遡ること数時間前。
俺はセイバーと互いの武器を見せ合っていた。
「俺は魔術属性が土のお陰か、砂鉄を操って魔力で形成して色んな武器を作る、まあ電磁波とか魔術の
魔術師は基本的に火、水、土、風、空五大元素にあやかってそれぞれ属性を持つ、中には虚数や剣等珍しい属性を持つ人間や中には全部操れる人間も存在する。
俺の魔術は強化と一工程の砂鉄操作しかできない魔術師なので、サーヴァント相手はともかくマスター相手でどこまで持つかが不安要素であった。
なので基本陣形は自然とセイバーが前衛、俺が後衛となった。
それでセイバーが腰に携えた宝具なのだが、洗練された武骨の
銀と鋼鉄の合金で、勝利を呼ぶため神父に魔術的に言えば概念礼装として洗礼したという剣だと言う。
日本風に言えば軍神の神様が祀られた神社にその剣を奉納し、その力を授かる儀式を経た剣である。
「一応他の剣よりも頑丈ですし、何より銀も配合されておりますので……魔除け程度なら役に立ちます」
「今のところ魔除けの剣か……なんかこうイマイチ決め手にかけるな」
なんかこうゲームのスキルみたいに異常状態付与させるとかあればいいが、魔除けか……小規模な結界ぐらいは切れるといいが。
「何を言いますか、決め手がない分技量で補えばいい話ですよマスター」
お、おう。キリッとした顔を作っているけどなセイバー、技量だけじゃどうにでもならない相手がゴロゴロとこの聖杯戦争にはいるんだぜ。
「本当に大丈夫なのか……」
「そんなに不安ですか?」
「こういうヤツ程油断して負けそうな気がする、いいかセイバー。世の中にはどうもにでもならない事があるんだよ、聖杯戦争つーのはな技量だけじゃあどうにでもならない連中がいるって事忘れないで欲しい」
「具体的にどんなサーヴァントなのでしょうか?」
そっから説明しなきゃならんのか!
仕方がない、だったら勝利の為ならばとことんお前に付き合うぜセイバー。
「神霊の血とか引き継いでいるサーヴァントとかさ……そのクラスの癖に他のクラスやっていける技量で召喚されるサーヴァントとか色々、後は願い下げたいが、いわゆる例外ってヤツも中にはいるかも知れないだろうしな……」
物事には抜け道というものがある。
この聖杯戦争のシステムを逆手に取り、ルール破りを行う者もいるだろうし、運命というべきか偶然というべきか、確かに英霊としては該当するが普通は有り得ない英霊を召喚してしまう者も中にはいるのだ。
箱海の聖杯戦争も冬木の聖杯戦争とほぼ同じシステムで運営されているため、そういった可能性はゼロではない。
「成る程。確かに一理ありますね」
真剣な表情で真面目に聞くセイバー。
「というか現にセイバーも例外に近くないか? その……セイバーに求められている条件つーのがないにも関わらずなんでセイバーとして召喚されてるんだ?」
セイバーに求められるのは魔力と幸運以外の水準以上のパラメーター。
なので白兵戦に強く、パラメーターのバランスもいい為最優の称号を得ているのであった。
セイバーにはそれがない、ほぼCかDで構成されているだけではなく、セイバークラス特有のスキルクラス別スキルも、対魔力Dで騎乗Cと高い対魔力を所持するセイバークラスからしたら低水準なのだから。
俺は腕を組んで頭痛が舞い込んだみたいな、表情を作るとセイバーは親切にその仕組みを話してくれた。
「それはですね……私がそう望んだら、セイバーとして参上したのです」
つまりこれって―――――
「ちょっと待て、それもし本当だったら――――今まで一番有利なクラスで、召喚されなかった冬木のサーヴァント達に謝れよ!!」
いくらなんでも自分の意思でクラスを決めるなんて反則技を使ったらしいセイバーに俺は叫んでしまった。
本当にそうであったら、実力みせつけられず散ったサーヴァント達が泣き出しそうな事実に違いないから、俺は思わず同情して叫ぶとセイバーの話は続く。
「恐らくは、私の宝具の恩恵ですね」
「え……何セイバーもう一回、俺聞き逃したからさ」
とんでもない事実が事実なのか確かめるために俺はとぼけた。
「ですから、私の宝具の恩恵でセイバーとして召喚されました」
待て、待て、待て!
セイバーの宝具って……
「その剣じゃないのかよ!!」
「私がいつ、この剣が宝具と言いましたかマスター?」
「じゃあ何か、お前の宝具って一体……勿体ぶらないで見せて欲しいな」
サブウェポン的なヤツだきっと、そうだうんうん。
俺は無理矢理納得させていると、出し惜しみしていたセイバーは朗らかな口調で告げた。
「何を言っているんですかマスター、私の宝具は―――――」
そして満面の笑みで答えた。
「
「な……に……?」
その言葉に俺は硬直した。
目玉が開いたままセイバーの満面の笑顔を見てるだけだった。
何を言っているんだセイバー、この言葉の深い意味が分からない。
表面だけなぞればセイバーの体が宝具なのか、それとも宝具と同類の存在なのか。
俺には分からなかった。
基本的にサーヴァントは死者であり、人であらなければならない。
人の身を落とさない限り神をサーヴァントとして召喚したら、聖杯ではなく神に願えば終わりなのだから。
さらに伝承では英雄というより、生きた武具として名を馳せた経歴をもつサーヴァントは召喚されない筈だが召喚されているという事は、セイバーは英雄側に位置するサーヴァントとなる。
じゃあセイバーの正体は一体なんなんだ。
俺には真面目な歳が近い女の子に見えるが、セイバーは一体――――
「マスター? その……具合が悪いのですか?」
「あ――――すまないセイバー」
猜疑から現実に、セイバーは心配そうな表情で俺を心配していた。
ええい、やめだやめだ。
俺の事を心底心配している態度を取るセイバーは、少なくとも悪い怪物ではなそうだ。
「具合が悪いなら、出陣は明日にしましょう」
「大丈夫だ、俺の思い過ごしだから……」
そうだ、人の話を真摯に受け止めたり、人の気を遣ったりできるから今のところ善人の部類だろう。
だから――――セイバーの事を善人だと信頼しなくては、マスターとして失格だ。
そう俺は心配そうに見るセイバーに本音を伝えないことを選択すると、俺は立ち上がってアタッシュケースを改良した砂鉄用のそれを持ってセイバーと共に外に出ると、サーヴァントの気配がしたので俺達はそこに向かう事にした。
「会って、そうそう失礼な奴だな。すみませんね、こちとら色々ハンデ負ってますんで」
そして今、金髪チビ尻デカ女と対峙する。
空を埋めつくような雲のせいで、折角の星空は拝めない。
なんだあのマスター、なんでコンテナの上で威風堂々と立ってるんだ。
あれかバカは高い所が好きというヤツだな。
そういうオーラ滲み出ちゃってるもんな、ところでそのツインテール自前で巻いてるのか?
「あら、自分のサーヴァントを弱いと言葉にするなんて……彼女をもっと信頼すべきだと思いませんか?」
アイツはセイバーから俺へと視線を流すと、何故と言わんばかりの態度で俺を見た。
「どうしても抗えないものがセイバーの枷になっているからこそ、俺はそう言ったんだ尻デカ女」
アイツの尻が大きいのと胸が小さいのどっちを罵ろうとした結果、尻デカに決定したのだった。
「誰が尻デカですって!」
おお、怒ってる怒ってる、ものすごく短気な人だと見る。
「フン、その枷というのが気になりますが……マスターの務めとして、サーヴァントをもっと信頼する事も大切だと思わなくって?」
信頼か、確かに魔術師の中ではサーヴァントをただの使い魔としか見ない連中もいるのだろう。
自分のサーヴァントに疑心暗鬼を抱いた時点で、負けが決まるようなものか――――俺も一回なりかけたワケだが。
「務めか……じゃあそういうお前は信頼していると言いたいのか?」
「ええ、それはもちろん。何せ
なんでそう偉そうな態度取るんだ。
まるで飼い猫が誇らしげにネズミくわえて、飼い主に誇らしげに見せつけているみたいだった。
ん……ロミオ……? ロミオってあの『ロミオとジュリエット』のロミオか? この人真名明かしてないか、このミス威風堂々。触媒気になるんだけど、何せ劇の登場人物なのだから、彼に直接関係する触媒は世にはないのではと俺は思っていた。
「敵のマスターよ、ロミオだと呼ぶサーヴァントはどこだ?」
そんな中、セイバーは未だに霊体化を解かない、アイツのサーヴァントにシビレを切らしたのか静かに彼女のサーヴァントの所在を聞いていた。
確かにサーヴァントの気配がするというのに、肝心のサーヴァントが一向に出て気はしない、遠く離れているにしてはその気配は濃かったのだ。
「さあ、どうかしら凛々しい騎士様。
そうアイツは不敵な笑みを浮かべ雲が晴れ現れた満月を背に黒い筒の様な物を引き抜くと、それを俺達に向けて宣言した。
「この
おい、アイツが構えているのってマスケット銃じゃね、というかなんでマスターがサーヴァントに喧嘩売ってんだ!?
「オーホッホッホ!! エルリカ・バルト・フレンツェ!! いざ参らん!!」
と叫んだと思えば、コンテナを蹴り上げて急降下してきた。
おい、おいコンテナ凹んでるんですけど!!
なんつーバカ力だ!
「――――
俺はそう詠唱唱えると、抜いていたセイバーの剣を砂鉄でコーティングするように巻き付き、刀身を五センチ程伸ばした。
「これは……」
「何、こんなのは気休め程度だセイバー迎え討ってくれ!」
「了解しましたマスター!」
着地をし俺達に銃口を向けた、エルリカと同時にセイバーは俺達に背を向けて、弾丸の様に突っ切ろうとした次の瞬間だった。
後ろのコンテナから、突如フードを被った男がこちらに向かって突進してきたのをサーヴァントの気配で判明したので、砂鉄の盾でなんとか凌ごうとしたが――――
「っ―――ああああ!」
形成に間に合わないと瞬時に判断し咄嗟に交わしたが、横腹を削られた。
「マスター!」
ああ、やっちまった。
俺の視界はぐるりと反転し、夜空を映すとそれを見下ろすフードで顔は見えないが、感情が籠っていない褐色の瞳だけが見えていた。
「安心してくださいセイバー、この傷なら命に別状ありませんので……それにしても、私はアサシンですかマスター」
「フフフそれでもうまくいきましたわ名付けて、びっくり背後から人が作戦!!」
もしそのネーミングセンスの無さを感じさせる作戦、アサシンだったらやられた。
気配を断たれたら間違いなく殺されていた。
俺は横腹をおさえながら、ぐるりと体勢を変えると心配そうにこちらを向けるセイバーと相変わらず偉そうな態度のアイツを見上げた。
「聞きたいかしら? ええ聞かしてあげるわ、霊体化すれば世界に干渉できないのを利用して、ロミオをコンテナの中で待機させて
うるせえええええ!!
誰も求めていないし、その大声が傷に響くからやめろ! なんでアイツそう偉そうにしてんだその高笑いいつの時代の人間だよ!
「マスター!」
「ああ、俺なら大丈夫だセイバー……アイツがものすごくバカだと油断していたらやれちまった。人の事言えないなまったく……」
あまりにも心配そうにするものだからつい、宥めてしまう。
油断して負けそうだったのは俺の方だったかと、反省していると。フード男のソイツは黙ってセイバーを襲っていた。
「くっ……!」
まるで人の事より自分の事を心配しろと言わんばかりの態度だった。
ガキンと黒と白の金属がぶつかり合う音が響いた。
「何……! 先が欠けた――――剣だと……! 貴様! 何者かは知らないがセイバーの私に剣で勝負を挑むと言うのか!」
「………」
セイバーは吠えて鍔迫り合いから脱却しようとソイツから突き放し、ソイツのフードがついた外套を翻し、後ろに飛び乗る。
ソイツが握った剣は、剣にしては細長いが槍にしては短い白い剣だった。
中には穂先が短い剣みたいな馬上槍を長剣サイズにした剣だと言うヤツもいるだろう。
ともかくその剣は、素直に剣だとは言えない代物だった。
俺はソイツのパラメーターを見たが、クラス名でさえ靄がかって明かされていない。
何か保有スキルで隠蔽されているのか、だとすれば非常に厄介な相手だった。
サーヴァント戦は情報戦でもある、名を馳せた英雄ならばその最期や弱点までも言い伝えられているからこそクラス名で呼び合うのが基本、中にはケツデカ女みたいにクラス名を呼ばないヤツもいるワケだが。
今のところ武器を見れば、ランサーかライダーの類いなのかと俺は強気な表情を見せてくるケツデカ女のサーヴァントの正体を推測していると剣戟が開始された。
互い探り合い、伺い合う。
まずは屈辱と言わんばかりにセイバーが間合いを詰めてきた。
それはそうだ、セイバーは剣に誉れを認められ召喚されるサーヴァント、そんな彼女からしたらソイツが同じ分野で対決するのは愚かだと思ったから――――
ソイツは一向に口を開かず、剣を横に構え下から上に叩き斬ろうとするセイバーの剣線を捌ききる。
再び膠着状態となるが、ソイツは不動。ソイツに全身全霊叩き込まないと倒せない気がしてきた。
そしてソイツは後ろに少しだけ体を反った、すると塞き止められていた激流が開放されたかのようにセイバーが剣にかけていた重圧は、体にがくんと前へ進ませた。
その隙を狙ったのかソイツはいつの間に横へ回ったのか、セイバーの心の臓を狙わんとその剣を突き刺そうとしたがセイバーも負けてはいない、無理矢理体を踏み止まらせて片腕を横に上げる。
剣身を長くしたお陰でその攻撃を防ぎきる。
それを見たソイツは縦から横へと慣れた手つきで持ち返え、刃ではなく鍔頭を先端にすると握られていた手首目掛けて降り下ろされる。
サーヴァントの力でそれをやれば、その攻撃は鉄のハンマーに値する破壊力であった。
「ッ――――!!」
鈍い音と共に鋼鉄製であろう鍔頭が生み出す強い衝撃は、握られていた剣を離さずにはいれなかった。
そして追撃としてそのまま剣を振り落とさんとしていたが、俺が許す筈なかった。
「
俺は痛みも忘れてそう唱えると、落下していたセイバーの剣を包んでいた砂鉄は素早く空中で盾を形成しソイツの追撃を防ぎきる。
「………!」
その隙を見たセイバーは急いで愛剣を拾い、ソイツの体を引き裂かんとしていたので俺は盾の形状から解除させ、セイバーの刃をソイツに届かせようとした。
ソイツは受け止めるより躱した方が早いと判断したのか、体を反らすが僅かだが刃は届き、ソイツはあのケツデカ女の側へと退却する。
「発展途上ですが、なかなかこの二人は手強いですね……マスター」
「あら。セイバー適正もあるとか言ってこの程度かしら」
「まさか、今のは彼女のマスターが機転を利かせたからですよ」
「そうね、しかしたった一節で自由自在に変形する粒子の鉄みたいな物を操れるなんて――――何それすごく羨ましいですわ!!」
嘘つけ! 一方的じゃねえか! 下手したらセイバーより剣に関して強いんじゃないかと一瞬思っちまったじゃねえか、二人目のセイバー爆誕かと思ったらどうやら違うらしい。
「……貴様、一体何のクラスだ、その様な腕をして何故クラスを明かさない」
ギロリと赤い目を睨ませるセイバー。
剣のサーヴァントと剣で渡り合える技量を持つサーヴァントがどうして、アサシンの様な真似事をしているのかと聞いているらしい。
「それはご想像にお任せください、元よりあらゆる武芸を極めた私にとってクラスは飾りなのですから」
「そうか――――ならば互いに剣で語るまで」
「望むところですよお嬢様。では、尋常に……」
互いの殺気がこのコンテナを包む。
「勝負―――ッ!」
空気は爆ぜた互いの流星はぶつかり合い、激しい剣の音が鳴り響いた。
横へ流すように縦に流すように、二振りの白銀の剣は一歩も退かない。
弾き、防ぎ、振りの繰り返しであった。
常人が踏み入ったらミキサーにかけられミンチにされそうな風景を、俺も尻デカ女も見惚れていた。
極限まで鍛練された互いの剣筋が生み出すのは、稲光。
俺達は戦うのを忘れて、二人の戦いを見ていたら他のサーヴァントの気配が一つ迫っていたことに気づいていなかった。
◆
ランサーは辿り着いた。戦いの臭いがしたので、コンテナの上まで静かに降り立ったのだが、後の祭りであった。
「なんでえ、もうおっ始めやがってるか」
盾と一緒に扱う為、普通の槍よりも短い槍を肩に抱え腰を下ろして二騎の戦いを眺めていた。
(ふむ、僅かだが女より男の方が有利か……問題はセイバーを相手してここまでやりあえるあのヤロー一体何モンだ?)
情報全てを隠蔽している為か、男のクラスがなんなのか分からない。
キャスターか、アサシンか、はたまたアーチャーか……
(いずれどちらかの首頂きたいが、今夜はこいつらに譲るか)
人の獲物取るのは趣味ではないので、マスターに別の所を模索すると念話をする。
「主君よ先客がいやがったから、別のところカマかけてみるわ」
「それなら仕方がないわね、ええ分かったわ」
つくづく思うのだがこの主君世渡りが上手いと見た、松裏嘉平には御しえなかったと謝罪しておきながらもこの態度である、なので。
「主君、お前マツウラのオッサンに謝罪してた言葉ってのはあれか、反省じゃなく建前か? 反省しているなら俺を放任するワケないよな」
と訊くランサー、するとペトラはこう返してきた。
「ええ、そうよ。あの時、言ったでしょう私じゃなくミスター・マツウラの責任だと……それ以前に土下座だけは絶対したくないとも言ったわよね、私理不尽な理由で文句言われたら謝らない主義なの。
あの時は手助けしたランサーが悪いのだから謝るのはむしろあなたの方ではなくて、ランサー」
反省の色はなしかとランサーは頬を掻きながらペトラの態度にこう感想を述べた。
「相変わらず当たりがキツイな、なんだがオッサンに同情しちまったわ」
ランサーは顔を強ばらせて惨めに敗走する松裏嘉平の事を思い浮かべて、視線を再び見下ろさんとした時、丁度向かい側に闇夜に溶ける白髑髏を見かけたので、ランサーは険しい表情でそれを睨んだ。
「あれは――――アサシンだ……」
素足で立ち全身を隠すかのような黒衣を身に纏い、装飾品は削いだ顔を隠す髑髏仮面以外はなにもなかった。
「え、なんですって」
「分かりやすいって程のアサシンが見張ってやがる」
その風貌はハサン・サッバーハである事は明白であった。
やれやれと溜め息を吐くと、こちらに気づいたのか音もなくアサシンはさっさと立ち去っていった。
「気づかれた。ああ、懸命だなこの距離ならこの槍で十分追撃できるからな」
まるで自身の事を知っているかのような雰囲気だったが、生憎とアサシンとは初対面だし自身がアルスターで光の御子と一二を競う戦士だと気づいているのは、
「で、どうするの? アサシンが召喚されてるのよ動きが制限されるわね」
「まあ確かに主君の命が危ないのは確かだ……」
アサシンは気配遮断のスキルを持つ、部屋に侵入されてマスターの命を絶つ。
ランサーは立ち上がり後ろに結わえた無造作にちらした長い赤髪を夜風にそよがせる。
「ええあなたはあくまで、仕える主人を守るのが役目なのを忘れないでちょうだい。
残りはバーサーカーだけねえ……キャスターも使い魔で今夜の流れを把握しているだろうし……バーサーカーはともかく、キャスターは下手には手を出さないでしょう」
未だ大きな動きがない両陣営は不気味であると、ペトラは紡ぐがランサーの表情はニヤリと笑みを浮かべてこう言い放つ。
「ハッ、俺に挑んできた勇者は問答無用で首狩りよ」
そんなの関係ない、強者だろうと弱者だろうと、戦士として迎え討たれたならば戦士として迎い討ち、右腕を失っているならば自身も右腕を縛って戦い
これを幼き光の御子に教えたら「必ず首を取らなきゃだめなのか」と首を傾げていたのを思い出す。
「その戦士の首に対する執着心なんとかならないのよ、生前みたいに戦士の首と一緒に寝たり、腰にぶら下げてくるのはやめてよね」
「うるせえな、ここは俺達のアルスターじゃあねえんだ。そのぐらいは弁えてる」
ランサーが戦士の首に固執するのは、単純に自分が戦士としての力量を示すからと自身に挑んできた敬意を表すからこそ必ず首を狩り、首を腰に携え時には自身の強さを図るため敵対する戦士に首を掲げたりもした。
また誰がアルスター一の戦士なのかと、問われた際、光の御子達と殴り合い喧嘩する程戦士としての力量をストイックに求める戦士だと伺える。
まさに餓狼――――常に強さに餓え自身に挑んだ報酬として首を頂戴する、それがランサーの戦士観であった。
ペトラは深く溜め息を吐いて俯いて、これだからケルトの戦士はと思っていた。
「とっ、ようやく離れやがったな――――さて、行くとしようか」
セイバーとアーチャーが離れ合い睨みあい再びぶつかり合う構図になったので、ランサーは二人の間に入ろうとしていた。
◆
攻めきれない――――セイバーはまた向かい合った謎のサーヴァントの剣術に感嘆していた。
何のクラスかは隠蔽されて読み取れないが、さぞ卓越した剣士だったに違いないとセイバーは思っていた。
だからこそ気に食わなかった、何故頑なに正体を隠すのか。
こちらはクラスとパラメーターを開示しているというのに、このサーヴァントはそれすらも開示していない。
つまり先程のように一方的なのだ。対等な立場で戦いたいからこそ、その腕に似合わない方針を取っていた。
「サーヴァント、何故貴様は情報を開示しない? 対等な立場で戦うからこそ決闘だろう?」
セイバーは一呼吸深呼吸すると、その刃を未だフードを取らない謎のサーヴァントに問う。
「対等な立場? 申し訳ございません、その様な考え方
どうやら謎のサーヴァントはそんな戦場の礼儀など捨て去っていると見る。
「……あの人?」
セイバーは剣を横に構え赤い双眸を目を細め、フード付きの外套を羽織り軽装のサーヴァントを睨んだ。
「ええ。愛しい人でした、最も彼女の共に生きる事こそ私の幸福だと気づいたのはあまりにも遅かった……」
謎のサーヴァントは美しい金髪の女性が過り、フード越しの表情は儚げな事をセイバーは知らない。
フード男は静かに剣先を向け、一つの剣と化した。
「赤毛の女騎士よ――――恨みはありませんが、これも我が願望の為……」
その姿にセイバーは武者震いを発した。これが一点に研ぎ澄まされた殺意。
思わずセイバーの足に力に入る。
まるで西部劇の一騎打ちの様な空気が張りつめて、マスター達は固唾を飲む、互いは弾丸のように飛び出してくるだろう。
五、あの謎のサーヴァントは何処の英霊なのか、セイバークラスではないのは確実だ。
四、謎のサーヴァントは言う。「戦場に対等の立場はありません。あるのは生か死のみ――――ー」
三、セイバーは突然の話に困惑したがその表情は殺意に染まっている。
二、「けれども、現実と言う罪から目を背け清く在りたいのが人間と言う生き物……時として誰かが汚泥を被らなければ事を治められない、そう我が王もその一人だった……」
一、「何が言いたい?」セイバーは何の話をしているのか、謎のサーヴァントに尋ねた。揺さぶりか? とセイバーは警戒した。
零、「時には誰かの為ならば、悪となり導く事も大切という話ですよ―――ッ!」
つまりは
剣先と剣先は迫ってくる。いいさ謎のサーヴァント、その説き伏せ方まで目に焼き付けてやるッ――――!
セイバーはそう思いながら、謎のサーヴァントを貫かんとしたその時、空中から赤い隕石が落ち縦にもたれた青黒い槍にその剣先は阻まれた。
「なっ――――! ランサー!!」
突然の乱入者にマスター達も謎のサーヴァントは盾に阻まれているせいか、どんな様子か伺えないが恐らく抱いた感情は一緒だろう。
「悪となり導く事も大切――――ねえ、なあ、手前。案外生前気苦労したタイプか?」
羽飾りのピアスを揺らして不敵な表情で、謎のサーヴァントに問い質すランサー。
「何の用だ! ランサー、一騎打ちの邪魔をしないでもらいたい!」
セイバーはランサーを見上げ吠える、身長差があるにも関わらず恐れの色など無い。
「いいねえ、威勢のいい女も悪くはないな。何、邪魔するならとっくにしているさね」
何故そんなに嬉しそうな顔をしているのかセイバーには理解できなかった。
「ランサー……一体何処まで見ていらしたのでしょうか?」
謎のサーヴァントのマスター、エルリカ・バルト・フレンツェがランサーに銃口を向けて、顔を強張らせ冷静に訪ねている。
一方セイバーのマスター加目波也も、砂鉄の大軍を自身の方へ寄せ地面に伏せても尚攻撃できるように警戒態勢に入っていた。
「そう、いきり立つなよ手前ら。このお二人方の剣戟まで見惚れさせてもらったところだ、しかしなあ。剣使いも、何使いも剣戟で渡り合えるとは……どっちが剣使いか分からなくなったところだ!」
粗野な風貌から生み出したとは思えない程、清々しい満面の笑みで笑っているが立場を分かっているのだろうか、この槍使いは。
「それで、私達の戦いを止めてしまう程の用件とはなんですか? 答えによってはあなたを討たせてもらいますよ」
謎のサーヴァントは剣を収め冷静な口調で尋ねると、ランサーは粗野な風貌に戻る。
「ライダー達についてお前さん達に頼みたい事がある」
エルリカは目を見開き、波也は口を開けてきょとんとした表情でランサー達を見ていた。
「確か、あなたが手助けしたからライダー達は逃走に成功したとアルヴィンから聞きましたわ……だったら何故最後まで面倒見ないのかしら?」
エルリカは何故ランサーが自分達にそのような事を乞うのか、知りたいらしい。
「あ˝? アルヴィンから知らされていなかったのか? 俺の介入でライダーのマスターの鋳造主はカンカンに怒ってよお、俺のマスターが呼び出されて令呪でライダー達を近づかせないでくれと要求されたんだぜ、マスターの口八丁手八丁でされてはいねえけど」
あ、とエルリカはしまったという表情を浮かべていたが事情を知らない波也とセイバーは蚊帳の外であった。
「でもそれも未遂で終わったと仰っていますが、どうしてかしら?」
「つまりだな。これ以上ライダー達の介入しちまったら、今度は
ライダー陣営を守りたいが、それをしたらランサーのマスターの命が危ないという関係になったのかとセイバーはそう、解釈しつつ剣を収めた。
「では、どうして
そうエルリカは他にもアテがあるのだろうと訊く。
「そうだよなそれは俺も賛成、俺はシリデカ女みたいに……蹴り上げただけでコンテナへこます程の技量はない」
波也は傷の痛みに耐えつつも、悔しそうな表情で認めたくない現実を告げるとエルリカは「また言いましたわね!」と返していた。
「何って、手前ら魔術師としては未熟だからこそだよ。もし、手練れだったらさっきの手前らみたいにはならねえ、しかも坊主は今にも仕留められるチャンスだし、坊主は絶体絶命のピンチなのにお嬢ちゃんも坊主も今もその武器を振るっていない、俺の主君だったら間違いなく坊主を殺していたな」
つまり、ランサーは波也よりもサーヴァント達の戦いに目を輝かせたエルリカや波也は、眼前の成果よりも眼前の余興を選んだのは魔術師として未熟だからだと指摘してきたのだから。
「それとそこの
波也の後ろ向きな発言にむうとした表情でランサーはそう宥めると、波也は「そんな事言われてもな」と呟いて更に沈んだ。
何故沈んだのかはセイバーには分からないが、きっと限界線がとっくに分かって諦めている波也の事だ、英霊になる気持ちで挑む心が沸かず、卑屈になっているに違いない。
「うーん、その評論モヤモヤしますけど……分かりましたわランサー。その頼み、
その時、エルリカ以外のその場にいた三人は絶句した。
「おい、シリデカ女今なんつった!」
「エ、ル、リ、カ!
波也は納得いかない表情を浮かべ、謎のサーヴァントは主人のあまりの決定にこの場で初めてうろたえている姿を見せた。
「待ってくださいマスター! え、なんですかなんでセイバー達と共同戦線ですか!?」
声上ずっているの初めて聞いたとセイバーは無言で、謎のサーヴァントの異議を聞いているとエルリカは堂々と宣言する。
「
「はあ……マスターが言うなら従いますよ……」
「なあ、何使いよ手前なんか色んな意味で諦めていねえか?」
ランサーは謎のサーヴァントの口調で感情を察したのか苦労しているなと言ったような表情で、視線をセイバーに向けられた。
「手前はどーすんだ? マスターの判断待ちか?」
「はい。私はサーヴァントですから」
「こっちも分かりやすくていいな。で、坊主どうするんだ?」
ランサーは、その前に忘れいていたとライダー達の話を詳しくセイバー達に話してくれた。
ライダーは令呪を奪われそうになったマスターと共に脱走し、誓約書も提出したらしいと。
「どっち道殺されるのか……」
波也はフミという、ライダーのマスターに同情したのかその単語を噛みしめていた。
どちらも魔術師としては劣化品、波也は親に生かされているが、フミは産業廃棄物として
生まれ持った物は同じだが立場が真逆であるフミに、波也は黙ってはいられなかったのか謎のサーヴァントにより横腹を少しだけ抉られた痛みを我慢し、何とか立ち上がるとランサーに強い眼差しを向けて答えていた。
「俺もそのフミって子供助けさせてくれ――――アイツも俺みたいに選ぶ権利ぐらいはあるからな」
その答えを訊いたランサーは、へっと言って笑い終えると二人に潔くお辞儀をしてさっきの軽率な口調が嘘だと思える程、その口調は重々しく丁重であった。
「赤枝騎士団の一員として貴公らに感謝する、
余程ライダー達に気がかりだったのか、
マスター:エルリカ・バルト・フレンツェ
クラス:アーチャー
真名:
性別:男
身長・体重:174cm・65kg
属性:中立・善
・ステータス
筋力:B 魔力:D 耐久:A+ 幸運:E 俊敏:B 宝具:A
・クラス別能力
「対魔力:C」
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
「単独行動:C」
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
・固有スキル
「■■■」
「■■■」
「竪琴の演奏:C」
詩歌の才能があり、いつも竪琴を持ち運んでいた事から。
演奏を聞いた者には魅了の効果が付加されるが、アーチャーがトラウマになっているので一般人でさえも抗う事は可能になっている。
「無窮の武練:A」
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
いかなる地形・戦況下にあっても十分の戦闘能力を発揮出来る。
「変装:C」
敵地では商人、恋人の逢瀬では乞食に変装しても身の上を明かすまで正体を暴かれなかった過去から得たスキル。
また親しい知り合いや「真名看破」でさえ、自らの正体とステータスを完全に隠匿できる。
しかし「貧者の見識」「人間観察」等といった本質を見抜くスキル、そして彼の戦闘方法や、武器、宝具、彼にしかできない知らない情報を開示されれば正体を看破する事は可能。
彼の場合フードで顔を隠さないと発動せず、フードを脱ぐと無効になってしまう。
・宝具
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