Fate/melt a close   作:アクタ

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4DAYS「それぞれの朝 三」

 若草の香りがする。

 媚薬を飲み交わされ、魔の手から逃げるように森へ萱葺き屋根の小屋を建てた。

 私を王を惑わすまじないしと罵った一人の騎士(追っ手)を殺した。

 まだこの騎士と同じように、妬みと顕示欲で嫌悪した三人はいたがこの弓さえあれば、私達は人知れず土に還れると安息していた。

 しかし、王がこの小屋を見つけた日から、恋人は火刑にされそうになった事もあって毎晩震えていた。

 そして私は一つの過ちを犯してしまったのだ――――恋人は王の元にいた方が幸せなのだろうかと。

 ならばこの涙を止めるには二人の罪を私が全て償おう。

 こうして私は恋人……王妃を王の元へと返し、追放の罪を申し出て私は育てられたこの土地を立ち去った。

 王妃の思いを断ち切る為食客(しょっきゃく)として荒れ果てた戦場を巡っていた。

 

 

「色男さんよ、起きろ」

 武骨な掌が彼の端整な顔立ちを強く叩いていた。

「――――ん……」

 瞼を開いた褐色の目は厳つい男を映していた。

「……今のは――――夢」

 枯れ草を束ねたような長い長髪は、野営のテントから差し込む朝日を浴びて輝いていた。

「ほう、ようやく人間らしい表情を見せたな。

 お前さん戦場だとまるで生気がねえ顔しか見せないモンだから、ってきり魂まで磨耗した人間の類だと思っていたよオレは」

 夢から覚めた彼の表情は憂いに染まっており、戦場しか付き合いがない厳つい兵士にそう指摘された。

「そうですか?」

「そりゃあ、お前の顔立ちが台無しだと思う程な、流し目で笑ったらそこら辺にいる小娘なんざイチコロだろ」

 豪快に笑う兵士に対して、彼の顔は深刻さを増した。

「所詮、私は浮草ですよ……結ばれたとしてもその恋は一生成就しませんよ」

「随分と悲観的だな。オレなんて、昔妻と(あいじん)が初めて会った時喧嘩してな……オレに詰め寄ってどっちを一番愛しているのかと聞かれた時、どっちも選べないと答えたらこっぴどく叱られたわ!! これだからモテる男はつらいガッハハハハ!!」

 彼の表情は呆れに変わった「それはそうだろう」と視線でその台詞に訴えていた。

「それでどうして私を起こして頂いたのですか?」

 兵士は「ああそうだった」と笑いながら、何故彼を起こしに来たのか理由を語り始めた。

「お前さんはキャメロットの赤き竜を知ってるか?」

「赤き竜……ああ、噂はあちらこちらの戦場で聞いています。あの魔術師マーリンとウーサーが手を組んで生まれた不老不死の少年騎士――――だとか、蛮族の駐屯地を陥落させ卑王を倒した。新勢力の首魁ですね」

「浮草と言うだけあるじゃねえか。オレがここに来たのは、その少年がここにいる人全部かき集めてくれと達せられたんだよ」

 彼はその少年を知っていた。

 幾度の戦場を巡り、流星の如く現れた新勢力として畏怖されていた話を耳にする。

 だが同時にいくら腕が立つ軍勢を率いても、不老不死だろうとも所詮は非力な子供だ畏れる事はないと嘲る者も中にはいた。

 彼は関わろうとも思わなかったし、関わりたくないとも思わなかった。

 ただ戦場で少年達と敵対をすれば迎い討つだけだ。

 しかし何故、勝利の美酒を味わった後の地に兵士達をかき集めるのだろうか。

 その行動に彼は訝しげな顔を浮かべつつも、体を起き上がらせた。

「かき集めですか……ここの戦火も鎮火したところですし、新たな食い扶持が欲しかったので丁度いいですね」

 そう言いながら、器用に髪を真ん中に結わえていく。

「おいおい浪漫も欠片もないねえ参加理由だな。

 不老不死だとか赤き竜とか畏れられる価値を定めてやろうとか、色々と野心刺激しまくりなヤツなのに、食い扶持のためですかーそーですかつまらんヤツだな」

 つまらない男だと兵士は露骨にそれを表すと、彼は冷静に返した。

「つまらなくて結構。私は元より王を見定める為に仕えた事はありませんので。

 それにアイルランドに巣食った悪竜を満身創痍で殺した私に、竜など恐ることはないです」

「嘘だろう、それ本当だったらお前さんただの騎士崩れじゃないって事になる。

 そんな腕立つならば浮草やってんの?」

 竜を殺した実績に兵士は顔を引きつらせて、場違いだろう職場間違っているという視線を感じた彼は私服に着替え終わっていた。

「それはその……あなたのご想像にお任せ致します」

 兵士は彼の儚げな表情と声色で感情を察したのか、慌てて案内しようとテントから出たので彼もその後を追う。

 澄み渡る青空。

 穏やかな風に運ばれる土埃。

 食糧として飼われているのか、真っ白いテントが立ち並ぶ茶色い道をアヒルが前を横断していた。

 呼ばれていない女中達が兵士の為に、飯炊きをする煙が空へと上っていた。

 拓けた場所まで辿り着くと、むせるような臭いが鼻腔を刺激した。

 彼と兵士は最後方の列で立ち止まった。

 前の雑踏に入ってしまえば押し合い圧し合いが繰り広げられるであろうという人数だった。

「おー、流石噂の人物だけあって野次馬もいるな」

「そんなに不老不死の赤竜(あかりゅう)に興味があるのですか、竜というのは国を貪る悪し存在。むしろ国を亡ぼしそうな気がします」

「馬鹿だなーお前国を貪り食らう程の力を持つ人間が善側に立つとしたら、これ以上心強いモノはないと思わないか?」

「……ないですね大抵はそんな強大な力を持てば、持て余し尊大に振りかざす。

 若き頃は賢帝であったが老いたら愚行を働く話は、口承にも記されていますし」

 彼の場合は王ではなく四人の騎士を指しているのだが。

「かーっ、何こいつ本当につまんねえ!! 根性拗じくりまくってんじゃねえか! もう少し人生楽しく生きなきゃ損よ? 人間いつ死ぬかわかんないものよ」

「楽しく生きていたら騎士崩れの食客なんてやっていませんから」

 ここで困惑していた兵士の表情は何か見抜いたような物へと変わる。

「ほほう、さてはお前さん女だな(、、、)?」

「―――――!」

 彼の顔が固まった。

「当てずっぽうだったが、図星(あたり)だったな。

 楽しく生きていたら放浪なんてせず、主君の女とイチャコラしていたのかよ……なんだよそれ羨ましいなおい!」

 軽率な態度の兵士に彼は不機嫌な顔で兵士を睨み付けてこう言い放った。

「……恩を仇で返した私の事は笑っていい、だが俺達の苦節を軽く済まされるのだけは、例え王であろうとも私は許さない」

 叔父は重く受け止めたからこそ慈悲をくれたから、恨んではいないが軽く受け止めた兵士が気に食わなかった。

 それを見た兵士は恐れるどころかますますにやけるだけであった。

「お前さんの女は本当に幸せモンだな、オレと違って一本気だもんな」

 からからと笑っている兵士をよそに雑踏はどよめいた。

「おっと、ようやくおでましか」

 彼は不機嫌のまま前方の景色を眺めていた。

 馬に乗っているのは二人。

 一人はしかめっ面の偏屈そうな男。

 一人は青い衣を纏った凛々しい少年は集まった兵士達の前でよく通る声で語り始めた。

「此度は私の用件で諸君らに集まって頂いた事を感謝致します。

 申し遅れましたが私はアーサー・ペンドラゴンと申します」

 丁重な挨拶から話は本題へと入る。

「あなた達に集まって頂いたのは、(きた)る日の為に必要なある騎士を捜しに参上しました」

 その言葉を聞いた誰もが騒ぎ始めた。

 要約するとこの少年は傘下に加えたい騎士を探しに来たという。

「見てピンと来た。ただ暴れたいだけのオレはコイツの気風は合わねえから、指定されてもお断りしようかな」

 面倒くさそうだという顔で兵士は少年を見た。

 そして隣にいた偏屈そうな男は半信半疑といった表情で少年に囁いた。

「本当にマーリンの星読み通りの人間がここにいるのか? ざっと見た感じ気品も教養の欠片もなさそうな連中ばかりなんだが」

「マーリンの星読みの正確さは、あなたも知っているでしょう? 兄上」

 少年はきょとんした顔でそう言い返すが、偏屈そうな男はまだ納得のいかない顔で返した。

「腕は認めているが、どうも信用ならないんだよなあいつ。オレ達をからかってるかも知れないし」

 そう会話を交えると少年は話を戻した。

「私が捜している人物は竪琴を持ち武芸と詩吟に長けた放浪者です」

 その時兵士は顎が外れるんじゃないかというぐらいの驚いた顔で、彼を見ていた。

 周知の人間達の視線は彼に注がれた。

「おいご指名じゃねえか!」

 だが彼はそんな台詞や周囲の視線にも変わらぬ態度で接する。

「ああ、そうですか。案外早く次の寝床が見つかって何よりだ」

 と言い雑踏を掻き分け進んでいく。

 次の雇い主は卑王ヴォーディガーンを部下と共に倒した少年か、彼は擦りきれた絹色の外套をはためかせながら、青衣を纏った少年の元へ足を運んだ。

「蛮族、卑王を打ち砕いた逞しき少年騎士よ。私の事をお呼びでしょうか?」

 彼は跪き(こうべ)を下げた。

 これを見た少年は馬から降りて、重厚な甲冑をぶつかり合う音を鳴らしながらこちらに寄る。

「頭を上げてください放浪者よ。まずはあなたの名前を聞きたい」

 陰のある端整な顔を少年に見せた彼は、申し訳なそうな声と表情で言う。

「失礼ながら私は剣になる者として、自ら名乗る資格はありません。ですので……あなたの好きな様にお呼びください」

「何故そう思うのですか?」

 少年が持つ翡翠の眼はあまりにも真っ直ぐだったので、彼は一度視線を反らし返答に躊躇う。

 まさか問われるとは思わなかったと思いつつも、理由を述べた。

「……私はある諍いを起こし、コーンウォール王に騎士としてあるまじき無礼を働きました。

 そしてその償いとして、誰の腰にも留まらぬ(つるぎ)として彷徨っているのです」

 その言葉に周囲がざわつき、コーンウォール王の名を聞いた馬上の男は王の名を紡ぐ。

「コーンウォール王って好好爺(こうこうや)のマルク王か、そんなヤツの(もと)で諍いを起こすっておまえ余程の悪人だな。

 どうするんだアーサー王、こんなの傘下に置いたらキャメロットは破滅すると思うぞ」

 男は訝しげに眉を寄せると少年は馬上の男に言う。

「兄上、この騎士は贖罪の為にブリテンを彷徨っていると言ったのです。なら――――彼は悪人ではありません」

 その言葉に彼と男は顔は硬直し、我に返った彼は慌てながらその動機を訊く。

「マルク王のように、私の罪を赦すというのですか? ましてや私は薄汚い余所者です……そんな人間を赦すどころか、あなたの栄華の為に必要と本当に仰っているのですか?」

 

"――――余所者の癖に我が王を(たぶら)かしたおまえのせいで、頂く筈だった領土を頂戴されないのではないか"

 

 もう一人の甥、アンドレ公が彼に浴びせた罵声が再生される。

 人間というものは皮を一枚剥がせば、利己と妬みの肉塊である。

 そう嫌という程学んで来たのだ。

 きっとこの少年も、上っ面だけで内心は疑心に満ちているに違いない。

 彼はそう思っていたが、その想像を悉く打ち砕かれた。

 少年は彼に歩み寄り、はっきりと答えた。

「はい、本当です。あなたにはブリテンの亡びから救う力の一つとして必要なのです」

 次に二つ目の返答。

「あなたは先程「騎士として名乗る資格はない」と答えた、つまりあなたは犯した罪を恥じているから悪人ではないと思ったのです。

 これらが私の返答(こたえ)です、放浪の騎士よ」

 嘘偽りのない顔で紡ぐ言葉に彼は何を思ったのか、仰々しくまた頭を下げた。

 今度は王の前に忠節を誓う騎士の作法として―――――

「……あなたには参りましたよ。喜んであなたの剣として馳せ参じましょう」

 これが彼と少年の出会い。

 そして彼が恋人為に捨て去り、ここで拾われた騎士としての第二の生である。

 

 

「――――」

 エルリカは彼の騎士として第二の人生の門出を噛み締めるよう、水道管を握りしめながら思い出していた。

 金髪碧眼の少年、あれがかの騎士王――――アーサー王である。

 王の証である剣を引き抜き、湖の精霊から贈られた聖剣を携え民草の為に風の様に駆け抜けたブリテンの王。

 そして放浪の騎士の彼こそ隣にスーパー等に、よくあるカゴを引っ提げている美男子こそアーチャーであった。

 今朝見た夢が、まるで絵画のような風景だったので時々こうして余韻に浸る。

 二人の出会いは思った程華やかなものではなかった。

 厳かな儀式めいた物の様で見ているこちらが、顔を引き締めてしまう程の雰囲気であった。

(あれがアーサー王……なんと言いますか(わたくし)の歳とそんなに変わらない、いえ――――それよりもどうみても見目麗しい少女にも見えますわねえ)

 あの精悍な顔立ち女性にも見えるが、世の中には中性的な人間も少なくはないのであまり性別を追求をするのはやめよう。

 エルリカは無言でこくりこくりと頷いていると、隣のアーチャーのよく通る声が聞こえた。

「あのマスター? 何をやっていますか?」

 そう見下ろされて現実に引き戻されると、エルリカはアーチャーに視界を定めた。

「いえあなたの過去を思い出したので、そう言えば何故あの時アーサー王についていこうと思ったのかしら?」

 水道官をカゴに入れもう一本。

「悪人と例えられても尚、私の事を穢れ無き騎士として迎い入れようとした――――その時思ったのです、陛下は本気で私を必要なのかと、だったらその熱意に応えようとしました。

 それに普通、王との諍いを起こした騎士をその罪を償っているだけで傘下に加えようとはしません、むしろケイ卿の反応が人間として正しいなのですが……」

 罪を犯した人間は、再犯をするのではないかと疑念を抱かれてしまう。

 偏屈そうな男、ケイ卿が傘下に加えたら破滅すると言い放ったのは"この男はまた王を裏切るに違いない"という疑念があったこその発言である。

 だがアーサー王は罪を償う人間は罪だと自覚しているから、奉仕のカタチとして動いている。

 だから、アーチャーは二度とその罪を犯さないと判断して傘下に加えようとした。

 結局、その判断も間違っていたワケだが。

「アーサー王はこの悪人を傘下に加えました。償いを求める科人(とがびと)を赦すかのように、救わんとしたように――――そして私はそんな王に騎士として敬愛し、王の為に善も悪にもなろうと誓いました」

「でも結局離れてしまった、恋人の為に……」

 エルリカは鉄パイプをカゴに追加しながら悲し気に目を伏せた。

「それもそうですが。かつての私と十二の会戦当時のアーサー王と酷似していたのです。

 だから私は王の為に忠告したのです"アーサー王は、人の気持ちは分からない"と……ただ誰かの為に人々を斬り捨て、誰かの為ならば愛した者ですら意を介さぬ私も陛下も……周囲に疎まれ理解されず孤立した」

 アイルランドの傲慢な要求をした騎士を斬り捨て、毒刃を浴びて床を伏せた時も。

 マルク王の妃になるつもりだった姫を献上する為に、竜を倒し舌を切り取った際倒れ、後に恋人になってしまった姫と再会し仇と罵られた時も。

 一度だけ気狂いな乞食に変装し、もう王妃となったその姫と出会った時もそうだった。

 自分の為だけに、誰かの為だけに、ただそうしただけでは誰かに理解を得れず、孤立する。

――――そう、アーサー王とアーチャーは鏡合わせの存在だった。

 善悪の差はない、信念や天命の為だけに執行する機械人形。アーチャーは騎士として死んだ事によりそれに気づいたのだ。

 そして、ある言葉でそれを見抜き、立ち去る際せめてと敬愛する主君に同じ轍を踏まぬよう臣下として止めたかった故の発言だった。

 水道管五本目でエルリカの手が止まり、不可解な顔で言ってきた。

「流石にそれは言いすぎですわロミオ。主君の忠告としては厳しい……」

 エルリカから見ればその言葉は人格を否定されているようにも聞こえたので、不可解な顔をしているのだ。

「いえ、人を理解しようとしない王は生半可な言葉では届きません。

 あの方は人のカタチをした鋼の人形ですから、鋼を斬り伏せるには鋭利な刃物でなければ気付(きられ)ない」

「成る程……そもそも、優しい言葉では通用しない精神の相手……だからこそ偉業を成し遂げられるワケね」

 五本目をカゴに入れ、納得した表情で次の売り場へ移動する。

 用意されたイタリア男性が着ていそうなラフでフォーマルな装いの私服を纏うアーチャーは「ええ」と返し、先程から水道管を買い込むエルリカに疑問に思ったのか、アーチャーは問いかけた。

「失礼ながらマスター、一体何に使うんですかそれ」

 するとエルリカは誇らしげな顔で返答する。

「何ってこれらを融かして剣の魔術礼装を鍛えますわよ、あなた用の為に」

「剣って……また金色の矢羽(グシスナウタル)を矢ではなく、マスケット銃として作ったみたいにするんですか?」

 呆れた顔のアーチャーの言葉にエルリカの顔は少し不機嫌になった。

「ち、違いますわよ! あなた用に鎚を振るうのよ、ちゃんと伝統を守った物を用意しますわ……そうですわね『勝利と破滅を導く剣(ティルフィング)』はどうでしょうか?」

 その剣の名にアーチャーは吹き出した。

「そんな一族に渡って呪い続けた魔剣を薄幸な私にそれを使えというのですか!?」

 『勝利と破滅を導く剣(ティルフィング)』とは、北欧神話にた登場する魔剣であり、スヴェフルラーメ王が二人の小人を捕らえ作れば逃がすと脅迫し、生み出された剣である。

 北欧神話版妖刀村正と言ったところだろうか。

 持ち主に常勝を運ぶが、その代償として破滅を迎える呪われた魔剣である。

 抜かれたら血を浴びなければ納まらぬ魔剣を託そうとしているのだ、このマスターは。

「だって最終的には呪いに打ち勝ったのですのよ、あなたは薄幸だけれども力量は十分ならきっと……」

「いやいやリスクが高すぎますって!!」

 人生で三回も猛毒に苦しんだアーチャーは確信した、絶対呪いが振りかかりそうだと。

「そう残念ですわね。だったら、あなたの為に作った魔矢のように炎のルーンを刻んだ魔剣でも作りますわ」

 仕方がないと言わんばかりのエルリカに対して、アーチャーはため息を吐く。

「まったく……肝を冷やしましたよ」

 持ち主は戦死した王からとある一族に変わり、五世代にも渡って呪い続けた魔剣を本当に持たせる気かと、アーチャーは焦ったのだ。

 本当に心通わせた者以外は、恨まれ続けた人生を歩んだアーチャーからすればありがた迷惑な贈り物であった。

「ホームセンターは最高ですわね、なんでもあるもの」

 当の発端はそんな苦心(つぶやき)など気にせず、鼻唄混じりの口調で買い物を続けるエルリカ。

 日本語は読めないが品物は世界共通である。

 次は何を買うかとエルリカの気持ちは高揚していた。

(工具や木材を見て、はしゃぐ女性は初めてみましたよ)

 土木関連は男の仕事だろうにと、アーチャーはとても小さなマスターの背中を見守りながらそう思う。

(もしかしてドワーフとしての本能なのか? 鍛冶に携わって来た種族の血という物なんでしょうね)

 そんなどうでもいいことを考えていると、気が付けば様々な種類の入れ物が陳列された場所まで辿り着いていた。

「……色んな種類がありますね」

 アーチャーは陳列棚を一瞥したあと明後日の方向を向いているのを、知らないエルリカが感想を聞き終えると手に取りながら、ジャム等に使うガラスの入れ物を眺めていた。

「ええそうですわ。だから楽しいのよ、ロミオ。

 そんな事よりルーン刻んだ羊皮紙を巻いた瓶に火薬を詰めれば爆弾できないかしら、想像するだけで胸がいっぱいですわ」

 上機嫌で物騒な事を言うエルリカ。

「油の方がいいのでは? その方が爆発しやすいかも知れませんね」

「その手がありましたか! 油……魔獣の油なら手元にありますので今すぐにでも確かめられますわね」

 ものすごく楽しそうに話すその姿は、物作りを愛しているとひしひしと伝わってくる。

「ではこれも買いますわね、ついでにプラスチックの容器も……」

 エルリカはカゴにビンを三つ入れ終わると、取っ手蓋付きの四角いプラスチックの容器に手を伸ばした瞬間、男性の手と触れ合った。

「あら?」

「え?」

 エルリカは青い目を相手側の手先から腕へと辿り見かけたのは、ぼんやりとした雰囲気の少年――――久世久一だった。

「う、うわあ! ごごごめん! 君が先だったねどうぞ持っていってよ」

 少し顔を赤らめているがエルリカは二つの事できょとんと首をかしげていた。

 一つは何故顔を赤らめているか。

 二つは何を言っているのかさっぱり分からなかった。

「……あなたからどうぞ、だそうですよ―――――マスター(、、、、)

 アーチャーの翻訳は重々しいものとなった。

「ではお言葉に甘えて頂きますわ――――って、マスター? あ、サーヴァントの気配がしますわね」

 ようやくアーチャーがマスターと呼んだ意味が分かった。

 魔力は全く感じられないところを見ると、加目波也以下の魔術師だと分かった。

「ごめんキャスター、アーチャーのマスターがなんて言っているか教えてくれないかい?」

 霊体のままで隣にいるであろう久一は通訳をサーヴァントに頼んだ。

 そしてエルリカははっと顔を強ばらせた。

 今、この少年は初対面にも関わらずクラス名でアーチャーの名を呼んだ。

 現在アーチャーはフード代わりに眼鏡と帽子を着用している、情報さえ洩らさなければステータスとクラス名を完全に隠蔽する保有スキル「変装」を発動している状態でアーチャーと呼ぶのはおかしい。

 クラス名を知っているという事は――――矢を番えた所を見られたとなるだろう。

 つまり箱海市全域に蔓延る偽造妖精達の主こそ、キャスター陣営の可能性が高い。

「あなたは、何故こんな所に昼間の戦闘は禁じられているのをご存じなのかしら?」

 キャスターが翻訳している間を置いて話す、久一。

「それぐらい分かっている。今日はたまたまここに来ていたんだ」

 内気な性格が滲み出ていそうな顔立ちは、警戒するエルリカの態度を見て熊が出くわしたような程焦っていた。

「ビクビクするような事言ったかしら?」

「……あなたが威圧的な態度を取るからですよ」

 それでも傾いたエルリカの首は動かなかった。

「まあいいですわ。しかし、面白いですわね……普通に生活していれば血生臭い事に出会う事はないのに、何故参戦しているのか興味がありますわ」

「――――っ!」

 エルリカは魔術師としては素人当然の久一に、どうしてこの戦いに参戦したのか疑問に思った。

 キャスターの通訳でようやくその言葉を知り、久一は思わず顔をしかめた。

 ありとあらゆる願いを叶えられる戦いに参戦している自体、言わなくても分かるだろうという表情で構えているのを見たエルリカは、その気迫(きもち)を感じ取る。

「その顔で察しましたわ、キャスターのマスター。ようするに、平穏を投げ捨ててまでどうしても手に入れたいものがある。

 責務の為に戦う(わたくし)と違って、あなたは願望器にしか成し得ない物の為に戦っている――――そう解釈してもよろしいかしら?」

 威厳ある態度でエルリカを見て、久一は少々気圧されながらも縦に頷く。

 その反応を見納めたエルリカは掴んでいたプラスチックの容器をカゴに入れ、久一も自身が持つプラスチックの容器を二つ入れた。

「話は変わりますけど、その容器と錐で一体何を作るのかしら?」

 エルリカは言葉が伝わらなくとも分かりやすいよう、久一が持つカゴを指を指して問うと久一はしばらく怪訝な顔だったが、キャスターが訳す前に答えた。

「……用途は内緒だけど。誰かを捕らえに行くために使うんだよ、アーチャーのマスター」

 慣れていないのか、顔を無理矢理勝ち気に作り答えると、エルリカも勝ち気な顔で答えた。

「作戦を曖昧に伝える心構えはあるようね、キャスターのマスター。

 これが夜ならば、暗示で吐かせていましたわ……魔道に入りたてのあなたなら、自白させるのも容易なのだから」

「他人に秘密事を話すぐらい、考えたって誰だって分かるよ」

「言うじゃないの」

 蒼と茶の視線がぶつかり合う、まるで稲光の如く火花を散らしていた。

 弱者の意地と強者の風格が衝突しているような光景をアーチャーはこう喩える。

(まるで不良の意地の張り合い(タイマン)みたいですねー)

 その対立を、まるで子供の喧嘩を見守る親のような気持ちで眺めていた。

 この後エルリカはライダー達について、質問し、夜間四菱城から動かぬサーヴァントがいるとの情報を得たのだった。

 

 

「あら? お子さんがいらしたのね、今年で何歳かしら?」

 箱海市郊外、椿が丘団地。

 ここは中心街から電車で、三駅の場所にある団地で入り口付近には水産高校がある。

 少し真っ直ぐと歩けば情緒溢れる銭湯があり、長い煙突からは煙がもくもくと立ち上っていた。

 そこに尋ねた白い髪と新品同様の入浴セットを持つ父娘とのような二人に、親しげに話しかけるのは番頭の老婆であった。

「なな……さい」

 そう答えるとまた父親らしき体の影に隠れ、そこから覗き見るように番頭を怯えた目で見ていた。

「すみません、コイツ人見知りが激しくて……こら、そんなんじゃあ学校にも馴染めないぞ」

「そんなの気にしてなんかいないよー、早くお友だちできればいいねー」

「ともだち?」

「そう友だちだよ」

 ニコニコと番頭が満面の笑みを浮かべると視線は、情けなさそうな父親らしき男に向ける。

「しかしアンタ日本語うまいねえ、もしかして留学していたのかい?」

「母親が日本人なんでたくさん学びました」

 微笑み返す男に大声で笑う番頭。

「アッハッハッハ! 所謂ハーフってやつかい、確かにえーと……お名前は?」

 視線を向けられた娘はまた縮こまったが、名前を聞かれて答えた。

「ふみ」

「そーかいフミちゃんね。フミちゃんの顔、言われてみれば日本人らしさも入っているから確かにハーフだねえ」

 とここでハーフの使い方を間違っているのだが、男は黙っておく事にした。

「じゃあ入浴料頂こうかね、大人四百四十円、小人七十円で合計五百十円だよ」

 男は裏地にある胸ポケットから千円札を取りだし、皺だらけの掌に手渡した。

「はい四百九十円のおつりね」

 おつりと共にロッカーの鍵を渡されると男は受け取り、黒い革ジャンバーの裾を握る娘を連れて男湯の更衣室へと向かう。

(なんでこれ(、、)使っていながら、気づかなかったんだオレ!!)

 男の正体は幻覚と気配遮断のルーンで化けたライダー、そして幻覚のルーンでどこにでもいる少女の姿に見せたライダーのマスター二三であった。

 今まで買い物に行く為に、それらのルーンを自分自身に使っていたがマスターに使う発想を昨夜、思い付いたばかりであった。

(あー……今ごろどっかで、ライダーよりもキャスターだろうとか言ってんじゃあねえだろうな、まあオレの取り柄ってぶっちゃけそれしかねえし)

 目を伏せて端役の存在であるライダーからすれば英霊として誇れるのは、それのみであった。

 肝心の馬は元は他人の物なので自分の力ではない。

 そのぐらいは自覚していた。

「ライダー? どうしたの顔こわいよ……」

「あ、ああごめんなお嬢。ちと考え事してたわ」

 いつの間にか後ろから二三の不思議そう赤い目玉で見られているのを気づき、乾いた笑みを浮かべた。

 逃亡生活も今日で五日目、このまま互いに潰しあって欲しいと願うばかりだ。

 ランサー以外のサーヴァントは一体どんな英霊なのだろうか、なんだかんだで助けて貰ったランサーはこちらに手出しはしないだろう。

 借りだとか言っていたが、マスターの意向を反してまで、獣因子を埋め込まれたホムンクルス兵団から守ってくれたのだ。

 そんな英霊が再び牙を向けるのだろうか。

(あの首狩りヤローは対象外だな、後は残りのサーヴァントとマツウラのオッサンがオレを殺しにやってくんのか。

 たく、あのオッサンオレが丹精込めて一撃を贈った後反撃しにきやがったから、今頃捜してるに違いない……あの妖精もどきでオレ達を捜してんだろうな)

 しつこいようだがライダーが成し得た事は、仲介人と依頼し運んだ二つのみであり、武勲で成し得た事はひとつもない。

 だからこそライダーは戦わない選択肢を貫いている。

 マスターに危険な目を遭わせたくないのもそうだが、原初のルーン使い以外はただの一般人なのでその差は歴然。

 蛙と蛇の話ではない、恐竜と鼠の差であった。

 今後の方針に頭悩ませながらも、更衣室の扉を開かんとしたら響き渡る番頭の悲鳴と、サーヴァントの気配を察知した。

「婆さん!? おい、お嬢そこで待っていろよ!!」

 頷いた二三を見て、直ぐ様その場所へ駆け出した。

 たった数分というやりとりだったが、ライダーには感じ取れていた。

 あの番頭は人柄の良さが滲み出ていた、そんな老婆がこの世から消えてしまったら理不尽だと思ったからこそ、ライダーは走っているのだ。

 入り口が見えた、ライダーはゴール地点に辿り着き立ち止まると、息は荒く呼吸が落ち着くまで俯くと、バネのように仰け反り思いっきり叫んだ。

「大丈夫か!? ばあ――――」

 さんと言いかけた所で眼前の風景に目を疑ってしまった。

「あれ、お客さん居たんだね。残念だねバーサーカー一番風呂逃したみたい」

 そこにいたのはラフな格好をした童顔の金髪碧目の外国人、ポール・グゲィジャンと。

「もう昼だろう、一番も糞もないわい」

 呆れた口調のバーサーカーと。

「ええと、入れ墨していたら入れないよそ、そこの人」

 端正だが野蛮な印象が強い顔立ちに黒いサングラス、立派な顎髭に鍛えぬかれた肩幅が広い体躯に怯えながらも、きちんと接客をする番頭がそこにいた。

「大丈夫だよこの人はイタリアから来た。重量級レスラーだから、キン=サン系の入れ墨はしていないからダイジョーブ、ダイジョーブ」

 ポールは曇り無き笑顔で番頭を宥めている側で、バーサーカーはしょんぼりと少々落ち込んでいた。

「何故だ他国の兵にもヘラクレスの化身として恐れられても、誇らしかったのに。このバーサンに恐れられた事が物凄くショックだのう」

「そりゃあ会って一発悲鳴上げられたら誰だって、落ち込むものだよー」

 「ええ、そーかー?」とバーサーカーは返すとポールは「うんそうだよ」と答えた。

 そもそもの発端はポールにある、銭湯に行きたいと駄々をこねたバーサーカーの為に面白半分で用意したのは、バーサーカーが黒スーツにサングラスという衣装であった。

 そして見事にライダーの次に叫ぶ見た目になってしまっていた

「えーと、そこのヒゲ――――レスラーつーより殺し屋じゃね!? だから婆ちゃん怖がらせてんだよ、ただでさえ筋肉ダルマな体しているのによう、その格好はねえな……もっとこうオレみてえに怪しまれねえ格好しろよ」

 白いタンクトップ、黒い革ジャンに細身の渋いジーンズ、サーヴァントとしての概念武装(いしょう)でも身に付けている何かの牙を革ひもでくくりつけたネックレスを首に引っ提げ、黒の武骨な編み上げブーツのコーディネートを見せつけながらライダーは指摘した。

 その言葉にバーサーカーはギロリと睨むとポールは知らない顔どころか、愉快げに話す。

「だってそっちの方が面白そうだと思ってさー」

 番頭以外は呆れの感情に満たされていた。

「それに殺し屋じゃない! スカンクボムだ!!」

「ワケわかんねえ事ぬかすな!」

 つまり殺し屋ではない、山梨県の製薬会社に勤めるサラリーマンだと非常に分かりにくい例えで返すが、当たり前だが意思疏通する前にライダーに撃ち落とされた。

「ス、スカンクボム知らないのかい!? じゃあMEMORYSは!?」

「はあ、友よ……いくら聖杯から与えられる知識でもな、そんな日本の短編アニメ映画の題を言ったって無駄だ。せいぜい観せられた余しか知らん」

 溜め息をつくバーサーカーは怒濤の大友克洋作品攻撃を苦い顔で思い出しながら、冷静に答えるとショックを受けるポール。

「……ともかく焦って損した、ってきりアンタらに襲われたと思ったからな(、、、、、、、、、、、、、、、、)

 ライダーは全身の力が抜けて頭を掻きながらそう言うと、バーサーカーは何かに反応した表情を作った。

「ごめんね、ついびっくりしてねえ……入浴料は中人が百四十円、大人は四百四十円、合計は五百八十円だよ」

 お客様に不快な思いをさせたのかと番頭は謝罪しつつ会計を始めた。

「大丈夫だよ、少なくともボクもバーサーカーも色々と言われ慣れているからね」

 そうロッカーの鍵を渡され、ポールはなんでもない顔でそう言いきった。

 

「うおおおおお!!」

 うるさい。

「おおおおおお!!」

 うるさい。

 使い古した四角いタイルで埋められた浴槽と壁と床、縦三列に並ぶシャワーと蛇口、そして壁には富士山の絵が描かれたものが貼り出されている。

 ノスタルジーな銭湯を目の当たりにしたバーサーカー達の興奮の嵐に二三と一緒に体を洗う、ライダーは呆れた。

「ジャポニズム! ジャポニズムだよ!」

「ちと小さいが趣きがあっていいのう」

 男湯には幼女と、ほどよく鍛えた青年と、痩躯の少年と、筋骨粒々の青年の四人組が占拠していた。

(なんでワケわかんないヤツと、金タマあたりなんか変なヤツと悲しく風呂に入らなくちゃならないんだよ……暑苦しい)

 バーサーカーがいるだけで、ライダーはサウナに入ったような気分に浸った。

 だが二三はバーサーカー組の騒がしい風景を見てどこか楽しそうにしていたので、ライダーは少し意外な顔を作り、やれやれといった感じになる。

(お嬢が楽しいならそれでいいや)

 この馬鹿騒ぎに目を瞑ってやろう、ライダーは二三の頭をシャワーで流した。

「お前さんサーヴァントなのに、細っこいのう鍛えているのか」

 不意にバーサーカーの大きな掌がライダーの腕を掴み、持ち上げられじいと見られていた。

 ライダーは腕を振り下ろしその手を解くと、不機嫌そうに睨んだ。

「悪かったな細くて」

 これでも現代人の一般人よりはあると、ライダーは渋い表情でその腕を眺めていた。

「それとなサーヴァント……? なんだそりゃあ、知らないぞオレは」

 ライダーは惚けて腕を下ろすと、バーサーカーはニィと白い歯を見せて笑った。

「さっき、あの老婆の前でおぬしは言った"襲われたかと思った"……余はあの時、構えもしていないし武器も持っとらんのに、なんで一目見て襲われたと考えられるんだ?」

「オレはあの時、悲鳴だけを聞いた。ならばあのバーさんが襲われたと思うのは当然じゃね?」

 ライダーはなんとか正体を隠そうとする。

 松裏に知られたら間違いなく殺される。

 内心汗だくなのを悟られぬよう返す。

「そう言われれば……そうだなあ、今の話はなかった事にしてくれ」

 バーサーカーはそうかとすんなりとその意見に異論なしであったが、シャンプーを洗い落とした二三はこの様子を見て、ぼんやりとした表情を作る。

「なんの話をしているの? ライダー」

―――――その時、無邪気な空気が凍りついた。

(しまった! お父さんって呼ばせるの忘れていた!!)

 ライダーは二三の発言に口を開けたまま愕然としていると、バーサーカーは意地の悪い顔をして馬鹿にしてきた。

「ははははは!! ぬしのマヌケに落ち込むがよい!! まさか、アサシン以外で気配を消せるヤツがいたとはのう、こう油断ならなんな!!」

「きっと北欧ルーンってヤツの仕業なんだ、でもおかしいなあ……ルーンって普通さ違う要素を持つルーンは組み合わせできない筈なのに、なんでこの娘と似た見た目に見せたり、サーヴァントの気配を消せるのかな?」

 ポールの言う通り複数のルーンを組み合わせる時、Aのルーンとして複数刻んで発動する事は可能だが、AのルーンとBのルーンを並列して発動できない法則なのだがライダーはそれができているのだ。

「オレのやり方は杖を掲げて、星に語りかけながら効果重ねたいって宣言すれば楽勝だぞ」

 その言葉に同じルーン使いであるポールはこれでもかというぐらい驚いた。

「なんだそりゃあ!! そんな反則だぞ!! どうやって星に語りかけるかなんて知らないよボクは!!」

 そうライダーの首を掴み上下に激しく揺さぶりながら激情に駆るポール。

 二三は顔を青ざめどうしていいか分からず、バーサーカーに至ってはポールを止めようと乱入してきた。

「気持ちは分かるが一旦落ち着け友よ!! そんなに揺さぶったらライダー死ぬぞ!!」

「君がッ死ぬまで揺さぶるのをやめないッ!」

 バーサーカーはポールのを肩を無理矢理掴み、その怪力で引き剥がしてポールを軽々と投げて浴槽に放り込み、水柱をあげた。

 そしてライダーは顔を青ざめ口から泡を吹くと床に倒れ伏せた。

 それを見た二三は、悲鳴をあげその体にしがみつき泣き出しそうな顔で叫んだ。

「ライダー死んじゃいやだよ!」

「あー……こんな貧弱なサーヴァントで、大丈夫かのう」

 そうバーサーカーはライダー達の行く末を心配していた。

 

 

 箱海市 警察署。

 そこには一眼レフとタイトスカートタイプの黒スーツ姿のコレット・シャルトリューが、小さなメモ帳を眺めながら琥珀色の猫目を細めていた。

(スリ事件が起こったのは……ほとんどが四菱城付近か)

「つまり犯人は四菱城を拠点にしているという事になりますね」

 コレットが何故、ファー付きのジャケットにタンクトップ姿ではないのかそれは数時間前に遡る。

 二三の鋳造主で悲願の為に令呪を奪おうとした松裏嘉平に、人である事をやめる能力が備わっていなかったのか、残虐な実験の心労で娘が逃げた。

 その事を知ったコレットは頼んだのだ。

 サイズが合えば黒スーツを貸してくれと、松裏は疑心に満ちた顔で問いかけた。

 "一体何をするのか"と。

 コレットは答えた。

 "変装です報道関係者に扮して、警察に聞いてライダー達の居場所を推測するために必要です"

 それを聞いた松裏は快く貸してくれた。

 これはコレットが思っているのだが、松裏はきっとライダーを殺すつもりで監督役を通じて依頼書を見せたのに違いないと。

 ランサー達の話し合いから帰ってからずっと、焦燥が張り付いているようにしか見えなかった。

 だからスーツを貸してくれと申し出たら、疑心が真っ先に出たのだ。

 お前は一体何をやっているのかと。

 そんな表情でコレットを見ていた。

 そしてスーツに着替え警察署に乗り込み、暗示を掛けながらも取材と偽って連続スリ事件の全てを聞き出していたのだった。

(そうなるな、一件目は奉行所付近、二件目は四菱城内、三件目は茶屋付近……どれも怪しまれず人が混みそうな場所をチョイスしてる、明らかにプロの域なんだけど)

 煙草の箱を片手で上に振り一本だけ出させるとそれを口に咥えて、メモ帳を脇に挟み、マッチで火を灯すと紫煙を肺に染み込ませ、鼻から煙を吹き出した。

「となると、見張りの場所は四菱城を全体を見下ろす高い場所ですね。私は山育ちなもので、目には自信があります」

 アサシンは打開策を提案する。

 やはり見張るには誰からでも気づかれない高所が最適だと結論を出し、コレットは異議なしと答える。

(問題は場所だな……ちょうどいい場所はないかな)

 婦警が事件説明の為に用意した地図を思い出す。

 高くて尚且つ四菱城を見渡せる距離の建物、記憶上の地図を探る。

 付近の建物は図書館、美術館、土産屋、ローカルチェーン店ハンバーガーショップ『ハッピー・ピエロ』、市民会館ホール、四菱奉行所、四菱タワー―――――

(……アサシン。アンタ千里眼含めてどれぐらい見えるの?)

「地上から高層ビルの屋上にいる人の全身を、はっきりと認識できる程度なら見えます」

 つまりは視力を魔力で上乗せしたレベルと同等という事になる。

(ありがとう。だったらタワーだと高すぎるし何より陣取るのが難しいな)

 昼間も夜間も霊体化したままエレベーターを操作し登る作業は無理である。

 昼間は観光客に混じりエレベーターに乗ることができるが、アサシンの千里眼ではライダーを視界に捉えられる事は不可能。

 夜間はエレベーターに乗り込んだのはいいものの霊体化を解かない限り物理的干渉は不可能であり、操作しようといざ実体化しても電源は落とされているのでどう足掻いても操作は不可能な為、四菱タワーは候補から外れる。

(他には――――あ、そういえば奉行所(ブギョーショー)は四菱城内の箇所に書かれていたな……)

 確かに奉行所以外の場所は、皆四菱城外にありそれを囲むようにして建てられている立地であった。

 おまけに奉行所の向かい側は三件目の事件現場である茶屋が建ち並んでいる為、まさに見張るのには相応しい場所である。

 まさか事件現場で見張るとは思わなかったと、コレットは中性的な顔を憂い気に染めると霊体まま隣にいるアサシンに視線を向けた。

「成程、その方がよさそうですな。何よりも現場付近なのが大きい、私が屋根に登り見張ればすぐにでも見つかる」

(問題は高さだ、もし奉行所(ブギョーショー)が高速ビル以上に高かったらアウトって可能性も出てくる)

 計画が形となってきた、まずは四菱城を下見して奉行所をこの目に納め定めなければならない。

 コレットは咥え煙草を指で挟み口から紫煙を吐き出す。

「そうですな。だからこそ下見は重要になってくる」

(それに罠には注意しなくちゃな、アイツ相当ルーン魔術腕が立つそうだから)

 近代兵器を扱うコレットから見れば、ルーン魔術は探知機に反応しない地雷の様な物であった。

 敵地であろう場所に踏み込むのだ、もしかしたら拠点の周辺に地雷(ルーン)を地面に刻んでいる可能性もあると、コレットは眉を一つも動かさずに相手を分析し、今後の方針を練りながら警察署を後にした。

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