バーサーカー、コンモドゥスは約束されていた。
生まれながらの帝権を持つ者として。
アルジェリア北東部から出土した碑文は「あらゆる皇帝の中で最も貴頭」と記されている。
しかも父は哲人皇帝と呼ばれ『自省録』の著者であるマルクス・アウレリウス・アントニヌス帝。
その血筋を引いた一人の子であるから、尚の事期待されていた。
肺結核、胃潰瘍、偏頭痛を抱えながらも国の為に必死に耐えていた父と戦場を駆け抜けた日々は、昨日のようにはっきりと覚えている。
父の死後マルコマン戦争の判断処理は誰もが反対し、酷い場合では臆病者と罵られた事がある。
けれどもコンモドゥスは考えたのだ、東方問題を対処した遠征軍は伝染病を持ち運び人口減や税収減を招いてしまった。
カルパチア山脈寸前まで国境を伸ばしたが、東方問題にてユーフラテス川に防衛体制の強化で伝染病が拡大したのならば、まずはそれを防がねばならないし、なおかつ国境兵を作らなければならないので
そもそも泥沼化した戦争を勝つまで続けるにはリスクが高い。
どちらかが涸渇するまで続ける戦争は無意味だとコンモドゥスは考え、敵地から撤兵し国境をドナウ川に戻す独断をしたのだ。
戦争から帰還したコンモドゥスは、遊びを覚えてしまったのだ。
政務をペレンニスに託し、歓楽街を徘徊し美女をはべらせ夜明けまで飲み明かした。
そんな生活を続けていたある日、歓楽街で知り合った友人から身分を隠して闘技場を観戦しないかと誘われ、コンモドゥスは心より承諾。
実姉らに内緒で闘技場に観戦し試合が始まると、そこで世界は一変した。
沸き上がる歓声。
獰猛な野獣と剣闘士が繰り広げる戦い。
ローマ神話の戦いやギリシャ神話の戦いの再現試合。
何より一番驚いたのが剣闘士はみな
そして彼らは
自分は生まれ落ちてから、周囲の期待という重圧を背負った男は思う。
彼らのようにもっと自由を求め戦いたい。
ここは地位、虚飾なしで国民達に愛される舞台。
親愛していた姉に裏切られてからその思いは一層強くなった。
練習の姿を見られるの恥じらって誰も見ていない時間帯で、体を鍛え上げ続けた。
自分はあの虚弱な父の息子ではないゼウスの子の化身だと思い込み、あの乱までずっと自分は鍛練と男女遊びをした。
そんな皇帝を元老院やカッシウス・ディオは呆れていた。
そしてコンモドゥスもまた汚職まみれで殺そうとした元老院を嫌悪していた。
だから、闘技場で切り取ったダチョウの首を議員席に掲げ
それを危惧したかどうかは何も語られていないが、キリスト教徒の愛人によりその生涯を閉じた。
英霊になった時思うのだ、ミトラの教えは友愛と善の為に戦えと説いていた。
改心した後、父の背を追うように自分なりの善政を敷くように努力した。
なのにどうして暗殺を企てられたのだろうか、首を絞められた時理解できなかった。
結局自分は身辺に理解を得ないまま、呆気ない最期を迎えてしまった。
それを召喚された時マスターに話すとこう返答してきた。
"夕日の土手で殴り合える程の友達を作れば良かったんじゃないかな"
箱海市、井門田ホテル一階廊下。
人払い、防音の結界の恩恵で彼らは思う存分暴れていた。
狭い場所で二人は互いに神速とも呼べる突きを激しくぶつけ合っていた。
槍の長さで考えればどちらとも不利。
バーサーカーは見た目を重視しわざと全長二メートル程の巨大な槍を操り。
ランサーもまた背丈に合わせた投擲用の短槍なので、横に薙げば壁に刺さって鉄棒を作れる程はあった。
「はっ、戦えば戦う程手前は
後ろに退却しバーサーカーの間合いから離れたランサーは、心底楽しそうな表情で言う。
「そういうお前さんこそ、幼き『光の御子』を育て上げただけはあるな」
その言葉に爛々とした目を輝かせて、ニィと歯を見せてバーサーカーは笑いかける。
「当たり前だろう? でなきゃ影の国の魔女に惚れさせねえ」
赤枝の騎士団は幼くして入団した戦士「幼年組」は見習い期間を経てようやく入団する。
光の御子ことクーフーリンは剣才がないとフェグルスは言ったが色んな意味で不憫だと思ったランサーは、ちゃんとした剣の基礎を幼いクーフーリンに教えた。
すると剣の才覚もあった事が発覚し、ランサーはフェグルスの剣士としてのプライドが傷つくと判断し、この事を墓場まで持っていったのだった。
「ハハハハ、えーと影の国といえばスカサハだったけのう……やはり強いのかそいつは」
「俺は実際に会ってはいないが相当強いらしい。
だが人間性はだな本人の話によれば、なんでも鮭跳びの試練を合格して居城の門を叩いたら短剣が数本飛んできて、矢除けの
いくら修行でも理不尽過ぎではないかと、ランサーは今も顔をひきつらせて語っていた。
「ほう、ルキア姉上と同類か?
アンニア・アウレリア・ガレリア・ルキアは気位の高い女性であり、気が強い女性が好きなバーサーカーが好意的な感情を寄せる程であった。
だがそれが
「むしろエメルのご婦人じゃねーの? 未熟な男にケ……おっといけね、また地雷踏むとこだったな」
ツと言いかけた途端、ランサーはまた暗殺された話をするところだったと焦って話を切り替えた。
「ああ、いいのう。女の為に強くなる話もまたいい」
聖杯から得た知識を噛み締めながらこくこくと頷き、その余韻にバーサーカーは浸る。
「手前、気が強い女なら見境ねーのかよ……」
ランサーは呆れた顔でバーサーカーを見る。
敵の女将軍をも食った
因みにランサーは妻が四人もいたが、従弟のような女絡みの問題を起こした事はほぼなかったと豪語できる。
「女もいいぞ。美女の自慰を眺めながら美男子に攻められる快感は何とも言えぬなあ」
満足げに笑うバーサーカーに対してランサーは更に深く呆れを眉間に皺を寄せたので、バーサーカーは不思議そうな顔でランサーを見た。
「なんつーマニアックなプレイなんだよ……なあ、主君」
ランサーはマスターに念話で話しかけて数秒後には、困った顔を浮かべていた。
「へいへい。忙しい時に卑猥な話振って悪かったな主君」
(反省の色ないなあれは……あの顔、マスターが忘れた頃に話ふるぞ)
バーサーカーはランサーの顔を見てそう確信すると、ランサーは仕切り直しだ坊っちゃんと言い、突進し再び突きを繰り出してきた。
その槍捌きは勇武絶倫の早業であった。
けれどもバーサーカーも負けてはならない、走り回るダチョウの頭を正確に射抜ける
突きの構えから滑らかな動作で蹴りの動作を繰り出してきたのだ。
バーサーカーは咄嗟の出来事に腹を狙ってきたその足を避ける為、瞬時に体を退却しなんとか躱したが、宙に浮いた足を力強く踏み込んで体を前にのめり込ませると逆の足で回し蹴りをランサーは繰り出す。
「ぬ……あっ!」
腰は火打ち石であった。
鋭い足払いが火花を散らそうと叩き落とさんとしている。
その衝撃は一瞬だけバーサーカーの意識を飛ばす。
くるりと半回転し静かに落ちる巨躯。
その隙をランサーは見逃さない。
タンとオリンピックに出場する陸上選手がスタートダッシュするかのように、ランサーは一気に間合いを詰める。
「その
青い槍は落下速度に合わせて喉元を狙わんと突進してくる。
バーサーカーはここで終わりかと誰もが思ったその時、ニヤリとバーサーカーは不敵に笑った。
なんと大木のような片腕を軸にして掌を床に広げると、それを軸にして横に回転し青い槍はバーサーカーの金髪を掠め取った。
ランサーはその技に口笛を吹く。
「曲芸師か手前は」
「フハハハハ!! いかにローマの民達を楽しませるか考えた結果よ!」
そうバーサーカーは誇らしげに言う。
バーサーカーは野生を身に纏った様な姿と裏腹に、剣闘士としては技巧派であった。
その台詞をランサーは皮肉な感想を贈る。
「戦士つーよりパフォーマーだな……まあ、剣闘士の戦いってのはローマ市民にとっちゃあショーの一つらしいからな」
「左様! ただの戦いではつまらん、やはり磨かれた
バーサーカーは咆哮し先程から廊下全体を地震のごとく揺らしながら、矛先を向けて突進する。
人の極限まで磨かれた。
己の虚栄心から生まれた。
己の誇大妄想から始まった。
その三つが凝縮された攻撃は鮮やかだった。
だがそれをへし折るのは英霊でもあった。
ランサーは槍を斜めに持ちそれを易々と防ぎきったのだ。
「ハッ単調!」
ランサーの嘲笑が聞こえた。
それを聞いてバーサーカーは思うのだ。
この
多分それは剣闘士は自由の為に剣を振る。
だがこの男はたった一人の戦友の為に国中の戦士達を統括し剣を振った。
戦う理由があまりにも違うのではと思う。
前者は己の為、後者は友の為。
バーサーカーとランサーは戦士としての
(なあ、
命を賭せる程の友を―――――
バーサーカーはランサーに足払いを食らわせると、不意打ちだった為躱す
今だとバーサーカーはその喉輪に槍を突き立てんとした時、ランサーはニヤリとほくそ笑んで体を転がして躱すとランサーは立ち上がった。
「バーサーカー、今のは仕切り直しだよ! それと床に穴空けてちゃってさあ、暗示するのボクなんだけど!」
「あれか戦闘を離脱するとかいう能力だな! ヤツはダ・デルガの館の激戦を脱け出したからのう、見えるかマスターヤツの右腕のおびただしい傷を! あれがダ・デルガの館の戦いの激しさよ!!」
バーサーカーは穴を開けた事については完全に無視をしており、ランサーがどうして仕切り直しのスキルを得たのか逸話を口上した。
ランサーの父親が言った、お前は守るべき王を見捨てて逃げてきたのかと。
ランサーは言った。守るべき王は戦地で死に絶えた、この傷をご覧くださいどれだけ激しかった事か、次はもっとうまく戦って見せますよ父上。
ランサーの父親はよくやった我が息子よと褒め称えた。
「いや、ランサーの真名分かってるし……言わなくてもそうだろうなとしか感想しか思い付かないよ! って、うわあ!!」
「おいどうした友よ」
あのにへらにへらと笑うポールが珍しく慌てたので、思わず念話にも関わらず声を荒げて質問した。
それを見たランサーは不思議そうに構えを解く。
「雑念くん遠見カメラからバットニュースが届いたよ!! 音は防ぎきってるけど、流石に振動まではいかなかったみたい。ボク達を意識して警備員のオジサン二人がエレベーター乗ったよ!! ほらボクが誤作動させたから余計に怪しんでるだろうな!!」
「なんだと! おい、ランサー今から人が来るらしいここで勝負はお預けでいいか?」
「そんなの聞かなくても分かるだろう、俺の主君は魔術師だ。俺が続けたくても、あの毒婦の事だ令呪を二画使ってまで俺を強制撤退させるだろうよ。
じゃあな、坊っちゃん霊体化しておけよ」
ランサーは槍を担いで後ろを振り向くと急いでホテルの廊下へと立ち去った。
その後そのホテルはその下には不発弾が埋まり、何かの衝撃で爆発し火災報知器を誤作動させたとニュースで報じられる事となる。
◆
「ありがとう、エルリカ世話になった」
靴を履き終えた俺は玄関まで来たエルリカに、解呪してくれた礼を言う。
「いえ、あなたは同盟者ですもの当然の義務ですわ」
見慣れたその凛々しい表情は、エルリカの高貴さを具現しているようであった。
「俺からしたら十分すぎるよ。解呪までしてくれただけではなく、ライダーの情報まで教えてくれて……本当、俺は何も役に立っていないなって」
「気にする事はないですわよ、
まさか……史実ではホムンクルスを数世代技術を早めた錬金術の彼がキャスターに選ばれるなんて……」
「錬金術? キャスターは魂を研究しているとか言っていたけど」
俺はキャスターがセイバーに金縛りの術を行使した際言った台詞と、エルリカが今言った台詞が矛盾しているので首を傾げた。
「では今回のヨハン・ゲオルク・ファウストは、幾つかある伝承の一つとして召喚されたのでしょう。
つまり数ある民間伝承或いは人形劇或いは戯曲のヨハン・ゲオルク・ファウストに近い
それにあの商売悪魔は、人々を陥れたと聞きますし、契約をした人間の中で口伝に似たような生き様を送った魔術師ぐらいいる筈」
つまりキャスターとして君臨するヨハン・ゲオルク・ファウストは、史実ではなく虚構寄りの存在として甦ったとなる。
「じゃあ、アイツは実在した本人じゃなくて―――――」
「商売悪魔と契約し似た人生を送った無銘の魔術師が
何より博士は史実よりも虚構の方が民衆に浸透している、だからでしょうね……魔術師すらもない少年は
魔術世界ではホムンクルスとして著名な魔術師であるが、一般社会では悪魔と契約し満ち足りるまで探究した魔術師として著名な魔術師である。
サーヴァントは民衆の信仰により次元の違う魂として浄化される。
つまり余程でない限り、キャスターを召喚すれば自動的に『
恐らく本物の博士により、鋳造されたホムンクルスも同じ条件で商売悪魔の名を冠して召喚されるだろう。
「……でも、詠唱が俺が読んだゲーテの『ファウスト』と酷似していた。詠唱って物質界に繋げる自己暗示だから被る事はありえないんじゃあ……」
「だから! それを基盤にしているサーヴァントと言っているでしょう? もっと簡潔に言えば、 魔術は無銘の物と今回は戯曲の物を、
つまり、元々持っていたものと伝えられたものも、キャスターの魔術として扱えるというわけか。
納得した。
そしてややこしい存在だなと思った。
「複雑なサーヴァントだなキャスターって」
「それはそうでしょう、何せ史実の博士は魔術で民衆に名を知らしめたのではなく、その死に様から民衆の想像で生み出された英霊ですもの、キャスターの場合在り方そのものが曖昧な存在なのだから」
架空と現実が混ざり合ったサーヴァントか――――下手したら、ちゃんといたと言い切れるセイバーに比べて存在が明確ではないではないか。
「しっかしよ、サーヴァントにも色々いるんだな」
俺はさらりと感想を述べると、エルリカは凛々しい顔のままこう答えた。
「実在にしろ架空にしろ。彼ら彼女らが成し得た物を人々から讃えられた者達ですものねー」
エルリカは青い瞳をそこにいるであろうアーチャーに向けて、嬉しそうに誇らしげな顔を見せた。
「……そう言われても、私はそうされても満たされなかった人間なので、あまり自覚が……」
わざわざ実体化してエルリカに寂しそうな笑顔を見せるアーチャーがいた。
あの口減らずのアーチャーが珍しくどもっている。
こんな事もあるんだなと俺は思っていると、エルリカは不満気な顔で浮かべていた。
「まあ贅沢な悩みですわね! アーサー王に直接スカウトされたのに!」
「あー……見たのですねマスター。ともかく、私は二度目の騎士として栄華を得ても最後まで心が満ち足りなかった」
エルリカの屈み指さしでアーチャーは苦笑いを浮かべる。
ん? 今、エルリカアーサー王って言ったか。
しかもアーチャーって―――――まさか。
「オイ、アーチャーまさかアンタの真名……」
そう言いかけようとした時、アーチャーがこちらを凝視してきた。
「そうですご想像通りの真名です。はあ、マスターのせいで私の真名バレてしまったのではないですか」
「? え、今私ヒントになるような事いいました?」
「ええ言いましたよ、思いっきり」
そうアーチャーはきっぱりと答えるとエルリカは頭を抱えた。
「くっ……痛恨のミス! 先程の事は忘れ――――」
「もう遅い!」
俺はエルリカが言いきる前に突っ込んだ。
初対面からそうだったが、本当にこいつアホなの? バカなの?
俺は思わず呆れた目でエルリカを見ていると、キッとこちらを睨んでご機嫌斜めに眉をひそめた。
「このエルリカ・バルト・フレンツェ……人生最大の失態をおかしましたわ」
爪を噛み本当に悔しそうにするエルリカ。
サーヴァントの真名が開かされるという事は、明確な弱点を開かされるのと一緒。
例えば竜の血を浴びたが背中に菩提樹の葉が張り付いたので、そこだけ弱点になった英雄。
せめて人間でありさせる為、ある部位だけは不死の呪いはかからなかった英雄。
等々、死因になった事柄が時にはサーヴァントの弱点となって現れる。
アーチャーの場合は恋人との幻覚や毒を用いれば、追い詰める事ができるのだ。
今は味方なので確かめることができないのだが。
「ライダーのマスターを救済もしくは殺されれば、盟約は満了。敵対した時に厄介……あ、ナミヤは砂鉄魔術しか扱えないんでしたっけ、だったら安心ですね」
うわあ満面の笑顔でこっちを見ているぞ、その笑顔殴りたい気分になる。
「そうだよ。お前を弱らせる毒薬なんて作れない」
腹立つと俺は思いっきり顔でアーチャーに伝えてやった。
「ははっ、開き直りますか。自分の力量を自覚している事だけは誉めましょう、その分戦いになれば慎重になる。
万能な
ベディヴェール卿と遠征行った時、彼が槍を振るい敵陣が恐れている隙に、私は隠密行動し敵将の馬を射てから、落馬中その額に
「……」
俺も。
「……」
エルリカも、少し嬉しそうに話すアーチャーに引いていた。
こいつ、本当にえげつないな! 騎士道も糞もねえな!
と俺は思っていた。
エルリカも顔をひきつらせているんだが。
「あなたには戦いに誇りを求めないのですの?」
エルリカはとんでもない事を聞いてくると、アーチャーは爽やかな笑顔のまま淡々と答えてきた。
「だから、セイバーと対峙した際言いましたよね。そんなもの彼女を
―――――何よりここに召喚されてから
痛烈なる批判、アーチャーの表情は気迫に満ちていた。
アーチャーの発言を俺なりにまとめると、アーサー王は今に語られる程誉れ高い騎士ではなく、アーチャーと同じく手段を選ばない冷徹な騎士である事だと伝えているのか。
アーチャーとアーサー王に一体何の確執があったのだろうか俺は知りたくなった。
「なあ、アーチャー……アーサー王と一体何があったんだ?」
「……………………」
あ、モノスゲー嫌な顔してるし黙り込んでいるし、余程何かあったな。
「そうよ。鋼の人形とか言っていたじゃないのよ」
エルリカは腕を組み異議申し立てな表情で、アーチャーを更に追い詰めた。
「い、いや。はあ……参りましたよ、これはあまり言いたくはなかったのですが仕方がない」
仕切り直しとばかりに咳払いをしたアーチャーは、深呼吸をすると真顔で俺達に視線を向けた。
「簡単に言いますと、陛下は俺達の愛を領地と同価値と見出だしたからです」
「それだけですの? え、ええ!? あなたらしいちゃあ、あなたらしいですが、なんとくだらない!!」
オイ、気を使って俺が思った事をコイツ言いやがった!! 大声で!!
大丈夫かアーチャー、なんか
「……うおおお、仰る通りですマスター。でも、俺がようやく心の安寧を見つけ、そこに旅立つのを止めようとした問い掛けがどうしても許せなかったのです。
何が"何故、愛人の為に全ての地位を捨てられる? 今の地位が不満ならば褒美として領地を授けよう"ですか!! 本当に民の求める物しか知らない方でしたよ!!」
うわ、いつもすかしているアーチャーが鬼気迫る顔で力説する姿なんて、初めて見たぞ俺。
そしてあのエルリカが圧されているだと……!? まさに不満爆発だな、そんで最後は誉めてんの? 貶してんの?
「わ、わ、分かりましたから、一旦落ち着きなさいロミオ。本当にいい感じに拗れてますわねーあなたは」
暴れ馬を鎮めるようにエルリカは降参のポーズを取りつつも、余計な一言を付与してきたのだ。
どこがいい感じだ!? 完全に恋は盲目状態だよ!!
悪い方向に拗れちゃってんじゃないのか!?
それから数分間アーチャーが落ち着くまで、俺達は騎士達とアーサー王の不和についての愚痴を散々と聞かされたのであった。
「……申し訳ございません、お二人とも気軽に色々と吐けない環境だったのでつい興に乗ってしまいました。それから陛下、我々の品位を貶めることをつい口走った事をお許しください」
俺達と一緒に家門の前に来たアーチャーは、申し訳ない顔で深々と頭を下げていた。
「いやいや。お前も大変だったな、城勤めって案外社会勤めと変わらないんだな……」
たくさんの愚痴を聞いた感想がこれである。
騎士達はアーサー王の理念を理解していないだの、味方敵関係なく犠牲を出した人間は罪人となる事を理解していないだの、真顔でこぼしていた事を思い出す。
んでエルリカはまた何か空気を読まない問題発言を練っているのか、無言で虚空を見つめていた。
想像していたよりアーサー王関連の事情が、酷かったのだから。
最終的に騎士王か湖の騎士かで真っ二つに分かれたから、職場環境はきっと劣悪な物に違いないと思っていたのだがアーチャーの愚痴を聞くと最早、アーサー王は孤立している状態だと読み取れた。
皆で戦っているんじゃなくて、一人で戦っているってヤツかな?
本当、聞かなくて良かった事実である。
「……ロミオ、あなた。アーサー王の事未だに慕っているのでしょう?」
「!?」
エルリカの発言に俺達はきれいに同じ反応をした。
「な、な、な、なぜそうおもい、ますか?」
アーチャーしどろもどろである。
「ふふふ、本当に不敬を貫くならあの丘の末路を知って悔いがあるとか言わないですし、それにあの発言。王に忠告したと仰っていたので、あなたは人としては苦手ですが、王としては未だ敬う者として見ている。なんて面倒くさい
遠慮しないなコイツ、ズバズバと自分のサーヴァントに意見している。
「だからこそ私は聖杯を求めた、今度こそ愛する人と共に二度目の生をこの
アーチャーの言葉に力強さを感じた。
もう二度と同じ過ちを犯さない人生を送る、そんな感情を抱いてアーチャーは戦っていたのか。
これを聞いた俺はふとアーチャー達の末路が頭を過った。
曰く、アーチャーの墓から蔦が生え御堂を越え愛する者の墓まで伸びた。
そしてその蔦は三度断っても切れなかったという。
二度とその手を離さないと主張するかのように―――――
エルリカが言った通り、この二人が永遠の安寧を手に入れたのは、あまりにも遅すぎたのだから。
「それじゃあ、俺そろそろ家帰るわ」
俺は手を振りエルリカに別れを告げる。
「ええ、今夜はゆっくりとお休みなさい」
そうエルリカは朗らかに微笑む。
その笑顔に俺は少し罪悪感を感じた。
なんというか俺はエルリカに世話になっているというのに、俺は何もしていない。
強引に誘われたとはいえ、解呪までされたんだ。
このままでは癪だなと暗い感情が過ったので、俺なりの提案をエルリカにふっかけよう。
「そうだ。世話になりっぱなしもあれだから、その礼としてお前どこか行きたいとこでもあるか?」
「行きたいところですか?」
エルリカは眉を寄せ、アーチャーはどこか嬉しそうに微笑みながら俺達を見ているんだが、なんであんなににやついてるんだアイツ。
「そう……ですわね。丁度今観たい日本映画が一週間後に公開されると、CMで宣伝していたのでそれを観たいですわね」
「了解、待ち合わせは俺んちでいい? 映画の上映時間は俺が調べて明日の晩に知らせるカタチでいいか?」
「あなたに任せます、どうせ
エルリカはそう答えると俺は頭にその約束を刻むと、俺は二度目の別れの言葉を紡ぐとエルリカから立ち去った。
それから数十分後。
「――――マスター」
俺は路地をゆったりと歩いているとセイバーの声が脳内に響く。
「なんだセイバー」
「その……あなたが生霊の側面で私を召喚したという話気にしないでくださいね」
なんだその話か、だがセイバーのその気遣いが心地良く感じる。
「気にはしていない。そりゃあキャスターには魂がない空っぽのモノだと言われた時はショックだったよ。俺はここに存在してはいけない様な口ぶりだったから余計にな。
けれども――――俺は確かに地に足をついているんだって言い返せる」
そう自分は自分だと認識しているから、キャスターの仮説に異議申し立てられるのだから。
「………」
あれセイバー深刻な面持ちで黙り込んじゃったけど。
何かまずいことでも言ったか?
「おい、セイバーどうした?」
「い、いえ! なんでもありませんマスター!!」
あわてふためくセイバー、本当にどうしたんだ?
「あまり触れない方がいいかセイバー?」
先程の表情があまりにも真摯だったので、話したら気分を害するのではと俺は思った。
「……ええ。けれどもこれだけは言わせてくださいマスター」
俺の顔を真っ直ぐと見てきたので思わず顔が強ばってしまう。
固唾を飲んでしまうような重圧な雰囲気になると、セイバーは静かにこう告げた。
「
「わたしたち……?」
突然突き現れた現実に俺は体がくすんだ。
「つまりあなたは、人非ず者の性質を持っている可能性があるという事です」
だからキャスターが俺の評価を聞いてあんな反応を取ったのか。
「俺が人間じゃない?」
「あくまで可能性ですよ、私だってキャスターがマスターに言った言葉を取り消したい程、あなたは人間だと信じていますから」
そうマスターへの忠誠を垣間見るような台詞を紡ぐとセイバーが儚く微笑んだ。
それを見た俺はふとエルリカのベットで見た、あの微笑みが重なった。
そういやあの夢は一体なんだったんだろうか。
誰かが追いかけて、崖から落ちた人間を助けようとしたけど助けられず、逃げるようにセイバーの元へと駆け寄ったあの夢は―――――
俺は謎を抱いたまま、月光で浮かび上がったセイバーの微笑みがあまりにも印象的だったので、その思考すらも鈍らしていた。