Fate/melt a close   作:アクタ

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この回は今年の四月馬鹿でツイッターにあげたものが元になっています


1DAYS「三騎士のはじまり」

 素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

 祖には鎚叩く小さき者。

 降り立つ風には壁を。

 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する

 

―――――Anfang(セット)

 

――――告げる。

 

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

 

 箱海(はこかい)市――――日本のどこかにある中規模都市であり、海に面し漁業が盛んな事から観光名所は朝市があるのが特徴である。

 箱海山がありそれに続く大きな坂を上れば、古い建物やカトリック系外国人の墓地がある。

 箱海ロープウェイと土産屋があり、古き良き景観が観光客に人気だった。

 そんな洋館が並ぶ町の一角にゴシック建築の洋館があり、そこにある人形師が拠点としていた。

 名はアルヴィン・エクルストン、見た目は二十代後半辺り男性であり浮世離れした格好が特徴だった。

 顔立ちは整っているというよりも一目会えば一癖も二癖もありそうな印象をもたらす男性で、近代貴族風の詐欺師のような風貌の男であった。

 男はメイド人形を傍らに置いてあり、世話などをさせていた。

 部屋は中世ヨーロッパの田舎風という感じで、賑やかだがどこか素朴さを感じさせる部屋に背丈の低い金髪ツインロールの少女が一人不機嫌そうな表情で入ってきたので、アルヴィンは青い硝子のような双眸を滑らかに動かした。

「おはようエリィ、朝から随分と不機嫌そうだが、君が召喚したサーヴァントに不満かい?」

 エリィと呼ばれた不貞腐れ少女はちらりと隣に視線を向けると、絹色の外套についたフードを被り背丈はアルヴィンより低めのサーヴァントが出現する。

 わずかに外套から覗かせる太く鍛え上げられた腕は間違いなく手練れの兵士だと感じさせた。

「ええそうですわ……」

「だから無謀なんですって私をセイバーとして召喚するなんて、これを言うの三回目ですよマスター。いい加減機嫌直してください」

 物腰が柔らかそうな落ち着いた男性の声を聞くと、折り目正しいサーヴァントだと感じさせた。

「なんだい。今のところ良さそうな人じゃないか……そんなにセイバーで召喚したかったのかい? エリィ」

 態度だけでもサーヴァントとしては完璧なのに、セイバーじゃない事にご立腹な少女に首を傾げるアルヴィン。

「そうよ! この(わたくし)エルリカ・バルト・フレンツェは、最優のサーヴァントを引き当てたかったけれども……なんでロミオが弓使いなのか分からないですわ!!」

 セイバーとは剣に関する英霊であり、最優と謡われるサーヴァントだ。

 つまりこのお嬢様は聖杯戦争を本気で勝ち取りに行きたいと目標立てていたらしい。

「つまりアーチャーだね、そこの彼は……それでも三騎士の一角じゃないか」

「よくありませんわ! 私は欠けた刃先を触媒にしたのよ!! 剣を触媒にしたのだから剣使いになりなさい!!」

 サーヴァントの正体である英霊は、その偉業により民衆達により神と同等に崇められ擬似的に神霊となった魂である。

 そこに現実だろうと架空だろうと関係ない。その篤い信仰があれば英霊の座に登録され、英霊として力を振るう。

 だがサーヴァントはその魂をクラスに押し込め魔術的な肉により再現された使い魔の一種でもあり、生前より劣化していようが文字通り最強の使い魔。それがサーヴァントである。

 サーヴァントの選出方法は二種類ある。

 一つは(えん)――――サーヴァントと何かしら共通点がある事、心の傷を持つマスターならば同じ心の傷を持つサーヴァントが選出される。

 二つは触媒――――召喚するサーヴァントの遺品やそのサーヴァントに関する代物。

 鞘や柱、伝承が書かれた書物等様々である。

「理不尽ですね。私は確かにセイバーの適正はありますが、私の場合弓の方が有名ですので……どうしてもアーチャーとして喚ばれてしまう宿命なのです」

 背伸びをして足を震わせながらアーチャーを見上げる形で抗議するエルリカに、フードで顔が隠れている筈なのに胃が痛んでそうな表情が伝わってくる口調で、なあなあと主君を宥めているアーチャー。

「これまたすごいコンビだね。これから先大丈夫かい」

 このやりとりを見て不安でしかないと言わんばかりのアルヴィンに、エルリカは背伸びと抗議をやめてフンと荒々しい鼻息をし、仁王立ちでこう宣言した。

「オーホッホッホ! セイバーを召喚するのには失敗しましたがこのエルリカ・バルト・フレンツェの辞書に心配という言葉はありませんわ!

 鋳造したお祖父様の名に恥じぬよう全身全霊あなたが発案した聖杯戦争を盛り上げましょう!!」

「……開き直りましたね。それと戦いを盛り上げたら色々とまずいのでは?」

「それはアーチャーと同意見だ。神秘の秘匿ぐらい守ってくれよ」

 男性に二名冷静なツッコミにエルリカはどすんと足を踏みおろし、前へ躍り出る。

「いちいちとうるさいですわねロミオは……(わたくし)の小姑なのかしら?」

「ハハハ、そういうマスターは図星ですか?」

「くっ……! こう的確に精神を突く感じ……! よくあの気高き王があなたを雇いましたね!」

 さらにアーチャーに追い討ちをかけられるエルリカ、マスターの威厳は既にない。

 完全に立場が逆である。

「いやいや陛下は、人柄よりも力量を重視に置く方ですからね。こう性格問わず手練れの騎士を求ムという感じですね、だからこそ私の仲間は一癖も二癖もある人達で構成されてしまったワケですが」

「何その脳筋パーティ! あなたのせいでイメージががたがた崩れてきましたけど。責任取ってくださるかしら!」

 君もじゃないのかとアルヴィンは口に出したら矛先が向けられるので、胸中に留め二人のやりとりを眺めていた。

「確かに我が王の功績は仕えた騎士としては誇らしい。だが――――我が王は後世で大々的に語り継がれる程、華々しい物ではありませんでした」

「? 騎士道を体現した王なのでしょう? 民草から愛され、多くの騎士達に慕われていた。

 確かに末期(まつご)は惨たらしいけれども、それでもあなたの王は―――――」

 華々しいのではとエルリカは言い掛けたがアーチャーは首を振り、その言葉を遮る。

「慕われていたのは本物の忠義者のみでしたよ。国を愛したあまり、人を愛せなかったのですよ"彼"は……故にあんな末期(さいご)を……」

 拳を強く握りしめて震わせるアーチャーを見たエルリカは察し沈黙する。

 アーチャーの生前を知っているからこそエルリカは察したのだ。

 アーチャーはそうあの末期をここに来て知ったのだから(、、、、、、、、、、、、、、、、、)―――――

「アーチャーについて詳しくは知らないが、もしかしてその王様を救えなかった事を悔いてるのかい?」

 蚊帳の外であったアルヴィンは、黙ったままのエルリカを代弁するかのように訊ねる。

「少しは。私がもっと早く気づかせていたら、あんな事にはならなかった。なのに――――王は……誰か陛下を止める事はできなかったのか」

 いやそれは無理な話だ、何せ残ったのは殆どが救国の王と必要とする者ばかりであったからだ。

 高潔であり冷徹なその思考についていけなかった者達は、国の為とその異常さを指摘せず放置している現状で果たして――――破滅から救われるのだろうか。

「成る程ね、君が召喚に応じたのはこの為……」

「いやそれは違います。我が王が選んだ道を否定する行為ですし、何よりこれは部下の祈りで解決するのではなく、王自らが解決すべき問題ですので」

 さっきの忠義者はどこへ行ったと言わんばかりにアーチャーは、アルヴィンの問いに即答する様を見たエルリカは唖然な表情を作り大声を一発。

「な……さっきまで王が第一と思わせて、あなたに感心していたらこの発言!? 公私どっちが優先なのか分からないわ!! もしかしてあなた裏切りも平然とやっちゃうタイプなのかしら!!」

「公私優先は状況や戦況によりますね。

 ああ、安心してくださいマスター。余程の悪人だったり、主君として駄目でなければ私は最後まであなたに尽くしますよ」

 爽やかにサーヴァントとしては物騒なカミングアウトしているんだとエルリカの表情はますます、開いた口が塞がらなかった。

「そう言われば私情の関係上あなたの叔父を裏切ってますものね!! いやそうではなく……何より(わたくし)の背中が危ない!」

「大丈夫ですよ、貴女の反応は裏表がなくてからか……いえ、こちらが楽しくなるので性根は悪い人間ではないことが伝わってくるので」

「今からかいがあるとか言うとしたでしょう!?」

「気のせいです」

 この二人のやり取りにアルヴィンは思った――――なんだこの二人、数か月前から召喚されたのかと思っていると、いつの間にかいなくなっていたメイド人形が皮羊紙を持ってきた。

「誓約書が届きました」

「ご苦労様、しかし。彼女を探せと言われてもなあ……」

 アルヴィンの言葉に夫婦漫才を繰り広げていた二人は静かになった。

「何かあったのかしらアルヴィン」

「いや。今朝ライダーのマスターが攫われたという話が来てね、オマケにランサーのマスターを呼び出せとか物凄い剣幕で怒っていたよ」

「何故マスターを攫う必要があるのかしら……」

 とようやく仕返しのネタが出来たと言わんばかりにアーチャーをじいと半目で見つめると、その視線にアーチャーは困惑した表情であきらかにその態度に戸惑いの色を見せる。

「その視線。やめてもらいませんかマスター。あの時は本当に忠義と恋人を選ぶか苦悩したのですから……」

 参ったと言わせたのに満足したのかエルリカの表情は柔らかくなっていた。

「冗談はこれぐらいにして詳しく教えて貰います?」

 仕切り直しとエルリカは真剣な面持ちでアルヴィンに本題へと促す。

「何でもその依頼主の魔術方針に不満に思って、屋敷から逃げ出しただけじゃなくてなんでかは知らないが……ランサーが助太刀して、大半のホムンクルスの首切って殺戮した後、意気揚々と帰ったそうだ」

 そう淡々とアルヴィンは昨夜の騒動について話すと、エルリカの顔はこわばっていた。

「それで――――マスターを探し出し見つけてくるという誓約書が今、私の手元にある」

 そう英文で書かれた誓約書をエルリカに見せるように背丈が低いテーブルに置くと、エルリカはその内容を目に通す。

 条件はマスターはなるべく生け捕りにする事、もし二人が抵抗したら殺害しても構わない。報酬は戦闘用ホムンクルス三体贈与と書かれていた。

 アーチャーの表情は分からないが、エルリカの手元はわなわなと震えていた。

「生け捕り要求しているのに、抵抗したら殺害してもいいですって!? 何よこのカヘインという殿方でよろしいのかしら? 一体何様のつもりよ!」

 とその誓約書をテーブルに叩き付け、怒りをあらわにするエルリカ。

「なんでも、そのフミってマスター魔術実験に失敗して産業廃棄物同然のホムンクルスだそうだ、竜の石油から竜の因子を取り出して、フミに定着しようとしたけど。右腕は完全に竜化したみたいだから……フミが世の明るみに出たら神秘の秘匿の観点で考えたらマズイから、あちらさんで引き取るか、殺すしか道はないんだよエリィ」

 一方アルヴィンは残酷な現実をエルリカに容赦なく叩き付ける。

 もしフミの右腕が世に知れ渡ったら間違いなく、魔術協会か聖堂教会が命を狙うのだろう。神秘とは信仰を守る為に世の明るみに出てはならないのだから。

「その様子だと確認する事はないけど、念の為に。エリィ、君はこの誓約書に受託のサインを書く気になったかい?」

 アルヴィンの目つきは氷のように冷たく鋭さを増して問いかける。

 一応聞いてみる事も大切だと思ったが、どうやら失策だったらしくエルリカはそっぽを向いて声を荒げる。

「そんなのNein(いいえ)に決まっているわよ! 行きますわよアーチャー、そのフミという子を探し出してフレンツェ家の養子として迎え入れましょう、酷い鋳造主の元にいたら絶対不幸になりますわ!」

「了解いたしました」

 そうアーチャーは霊体化して消えると、立ち去るエルリカに向かってアルヴィンはぽつりと呟いた。

「意外だな。君はこういうのには必要ならば実行しそうな人間だと思っていたんだが」

 今までアルヴィンは魔術師の物差しでエルリカを計っていたが、廃棄処分のホムンクルスにも人権を与えるエルリカを見てその考え方が変わった。

 その言葉に歩を止めたエルリカは冷え切った口調でこう返した。

「そういうあなたは――――その逆なのですね(、、、、、、、、)

 そうエルリカは言い残してこの家から立ち去った。

「監視役の方には連絡していますか?」

 誰もいなくなったこの部屋でアルヴィンはソファーから立ち上がり、メイド人形と共に別室へと向かい始める。

「既に連絡は済ませている。後は『小聖杯』がうまく稼働してくれるかが問題だな」

 時刻は午前九時、アルヴィンはドアノブを握りその部屋に入った―――――

 

 

 四階佐上ダンス教室の太い文字が貼られたビルの窓を見た後、鈍い音を聞いて天を俺は仰いでいた。

 騒がしい車の音と通行人の悲鳴を聞いて、俺は車に撥ね飛ばされたのだろうかと思った。

 つくづく運がないなとだんだん体が状況を理解してきた途端、凄まじい痛みが襲っている事に気づいた。

 頭を強く打ったのか、黒毛が赤毛に染まっていたのを見かけ意識がだんだん遠退いていく。

 まさか大量出血で死ぬのではないかと不安にかられた。

 高校卒業して進学を控えている時にこの有り様である、死にたくはない。

 折角楽しみにしていたのに、このまま人生が終わってしまうのかと騒ぎを聞き付けたのだろうか、屋上にいる俺のいじめっこ達は俺を見下ろして、あわてふためいているしぐさが遠くからでもはっきりと分かる。

 あいつらも人の子だったのかとその様子を見て、少しだけ心残りがなくなった。

 

「ゆめか……」

 夢から現実に切り替えられた。

 眠気によりぼやけた意識を呼び覚ます。

 先程の夢はなんだろうかと疑問に思いつつ、俺は布団から這い出た時計は午前十時。

 確か学校は三月いっぱいまで自宅自習期間の為こんな時間まで起きても、支障はなかった。

「しかし――――夢にしてはやけにリアルだったな……うわ汗ぐっしょり」

 人間どれだけ汗が出るのだろうかと題したテレビの実証コーナーがあるならば、間違いなくオファーされるというぐらい背中も額もぐっしょりだった。

 あの夢良い夢にしては縁起ではないが、悪い夢にしてはこんなに汗をかく程の物ではなかった。

 きっと寝汗だろう、ようやく立ち上がると寝間着を脱ぎ捨て私服に着替えると、生活必需品以外何もない自室から退出した。

 

 現代日本建築にありふれた廊下を渡り、扉を開けると先に食事を済ませていたのだろうかソファーには何やら手紙らしきものを眺める父親(おやじ)が仏頂面で座り、扉の音に気づいたのかこちらに視線を向けた。

「やっと、起きたか波也」

 親父は淡々とした口調で挨拶してきた。

 やっという単語がでてきたのは俺が十時まで寝ていたからだろう。

 厳格な親父からすればそれは惰眠だと感じたに違いない。

「おはよう親父、朝飯は済んだのか?」

 無言で頷き食器はもう片付けたと付け足す親父。

「了解。ところで親父その手紙は?」

 最優先の事を親父がやったので、何をするかと考えていると丁度中世ヨーロッパを舞台にした映画しか存在しないだろう羊皮紙の切られた封筒と、手紙が視界に入ったので雑談を開始する。

 恐らくは送り主は魔術師絡みの人間だろう、魔術師は過去に生き目指す生き物だと親父に教わったからだ。

「ああ、魔術協会に属している知古の友人だ」

 魔術協会―――――英国倫敦(ロンドン)に置く魔術関連の大組織のひとつである、親父はこう見えて俺が同じ歳辺りに魔術協会と連なる魔術の学舎、時計塔に在籍していた。

 今では時計塔の講師であり、しばらくは受け持つ講義はないらしく、一週間前に家のドアを五年ぶりに叩いたばかりである。

「やっぱりそうか今時羊皮紙の手紙なんて、余程の金持ちの魔術師なんだろう?」

「そうだな。何しろ彼に会った時から秘密を明かされるまで私と出会っていたのは、精巧に作られた人形であった程の腕前だ、きっと外に出しても世に溶け込められる召使用の人形ぐらい作れるだろう」

 随分と大成しているなそれ。

「思い返してみれば……人形(かれ)は食事の誘いは必ず断っていたな。その時点で怪しいと気づくべきだったな」

「そうか、人形だから物食わなくても平気ってワケか」

「そういう事だ」

 成程と俺は頷くと、あの親父がその事実を知った時驚愕したらと想像したら、なんだか微笑ましくなった。

 滅多に表情が変わらぬ人間の表情が崩れる場面は誰だってみたくなるものだろう。

 俺がそんな気分に浸っていると親父は手紙を置いて魔術師の話題になったからだろうか、険しい顔でこう言ってきた。

「ところで電話越しに聞いたんだが、おまえ――――魔術回路が一部開けないと聞いたが」

 その話題はと俺は一旦黙り込むと、焦りの表情を作ってしまった。

 事実が発覚したのは十歳の頃、親父が残した魔術書通りに生まれて初めての魔術回路を開くという作業を行ったが、あるラインまで行くと腕がもげるような激痛に襲われた。

 母さんに診て貰った結果、どうやら俺は先天的に一部魔術回路を開けない障害を患っていた事が判明した。

 魔術回路は人間が生まれながらにして持つ臓器、生まれた時から盲目な人間に生まれるのと同じように、魔術回路もまた異常を持ってその身を宿す人間もいる。

 恐らく数千分の一であろう確率に俺は当たったに違いない。

「あ……ああ、数はそこそこあるみたいなんだけど、三割が限界だ。開こうとするとそれ以上進まない、まるで壁に塞き止められたみたいだ」

 例えるならば流れる川に壁を置かれた様な感じだ。

 激流だろうとその壁により塞き止められて、痛みを感じさせる。

 それが俺の魔術回路の状態。

「―――成る程な、一回見てもいいか波也。百聞は一見にしかずというものだ」

 そう親父はソファーから立ち上がると、俺の肩を軽く置いてそのまま通りすぎると加目家の魔術工房である地下室に繋がる階段を目指して歩いていた。

「――――」

 俺は加目家の次期当主として失格だと気に病んでいた、あれから八年間魔術回路を全開にしようとするが一歩も進んじゃいない。

 母さんは気にするなと言ったが、時が経つにつれ俺は事の重大さを理解できる様になっていた。

 このままでは一生生半可な魔術師であろうと焦っていた。

 諦めてはいない、いつか俺も魔術回路を全て開くその日まで俺は鍛練し続けるだろう。

 だから俺は親父が帰国した時は心底喜んだ、何故なら親父は母さんに比べて優れた魔術師で、解決法を見つけてくれるかもしれないと言う希望がやってきたのだから。

「どうした波也。早くしろ」

「今いくよ親父」

 そう俺はリビングを立ち去った。

 

 

 ここは加目家にある地下室(こうぼう)――――入った瞬間、石壁が威圧感を感じさせ入って来た者はまずそれに、気圧される。真ん中に真四角のテーブルぐらいの大きさの机が威風堂々と置かれ、棚には親父が集めたであろう、魔術用の素材や儀式の道具等がきちんと整理されて置いていた。

 まさに親父の人柄を体現した魔術工房だった。

 そこに俺が石床の冷たさを感じながら立っていた。

「では、始めてみようか」

 親父は袖を捲りあげた俺を見ながら、そう告げると。俺は瞳を閉じ意識を回路に集中させる。

 水流だ。回路という水車に魔力を注ぐように、開け。

 開け、開け、開け、開け、開け、開け、開け、開け 開け、開け、開け、開け、開け、開け、開け!

 まずは一割――――回路(すいしゃ)はゆるやかに回る。

 次に二割―――――回路(すいしゃ)は程よい速さで回る。

 次に三割―――――回路(すいしゃ)はさらに速度を上げる。

 ここからだ――――ここからが問題なのだ。

 水流(まりょく)はうなりを上げて、回路(すいしゃ)を回さんとするが―――――痛みが生じる。

 くそ、またここかよ。痛みを無視して無理矢理、水流(まりょく)の出力を上げるとまるで雷電が腕を走ったように、痛みだす。

「あああああああ!!」

 ここで折れてたまるか歯を食いしばり、抉じ開けようとした。

「これ以上やめろ!」

 だがそれは、親父の声で全てが引き戻された。

 「っ――――はあ……」

 汗がどっと吹き出し、右腕は火傷の様に爛れていた。

 一瞬視界が真っ白になった。意識は完全に自身の頭から出て行っていた。

 心臓が高鳴っているんじゃないかというぐらいの、疲労が体に圧し掛かっていた。

 一旦落ち着くと白い風景から親父がさらに眉を皺よせる風景へ切り替えった。

「分かった。お前の根気は認めよう……だが無茶をすれば、お前は廃人(しびと)になるぞ」

「―――ッ!」

 言い返せなかった。確かにいつもよりその先に踏み込もうとした、その先に行けるかも知れなかったのに、親父がそれを台無しにしたのだ。

「じゃあどうすればいいんだよ」

「―――――」

 親父の表情は一層重くなり何も答えず黙り込んだ。

 分かっている、親父は死にかかった俺を助けたことぐらいは理解できる。

 だが納得いかない、正解はどこにあるのかを。

なんで俺だけなのか。

 なんで俺だけこんな異常を患ったのか―――――何故。

「……助言できるとしたら、補助する道具に頼るしかないとしか言えない」

 盲目の人間が盲導犬や白杖を持つように、補佐する道具を用いればいい。

疲れ切った体を机の椅子にもたれかかり、深呼吸しまだ痺れる掌を開いたり閉じたりしていた。

 火傷の様な痕はすっかり引いている、この鍛練の後に回路のスイッチを切るとその痕は消失するを見て、恐らく強い負担をかけた回路が暴発した痕なのだろうと、俺はそう推測していた。

「補佐する道具と言われてもな……てんで思いつかない。言い出しっぺの親父なら知っていそうだよな」

「む。あまり奨めないが魔術回路が正常に開かないならば、補佐する魔術刻印を刻んだ専用の義体を用意すればいい話では」

 なんという暴論でしょう。つまり親父は改造人間になれと奨めてきたのだ。

「俺は仮面ライダーか! もっとこう……穏便な方法とかないのか」

「仕方がないだろう。おまえはそういう体質として生まれたんだ。

だったらその体質を人為的に変えるしか方法はない」

 お前の認識は甘いと言わんばかり親父に俺の顔は引きつった。

「それも実の父親か! 息子に改造手術奨める親なんて聞いた事がないね!」

 冷酷、堅物、息子不幸者めと内心罵っていると、ざっくりと否定してきた。

「何を言っているんだ波也、まだ私はひどく良心的だぞ、魔術師の中には虐待紛いな魔術的施術を行っている家系も少なくはない。

 そうだな、もしその様な親に生まれて来たらお前を優秀な世継ぎにする為ならば……幼子の時から選択の意志すらなく改造を始めている事だろう」

俺は絶句した。その例え卑怯だろうと。

つまり改造出術が嫌ならば、進むのを諦めて共生という形で生きる方法しかないという事か。

それか素敵な嫁さんを見つけて次の子供に期待するしかない。

 加目波也(かめなみや)、十八歳。これからの人生プランがまた一つ生まれたのであった。

 めでたし、めでたし―――――めでたいかこれ!?

「はあ……時計塔の進学控えてるのに……」

 憂鬱だ。三割しか魔術回路開かない体質の魔術師が、有象無象蔓延る学園都市時計塔で、どう生き残れと言うのだろうか。

 俺はそう頭を抱えて体を俯かせると、突如親父が右手首を掴んで引っ張ろうとしたので、俺はつられて立たされた。

「なんだよ親父」

 手の甲に痕が治っていなかったのかと俺は疑問に思ったが、違った。

 真剣な表情で手の甲を眺めていた親父がいた。

「波也これは――――」

 絞り出す声なんてできるんだと思いながら、あまりの真剣さについ顔が深刻な色に染まった。

「なんだよ親父そんなに驚いて、もしかして俺の手の甲すごい痕が残っていたか?」

「令呪だ」

「れいじゅ?」

 聞き慣れない単語に聞き返し、無理やり親父の手から離れさせると右手の甲を見た。

「なんだこれ?」

 不思議な模様をしたそれは確かに浮かび上がっていた。

 もしかしていつも以上に領域に踏み込んだ時、刻まれた物なのかとそんな事を考えその模様を眺めていると、親父は静かにこう告げた。

「それはこの町で起きる聖杯戦争に選ばれた証だ。サーヴァントの絶対命令権であり、サーヴァントを結ぶ証でもある」

「ちょっと待て、親父何言ってんだ……急にどうした? 朝なんか変な物でも食べたか?」

 聖杯? サーヴァント? 唐突によく分からない単語を並べる親父に、たじろいでいると親父の話は続いた。

「……さっきの手紙の送り主覚えているか?」

「知り合いの人形使いの事だろう? そいつと何か関係あるのか? その……聖杯戦争に」

 固唾を飲む。もしかして、面倒臭い事に巻き込まれた? 戦争と名がつくぐらいだきっと流血沙汰なのだろうか。

「関係も何も。彼――――アルヴィン・エクルストンは、この町の聖杯戦争の発案者であり企画者だからな」

 戦争を勃発させる程の人間。親父そんな人間と付き合いがあったのかと、付き合う人間は選んだ方がいいと思うがそれを口にしない事にした。

「行くぞ。波也」

「どこへだよ。親父」

 どこかへ行こうとする親父を見て、俺は立ち止まったままだった。

 よく分からない。ちゃんと説明してくれ、この紋様は一体何を暗示しているのかを。

 そんな事を思った表情を親父は見てその問いを答えた。

「エクルストンがいる場所だ。聖杯戦争についての話は彼の方から聞け」

「――――?」

 行った方がいいのか、行かない方がいいのか。

 突如訪れたその選択肢に俺は――――

「行かなきゃダメか?」

「行くべきだ、何より自分は聖杯戦争にあまり詳しくないのでな、自分に聞くよりエクルストンに聞いた方が早い」

 ……さいですか、しかし聖杯戦争という物は一体なんだろうかと、不安に駆られつつも覚悟を決めると、俺は親父の後を追った。

 

 

 午前十時半――――エルリカが意気揚々と人捜しを宣言してから、一時間半経過。

 全く、彼女の無鉄砲さは北欧神話のドヴェルクの血がそうさせているのか、とアルヴィンはため息を吐いて、渡された新聞を読みふけていた。

 さて、強く叩きつけられた誓約書の行方はと、二人の監視員のうち一人は一昨日現地入りの報告を思い出す。

 この手の事件はその一人こそ適材適所であった。

 この一人彼女は封印指定執行者であり、サングラス、香りから察するに恐らく霊薬であろう銜え煙草、男性顔負けの鍛えあげられた筋肉がトレードマークな、非常に冷血な女性であった。

得物は彼女曰く「使用火薬が神秘と結びつきやすい」との事で、引き金でもないレバーを指でひっかけ回すと再装填(リロード)される切り詰め(ソードオフ)されていない、時代遅れの散弾銃で魔術師達が嫌悪する兵器を扱う、ジョーカーであった。

 彼女もまた聖杯に賭ける願いがあるらしいが、問い質したらそれ以上何も語らなかったのでアルヴィンはよく知らない。

 雇い主の指先一つで魔術師の誇りも人としての倫理も捨て切る、殺人機械。

 アルヴィン・エクルストンは人形やゴーレム作製に長けているが、ここまで殺人に特化した機械(にんぎょう)は作れない。

 彼女(あれ)は殺人人形の最高傑作である―――――アルヴィンはそう彼女を雇い主としての敬意を込めて、そう喩えた。

 エルリカはしばらく戻らないだろう、それとも探している最中に探索でもしているのか。

 フレンツェ家に三代ぐるみの付き合いがあるアルヴィンからすれば、彼女の奇行は呆れる場面もあるがすっかりと定番となっていた。

 今から数か月前、アルヴィンが発案し祖父の代から造っていた魔術礼装の完成した後、エルリカが魔術協会に大々的に箱海の聖杯戦争開始を宣伝していた。

 あの宣伝――――いや演説に近かった宣伝は傑作だった。

 もしビデオが扱えればその風景を録画していたのだろう。

 それぐらいとてもいい宣伝だった。フレンツェ家のお蔭で聖杯戦争は滞りなく動いている。

 時計塔に至っては若者が、老人からの番狂わせ(ジャイアンド・キリング)を夢見て箱海市に観光ツアー客を装い訪れたのだが、ある時計塔で名物生徒が何を思ったのか、現代魔術科の講師(筆者から言わせれば恐らくある生徒と同類と察して、早々に白状したと思われる)から聖杯戦争の本場である冬木を訪れてから、箱海に向かった所令呪が宿ったそうな。

 時計塔の迷惑児として有名だった為にその話はエルリカの耳まで届き、アルヴィンに伝えられて現在に至る。

 話を現在に戻そう、これからライダーのマスター探索の依頼を請け負わせる彼女はスマートフォンを所持しているため今から連絡しても繋がるだろう。

 そう新聞を縦長のテーブルに置いて、電話を掛けようとした時、呼び鈴が鳴る。

「こんな時間に、すまないが君が代わりに迎えてくれないか?」

「かしこまりました。では、ソファーまで案内させますね」

「そうしてくれ」

 呼びかけに応じ、メイド人形はぺこりとお辞儀をすると玄関に向かわせる。

 年季の入ったファックス付きデジタルコードレス電話機の前に立ち、不慣れた指使いで指定された番号を押し、受話器を耳にかける事五コール、掠れ声(ハスキーボイス)の主がようやく出た。

『はい、アルヴィンかさっき警察(ポリ)に絡まれていた。煙草の臭いが普通じゃないから、危うく連行されそうだった』

 どう対処したかは聞くまでもない。

ただでさえ近寄ってはいけない雰囲気を纏っているのにサングラスをして市販の煙草ではなく、ドラックストアの様な香りのする煙草を銜えていれば、新種の違法薬物(ドラック)を吸っていると勘違いするだろう。

『やっぱ昼間はサングラスよりメガネの方がよさそうだな、小さい島国だと侮っていたらこのザマだよ』

「君……ニホンジンに殴られたいのかい?」

『別に私は白人至上主義(ホワイト・ナショナリズム)じゃないよ。治安が良すぎるあまり、こーいうのを見逃す意味の治安の良さだと思っていたけど。本当に治安が良いんだな』

「つくつぐ思っていたけど君の故郷って……金で警察から免罪を買えちゃう国なの?」

『ま。そんなところだ、お蔭でぬるい。平和ボケしそうなぐらい張り合いがない』

「アルヴィン様。あなたにご来客です、帰しますか?」

「あ。客が来たからとりあえず君の仕事内容を言う。ライダーのマスターを探索してくれ、詳しくは誓約書がこちらに届いているから後日渡すつもりでいる」

 仕事内容を伝えるアルヴィンの口調は冷え切っていた。

 例え大火災を防ぐ為ならば小さな火種ですらも抹消する。

 この聖杯戦争(大儀式)の存在を無辜の民に悟らせるな――――それを最も知り尽くしているのは、電話越しの彼女であった。

『後日で丁度良かった。まだ召喚準備できてないから、まずはサーヴァントを召喚させてもいいかい?』

「戦闘方針は君に任せるよ」

『オーケィ。じゃ、切るわ』

 電話の切れた音がした。

「一応、入らせてくれないか? 見知らぬ人だったら私が丁重にお断りするよ」

 アルヴィンは受話器を丁重に置くと、客人に出会う準備を始めた。

 

 

 親父と来た場所は古い街並みと水平線がマッチした景観で、観光客に人気な共町に訪れている。

 市内を走る路面電車から降りて、あの急な坂を上りきり親父に案内されたゴシック建築の洋館。

いかにも古き魔術師が住んでいそうなデザインだなと、俺は思っていると父親が呼び鈴を鳴らした。

 うわあ、ボタン押すインターホンタイプじゃなくて、小さなベルを鳴らす形式の呼び鈴(ドアベル)だよ。

 どんだけ時代遅れなんだよ――――!

 俺はこの家主がいかに古い魔術師なんだと勝手に想像していると、まるで人形みたいな古き良きメイド服を纏った女性が無機質な声で俺達を出迎えた。

「こんにちは、今主人はお取込み中ですが何の用件ですか?」

「私の息子に聖杯戦争について教えて貰うために、主人に会いに来たんだ」

「かしこまりました。アルヴィン様。あなたにご来客です、帰しますか?」

 何、帰そうとしてるんだこのメイドさん、俺達は悪徳セールスマンでも新聞勧誘じゃない。

 俺はその対処に絶句した。

「加目、と言えば分かるはずだ」

「カメ――――すみません生憎、あなたに登録(おぼ)えはありません。動物保護ならば、保健所へ向かってください。それでは」

「その(カメ)じゃない! 親父……アルヴィンと本当に知り合い?」

 繰り出すメイドインボケに思わず声を荒げて叫んだ。

 そして覚えていないと切り捨てられ、捨て亀ならば保健所をオススメされてしまった親父に猜疑の眼を送る。

「主人の名を知っているのですか、そこのジュニア様」

「ジュニアってなんだよ」

 やはり名前を知っているとなると食いつきがいいなと、俺はなんだか馬鹿にされたような呼び方で言われたので、もしかしてさっき叫んだ内容に怒っているのか、勘違いは誰だってある物だろう、ただあまりにも主人の友人に対して、淡々とボケ倒すメイドさんについツッコミたくなるよ。

 これがいわゆる芸人魂と言う物だろうか――――なんだか新たな領域に目覚めたのか俺!

 そう親父達と立ち往生していると、用が済んだのが、男性の声が耳に届く。

「一応、入らせてくれないか? 見知らぬ人だったら私が丁重にお断りするよ」

「分かりました。主人の許しが出ましたので、どうぞ中へ」

 ん? このメイドさんこの声の人間を主人と呼んだ、つまりはこの家の家主となる。

―――――俺はてっきり、爺さんだと思っていたが声を聞くと若いではないか。

 若いだの、老いているだの、くだらない、きっとあれだ……若返り薬を飲んでいるに違いない。

 俺はそんな些細な問題を無理矢理納得させると、親父がもう家の中に入っていたので、俺は慌ててその家の中に入った。

 

 家の中は暖かさを感じさせた、まるで腕のいい職人が住んでいるような素朴な家の中は、俺の想像をはるかに超えた。

 そうだよな。うちの魔術工房は石壁石床の地下室だもんな、うちが自然の威厳を体現しているならば、ここは自然のぬくもりを体現した魔術工房であった。

 古い柱時計の音が心地よく部屋を包む。

 ソファーの向かい側に座る、ケープの下には茶色い燕尾服を着ており、芥子(けし)の実を芯から染めたようなくしゃくしゃの短い髪、何よりも深く透き通った蒼い双眸が目立ち俺達を映していた。

 顔つきは実に胡散臭い。魔術師というより詐欺師と言われた方が頷く顔つきであった。

「やあ。さっきは失礼、あの()は私が教えた事しか実行しないからね。ごめん、君の名前まだ登録(おぼ)えさせていなかった」

 アルヴィンは困ったような笑顔でそう申し訳なさそうに言う。

じゃあ、帰しますか発言させていたのはアンタの仕業か!

 俺は堪えた。口に出して叫ぶ空気ではないのだから。

 落ち着け、俺。俺達は漫才しにここの家に訪れたワケじゃない。

 そう――――聖杯戦争について俺は教わりに来た。

 けどなんだろう、このアルヴィン・エクルストン胡散臭いを着て歩いていそうな容姿の割には、偉く紳士的だった。

 だからこそ胡散臭さを一層引き立てているわけだが。

 こうしてアルヴィンはとても真面目な表情を作り、他愛ない雑談から本題へと入った。

 先程、俺はそんな気分じゃなかったので断ったが、日本式の客の振る舞いだよねと紅茶と茶菓子を振る舞うにこやかな紳士だったのが一変した。

 まるで穏和な紳士のスイッチを切り、冷酷な魔術師のスイッチをオンした様な変わりように俺は固唾を飲んだ。

 必要ならば、スイッチを切り替えて俺を顔色一つ変えず、殺す事が出来そうだったからだ。

「まずは歴史から話そう。聖杯戦争の歴史は冬木から始まった――――私はその噂を偶然耳にし、儀式内容を完全再現したらずっと描いていた夢を達成できるんじゃないかと思って、私は文献を片っ端から調べ上げた」

「夢?」

「恐らくは根源に至る事だろう――――根源に至れば魔法を得れるとも、言われているからな」

「俺。根源とかよく分からないけど、スケールが大きい事だけは伝わってくる。それで?」

 自分はそんな物を目指して走る程余裕がない、だからアルヴィンが少し羨ましくなった。

 三割しか魔術回路が開かない魔術師()からすれば、それすらもとてつもなく、壮大な物だろうと感じていた。

「知識はあった。あったんだけど、技量がなかった。私の専門は高度な錬金術ではなく、人形に複雑な命令行動(コマンド)の術式を刻み精巧な自律人形(オートマタ)を作る魔術だからね。

 そこで私はアインツベルン以外で錬金術に優れた人材を世界中探し、そして出会ったのが―――フレンツェ家、北欧神話時代から続くドヴェルクの血を引く魔術家系を探し当てたんだ」

 森羅万象と共に、原初の巨人ユミルの肉から生まれたドヴェルクは北欧神話にも登場する幻想種。彼らは神秘を帯びた冶金技術、つまり魔術礼装作製に長けた小人の種族である。

 フレンツェ家の純血のドヴェルクは神々の黄昏で死に絶えてしまったが、人の血が混ざったハーフドヴェルクは、人の部分があった為巫女の予言から生き残ったのだ。

「ドヴェルク……ドワーフの血が混ざっているのなら造れそう……というか、聖杯戦争が開幕しているという事は造ったのか」

 魔術礼装作成に長けた種族(こびと)の混血は見事、アインツベルンにも劣らぬ聖杯を造り上げたのだ。

「うん。これは掘り出し物の人材だと思ったほどだよ。それで構想から七十年長かったよ。何しろ冬木と同じ大聖杯を造り上げるのに十年かかって、後は箱海の霊脈で召喚できる魔力が満たされるまで六十年。

 ようやく、聖杯戦争ができる環境になったというワケだ。

因みに、サーヴァントの絶対命令権を行使する令呪もフレンツェ家お手製だよ、エリィ曰く「デザインは、折角クラス名があるし(いにしえ)の兵を召喚されるのだ、魔術師の特性に加えてサーヴァントのクラスと特性をモチーフにしよう」とエリィの祖父が考案したらしい」

 何その万能さ――――流石、神代から続く魔術家系だけはある。

 ん? 魔術師の特性に加えてサーヴァントのクラスと特性をモチーフにしたと、アルヴィンは言っていた。

 じゃあ俺の令呪は一体何をモチーフにしているのだろうか?

 「ん……? んん?」

 右手の甲をそのままにしたら、碇の様にも見える。

 右手の甲を逆さまにすると、剣の様にも見える。

 右の甲を横にしたら弓の様にも見える。

 抽象的すぎて分からないぞ、これは――――

「まあ、そう難しく考えない方がいいよ」

 そう気楽に話す、アルヴィン。

 そうだよな。どっちみち召喚しなければ分からない事だし、いっか。

「いいかい。どても大切な事だから言うけど令呪は三回までしか使えないから、使う時はよく考えるんだよ。ナミヤ君」

「三回使い終わったらどうなる」

「君がサーヴァントをこの世に繋ぎ止める杭ならば、サーヴァントを繋ぐ鎖こそ令呪。

 その鎖が解き放たれた飼い犬(サーヴァント)は杭から立ち去ってしまう」

 つまり――――消滅するという事か。

 成程、これは慎重にやらなければならない。

 令呪はサーヴァントを律する鎖でもあり、マスターと繋がる鎖でもあるのか。

 俺は俺なりに消化すると、聖杯戦争について細かい事を数時間アルヴィンに説明してもらって、とりあえず講義はこれにて終了した。

 時計はもう正午を回っていた。

 

 俺は親父とアルヴィンに礼を述べて帰宅し、その後親父は昼食を取っている合間、俺は召喚陣を描く準備に取り掛かっていた。

 使うのはこれ――――砂鉄である。

 俺は昔から砂鉄を操る魔術に長けていた。

 こう指先に魔力を帯びさせて、黒い竜巻を起こさせたり、形状を変え強化をすれば相手を殴り飛ばしたり、串刺しにしたり。Cランクの魔術なら防ぐ強固な盾としてでも使える。

 ただ弱点がある。それは至ってシンプル炎と電磁波に弱い事だ。

 一工程(シングルアクション)の炎ならば防げるがそれ以上行くと、どろどろに融かされてしまうし、電磁波を浴びると理科の実験みたいな状態になる。

 三割しか魔術回路を開けない為実力はお察し、如何に戦い抜くかを考えなければ。

 俺はまずは倉庫から大量の砂鉄が入った幾十の箱の一つから大量に掬い、夜が来るまで冷えて固まぬように、溶鉱炉にヘラと砂鉄を突っ込むと回し続けた。

 

 

 夜―――――午後八時。

 そろそろ召喚時かと汗と熱で戦っていた俺は、もう三枚目のシャツを着こむと、親父が買ってきてくれた鋼鉄製の水槽らしき箱を置くと、器用に鉄の杓子で赤い鉄の液体で模様を描く。

 後はアルヴィンに詠唱をメモして貰った紙切れを取り出すと、俺は静かに紡ぎ出した。

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。

 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 “聖杯戦争は、願望器である聖杯を巡って殺し合う大儀式”

そうアルヴィンは言っていた。

 “だからきちんとよく考えた方がいい、君には親御さんもいるしね――――”

 俺は考えた、考え抜いたんだ。

 こんな二度とないチャンスが目の前に現れたんだ。

ならば――――俺の賭ける願いは昔から決まっている。

「――――――Anfang(セット)

 来た。感じる、何かが這い出る気配が体の芯まで高揚に染まる。

「告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

俺の叶えたい願いは、そう魔術回路を全て開かせる体質にすること。

 それしかない。それ以外に思いつかなかった、親父から改造手術を勧められる程貧弱な俺を脱却する。

 俺は加目家の次期当主だ――――次の子供に期待する事しかできない落ちぶれてしまった魔術師ではなく、普通の魔術師として大成したい。

 それが俺の――――

「誓いを此処に―――――――

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天」

 願いだ――――ッ!

「 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 煌々と燃え上がっていた召喚陣は一層輝きを増し暴風を生み出した。

 俺は思わず腕を顔で覆い、握りしめていたメモが吹き飛んだ。

 さあ、どんな英霊と出会うのかと―――――本当は触媒を用意したかったが、そんな時間が無かった。

 だから俺が出会うのは、俺と何か同じものがある英霊。

 誰だろうか。眼前に起きる奇蹟を目にして、眼前に広がる奇蹟を求めて、俺の気持ちは水を得た魚だった。

 そして暴風が病み、煙が晴れると立っていた。

「! おん……」

 その姿を見て愕然とした。

 燃え上がる緋の髪を高く束ね、顔立ちは精悍。

 落ち着いた赤い(まなこ)は気位の高さを感じさせる。

 身に纏っているのは西洋風の鎧甲冑を軽装装備にアレンジした感じである。

 手に握るは分厚く武骨な両刃剣。

 ここまではいい。だが、このサーヴァント――――性別は。

「女ァ!?」

 そう女性であった。ジャンヌダルクみたいなセイバーっぽい人召喚したらしい。

 強そうだ。どこか俺の共通点を持った英霊なんだというぐらい、立っているだけでこちらが緊迫してしまう程の雰囲気に気圧されながらもセイバーらしき騎士は、こちらに視線を向ける。

「サーヴァントセイバー。召喚に従い参上しました――――これからよろしくお願いします」

 まさに絵に描いた女騎士が威風堂々と挨拶をしていた。

 

 ◆

 

 同時刻、箱海市百夜代(びゃくやだい)

 閑静な住宅街にひっそりと建つ、古びた洋館があった。

 手入れが行き届いた英国式の庭があり、豪奢なその造りはゴシック・ホラーの映画に登場しそうな風格を醸し出していた。

 そのせいで、近所の子供達からお化け洋館と呼ばれており誰も近寄らなかった。

 ランサーは市中を駆け巡っていた。昨夜見かけたクリオネの様な姿をした偵察用の使い魔をしらみ潰しに探していたのだ。

 その結果はたくさんいた。数百いるだろう使い魔達がこの街を上空からこの聖杯戦争を俯瞰している事に、これで一つはっきりした事がある。

 あの使い魔は九割が自律ではないかと考える。高速・並列思考の術を学んだ魔術師でさえそんな幾百の視覚情報を処理できるのだろうかと。

 そういうのはマスターの考える仕事だと、ランサーは思考をクリアにして拠点に帰還する。

 廊下を歩けば生贄である黒い山羊達がすし詰めされた部屋から、メエメエと鳴き声が聞こえ、ゲージを自慢の角でぶつける音も聞こえてくる。

(相変わらず悪趣味な事……)

 ランサーは肩を担いでマスターがいる部屋へと入る。

 アンティーク家具が並べてあるリビングには憂鬱そうな表情で、こちらを見てくるランサーのマスターがいた。

 マスターは蠱惑的な女性でとても美しかった。喪服を彷彿させる黒いイブニングドレスを纏い、栗毛の長い髪を一つにまとめそれを布で留めている。

 伏せ目がちな赤褐色のいつもよりも生気のない双眸はこちらの不満を訴えてくるのが伝わってくる。

 多分、昨夜で早くも無駄な敵を増やしてしまった事に憂鬱なのだろうとランサーは少々申し訳なさそうな表情を浮かべると、マスターは言った。

「ああ、あなたのせいで……ライダーのマスターの親御さんでいいのかしら。エクルストンの家で呼び出されたんだけど――――絶対、何か言われるわ。本当どう落とし前つける気よ、よりによってモンスターペアレントにクレーム言われるのよ明日! 土下座して謝れとか言われたら耐えられない……」

「そんな事になっていたのか、申し訳ないマスター。けどこれだけは言える。ライダーの親ってのはんな過保護なヤツではない事はライダーから聞いて分かった」

「どういう事なのよ。流石に聴覚までは共有していないから、あなた達が何を話したか知らないわよ」

 豊潤な唇をへの字に結び、むっとした表情をランサーのマスターは訴える。

「ライダーのマスターは令呪を奪われそうになった。つまり、ライダーのマスター権を強奪されかけた――――」

 ライダーは主君を守る為に馬を走らせ、窮地を乗り切ったのだ。その忠義にランサーは感心し、ライダーと戦うよりも救う事を選んだ。

 だがこのランサーのマスターは恐らくそんな心を理解はできないだろう、何せランサーの過去を知っても尚誰かに仕え戦う為だけに召喚に応じた心に驚いた人間だから、きっと――――

「成程ね。つまり、ライダーのマスターの親御さんは、その子を踏みにじってまで聖杯戦争に参戦したかったのね。本当馬鹿みたい……もし、ライダーのマスター権を親御さんに渡って魔力不足だったら、絶対魂喰いをやるタイプね」

 魂喰いとは文字通り、サーヴァントに魂を食べさせる行為である。

 サーヴァントとは契約したマスターの魔力とそれを留める依代(マスター)がなければ、すぐに消滅する脆い存在でもある。

 マスターとしての素質が高い者ならば格高い英霊を運営するには支障はないのだが、サーヴァントの格は高いがマスターの素質が低い場合その逆になる事が多い。

 つまり魔力が多い程運営容易いが魔力が低い程運営は難しくなる、そこで足りない魔力はどこで補うか。

 そう――――人の魂である。

 何かを食らい生き延びなければならない状況に陥る。

 簡単に言えば劣っている部分は他から補えば良い話の事である。

 ランサーのマスター視点の松裏嘉平は、そういう事を迷わず行える人間だと見ているらしい。

「ま。アンタも山羊(いけにえ)で似たような事やってるしな、おあいこ様だろう」

 先程の生贄部屋を思い出し、命を殺し魔力を得ている事には変わらないとランサーは腕を組んでどこかの壁にもたれる。

 ランサーのマスターは、黒魔術師である。様々な黒魔術の中でとりわけ、山羊に呪詛を背負わせ贄にする『贖罪の山羊(ゴーストスケープ)』に特化した現代に生きる魔女である。

 誰もが敬う美貌の裏には冷血が孕んでおり、その肉体美に誘われた獲物は躊躇なく刈り取る姿を古い友人は「ハナカマキリ」と喩えられ、またある時は「ヘロディアの娘(サロメ)を成長させた人物」だと喩えられた事がある。

 そんな周囲の評価だからこそランサーにもランサーの生前で知り合った毒婦に似ていると言われるのも、例え計略の為とは言え男性に媚びる事以外は納得はしていた。

「フフ、そうね。ええ、その気になれば私も魂喰いをやれるわ。けど――――いくら忠義を貫くあなたの性格を考えると……主君である私に何を言っても首を振るのでしょうね。むしろ、無実な人間を殺す勇気すらないのかしら?」

 妖艶に笑うマスターに、ランサーはやはり、性根はあの毒婦に似ているなと改めて認識しつつバツが悪そうな表情を作る。

「ええ、そうですよ。なんだよ悪いか! 敵以外でそいつらの怯えた目でこっち向けられると殺しづらいんだよ……」

 ランサーは認めた、どうせ殺させるならば気持ちよく殺させてくれと言わんばかりに叫ぶと、マスターの眉は寄せたのではなく孤を描きだしたのだ。

「やっぱり魔猫(まびょう)に怯えた戦士は違うわね」

 他人がやれば下品に見えるが、マスターが意地の悪そうな微笑みでクスクスと笑う姿は上品であった。

 そんな仕草から脳内にちらつく毒婦の姿に、疲れ切った表情でランサーはようやくこのマスターの関係について気づいた。

「今ので確信した、俺は主君少し苦手になっちまったよ」

 ランサーは深くため息を吐いて、今回の戦いもまた自分は戦士として苦労するのかと少々行末が不安に思えてきた。




マスター:エルリカ・バルト・フレンツェ
クラス:アーチャー
真名:
性別:男
身長・体重:174cm・65kg
属性:中立・善
・ステータス
筋力:B 魔力:D 耐久:A+ 幸運:E 俊敏:B 宝具:A

・クラス別能力
「対魔力:C」
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

「単独行動:C」
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

・固有スキル
「■■■」
 
「■■■」
 
「■■■」

「■■■」
 
「変装:C」
 敵地では商人、恋人の逢瀬では乞食に変装しても身の上を明かすまで正体を暴かれなかった過去から得たスキル。
 また親しい知り合いや「真名看破」でさえ、自らの正体とステータスを完全に隠匿できる。
 しかし「貧者の見識」「人間観察」等といった本質を見抜くスキル、そして彼の戦闘方法や、武器、宝具、彼にしかできない知らない情報を開示されれば正体を看破する事は可能。
 彼の場合フードで顔を隠さないと発動せず、フードを脱ぐと無効になってしまう。


・宝具

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