Fate/melt a close   作:アクタ

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3DAYS「自己の在り方」

 同時刻、箱海市 百夜台住宅地。

「動きがあったようだね」

「そうだな」

 武家屋敷の中にゴシック建築の書斎にある角テーブル上に広がっており、それを見下ろすキャスターと久世久一がいた。

 地図上にはガラス製のチェスのような駒が六つあり、駐車場のマークが付いた高層ビルが二つ、百夜台周辺に三つあるうちの二つは横二列前の駒とそこから遠い距離だが後ろの駒は同時に動き、一つはまるで後を追うかのように動いている群体と四菱城に一つ置かれている。

 この探知機は占星術と魂を扱う術を組み合わせた物で、箱海市の霊脈を通じ「星」をサーヴァントと見立て貯蔵している魔力を 「力」と見立て六騎探知する魔術礼装である。

 キャスターの核となった戯曲では霊体を束縛する術を知っている他、ある民衆本ではギリシャ神話の随一の美女ヘレネーを召喚し子を授かったキャスターからすれば、第二要素『魂』の扱いは得意であった。

 優れた気配遮断で外部と断とうとも、貯蔵された膨大な魔力(ないぶ)は隠しきれない。

 ただ貯蔵された魔力だけを読み取るだけなので、サーヴァントの情報までは入ってこない。

 だからキャスターは、箱海市全域に一般人に気づかれにくい偽造妖精の使い魔達を張り巡らせている。

「あの一回聞いてみたかったんだけどキャスターはさ……どうして無駄な犠牲を出すのを嫌がっているんだろうなって」

 そう魔力炉心の件といい大聖杯の件といい、キャスターのやっていることはなんだか無駄な犠牲を避けている風に見えた久一は勇気を出して問う。

 するとキャスターが瞼を伏せ重々しい口調で静かに語り出す。

「私が十五の時、私は父が作った霊薬を人々に配り歩いたが……患者は(みな)死なせてしまったのだ。

 これが不必要な犠牲を嫌う根底の一つだ、何故(なにゆえ)父は自覚がないとはいえ、その霊薬が安全かどうか確かめなかったのか父に憤りも感じた」

 今思い出せば、とても恐ろしい事をしてしまったとキャスターは付け足す表情を見た久一は相当堪えたのかと思うと表情を暗くする。

「そう、だったんだね……」

「ああ。父は独学でここまで上り詰め、私に素晴らしい求道を託すまで努力できるところは尊敬している……だが、父は大量殺人者である事もまた事実――――その罪の支払いは私達は協会に追われる形となったが」

 無表情だが複雑そうな雰囲気を醸し出しているキャスター。

「あーやだやだ根暗ねーお二人さん、明るくパアッといきましょうや!! 話変わるけど大聖杯のところいつ行くんだよ!」

 そうキャスターが憑依させている悪魔が二人の暗い空気を壊すかのように割り込んでくる。

「そう急かすな尨犬。大聖杯行く前にいくつか寄り道をしたいと計画していたところだ」

「って事はもう掴めたのかい? 大聖杯の居場所」

 久一は早いと呟いて驚愕の表情を浮かべるとキャスターは薄く微笑み答えた。

「ああ――――それでその寄り道なのだが……」

 キャスターは計画(プラン)を話そうとした時、丁度爽やかな青年ワーグナーが羊皮紙の束を両手に抱えてやってきた。

「流石ワーグナー仕事が早いな、それはあそこに置いてくれ」

「分かりました。博士これで全部ですね」

 そうワーグナーはソファーに紙の束を置くと、キャスターはその紙の束まで近寄りながら話す。

「まずはセイバーのマスター……使い魔と仮称しよう。

 それは何故(なにゆえ)、参戦しているのか興味が沸いた。造り主の代理人ではなさそうだし、かといって自由意思が保証されている……まるで個の人間であるかの様に動いている(、、、、、、、、、、、、、、、、)――――使い魔の正体は何かと暴きたくなってしまってな、マスター、君ならどう推測するか?」

 ソファーに辿り着き立ったまま羊皮紙の束を捲り眺めてピタリと止めると、一枚抜き取り内容を確認するとそれを久一に渡す。

「これは?」

「今まで偽造妖精から見た参戦者達を記録した物だ……まだ実力を見せていないマスターが多数いる為に未完成な物もある」

 その羊皮紙はセイバーのマスターの身体的特徴、性格、行動パターン、魔術、更には正確無比な一組のスケッチなど偽造妖精の目を通じて得た情報が日本語で達筆に書かれており久一でも読めた。

「これキャスター一人で書いたのかい?」

 いつの間にと久一が見ないところで敵対者達についてメモをしたのかと訊ねると、キャスターは「そうだ」と返ってきた。

「日本語……! しかも僕より字と絵がうまい」

 思わず感心する久一にキャスターは不思議そうに首を傾げる。

 その仕草はまるでフクロウが首を傾げているみたいだと久一は思っていた。

「日本語で書くことがそんなに可笑しいのか? マスターに出来るだけ有利な情報を提供するのがサーヴァントの勤めだろう?

 だったら書く言語はドイツ語ではなく、日本語が相応しいと私は判断しただけだ」

 そうキャスターは答えると久一は記録書を眺める。

「まるでキャスターがマスターみたいじゃないか……仕方がないとはいえ何もできない自分が情けない」

 久一は八の字に眉を寄せる。

 魔術師としてのキャスターと力量の差があまりにも違いすぎて従える者として自信を無くしてしまいそうだと、久一は本音を漏らすとキャスターは淡々と言ってきた。

「何を言っている? 私はマスターの願望と私の願望を叶える為に契約した使い魔だ。

 マスターを度外視する行為は契約違反ではないのでは? そうでなければ、一々君に偽造妖精から見た情報を報告していない筈だ」

 久一は「確かにそうだったねと」きちんと報告していた事を思い出しているとキャスターはその台詞を付け足すように、話を続ける。

「無力と嘆いているのならば私にも提案がある―――――万が一に備えて君が身を守れるよう、私が本格的に魔術を教えようと思うのだが……受ける気はあるのか、クゼ・ヒサイチ」

 キャスターは真剣な眼差しで久一を射抜く様に視線を浴びさせると、久一の顔は強張り固唾を飲む。

 久一は確かに魔術に関しては素人、だが今は最高の師を得られるチャンスを眼前にしているのだ。

 だが自信がないのか口ごもってしまった。

 キャスターの様に果たして才覚があるかどうか不安だったからだ、そんな表情を浮かべると悪魔が軽快に語りかけた。

「おう、こんなチャンス二度とねえと思うぜ。何しろ旦那は人類最強の魔術師のひとりなんだぜ、そんな高嶺の人間がお前の為に教鞭を振るってくれるんだって、この機を逃しちまったら一生起源に怯えるちっぽけ少年だ。さあ選べよ、人間!」

 その言葉を聞いた久一はすっかりと黙り混んでしまったのでキャスターは、しかめっ面を浮かべて注意する。

「尨犬――――お前には関係のない話だ。これは私とマスターの大事な話だ口を出すな」

 へいへいと悪魔は黙ると久一は考えた、何もしないでこのままキャスターの後ろで待機するか、それとも人が死んだら悲しめるようになるという望みを叶えるならば、少しでも戦うか。

「――――――」

 キャスターだって久一の為によく尽くして貰っている、キャスターだけで戦い自分はそのおこぼれを貰って進む様は、先程紡いだ単語が再び頭の中に浮かんだ。

「キャスター……僕に魔術を教えて欲しい。キャスターだけ働かせて僕が何もしないのはやっぱり腑に落ちないから、教えれる範囲で頼むよ」

 答えなどつい先程得ているのではないか、マスターならばサーヴァントが尽くされた分まで応えなくてはならない。

 社員の立派な働きに社長はそれに見合った形で応えなくてはならない。

 これが久世久一が導きだした結論であった。

 キャスターは立ち上がってこちらに近寄ってくる音が聞こえたので、何されるのか不安が過った。

 そして立ち止まったのか音がピタリと止むと、いつもの抑揚がない声でキャスターは返答した。

「顔を上げて欲しいマスター。君には天から授かった稀な才能を持っている、私は魔術師としてその力を引き出して見せよう――――さて、講義の前に大分横道がそれたが……改めて聞こう、君の価値観でこの使い魔(マスター)は一体何なのかを推測できるか?」

 と本題に戻しセイバーのマスターを表面から見た情報から本性を導きだすかと再び訊ねると、久一はじっくりと考えた後にこう推測を立てた。

「僕はね――――自我が芽生えたホムンクルスだと思うよ、もし一から作った人形だったらさ操る人がいない限り魔術は使えないと思う」

 久一はホムンクルス説を立てる。

 キャスターはセイバーのマスターを人間扱いしなかった、そして一端の魔術師が人形を作れば恐らくは人形からの魔術行使ができないのだろうと、久一は推測する。

「私もそう思っていた。自身と寸分違わず同じ性能を持つ人形を制作する技術は、最早神域に等しい……従ってあの使い魔は魔術回路から鋳造されるホムンクルスの方が何千倍も確率が高いと私は読んでいる」

 二人の推測は同じ物を指していると思わせたが、キャスターはさらに補足として言葉を紡ぐ

「だが一つだけ気になる事実が――――セイバーのマスターの魂の色は愚か所在すらも判明できなかったのがどうも引っ掛かっている。

 彼は生まれながら完全な人間(ホムンクルス)ではなく、動く死体(リビングデット)の可能性もある……」

「つまり……セイバーのマスターは既に死んでいるって事?」

 魂の所在が分からないという事は体には魂がないとの同義、魂の扱いに長けたキャスターが言うのだほぼ間違いはないだろう。

「簡単に言えばそういう事になる……だが動く死体(リビングデット)にしてはあまりにも人間として自然に振る舞い過ぎている。最早、生前の再現の域だ」

 キャスターは眉を深く寄せて困惑した表情を浮かべていた。

 キャスターをここまで困惑させている、セイバーのマスターの造り手は一体何者なのだろうかと久一は思う。

 そして監督役の魔術礼装(さくひん)も精巧な造りだったが、あれより力量が上なのかと思うと久一の背中に戦慄が走る。

「まあ実際会わないと分からないよね……そうかだから会いに行きたいんだねキャスター。真実を確かめるために(、、、、、、、、、)

 キャスターは覆っていた掌をテーブルに置き、困惑の溜め息を吐き終えると答えた。

「ああ、私は人形に関しては専門外故に……真実(こたえ)を導き出すのは実証しかない。

 そこで――――マスター、君の起源の力が必要になってくる……修行にもなって丁度いい試練だ」

 久一は長年苦しめたその単語を聞くなり、活路になるのかとまさに目から鱗な感情になった。

「僕の――――起源が?」

 信じられないと久一は態度で示し、それを見たキャスターは久一の肩を優しく手を置いた。

「ああ。仮説だが、世は生滅を繰り返す事を示す起源ならば――――既に滅んでいるが生きている存在に対抗できる術を編み出せるのかも知れない」

 そうキャスターは仮説(きぼう)を淡々と告げると、長年悩ませた起源に打ち勝ちたい願いを抱える久一の心がまた救われた気持ちになっていた。

 

 

 エルリカが砂鉄魔術について質問責めされてからもうすっかりと日が暮れ、俺達はサーヴァントの気配を辿って探索していた。

 お嬢様の自室というよりも、鍛冶屋の仕事場見たいな自室で方針について話し合っていた。

 エルリカが出した提案はキャスター探しするならば夜は一塊になって動く事であり、千里眼スキルがなければ捉えられない程遠い距離の前方にロミオを配置し、セイバーは俺達の近くに配置する陣形を考えたものであった。

 俺は首を傾げたが、ロミオ――――アーチャーは弓も扱えるらしく、奇襲された際にそのサーヴァントを狙撃し身を守る役割を、セイバーは白兵戦に長けている事を生かし矢を躱されても、セイバーがそれを仕留める役割をエルリカは与えたと簡潔に説明してくれたので作戦内容は分かった。

 エルリカは俺が考えた案"夜、キャスターを探索する"計画について賭けだがやらないよりはマシだと評した。

 因みにエルリカが浮かんだ探索法は残留魔力を探知する魔術礼装を用いた方法を提案したが、アーチャーは箱海市に張り巡らされた使い魔や他のサーヴァントが蠢いている状況で、正確に居場所を突き止められるかと指摘され没にされた。

 というわけで今俺達は駐車場のあるビルへと向かっている。

「ああもう! ますます惜しい!! 魔術回路に異常がなければ用途がもっと広がるというのに……」

 エルリカは歯軋りしながら俺を見ていたが、なんでそんなに悔しそうなのか俺にはよく分からなかった。

「そんなに珍しいのか? ただの砂鉄だろこれ?」

「そのサテツという素材に目をつけたのはいつですの?」

 もしかして俺の魔術というよりも砂鉄自体に興味示してんのか。

 外国だとないのか砂鉄。

「――――あれ? 本当だいつだったろう、物心ついた時から砂鉄を操る魔術を使っていたような……」

 思い出そうとしてもまるでテレビの電源がいつまで経ってもつかない、過去の映像。

 どうして砂鉄魔術を学ぼうとしていたのだろうか、自分の事なのにすごく不明瞭だ。

 そしてエルリカの指摘で疑問に思ったのだが、そもそも加目家は一体なんの魔術を継承してきたのだろうか。

 俺は複雑な表情を浮かべていると、エルリカの顔が強張っていたので俺は何かおかしな事を言ったのかと問うと、エルリカの歩みは止まり視線を落としたので俺も足を止めた。

「……あなたもしかして、親から魔術を学んだのではなく生まれながらにして魔術を知っている(、、、、、、、、、、、、、、、、)感じでしょうか?」

 その表情は腫れ物を触るような顔だった。

「多分な……エルリカの言葉で振り返ったが親父に学んだ記憶が何故か思い出せないんだ。きっともっと小さい頃に学んでいたと思う」

 忘れているだけだろうと俺はそう結論に至ったがエルリカがものすごい剣幕で俺に寄り詰め、怒声を浴びさせた。

「そんな筈はありませんわ!! (わたくし)から言わせれば魔術師にとって親から教わる日々はとても大切な記憶――――そんな大切な記憶を蔑ろにする行為はありえないと思いますわ!!」

 エルリカにとって今まで磨き上げてくれた恩師に対して侮辱に等しいという事なのだろうか、しかし俺は侮辱はしていない。

 何故ならば思い出そうとしてでも思い出せないのだ、とうの昔に捨てた物を探せと言われても探せない感覚に俺は陥っていた。

「蔑ろにはしていない、ただ思い出せないモノは思い出せないだけだ」

「いいえそんな筈はありませんわ、あなたはホムンクルスでもなければ使い魔でもなければ、根源接続者でもない。

 ちゃんと一人の人間として生を受けているにも関わらず「生まれながらにして魔術を知っている」事自体おかしいのよあなたは……」

 その青い目は人を射抜く様な鋭い視線を発していたので俺は硬直した。

「カメン・ナミア、あなたは一体―――――何者?」

 額から脂汗が吹き出てきた、エルリカの視線が痛い。

「俺は……俺は……加目波也だ。三割しか魔術回路を開けないできそこないの魔術師だ……」

 今紡げるのはこの三単語だけだった。

 俺の顔は目を見開き困惑のあまり引きつっているのだろう。

「――――その続きは? カメン家は一体何の魔術家系なのかしら? どうして砂鉄を選んだのかしら?」

「それは―――――」

 その続きを話そうとなんとか思い出そうとするが、巡る意識は魔術回路を強制的に開こうとした時みたいになっていた。

 このまま行けば立っていられない俺は唐突に意識を失いそうになったが、突如背後からサーヴァントの気配を察し、それに気づいたエルリカは強ばらせた顔から驚愕に変わり叫んだ。

「ナミア!!」

 隣にいたセイバーが音もなく現れたアサシンを倒すため俺の背後に回り込み突進する視界から、俺は意識を失いかけた為反応が鈍った体を半回転すると、だるまさんがころんだをしたらもうタッチできる距離まで詰められた髑髏仮面の黒衣は心臓を突き刺さんと、迫る視界に切り替えた。

 その早業は「盾」を形成する隙など与えなかった。

 何かを形成する時、いくら素早く形成してもどうしてもタイムラグが発生する。

 恐らくはアサシンはこれを見抜いたから、こんなにも接近したのだろう。

 そして俺の背後を取ったという事はアーチャーがエルリカと同じ前方にいる為、アサシンを殺すには俺事射ぬく様仕向けたのかも知れない。

 彼方から膨大な魔力を感じ取り俺は死を覚悟するが、せめて最期の抵抗として小さくではあるが心臓を守るための盾を形成しようと魔力を砂鉄に送り込み詠唱を唱える―――――刹那だった。

「!?」

「な―――――」

 俺もセイバーもその光景に目を疑った。

 何故なら、前方にいた筈のアーチャーが、アサシンの短刀が握られていた手首を横から射る形で攻撃したのだから。

 アサシンは呻き声一つあげなかったが、今起きた状況に理解できないという事が仕草で読み取れた。

 そして手首から血を流しながら後ろに退却し、辺りを警戒するがアーチャーの追撃は止まらない。

 今度はアサシンの前方を狙って二本三本と矢の雨を放つが、流石山の翁の名は伊達ではないらしい、退却しながら無事な片手で、金属音を全く感じさせぬ銀線は降り注ぐ矢を弾き地面に消滅させる。

 俺の目は十五発ぐらいは放たれたように見えた。

 いつ見てもサーヴァントの戦いは人の領域を超えている。

 アーチャーとセイバーの剣戟だってそうだ、あの中に入ったら体がミキサーみたいに砕かれると感じたのだから。

 そうこうしているうち十六発目は何故かアサシンの背後から放たれる形となる。

 アーチャーの矢は横だったり後ろだったり色々突っ込みたいが、今は野暮であろう。

 風切り音を矢を放たれた瞬間察知した為、後ろを振り向いて矢を弾くと春一番のごとく後ろに飛び下がり、電信柱の電線に飛び移ると直ぐ様その場を立ち去っていった。

 アーチャーの弓術を目の当たりにした、マスターであるエルリカも引きつり笑いを浮かべて一言呟く。

「想像していたよりずっとデタラメねロミオの弓は――――」

 デタラメ通り越して物理法則無視してませんか、お前のアーチャー! 

 弓で全方位自由設定できるのかってぐらいの攻撃だぞ!

 いくらサーヴァントとはいえ前方に放った矢を横や背後に狙えるか普通!

 エルリカがドン引きする気持ちもわからなくはない。

「マスター申し訳ない……!」

 セイバーは謝罪していたが俺は気にしなかった。

「今のは仕方がないだろう? 気配遮断されて背後に回れたんだ、セイバーじゃなくとも不覚を取るよ」

 まるで静寂から生まれたかのような奇襲は、アーチャーがいなかったら死んでいたのだろう。

 そんな中エルリカは思わず感嘆を漏らしていた。

「あの暗殺者……殺せないではなく殺されると思ったら無駄な戦いをせず真っ先に退散したようですね懸命な判断ですわ」

 アサシンは七騎のクラスの中では比較的弱い部類に入る。

 白兵戦を得意とする三騎士や、宝具が優秀と謳うライダーと違って得意とするのは隠密行動や諜報活動、そして――――マスター殺しのサーヴァントとして名高い、さっきの奇襲も実に利にかなっていた。

 恐らくは俺達が衝突していたのを目撃したのだからだろうか、エルリカは魔術師としては性格はともかく俺なんか足元にも及ばない。

 だから殺すならばこの中で一番弱い俺をアーチャーもセイバーもすぐに攻撃できない立ち位置こそ、あの場所だったのだから。

 だがアーチャーの攻撃はアサシンの想定外だったワケというか、あんなの誰が想定するか。

「アサシンを追跡しても構わなくてよロミオ……根城を探すなり射るなりあなたの判断に任せます」

 エルリカはそうアーチャーに指示を出すと、話の続きと言わんばかりな態度を示す。

「……ナミア、思い出せないのならば家の中を調べるなり、あなたのお父様に聞くなりしなさい。

 答えを得るまで(わたくし)待っていますから」

 そう猜疑の表情を浮かべたエルリカは一言言い残し立ち止まる俺を追い越して立ち去っていた。

「――――」

 本当に何も覚えていないのだ。

 魔術に関する記憶はお袋が魔術回路を診た記憶、親父が時計塔の講師で日本に帰って来なかった事だけであり俺が使っている魔術は誰かに教わった記憶がすっぽりと抜けている。

 母親なのか父親なのか分からない。

 母親―――――そういえばお袋は……家にいない。

 何の病で死んだのか? それとも離婚したのか?

 なんで家にいない事すらも記憶として欠落している。

 俺は一体―――――

 考えれば考える程頭痛がして目眩がしてくるのでセイバーは心配そうな顔で、俺を見ていた。

「大丈夫だセイバー……っ!」

 体が倒れそうになるが踏ん張ると吐き気に似た感覚が襲ってきた。

 加目波也はどういう成り立ちで人間形成してきたんだ、記憶がところどころ虫食いで辻褄が合わない。

 加目波也は果たして人間なのか?

 加目波也は果たして創造物なのか?

 汗を流し、料理を楽しみ、ライダーのマスターが鋳造主に虐げられる現状に憤りを感じる俺は一人の人間だと思いたい。

 そうでなければ何故三割しか魔術回路を開けない物として生み出されたのか、理解不能であった。

「あのマスター……なんだか顔色が優れませんね、今夜はここまでに致しましょう」

「そうしてくれ」

 そう答えるとセイバーは自身の腕を力尽きた俺の肩に回すと肩に抱えられ俺達は、容態悪化で自宅に帰還した。

 

 

「さっきナミヤについて何に怒っていたのですか?」

「ロミオ」

 エルリカは夜の住宅街を歩きながら帰路につく途中アーチャーが念話で語りかけてきたので、先程起こった話を一字一句逃さず話すとアーチャーの口調は少々重かった。

「成程……ナミヤには記憶障害があるというわけですか」

「まだ確定ではありませんが、魔術師にとって、家族にとって大切な思い出の筈なのに……それを思い出せないなんておかしいわ」

 エルリカにとってそれは、父親の師事がなかったらこそここまでこれなかったという感謝の意を含めて大切な思い出でもあった。

「魔術師とは少し違いますが私にも分かりますその気持ちが」

 そのアーチャーの台詞を聞いたエルリカはにんまりと意地の悪い笑みを浮かべていた。

「フ、フ、フ、あなたはズバリ恋人の事ですわねえ?」

 アーチャーは千里眼でくっきりはっきりとエルリカの表情を見たのか、喋りに戸惑いの色を見せた。

「マスター……もしかして恋愛の話好きですか?」

「何よ文句でもあります?」

「……いえ何も」

 アーチャーは即答するとエルリカは「よくてよ」と返し、話を続ける。

「だってあなたは恋人の為に今まで王の元を二度も立ち去っているもの、余程大切な人なのでしょうね」

 顔を赤らめ両手に頬を当てて悶えながら黄色い声でキャーと叫んだのだが。

「――――一度目はともかく、二度目の事を思い出させないでください」

 アーチャーの口調(ねんわ)が冷たく重々しいものに変わったのでその表情は一気に真剣な顔へと叩き落とされエルリカは戸惑いの表情を浮かべた。

「……ロミオ? 二度目ってまさか――――」

「キャメロットに棲む赤き竜の事です……彼は私達の恋慕を褒美の領地と同等の価値と見出だした事だけは許せないのです」

 エルリカは思ったアーチャーが近くにいたら一体どんな表情をしているのだろうか、それぐらいアーチャーの口調は緊迫に満ちていた。

「恋人の事を大切に思うあまりの発言なのかしら? けれども前に彼について悔いは少しあると仰っていたけど……うーん」

 エルリカは腕を組み首をかしげ難しい表情で考え込むとアーチャーは補足してきた。

「怒りはあなたの言う通り私自身の感情です、そして悔いは私という臣下としての感情なのです。

 かつて私は彼と同じ道を歩みましたから……故にこのまま放置するといずれ瓦解が始まると確信した上で、陛下に伝える為厳しい言葉で忠告致しました」

 エルリカはここで伝説とは違うのだなと思っていた。

 世界中で流布している伝説の真実は一体どういうものだったのだろうか。

 エルリカはアーチャーのキャメロット時代にも興味が湧いてきたが、いずれ夢の中で判明する事だろうと思い、あえて質問しなかった。

「あなたの昔話の続きは夢で見るとして、アサシンについて報告お願いしますわロミオ」

 エルリカは空を見上げながら町中を歩く。

「まず根城についてですが私に気づいたので即座に霊体化と気配遮断してしまった為、追跡は不可能になりました」

 アーチャーはいつもの凛々しさと穏やかさが同居した声に戻っているので、機嫌は直った様だとエルリカは安堵する。

「追跡中気づいた事があります。瓦屋根をご存じですか? マスター」

「ニホン建築特有の屋根に使う物ですわよねそれが何か?」

 流石物作りの一族である、日本語は通じなくともこういう分野は教養として叩き込まれているらしい。

「彼が霊体化する前瓦屋根を歩いた際、裸足にも関わらず音が何一つ聞こえなかったのです。衣擦れ音は愚か風切り音すらもありませんでした」

 その言葉を聞いたエルリカはあり得ないといった表情でアーチャーの報告に疑問を抱く。

「からかっているのかしらロミオ「肉体」がある以上、無音な状態で保つなんてサーヴァントですら不可能ですわ」

 物体は音と切り離せない存在である、物があるから音は出る。

 こんなの小学生にも分かる事だと、エルリカはまたからかわれているのかと感じていた。

「では先程のナミヤの奇襲を思い出してください、アサシンは私の矢を短刀(タガー)で弾いていた時……刃で矢を弾く音していましたか?」

 エルリカは怪訝な顔を浮かべ片手で矢の雨を弾き退却する姿を思い出す。

「―――――あ」

 一気にしまったという顔に変わると同時に呆れ口調のアーチャーが頭を響かせていた。

「戦場において観察力は大切ですよ、ランサーの事笑えませんね」

 ランサーがつい周りの風景よりも感情を優先した事をエルリカは呆れていたのをアーチャーは掘り返すと、エルリカは不機嫌な顔に変わる。

「相変わらず一言多いですわね」

「そうですか?」

「ええとても」

 そう淡白に言葉を交えると、エルリカは黙り込み数秒の末、思い付いた事を口に出す

「もしかしてアサシンは自身を含めた周囲の音を断つ宝具なのかしら」

「ええ可能性はありますね。もしそれが本当ならばこれはかなり厄介ですよ。

 もし戦いの時建物の陰に潜まれたらサーヴァントの気配だけが頼りになるし、先程のように霊体化して標的に接近し気配遮断が解かれても音だけは完全に断たれている為、気配に気づき振り返った時にはもう暗殺されています」

 アーチャーの説明にエルリカは戦慄した。

 侵入したのは判明するが、どこからくるのか全く分からない恐怖を叩きつける戦い方を持っていけるアサシンを考えただけでも背筋が凍る。

「黒衣で全身隠していましたから、恐らくは秘技により改造済みなのでしょう……報告は以上です」

 エルリカは頷くと一言アーチャーに言った。

「分かりましたわ、では引き続き私の警護任せましたわロミオ」

 そしてエルリカは、もし記憶障害でなければ過去に執着を持たない波也についてもっと自分の事を知るべきだと思っていた。

 

 

 




マスター:コレット・シャルトリュー
クラス:アサシン
真名:ハサン・サッバーハ
性別:男
身長・体重:160cm・45kg
属性:秩序・悪
・ステータス
筋力:C 魔力:C 耐久:D 幸運:E 俊敏:A 宝具:D


・クラス別能力
「気配遮断:A+」
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を断てば発見する事は不可能に近い。
 ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちるが「■■■■」の恩恵によりすべての動作音だけは完全に断てる。

・固有スキル

「■■■」
 

「千里眼:D」
 視力の良さ。
 遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。

「投擲(短刀):C」
 短刀を弾丸として放つ能力。

「心眼(偽):D」
 野生で培った直感・第六感による危険回避。
 野性動物の生存本能に匹敵する。 


・宝具
■■■■(ザバーニーヤ)
種別:■■■
ランク:■
レンジ:■■
最大捕捉:■■
・詳細

―――――――

マスター:エルリカ・バルト・フレンツェ
クラス:アーチャー
真名:
性別:男
身長・体重:174cm・65kg
属性:中立・善
・ステータス
筋力:B 魔力:D 耐久:A+ 幸運:E 俊敏:B 宝具:A


・クラス別能力
「対魔力:C」
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

「単独行動:C」
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

・固有スキル
「■■■」
 
「千里眼:B」
 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。また、透視を可能とする。
 さらに高いランクでは、未来視さえ可能とする。
 
「竪琴の演奏:C」
 詩歌の才能があり、いつも竪琴を持ち運んでいた事から。
 演奏を聞いた者には魅了の効果が付加されるが、アーチャーがトラウマになっているので一般人でさえも抗う事は可能になっている。

「無窮の武練:A」
 ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
 いかなる地形・戦況下にあっても十分の戦闘能力を発揮出来る。

「変装:C」
 敵地では商人、恋人の逢瀬では乞食に変装しても身の上を明かすまで正体を暴かれなかった過去から得たスキル。
 また親しい知り合いや「真名看破」でさえ、自らの正体とステータスを完全に隠匿できる。
 しかし「貧者の見識」「人間観察」等といった本質を見抜くスキル、そして彼の戦闘方法や、武器、宝具、彼にしかできない知らない情報を開示されれば正体を看破する事は可能。
 彼の場合フードで顔を隠さないと発動せず、フードを脱ぐと無効になってしまう。

・宝具

・詳細
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