Fate/melt a close   作:アクタ

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お待たせした!
多忙だった為、モチベ取り戻すのに時間がかかってしまいました。


第四章 生滅
5DAYS「それぞれの朝 四」


 聞こえる、雨の音。

 聞こえる、床の音。

 聞こえる、人の音。

 教会の祭壇で血まみれの少女が横たわっていた。

 華奢な体には三本の深い突き傷。

 どうして少女が殺されているのだろうか。

 相棒の名を知らぬ久世久一は横たわる少女をただ見て思うのだ。

 この少女の顔、誰かに似ている。

 誰だった?

 世の息苦しさから逃れる為、不登校になっていた久一は同年代の人間と接触していないので心当たりがない。

 久一はそう眺めていると教会の扉が激しく開かれた音を聞いた。

 そこにいたのはキャスターだった、姿は変わらない。

 ただ体には少女と全く同じ傷をたくさん持ち、服もボロ雑巾のようで赤い雫を垂らしていた。

 ぼんやりと立ち尽くし、静かに少女の遺体に向かう。

 キャスターの表情(かお)は相変わらず変わらない。

 ただ床が軋む音を立てるだけだった。

 久一はキャスターがふらつき弱々しく歩いているのか分からなかった。

 一体誰と戦って来たのだろうか、傷の深さを見て赤い(わだち)を見てそう思う。

 そして少女の遺体に寄り添うとキャスターは、今まで見せた事がない悲痛に染まった浮かべた。

「どうしてだ、マルガレーテは信心深く母親に苦しめられても尚生きようとした乙女だった。なのにどうして殺されなくてはならないんだ」

 キャスターは少女の手のひらをそっと優しく握り、号哭(ごうこく)した。

「すまない、本当にすまないグレートヒェン……私がずっと隣にいたらお前を……お前を……!!」

 久一は初めてキャスターの嘆きを見た。

 ああ―――――愛していた人を死なせてしまったのか、と理解した。

 羨ましい、あのキャスターですらも人の死に悲観を抱けるのだから。

 もし同じ立場であったならあんな風にはならない、少女の亡骸を抱えて「死んじゃったね」の一言で終わらせる。

 謝罪の言葉も懺悔の言葉よりも先にこれが出てしまうのだ。

 あんな風に嘆いてみたい。

 そうしたらきっと、みんなと同じに―――――

「いやはや旦那。探しましたぜ、早くしないと代行者のヤツらが嗅ぎ付けて燃やされちまうぜ」

 突然赤いコートを纏った、針金のような黒髪に褐色肌を埋め尽くすかのような刺青をした青年が教会の扉を開きずかずかと上がり込んできた。

「――――――」

 キャスターは余程ショックだったのだろう、生気を失い呆然と少女の遺体を眺めていた。

「あー……グレートヒェンの嬢ちゃん殺されちまったか、恐らく罪状は悪魔憑きの男と姦通(かんつう)罪だな。悪魔の子を生む危険性があると処罰されちまったか? ヒヒッ」

 意地の悪そうな笑みを浮かべる青年に対し、キャスターは何も答えない。

「ここは笑い事かとツッコんで欲しかったな、旦那行くぞ。今ごろ坊さん達は、同胞殺しの男を血眼になって探す筈だからよ」

 青年はキャスターの肩を掴み立ち上がらせようとするが、キャスターは動かない。

「ちっ、感傷に浸ってる場合か旦那! コイツは既に俺達と赤の他人になったんだよ! 旦那なら論理的にこの状況を整理して、さっさと立ち去るのが旦那だろ!! 俺がアイツらに祓われたら旦那は元の町――――」

 にと青年は言いかけると絶望のあまり立つ気力すらも残されていないのか、床を這い足元にすがるキャスター。

「……頼む尨犬(むくいぬ)、彼女を私が犯した間違いだけを消して生き返らせてくれ! 私が招いた結果で清らかで信心深い彼女が殺されなかった!! だから尨犬……頼む……頼む……」

 絞り出された声の内容は、久一すらも驚かせるものだった。

 ただ探究するだけしか生き甲斐を感じない老人が、初めて愛しい人の喪失に憂い泣きすがる姿を披露したのだから。

 生命の危機に苛立っていた青年はここで頭を冷却されると、いつものにやけ面は失せひどく真面目なものとなった。

「――――旦那、俺は魔法使いでも神でもねえ。ただの力であったモノが罰で肉を得た者なんだよ、そんなヤツに懇願するのはお門違いだ」

 その声は冷たく感情は一切籠っていなかった。

「ああ……あああああ――――ッ!!」

 聞こえる、雨の音。

 聞こえる、酷の音。

 聞こえる、人の音。

 小さな教会に懺悔だけが鳴り響いていた。

 

 

 久一は目を覚ました。

 何故か体は疲弊し眠気がまだ抜けきれなかった。

 天井を布団の上で見ながらふとキャスターの過去を思い返す。

 キャスターもあんな一面があるんだなと久一は、意外だと思いながら時計を見る。

 針はまだ五時をさしており、朝食の仕度をする時間ではない。

 それまで退屈なので夢を見て生まれた疑問、少女の亡骸もといマルガレーテは誰かに似ているかどうかを推理する。

 先程の夢を注意深く思い返していくと、ある単語とキャスターがこちらに来て呼んだ名が一致した。その言葉(たんご)は――――

 マルガレーテ、そうだ自分とよく食事を作るホムンクルスの名前と同じだ。

 確かに彼女(ホムンクルス)はその名で呼ばれていた。

 そして彼女(ホムンクルス)と少女の顔を照らし合わせると、髪色以外は全く同じ人物と言いたくなる程そっくりだった。

(……まさか蘇生魔術覚えたのかな?)

 けれども夢の中で青年は言ったのだ、魔法使いでもないと。

 魔術師と魔法使いに差があるのかと首を傾げていると、襖が開かれた。

「あらおはようございます。ヒサイチ様、珍しいですねこんな時間に起床するなんて」

 マルガレーテの登場に思わず虚を突かれて肩を跳ね上がらせる。

 その反応を見たマルガレーテはきょとんと表情を浮かべるが、すぐにあの優しい微笑みを作る。

「どうされたのでしょうか?」

「……なんでもない。おはようマルガレーテ」

 顔つきも体格もほぼあの少女と一致、まるで本当に彼女が甦ったかのよう。

 久一は首を振り思考を消し去る。

「たまたま目が覚めたんだ、それとごめん、今日はなんだか体がだるくて朝ごはん手伝えられないや」

 今まで感じた事がない倦怠感が久一の体をまとわりついているのだ。

 するとマルガレーテは挨拶を返すのではなく、深刻そうな表情で顔を伏せる。

「マルガレーテ?」

「ヒサイチ様、実はその博士が製造された魔力炉覚えていますか?」

 キャスターがある施術を使って、ホムンクルスの肉塊を石のような生き物に変えた魔力炉の事である。

 赤く丸い三つ石は脈を打つ光景を、きちんと久一は記録している。

 何故その単語が出てくるのかと久一は疑問に思い、首を縦に振る。

「これは博士からの伝言です。昨夜の戦闘で一つ消費したようです」

「そうなんだ、それで僕の体がだるいのとどう繋がるのさ」

毒傷(、、)の治癒も含んで、下級とはいえ霊体束縛の儀はかなり魔力消費したらしく、魔力炉の残量ですらも賄い切れなかったので、致し方なくあなたの魔力を拝借したそうです。なるべく石を節約する為に」

「つまり魔力を持っていかれたから体が重いってわけか……今さらだけどさ、もしキャスターが鋳造した魔力炉なかったら、僕達はどうなっていた?」

 久一は真剣な表情で問うと、マルガレーテは落ち込んだような顔で見た。

「博士は魔術行使したら消滅、あなたも魔力切れで死にます……」

 その言葉に久一は―――――

「そうか死ぬんだね」

 とまるで他人事のように呟いた。

 そしてそれを聞いたマルガレーテは、唖然とした反応をしてきた。

「あなたは意味が分かって言っているんですか? 死ぬんですよ、なのになんで淡白なのですか」

 まただと久一は、思う。その反応は人としてあってはならないモノだと、憑依ホムンクルスさえも反論された。

 これが久世久一という人間なのにどうして、どうして誰も理解してくれないのだろうか。

 今この無常(くるしみ)を向き合ってくれるのは、キャスターしかいないのか。

「生命が終わるのは当たり前だからだよ。当たり前だから僕は怖くもないし、皆とお別れしても悲しくもない」

 久一はもう仲良くできないだろうと思った。

 とても奇怪な心を持つ者は、この世界に馴染めないのだ。

 そう諦めていると、優しく手を握るマルガレーテがいた。

 亜麻色の前髪を垂らして悲しげな表情を向けた。

「そんな事言わないでください、私の基盤となっているマルガレーテ様が死に際泣いていました。"おじ様、おじ様"と――――あなたが悲しくなくとも、必ず誰かがその死を(いた)みます。ですから、そんな事言わないでください」

 ブラウンの目は真っ直ぐだった。

 久一は無言でその視線を浴び続けながら、動揺した。

―――――ホムンクルスにそんな言葉を言われるなんて。

「あ、す、すみません。私は「マルガレーテ」の役目を担うホムンクルスがこういうのはおかしいですよね」

 久一は彼女がどういう存在かよく知らないが、このホムンクルスは英霊となったキャスターが鋳造した存在である。

 外身(うつわ)だけ造り、中身はマルガレーテの(じょうほう)だけを降霊術で憑依させ、本人のように振る舞わせる。

 外見はキャスターの構築した施術により、魂にある設計図に従い髪型と瞳以外本人と瓜二つの外見となる。

 誰かがこれを蘇生術ではないかと生前キャスターは讃えられたが、キャスターはこれを否定した。

『蘇生というのは(イエス)の様に自らの体で復活(そせい)する事だ。この術は魂の生前を他者の遺体で再現する魔術(、、、、、、、、、、、、)だと』

「おかしくないよ。むしろびっくりしている、ホムンクルスの君に悟られるなんて思いもしなかったよ」

 そう久一は正直に答えた。

 無垢な者に歪んだ者を諭すなんて事不可能だと、久一は密かに思い込んでいた。

「はいありがとうございます。それでヒサイチ様今日の予定は如何しますか?」

 微笑むとマルガレーテは、今日の予定について問いかけてきた。

「この体調だと概念武装作るのと起源を引き出す鍛練は無理っぽいな、今は自分の魔力を回復する事に優先する。今日はキャスターにご飯作って欲しいな」

 魔力消費からくる倦怠感に襲われているので、久一は魔術行使を控えるとも答えるとマルガレーテは寂しそうに答えてきた。

「お食事は作る必要ありません」

「なんで?」

「大聖杯侵入の力を蓄える為、必要時以外は霊体化するんだそうです。

 それともう一つ数日前から、毎夜大聖杯がある場所に霊体反応が一騎現れたとの事です」

 霊体反応と久一は思い浮かべる。

 キャスターの魔術工房のソファーの側にあるあの探知機を。

「流石、監督役が管理しているだけあってめざといな。もしかしてマスターと同盟組んでいるのかな?」

「ええ、間違いなく」

 サーヴァント()はその場所から突然現れては毎夜燦然と輝いているという――――

 だからキャスターは平時でも霊体化すると決めたんだ。そのサーヴァントの衝突を想定して。

 久一はキャスターの行動をここで理解する、食卓が寂しくなるが戦いに備えるならば仕方ない。

「では、私はこれで。それとヒサイチ様―――――霊体除けの護符取りに行ってくださいとの事です。セイバーの魔除けの剣には負けてしまいましたが、大聖杯に潜むサーヴァントから守る為にだそうです」

 マルガレーテは深々とお辞儀をすると、襖を閉めた。

 キャスターが監督役に接触する際に、仕込んだ白い紙は無駄になってしまった。

 あの剣は簡素な護符ならば効果を消し去り、斬りつけたのだろう。

「―――――」

 久一は昨夜の事を振り替える。

 セイバーはランサーに姿を変えた、キャスターの調査書の情報とランサーの姿は一致したので、ほぼ正解なのだろう。

 だがキャスターが斬りつけられた時、キャスターは意味深な事を叫んでいた。

 

『その背丈は、そうかだから弱いのか(、、、、、、、)この―――――影法師!』

 

 影法師(かげぼうし)、そうキャスターはセイバーを呼んだ。

 どういう意味なのだろう久一は気になったので、念話でキャスターを呼ぶ。

「もしもしキャスター、質問なんだけどいいかい?」

「ああ、いいともマスターその問いとはなんだ?」

 相変わらず抑揚がない重みのある低い声が響く。

「なんでセイバーを影法師なんて呼んだの? 僕はセイバーの真名がピンときていないからさ」

 ステータスまでも写し取る英霊なんて、久一の知識では検討がつかなかった。

「なんだ日本ではあまり起こらないのか?」

「起こらない?」

 まるで天災みたいな事を言っている様だった。

「そう――――彼女いや、あれは実像がなければ知覚できない現象だ」

 久一は現象の単語に驚愕した。

 そんな存在までも英霊として召喚してしまうのかと。

 有り得るのかと思わず口走ってしまう。

「なんでそんなモノまでも、サーヴァントとして召喚できるの!? 有り得ないよ!」

「有り得る――――だが、それは実像ありきの現象故に触媒を遺す事はできない。

 縁召喚という手もあるが、その条件はあれと同質な存在である事。それは魔術師ですらも当てはまる人間は数少ない」

 つまり召喚はできるが、その条件はかなり厳しいという事が伝わった。

「どおりで僕の起源香が効いたんだね」

 あの魔香は嗅いだ者の生滅の(ことわり)を起こす代物だ。

 加目波也が反応したのは無常の方向性に修正され、意識朦朧の症状を引き起こしたのだ。

「話が反れたな。何故(なにゆえ)、あれは英霊になったかの話だったな。人々が生む怪異は人々の恐れにより怪物となった。その怪物の真名()は――――」

 

 

 箱海市 加目邸。

 俺は目が覚めた、いつもと同じ殺風景な部屋の風景を見ると、俺は朝の仕度をする為洗面場へと向かう。

 俺は人間か否か――――

 昨夜告げられた二人の推測がさらに俺を葛藤の道へと導いた。

 セイバーやエルリカはああ言ってくれたが、やっぱり不安でいっぱいだ。

 洗面台の鏡を見る。

 俺が抱く暗い感情に染まりきった顔をしていた。

『君には意思である魂が感じられない。にも関わらず君は"君"として活動している……喋る肉塊なのか喋る人形なのか、それとも喋る何かか、君はどういう存在なのか? それを識りたい』

『やっぱり先輩は人として「おわっている」存在だったんだね、うん。もしかして事故で死んだのは先輩だったのかも知れないね』

 クソッ、キャスター達の言葉が俺の不安をさらに掻き立てる。

 俺は洗面台を叩くと鏡を睨む姿を見た。

 エルリカの言う通り俺は加目波也だ。

 魔術回路が三割しか開けない魔術師――――

「……はあ」

 荒いため息をつく。

 この否定はもう何回目だろうか。

 いい加減にしてくれ、これ以上俺を振り回さないでくれ。

 俺は思わず洗面台の縁を拳を降り下ろし叩いて、体を俯かせる。

「マスター」

 霊体化を解いたセイバーの甲冑は静かな音を立てていた。

「セイバー」

 俺は振り替えるとセイバーを見る。

 俺の事を心配しているのが伝わってくる表情だった。

「その……大丈夫ですか?」

 赤く腫らした手甲は少し痛み痺れていた。

 凛々しい顔ではなく、寒さに震える捨て犬の様な顔に俺は少し動揺した。

「い、いや。なんでもないなんでもないから」

 俺は焦り首を横に振る。

 これは共と戦う相手に弱味を見せない、男の虚勢というやつだ。

「なんでもないではありませんよ。今までもこうして悩んでいましたが、物に当たる行為は今までなかったので、どうしましたか?」

 鋭い、俺は深呼吸し気持ちを落ち着かせると観念の意を表した。

「なあセイバー俺はちゃんとした人間だよな」

「そう信じたいと昨夜言ったじゃないですか」

 そう信じたい、つまりは――――

「その台詞よく考えれば、俺が人間である事が百パーセント言い切れないって事だろう?」

「……それは」

 口ごもるセイバー、何か重大な物でも触れさせない様な態度に俺は、セイバーに近寄り問い詰める。

「なあセイバー、お前何か隠しているな? 俺に言いたくない何かを――――きちんと言って欲しい」

 俺は真っ直ぐとセイバーの顔を見た。

 人非ず者、生霊、喋る肉塊、喋る人形、喋る何か。

 もし俺が人間じゃなければ、これら五つに該当する存在という事になる。

 ただでさえこの加目波也は、記憶障害のせいで確たる物すらもあやふやだ。

 せめて――――俺はきちんとした人間でありたい。

 その鍵をセイバーが持っているのならば俺は――――知りたい。

「……私の真名を告げたら、あなたはきっと落胆する。私のような存在と同質な時点で在り方が人として歪と言うのと同じですから」

 伏せられた目はこちらを見る時見開いた。

 意味深な台詞に俺はこう返すしかなかった。

「歪? 俺の存在が?」

「はい、簡潔に言いますと()がない存在、魂すらも()で形成された存在。それが私達なのです」

 静かにそう答えるセイバー。

 確かに人によれば落ち込みそうな単語だった。

 生きている事すらもおかしいと言われている気分を味わうのかも知れない。

 だが不可解な点が一つ。

「己のくだりは分かったけど偽のくだりがイマイチ、ピンとこない……魂まで偽ってどういう意味なんだ?」

 つい難しい顔をする俺。

 それを見たセイバーは険しい顔を作った。

「作られた物。ですが、私と同質の存在となれば魔術師ですらも到底無理です」

「えーと、つまりセイバーレベルの作り物って事か?」

 頭をフルスロットルしてなんとか俺なりの言葉で噛み砕いた。

「はい。そんな感じです」

「……意味違って来るけど一人当てはまる魔術師いるけど」

 人間を作るといえばあの人形師(、、、、、)だ。

 親父から話を聞いた事がある。

「―――――え? 本当ですか!?」

 何をそんなに驚いてるのかよく分からないが、セイバーは目を見開いてこちらを見ていた。

蒼崎橙子(あおざきとうこ)って言うんだけど、そいつ寸分違わない『自分』を作れるんだってさ。それで封印指定されて奔放したらしいよ」

 ただの人形が自分へと変貌した彼女の気持ちはどうであったのだろうか。

 キャスターみたいに喜ぶのか、それとも俺みたいに戸惑うのか。

 その答えは彼女にしか分からない。

「いたのですね」

 セイバーの表情は驚いたままこちらを見ていた。

「うん。実際に会った事ないけど協会では結構有名人なんだよ」

 魔術協会で最高位の術者に与えられる色を冠した称号、中でも原色を授かった術者は時代最高の証だという――――

 蒼崎橙子は原色の赤を授かった。

 「そうなんですか、まさか本当にいるとは思いませんでした」

 すごい深刻そうな顔をしているセイバー。

 そんな表情する気持ちを少しは分かった気がする。

 もう一人の自分を作れる魔術師が実在するなんてセイバーでも想定外の話だろう。

 もしかしてセイバーを召喚の資格がある俺もそんな存在なのかも知れない、この加目波也(からだ)は作り物。だから、キャスターはこの世に有り得ない存在(、、、、、、、、、、、)として見たのかも知れない。

 だがそれでも俺は―――――否定したかった。

 気遣ってくれたエルリカと同じ気持ちであった。

 俺はれっきとした人間でありたいが、話が正しければ辻褄があわなくなる。

「―――――俺は……一体」

 何者なのだろうか?

 

 

『ファック!!』

 箱海市の井門田にあるホテル。

 一階に入り込んでいた警察が帰ってきたから、もう数時間経過した頃ポールの耳に馴染みある怒声が貫く。

 時間はもう夕方の五時である。

「教授ごめんなさい!!」

 時計塔で行き場を失った彼にとって、向こう側の電話の主は恩人に等しい存在であった。

 例えるなら砂漠で生き倒れたところを、見つけられオアシスまで運ばれた恩人とも言える人間がこのような反応すれば、流石の怖いもの知らずのポールでも恐縮になってしまう。

『朝のネットニュースで見たぞ。箱海市(ハコカイシティ)のホテルで不発弾爆発と三階の火災報知器の誤作動……どう考えても辻褄が合わない。そして何より、それらは一階と三階で同時に発生している(、、、、、、、、、、、、、、、、、、、)こんな芸当ができるのは、マスターとなったお前だけだポール・グゲイジャン――――』

「なんでそう思われたのですか? 探偵の言うことは所詮推理だ話になりません」

 ポールはミステリー小説に登場しそうな犯人みたいな発言をすると、教授は察したのか長いため息を吐いた(のち)、呆れた声で返答があった。

巫山戯

(ふざけ)るのも大概にしろ。普通に考えれば、一階で爆発があったならば一階にある火災報知器が反応する筈だ。

 だが――――反応があったのは三階、しかも誤作動として扱われている。お前の魔術『空間支配』は空間とういう概念その物を支配(ハッキング)する事ができる。

 お前ならば、あらゆる事柄を処理する空間を持った物を魔術的に誤作動として働きかける事も可能だろうし、そして噂が本当ならばホテルの一階内でサーヴァントと戦わせた痕跡を不発弾が爆発した現場だと監督役が隠蔽したと考えれば、辻褄が合う。

 まとめるとホテル内に侵入してきたサーヴァントを探知し人除けとして三階の火災報知器を君の魔術で誤作動させ、一階で討ち合った……こんなところだな?』

 淡々と語られる推理に、思わずベットにポールはうずくまった。

『どうした? 今凄い音が聞こえたぞ!』

「なんでもないです探偵(教授)! その推理が的中している事に何も言えなかったです」

『―――――今、教授と何かの単語を掛けた言葉を言われた気がするが……時間の無駄だ、まあいい』

「酷い! 酷いですよ教授!!」

 ベットから勢いよく体えを起こすと、教授は無慈悲に話を続ける。

『日本に来た私の生徒がマスターになったとういう噂は本当だったらしいな。それで――――街の様子はどうだ? ポール・グゲイジャン』

 ポールは膨れっ面で答える。

「どうって、スリ事件が連発した以外は平和ですよ。あと、偽造妖精が街の中徘徊しているところですかね。魔道通じてない人には見えないのをいい事にきいきい言ってますよ」

『随分と手練れキャスターか魔術師が参戦していると見る』

「ボクはまだ会った事ないんでそうなのかはノーコメントです。それと贖罪の山羊使いの女の人と戦いましたよ、令呪で転移させなければボクの遺体がまっくろくろすけになっていました」

『『贖罪の山羊(ゴーストスケープ)』か――――随分と厄介な相手と戦ったな。山羊に呪詛を背負わせてから殺し儀式によって呪詛を孕んだ魔獣を生み出す、さながら獣の姿をしたガンド使いからよく生き延びたな』

 駐車場の戦いを思い出しながら、苦い顔のポール。

「本当にそうですよ。即席で契約した使い魔山羊で呪殺されるし、地雷として組み込んだルーンなんて山羊が犠牲になったからこそ突破された挙げ句、山羊連発されるし恐かったです」

 あの茶番劇は割愛して語るポール。

『口ぶりから察するにお前と相性最悪かも知れないな、何せお前は人命が関わると踏み留まってしまうからだ、魔術はそうではないがそこに人命が加わると途端に意気消沈する。

 魔術師は時として人命を犠牲にしてまで理想を達しようとする人ならざる者(、、、、、、)だ――――まあ、お前にそうなれと強制はしないが……ともかく、その姿勢で今度彼女に会えば確実に殺されるぞ』

教授は冷静に分析しそう言い放つと、ポールは真顔になり深刻そうにしていた。

『私からは以上だ、これから一限目の講義に行かなければならないからな、もし生き延びたら土産話待っているからな』

 そこで電話は切れた。

 ポールは再びベットに沈み込み溜め息を吐く。

「なあ友よ、今の話し相手は一体なんだ?」

「ボクの学校の先生、居場所がなかったボクに居場所を与えてくれたんだ。いつも眉間に皺寄せて怖いけど優しい」

 スマートフォンを乱雑にベットの上に置くと、バーサーカーが念話で話しかけてくれた。

「ほうそうか、それで何か言われたか? いつもヘラヘラ笑っているお前が珍しく浮かない顔をしているな」

「あのおっぱいお姉さんはボクの天敵だって言われた、ボクをジェイソンみたいに殺されるって注意されたよ」

「ああ、ルキア姉上みたいなランサーのマスターか。確かに、余の如く我が道を往くお前とあの女は天敵だな……事実、余も殺されかけたからな」

事実の言葉から落胆の声へと変わる。

 凄い説得力があるとポールは思いながら化粧台に置かれた古びた鉛の杯を一瞥する。

 バーサーカーの触媒だ。かのローマ皇帝が使用したとされる鉛の杯と売られていた代物であった。

 どっかの商売人か、それとも歴史的価値がある出土品を勝手に持ち出し売りに来た不埒者(ふらちもの)かは知らないが、丁度触媒調達に困っていたポールにとって、小汚ない路上露店が一流商店に見えたのだから思わず買ってしまった。

 そして召喚された時、バーサーカーは言った。

"これは余が愛用した解毒剤を飲む時に使った杯だ。何? どうして一目で分かっただと? 解毒剤毎日飲んでいたからな!"

 豪快な笑い声が脳内に鳴り響かせていたところで、バーサーカーは話し掛けてくる。

「元気になったようで何よりだ友よ。そうだ気晴らしに地下にあるゲームコーナーに行くか?」

 ポールは思い出し笑いから、微笑みに変わるとこう答えた。

「うん、今日は未来のコミコンよりも今の勝利だ!」

 ポールの聖杯にかける願い、コミコン・インターナショナルの再開――――それがポールの願いであった。

 

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