Fate/melt a close   作:アクタ

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3DAYS「それぞれの朝 二」

 箱海市四菱(よつびし)城。

 この城は上からみれば外堀が四菱の形になっている、日本城であり明治時代には訪日した外国人達を招来する城としてでも利用された。

 四菱城の敷地内には広々とした芝生があり、そこには公園となっており時間帯が朝の七時なのでがらんとしていた。

 そこのベンチに座るのはライダーのマスター二三である。

 四日前ライダーに令呪を奪われそうになったので、ライダーに連れられてここに身を隠していた。

 人がいる時はライダーの透過のルーンが刻まれた空間で大人しく過ごし、時々同じ年頃の子供達が公園で遊ぶのを眺めていた。

 そして幻影のルーンでライダーのマスターの面影を似せて父親のフリをしたライダーが、二日ぶりに帰ってきたのだ。

「おうお嬢遅くなってすまん」

 とコンビニ袋と服屋の袋を引っ提げて近寄るライダー。

「おかえりなさいライダー!」

 声を聞いてベンチから降りてライダーに駆け寄り抱きつく満面の笑みを浮かべる二三がいた。

「寂しかったか? 色々調達すんのに時間かかってよお、一人にして悪かったな」

 ライダーは微笑み二三の頭を撫で回すと、服屋の袋だけを置いて二日ぶりの再会に二人は酔いしれていた。

「うん……怖かった。ふみが見つかるんじゃないかってずっと思っていたの」

 やはり、松裏嘉平の件で人間を信用しきっていないなとライダーは口には出さずそう心の中にしまうと、二三は顔を見上げて嬉しそうな顔でライダーを見ていた。

「そうかそうか。でも大丈夫だ、オレがお嬢を見つからないようにすっからもう怖がらなくても大丈夫だ」

 鼻息を荒くしてそう宣言すると二三はきょとんとした顔で聞き返す。

「本当?」

「ああ、本当さ。オレが守ってやるからよお嬢」

 自信満々でライダーは言うと、大きくコンビニ袋からおにぎりを取り出した。

「いくら、ホムンクルスでも二日何も食わなきゃ腹減るだろ? 色々買ってきた」

 そう言って満面な笑みを浮かべるが、二三はどこか寂しそうな表情で呟く。

「……お腹減っていない」

「え、マジ。魔力だけでも生きていけるタイプなの?」

 ライダーの茶色い双眸を伏せ、二三は首を縦に振ったのでもったいないとライダーは仕方なく二三と共にベンチに座ると鮭のおにぎりの包装紙を開けて頬張っていた。

 朝焼けの空は穏やかに流れ、朝日は二人を包んでいる。

 静寂の公園に二人、生みの親でもある松裏嘉平の手から逃れられたのはいいが、これから先どうすればいいのかという名案がライダーには思い浮かばなかった。

 いっその事箱海市から逃げるべきかとも考えたが、却って目立ちそうである。

 ライダーは眉に皺を寄せて珍しく悩んでいると、二三が心配したのか名を呼んでくる。

「ライダーどうしたの?」

「いや……その……」

 乾いた笑みしか浮かべない。行く当てもない、自分達を匿ってくれる優しそうな他の陣営に行っても、松裏嘉平の耳に届いたら巻き込まれる可能性もある。

 助けてもらったランサーはまんざらでもなさそうだが、ランサーのマスターに念話越しで眼ざめが悪いと返した様な様子を見て、もしそれが事実だったらお断りされるか、令呪で無理やりでも殺させそうだとライダーは腕を組んで思っていた。

 まさに今ライダーは自分の言う事する事にも頓着しない、向う見ずと伝えられている面が現れている。

 主人の最期を見て少しは自分の言う事する事を頓着はしているものの、マスターを松裏嘉平の手から救ったのはいいが、その後を考えていなかった向う見ずな所はどうあがいても直らなかったらしい。

「これからどうすっかなー……って、考えていたんだお嬢。オレが死んでも安心できるような人間がいたらいいけど……」

 二三は不安でこぼれそうな顔でこう返してきた。

「ライダー……いなくなっちゃうの?」

 あ、とライダーは首を横に振ってその単語を否定する。

「オレが聖杯にお願いするか、お嬢が聖杯にお願いすればいなくならない事はできる。けどな、お嬢……オレは神でも妖精でもないただの人間――――オマケにオレが戦った相手は鉄の森に棲んでたオオカミだけで、他のサーヴァントに勝てる気がしないんだよな……」

 栄華を築き上げた事は一度もないどころか、その最期すら伝えられていないライダーにとって殆ど召喚されるであろうサーヴァントは高次元の存在であった。

 あの剣があればまだマシだったが、伏線張る為だけの存在であるライダーの知名度はなく没収されてしまっているのが現状であった。

「すごい! オオカミと戦ったの?」

「ああ、ヤツらオレを食おうとして襲い掛かりやがったんだ、けれども! 召喚した時没収された剣の光でこう……ピカッと倒したぜ」

 二三は目を輝かせて賞賛してきたのでライダーはベンチに片足を乗せて、両腕を掲げて誇らしげな表情で詳細を話す。

 だが、その話。正しくは倒したのではなく、光を見させて追っ払ったのだがそう誇張するぐらい、ライダーには誇る武勇はなかった。

「じゃあライダーはいなくならないね、オオカミもへっちゃらなんだもの!」

 二三の満面の笑みが、見栄を張って嘘を吐いたライダーに罪悪感が圧し掛かる。

(しまった! 調子乗ってつい言ってしまった! お嬢すまない……オレ、キャスターでも無理な気がするわー。

 神代生まれだけど、ただの人間だから対魔力もねーし! つーか対魔力スキルのせいか、原初のルーンさえも乗り切るの難しくなってるしよ……何コレイジメか!!)

 原初のルーンと同格であろう高速神言で編み出した魔術でさえ、対魔力がAランクならばかすり傷一つも負わせない。

 もし魔力がAランク持ちのサーヴァントと敵対すれば、あっという間に決着がつく。

 馬の方の宝具は、魔術的に外界と内界を隔てられた際にできる境界を破壊するという宝具なので戦闘向きと聞かれたら素直に頷けない。

 固有結界や大結界と言った類の宝具を持つサーヴァントならば、有利に立ち回れるだろうがそんなもの当てにはならない。

 この宝具の真価は、厳重に結界を張られた魔術工房を容易く突破する事で発揮するので、原初のルーン含めて対魔術師(マスター)戦ならば苦戦はしないのがライダーの実力であった。

 オオカミは倒した事がないのに、マスターが無邪気に言うので倒したと乗せられて言った返答が、ライダーは退場しない期待を持たせてしまった自分に嫌悪するライダーはベンチに座り従者として情けないと俯いていると、二三の右腕を初めて間近でよく見た。

 包帯で巻かれているがその形はくっきりと出ている。少女の掌にしては大きく五本の指は鉤爪のように曲湾しており、左腕と見比べると少し長く逞しい右腕だった。

(……本当に右腕が竜になってんだな)

 右腕はあまりよく見ない体の部位なのでまだ包帯程度で済まされているのかも知れない、もし尻尾が生えたり、顔にもその特徴が現れていたらますます人目を避けて動かなくてはならないのだろうと、ライダーは思ってある行動を取る。

「お嬢。そのちょっと包帯取っていいか? どれぐらい竜化が浸食が進んでいるのか確かめたいし、今竜化が進んでいたらやばい気がする……」

 逞しくなっている右腕を見る限り骨格ごと変わるとなれば、体のサイズもきっと見合う物になるのだろうかと想像したらライダーは蒼白した。

 巨人の娘を押し倒して脅迫したライダーだが、竜種となると流石に扱いきれないし騎乗スキルで騎乗しろと言われても乗れない。

 そして何より人から蝕むように人非ずモノへと変化する様は、巨人の娘の時は気に留めなかったが対象がマスターとなれば見たくはないという気持ちが強くなっている。

 もし竜化が進んでいたらルーンで退行させる事は可能だが、食い止める事は不可能である。

 概念として因子を付与されたものだけを除去する技量は、ライダーにはなかった。

「夢に出ていないから、大丈夫だよライダー。竜さんがね私の体の中に入って暴れる夢を見ると、体がすごく痛くなるの」

 少女の柔肌が強固の鱗になる時、肌は鱗を作る為まずは隆起し強く引っ張られて、皮膚細胞を一枚一枚パン生地を伸ばすように変化する。

 少女のか細い腕が逞しい竜の前脚になる時、鍛えてもいないのに筋肉が盛り上がり伸びるはずもない骨が伸び、五本指は不快な音を立ててありえない方向に曲湾し指の間が広がり掌も平たく伸ばされ滑らかに動かせなくなる。

 少女は麻酔なしでそれを体感しここにいるのだ。

「よく耐えたな……んで、ますますあのオッサンが憎らしくなってきた。お嬢をそんな目に遭わせた上に殺そうとしていたからな」

 ライダーの感性はあくまで一般人寄りなのでこういった感想を述べられる。しかし、松裏嘉平がライダー達がやってきた事をよくいる魔術師が聞けば、実験動物に情を抱いているのかと非難を浴びせられるのだろう。

 そう二三は実験動物と同類の存在であった。実験動物が結果を残せないのならば、後継機の為に有能な物だけを削ぎ取られ、無能な物は廃棄処分される存在。

 だから嘉平は長女の面影がある白髪赤眼の少女の令呪が宿った左腕を奪おうとしたのだ。

 念の為ライダーは、買い物した物と一緒に透過と気配遮断のルーンが刻まれた結界の様な場所まで二三を連れて行く。

 もし一般人に見られたら色々とマズイと考えたのだろう。

 結界に入ると、ライダーは躊躇なしにまずは、ライダーの掌と一回り小さな掌に巻かれた包帯を丁寧に解く。

「あちゃー……まず銭湯は無理だな、完全に竜の前脚じゃねえか」

 その右腕は竜の前脚であった、柔肌は赤い鱗に変わり固くなっている。掌もトカゲの様な掌に変化していたので、人前で見せられない物ではないとライダーらしい言葉で紡ぐと綺麗に包帯を巻いて元通りにする。

「で、次に……服脱がせるぞ」

 現代の感覚で言えば傍から見れば犯罪に見えるが、ライダーにはそんな羞恥心はない。二三に一言残すと白いワンピースを脱がした。

 左腿は人に比べれば膝と胴体が一体化しているがほんのわずかな差なので服で隠してしまえば外見の違和感はない、皮膚は鱗に変化しているが残りの足はまだ人間の形をしている。胸部は鱗に覆われ固くなっており、腹は辛うじて子供特有の柔肌を残していた。

 首にも包帯が巻かれていた為、右腕同様に解くと背びれは生えていないがもう竜の首であり、今か今かとその首が肩と一体化し長く伸びるのを待ちかねているように見えた。

 ライダーは服を着させるとまず思った、もし二三の当ても見つからないまま自分が退場すれば、二三が安心できる居場所はないんだと悟った。

(……どうせ次仕えた主人を死なせねえ為にここに来たから、聖杯を使わなくても自分で叶えられる。だったら、二三が望んでいなくともオレが聖杯で二三の元の体に戻すって願えばいいのか……)

 この願望は自分勝手だろうが、竜になりかけている少女型のホムンクルスがツライ思いもせず幸せな人生を歩ませるには竜から普通の少女へ戻す他はなかった。

 

 

 俺は昨夜親父に報告した。

 ライダー達を保護する為に動くと伝えた。

 親父はそうかと頷いただけで何も言ってはこなかった。

 俺はエルリカと明日作戦会議するので目が覚めると布団の中ライダーのマスターについてあれこれと考えてみた。

 俺とライダーのマスターは劣化品、俺には自由に生きる権利があるがライダーのマスターにはそれがない。

 そんなの不公平だ、ライダーのマスターだってどこにでもいる女の子と変わらない、ツライであろう実験に耐えきったご褒美としてその権利を与えるべきだ。

「虐待まがいか……」

 俺は親父の言葉を思い出す。

 "魔術師の中には虐待紛いな魔術的施術を行っている家系も少なくはない"

 "もしその様な親に生まれて来たらお前を優秀な世継ぎにする為ならば……幼子の時から選択の意志すらなく改造を始めている事だろう"

 生まれた子供は親を選べないという言葉を生み出した人間は、的を得ているなと再認識させられる。

 俺は起き上がり、窓を開けると朝日を浴びる。

「―――――」

 これからどうなるのだろうか、せめてエルリカの腰巾着にはなりたくないし、足も引っ張りたくない。

「あん時みたいにセイバーと協力して戦った方がいいのかな……」

 俺ができる事は剣を砂鉄に纏わせ色んな形状へ変形させたり、弾丸みたいに飛ばすことができる。

 ただそれだけだ、二節以上の魔術は魔術回路が三割しか開けない俺からすれば、高い壁であった。

 ランサーは男ならやる前から弱いと嘆き諦めるな、例え弱くてもその力を誇れ言っていたが、俺には限界点が見えておりいくら頑張っても突破できない物がある自分は、どうすればいいのかと迷ってばかりである。

 ふとセイバーの申し訳なさそうな表情が浮かぶ、身の丈にあったサーヴァントで助かったという発言をしてしまった自分がなんだか惨めになる、あのロミオと呼ばれているサーヴァントに倒されかけたのだから。

「……しかし、ロミオってヤツ反則だろうありゃ、セイバーじゃない癖にセイバーと渡り合えるなんてな……」

 しかもあらゆる武芸を極めた身だから、クラスなど関係ないと言い切るんだよな、さぞ高名な英雄様でしょうね。

 魔術師として劣化品な俺から見れば、ロミオという英霊は天賦の才能を授かって生まれ落ちた人間に見えた。

「ま、今は味方だろうしロミオはマスターに無断で同盟関係の人間には手を出さないとは言ってたけど……」

 掴み所がなく真意が読めないロミオの態度は味方として、信頼していいか微妙なところである。

「取り合えず支度しなくちゃな」

 そう俺は寝巻きを脱いで、ロミオに傷つけられたところの大きく真っ白なガーゼをちらりと見た。

 あの晩見下ろされたロミオの褐色の目が冷えきっていたのを思い出す。

 ああやって感情を殺して、生前戦ってきたのだろうか。

 王の為ならば悪にでもなると言い切ったロミオは、一体どんな生前を送ってきたのだろうか。

 俺はきっと波瀾万丈な人生だったのかも知れないと思いながら、無地の黒いブイネックの長袖シャツと渋い青のジーンズの私服に着替えた。

 

「それでマスター。ライダー達をどう探すのかいい案は浮かびましたか?」

 霊体化を解いて現れた結わえた赤い髪を揺らすセイバーは首を傾げて、俺にそう質問してきた。

「いや……それが全然。俺もお手上げだよ、セイバー」

 乾いた笑みしか浮かばない。ランサーの話によると、ライダーは何かの魔術の心得があると断言していた。

 ランサーのマスターと共に護衛としてアルヴィンの家へ招かれた時エルリカは誓約書に何か変化があったか? と聞くとランサーは言う。

"暗殺はした事はあるが……俺の本分は暗殺者じゃねえ戦士だ、んな細かいとこまで見てねえ"

 むしろアルヴィンとマスターの口責めにより惨めな姿を晒した松裏嘉平を眺めるのが忙しかったと爽快に笑っていたので、エルリカとロミオは呆れていた。

 俺は見ていないなら仕方がないと思うので、あまり気にはしなかったがランサーの昨晩の発言で真名を見抜いたのかロミオは皮肉げに「だからあなたは光の御子は黄金で、あなたは合金だとコノートの女王に揶揄されるんです」と言っていた。

「ここはエルリカと話し合った方がいい案が出そうな気がするんだけどな……」

 エルリカが思い浮かんだ案はあまり期待していない、昨晩の様子を見る限りあまり頭が良さそうに見えない、突拍子な事を言いそうだ。こういう時は他人には期待しない方が正解だ。

 なので三人よれば文殊の知恵――――価値観が違う者同士話し合えば何かいいアイディアが浮かぶのかも知れない。

「ライダーの気配を追えればいいんですけどね……」

 セイバーはぽつりと言う。

「じゃあ探すとなれば昼がベストか? 夜だとサーヴァントがあっちこっち戦ってるし……万が一別のサーヴァントだったら接戦……あ」

「どうしましたか? マスター」

 いいこと考えた!

「なあ、探すの昼じゃなくてあえて夜にするのはどうだ? とにかくサーヴァントの気配追ってキャスターだったら、ライダーを見かけたかどうか聞けばいい。

 ランサーが言っていた、クリオネみたいな使い魔が町中あちらこちらにいるから、もし使い魔達の司令塔がキャスターなら……何か知ってそうだ」

 我ながらいいアイディアだと俺は思っているとセイバーは不思議そうな顔で見てくるので俺は怪訝な顔になる。

「なんだセイバー……まさか異議あり?」

「異議ありと言うより、リスクが高いと私は思います。万が一その気配元がバーサーカーでしたら、強制的に戦闘になる可能性が高い。

 それに、キャスターは計略と誅殺に長けたクラスでもある……もし与する条件として令呪を差し出せと言うかも知れませんし、チャンスだと戦闘になる可能性もあります」

 真っ向にこう切られるとなんだが自信がなくなってきたが、俺は眉を寄せて答えた。

「バーサーカーはまあ……一理あるけど。決めつけはよくないぞ、セイバー。

 もしかして今回のキャスターは案外いいヤツなのかも知れないだろう? 悪いヤツだったら悪いヤツでしたで、戦えばいいしこれは一か八かの賭けだよ」

 余程警戒しているんだなセイバーのヤツと思いながら、俺はそう答えるとセイバーは納得のいかない顔をしていた。

 そして自分の顔を真っ直ぐと見て聞いてきた。

「本当にそこまでしてライダーのマスターを助けたいのですか?」

 真剣にそして真面目に、セイバーは聞いてきた。

「ああ、ライダーのマスターと俺は似てるんだ。ライダーのマスターにだって俺のように自由に生きる権利ぐらいはあるし、与えたいんだよ俺は……」

 ようするに人助けだ、それを言葉にするのは照れ臭いので心にしまっておく。

 魔術師の存在価値はないが親はそれでもいいと言った俺。

 ホムンクルスの存在価値もなく、親はそれはダメだと拒絶されたライダーのマスター。

 生まれた環境でこうも違うとは世の中は不公平である。

 セイバーは少しだけだが寄せていた眉が離れ、精悍な顔立ちに戻る。

「……分かりました。そこまで言うのならマスターの指示に従います」

 セイバーは少々困った表情で俺の事を見て、何か言いたげそうだったので俺はつい。

「何か言いたいのなら言ってみろセイバー。俺より達観しているセイバーの意見を俺は聞きたい」

 虚を突かれたのかセイバーは慌てた表情を浮かべた。

「い、いえ! ただ――――」

 視線を落として俯くセイバーは観念したという表情で赤い(まなこ)を向けた。

「マスターの危機を晒すような事、したくないのです。その一か八かの賭けが外れた時……あなたの危険が増してしまうのではないかと不安で……」

 なんだそんな事か、つまりセイバーは俺の身を心配して、納得のいかない顔をしていたのか。

「んなの平気だよ。俺一人でもセイバーがいれば大丈夫だし、それに今はエルリカとロミオがいるんだ、何も心配しなくても平気だ」

 俺は歯を見せて笑顔で返すとセイバーの曇り顔が晴れ顔になった。

「そうですね。剣において彼と同等だなんて認めたくはありませんが、今は仲間として彼を仲間として迎えましょう」

 ありゃ意外とプライド高いな、無理もないか。剣の英霊と剣で渡り合えるサーヴァントの登場にセイバーの称号危うしだもんな。

 かくして俺とセイバーはなごやかな時間を過ごしていると、チャイムが鳴り響く。

「? こんな時間にお客か?」

 壁に掛けられた時計を見れば午前九時になっている。

 そんな時間に誰かが訪れたのだろうか、通販で買い物していないのに。

 俺は首をかしげつつも、廊下に続く戸を開けて玄関へと向かい、廊下を歩いていた。

 鳴り始めてから既に五回ぐらいは鳴っているのであろう。

 余程せっかちな人間なんだなと俺は思いつつ玄関の戸を見る。

「はいはい今出るよ」

 しきりにならす呼び鈴に俺は思わず口にし戸を開けると、金髪ロールをツィンテールにした勝ち気なエルリカが笑顔で出迎えた。

「オーホッホッ!! おはようございますわ!! セイバーのマス……」

 俺は玄関の戸を閉めた。

 俺は何も見てない、俺は何も見ていないぞ。というか朝から煩い、そんなテンション高めで来られると付き合うこちらが疲れる。

 よく耐えているよなロミオのヤツ、こんなテンションを二十四時間目の当たりにされたら俺の精気が吸われる。

「ちょっといきなり無礼な方ですわね!!」

 ぴんぽーん、ぴんぽーん、ぴんぽーん。

 とムキになってチャイムを連打するエルリカ、チャイム連打するな戸を揺らすな壊れるだろうが。

「もう少しテンション落としてから来い! 朝からうるさいんだよ!」

 俺は意味がないであろう忠告すると、戸を開けると不機嫌なエルリカがそこにいた。

「人の顔見て、いきなり戸を閉めるとは本当に無作法な方ですわね……」

 顔を見上げて俺を睨むエルリカ、突然現れて何言ってるんだ。大体昨晩エルリカが俺の所に来るなんて話聞いてないぞ。

「いきなり押しかけてくるお前が悪い。よくうちが分かったな」

 アポを取れアポを、本当に突拍子な行動するヤツだな。と俺は想像以上の突拍子ぶりに不安になって来た。

「あら(わたくし)はアルヴィンと物心ついた時から付き合いがあるのですし、何よりアルヴィンはあなたのお父様と親交があるので、(わたくし)がアルヴィンに訊いたらすぐに分かりましたわよ」

 そういえばセイバーを召喚した日の昼、アルヴィン宛の手紙持って話していたな。

「朝の食事済ましたかしら? セイバーのマスター……そう言えばあなたの名前聞いていませんでしたわ、まずはあなたの名前を教えて欲しいわ」

 名乗るタイミング忘れたな、昨晩は俺が襲われる側だったしな名乗る暇すらなかった。

「加目波也だ」

「カメン・ナミア?」

「カメ・ナミヤ」

「だから、カメン・ナミアでいいのかしら?」

 俺は亀でもなく仮面でもないかめだっつーの、なんでこの人言えていないんだ? 苗字は別としてせめて名前ぐらいは覚えて貰わないと。

「ナミ"ア"じゃなくてナミ"ヤ"な、エルリカ」

「………………………………ナミヤン」

「なんかあだ名みたいになった!」

 もしかして外国人だから言えないというヤツなのだろうか、俺はしばしば考えると妥協案として一つ挙げた。

「言えないなら、ナミアでいいよ。んで、飯の話か? 俺はまだ済ませていないそっちは済ませたのか」

 無理強いさせない方が良案、俺は食事は済ませたかと聞かれたので正直に答えるとエルリカは元の勝気な顔に戻っていた。

「昨晩は遅くまで作業していなかったので、早くに済ませましたわ。あなたが済ませていないとなると、そうですわね……(わたくし)はいつごろ伺ってもよろしいのでしょうか?」

 とエルリカは俺の生活ペースを案じたのか、時間を改めて訪れる気であった。

「大丈夫だ。俺は飯食う気しないから、作戦会議今からでも済ませてもいいぜ」

 そう答えるとエルリカはそうですかと呟いて、俺の手首を強く掴んだ。

「では向いましょう! (わたくし)の家へ!」

「はい?」

 俺は首首を傾げるがそんな暇はなかった、エルリカに引っ張られる形で俺達は街の中を歩いていると俺は聞いた。

「なあ、なんで俺んちで話さないんだ?」

 背中越しのエルリカの頭は少し俯いたと思うと視線をこちらに向けて答えた。

「……何故ってあなたのお父様がアルヴィンの友人(、、、、、、、、、、、、、、、)だからですわ」

「アルヴィンって胡散臭いもんな、長年の付き合いなんだろう? 信頼していないのかエルリカは」

 物心のついた頃からの付き合いの人間をまだ信用していないエルリカを見て俺は疑問に思った。

「彼はライダー達を探索・討伐の件で(わたくし)にこう言ったのです―――――"君はこういうのには必要ならば実行しそうな人間だと思っていた"と……必要ならば、ライダーのマスターをいともたやすく抹消できる人間だと思い込んでいたと仰っていましたわ」

 どうやらあの時固唾を飲んでしまった事は正しかったらしい、俺みたいな人間を平気で殺せる冷酷な魔術師だと三日前に思っていたのだから―――――

「もし(わたくし)の行動を警戒したとなれば……あなたのお父様を間者として潜り込ませ(わたくし)達の行動を監視するのかも知れませんしね」

 それは流石に……

「考えすぎじゃないか?」

 警戒のし過ぎではないだろうかと俺は言ったがエルリカはキッと睨んでこう大声で反論した。

「あなたねえ……少しのんびりしすぎではありません!? 聖杯戦争は殺し合いですわよ!! もう少し周囲は皆敵と頭に叩き込んだ方がよろしいと思いますわよ!!」

 ……なんだかエルリカの行動と言っている事矛盾していないか?

 それだったらなんで、ライダーのマスターを探すのに躍起になっているんだ?

 その考えだとむしろ首を突っ込まず、誰かが殺すのを待つの方が戦略的に良くないか。

「だったらなんで、ライダー達の為に同盟を結んだんだよエルリカ? 言ってる事とやっている事が矛盾していないか?」

 するとエルリカは誇らしげな表情でこう答えた。

「何って、故郷では見かけた事がない扱った事がない鉄の様な物を操るあなたの魔術に興味を持ちましたし、ライダーのマスターの件は理不尽だと憤りを感じたので動いたままですわ」

「さいですか」

 ドヤ顔でそんな事を言われるとまるで、自分は他人と違うわよみたいなアピールしているみたいで見ていてなんだか物悲しくなった俺は、普通の閑静な二階建ての住宅が眼前に映った。

 外観は魔術師の家ではない、どこにでもある平凡な住宅がエルリカの魔術工房らしい。

「着きましたわよ。ナミア、ここが(わたくし)の魔術工房ですわ」

 とエルリカはポケットから鉄の鍵がぶら下がった輪っかを取り出すと、にっこりと笑って俺を招待した。

 

 

勝利祈願(タカハシ・ウメハラ)―――――ッ!!」

 午後三時半過ぎ、ランドセルを背負った少年達がゲームセンターにある筐型格闘ゲームでそう叫んだプレイヤーを囲んでいた。

 画面はplayer1winという文字が大きく乗せられており、余程鮮やかな腕前だったのであろうか少年達は眼を輝かせていた。

「すごいやお兄ちゃん!」

 一人は喝采を送るとプレイヤーははにかみながらその武勇を誇った。

「フハハハハハハハ!! 未来のピクセル戦士に加わるであろうポール・グゲイジャン様の手に掛かれば、ガイル待ちはさせないさ!!」

 ポール・グゲイジャンと名乗った囲まれた小学生達より遙かに年上で中学生ぐらいの歳であった。

「ところでお兄ちゃん。タカハシ・ウメハラってどういう意味なの?」

 一人の小学生が先程の叫びについて解説を求めると、ポールは不敵な笑みを浮かべて答えた。

「伝説のゲームの達人達の事だよ、タカハシはトランセルでウメハラはストファーね」

 その説明に周囲の少年達が首を傾げる中、一人の太めの少年が意地悪な問いかけをしてきた。

「おまえとその二人どっちが強いんだ?」

「タカハシさんはジャンル違うから比べられないけど。ウメハラは愚か……コツ覚えたバーサーカーって友達に勝てなくなっちゃったから、ボクが一番弱いね」

 困った笑みを浮かべるポールの反応を見て周囲からブーイングの嵐が巻き起こる。

「すげえと思ったけど、その二人どんだけ強いんだよ!」

「本当に困っちゃうよねえ、さいのうのちからってすげーだよ本当」

 最初はポールが勝っていたが、そのうち勝てなくなっていったのだ。

 戦闘のセンスがまさかヴァーチャルでも生かされるとはとポールは思っていた。

「ねえ、お兄さんもう一戦見せてよ!」

「オッケイ、じゃあ百円玉を投下しようか」

 そうポールは財布から百円玉を取り出すと、取り巻きの後ろからなんだよ割り込むなよという声が聞こえたので。

「ボクの勇姿見たいのは分かるけど、喧嘩しちゃあだめだよ」

 と言って振り向くとそこには、タブレット菓子の容器を持った楕円形眼鏡をかけた、コレットが見下ろしていた。

 その服装を見たポールはすぐにあの映画の登場人物の事を言った。

「……もしかして、ヘアピンでドアピッキングして精神病院から退院した人かな?」

「何言ってんだお前……」

 とコレットは呆れた表情で白い錠剤の様なタブレット菓子を口に放り込むと、まずそうに噛み砕いて飲み込みそう答えるポールを見て、驚愕の表情を浮かべた。

「通じないの!? おかしいな……フラットなら、警備員に化けたT-1000型に追っかけられるんだよねとか返すんだけどなあ」

 コレットは知ったこっちゃないと言っているかのような態度で取るので、ポールはお預けを食らった子犬の様な顔で落胆していた。

「はあ……またワケ分からん相手するのはもうごめんだから、お前無視してこっちで勝手に進めるわ」

 無視すると聞いたポールは体を跳ね上がらせて叫んだ。

「ひどい! 無視は酷いよお姉さん!!」

 だがコレットは困惑する取り巻きを見渡しながら粗暴な態度で問いかけた。

「おい、ガキ共最近白い髪に赤い眼を持った女の子この周辺で見かけなかったか?」

「もしもしー! 人の話聞いているのかなー! 無視は酷いんじゃないのー!?」

 ポールはコレットの背後を取りもぐらたたきのもぐらのように頭を出して出さなかったりを繰り返すと、青筋を浮かべたコレットは無言で風切り音と共に跳び蹴りがポールの顔面に直撃したので、周囲の取り巻きは悲鳴を上げながら蜘蛛の子散らすように逃げた。

「いたたた、全くひどいよ! ひどすぎるよ! さっきからなんでボクの事無視するのさ!」

 ポールは筐型格闘ゲーム機に座る形で痛みを訴えると、コレットは鋭い眼差しを浴びせてきた。

「二回もワケ分からんヤツと会うのうんざりするんだよ……」

 当然事情を知らないポールはきょとんとした表情になる。コレットは深いため息を吐くともう一つオマケと言わんばかりの言葉を投げ捨てた。

「大体、何堂々とサーヴァントの存在を語ってんだよ……バーサーカーのマスター」

 するとポールは何かに気づいたような表情でコレットを見上げ仰々しい口調で言った。

「何故、ボクがマスターと見抜いた……!」

「ッ―――――! さっき大声で話していたじゃねえか!! そのとぼけわざとなの、わざとなのか?」

 苛々した表情でまた一粒タブレット菓子を噛み砕くと、コレットが怒涛のツッコミでポールに言うと、ポールは満面の笑顔で答えた。

「なんでイライラしているのか分からないけど、ともかくボクが言いたい事はひとつだ―――――ゲーム機壊れなくてヨカッタネ!」

 ポールはゲーム機から飛び降りると、コレットの殺気が一層強くなったのでポールは目を見開いて顔を蒼白にする。

「えー……なんでそんなに怒るのかなーボク悪い事一つもしていないのに……」

「口を閉じろ! 相手するだけで疲れる!」

 コレットはそう言い放つとゲームセンターから立ち去って行った。

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