ペルソナ×ラブライブ!   作:藤川莉桜

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P5の真ちゃんが性格からチーム内の立ち位置まで絵里そっくりで驚いてます。ラブライブ!とペルソナってキャラ造形似てると感じてるのですが、あそこまで既視感を覚えるとは。どちらの作品もアニメキャラっぽくない等身大キャラクター像が魅力ですよね。


第18話

「海未ちゃん!駄目だよ!いくらなんでもその怪我じゃ……」

 

 命に別状は無かったとはいえ、全身を擦り傷だらけにしている上に肩で息をしているような容態では無茶も良いところだろう。だが、海未は穂乃果の忠告には耳を傾けず、颯爽と駆け出した。

 怪我をしていても、疲弊はしていても大穴を飛び越える跳躍力は健在。床に転がる岩をかの義経の如く次々と飛び移っていく。静流と格闘を続ける標的との距離はすぐに僅かとなった。

 

「海未ちゃん危ない!」

 

 敵も黙って待っているはずがない。多数の腕の一本がまっすぐ、次の岩に向けて飛んだばかりの海未を捉える。今の海未の体は宙を泳いでいる状態で、とてもではないがすぐに回避行動はとれない。しかし、海未は焦ることなく、太もものホルスターから拳銃を引き抜き、流れるような動作で自身の側頭部に突き付けた。

 

「ペルソナッ!」

 

ガキンッ!

 

 引き金を引いた海未の全身から青い炎が広がる。

 

<妾はポリミューニア……>

 

 拡散していた青白い粒子が一箇所に収束し、炎に包まれながら人の姿を形取る。やがて明確になっていったそれは長身の女性だった。背中に流れる黒髪をなびかせながら、海未の守護神が現界しする。

 

<妾はそなた……そなたは妾……>

 

 纏うは青を基調にした男性向けの礼装。そして、腰には一振りの長刀。背筋を伸ばして意志の強さを見せつけながらも、女性らしく黒の長髪を優雅になびかせる。まさに戦場へと馳せ参じた男装の麗人と呼ぶに相応しい佇まいだ。

 

<そなたとそなたの友を護るが妾の役目。我が半身に仇なす痴れ者よ。妾の剣で一片残さずその身を灰燼に帰してくれようぞ!>

 

 女性は腰から長刀を引き抜き、指揮棒を操るコンダクターの如く軽やかに振るう。一瞬にして幾多の太刀筋が、刃に反射する光を伴って走る。海未の眼前まで迫っていたはずの巨大な腕は、容易くただの肉片へと切り刻まれてしまっていた。

 

チンッ

 

 別の大岩へと華麗に着地した海未はそれに合わせ、海未がポリミューニアと呼んだ女性が刀を静かに鞘へ収める。鍔と鞘が当たった際の軽い金属音が鳴ると同時に、黒い肉片の数々は直ちに霧のように霧散していった。

 一仕事終えた海未はふうと一息漏らす。件の女性も海未の背後に優雅に降り立ち、青い光を放ちながら黒髪をはためかせていた。

 その鮮やかな居合斬りはまさに神速。戦場においても高貴な振る舞いを失わぬ華麗な佇まいは、女神を名乗るに相応しい。

 

「やっぱり海未ちゃんも……」

 

 海未の背後で構え続けている女性を見て、穂乃果は感嘆した。姿形は別物だが、ことり達が呼び出していた存在と同類だと穂乃果は察している。

 

「ポリミューニア!切り刻め!!!」

 

 海未がそう叫んだ瞬間、女性の姿が消えた。

 

シュパンッ!

 

 鋭い金属音と共に、怪物の腕の内の三本が弾け飛んだ。ボトボトと鈍い音を鳴らして、醜悪な黒腕がのたうち回るように地面を転がる。腕を失い、怪物は苦しみ悶える。そんな様子を海未は冷たい目で見下ろしながら、絹のように艶やかな黒髪を掻き上げるのだった。

 再び女性が姿を現わす。たった今獲物を切り捨てたであろう抜き身の長刀がキラリと輝く。

 

「えっ?えっ?何?いったい何が起きたの⁉︎」

 

 穂乃果は緊迫した状況でありながら、間抜けな声を漏らしてしまった。率直に言って、彼女の目には何も見えなかった。気がついた瞬間には、怪物の腕が複数同時にバラバラに切り刻まれていたのだ。そして、驚いているのは穂乃果だけではないらしい。

 

 「なんて早さだ……僕の目も全く追いつけなかった……」

 

 その鮮やかな一連の動きに、離れた位置で別の腕と格闘している静流も目を丸くしてしまっている。だが、当の海未の表情は浮かないままだ。致命傷を与えたはずが、切断面からすぐさま新たな腕が生えてしまってはそうなるのも仕方ないが。

 

「やはりすぐに再生されてしまう……」

 

 舌打ち混じりに、不愉快そうに呟く海未。地団駄を踏むまではいかなくとも、その顔には焦りが見える。しかし、その間にも怪物は再生した腕を海未目掛けて伸ばしていく。

 

「ポリミューニア!氷結魔法( ブフ )!発動!」

 

 五指が海未へと到達するよりも早く、少女は叫ぶ。海未の怒声に呼応するかのように、男装の麗人は目を覆い隠すクリアバイザーから紅い瞳を一瞬光らせた後、床に向かって勢いよく拳を叩きつけた。

 

「凍れえええええええええええっ!!!!!!!」

 

 腕が海未へと届く前に無数の氷塊が空中に出現。磁石に吸い寄せられるかのように腕に降り注がれる。氷塊の大雨は衝突する毎に固着され、やがて一個の巨大な氷柱と化していった。その中に閉じ込められているのは、本来なら海未を捕まえるはずだった怪物の腕だ。獲物である海未によって逆に氷の中に囚われてしまった腕は、動かすことすらままならない。

 

「おおー!う、海未ちゃんすごいっ!」

 

「いえ、これだけでは駄目です!」

 

 氷漬けにされたことでしばらく動きを止めていたが、それも長くは続かなかった。自力で張り付いた氷を全て砕いて振り払ってしまう。拘束を脱した腕は相変わらず海未へと矛先を向けていた。

 慌てて背後に下がったおかげで足場代わりの岩を破壊されるだけで済んだ。危うく再度囚われの身になる事態は回避されたようだ。海未は額に流れる汗を手の甲で拭いた。

 

「くっ……やっぱり氷結属性の魔法が効かない……」

 

 ダメージが通るなら苦労しない。そうでなければ、一度はあの怪物に敗北を喫して囚われの身になってしまうような醜態は晒さなかったはずだ。

 

「効かない……というより決定的なダメージにならないって感じかな」

 

 忌々しげに怪物を睨む海未の隣の大岩に、あちこちに散らばった岩を飛び越えてきた静流が降り立った。

 

「あー……悪いニュースがあるんだけど、一応聞いておく?」

 

「正直言って今の私はあまり余裕が無いので、手短にお願いします」

 

 一切表情を変えない海未に少年は苦笑いしながらも、真面目な顔を作り直して続けた。

 

「実は僕のタミュラスが使う電撃属性魔法もダメージがろくに通らなかったんだ。物理攻撃も効果が薄いようだし、かなりの難敵だね」

 

 なるほど、と海未は納得しながらも不機嫌そうに静流から顔を背ける。その視線は離れた位置で穂乃果が介抱することりに向いていた。幼馴染達も自分もかなり傷ついている。この戦いにあまり時間を費やしたくはないというのが海未の本音だ。

 

「あそこでことりが倒れているということは、クレオの疾風属性も駄目だったわけですね。つまり……」

 

「ああ、あいつに通用するのはおそらく火炎属性の魔法攻撃だけだ」

 

 ことりは嵐の如き『風』を引き起こした。静流は大気を揺らす程の『雷』を放った。そして、海未は一瞬であらゆる物を凍てつかせる『氷』を呼び寄せた。どれも本来威力自体は申し分なかったはず。それでも、標的の"耐性"の前に無力化されてしまった。

 ならばダメージソースとなりえるであろう属性と言えば、彼らが知る限り、"特殊な三種"を除けば全てを焼き尽くす『炎』しか考えられない。だが、

 

「ですが、火炎を操れるのは今の所、副会長のウラーニアだけですよ。私達ではどうするのこともできません」

 

 静流はわかってる、と静かにため息を漏らした。

 

「つまり僕らには、ひとまず全力で逃げるか、それとも先輩達が救援に来てくれるのを祈るかの二択しか残されてないわけだ」

 

 後者はおそらく絶望的だろう。一番近い通り道は大岩で塞がれ、索敵をこの怪物に妨害されている。そんな中で絵里達が迷わず駆けつけてくれる保証は何処にも無い。だったら前者を選択するのが当然というものだろう。問題はこの敵の追跡能力は想像を絶するしつこさということだ。

 怪我人が複数いるというのに、彼女を抱えながら逃げ切るのは至難の技に違いない。

 

「というわけで、あの二人と西木野さんを連れて遠くまで逃げてね。よろしく!」

 

 まるでピクニックにでも行くかのような軽い調子で語る静流に対して、海未は血相を変えて首を横に振った。そんなことは決して認めないと。

 

「駄目です!さっきは私が囮になったのにすぐさま二人が追いつかれてしまったのですよ!あの追跡力を省みるに、無闇に一人だけ残るなんて勇敢を通り越して無謀です!危険すぎます!」

 

 その恐ろしさは一度は囚われの身となった海未こそ熟知している。ただでさえ有効な攻撃手段を持っていないのに、やみくもに立ち向かったところで防戦一方になるのがオチだろう。

 

「それに、もしどうしても誰かが囮になるのなら私がやります!男性のあなたがいた方が怪我していることり達を運びやすいはずですから!」

 

「でも、今の君だととてもじゃないけど、長くは戦えないでしょ」

 

 海未は図星を突かれたのか、胸を抑えながら一瞬目を泳がせた。別にこの少年でなくとも、全身擦り傷だらけな上に肩で息をするありさまの海未を見ていれば、誰でも察するに違いない。狼狽える海未の隙を逃さず、静流はそれにさ、と続けた。

 

「だいぶお疲れみたいだけど、ペルソナを召喚できるのは、後二回程度が限界じゃないかな?それじゃあ時間稼ぎにもならないのに囮役なんて無理だね」

 

 何か反論しようと口を開きかける海未だが、その前に悔しそうに歯を食いしばりながら俯いてしまう。

 

「……ええ。一度捕まる前に精神力を殆ど使い切っちまって……」

 

 渋々といった様子で海未が頭を下げた。しかし、すぐにブンブンと首を勢いよく横に振る。一瞬揺らぎが見えていた瞳からも迷いが消えた。

 

「いえ、やはり駄目です!ここは私が……」

 

ガンッ!ガンッ!

 

 地面が揺れ、何かが砕かれる轟音が響く。二人は慌てて前に向き直った。怪物が腕を伸ばし、手に持っている杯を反対側の出口情報の天井に叩きつけていたのだ。その光景に二人が唖然としている内にも、幾度も殴打された天井のヒビは目に見える程大きな綻びとなり、やがて崩壊を始めた。ガラガラと派手な音を立てて天井の破片が散らばっていく。

 いくつもの大岩は出入り口を塞がれてしまった。逃げるためのルートはたった今失われたわけである。

 

「きゃっ!ちょ、ちょっと危ないじゃないのよ!」

 

 出入り口付近で座り込んでいた真姫が拳を振り上げて怒鳴った。あと少し落下位置がズレていたならば岩の直撃を受けていたはずだ。

 

「ここの天井をぶっ壊したのはこいつだったのか。これで逃げ場は無くなった。もう戦ってあいつを倒すしか道は残されてないってわけだ!」

 

「くっ!」

 

 心なしか怪物の仮面が愉快そうに笑っているようにも思える。もはや覚悟を決めるしかないのか。苦い顏で海未が弓を手に、一歩前に出ようとした時だった。怪物が握りしめる杯が黒い輝きを放ち始めた。同時に、周囲の床も半分ほど黒い煙をユラユラと立ち昇らせる。

 

「園田さん!下がって!」

 

 海未はすぐにバックステップで乗っていた岩から距離を取る。異変は海未が離れるとほぼ同時に起きた。

 

「ゆ、床が⁉︎」

 

 今の今まで海未がいた場所が丸々消滅した。まるで別に部屋で見て大穴のように、底の見えない暗闇の世界が突如誕生したのだ。怪物に隠されていた恐るべき力に、海未は冷や汗を垂らした。あと一歩遅ければ、海未も地面を失ったために落下していく岩と運命を共にしていただろう。

 

「ふーん、どうやらデスマッチをお望みみたいだね」

 

 深淵の中へと吸い込まれていく岩を呆然と見つめずにいられない静流達。戦える範囲が狭まったせいで、逃げ回る余裕すら無くなった。

 既にしのごの言わずに戦う以外の選択肢しか残っていない。生き残るには目の前の強敵を倒すしかない。ある意味シンプルでわかりやすい展開だ。が、決して容易い障害とは言い難い。それどころか死ぬ確率の方が遥かに高い。

 

「……ごめんなさい」

 

 目に見えて悪化する状況を前に、俯き気味の海未がポツリと呟く。

 

「私が穂乃果を助けるためにあなたや西木野さんを巻き込んでしまった。きっと生徒会長が仰った通り、私こそ無謀すぎたんです。会長の忠告を聞いて慎重になれば……せめて私一人で行ったならば……!」

 

 起こってしまったことに対して、たらればでいつまでも引きずっても仕方ない。しかし、それでも口にせずにいられないほどに心折られかけていた。

 

「こんな事態になるのも予想できたはずなのに、穂乃果を救うことで頭がいっぱいになってしまって……!私は……私は!」

 

「それは今言うべきじゃないでしょ」

 

 後悔を涙混じりに吐露しようとする海未を遮る。

 

「懺悔するのはあいつをやっつけてここから脱出してからだよ」

 

 少年は得物の日本刀を構えた。絶体絶命の危機が迫ろうとも、その目はまだ死んでいなかった。




〈女教皇・ポリミューニア〉
 音ノ木坂学院2年の園田 海未の専用ペルソナ。対応アルカナはPRIESTESS。目元を青色のクリアバイザーで覆い隠し、青い礼服を纏った男装の麗人の姿をしている。腰には海未の心の中に眠る強さの象徴である日本刀を携えており、戦闘ではこれをメインの武器として戦う。
 強力な氷結属性魔法とバッドステータス付与、そして刀を用いた神速の居合斬りを得意とする攻撃特化型。スキルのバリエーションは限られている代わり、物理と魔法の両面で平均レベル以上のステータスを有する。さらにはミューズをモデルとしたペルソナの中では最高のスピードを誇り、それを活かした切り込み役を担う。欠点は運が尋常ではない程に低いこと。そのため状態異常にはほぼ確実に陥ってしまう。弱点属性は火炎。
力・B
魔・B+
耐・C
速・A
運・D

 ギリシャ神話に登場する、ミューズの一柱。ポリミューニアという表記は、ポリデュークスやヒューペリオン等の女神転生シリーズ独自の表記を参考にした作者独自の物。実際はポリュムニア等の表記が一般的。
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