Fate/melt a close   作:アクタ

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第二章 交差
2DAYS「弓兵、槍兵は嗤う」


 中世風の衣装を纏った男性と少年がいる。

 男性は優しそうな中年騎士で少年はピーターパンを題材にした映画の主演に選ばれそうな程の美貌を持ち、その姿は一瞬妖精だと疑ってしまう程美しかった。

 少年は見事に真ん中に射した的を男性を誇らしげに見せていた。

「先生! 今日もまた()てましたよ!」

「すごいな、流石我が弟子だな」

 中年男性のごつごつとした掌はその小さな頭を撫でていた。

 騎士達の鍛練場であろう場所に昼下がりの陽は柔らかく煌めき、まるで風景画を目にしているようであった。

 この夢はアーチャーの過去だ。

 召喚して四日目――――そろそろ頃合いだとエルリカは踏んでいた。

 サーヴァントはマスターと見えない糸で繋がっている。

 だからこうしてサーヴァントの過去を夢で見る事ができる。

 感情移入したくない人間は眠らないように魔術的に不眠状態させるらしいが、アーチャーのマスターであるエルリカはそこまで徹底しない。

 しかし、どう生きれば羽の鱗粉振り撒いていそうな少年が、ああなってしまうのか。

 エルリカは苦い顔でその様子を静かに見守る。

「弓の鍛練の次は竪琴の時間だ、宿題に出した詩は暗記したかな?」

「はい先生」

「よろしい。暗記した詩は妖精避けの意味を込めたまじないの詩なんだ。

 あなたはどうも妖精に好かれやすい性質らしい……もし妖精に連れていかれそうになったこう奏でなさい」

 と白い竪琴を二人は抱え、少年は真剣な表情で聞いていた。

 好かれやすい性質というよりも、その顔立ちは妖精すらも惑わせるからではないかとエルリカはツッコミながらも、上手いことを言うなと感心していた。

「妖精につれていかれたらどうなるんですか?」

「取り替えられるんだ。あなたとあなたに似た妖精があなたのお養父(とう)様を取っちゃうんだ」

「そうなんですね気を付けます」

 そう少年は納得すると中年男性が講義を始めようとすると、草を踏む音が聞こえた。

 それに気づいた二人はその方向を向くと、音の主は逃げ去るようにその場から離れようとした。

 子供だった――――少年と同じ年頃の男の子。

「アンドレ?」

 男性はその名を呼ぶが、歩を止める気配もない。

「アンドレ、一緒に竪琴やろうよ!」

 少年は爽やかな表情で呼び掛けるとアンドレと呼ばれた少年は背を向けたまま、歩を止める。

 エルリカはその名を聞いてこの先の展開が読めた、どうしてアンドレがこの様な態度を取るのかを―――――

「なんで来たんだよ……」

「アン……ドレ?」

 震える声に首をかしげる少年。

「なんでおまえが来たんだよ、本当はおまえ妖精なんだろう?」

 取り替え子(チェンジリング)の話題を聞いていたのかその残酷な台詞に男性は叱咤する。

「やめなさいアンドレ! 彼はあなたから叔父様を取ってるつもりじゃない」

「うるさい! あっちいけよ。コイツはきっとおれがわりの妖精なんだ!」

 そう捨て台詞を吐いて

この場から立ち去るアンドレ。

 成る程、この当時から妬いていたのか、エルリカは納得していた。

「後で厳しく叱っとくよ。気にしないであなたはアンドレからお養父(とう)様を取ったんじゃないから、さあ稽古の続きを始めようじゃないか」

「……はい」

 それを聞き見た少年の表情は唖然としていた。

 そして優しく慰める男性に向かい合って座る少年。

 男性は気にするなと言われたが、少年の心に一つ暗い影を落とした自分はいらない人間なのかを――――

 天涯孤独となり親戚内をたらい回しにされた子供は、余所者扱い疎外感を体感するのをよく聞く。

 しかも同じ年頃の子と同居したとなれば、同居する子供は理解に苦しむだろう。

 突然やってきて、居場所を奪われるんじゃないかという防衛本能が働いたから、あんな態度を取ったのだろう。

 確かにこれは取り替え子(チェンジリング)に似ている。

―――ただし、違うのは取り替えられた子供も代役も屋根の下で住んでいる事であった。

 

 小鳥の囀りで目が覚めたエルリカは、見た夢の余韻に浸っていた。

「ロミオ……」

 クラス名では味気がないのでつけたアーチャーのあだ名を呟く。

 父も母も亡くし、一人となったアーチャーは叔父に引き取られて大切に育てられたアーチャーの少年時代は、余所者だという疎外感から始まったのか。

 エルリカは一層アーチャーの真名()は最早、概念武装に近い呪いなのではと疑っているとフードを外した美少年から美丈夫へと成長したアーチャーが現れた。

 顔立ちは物腰の柔らかさが滲み出ている優男で、召喚時危うくエルリカも魅了(チャーム)が掛けられたのではないかと思う程見惚れていた。

 魔力がいらない魅了で、女性を虜にしてしまう甘いマスクと裏腹に百七十四センチの体躯は無駄なく鍛え上げられていた。

 特に両腕は木の幹のように太く胸板も厚かった。

 髪は枯れ草色で真ん中に結わえており、タレ目がちなその目元は琥珀に近い褐色であった。

「お呼びですかマスター」

「いえなんでも……今何時かしら」

 欠伸交じりで時刻を問う。

 いつも勝ち気な表情を浮かべているエルリカの今の表情は眠気に侵されしまりがない表情をしていた。

「―――十二時半。あなたはなにやら魔矢を作って夜更かししていましたからねえ、お疲れ様ですマスター」

「ええ、選ばれたなら本気でやらなくてはお祖父様に顔向けできませんので」

 そうベットから降りるエルリカは朝の支度を始めた。まるでゲームの世界から飛び出してきた武器屋みたいな部屋とシンプルな寝室が合体したような自室から立ち去った後はシャワーを浴び、金塊を融かして染み込ませたような金髪を乾かし二つに結わえてロールを作れば、白いカッターシャツ、赤黒いプリーツスカート、ガーターストッキングを着終えリビングへと向かった。

 

 脂身で煌めくこんがりと焼いたベーコンに艶やかな黄身が丘のように盛り上がった目玉焼き。

 実った小麦畑を彷彿させる狐色のパンに、色鮮やかなマーマレードのジャムを塗り、テレビで昼のニュースを見るエルリカ。

 文字通り遅めの朝食を美味しそうに頬張り、自分が淹れたコーヒーを啜っていると手伝わされたアーチャーがソファーのテーブルに置かれた箱を一瞥し、主人の食事を見守る事にした。

「本当、美味しそうに食べますね手伝ったかいがあります」

「あなたこそ、想像していたよりなかなか手際が良かったわね」

「何分、こういうのは得意なもので」

 まるで執事とお嬢様が会話しているようななごやかな風景であった。

 何せアーチャーの宝具の一つに自前で作成した長弓の他に男二人で萱葺き屋根の小屋を建てた事もあるので、手先はどちらかといえば器用な方だと分類する人間だろう。

 テレビは地元のニュースを告げるコーナーへと移り変わると、アーチャーの通訳で見た目だけでもお金持ちそうな日本人観光客がスリ被害に遭い、いつの間にか財布の中身は半分しか残っていなかっただというニュースが流れていた。

 犯人は未だに不明だと言うので、アーチャーの過去(ユメ)を見たせいか盗みを働く悪し妖精の仕業ではないかとエルリカは、そう思いながら甘酸っぱいマーマレードのトーストをまた頬張った。

 昨日は探索も含めてライダーのマスターを探し回ったのだが――――それらしき痕跡が見つからなかった。

 一体何に騎乗するのだろうか、戦車を引く馬や牛だったら足跡ぐらい見つかるというのに――――もしかして空飛ぶ戦車なのかも知れない。

 エルリカはライダーだから思うのだ。もしかして厄介な事を手に出しているのではないかと、一瞬顔をしかめる。

 いずれにしても何も手がかりなしで、感情に任せ飛び出してしまった自分が嫌になって来た。

「お取込み中すみませんが、マスターお話いいでしょうか?」

 そんな自己嫌悪の淵から、アーチャーの言葉で引き離されたエルリカは訝しげな顔を浮かべる。

「何かしらロミオ?」

「前から疑問に思っていたのですが……あの楽器ケースみたいのは一体?」

 とテーブルに置かれた黒く細長いケースを再び視線に向けていたので、誇らしげな表情でえっへんと言わんばかりの態度でエルリカは嬉しそうに言う。

「あら、流石ロミオねお目が高いわね!」

 何処がお目が高いんだとアーチャーは内心思っている事を知らないエルリカは、そのケースを開ける。

「……マスケット銃ですか?」

 エルリカが作ったのだろうマスケット銃黒く、装填部にはミュシャ風の銀細工が施されており、銃身から銃口まで林檎の蔦が絡まったよう浮き彫りの飾りがある。

 見事な意匠が施された兵器と言うよりも美術品であった。だが、このマスケット銃――――銃にとってはある物が不足していた。

「あれ? 引き金がありませんね?」

 そう、一番(かなめ)である撃鉄や引き金が、このマスケット銃には存在していない(、、、、、、、)のだ。

 もしかして機能よりも美を追求したのかと、アーチャーは不思議そうに不思議なマスケット銃を眺めていると、エルリカはそれを取る。

 百四十五センチという身長故にか、マスケット銃は従来よりも短く切り詰め(ソードオフ)されているマスケット銃を器用に回すと、テレビショッピングの店長の如く滑らかに本日の商品はと言わんばかりの解説を始める。

「引き金は必要ありませんのよ。何故なら、このマスケット銃は『金色の矢羽(グシスナウタル)』を撃つ為の(じゅう)なのですから!」

「『金色の矢羽(グシスナウタル)』――――命じるだけで発射され、敵を追尾しどのような強固な鎧でさえ食い込み、射手(いて)の元へと帰還する、金色の矢羽がついた三本矢――――」

 金色の矢羽(グシスナウタル)とは、北欧神話の『毛深いグリムのサガ』に伝わる魔矢であり、エルヴァル・オッドという青年が故郷を旅立つ時に、ドワーフが作り青年に与えたという魔矢。下手をすれば宝具に分類される魔術礼装をドワーフの血を持つエルリカからすれば、いとも簡単に作り上げている否、ドワーフが作ったという実証が伝承に残されているこそ可能にしているのだ。

「確かに弓要らずの魔矢ですけど、マスケット銃は矢を放つ道具ではありませんよ」

 常識で考えればマスケット銃で矢を射るというのは有りえないと、アーチャーははっきりと言ったのでそれを受け、下衆な表情でエルリカはほくそ笑んでいた。

 マスケット銃は黒色火薬を用いて射る道具だ、弓とは違って撃ち方さえ覚えれば腕前関係なく農民でも人を殺せる――――兵器。

 これにより騎士達がお役御免となり決闘(フェーデ)で生計建てる騎士(ゴロツキ)が急上昇した。ただしその一人である味方の砲撃ミスにより鉄の義手を持った盗賊騎士は例外であるが。

「フフフ……考えが甘いですわねロミオ――――『金色の矢羽(グシスナウタル)』はあなたの言う通り弓要らず(、、、、)ですわよね? ならば――――それの銃器バージョンを作ればいいだけの話ですわ!」

 なんという事でしょう――――つまり、矢も作れるならば同じ仕組みの銃器も作れるのだろうという理論でエルリカ・バルト・フレンツェは前代未聞の挑戦をしたのだった。

「それを実行して、それをあっさりと完成するとは――――で、成功しましたか?」

「思考錯誤はしましたが、モチロン! 性能もきちんと再現しましたわよ!」

 そしてこの満面な笑顔である、エルリカは数か月かけて作った渾身の作品だからこそ、誇らしげな態度を取っているのだ。

「しかし銃器(それ)といいテレビを見る姿といい、電機家電を難なく使う姿といい、あなたもしかして科学に抵抗がない魔術師の一人なのですか?」

 魔術師は科学を嫌う生き物だ。科学が発達した世の中でさえ、未だに魔術を凌駕していないのがこの世の現実。

 科学とは人間の範囲内で起動する物だが、魔術は脳さえあれば(、、、、、、)人間の範囲外で起動できる物。

 だから高位の魔術師は蔑む傾向が強い。所詮は猿智恵、科学には到底追いつけない領域こそ魔術なのだから。

 エルリカは、高位の魔術家系な筈なのに科学を蔑む魔術師ではない事が伺える。

「オーホッホッホ! 鍛冶小人(ドヴェルク)の血を舐めないで頂きたいわね! 鎚打つ(わたくし)達が家電を見て、何も感じないと思いまして?

 見ていたら血が騒ぎますの――――この家電(わたくし)達も作ってみたいと」

「はあ……」

 エルリカはアーチャーがなんで微妙な顔をしているのか読み取れなかったが、空になった食器を台所に向かい食器を洗っていると、昨夜矢を作りながら計画していた事をアーチャーに告げる。

「そうそう。昨日計画していたのですけれど、今日はあなたの服を買いに行きましょう」

「……………はい?」

 エルリカはすすいだ皿をざるに移していると、間の抜けたアーチャーの声が背から聞こえたのでその反応に思わず、怪訝な表情を浮かべる。

「だから、し、ふ、く、よ! 折角第二の生を受けたのですから……私服が必要かと思って」

「何を言っているですか、マスター。霊体化すれば私服はいらないですよ」

 この言い合い、アーチャーが正論である。だが、エルリカはむうと口を結んでそれを翻そうとする。

「勿体ない! こんな機会滅多にないのに……それに、ほら。工具買う時重たそうな物はあなたに持って貰おうと考えているのですけど、ダメ……かしら?」

「そうですか……って、納得いきませんよ。それの為にたった数日? 数か月? しかいない私に私服は―――――」

「これはマスター命令ですわ、ロミオ。なんなら、令呪で無理やりにでも言う事聞かせることもできますのよ? いいのかしら、令呪を無駄使いして」

 食器は全て片付け振り向いたら、アーチャーは弱々しく笑って頭を掻いていた。

「はいはい、分かりましたよ。何を言っても無駄だと分かりました、全く――――強引ですねえあなたは」

 

 箱海市井門田(いもんだ)

 ここは鉄道の駅と名所である朝市がある為か、デパートや繁華街、ホテル街が立ち並びそこから少し離れれば港を望めるお土産屋、飲食店がある区域だ。

 エルリカの買い物は長かった、メンズ服のショップで試着室でアーチャーを待機させて、あれこれを選んでいた。

 アーチャーの背丈は日本人でも割といるので、サイズには困らなかった。

 素材がいいからどれを着せるか悩むわよねと、言いながら数時間ようやくアーチャーの私服が決まった。

 アーチャーの恰好はモノクロを基調とした、イタリア男が着そうなシンプルでかつ落ち着いた雰囲気の服装にした。

 変装スキルが解除されないようアクセサリーとして同系色の四角い伊達眼鏡に中折れ帽子をセレクトした。そして、妙な視線を感じながらも店を出て一休みに港の風景が望める大手コーヒショップでコーヒーを二人で頼む。

 そしてようやくその妙な視線の正体を思い知った。

「すみません? もしかして? モデルの方ですか?」

「申し訳ございませんただの一般人ですから」

「日本語お上手なんですね」

 これである。

 アーチャーの背丈が日本人とあまり変わらない為か外人と対した際の威圧感はないし、何よりオーラが話しかけても断らなそうな人柄を醸し出しているのだから――――

(何を話しているのか、全然分からないですれども……ともかくロミオがハンサムだから声を掛けたのに違いありませんわ)

 エルリカは気に入らなそうな表情で一人の女性を睨むように見ていると、女性はその怒気に気圧され一目散に退散したのであった。

「あのマスター……もしかして、ヤキモチですか?」

 小声でそう話すアーチャーに対し、エルリカの澄んだ青い双眸はギロリとアーチャーを睨む。

「ヤキモチではありませんわ、ロミオがハンサムだからといって気安く声を掛けているのが気に食わないだけですわ、素敵な方に出会っちゃったきっかけを作ってゴールインのを思惑していそうな態度を読み取ってしまいましたので……」

「それをヤキモチ……と言うのでは?」

 アーチャーの指摘でエルリカは飲んでいたコーヒーを吹き出し、むせてしまった。

 何を言っているのだロミオはだとエルリカの咳が収まると、顔を火照らせる。

「な、な、な、な、な、何を言っていますのよあなたは!!」

 ダアン! とテーブルを叩いて風切り音が聞こえる程、大げさに立ち上がり早口で口ごもるエルリカ。

 周囲の視線を一斉に浴びたので、アーチャーは恐縮の色を見せた。

「皆が見てますよ……」

 それでもエルリカは仁王立ちしているので、アーチャーは落ち着きなさいと言わんばかりの態度でカップを掴む。

「私の事何も知らない、見知らぬ女性に私を取られるというのが気に食わないから女性にはあるまじき表情を浮かべて追い払ったのを見てそう感じただけです」

 しらっと目蓋を閉じ、コーヒーをクールに啜るアーチャーを見て余計に腹が立ち恨めしそうにエルリカは睨む。

「この……! ロミオ……っ!」

「店内で騒ぐのはマナー違反ですし、それ以前に昨日もそうですが、すぐそうやって感情に任せて体が動く所直した方がよろしいと思いますよ」

「元はと言えばあなたが発端でしょうに! このバカ!」

 痛い所を突かれエルリカはグワーッと怒声を浴びさせると、店員がやってきてたじろいでいるのに気づくとアーチャーは騒がしくして申し訳ございませんと日本語で謝罪しつつ、エルリカの憤怒は少し冷めたが自宅に帰るまでずっと不機嫌な表情であった。

 

 

 午後五時半、エクルストン邸。

 キャスターの襲撃を経た、アルヴィン・エクルストンの次の仕事はライダーのマスターの鋳造主、松裏嘉平(まつうらかへい)とランサーのマスターペトラ・ネヴァンとの話し合いだった。

 今から三日前、ライダーがマスターを攫って逃亡した事件で、その手助けをしたのがランサーであった。

 これを受けて松裏嘉平はライダー陣営の探索及び抹殺の誓約書をアルヴィン・エクルストンに渡し、ランサーのマスターをここに呼び出している。

 アルヴィンは双方が織り成す一触即発の空気を静かに見守っていた。

 これぐらいの暗雲さキャスターと対峙した際に比べれば、赤子程度の様な物だと向かい合う二人を見てそう思っていた。

 因みにペトラの隣には実体化したランサーがいかにもお前は嫌いなんだよと言う表情で嘉平の顔すら見ず槍を抱え、腕と足を組んでだらしなく座っていた。

「さて――――まずは、ミスター・マツウラ。何故、ランサーのマスターを呼び出したか理由を言ってくれるかな?」

 和装の壮年男性が褐色の眼を炯々と光らせ感情が籠っていない口調で主張する。

「私はマスターである彼女にどうしても願い申し立てたいのだ」

「要求ですか?」

 アルヴィンは言うといかにもと嘉平は相槌をする。

「私は、あなたにこう要求する。二度とランサーがライダーに近づかない様にと令呪で制限して頂きたい……」

(要するに、目的の一番の障害であるランサーの排除か……よほど令呪が欲しいと見た)

 アルヴィンの石の様な青い眼は、更に冷たさを増して嘉平を見る。

 人の事を言えないが、聖杯に余程執着があるなと分析すると、ランサーの額に一筋の青筋が浮かび上がっていたが静かに嘉平をターコイズブルーの眼を向けていた。

(意外だな……外見に似合わず、こうジャパニーズマフィアみたいに恫喝するかと思ったけど……まあ顔は正直だけど、なんだろう背中で怒りを語っているみたいな感じ)

 立場を弁え静かに待機するランサーに対して、ペトラは真摯に受け止めた風な態度で頭を下げた。

「申し訳ございません。ランサーを御しえなかった私にも責任はあります、ミスター・マツウラ」

 そしてペトラの赤褐色の双眸がぎらりと光った。

「けれども――――ライダー達の件、あれはランサーではなくあなたが悪いのではありませんか?」

 嘉平は喪服を彷彿させるドレスを纏ったペトラ(魔女)に怪訝な顔でどういう事だと問う。

「ランサーの話によると"ライダーのマスターは令呪を奪われそうになった"と仰っていました」

 アルヴィンはその言葉を聞いて、思わず顔をしかめた。何せ自分の耳には松裏家の魔術方針に反対してライダーは鋳造主に叛逆したと告げられていたのだから。

「ランサーの虚言だな。ライダーがそう言えとけしかけたのかも知れないぞ」

 すまし顔で嘉平は言う。

「ええ、その可能性もあります。ですがランサーという人間は、仕えていた王の失態に見限った戦士が故郷を裏切り、敵国の女王と恋人となり内通者となった戦士と戦地で対峙した際こう言ったのです―――――」

 

"――――手前は仕えた王や仲間を、毒婦への義理で裏切るのか"

 

「そんな忠義に生きた人間が、主君(マスター)である私に虚言するでしょうか?」

 ランサーの表情が少し明るくなった、見直したという感じでペトラを見ている様に見えた。

 だが、この松裏嘉平なかなか一筋縄にはいかない。

「それは伝承を知った君の主観だろう? 何故そう言い張れるのかもう少し具体的に言ってはくれないか?」

 嘉平の表情は傲慢であるのをひしひしと感じさせる。

(この人いい年して、結構ねちっこいなあ)

 まるでニホンの政治家を生で見ている気分だとアルヴィンは、顔を強張らせていると嘉平がこちらに視線を向け言う。

「エクルストン氏よ、監督役としての君の意見を聞きたい」

 アルヴィンは嫌な表情を作らず、無表情で淡々とした口調で意見を述べる。

「……私としては、ミスター・マツウラ。あなたは私に言いましたよね"魔術方針に不満に思って、ライダーは嫌気がさして屋敷から逃げ出したら。通りすがりのランサーにより奪取を阻まれた"けれども、ランサー(当事者)の話では、"あなたはライダーのマスターの令呪を狙ったが、ライダーはそれを嫌悪し屋敷から逃げ、あなたは追手を送り込んだら通りすがりのランサーに阻まれた"と――――これらの供述、矛盾していませんか? 報告者の発言と当事者の発言、一体どちらが信憑性が高いかは口に出しません、あなた方はそれを理解できない程愚かではないのですから」

 アルヴィンは咳払いをして静かに意見を述べると、口笛を吹かすランサーと未だ形勢が有利だと勘違いしているのか、嘉平はまだ苦し紛れに何かを言う。

「……ランサーが逸話通りの人間だと限らないぞ」

(それは流石に屁理屈じゃないのかな)

 アルヴィンは苦し紛れの言い訳に冷淡に突っ込むと、ペトラは涼しげな顔でこう返した。

「勿論その線もありますが、もしランサーが逸話通りの戦士と仮定しましょう。

 あなたは戦闘用ホムンクルスをも使って、ライダー達を狙っていた。ランサーは主君を懸命に守る姿に、かつての自分を重ね合せた――――教え子でもあり、家族当然であった大英雄とどちらかが戦士に殺された時仇討ちの約束を交わして、それをランサーは軍を率いて見事に打ち破り、仇敵を討ち果たし守り抜いた。

 そんな経歴を持つランサーが、忠臣の行為に相応しいライダーを見て殺すのが寝覚めが悪いから手助けしたくなるのは、自然の流れではないのでしょうか?」

 とここでアルヴィンはランサーの真名に目星が付くが、まだ決定的な証拠はないので他の候補も探してみようとこれが終わったら、文献で調べようと思っていると、これだけ言われれば何も言い返せなかった嘉平の表情が青ざめた。

「なんだ手前。もうネタ切れか? なあ、何とか言えよ小さい嬢ちゃんの鋳造主さんよお!」

 トドメと言わんばかりにランサーは嘉平を嗤い皮肉を贈ると、嘉平は尻込みをしていた。

「貴様ら……!」

「おう、おう。言え、()ね。我が王の陰険部分だけを抽出したようなオッサンよ、手前の首は首級(おうごん)に値しない、手前の首は俺と同じ――――合金の価値(、、、、、)しかねえよ」

 松裏嘉平は逃げるように立ち去るのを見送ると、ペトラのは立ち上がりアルヴィンにお辞儀をしたのを見たランサーは、意地の悪そうな笑みを浮かべていると、合金の価値という言葉にアルヴィンは徹底的な証拠を掴んだ。

「アルスターの勇士よ」

「なんだ、今の流石に分かりやすかったか? 俺は弟分(アイツ)と同じ有名人だからな、有名過ぎるのも困ったもんだ」

 アルヴィンはライダーを見送ったらしいランサーにこう問いかけた。 

「ライダーのマスターは――――どんな一体容姿をしていたんだ?」

「なんでえ、あのオッサンどこまで情報統制してんだよ。そうさね、服は白いワンピースに白い髪に赤い眼。いつも泣き出しそうな顔をした十いっているかいっていないかの年齢の嬢ちゃんだよ」

 片手を掲げ横に振って、アルヴィンに別れを告げるランサーは霊体化して空気の中に融ける。こうしてランサー陣営は黄昏の街に駆けて行った。

 

 

 夜。とある港――――

 今宵は満月である。エルリカはコンテナの上に立ち、カラフルなコンテナが囲まれたフィールドを見下ろしていた。

 アーチャーと打ち合わせ通り、囮で他のマスターを釣り敵を屠る作戦を思い返す。

 背中にはマスケット銃が釣り下がっており、いつでも撃てるように腕を組んで待ち構えていた。

「ロミオ、サーヴァントの気配はどうかしら?」

 念話で相棒と連絡を取る。わざとアーチャーの気配を散らしているもの、きっと誰か一人ぐらいは釣り上げられるだろう。

「今の所誰もいませんね、一筋縄ではいかないものなのでしょうか……」

 一方アーチャーは霊体のまま下で獲物が来るのを待ち続けていた。

 アーチャーは騎士ではない、狩人と名乗る男だ。騎士と違い、狩人は獲物を得る為ならば如何なる手を尽くしても仕留めるのが、狩人の美学である。

 アーチャーの戦闘方針の基盤はそれである、だから国の為にどうしても必要な犠牲を出すと王が決定を下した時、それに嫌悪する騎士達を内心嘲笑った。

 何が、自身の味方から犠牲を出すのが罪だって――――敵国へ行けば自分達は罪人だろうに、それから目を逸らし王の剣として振るえない騎士は惰弱者だ。

「警戒が強いという事なのかしら」

「あなたと違って、猪頭ではありませんからね。待ち構えているという事は、罠がある前提で挑まないと策に溺れてあわや一軍全滅という危機を迎える可能性ありますからね」

「誰が猪頭よ!」

「事実を言ったまでです」

 エルリカは前方に向かって、そう怒声を浴びさせるとそれを無視するかのようにアーチャーからこんな話題を切り出してくる。

「ところで、マスター。大事な話があります」

「何よ唐突に……」

 エルリカは急に真面目な話を持ちかけたアーチャーに、表情は怪訝に染まる。

「私の願望は――――覚えてますよね」

「ええ。あなたの恋人と一緒に受肉して第二の生を謳歌したいという願望ですわよね、それが何か?」

 召喚時話していたアーチャーの願望を口にすると、アーチャーの口はいつになく真剣な物となった。

「私は願望を持って参上した。では、あなたは一体何のために聖杯戦争に参加しているのかと思いましてね」

 エルリカはあっと間が抜けた表情を浮かべ十歳の頃、床に伏していた祖父の前で触媒を掲げた理由をアーチャーにまだ話していなかった事に気づく。

「何ってお爺様の為ですわよ。お爺様が鋳造しアルヴィンが発案したこの聖杯戦争が滞りなく行われるかどうか、確かめる為に(わたくし)はこうして立っている。何より願望なんかより選ばれた以上本気でやるのが(わたくし)の流儀ですの」

 そう、策略の為にホテルごと爆破する魔術師がいるならば、エルリカは策略の為に人を雇えば手を抜かず一儲けできる高級ホテルを建てる魔術師である。

 選ばれた以上本気でやるのがエルリカの流儀であった。

「つまり、あなたは聖杯に賭ける願望の為ではなく、責務の為に参戦したという事ですね。

 そして―――――あんなにセイバーで召喚しろ、セイバーで召喚しろと言っていたのは完璧主義者故の怒りといったところでしたか……」

「ええ、ご明察ですわ」

 責め立てられた理由と参戦理由がはっきりしたところで、アーチャーの問いに誇らしげに答えたエルリカ。

「それでロミオ。あなたの願望なのだけれども(わたくし)は全力であなた達を祝福するつもりなので、彼女には顔向けにできないような戦いはさせませんわよ」

「ええ、それはこちらも心得ていますのでご安心を」

 エルリカはアーチャーの伝承の最後を知った時、なんという悲しい結末なのだろうかと思った。

 二人の永遠の安らぎは死でしか与えられなかったかと思うと、胸が込み上げてくる。

 愛人の手を差し伸べるかのように、"それ"は愛人の墓へと向かう。ああ――――本当にアーチャーは魂の底から愛人を愛していた証なのだろうと、思わせてくる。

 時々苛立たせる言葉を吐くアーチャーだが、アーチャーの愛は水晶の様に美しく透き通っている事をエルリカは素晴らしいと思っていた。

(お爺様――――どうか、天から聖杯戦争の行く末を見守りロミオ達の行末に祝福を――――) 

 そうエルリカは空を見上げて二人の願望を死んだ祖父に祈りを捧げているとサーヴァントの気配を察知し、柔らかったエルリカの表情は険しくなる。

「サーヴァント!」

 視界を見下ろせば、闘技場の真ん中に威風堂々と立っていた女騎士が一人とその後ろには、何処にでもいそうな少し年上の黒髪の日本人が控えていた――――

「もしかして、彼女がセイバー……え、何このセイバーおかしくありません? 最優の割にはパラメーターが……ロミオの方がまだ上ですわよね……」

 確かに、総合的に見ればセイバーよりアーチャーの方がパラメーターとしては上であった事に唖然とした表情でセイバー陣営を見ていた。

「会って、そうそう失礼な奴だな。すみませんね、こちとら色々ハンデ負ってますんで」

 日本人――――加目波也はエルリカに視線を向けて、不機嫌そうな表情でそう言い返した。

 

 




◆サーヴァント情報
マスター:ペトラ・ネヴァン
クラス:ランサー
真名:
性別:男
身長・体重:215cm・150kg
属性:秩序・中庸

・ステータス
筋力:B 魔力:A 耐久:C 幸運:C 俊敏:B 宝具:B

・クラス別能力
「対魔力:B」
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

・固有スキル
「■■■」

「護国の戦士:A」
 あらかじめ陣地を確保しておくことにより、特定の範囲を"防衛戦に特化"するスキル。
 この範囲内の戦闘において、境界線の守護者であるランサーが前衛に立てば、範囲内に立つ自身を含めた味方の被ダメージ値を半減させる。
 Aランクとなれば不落の要塞に相応しい陣地である。
 ランサーは古い時代のアルスターおよびタラの国境神としても崇拝されていた事から。

「威圧:D」
 魔物と対峙しただけで、魔物と敵対する事なく服従させるスキル。
 Dランクならばただ野生の勘を働かせるだけである。
 ランサーは財宝を持つ巨大な蛇の砦を襲撃した時、その蛇はベルトの下に逃げ込ませた事から。

「仕切り直し:C」
 戦闘から離脱する能力。
 また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。

「カリスマ:D」
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一軍の首魁としては破格の人望である。


・宝具


・詳細

―――――――

マスター:エルリカ・バルト・フレンツェ
クラス:アーチャー
真名:
性別:男
身長・体重:174cm・65kg
属性:中立・善
・ステータス
筋力:B 魔力:D 耐久:A+ 幸運:E 俊敏:B 宝具:A


・クラス別能力
「対魔力:C」
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

「単独行動:C」
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

・固有スキル
「■■■」
 
「■■■」
 
「竪琴の演奏:C」
 詩歌の才能があり、いつも竪琴を持ち運んでいた事から。
 演奏を聞いた者には魅了の効果が付加されるが、アーチャーがトラウマになっているので一般人でさえも抗う事は可能になっている。

「■■■」
 

「変装:C」
 敵地では商人、恋人の逢瀬では乞食に変装しても身の上を明かすまで正体を暴かれなかった過去から得たスキル。
 また親しい知り合いや「真名看破」でさえ、自らの正体とステータスを完全に隠匿できる。
 しかし「貧者の見識」「人間観察」等といった本質を見抜くスキル、そして彼の戦闘方法や、武器、宝具、彼にしかできない知らない情報を開示されれば正体を看破する事は可能。
 彼の場合フードで顔を隠さないと発動せず、フードを脱ぐと無効になってしまう。



・宝具

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