Fate/melt a close   作:アクタ

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3DAYS「水面の波紋」

 箱海の聖杯戦争の発案者兼監督役のアルヴィン・エクルストンは頭を抱え沈み込み悩んでいた。

「まだ七騎揃ってから三日目だぞ、重大なところまで開示されなきゃいいんだがこのまま放置すると色々とマズイぞ……」

 監視員からの連絡で加目波也はエルリカと接触し同盟を組んだと聞いて、アルヴィンは窮地に立たされた気分になった。

 この日の為に箱海の管理者(セカンドオーナー)となり、この日の為にフレンツェ家に大聖杯を鋳造させ早七十年。

 緻密な計画を一気に崩壊される出来事だからこそ、アルヴィンの心労は加速する。

 エルリカの性格は完璧主義かつ白黒つけなければ気が済まない性格な為、ちょっとした矛盾にぶつかるとその矛盾を改めろと加目波也に申し立てるのが目に見えている。

 まだポールの様なお気楽な快楽主義者の様な人間ならば、その矛盾に気づかず無事に事を運べるのだが……アルヴィンにとって組む相手が悪すぎた様だ。

「キャスターといい、エリィといい。なんでこうもこちら側に介入してくるんだ」

 キャスターもまた虎視眈々と大聖杯を狙っているのだろう、あのタイプは放置しても別の方法で大聖杯を探知する(すべ)を考えているかもしくは、魔力を節約する為か、それとも魔術より人から聞いた方が効率がいいと考えたのか、その答えはキャスターしか知らない。

 後者はまだ仮定だが聖杯を探る者達が各々(おのおの)寄り添った結果になったのを見るとまさか抑止力が動いているのではないかアルヴィンの表情はますます曇らせていく。

 抑止力とは統一された意識の一つ―――――この世を存続させたいという霊長全体の無意識の願いが働き、それを止める存在を生み出す力。

 無意識故に抑止力として選ばれた人間は抑止力という自覚はない、だからこそアルヴィンは焦燥を見せていたのだ。

 アルヴィンが聖杯戦争を通じてやろうとしている事は、星にとっていい事だと思ってやっている事だが、(ガイア)かもしくは霊長(アラヤ)かそれを驚異と判断されたのかとアルヴィンは思った。

 どうする、そんな不確定要素と戦う事になれば、事を進めるのにますます警戒をしなくてはならない。

 チェス盤の向こう側は全人類の意志、駒を巧みに操るその敵に対して少しでも有効な布陣考えなければ。

 アルヴィンはそう思い詰めていると、ノックして書斎風の自室に入ってきたメイド人形が立っていた。

「主人、あなたが伝えた事を彼に報告しました」

 そう告げるメイド人形にアルヴィンは顔を伏せたまま返した。

「ありがとう。それで『小聖杯』の中枢に何かあったかい?」

 メイド人形は小聖杯のある部分を視覚化の術式を見た結果をそのまま報告した。

「記憶に疑っている部分はありますが……まだあそこは開示されていないみたいですね」

 監視員に電話で報告してくるついでに小聖杯の中枢の様子を見てくるよう命じ、その報告を聞いて胸を撫で下ろした。

「如何致しましたか?」

 安堵したとはいえ浮かない顔の主人に、メイド人形は問いかけるとアルヴィンは自分にも言い聞かせるように答えた。

「いや……思った以上に事が深刻でね、取り合えず辻褄が合うよう話してくれと言ったから多分大丈夫」

 ようやく俯いた顔を上げて、応急処置というヤツさとアルヴィンは付け足す。

「そうですか、聖杯が満たすまで持ちこたえるといいですね」

 メイド人形は小聖杯について心配している台詞を紡ぐとアルヴィンは微笑む。

「その点は心配しなくていいよ。彼が途中で脱落しても私の計画に支障はない、例え満たされずに大聖杯に投下しても満たされた時に開錠するればいい話さ」

 そして真顔に代わりそう答えるとメイド人形は微笑まず、ただ順応な従者として答えた。

「分かりました。今はただ成就を祈っています」

 

 

 俺は家に帰り生活必需品以外は何もない自室に入り、布団を床に敷く。

 "ちゃんと一人の人間として生を受けているにも関わらず「生まれながらにして魔術を知っている」事自体おかしいのよあなたは……"

 エルリカの言葉が脳内に響く。

 玄関に靴を置いた頃にはもう寝ていた親父の寝顔を見て、明日になったらちゃんと話し合おう。

 俺は一体どんな生き方をして今の俺が生まれたのを―――――

「……たく、エルリカはああ言っていたけど俺は俺だよな」

 よく考えれば人間として生を受けたという台詞は、パートナーが人間だと信じたい心理とも読み取れる。

 知り合ったばかりの他人にそこまで心遣いするとは―――――ああ見えて結構お人好しなんだなと、俺はエルリカを見る目が少し変わった。

 俺は一体何者だろうか。

 俺は一体どんな子供だったのか。

 子供の頃を調べようと部屋を見渡し、今気づいたのだが本棚は愚か机すらないので小中学生時代の卒業アルバムが見つかる確率は低いだろう。

 ならばと俺はクローゼットを開くとランドセルはとうの昔に小学校を卒業している為、高校三年生時点で持っている方が貴重なので候補を外す。

 公立小野高校の学ランはきちんとハンガーで掛けられている。

 そして新品のように見える学生鞄が置かれていた。

 まずは学生の証は揃っているので安堵した。

「後は卒業アルバムとか教科書関係が見つかりすれば……」

 制服や学生鞄は他人でも簡単に用意しやすいので、卒業式に配布される卒業アルバム、四月に配布される教科書は本人の所有物を用意しない限り揃えるのが難しいと俺は思ったからだ。

 それに今学校は受験の為三年生だけ自習期間に入っているので、教科書は持ち歩かず机や本棚に収納するのだがそれらは見かけないので探しようがない。

 どうやらうちは机を買って貰えなかった方の家庭だろうと買って貰った記憶がないので、そう推測するしかなかった。

「―――――」

 もし自分が何者の思惑で生み出された存在だったら、情報統制を徹底的にやっているなと感心する。

 数十分かけて部屋を調べた俺は音を上げてしまった。

「くそ、こうなったら親父次第だな」

 俺は布団にダイブして床に伏せ、枕を顎に乗せる。

 物的証拠がない以上全ては親父にかかっている。

 邪魔にならないよう気遣ったのかセイバーは霊体化を解き、心配そうな顔で赤いつり目がちの双眸を向けられた。

「……あのマスター、先程思ったのですが――――どうして過去を振り返った際顔色がよくなくなったのでしょうか……まさかトラウマの類いですか?」

 どうやらセイバーは俺の身を案じているらしい。

「いやトラウマらしいものは心当たりはないし、記憶にない。

 俺そんなに悪かったのか? 確かに意識失いかけたが……」

「ええ。まるで全身の血がなくなったかのように真っ青でしたよ」

 そんなにかと俺は驚いた。

 何故エルリカの質問責めでああなったのか、全く分からない。

 だがこれだけは判明している。

 思い出そうとすると俺の魔術回路みたいに開かない先を行くと、俺の意識は真っ白になる事を。

「……なあセイバーもしさ、お前が人間だと思っていたけどある日人間じゃないんですと分かったらお前はどうする?」

 その質問にセイバーは少し視線を反らすがすぐに俺の目を向いた。

「何故そのような質問を?」

「いや単なる思い付き」

 あっさりと俺は返すとセイバーは深刻な表情から柔らかい少女の物となり、物語を朗読するかのような口調で答えた。

「それでも私は私です、例え仮初めの肉体を持とうとも私は私の責務を果たすだけです」

 責務ねえ……セイバーは英雄だから責務という単語が出たのだろうか。

 俺からすれば予想外である。

「無名とはいえ英霊らしい答えだな」

 生憎、俺は戦争に縁がなく救うべき民衆がいないので天命(せきむ)を果たすなんて単語は出ない。

 ある人の過去をあった事にする為に参戦したセイバーらしい答えだと、俺は感心していた。

「そうでしょうか?」

「なんだか無自覚なのもお前らしいな」

「どういう意味ですか?」

「そこ聞くところかよ」

 俺はそう笑うとセイバーはもう少し歳が小さければ頬を膨らませていそうな表情で訴えていた。

「だからこそお前は英雄になれたんだと俺は思う」

 そこで俺は一旦区切り話を続けた。

「にしても私は私か……ベタだけど確かにそうだな。けれどもそれは誰かの為に振るわなくちゃいけないと思ったセイバーなら、そう答えられる筈だな」

 そうだ加目波也という人間は大仰果たす事もなく、ただ人生は無相と化す人間であることは魔術回路の異常を抱えた瞬間から決められた。

 ならばと俺は聖杯の力で異常を治し、次生まれてくる子供が胸を張れる様な魔術師になりたい。

 協会の歴史に名を刻まなくてもいい、俺が最も欲するのは大半の魔術師が経験する幸福だけだった。

「そのお言葉ありがたいのですが……これだけは言わせてくださいマスター――――事の大小関わらずあなたに誰かの為に振るう時が必ず訪れます。

 ですから……私だから答えれる筈なんて言わないでください、あなたにだって未来の選択肢はあるのですから」

 まるで俺の存在を無下にしないでくれと、言っている様に聞き取れた。

 ふと、かつて夢で見た六階建てビル付近で仰向きになり見た空を思い出した。

 いじめっ子達が俺をあわてふためき見下ろしていたのを見ると、あの夢が現実だったらきっと俺の件で改心させるきっかけになればいいとセイバーは願っているのだろうか。

 ともかく会って数日しか経ってないのに俺の身を案じてくれているらしい、セイバーに自然とこの言葉が漏れ出す。

「ありがとうセイバー、こんなカッコ悪いマスターの事心配してくれて」

 頬が緩むとセイバーは穏やかな表情で「そんなマスターの身を案じるのもサーヴァントの仕事です」と返され、部屋に融るよう霊体化した。

 そうしてセイバーとのやり取りをしているうちに時刻は日を跨ごうとしていたので俺は部屋の電気を消して、布団に潜り込む。

 明日親父になんて聞こうか、数十年間日を空けていたせいでもあろうか、重要な事と気兼ねに話せない距離感が邪魔してくる。

「……む」

 なんだかこっちまで緊張する。改めて家族について俺についてどうだったかと、居酒屋でもう一杯行く? みたいな感じで聞けない。

 ジ……ジ……ジ…。もう一度思い出せない記憶を思い出そうと、俺は意識を集中させると脳内の過去(えいぞう)はノイズが強すぎて最早砂嵐だった。

 本当に何も思い出せないぞ、どうしたものかと俺は考えているとエルリカのある言葉を思い出す。

「そうだ、アルヴィンは親父と古くからの知り合いって言っていたよな、だったら実の息子差し置いて俺よりも付き合い長いアルヴィンとならば……」

 閉鎖的な親父と違って社交的なアルヴィンなら話しやすい。

 けれども親父と知り合いの時点で怪しいとエルリカは言ったが、あくまでエルリカの個人的な感想だ。

 問題はアイツが親父の事をどれぐらい知っているかが問題だ。親父の事だしあまり家の事を話すタイプではないのは理解しているが、どうも俺はイエスかノーかきっぱりと考えられない性質(タチ)らしい。

 さて俺は一体どっちを聞けばいいのだろうか、ここは―――――

「んー……いくら付き合い長いからって赤の他人がそこまで介入するか?

 そもそも魔術師は基本的魔術を(おおやけ)にしないから、俺の過去を聞くならやっぱり肉親(オヤジ)だな」

 方針が固まった。俺は親父に賭ける事にした。

 俺のルーツを知るにはやはり親以外有り得ないだろうと結論に至り俺は静かに眠りについた。

 

 

 暗殺者は触媒なしで召喚された。

 山の翁として世襲したのはアサシンで十五番目だった。

 アサシンは元々貧民の子として生まれ妹と共に山に捨てられた時先代に拾われ、十五代目として育て上げられた。

 アサシンは先代に足を向けられぬ程感謝した。

 拾われた恩義として自身の全てを神の供物として捧げた。

 そして十五代目として活躍したのだが、後継者を育てる段階までは周囲の人間は口を揃えて言う。

 あれは教団に尽くすだけの怪物だと―――――

 そう畏怖されたアサシンは聖杯に賭ける望みなどなかった。

 ただ暗殺者として呼ばれたから任務を全うする。

 この男はそう完成されていた。

 

 アサシンは気配遮断と霊体化したまま疾る。

 あの時のフード男は本当にアーチャーだったのか、遠くから気配察知したので一応警戒してマスターから命じられた標的をあの形で奇襲したのだが、まさか人智を越えた弓技で対抗されるとは思いもしなかった。

 あれは一体どういう絡繰りだ、世界広しど言えどまるで矢が宙に待機させ待ち伏せていたかのように自身の手首を貫いたのだから。

「アサシン」

 掠れたその声はアサシンの主人(マスター)

 魔術師と同じ時代遅れと自嘲したくるりと回せば装填できる散弾銃片手に戦う、妙齢な女性であった。

 この忠義の怪物(ハサン)を縁召喚で引き当てるマスターは一体どんな共通点を持っているのだろうかと少々興味を持っていた。

 山に捨てられ、先代に拾われ、短刀を振るい、やがて捕縛され、人質にならないよう自決した一人の男をこの女主人は媒介もなく引き当てたのだから。

「申し訳ございませんマスター……獲物を始末できませんでした」

「んまあ、あれは流石に予知じゃなきゃ()るとは分からんだろうに。何より、三騎士二人相手して生き延びた事だけでも上出来だ」

 あんな形になるとはあそこにいた誰もが予想できる筈はないとコレット・シャルトリューはアサシンの生還を祝う。

「はっ」

 短い言葉で感謝の意を伝えるアサシン。

「しかしあのセイバーのマスター、お前に殺されそうになった時魔術発動しかけていたな……腕は半人前だが心得だけは魔道の人間か」

 同じ年端の日本人ならばきっと恐怖に染まり何も出来ないのが大半だろう、だが彼は胆が座っていた。

 奇襲されたにも関わらず冷静に対処し黒い粒子が這うのをアサシンの目を通じて感じ取った。

「―――――そうですな」

「セイバーのマスターだし真っ先に潰そうと考えていたんだが……私の考えは浅はかだったな」

 アサシンは頷いてから返すと失策だったと苦々しい口調なコレットの魔術工房である廃ビルまで夜風となり走る。

 コレットは何故セイバーのマスターを殺そうとしたのか、それは最優のサーヴァントと最弱であろうマスターだからだ。

 白兵戦においてセイバーは優れている。今回は違ったが加えてステータスが高水準なのも特徴、一流とは言えアサシンで正面突破等愚の骨頂だ。

 だからこそ、コレットは狙うのはマスターであった。マスターというエンジンさえ壊してしまえば、サーヴァントというガソリンは役目を果たせられない。魔術協会に向けて威風堂々と開戦告知したエルリカ・バルト・フェレンツェが再契約するという考えも過ったが、神代の幻想種が祖の魔術師でもサーヴァント二騎を最善な状態で保つのは難しい事であろう。

 町は寝静まり灯りは星明かりだけが頼りだった。

 アサシンは時々、視界を過る宙に漂う偽造妖精を無視する。一匹潰したところで術者の事だいくらでもいるだろうと、アサシンは思っていた。

「アサシン話は変わるが……アーチャーの矢をお前はどう感じ取った?」

 ふと頭の中で質問が響いた。映像だけでは伝わらないので現場にいたアサシンに訊ねるコレットに対し答える。

「簡潔に言ってしまえば"罠"の様に感じ取りました。

 まるでそこに通りかかった敵を(ほふ)る為だけに放たれた矢……連射後に背後を取られたのも"罠"に誘われた感覚になりました」

「――――罠ねえ……じゃあさ連射した矢と背後に射られた矢の違いは分かる?」

 静かな長考の後コレットは訊ねるとアサシンは首を振った後、申し訳なさそうに答えた。

「申し訳ありませんマスター殿、私にはその余裕はなかった。何せ放たれた瞬間に射った音を聞きなんとか弾いたのですから、細かな点を見る暇はありませんでした」

「そっか、なら今日はこの質問を忘れてくれ。

 私も目だけの情報だけじゃあアーチャーの宝具(ゆみ)が何なのか分からないからさ」

 アサシンの力量で濃密な矢の雨を弾くとなれば、不意打ちの矢を弾く余裕など無かったのだろう。

「了解した」

 アサシンはどうして連射した矢と背後に射られた矢の違いを主人は聞いてきたのが問い質したかったが、主人が忘れろと言って来たので胸の内に封印する。

 何か違いでもあるのか? アサシンは先程の戦場を今度は注意深く思い返すとコレットは愚痴をこぼす。

「まさかアーチャーとセイバーが組むなんて―――――こうなるんだったら、ランサーに構わずじっくりと監視すべきだったな」

 悔しそうに頭でも掻いていそうだとアサシンは思いつつ、コレットがこんな台詞を紡ぐのは無理はないとアサシンは何も喋らなかった。

 もしあの時ランサーがいなかったら、今頃はもっと警戒していただろう。

「――――つかぬ事を言いますがマスター殿……その二組はアーチャーがいる限り攻めるのは難しいとあなたも考えているのでしょうか?」

「ああそうだとも。"罠"として"矢"に変換できる離れ業をヤツはお手頃にできるんだ、セイバーと合わせ技なんて朝飯前だろう。

 例えばセイバーとアーチャー前方に置いて、戦っている隙にアーチャーが背後の敵を射抜く。万が一その矢が弾かれても、セイバーを凌がない以上無傷では済まされない、刃が先か矢が先か―――――」

 コレットならそうするとアサシンに解説する。

「では――――セイバーのマスターの抹殺は切り捨ての方針でよろしいのですね」

 コレットの結論はアサシンの戦力を考えれば、触らぬ神に祟りなしという方針の方が生き残る可能性は大きいと至ったのだろう。

「ああアーチャーとコンビ解散するまではそうする……それに例の連続スリ事件、どうも匂うんだよな犯人は未だ不明で被害者のコメントの殆どは気がついたら中身が半額抜き取られていた。

 中世ヨーロッパならば……妖精の悪戯として処理されそうな現象が何故、ライダーが逃走した数日後に起こっているのかが不思議でさ……明日アルヴィンとマツウラに連絡して大事にならないうちに処理しないとならはないからね」

 執行者という職業柄社会的に影響を受ける前にさっさと処分しなくてはならないと、今度はアルヴィンだけじゃなくて魔術協会やら聖堂教会が動く事になる。

「分かりました、それを受けて私から提案なのですが……よろしければライダーの探索の件は私が引き受けてよいのでしょうか? 私ならば音もなく気配もなく人混みにも紛れますので、監視としては最適役です」

「オーケィ、了解そこまで言うならアンタの売り込みに賭けるよ」

 コレットの弾んだ口調から察するにきっと不敵な笑みを浮かべているのだろうか、アサシンは想像しながら地面に華麗に着地すると霊体化したまま、不気味な廃ビルの中へとすり抜けるよう入室した。

 

 

 ライダーは四菱城から戦いに赴かず二三と側に芝生の地面に敷かれたのは、ホームセンターが閉店する前買ってきたブルービニールシートを布団代わりにしていた。

 宙にはキイキイと鳴くクリオネの様な纏う魔力を察するに使い魔がふわふわと浮いていた。

 見つかるわけがない、このルーンを組み合わせ編み込んだ結界は自分の気配を消し姿を見えなくする代物だ。

 見つかるとしたら実体化し結界から出てた姿を目撃した人間しか見つからないと言い切れるぐらいの結界なので、ライダーは公園を徘徊する様を嘲笑う。

「ねえライダー?」

 あとげない声で二三はいつもの心配そうな表情で呼び掛ける。

「なんだ? 言ってみろよお嬢」

 ライダーは満天の空を天井にして、二三の隣に寝転んだ。

 今のところ遠くからサーヴァントの気配が二つするが、命と二三が第一なライダーは戦いなど赴かなかった。

「ライダーはどうして私に助けてくれたの?」

 無垢ゆえの質問にライダーの顔は綻んだ。

「お嬢。俺は次仕えた主人を今度こそ守りたいんだ。だからこうしてオレはここにいる」

 ライダーは悔いていた。

 終焉を分かっていた筈なのにああなってしまったのは自分が悪い。

 だから自分はそのケジメとして生よりも死を選んだ。

 そして死に行く中、もし二度目があるならば主人を死なせず守る召使いとして仕えたい。

 それがライダーの願望だった。

「しゅじん?」

「そうお嬢の前にオレは友達のお兄さんと一緒にいたんだ、けれども……オレのせいで死んじまってな」

 少し寂しそうに笑うライダー。

「だからオレはようやく気づいたのよ――――オレがやった事は間違いだってな」

 やり直しは願えられない、何故ならば主人の無惨な死を回避しても、世界の終焉は回避できない。

「聖杯でオレの間違いを正したところであの予言を覆らない以上、旦那の死は変わらん……だから、オレが最期に浮かんだささやかな願いを選んだんだ」

 空に拳を掲げライダーの表情を見た二三はとても悲しそうな顔で見つめられたので、ライダーは素早く話題を変える。

「あ、なんだか湿っぽい話してしまったな……話題を変えよう。そーだなお嬢、アンタは聖杯になんてお願いする?」

「おねがい?」

 今考えれば二三は聖杯戦争に巻き込まれた廃棄品(ホムンクルス)――――願望野望を持って参戦したワケではないので、そう聞き返すのは当然だった。

「二三はねライダーとずっと一緒にいたい。だってライダーも前言っていたもん、聖杯にお願いすればいなくならないって」

 そう白髪赤眼の少女は儚く微笑むとライダーは頭を掴んで風呂に入っていない為もうすっかりゴワゴワになった白い頭を撫でていた。

「そうか。お嬢が望むならオレもそれでいいや」

 神に仕える者として生まれてきたライダーは満面の笑みで答えると手を離して二三の体をじっくり見終えるとこう言った。

「なあお嬢明日銭湯いかないか? 髪もゴワゴワだし体も汚れている」

「せんとうって何?」

 そういえば二三の知っている世界は、四肢や脳髄等がホルマリン漬けされた瓶を陳列された保管室、無機質な館、最も幸福だと感じた部屋、そして大きな窓以外ない真っ白な四角い部屋の四つである。

 用意された部屋には本棚があったので少しづつその世界を広げているが、流石に銭湯までは教えてくれないのだろう。

「要するに――――大きなお風呂がある場所だ。金なら入浴料金ぐらいは持ってるしな」

「行きたい!!」

 花が咲いたように明るい表情の二三を見てから、ライダーは銭湯に行く術を考える。

 体の一部が竜化している二三を違和感なく銭湯に連れていけるかを――――

 包帯したまま入る事は水着着て温泉入る様なものだし、かと言って包帯を外したら番台の人間が仰天するしもし周りにお客がいたら間違いなく騒ぎになる。

 もし松裏嘉平が自分達の事を嗅ぎまわっていたら、あまり騒ぎになる事はなるべく控えたい。

 だがそれはもう遅い、やっぱりもういけないと言うべきか? こんなに喜んでいる二三の顔を見ると物凄く心苦しくなる。

 さあどうするライダー、太陽の光を象徴する名に誓ってなんとしてでも主人の小さな願いを叶えてやりたい。

 脳みそを激しく回転させ色々と悩みぬいた瞬間、敷いているブルービニールシートが視界に入った途端、長い沈黙のうちようやくライダーの頭上の電球が灯った。

「あ――――なんだ行けないと思ってたが行けるじゃん」

「?」

 その言葉に二三は首を傾げていた。

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