Fate/melt a close   作:アクタ

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第一章 招来
-1DAYS「箱海市ある住宅にて」


 報告書。

 二十三番、概念受胎に失敗。

 竜の石油から採取した竜の因子移植後、魔術回路編成に異常発生、魔術回路は奇形レベルまで変形した模様。

 それにより魔術発動に体に多大な負荷が発生する体質に変質、後遺症として二十三番の右腕は竜の腕へ変貌、胸部、左腿、首元にも竜の鱗を確認。

 隠匿性は皆無。

 よって二十三番は廃棄処分と判定。

 使用可能な構成元素だけを保存し、後継機の移植準備を開始する。

 使用不可能な構成元素は廃棄処分とする。

 

 

「二十三人目という意味で二三(フミ)か――――なんつー安易な名前」

 古代服を彷彿させる簡素な服を纏う男は樫色の無造作に跳ねさせた頭を掻きながら、ベットに潜り込む絹のような長い白髪を持つ少女の話を腕を組んで咀嚼する。

「うん。そう名乗れっておとうさんが言っていたの」

 赤い目を伏せて人生二回目のベットの上で体操座りをし無機質な口調で少女、二三は言う。

 見た目の歳は十歳未満か丁度だが、白髪赤眼(アルビノ)のせいでもあろう、纏う雰囲気は神秘的でどこか消えてしまいそうな儚さを持つ少女であった。

 年相応の子供が持つ雰囲気ではない、動く芸術品と思えば納得がいく。

 そんな二三と正反対な気怠い青年がどこか不服そうな表情で壁にもたれていた。

「あのオッサン絶対何か企んでやがる、オレを召喚してから実験室にいたお嬢を急にこんな人間らしい部屋を与えやがった……何がそう名乗れだ、いいかお嬢。お前をそんな腕に無理矢理しちまって、失敗作だと棄てようとした連中がこう掌返すか?」

 そう青年は袖の下は包帯で巻かれた少女の右腕を一瞥し、少女の鋳造主を信用していないと主張する。

 態度が露骨すぎる、きっと令呪を奪おうと少女を安心させた後にその左腕を切り落とすに違いない。

 召喚された一昨日(あのひ)の事。二三の先代達が保存されているという部屋を青年は連れて来られた。

 鋳造主曰く、マスターの事をもっと知って欲しいからと思って、ホルマリン漬けされた不気味なほど白く四肢や(こうべ)を斬り落とされた肉塊が棚に陳列された部屋に連れて来られたのだ。

 その室内を例えるならグロテスクな博物館と言ったところだろうが、死亡日と部位が書かれたラベルも貼られてその肉塊がいつ廃棄処分され、どれを保存したかが分かりやすくなっている。

 青年は吐いた。無理もない、青年はこういったものに縁遠い英霊(サーヴァント)である。戦場で名を馳せたワケでも、研鑽で名を馳せたワケでもない。

 そう――――一般人、青年の感性は一般人に近かったのだ。目的達成の為に乱暴はしたが、その内容は女性を脅迫しただけの青年にとってこの風景は正気を失いそうになった。

 見慣れた風景だからだろうか、二三も鋳造主も平然と立っていた。二三はきょとんとした表情で首を傾げ、鋳造主は不安そうな表情で見下ろしていた。

 

 

 "君はサーヴァントだろう、君はただの人間だと一歩譲ってもこの部屋に吐き気を催していたら、この先不安だ"

 

 

 青年はそう言った鋳造主に煩いと睨みつけた。こんな物を見せられたら、普通は吐くだろうと。

 鋳造主は床に撒いた食べ物がない胃液を片付けるよう、召使い代わりであろうホムンクルスに命じると二三は青年を見下ろし「ライダー大丈夫?」と心配していた一昨日(あのひ)の事を思い出していると、脳は二三の声で現実に戻される。

「でもねライダー、ふみはうれしいの……ふかふかな所で寝れるし、もうおとうさんが痛くしないからすごくうれしいの」

 二三は話していた。生まれてすぐそれは飲食店のストローですか? と思わず問いてしまう程の注射から黒い液体を注入されると、全身少女の体ではとても耐えきれない程の激痛が襲い、そして精神内では不気味な竜の形をした生き物が理性を奪わんと脳内で荒れ狂う事と、二三に与えられた環境も一言で言うならば兎を飼うゲージが壁に変わり、布団もなく給水ボトルも餌皿もない狭く真っ白い部屋だけが二三が知る世界だという事を。

 その部屋を見れば何も知らない人権団体が見れば、法廷で起訴される物だった。

 心も体も凄惨の痛みが蝕み、その体は限界を越え右腕は完全に竜の形をした生き物に支配されてしまった。それが廃棄処分決定されるまでの二三。

 今は廃棄処分が保留となっているのは、左手甲に宿った令呪のお蔭であった。

「お嬢が嬉しいなら深入りしねえが、でもなオレ的に腑に落ちんのよあの鋳造主(オッサン)……」

 それでも青年(ライダー)は実験体扱いしていた二三を令呪を宿した途端、人間扱いする待遇に納得が行かないのだ。

 ライダーは今までにない幸福を素直に喜ぶ二三(マスター)を見て溜息をついて目を伏せて、怪訝な表情のままで視線の先にある柱時計を睨み付けた。

 時刻は夜十時、聖杯戦争はまだ始まっていないと鋳造主は聞いたそうだ。

 聞いた時点で、召喚されたのは弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)魔術師(キャスター)の三騎と騎乗兵(ライダー)の四騎。

 残り三騎が召喚されれば聖杯戦争は開幕される。

 この騎乗兵、下手すれば戦士ではないキャスターすらも負ける可能性がある程戦闘力はなかった。

 取り柄のひとつに、神代の魔術(えいち)を扱えるのだが、対魔力がAランクを誇るサーヴァントに遭遇したら全く歯が立たないのが現実であった。

「ライダー大丈夫? 他のサーヴァント来ていない?」

「今のところな、今の時点で四騎も呼ばれてんだ。(やっこ)さんがそろそろ動いてもおかしくねえ、だからその……もう遅いし寝な。オレが見張ってやるから」

「うん分かったおやすみ」

「ああ、おやすみ」

 そう二三と会話を交わすと、二三は暖かな寝床で寝れる幸福を噛み締めているような顔でベットに体を(うず)めた。

 それを見たライダーは、美しい双子の幼い兄妹を思い出していた。

「胸糞悪りいヤツとは言えオレをわざわざ選んで召喚させた物好きで良かったわ、ようやく――――オレは……」

 ライダーはそう呟くと木製の長杖を手元に出現させた。

 

 時刻は零時を回る。

 夜の静寂に包まれた館に、足音が聞こえる。

 窓が幾数並び月光差し込む廊下を歩くのは、和服姿の壮年男性は松裏嘉平(まつうらかへい)

 元素(エレメンタル)と錬金術を専門とする魔術師であり、二三の鋳造主であった。

 松裏家は現在、幻想種の因子定着を研究しており、この星からいなくなりつつ幻想種をヒトの形として保存しようとしていた。

 神秘が薄れつつこの星は幻想種にとっては生きづらく、殆どは星の裏側に逃げているそうだ。

 だったら、この星に生きるヒトを器にしてその因子だけを守ればいい。

 外見は幻想種と程遠い姿になるが、中身は同義なのだから。

 その第一企画は幻想種の中では最優種と謳われ、欧州人ならば誰も存在を知っている竜の因子を持つ人の子を生み出そうと先々代の当主は企画した。

 目標はヒトの姿を保ちつつも竜の力を損なわない体を求めた。

 その実験体として選ばれたのはホムンクルスであった。

 製品を人に使ったら安全かどうか確かめる為に、動物を扱ったパッチテストをすると同じ様に、その施術を人に行ったらどうなるかを調査するにはホムンクルスが適役だったのだ。

 嘉平はライダーについて不安に思っていた。

 ライダーは人間の癖に神と幼馴染みであり、神々の忠実なる遣いという人間だ。

 もしマスターである二三に危険が生じると躊躇わず、己を攻撃するに間違いはないと。

 それ以外はサーヴァントとしては合格点であった。

 左手だけで二三が眠る部屋のドアノブを握り、扉を開く。

 この部屋は惨い研究に嫌気をさし、出ていった長女が使っていた部屋だった。

 誕生日プレゼントとして贈った壁にかけられた全身鏡には、霊体化しているのかそれとも魔力を感じさせないのでここにはいないのか、ライダーの姿は映っていなかった。

 時計の音が響く。

 嘉平は何も言わずにベットがある場所まで向かう。

 いた、長女の面影が残る二三が幸せそうにベットで眠っている。

「―――――」

 嘉平はタオルをゆっくりと外す。

 首元に巻かれた包帯を隠すように、トータルネックの白い長袖ワンピースを着た二三の姿が露になる。

 罪悪は一切ない、何も感じない嘉平は背中に回していた右腕はようやく下ろされる。

 そして冷えきった黒い目玉を左腕に向けると、右腕をゆっくりと掲げキラリと月光に何かを光らせると、右腕を勢いよく振りかざんとしたその時だった。

「おい。このクソヤローが!」

 嘉平は背後から突如聞こえた怒声に思わず振り返った瞬間、硬化ルーンの形に光る木製の杖は頭に向かってスイングされた。

「――――っ!」

 嘉平は急遽大気のマナを結晶化させ、衝撃をなんとか和らげようとしたが結晶はいとも簡単に砕かれた。

 この衝撃は金属バットの衝撃であり、致命傷をなんとか免れたものの体は吹き飛び床に叩きつけられた。

 床に散らばるは防御のため砕かれた破片と刃渡り十四センチのナイフであった。

 どれも月光に照らされて美しい輝きを放っている。

「……ライダー貴様!」

「何が貴様だ。テメエお嬢の令呪奪って、何企んでる?」

 ゆっくりと見上げるとライダーは杖を肩に担ぐと、床に張っていた嘉平の頭を足で床に無理矢理強く押し付け、頭で床拭きするように回された。

 この様子を事情知らぬ第三者から見れば、ライダーが嘉平の財布を暴行して奪い取ろうとしている様な風景であった。

「聖、杯を……聖杯を私の手に……!」

 願望器を手にすればきっと研究を成功させる力を得れる。

 最早床しか視界が捉えられていない為これを聞いたライダーの表情は見えないが、背中に激痛が走る。

 殴られた瞬間ルーン文字の様な光が浮かび上がったのを捉えたので、恐らくライダーはあの娘を脅迫した様に、ルーンで身体能力を強化し思わず意識が失ってしまいそうな程の一撃を生み出しているのか。

「オレは主役張る英霊様と違って端役だからよ。聖杯戦争に呼ばれねえんだ、けどなテメエのお陰でようやく二度目を手に入れたんだ。それに免じて生かしてやらあ」

 ともう一撃、流石に二発目を食らうとなると意識は朦朧とする。

 ようやく顔を見上げるとベットに寄り添っていたのはライダーの方だった。

「ライダー? お、おとうさん!? なんで倒れているの?」

「お嬢。逃げるぞ、ここにいたらどのみち殺される」

 霞む視界の中、ライダーは二三を強引にベットから引きずり下ろし、二三を抱えた仕草を背中で語るのを見た嘉平は最後の力を振り絞り、嘉平にしか聞こえない声で何かを呟き一旦ここで力尽きた。

 

 ライダーは何が起きたか理解できていないのか戸惑う二三を抱えて逃走していた。

 あの嘉平(オッサン)、令呪を奪って聖杯戦争に廃棄物である二三を殺してまで参戦したかったのだ。

 右手に握られていたナイフが何よりの証。

 念の為気配遮断のルーンと透過のルーンを使って見張ったのが正解だった。

「……ライダー、私棄てられるの?」

 顔を見上げ泣き出しそうな二三を見たライダーは力を込めて答えた。

「させねえよ。オレは主人を死なせない為に来たんだからよ(、、、、、、、、、、、、、、、、、)

「しゅじん?」

「お嬢の事だ、オレのヘマで前の主人を殺しちまった。だから―――」

 大地が焦げる臭いを、斬りつけられた主人の遺体が過る。

 駆けつけた時にはもう遅すぎたのだから。

 もし二度目があるならとライダーはそう思いながら、生涯を閉じたのだからと言いかけようとした時。館の景色が一変した。

 無機質なほど白かった廊下は赤黒く変色し、美しい夜空を見せていた窓の景色は黒一色だけを見せていた。

「チッ、あのヤローオレ達を異界に閉じ込めやがったか!」

 舌打ちをし嘉平が行った行為に苛立っていた。

 ほどよく鍛えられた腕に伝わるのは二三の震えであった。

 あのホムンクルスであった肉塊の部屋は見慣れていたからこそ、こんな風に怯えなかったのかと嫌でも実感させれた。

「ライダー……」

「心配するな二三。これぐらい、オレの相棒でなんとかするさ」

 流石に番犬代わりの使い魔を出す時間は無かったか、そう言った類いの物は今の所出現していなかった。

 ライダーはショックが抜けきれていない二三をおろすと、杖と栗毛の馬を出現させた。

「よう久しぶりだな相棒。相変わらず元気でなによりだ」

 逞しい体つきを舌栗毛の馬はライダーの頬を擦り付け嬉しそうに挨拶をする。

 あきらかに普通の馬とは違う、普通の馬であったらこんな魔境を目にしたら暴れるだろが、ライダーの馬にはそれが見当たらなかった。

「また、よろしく頼むわ相棒。よっと、おいお嬢。しっかりと掴まりなよ」

 十代にしてはあまりにも軽い二三を片手で持ち上げると、愛馬に跨り後ろに乗せさせるとライダーは空いた片手に杖を握ったまま手綱を握る。

 二三が腰にしがみついたのを確認すると、ライダーは愛馬の体を叩いて嘶かせた。

「よし行くぞ!」

 その時異界の主の意識がようやく取り戻したのか、獣の姿をした使い魔が床から生えて形成し始める。

 あまりの姿に二三の赤き双眸は怯えを孕んでいたが、ライダーの赤茶の双眸は怯えを知らなかった。

「へっ。ようやくお出ましか、しかしあのオッサン……一体どんな体してんだよ。杖でブン殴った時も防がれちまったしな」

 半殺しとまでは行かないが、あれでも強烈な二撃を食らわせてからまだ数分しか経っていないのに、もう使い魔を五体程召喚できる程回復しているのが驚きだった。

「蹴散らすぞ相棒――――ッ!」

 猛々しい嘶きが魔境を響かせる。そして、ライダーは杖を掲げ使い魔目がけて突進した。

 それはまさに突風。突風が弾丸となり使い魔達に襲うそしてライダーは突進だけではないと言わんばかりに使い魔達に松明のルーンを、杖で宙に描くと突如周囲が閃光に包まれた。

 それに怯んだ使い魔達を蹴散らし、飛び散る肉片は光の粒子となって消滅させると廊下は狭いので方向転換ができないのをライダーは気づくととりあえず広い場所へ目がけて疾走させる。

 沸いて出て跳びかかって襲わんとする使い魔達を太陽のルーンで焼き殺しながら進むと、二階と三階を繋ぐ階段の踊り場まで辿り着く。

 そこに自然光を取り入れようとしたのか、真正面には大きな窓が目に付く。

 今頃嘉平は馬鹿め、窓から脱け出しても無駄だと思っているのだろうか。ライダーはほくそ笑んでいるとさっきから言葉を発していない二三に言い放った。

「お嬢、今から突っ込むから破片に気を付けろよ!」

「何をするの?」

「決まってるだろ。あれに突っ込むんだよ頭下げろよ!!」

 手綱をしならせてスピードを上げる。ライダーが頭に巻いているバンダナの結び目を鯉のぼりの様になびかせながら、真名開放を口にすると同時に、栗毛の馬は蹴り上げて宙を舞う。

■■■■■■■■■■(■■■■■■■■)!!」

 普通ならばただ外に繋がる窓ガラスに突っ込んだだけでは、外と隔たれているこの異界へ脱出は不可能に近い。

 だからライダーは魔術師の常識を持つ嘉平が無駄だとその行為を見て嘲笑う顔を想像できたのだ。

 確かに神代に生息した普通の馬(、、、、、、、、、、、)でさえ、脱出は困難であろう。

 だがライダーの宝具である、神代の生息していた馬とは違う何故ならば――――――

 パリンと薄氷が割れたような音が鳴り響いた。

 星明りに照らされた、境界の破片と窓ガラスの破片はライダー達に横に降り注ぎ爛々と輝いていた。

 この馬は神と人の国を繋ぐ橋の番人を嘲笑うかのように駆け抜け、誰も通さない魔法の炎すらも通り抜けた馬だったのだから。

 

 

 一方、槍兵(ランサー)は住宅街の谷間を縫うように軽やかに駆けていた。俊敏さには弟分に劣るが、常人の目から見ても疾かった。

 近場でサーヴァントの気配と濃い魔力(マナ)を察知したので、マスターに出陣許可を得て山の中にある白き三階建ての屋敷へと向かっていた。

 無造作にほったらかした鮮やかな長い赤毛は三つ編みにして後ろにして結わえており、見事に鍛え抜かれた鋼の上半身は晒され、右腕は激しい戦いを潜り抜けた証としておびただしい数の槍の傷や剣の傷が見える、狼を彷彿させる鋭い三白眼の目玉はトルコ石を埋め込んだようで、目元から目尻かけて赤い戦化粧を施し、顔立ちは精悍で肉体年齢相応に皺が目立ち無精髭を蓄えていた。

 羽飾りのピアスを風に揺らしながら、ランサーは今から向かう戦場に高揚していた。

 晩年は使い捨ての暗殺者として生涯を終えた為に、戦士としての戦いに参戦するのは久しぶりであったからだ。

 この聖杯戦争に招かれた時、思わず武者震いをする程歓喜に満ちた。

 生前叶わなかった願望を叶えられるのではない、ただ再び主君に仕え戦える事に喜びを感じたのだ。

 故にランサーは願望はない。せめて戦場で鮮やかに散りたかったが、やり残した事はない。策略で殺されても人生を振り返れば悔い等はないのだから。

 そしてランサーを誅殺した桃色の髪をなびかせる毒婦も最終的には仇敵として殺されてしまったのだが、生憎その詳細をランサーは知らない。

 願望についてマスターは驚いていた。貶めた女に復讐する為に戦いに来たのではないかと問われたが、ランサーは皮肉気に軽い調子で答えた。

"――――別にあの毒婦の事恨んではいねえよ。そうさね強いて言うならしてやられたと思った。まさか暗殺計画自体が布石だったとはな!"

 あまりにも愉快そうに語ったせいなのか、マスターの美貌が台無しになるほど顔が引きつっていた。

「因果応報ってヤツだな」

 そういえばアイツあの毒婦に体以外どうやって骨抜きされたんだと思いつつも、毒婦の最期を薄く笑みを浮かべていると、クリネオの様な半透明の生物(つかいま)が視界に入るが無視をする。

 キャスターかそれともマスターか、使い魔の主は誰なのか猜疑を抱えたまま夜風となりひたすら駆け出していく。

「ランサー。さっきの使い魔は誰のかしら?」

 視覚共有で先程の使い魔を見逃さなかった、マスターは念話で話しかけてきた。

「さあな、妖精に似ていたぐらいしか。ただ俺が言える事は――――」

「七騎揃っていないとはいえ聖杯戦争は既に始まっている(、、、、、、、、)という事ね。あの使い魔がもしキャスターの物ならば……宝具を無暗に開帳できないわねえ。あなたは武勲と同じぐらいの数の失態もしているから、弱点なんてあっという間に見つかってしまう」

「うるせえ、あの時は何も知らせないでいきなり魔猫(まびょう)呼び出したアイツが悪いんだ。ま、今回は木に登って情けねえ姿をさらすワケにはいかないからな」

「ええ、期待してるわ」

 そこで念話は途切れ、目的地が眼前に迫った頃まずは遠くから様子を見ようとランサーは高い木の枝に飛び乗り、屋敷を俯瞰する。

 そして肌に感じる魔力を受けて、まずは一言内心で紡いだ。

(屋敷内部が異界と化しているのか……一体あそこのサーヴァントは何をやらかしたのか)

 ランサーは本職ではないが父親は高名な詩人。祖母が王に仕えたドルイドの孫である為、魔術知識はそこそこあったからこそ直ぐに屋敷の状態を把握できた。

 サーヴァントの気配は一騎しかなく、異界が作り上げている状況を照らし合わせれば他のサーヴァントの敵襲に遭っていない。

 そもそも今も異界が存在している事は屋敷の主は生存している事が明白である。

 アサシンの気配遮断は戦闘態勢になるとその恩恵は薄れる、暗殺者の名に誓って討ち存じはないだろうし、何よりマスターを暗殺しに来たならば屋敷から感じ取れる気配は二つとなる筈だ。

 つまりマスターに愛想付かしてひと暴れしたら、その処罰を実行中とランサーは読み取る。

「何よここ……どうなっているの?」

「何って、どうやらここのサーヴァントはオイタをしたみたいだな。俺は例えあの毒婦であろうとも主君と認めれば仕えるが、ここの阿呆(あほう)は主君に愛想つかして裏切ったんだろうよ。全く、この戦いは主君を選べないのが世知辛いモンだな。

 で、どうする? 主君(マスター)よ――――俺はちょっかい出した方がいいか? それとも、消滅するまで待つか?」

 こういう事もあるさという表情を浮かべたランサーはこの状況を面白そうだから前者を薦めたいが、ここは主君の意見を汲もうと考え一歩踏みとどまった。

「普通ならば消滅を待つを薦めたいけど、だって相手はサーヴァントでしょう? もしかしたらこの現状を打破できるかも知れないと言う希望に賭けて、奇襲しなさいランサー。そして、あなたに遭遇せず消滅したらそこまでだったと思う存分嗤ってきなさい」

 ぞくりとその言葉にランサーを震え立たせ、その表情は獲物を追いつめ吠えたてる狼の様な表情で向こうにいるマスターをこう評価した。

「まだ、会って二日目だが手前はあの女王(どくふ)に似てやがるな、こうエグイ事をさらりと言う所が特にな」

「まあ心外ね、ランサー。けど私は男を愛そうとは一度も思った事はないわ」

「は――――そう言う女程、惚れこんじまったら一直線なワケだがな」

 マスターはまんざらでもないといったような口調で返すのを聞くと、ランサーは豹の様にしなやかに木の枝を蹴り上げ、屋敷の正門の中庭の近くに映えていた木の枝へと降り立つ。

 近くで見ればその屋敷の印象も異なってくる蒼い双眸に映る景色は殺風景で噴水もなければ、春になれば花々が咲き乱れているであろう庭園すらも無かった。

 まるで屋敷ではなく総合病院に尋ねた様な景色であった。

 ランサーは赤い血管が巻き付いた様な模様を浮き彫りされた青黒い短い槍を出現させて、その手に握り息を潜めた。

 敵は恐らく正面突破するであろう、ならば一つしかない入口の横にあたる位置に潜めば出てきた瞬間躍り出て斬り付けることができる。

 周囲を見渡しあのクリオネに似た使い魔は、自身を追って来たのであろうか早速中庭の上空を確保し、その様子を何とか視界範囲内で捉える事ができた。

 ここで一つ疑問が浮かび上がる。あの使い魔は操られているのかそれとも自律しているのか。

 もし自律しているのならば、魔力と敵意を察知し自動的に襲うかも知れない、宝具開帳含めそれも考慮しなければ真名がばれる可能性が高くなってくる。

 厄介な物を見つけてしまったらしいと、ランサーはそう苦い顔で思っていた。

 雲で隠れていた星光は再び屋敷を照らし出される。

 魔力を感じる、魔術で応戦しているのかそれとも宝具を使用しているのかランサーは静かに獲物が飛び出すのを息を殺して待っていた。

 先程の高揚感は何処へ行ったのだろうか、今のランサーは獲物を屠るのを楽しむ戦士ではなく、獲物を屠る為無我の境地に至った戦士と化す。

 蹄の音に嘶き声―――――クラスはライダーか、屋敷の中で馬を疾走させているのが目に浮かぶ。

 ランサーは静かに敵を分析しながら確実に獲物の喉元に槍を突き立てる事だけを考えていた。

 気配も異界も消滅していない、余程攻略に手こずっていると見た。魔術師が作成する魔術工房は胃の中と同様。部外者が一度足を踏み込めば、無事に生還する事は叶わない。

 マスターは嗤えと言ったが、消滅したら手向けの祈りぐらい捧げようかとランサーはそう思っていると、ガラスが割れた音が聞こえたので思わず視線はそちらに向けられる。出てきたのは入口ではない、正面真ん中の窓から栗毛の馬に乗った華奢な青年と一人の少女が飛び出してきた。

 その有様を見てランサーはニヤリと口元を吊り上げた。

「へえ、外と内の境界をもぶち壊す宝具(うま)ねえ……」

 そして二人と一頭が着地するのを見計らい、細身だが筋骨隆々の巨躯をバネの様に跳ねあがらせ屋敷を囲っていた塀の真上目がけてランサーは飛躍した。

 

 

 異界から脱出したライダーは、夜風を浴びる。

 今頃、二三を殺そうとした松浦嘉平はどんな顔をしているのだろうかと、意地の悪い表情でざまあみろと悪態をつく。

 二三にとって生き地獄であるこの屋敷から脱け出した後、どこに潜めばいいのかと今ライダーの頭に浮かんで来た。

 だがそれは今考えるべきではない、今はただ逃げる事だけを考えていた。

「おとうさん……どうして」

 一方、二三は悲しそうな表情で裏切った鋳造主の行動が、本心だったのかとショックを受けていた。

「あんなヤツ。お嬢の親を名乗るにはあまりにも身勝手すぎる、だがな。お嬢、この世界にはああいうヤツばかりじゃねえよ」

 ぶっきらぼうにライダーはそう二三を慰め、夜の遊覧飛行を数分楽しんだ後地面に降り立った時サーヴァントの気配をようやく感じ取った。

「嘘だろう、なんだってこんな時に……!」

 マズイあの嘉平の事だからきっと、前門のサーヴァント後門の戦闘用ホムンクルスという絶体絶命な状況を作りだすに違いないと青ざめた顔で向けてしまった。

 青黒い短槍――――ランサーのサーヴァントか、粗暴そうな顔立ちはニヤケた表情を作って塀からライダー達を見下ろしていた。

「よお。騎兵、本当は黙ってその首を頂こうと打算していたが……後ろの娘とそのツラ見て気が変わった。何があった」

「―――――」

 ライダーは無言を貫く事に決めた。今は、その返答すらも対峙すらも惜しいのだ。早く、二三をここから逃がさなくてはという使命感で頭がいっぱいだった。

 絶望の淵に立たされているライダーとは対照的に、ランサーは実に飄々とした態度で話しかけてくる。これ以上口を開くのはやめろと、ここから立ち去ったら背中をやられそうな気がするとライダーには余裕がなく、その場から動けないでいた。

「落ち着けって、取って食われるって顔してるが。安心しろ、話次第では手前のオイタに手を貸してもいいぜ」

 この発言に強張っていたライダーの表情は絶句に変わる。

(今コイツなんて言った!?)

 そしてその直後急に頭痛持ちなのか頭を痛そうに顔をしかめたランサーを目撃する。

「そう騒ぐな。こんな状況にいるコイツの首を貰ったところで、寝ざめが悪いだけだ」

 恐らく誰かを宥めようとしている台詞はきっとランサーのマスターに話しているのか、きっと殺しに来たんじゃなく手助けをしようとするランサーに怒り心頭なのだろうかと想像できた。

「オレ達を殺す事は寝覚めが悪いとは本心なのか? ランサー」

 寝覚めが悪いという単語が嘘か本当かどうか確かめる為に、ライダーはランサーに訊く。

「嘘も何も、これが俺の本心だよ。そこの小さい嬢ちゃんが手前のマスターだったら、さっきの魔術は何のために使ったんだ?

 主君の為に戦う戦士(おとこ)の覚悟を無視してまで槍の錆にするには、あまりにも酷ってモンだ――――だから俺は手前に貸しを作りに来たワケだ」

 ライダーは、真剣な眼差しを向けるランサーを見て思った。この曇りなき眼差しは嘘を言っている風に見えないと、そしてランサーと言う男は主君に尽くす戦士を尊く感じるタイプなのだろうと察した。

「……時間がないから手短に話す。オレのマスターは令呪を奪われるところだった、この意味分かるなランサー」

「ああ、上出来だライダー」

 そうランサーは愉快気な表情でライダーの傍に降り立つ。

 馬に乗っているとはいえ近くで見ると、随分と背丈の大きな戦士であった。馬から降りれば二メートルぐらいはあるんじゃないかと、ライダーはランサーを見て思っていた。

「ほら来たぞ、お客さんが」

 時間は待ってはくれなかった、二三と同じ白髪赤眼の成人男性のホムンクルス兵が各々の兵装を握りしめ集団でこちらに迫って来た。

「―――ッ!」

 数はざっと見て十五人ぐらいだろう、ライダーは馬に屋敷正面を向かせようとするがランサーは左腕を伸ばして向かせるのを制止させた。

「ここは俺に任せて、お前はただ逃がすだけを考えろ――――」

「いくらなんでも無茶だろ! 腕が立つとは言え、槍一本じゃあアンタでも無理だってオレも加勢する!」

「何言ってんだ。このぐらいの数あの館の戦いに比べればどうって事はない。

 それによく考えてみろ、まだ屋敷の主の領地内だぞもし手前が戦っている隙に、嬢ちゃん取られちまったらいくら手前が生き残ったところで意味はない――――そうだろう? 騎兵さんよ!」

 ランサーの固有スキルなのか、それともあまりにも威圧的な風貌だと感じたのかホムンクルス達は何やら萎縮している。

 だがあくまで獣に近い姿をしたホムンクルスのみであり、恐らくこれが戦士だったら戦いに恵まれた体格を自慢しそうな人型のホムンクルスが、ランサーの三丈程ある大きな戦斧(ハルバード)を軽々と持ち上げて、揉めていたランサーに振りかざさんとしていたので思わずライダーは目を閉じようとしたが、重い金属音が夜空に響かせていた。

 ライダーは半分閉じかけた目蓋を開けると、そこには大きな盾で戦斧(ハルバード)を弾くランサーの姿がいた。

「……盾!?」

 ライダーは思わず口にし驚愕した、しかもその戦斧(ハルバード)の刃は欠けひびが入っていたのだ。

 どれだけ頑丈なのかとライダーはまたも驚愕していた、二三はランサーの勇猛さに思わず見惚れていた。そして、弾かれた衝撃でよろめく大柄なホムンクルス兵に向かって猛々しく叫ぶ。

「何、手前の主は随分と武器をケチるんだなあ!」

「いや、あんな大きな武器を弾くテメエの盾がおかしいんだってば!!」

 ライダーのツッコミは無視して、ランサーはホムンクルスがよろめいた隙を見逃さず、一歩踏み込んで右手の短槍を短く持って首元に吸い込まれるかのように短槍を貫いた。

 その手際は鮮やかだった。まさに蜂のように刺すとはこの事である、そして右腕に血管を浮かばせればそのまま片手でホムンクルス兵を背負い投げするかのように地面に叩きつけると、その首を掻っ切り地面に着地したゴルフボールのようにその頭はころころと、ライダーの馬の足元まで転がしていた。

 流石に二三は硬直していたので思わず、目を元をライダーは覆う。

「おいバカやめろ! お嬢の精神年齢いくつだと思ってやがる! もうちょっと敵を労われよ!」

 生首が吹き飛ぶ所目撃し、吐き気がしてくるライダーをよそにランサーは涼しい顔で返してきた。

「俺達戦士にとって、勇敢な敵の首級(くび)は黄金と同じ値打ちだぞ。この俺に一番乗りで襲い掛かった事の敬意として切り取ったまでだ」

 ライダーは思った。このランサーのまずは首をもぎ取るという発想はどうあがいても理解できないだと。

 だが生死観など無いホムンクルス兵は次々に襲い掛かってくるが、よくあの巨躯で獣の様な動きで槍を振るえる物だなと感心しながら鮮血を撒き散らし一騎当千の戦いに見惚れていると、ようやく自身に与えられた使命を思い出す。

「助太刀―――感謝する!」

 ランサーに背中を向けて感謝を伝えるが、盾で一人の攻撃を防ぎ、槍の柄で一人の攻撃を防いでいる最中のランサーは吐き捨てるように返した。

「はん、感謝だと。違うねライダー。敵に礼を言うモンじゃない、こういう時は――――この借りは必ず返すと言うべきだ!」

 ライダーは背中を向けたままほくそ笑むと手綱を強くしならせると、松裏嘉平の屋敷から退却していった。

 




マスター:二三
クラス:ライダー
真名:
性別:男
身長・体重:183cm・75kg
属性:混沌・善
・ステータス
筋力:D 魔力:C 耐久:E 幸運:C 俊敏:B 宝具:A++


・クラス別能力
「対魔力:E」
 魔術に対する守り。
 無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

「騎乗:A+」
 騎乗の才能。
 獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし、竜種は該当しな

い。

・固有スキル

「■■■」
 
「■■■」

「原初のルーン:?」
 北欧の魔術刻印・ルーンの中でも権能・神言クラス匹敵するルーンも所持する。

・宝具


・詳細

――――――――――

◆サーヴァント情報
マスター:
クラス:ランサー
真名:
性別:男
身長・体重:215cm・150kg
属性:秩序・中庸

・ステータス
筋力:B 魔力:A 耐久:C 幸運:C 俊敏:B 宝具:B


・クラス別能力
「対魔力:B」
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

・固有スキル
「■■■」
 
「■■■」
 
「威圧:D」
 魔物と対峙しただけで、魔物と敵対する事なく服従させるスキル。
 Dランクならばただ野生の勘を働かせるだけである。
 ランサーは財宝を持つ巨大な蛇の砦を襲撃した時、その蛇はベルトの下に逃げ込ませた事から。

「仕切り直し:C」
 戦闘から離脱する能力。
 また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。

「カリスマ:D」
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一軍の首魁としては破格の人望である。

・宝具

・詳細
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