箱海市 廃ビル。
「アサシン、大聖杯に異常はないか?」
英語で書かれた箱海市の地図を見ながら、大聖杯を見張るアサシンに念話で呼び掛ける。
「異常なし。しかし今まで我ら十八人、この卵のような物を求め呼び出されていたとは……にわかに信じられませんな」
地面に張り巡らされた根を持つ、白い卵のような魔術礼装を思い浮かべるコレットは口から紫煙を吐き出す。
「発案者と同じぐらい胡散臭い代物だけどな……アレ厄介な物じゃなければいいけど」
願望器に猜疑の念をアサシンに明かすと、ふと聖杯の原典について思い浮かんだので、コレットは次のような言葉をシニカルに聞いてみた。
「急に話変わるけど聖杯といえば、異教徒は嫌いかい? 聖地が一緒なだけで争うアンタらだもんな」
するとアサシンの返答は早かった。
「嫌悪も好意も無し、その様な感情は我らに不必要です。力の誇示などせずただ敵を闇に潜み葬るこそ『
「はっ、力の誇示を望まないって言いながらも
喉を鳴らして笑うコレットに対して、アサシンの返答は無を経てようやく返してきた。
「……願望器と言えばマスター殿、あなたは聖杯に何を捧げますか? 命を賭して叶えたい願いとは実に興味深い」
アサシンの声色はいつものように平淡だが熱が帯びているような気がした。
「願いね、人様ブッ殺して叶えたい物はある。私はねアサシン……肺を自分の物にしたいのさ」
アサシンは聞き返す。
「肺……? どう見てもあなたは肺を患っていないように見えますが」
「煙草だよ煙草、ほらアルヴィンに煙草の話の時溺死させたいのかと言っただろう。あれ冗談じゃなくて本当、五日間吸わなきゃ呼吸困難で死ぬ」
コレットは割れた腹につけられた手術跡を優しく撫でながら、明るい声色で真実を話す。
「それはまた、さぞ不便でしょうに……なぜそのような体に」
「うちの家系は星を繋ぐ
だからこの肺を体に馴染ませる事が私の願いだ」
コレットの説明が終わるとアサシンは何を思ったのか、こう言葉にした。
「つまり我々と同じ、他人の為に改造を施された人間という事ですな」
ずっと抱えていた理由がようやく分かったのだ。
ただそれだけの人生を歩んだアサシンを召喚したのは、心の在り方ではなく誰かの為だけの存在として引き寄せられたのだ。
そうアサシンが思って紡いだ文章に何かを察したのか、コレットは聞き返す。
「急にどうした。何が言いたいんだアサシン」
「非常に
そう本心を伝えるとコレットは口から紫煙を吐いて、月光溢れる窓の夜景を眺める。
「ああそういう事ね、多分私達は他人の為に肉体改造された者同士他に何かあるかも知れない、肉体改造だけではアンタをピンポイントで縁召喚できないよな」
それだったら他のハサンだって同じだ。
十八人のハサンはそれぞれ奇術を起こせるよう体を改造して、敵対する者を闇に屠ってきたのだ。
もしかしたら別のハサンが召喚される可能性もあり得た。
ならばなんの繋がりで十五代目を召喚したのだろうか。
「考察の参考になればいいのですが私は呪腕殿、
呪腕のハサンは右腕、巌のハサンは皮膚、魔歌のハサンは喉、静謐のハサンは全身に秘術を宿している。
十五代ハサン・サッハーバはその仲間ではないとはっきりと答えた。
「つまり内面的に肉体は普通の人間って事?」
「そういう事になりますね。私は人の身を捨てずに名を世襲した、だからこそ慢心せずに任務を遂行しました」
コレットは煙草をくゆらす。
アサシンの御業は周囲の音を消す事である。
足音はもちろん、衣擦れ音、風切り音、呼吸音、鼓動も消す。
それも含めてアサシンは後継者達にこう呼ばれるようになる。
『無音のハサン』
あらゆる音を発せず敵が気配を察知した時には、心の臓には穴が空いている。
アサシンが特に発揮したのは夜闇である。
闇に潜み幼い頃山という過酷な環境で育て上げられた強靭な肉体から生み出す身のこなしで、一般兵では考えられない場所からの奇襲攻撃。
これが無音のハサンの十八番であった。
それども人の身であった為に他のハサンに比べて、世襲から死ぬまでの期間は短かった。
そして敵側に拷問しても無意味だと悟られ、無下に扱われ人質として利用される前にアサシンは自害した。
顔も権限も狂信的に捧げられたのは共に捨てられた妹を亡くし、一人で山の中を生き残ったアサシンを先代のハサンが救ってくれたからだ。
救われた恩義を返す為ならば、アサシンは生きた。
恩義を果たした今、聖杯にすがる願いなどなかった。
「本当に仕事熱心な事だな。悲願すらも成し得る
「……欲など
けれども、もし先達者や後継者が
私が後継を育てる際、鉄砲水で死んだ妹を思い起こした様に……我らの中で圧し殺した感情を、サーヴァントとなりようやく蘇生できるのだから。
掴めぬと諦めていた物が眼前に差し出されれば、そう言った者は手を伸ばすのは当たり前なのでは?」
先程の無言の正体はこれだったのか。
アサシンからしたら罵声と同義の言葉をコレットは言っていたのだ。
だから自然とこう口にする。
「……ごめん」
「私は何を言われようと動じませんが、もし狂信者に同じ言葉を紡げばマスター殿はそれの秘儀により、背越しから殺される事を
そう真剣な声色で二度とないようにと言わんばかりの態度で返されると、コレットは思わず背筋をピンッと延びて頷いたところでポケットからバイブ音が響く。
「ご忠告どうも、じゃあ電話に出るから何か異変があったら報せてちょうだい」
そうコレットはスマートフォンを取り出して通話ボタンをタッチする。
『どうもミスターマツウラ』
電話越しの相手はライダー探しの依頼主松裏嘉平であった。
『ああどうも、早速で悪いがアレの件について何か進展でもあったか?』
『一応大体の潜伏場所までは特定した。後は探し当てるだけ、アルヴィンの仕事もやらなきゃならいから今後の進展は遅くなるがいいのか』
『構わない、元より君は監督役の手足だ本職の支障がないよう進めてくれ。私は令呪さえ奪えるならばそれでいい』
その声は落ち着いていた。
焦燥しているというのに意外な返答にコレットは茶化そうとしたが、ふとアサシンの忠告を思い出しやめた。
『そうかい。そんじゃあこちらのペースでやるとするよ、それよりさ二十四体目ははかどってんの?』
『ああ、優れた肉塊を選別する作業もやらなくてはな、どの道あれは竜に近くなりすぎた失敗作。保存しても後継機に悪い影響しかない』
エルリカは生誕を受けた者として見ているが、松裏は令呪が宿る失敗作として見ている。
コレットから見ればどちらとも嫌悪しなかった。
宣伝の様子を見てもアルヴィンの話を聞いても、エルリカは魔術師としてはあまりにも情が深そうだなと思っていた。
そんな人間から見れば
一方、松裏は"彼女を"被験体として眼中にないのを見ると実に合理的。
何せ実の娘すらも実験のむごさに家を出てしまう程の実験を二十三回繰り返しても、こうして普通に会話している。
魔術師というのは人を人でないものとして育て上げるものだ。
娘は人でないものに拒絶したが、父は既に人ではないものとして変貌している。
コレットが屠ってきた大半の魔術師達と同胞だなと思いにふけるだけであった。
『そいつはいいな、今度は実験成功すればいいな』
『まあ君が令呪を探し当てたなら、その必要はなくなる。
幻想種を乗せる箱舟が私の代を
そう電話はそこで途切れた。
ノアの箱舟―――――世界を飲み込む洪水から全ての生き物を救済せんと造られた舟。
そして松裏家はヒトの器で幻想種の因子を保護するのを研究している。
「はん、つまりあれか。アンタの願いって言うのは人類箱舟計画って事かい?」
この星に行き場を無くした幻想種達をヒトの器を以て救済する。
「二つの意味で
コレットはそう呟くと小指半分まで短くなった煙草を口から吐き出した。
◆
「なんでこう戦いにくい場所を選ぶかねえ」
サーヴァントの気配を察知したランサーは赤毛を風に揺らしながら眼前の景色に言う。
「というかなんであの子魔力を隠そうとしないのよ、他人のところとはいえなんでも不用心よ」
ペトラはランサーの目と肌を通して相手の愚かさにまた憤怒する。
何故ペトラがこの工房の主を知っているのかというと、ランサーに偵察を頼んだらレンタルビデオショップから出ていく姿を見たから追わせたのだ。
「あの坊主な、いちいちシワ寄せてたらキリがねえ相手だと会って間もなく認知したぞ俺は」
箱海市の中心街井門田にあるビジネスホテルの裏側に霊体化のまま立つランサーは、ヘラヘラと皮肉げにバーサーカーのマスターについて話す。
「ここまで常識が通じないとは思わなかったわ」
「規格外の相手つーのも悪くはないと思うぜ俺は」
「規格外過ぎよ。聞いたこともない変な魔術使うし、協会に報告したら封印指定されるんじゃないのかしらあの子」
封印指定とは一人限りしか使えない魔術。
その人間がいなければ後継者にその
魔術師としては特殊な特許を得たようなものだが、魔術発展の為に魔術協会から保存される運命が待ち受けている。
それを嫌って大半は逃亡生活を選ぶのが実態だった。
英字ルーンと呼んだポールの魔術は協会に多くの知り合いがいるペトラの知識範囲内では、見たことも聞いたこともない。
おまけに未来と過去が合体したようなタイプライターで魔術行使する姿も、とても奇怪であった。
「封印指定って単語はピンと来ないが、つまりあれか手前らの親玉が規格外って認定される可能性あるって事か?」
「そんな感じよ。私はそんな厄介な人関わりたくないけど、関わりたい人に差し出せばガラスケースに入れられて、標本として保存しよう考えるのかしらね」
その言葉にランサーの顔は強ばらせた。
「手前らって陰湿かつ野蛮だよな、流石の俺もその対応は引くわ……」
「個の信条の為ならば、敵味方関係なく切り捨てるあなた達に言われたくないわね」
「うるせえ、アルスターの男ってのはなそういうモンなんだよ。
どこか楽しそうに話すランサーに対し相変わらずこの
「あ、そう。無駄話はここまでにしましょう、そうね。境界の戦士としてあなたはこのビジネスホテルどう思うのかしら?」
ランサーには神性はないが、国境神として地元の人間に崇拝されていた時代がある。
その加護として何かを隔てている物には、今回のサーヴァントの中で一番敏感であった。
「魔力を隠す工夫はしてねえが、裏口と正面玄関に何か仕掛けているのを感じるな。そこまでオマヌケな相手ではなかったな」
ペトラだったら工房内から漏れ出す魔力を隠蔽し、尚且つ多重の結界と媒体である山羊の頭五つ地面に埋め作り上げた呪詛結界を張っている。
だが魔術師の工房を正面突破する事は愚行。
皆が真っ先に攻めないのもその為である。
恐ろしい罠を仕掛けているかも知れないし、使い魔と戦うかも知れない。
事実あの駐車場の戦いも、即席とはいえもう少し相手が賢ければ恐ろしいものになっていたかも知れないのだ。
「それでも行きましょう、ランサー。どのみちあちらも気づいているわ」
「へいへい。さて、あの夜の続きと行こうぜ坊っちゃん」
獲物にありつけた獣の様な笑みを浮かべたランサーは、裏口へと侵入する。
景色は殺風景だった。
きちんと整列した扉があり、
(……何にも起きねえなあ)
霊体のままランサーは辺りを見渡す。
何か仕掛けているにも関わらず、この建物は不気味な程静かであった。
「ランサーどう様子は」
「様子ってなにも人払いの結界と探知の結界と防音の結界と何かの魔力を感じるが……本当にこれやる気あんのかあちらは」
つまらないとランサーの士気は下がる。
敵ならば強気で抵抗して欲しいのが本音だ。
特に理由がなければ、一方的な蹂躙を嫌うランサーにとってひどくつまらない戦いだと溜め息を漏れ出す。
――――すると、火災報知機が唐突に鳴り響いたのでランサーは肩を跳ね上がらせ驚いた。
「な、なんだ!? 今の音は!!」
『火事です、火事です三階付近に火災発生です』
「ランサー、このアナウンスなんて言っているのかしら?」
「火事だってよ。つーかここ一階なのになんで三階って言ってんだ故障か?」
先程感じていた魔力元を見つけたランサーは、天井を見上げたのを見たペトラは思わず甲高い声を叩きつけた。
「ありえない――――ありえないわ!
視界に納めたのは火災報知器にポールが披露した、英字ルーン刻まれたものだった。
にわか信じがたい事実にペトラは頭を抱えていそうな声色で、ランサーにそう異議申し立てる。
「有り得ないモンなのか?」
「魔術と科学は目指す場所は同じだけど、根本的に相容れない存在よ。魔術が過去なら、科学は未来。けれどもその垣根すらもあの子は越えるわけ!?」
ますます厄介な相手だとペトラはヒステリーを起こしランサーに当たる。
そしてペトラはなんでそんな才能をあの時まずい料理として調理したのが、魔術師として許せなかった。
「いいねえ、敵ながらなかなか面白え技を見せてくれるじゃねえか! 坊主!!」
「笑い事ではすまされないわよランサー! 下手したらあの子は魔術史を揺るがすかも知れない魔術を会得しているのよ! ああもう! なんで
こういう魔術を受け入れてくれる魔術科は、曲者問題児ばかりが集うという現代魔術科の講師の名を叫ぶペトラ。
そんなマスターをよそにランサーは実体化する。
早く、獲物をくれと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
人除けの結界が張られ尚且つわざわざ三階と誤報させるのを見ると、ここで決着をつける気だろう。
すると早速威勢のいい掛け声が廊下にこだました。
「フハハハハハ!! また会ったなランサー!! 今度こそ決着をつけるぞ!!」
「今回は手加減なしだ坊っちゃん!」
ランサーは盾を霊体化させると、その猛牛に向かってランサーは走り出していた。
◆
草を掻き分ける音が聞こえる。
誰かが逃げているのが見える。
「こっちに来るな――――ッ!!」
あれは男でこれらは深い森だ。
呼吸の音が聞こえる。
何かに怯え叫んでいる。
何かが手を伸ばした。
誰かが足を動かした。
何かが追った。
誰かが走った。
何かが追った。
ただそれをこの森の中で繰り返すだけだった。
そうして追いかけられ続けた末。
「あ―――――」
誰かが落ちた。
何かが手を伸ばした。
武骨な手は届かなかった。
武骨な手は握れなかった。
何かがその手の主が落ちるのを見るしかなかった。
「畜生、やっぱり死ぬんだな俺」
誰かが恨めしそうな声で助けようとした手の主に向けて放つ。
その言葉を聞いた何かは動じなかった。
誰かが崖底の川に落ちた。
いかなきゃ、いかなきゃ、誰かの家族が寂しがる。
会った瞬間うまく真似できたので、きっと代わりとして機能するだろう。
何かは崖を後にする。
草を掻き分ける音が聞こえる。
何かが走るのが見える。
何かはやがて山里にたどり着く。
そして広場にいた燃える火の様な赤毛を高く結わえた乙女に出くわした。
「どうもこんにちは、どうしましたそんなに急いで猪にでも追われましたか?」
「セイバーっ!! あれ……俺」
俺はふかふかのベットで目が覚めた。
周囲は様々な武器が飾られた部屋があり、その奥には剣を鍛練する小部屋が見えた。
「ナミア!」
「エルリカ」
エルリカは体を乗り出して俺の体を安否を確認していた。
「ああ、よかった……解呪できて。小さな公園に向かったら倒れたあなたとセイバーがいたから驚いてしまって」
「―――――え、セイバーの他に誰かいなかったか?」
俺は目を見開きある事実を確認する。
「セイバーしかいませんでしたわ。ロミオ霊体化解きなさい、あなたもナミアを運んだのでしょう? 姿を見せなくてはナミアが礼を言えないわよ」
待て、誰が抜けている。
キャスターの霊体捕縛されていたのがセイバーで、俺を助けたのがランサーな筈だろう。
なのにエルリカが言うにはあそこにいたのは、セイバーだけだとはっきりと言った。
「……嘘は言っていないよな」
霊体化を解いたアーチャーはその言葉を聞いて、言わなくても分かるだろうと呆れたように目を閉じ、エルリカはぎろりと睨んできた。
「分かったよ分かった。じゃあ……あれは誰だろうな」
キャスターは対魔力を呪えとセイバーに言ったから、束縛からは逃れられる。
けれどもキャスターに攻撃したのはセイバーより背が高い赤毛のサーヴァント。
条件に当てはまるのはランサーしかいない。
だというのにエルリカが言うなら、あの公園にはセイバーしかいなかったという。
「誰だろう? あなたに
マスター曰く茂みに足跡が残されており、魔力残滓から茂みの外よりも濃い……だからマスターは罠を仕掛けていたのではと考えたのでしょう、昼間にキャスターのマスターから罠を仕掛けるという発言を聞かされていましたしね」
アーチャーは懇切丁寧に俺の疑問に応えようとしていたが、ズレている。
「でもキャスターは何故あなたを連れ去ったのでしょうか? 魔術回路の七割起動できない障害を持つあなたに
つまり
「いや違うそうじゃない。俺が言いたいのは妙なお香吸わされた連中じゃなくて、キャスターを退散させたヤツだよ」
「? あなたを助けたのはセイバーではないの?」
「むしろピンチだったのは俺達だ、な。セイバー」
「……はい、私はキャスターに霊体を束縛する魔術をかけられ、身動きが取れませんでした」
セイバーは霊体化のまま事実を二人に述べた。
これを受けてエルリカは難しい顔で考え込む。
「んー、セイバーの対魔力ではキャスターの魔術に太刀打ちできないのは確実……けれども撃退しているとなれば、第三者が介入してきたとなる。
でも、
するとアーチャーは険しい表情でセイバーがいるであろう、場所に視線を向ける。
「となると魔術から逃れたのは彼女の宝具の加護という事になりますね。
セイバーのマスター、彼女の保有スキルに対魔力を覆すようなスキルはないのですね」
「ない」
俺は真っ直ぐとアーチャーに向けて言うと、続いてエルリカはこう述べてきた。
「もしかしたらセイバーの宝具は対魔力を上げる物だったらなんとか辻褄が合いますが……ナミアの証言から察するに、それは有り得ない話だと言う事になりますわね」
「そりゃあ朧気だったけど、セイバーより背の高い赤い髪をしたサーヴァントが斬りかかったのをこの目で見たからな……あ」
ふと俺はある観点がある事に気づいた。
「? どうしたのかしらナミア」
「そうだ! セイバー、お前誰が斬りかかったか分かるよな! 俺と違って拘束されていたから!」
そうだあのランサーもどきの意識がはっきりした目撃者は、キャスターと久世久一、それとキャスターの術により拘束されていたセイバーの三人だ。
「これはいいアイディアですわね、ナミア」
「被害者であるセイバーのマスターに固執していたせいで、盲点になっていましたね私達」
エルリカはうんうんと頷き、アーチャー
俺はセイバーの方を向いてそう呼び掛けると、実体化したセイバーは何故か観念してくれという顔を見せた。
「……そのキャスターを斬ったのは私です」
セイバーはそう静かに告げると俺は見開き、そして以前告げられたあの言葉が過る。
"何を言っているんですかマスター、私の宝具は既に見ているのではありませんか"
そう告げられていないアーチャー達の目は疑いに染まっていた。
そしてエルリカはそっと俺の耳元に近づいて、こう囁いてきた。
「ナミア、セイバーはどんな英霊なのかしら。
もしかしてセイバーに気遣って、聞こえない程の声で喋っているのか。
繊細なのか大雑把なのかよく分からない性格だな。
「それがセイバーの生前は揉み消されてるから、世界中の図書館探しても資料を見つけるのは無理だ。
その証拠に正体を看破したっぽいキャスターも不思議そうに言っていた「一体どうやって触媒を使って召喚するのか気になるな」って、つまりセイバーの触媒はこの世にあったらおかしい英霊だと言ってるもんだよ」
俺がそう答えるとエルリカは難しい顔をして返す。
「……んー? んん?」
その様子に気づいたアーチャーとセイバーはきょとんとした表情でこちらを見ていた。
「マスターどうしましたか?」
「いえ……ただセイバーの真名の候補まで行ったのですが、二つ当てはまらないので守護者の類いなのかしらと思っただけですわ」
「!? セイバーの真名分かったのか!」
俺はエルリカに掴みかからんという勢いで見た。
「セイバー、あなた真名を明かしていなかったの!?」
エルリカは赤毛の剣士に視線を向けると申し訳なさそうな顔で告げる。
「はい。けれど私個人の真名はありませんので、マスターには英霊としての信仰力は一切ないと告げたのです」
その答えにエルリカはふむと頷き俺の話に元に戻す。
「あなたの真名の候補がそうでもそうじゃなくても、そうですわね。それに……もし候補があっていたら」
と一旦エルリカは暗い顔で下を向けた。
「珍しいですね、マスターそんな顔するなんて余程言いづらい話なのですか?」
アーチャーは目を丸めて暗いエルリカを見ていた。
確かに唯我独尊の塊であるエルリカがこんな風に押し黙るのは珍しい風景である。
「……セイバーを縁召喚したというあなたは、場合によっては「生霊」の側面を持ってるかも知れませんわね」
生霊――――その単語に俺は……キャスターが俺に関して浴びせた台詞が過る。
生霊は生きている人間の肉体から魂だけ抜け出し動き回っている、いわゆる幽体離脱した魂とエルリカは言う。
けれども。
「冗談はやめろよ」
冗談だと信じたかった。
俺はおわった人間でも、喋る肉人形じゃない。
「――――冗談だったらいいですわね……だから
けれども、俺を見るエルリカの顔は浮かんだ憶測を否定したいと言わんばかりの顔であった。