

 

「よしよし、穂乃果は大丈夫だよ、海未ちゃん」

 

「ほのかちゃん……ほのかちゃあん!」

 

 素直な感情表現の持ち主であることりは、溢れる涙を隠したりしなかった。微笑む穂乃果は同じようにことりの頭をそっと撫で始める。

 

「ことりちゃんも。なんだかよくわからないけど、二人とも心配してくれたんだね。ありがとう」

 

『悪いけど、感動の再会はそこまでにしてもらえる?』

 

 三人だけの時間は突如終わりを告げた。謎の声が間に入ってきたからだ。しかも、ただ聞こえてきただけではない。スピーカーを通さずに、脳の中で直接響き渡ったのだ。漫画などで見られるテレパシーを彷彿させる。

 予期せぬ事態とかつて経験したことのない奇妙な感覚に、穂乃果は不審者のようにキョロキョロと周囲を見渡し始めた。

 

「え?え?何この声?誰なの?何か頭に響いてくる!」

 

「生徒会長!」

 

 その呼び名で穂乃果の中で浮かんでくる人物は一人しかいない。先日、中庭で昼食を摂っている際に声をかけてきた少女の姿が記憶の奥底から呼び起こされる。

 

「えええええっ⁉︎生徒会長さん⁉︎あ、あの生徒会長さんだよね⁉︎うちの学校の⁉︎」

 

 取り乱す穂乃果を放置して、声は再び語りかけてくる。

 

『聞こえてるようね園田さん?』

 

「は、はい!」

 

『良かった。無事に高坂さんを見つけることができたみたいね。彼の立てた仮説は半分正しかったってわけだわ』

 

 半分、と表現したのは、作戦を立案した当人がこの場に来れなかったのが影響しているのだろう。教室内で学校の変異を待つのは絶対的な成功条件ではなかったということだ。

 

「そう言えば、教室に辿り着けたのは私達だけですか……」

 

 穂乃果に再会出来た喜びですっかり失念していたわけだが、仲間二人がこの未知の領域で離れ離れになっているのだ。今になって急に不安が込み上げる。

 

『はっきり言って芳しい状況じゃないわね。とりあえず、あなた達だけでも先に脱出してくれないかしら』

 

「わかりました。会長は私達の誘導をお願いします」

 

 穂乃果から離れた海未は目元の雫を拭い取った。

 

『ええ、天宮君と西木野さんの捜索と並行して調べさせるわ。希、お願いね』

 

 スムーズに会話を進める海未と絵里のやりとりに、蚊帳の外とかしていた穂乃果は納得出来ずにいられなかった。口を挟まずにもいられなかったようだ。

 

「なんで生徒会長さんの声が頭の中で響いてくるの⁉︎ていうか、今更だけど、その手に持ってる武器なんなの⁉︎おまけによく見たら二人共わざわざ制服着てるし!さっきからわけわかんないよー!」

 

「穂乃果、これは……」

 

『積もる話もあるでしょうけど、今はそれどころじゃないの。早くその部屋から出てちょうだい』

 

「うーん……でも、この頭に直接聞こえてくるのはなんか変な感じ……」

 

『詳しく説明してる暇は無いわ!いいから三人共、今すぐそこから離れなさい!今すぐよ!』

 

「は、はい!わかりました生徒会長殿ー!」

 

 あまりにも切羽詰まった様子の絵里に気圧され、疑問符を浮かべてばかりいた穂乃果もすんなりと従った。慌てて当初の目的であった教科書を鞄に詰め込む。

 

『実は西木野さんから超大型のシャドウを確認したって連絡が入ったの。希も今までに無いレベルで大きな反応を確認してる。正直言って今のあなた達じゃ、とてもじゃないけど対処するには力不足だわ。遭遇する前に早く脱出を……』

 

ドンッ

 

 静寂が包み込む教室の中で響く轟音。壁に並べられた貼り紙の数々がふわりと揺らめく。そこで絵里の声は一瞬途切れた。

 

「じ、地震?」

 

「いえ、これは……」

 

 地震は日本人、特に関東に住む者なら日常茶飯事の現象だ。普段なら特別大きいレベルでなければ気に掛けたりはしない。しかし、この揺れはいつものそれらとは違った。

 

ドンッ……ドンッ……ドンッ!

 

 一定間隔で揺れは起きて、その勢いを徐々に大きくしていく。やはり穂乃果達の知る地震とは全く違う。例えるならば、まるで『巨大な何か』が歩いている際の足音のように思えた。

 

『マズイわ!既にかなり接近していたみたいね!希!なんで今まで接近に気づかなかったの⁉︎』

 

 絵里が隣にいるのであろう希に向かって声を荒げている。海未には歯を食いしばると、出口である普段から見慣れたスライドドアへと目を向けた。

 

「穂乃果!」

 

「わわっ!」

 

 穂乃果の腕を引っ張っる海未。既に目から流れていた涙は拭き取られている。ことりも既に先ほど投げ捨てていた槍と海未用の弓を無言で回収していた。

 

「ちょ、ちょっと海未ちゃん⁉︎」

 

「いいからついて来てください!ことりも早く!」

 

「わかってるよ!海未ちゃんの弓も拾ったから!」

 

「では脱出しましょう!これ以上ここに居ては危険です」

 

 三人はさっきまで穂乃果が格闘していた開かずの扉と向き合う。穂乃果は頭をポリポリと掻きながら、言いにくそうに口を開いた。

 

「あ、そのドア開かないよ。さっき何度も試したんだけど、ビクともしなくて……」

 

「ことり!」

 

「うん、わかった!えーいっ!」

 

 海未の合図に合わせてことりがドアめがけて勢いよく蹴りを放った。頑強な金属製のはずのそれが紙のようにいとも容易くくの字に折り曲げられ、はるか後方へと吹き飛んでいった。

 

「ちょ……ええええええええええっ⁉︎」

 

 もしやこれは夢ではないのだろうかと穂乃果が頬をつねるも、痛みからすぐに手を離す。幼少より共に過ごしてきた穂乃果が知る限り、ことりの身体能力は部活をしていない穂乃果よりも圧倒的に劣っていたはずだった。そのはずなのに、今のことりはキックボクサーも真っ青な破壊力の蹴りを披露したのだ。穂乃果に限らず、普段のことりのお淑やかさを知っている者なら誰もが夢でないかと疑ったに違いない。

 

「海未ちゃんもことりちゃんもさっきから一体どうしたの⁉︎いきなり何処からかやって来るし、変な武器は持ってるし、ドアを蹴破れるくらいことりちゃんは強くなってるし……って学校の中がおかしなことになってる⁉︎」

 

 自分が知らぬ間に超人化していた幼馴染に驚愕したばかりの穂乃果が余計に混乱するのも無理はない。なんせ教室から抜け出した途端に大理石で造られた広間が視界に飛び込んできたのだ。穂乃果の記憶に間違いはなければドアの先には見慣れた廊下が続いてるはずなのだが、この場所にはそんな物は影も形もない。

 そのまま背後を振り向く。今度は今さっき通り抜けたばかりのドアが綺麗さっぱり消えていた。

 

「な、何がいったいぜんたいどうなってるのー⁉︎」

 

 数々の異様な現象を前に、何が起きてるのか理解出来ずに頭を抱える穂乃果。それでも海未は穂乃果を無理矢理引っ張っていく。

 

「時間がありません!急いでここから離れないと!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「希!なんで今まで接近に気づかなかったの⁉︎」

 

 真姫の時もそうだった。現場にいる少女達が報告するまで、希は気配を察知することができなかった。絵里の知る限り、強敵なら希が気づけないはずがない。本来なら強い生命力を秘めていれば、強ければ強い程、希の索敵網からは逃れられないはずだというのに。

 それは当の希も承知の上であった。

 

「そう言うても、うちだって今日は想定外のハプニング続きで戸惑ってるんよ。調べる限りは迷宮の構造もいつもに増して無茶苦茶やし、敵さんの動きも活発になってて予想が出来へん」

 

 だから、いつもに増して希は索敵に気合を入れていたつもりだった。何があっても勇敢な後輩達を見逃さず、迫り来る敵達の居場所は手当たり次第暴き立てる。100%を超えて自分の役割を全うしてみせる。

 しかし、そのはずがこの様だ。

 

「本当に突然、なんの前触れもなく反応が現れたんや。そして、またしても突然気配が消えてしまった。まるで幽霊みたいになあ。おそらく、件のどデカい敵さんの能力なんやと思う」

 

「希……」

 

 希の頬にはうっすらと雫が伝っていた。

 

「悔しいなあ。うち、もう二度と後悔したくなくて、今日までうちなりに頑張って来たつもりやったんよ?でも、結局その頑張りもまだまだ足りなかったみたいやなあ」

 

「……ごめんなさい希。あなたに当たっても仕方ないのに」

 

 いつも飄々としているはずの親友が見せる悔し涙を目にした絵里は苦々しげに俯いた。

 

「やっぱり……やめておくべきだったのよ!こんな無謀な作戦!」

 

「えりち……」

 

 希は心配のあまり、気負う親友の肩をポンと叩いた。

 

「投げ出したい気持ちはわかるよ。でも、今うちらが冷静さを失ったらあの子達はどないするん?うちだって悔しいよ。でも、だからこそ……諦めたくない!必ずあの子らを助けたい!そう思ってるんや!」

 

 希は懐から一枚のタロットカードを取り出す。そして、投げナイフの要領で投擲した。

 放たれたカードは、校門から続く桜並木の1つに深々と見事に突き刺さった。カードの表側が月の光に照らされて明らかとなる。

 

『STAR』

 

 暗示するは希望。希望への道中、何が待ち受けているのかすら不明なままながらも、旅の終着点が必ず存在することを証明する星の輝き。

 俯いていた絵里がゆっくりと顔を上げる。その表情は、迷いを捨てて覚悟を決めたのが窺える気迫に満ちていた。




次回でようやく戦闘。誰が戦うかは秘密です。ペルソナ5発売前には戦闘させる目標は達成出来そうです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。