機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ異伝 ~死の戦記~ <完結>   作:二円

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第十話 未来への挑戦

 太平洋中部に浮かぶミレニアム島から、

カナダのエドモントンまでの最短ルートは、

カナダの『バンクーバー』に降りて北上するルートだ。

 

 アーブラウの代表指名選挙が始まる前に、

蒔苗をエドモントンにある議事堂まで護送する必要があるため、

出来るだけ早く送り届けるのが望ましい。

 

 しかし、

ギャラルホルンは蒔苗が鉄華団と共に、

エドモントンに向かおうとしている事を掴んでいるので、

バンクーバーからエドモントンに向かう道中に、

幾重の防衛網が張られている事が予想された。

 

 それを回避するため、

ビスケットとクーデリアから、

船のルートを変更する案が全体会議で提出された。

 

 カナダのバンクーバーではなく、

アラスカの『アンカレッジ』に降りて、

テイワズの現地法人が持つ定期貨物列車に乗り換え、

エドモントンに向かうというルートだった。

 

 都市部から離れた線路のため、

エイハブ・リアクターによる電波障害が引き起こされる心配がないため、

エドモントン郊外までMSを運べるという利点がある。

 

 最短ルートから大きく迂回する形となっているが、

ギャラルホルンとの戦闘で疲弊して進むよりも、

迂回して戦力を温存した方が良いという事になって、

満場一致でルート変更案が採用される事になった。

 

 その後ビスケットはテイワズに協力を仰ぎ、

クーデリアはモンターク商会や蒔苗に航路変更を伝え、

コンテナ船は航路をアンカレッジ港に向けた。

 

 大したトラブルに見舞われる事無く、

無事アンカレッジ港に到着し、

蒔苗派の有力議員『ラスカー・アレジ』の手配で、

速やかに定期貨物列車に乗り換え、

エドモントンに向かった。 

 

 アンカレッジからエドモントンまでの列車移動は感動モノだった。

道中の間には南北を横断する『カナディアン・ロッキー山脈』があり、

標高平均三千メートル級の山々の景色は絶景といって良かった。

 

 ターコイズブルーに輝く湖、

南極に来たかと思う程の辺り一面の大氷原。

自然の雄大さを感じる素晴らしき景色は、

俺に大きな感動を与えていた。

 

 やがて大氷原を抜け、

流れ出す氷河から流れ落ちる滝は、

カナディアン・ロッキー山脈を抜ける事を知らせてくれる。

 

 何事もなく通過出来た事に、

俺は景色の感動以上に驚いていた。

 

 原作では、

夜の大氷原でカルタの待ち伏せに遭うが、

大氷原を抜けて尚、

何も起きなかった。

カルタとの戦闘が起きなかったのだ。

 

 ミレニアム島での戦闘が原因だろう。

死亡したのか?

あるいは戦闘出来ない状態だったか?

これは予想外だった。

 

 戦闘になると思って、

大氷原の側を走る列車の中で、

直ぐにMSに搭乗出来るように準備していた。

しかし夜が明け大氷原を抜ける頃には、

準備をしている俺の姿を見ていた皆から、

気が早すぎると言われる破目になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナディアン・ロッキー山脈を抜けた頃、

列車移動初の全体会議がコンテナ車両の中で開かれた。

今度は鉄華団全員が集まっている。

 

 内容は蒔苗を議事堂まで如何にして護送するかである事は、

皆予想していた。

 

 今回はMWによる市街戦がメインになる。

MSはエイハブ・リアクターによる電波障害発生を防ぐために、

市内に近づけないが出番がない訳ではない。

 

 市内にはギャラルホルンの部隊が配置されている。

入る前にギャラルホルンのMW部隊との戦闘で、

足止めを食らうだろう。

回り込まれ挟み撃ちに遭う可能性がある。

それを防ぐためにMSが防衛役に徹する事もありうる。

 

 今回の全体会議は極めて重要なものだ。

内容次第で成否が決まるといっていい。

主要メンバーが集まった事が確認されると、

 

「それじゃあ皆。

まずこれを見て欲しいんだ」

 

ビスケットはそう言って、

備えていた大型モニターを起動させた。

モニターに映っていたのは、

とあるデータファイルだった。

そのデータファイルのタイトルは、

[エドモントン市警備計画書]と書かれていた。

 

「おい、

こいつは一体?」

 

 昭弘が驚いている。

俺も驚いていた。

内容からすれば、

エドモントンにどのような部隊が配置されるか記されたものだろう。

だがそのようなものが何故ここにある?

 

 周囲も俺と似たような事を思っただろう。

困惑の空気が感じられた。

 

「本物……なのか?」

 

 昭弘の疑問は最もだ。

皆の目がビスケットに注がれた。

ビスケットは待ってましたと言わんばかりに説明した。

 

「幾らギャラルホルンでも、

勝手に部隊を市内に配置する事は出来ない。

市内に配置するためには許可が必要で、

何処に部隊を配置するかの計画書を提出して、

許可を得る必要があるんだ。

当然その内容はアーブラウ議会にも伝わっている筈。

蒔苗さんを通じて、

ラスカー・アレジさんに情報をお願いしたんだ」

 

「凄いなビスケット」

 

 思わず賞賛の声を掛けていた。

このデータがあれば、

警備の隙を突く事も出来るだろう。

作戦の成否に関わると言ってい良い。

 

「けど、

本当にそのデータ通りに部隊が配置されるのか?」

 

 昭弘が疑問の声をあげた。

 

「計画書通りに配置しなかったら、

それを理由に追い出す事が出来るからね。

戦闘等の緊急の事態にならない限り、

計画書通りに配置されている筈だよ」

 

 ビスケットの言葉に昭弘は納得した。

誰も意見がない事を確認するとビスケットは話を続けた。

 

「代表選を控えたエドモントンは、

ギャラルホルンの警備で市内は封鎖状態だ。

特に議事堂を中心にした範囲内は、

市民の立ち入りが禁止されている禁止区域になっている」

 

 エドモントン市のマップが表示され、

赤い点が表示された。

計画書を基にした、

ギャラルホルンのMW部隊配置場所を示しているであろう、

[GMW]と表示されて、

市内のあちこちに配置されていた。

ちなみにMSは[GMS]と表示され、

エドモントン市郊外南側と東側にMSは配置されていた。

 

 この事からギャラルホルンは、

バンクーバからの北上に備えている事が分かる。

 

 次に中心に近い所に点が表示された。

議事堂を示しているようだ。

その点を中心に円が描かれ、

[禁止区域]と表示される。

 

「逆に言えば、

禁止区域以外は市民がいる事になる。

だから出来るだけ、

市民を巻き込まないルートを通る必要があるんだ。

蒔苗さんの選挙に悪影響を与えるからね。

僕達は列車でもう直ぐ、

エドモントン市の西側から入る。

でもギャラルホルンが列車をそのまま入れさせる訳がないから、

市内に入る前の駅で降りる事になる」

 

 ここまでは良いよねとビスケットが、

皆に確認を取った。

 

 封鎖状態で列車が市内に入ろうものなら、

間違いなく停車させて臨検に入るだろう。

そうなると面倒な事になる。

手前の駅で降りる事に否を唱える者はいなかった。

 

「次に拠点を何処に置くかだけど、

此処を予定している」 

 

 マップに新たな点が表示された。

そこはエドモントン市郊外の南西部にあった。

 

「随分遠回りだな」

 

 昭弘が呟いた。

 

 エドモントン市は、

『ノースサスカチュワン川』が市内中央を、

分断するかのように流れている。

 

 ビスケットが指定した仮拠点位置に行くには、

川を超えるために橋を渡る必要がある。

それだけなら問題ないが、

議事堂へ行く最短ルートを通るには、

また橋を渡る必要がある。

 

 昭弘が言う遠回りとは川を渡る手間の意味もあるのだろう。

MWやMSを搭載している特殊大型車両の移動は大変だ。

 

 仮拠点位置の周辺は、

西半分が針葉樹の森で囲まれる形となっており、

ギャラルホルンの部隊が配置されていないため、

移動中に見つかる確率は低い。

 

 更に仮拠点から議事堂へ行く最短ルートを通る橋は、

禁止区域に入っていた。

つまり市民を巻き込みにくいルートでもある訳だ。

 

「此処は廃駅で、

今は誰も使ってないし、

何も通ってない。

拠点にはピッタリだと思う。

それに此処から南は、

石油……つまりエネルギー資源の採掘所だったんだ。

今は閉鎖されて更地になっているけどね。

ここならMSを動かすのに最適だよ」

 

「凄いなビスケット。

よく調べたな」

 

 またも賞賛してしまった。

 

「クーデリアさんのお陰だよ。

僕一人じゃ、

地球の事なんて調べられなかっただろうからね」

 

 成る程、

クーデリアと協力していたのか。

思わずクーデリアの方に顔を向ける。

皆も同じ反応をしていた。

その事にクーデリアは全く動じる様子はない。

 

「問題は此処からなんだ。

議事堂に着くためには、

橋を渡らないといけないんだけど、

そこにはギャラルホルンが橋を守っているんだ。

どうやって突破するか、

皆の意見を聞きたいんだ」

 

 ビスケットが皆に意見を求めた。

橋を守るギャラルホルンの部隊を如何に退けるか?

これはMWの戦闘だ。

性能で見ればギャラルホルンの方が高い。

しかも橋での戦闘の場合、

敵は橋の出入り口に部隊を配置するだろう。

その場合橋を渡る必要があるが、

渡ろうとすれば真っ先に攻撃に晒される。

狭い道では回避も難しい。

 

「MSなら蹴散らせるんだがな」

 

 昭弘の意見に何人かがそうだよなと頷いている。

 

「駄目だ。

エイハブ・リアクターを市内に持ち込むだけで、

都市機能は麻痺しちまう。

それを理由に蒔苗の爺さんが、

世論を敵に回す結果になっちゃ意味がねえからな」

 

 オルガが駄目出しをする。

昭弘も分かっているようで特に何も言わなかった。

 

 確かにMSがあれば、

簡単にMWを排除出来るだろう。

しかしMSは市内には入れない。

橋を渡るのも厳禁だ。

 

 難しい問題に見えるが、

俺には秘策があった。

列車移動中俺は唯景色を眺めていた訳ではない。

被害を如何に減らすか考えていた。

 

 原作では橋を通ろうと多くの仲間が倒れていった。 

敵を引きつける囮役を仲間が引き受けたからだ。

その隙にオルガ達は市内に突入出来たが、

被害は大きかった。

 

 それを再現する心算は無かった。

今はビスケットがいる。

そのような行動を取らせる心算はないだろう。

代わりに代案を考える必要があった。

 

 ひょっとしたら橋を渡らない可能性があったが、

俺は考えるのを止めなかった。

 

 その甲斐もあり、

秘策を編み出した。

その時になって、

カルタとの戦闘が起きなかった事に気づいたのは内緒だ。

 

 この秘策で鉄華団の被害を抑えて市内に突入すれば、

一日も経たずに終わるかもしれない。

そんな期待を膨らませながら、

俺は手を挙げた。

 

「提案がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の秘策に皆は驚いたが、

上手くいけば被害を零に抑えて、

市内に突入出来る所が評価され、

俺の秘策が採用される事になった。

 

 それから半日も経たぬ内に駅を降り、

仮拠点まで移動。

ギャラルホルンに見つからないように警戒しながらの移動は、

精神的にキツイものがあった。

 

 仮拠点近くまで来て一旦停止、

偵察して誰もいない事を確認後、

移動を再開。

到着後廃駅を拠点とし、

全MWとMSの立ち上げ作業に入った。

 

 その間手が空いている者は、

ギャラルホルンの部隊が配置されている場所への偵察を行い、

入手した情報を元に、

突入作戦の念密な打ち合わせが行われた。

 

 途中休憩が入り、

全ての作業が終わる頃には、

既に一日が過ぎていており、

作戦開始に向けて、

団員達は英気を養っていた。

 

 俺は列車格納庫に鎮座しているイナヅマ号を眺めていた。

地上戦仕様換装を終えたイナヅマ号、

『イナヅマ号第参形態』。

 

 前回出来なかった肩の換装部分を見る。

 

 予備の肩パーツは取り外され、

マンロディの肩パーツをベースに、

以前分解していた可動式ブースターのブースターを取り付け、

以前よりも強固な可動式ブースターが完成。

肩の側面に取り付けられ、

バランスの悪さを解決。

可動範囲も拡大し、

複雑な機動を行えるようになった。

 

 これだけでも凄いのに、

更なる機能が取り付けられている。

 

 今度はイナヅマ号の踵にとりつけられたものを見る。

 

 イナヅマ号の踵には、

大きな車輪が取り付けられていた。

『ローラーユニット』というらしい。

これを駆動する事で、

何とイナヅマ号を地上走行する事が出来るのだ。

 

 本来ならこのユニットは取り付ける予定は無かった。

というよりユニットが開発されていなかった。

なのに造られたのは、

俺の一言が原因だった。

 

コンテナ船の格納庫で、

俺はおやっさんと会話していた時だ。

阿頼耶識でMSを動かすのは大変だという内容で、

俺はこう言った。

 

「車みたいに走り回れば楽なんですけどね。

楽しそうですし」

 

 願望だった。

動かすのが楽だろうなといった感じのもので、

軽い気持ちで言ったものだった。

 

 しかしそれを強く受け止めた者がいた。

ヤマギだ。

あの時俺の隣にヤマギがいた。

 

 ヤマギは俺の願望を要望と勘違いして、

それに応えるべく、

ローラーユニットを開発したのだ。

ローラーはMSを運搬する、

特殊大型車両のパーツを使用している。 

 

 まさか俺の何気ない一言で、

これ程のものが造られるとは思わなかった。

このユニットがあれば、

イナヅマ号は更なる活躍を見込めるだろう。 

俺はそう確信していた。

 

「シノ、

此処にいたんだ」

 

 声のする方に振り向けば、

開いているゲート付近にヤマギがいた。

どうやら俺を捜していたようだ。

 

「どうしたんだヤマギ?」

 

「シノに話があって」

 

「話?」

 

「シノに言っておきたい事があるんだ」

 

 何だろうか?

ヤマギの雰囲気から、

イナヅマ号の説明ではない事は分かるが。

 

「最近のシノ、

無理をしてない?」

 

「無理?

どういう事だ?」

 

「最近のシノ、

何か凄い無理をしてるというか無茶をしてる。

自覚ない?」

 

「無茶なんか……」

 

「してるよ。

島での戦闘の事覚えてる?

滑走路に仕掛けた罠にシノ自ら飛び込んで、

ギャラルホルンをそこに誘導させるなんて無茶をしたじゃないか。

今度の作戦でも、

またあんな無茶をするんじゃないかって。

あれじゃまるで……死にたがっているように見えるよ」

 

 ヤマギの言葉に、

俺はどう答えるべきか迷った。

あれはビスケットの死を回避させたいためだった。

しかしそれを知る筈のないヤマギから見たら、

俺の行動は死を求めているらしい。

どうにか誤魔化さないと。

 

「それは違う。

俺は死に場所を求めちゃいない。

それにあれは無茶な事じゃない」

 

「じゃあ何?」

 

「必死なだけだ」

 

「え?」

 

「俺はMSの操縦じゃ、

三日月や昭弘より劣っているからな、

普通にやってたんじゃ生き残れない。

だから必死なんだ。

ヤマギから見れば、

無茶をしているように見えるんだろうが、

そうじゃない。

守るために必死なだけなんだ。

俺やヤマギ、

そして鉄華団の皆を守るために」

 

「……」

 

 真相を誤魔化してはいるが、

守りたいという気持ちは誤魔化している心算はない。

それをヤマギにぶつけてみたが、

どう反応するだろうか?

 

「……分かった。

そういう事にしておく。

自分の命を捨ててないって分かったから」

 

 どうやら本心を隠している事に気づかれたらしい。

あえてそれに触れないヤマギに心の中で詫びた。

 

 これは決して明かす事が出来ないんだ。

悪いなヤマギ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在午後十二時四十分。

 

 午後一時に作戦が開始される。

突入するならば夜間が効果的だが、

普通に蒔苗を議事堂に送り届ければ良い訳じゃない。

議事堂が開かれている時に、

蒔苗を送り届けなければならないのだ。

 

 議事堂が開かれるのは午後一時。

それに合わせて作戦が開始される事になった。

 

 作戦開始前に、

鉄華団全員が広場に集められた。

オルガから皆へ話があるらしい。

そのオルガは皆の前に停止しているMWの上に立っていた。

皆が集まったのを確認したのか、

オルガの演説が始まった。

 

「お前等よく此処までついて来てくれたな。

誰か一人でも欠けていたら、

此処まで来れなかっただろう。

ありがとな。

それと色々と無茶を押し付けていたな。

だがそいつは必要な事だった。

読み書きも学も何もねえ俺達が、

それしか出来る事が無かったからだ。

俺達は僅かな金を命と引き換えにして生きてきた。

それはこの仕事を始めた時から、

いや、

生まれた時からか。

何時切り捨てられてもおかしくなかった。

だがそれはもう終わりだ。

分かるか?

俺達は使い潰されるしかなかった未来を変えてるんだ。

読み書きも学も何もねえ俺達がだ。

この仕事を成功させりゃ、

誰も俺達を使い捨ての利くガキと扱わねえ。

無茶をしなくても生きていけるようになる。

そのための第一歩を掴める所まで来てるんだ。

このチャンスを掴めるのは今しかねえ。

お前等!

この仕事、

絶対に成功させるぞ!

俺達の未来を掴むんだ!」

 

「おおっ!」

 

「やってやる!」

 

「団長!

任せろ!」

 

「掴んでやるぞぉ!」

 

「ギャラルホルンなんか怖くねえ!」

 

 次々と気炎を揚げる団員達。

士気は最高潮に高まっていると言えるだろう。

気がつけば俺の右手が強く天に向かって突き上げていた。

皆の雰囲気にあてられたようだ。

不思議と恥ずかしくは無かった。

寧ろ高揚感すらあった。

 

「行くぞお前等!」

 

 オルガの号令が発せられた。

集まっていた団員達がそれぞれの持ち場に移動する。

俺はイナヅマ号の所に急いで向かった。

 

 列車格納庫に鎮座しているイナヅマ号に近づき、

近くに備え付けられた昇降機を動かし、

コクピットまで移動する。

既にコクピットは開かれている。

中に入り、

イナヅマ号を起動させる。

 

 モニターが表示され、

機体のチェックが始まる。

その時ヤマギから通信が入った。

 

「シノ、

ちょっといい?」

 

「どうしたヤマギ?

こんな時に?」

 

「こんな時だから言いたい事があって。

イナヅマ号の踵に取り付けたやつ、

僕が一生懸命考えて作ったんだ。

シノには死んで欲しくないから。

だから……頑張ってね」

 

 ヤマギからの通信が切れると同時に、

機体のチェックが終了した。

何も問題がない事を確認する。

 

 ローラーユニットを起動し、

地面を走行発進させる。

 

 丁度良い。

ヤマギの応援に答える意味でも、

久しぶりの発進前の口上を述べるとしようか。

 

「ノルバ・シノ!

『イナヅマ号』!

轟かせてやるぜ!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イナヅマ号を発進させ、

俺と三日月とアジーさんとラフタさんは、

拠点から南東にある、

ギャラルホルンMS部隊の陣地に向かっていた。

 

 敵はこちらの存在に気づいていない。

それを利用して、

奇襲を仕掛ける事になったのだ。

 

 昨日の事前偵察で位置は確認してある。

数は三十機程。

まともにぶつかるには危険すぎる。

 

 しかし、

こちらの存在に気づいていないギャラルホルンは、

MSを動かしていない。

哨戒すらも行っていない。

完全に油断をしている。

レーダーにエイハブ・ウェーブの波動が検知されない事が、

何よりの証明だ。

 

「しっかし、

あんたも変な事考え付くよね。

そんなもの付けて走るなんてさ」

 

 ラフタさんが話し掛けてきた。

イナヅマ号のローラーユニットの事を言っているんだろう。

皆のMSはスラスターを吹かして移動しているのに、

イナヅマ号だけはローラーユニットによる地上走行をしているのだ。

変に思われても仕方がないのかもしれない。

 

「悪くないですよこれ。

推進剤の節約にもなりますから」

 

 ローラーユニットによる地上走行の利点は、

スラスターを使わないために、

推進剤の節約が出来る事だった。

長期戦闘になったらこれは重要な要素になる。

嬉しい誤算だった。

 

「そろそろ見えてきたよ」

 

 アジーさんからの通信が入った。

敵陣地が視認出来る。

 

 すると敵陣地の方から警報が鳴り響いていた。

どうやらこちらの接近にようやく気づいたらしい。

 

「今頃鳴らしても遅いっての!」

 

「敵は混乱している。

その内に数を減らすよ」

 

「了解!」

 

「分かった」

 

 ラフタさんが敵の対応に呆れ、

アジーさんが指示を出す。

それに俺と三日月は答え、

敵陣に突入した。

 

 サブマシンガンをバースト射撃モードにして、

突っ立ているだけのグレイズに向けて弾丸を放つ。

 

 コクピット付近に三発の弾丸が命中し破損。

その衝撃で機体が倒れた。

エイハブ・リアクターが起動していない状態では、

ナノラミネートアーマーは真価を発揮出来ないのだ。

そのためあっさりと撃墜出来た。

 

 次のMSをと捜していると、

車両が止まっている区画を見つけた。

そこには補給車両や、

簡易的な修理が可能な特殊作業車両が停車していた。

これを叩けば、

万が一長期戦になった時に有利になるだろう。

そう思った俺は、

イナヅマ号を地上走行させて、

その区画に向かう。

 

 向かう途中に突っ立っているグレイズを見つけ、

サブマシンガンの弾丸を放つ。

面白いようにグレイズは何も出来ずに、

弾丸を食らって倒れていく。

 

 戦果を確認する間もなく、

区画に到着した俺はそのまま地上走行を続けた。

ここにあるのは車両だけではない。

テントや仮設施設やアンテナといった物が設置されている。

そこにMSを突入させたらどうなるか?

それは火を見るよりも明らかだ。

 

 MSという鉄の塊の体当たりに、

あらゆる物が破壊されていった。

ひょっとしたら中に人がいたかもと場違いな事を考えていた。

弾丸を節約するためだったのだが、

まるで土木作業をしているみたいな感じだった。

 

 ただし大型の車両では、

体当たりでの一撃破壊は難しいので、

サブマシンガンを単発射撃モードにして、

燃料タンクを狙って弾丸を放つ。

 

 大した防御力を持たない大型車両は、 

呆気なく燃料タンクに着弾。

爆発を引き起こした。

 

 爆発で近くの車両は吹き飛ぶ等の二次被害が発生した。

そんな事はお構いなく、

別の車両の燃料タンクに向けて弾丸を放つ。

さっきと同じで呆気なく燃料タンクに着弾する。

今度は燃料補給車だ。

その分燃料も多く積んでいたため、

MSを飲み込める程の大きな爆発を起こした。

 

 それに飲み込まれ、

更なる車両が爆発を起こす。

連鎖反応だった。

辺り一面は灼熱の地獄絵図と化していた。

 

 あらかた破壊したので、

次のターゲットを捜そうとした時だった。

アックスを持ったグレイズがこちらに接近しているのを発見した。

どうやら起動に間に合ったようだ。

武器をイナヅマチョッパーに切り替えようとした時だった。

 

 グレイズが大きく横に飛んだ。

いや飛ばされていた。

グレイズの後ろにバルバトスがいた。

レンチメイスの直撃を受け、

吹き飛んだのだ。

 

「ありがとう三日月」

 

「大した事じゃない。

シノなら問題なく倒せてた」

 

「敵が起き上がってきた。

そろそろ退くよ」

 

 三日月に礼を言った時、

アジーさんから撤退の指示が来た。

レーダーには多くのエイハブ・ウェーブが検知されている。

このままでは包囲される。

アジーさんの指示に従い、

三日月と共に撤退した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 撤退した俺達は、

拠点の南側の更地に移動していた。

 

 奇襲は成功だった。

全てのMSを破壊する事は出来なかったが、

それでも損害を与える事が出来た。

敵の追撃が来るだろうが、

全戦力で向かって来る事はないだろう。

また陣地に向かってくる可能性がある以上、

防衛にもMSを割かなければならないからだ。

東側からMSが応援に来るかもしれないが、

全戦力で来る事はない筈だ。

 

 北側からエイハブ・ウェーブの波動が検知される。

グシオンリベイクだ。

昭弘がこちらに向って来ていた。

 

「昭弘、

もう終わったの?」

 

「ああ終わったぜ。

こちらの損害はゼロだ。

今突入している所だ」

 

 三日月の問いに昭弘が答えた。

 

「全く、

MSで橋の出入り口にいるMWを砲撃するなんてね。

ホント変な事を考えつくわね。」

 

 ラフタさんからお褒めの言葉を頂いた。

秘策を出した甲斐があったってもんだ。

 

 俺の出した秘策。

それはグシオンリベイクで、

橋の出入り口にいるMWを砲撃させるというものだった。

 

 MSを橋に近づけさせる事が出来ないなら、

遠距離から攻撃すれば良い。 

そう考えた俺は、

グシオンリベイクでの遠距離からの砲撃を提案した。

何故グシオンリベイクかというと、

島で敵戦艦との砲撃戦を演じた実績があるからだ。

 

 問題だったのは、

間違って橋を撃ち落としてしまわないかという事だったが、

そんな事はなかったようでホッとした。

 

 市内突入には三つの組に分かれている。

一つ目は橋を防衛する組。

二つ目は本命からギャラルホルンの目を逸らすための

撹乱組。

そして三つ目は蒔苗を護送する組だ。

ちなみにオルガは蒔苗を護送する組に入って指揮を執っている。

 

 それらが一機の損害も無く突入出来たのは大きい。

これなら送り届けるのも時間の問題だろう。

後は時間を稼げれば良い訳だ。

 

 守り抜いてみせるそう思った時だった。

オルガから通信が入る。

 

「全体通信?」

 

 それは登録した者全てに送信されるもので、

こちらから返信出来ない事から、

別名演説通信と呼ばれるものだ。

 

 蒔苗を送り届けたのか?

そう思い通信の内容に耳を傾ける。

 

 しかし、

その内容は予想だにしないものだった。

 

「私はギャラルホルン地球本部、

地球外縁軌道統制統合艦隊司令官カルタ・イシュー。

鉄華団に告げる。

諸君が護送していた蒔苗東護ノ介及び、

クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄はこちらが押さえた。

我々が望むのは、

諸君等との決着である。

鉄華団に対し、

MS三機同士による決闘を所望する。

我々に勝てば、

身柄を解放しよう。

しかし負ければ、

大人しく縛に就いて貰う。

三十分。

此処に来るまでの時間を考慮し、

三十分待とう。

今から位置情報を送信する。

そこへMS三機来て貰いたい。

この決闘を受けてくれる事を願う」

 

 




次回予告「何が何だかさっぱり分からない。
どうしてこうなった、
どうすれば良かった、
色々考えて頭の中がグチャグチャだ。
でもこれだけは言える。
まだ負けていない。
まだ俺には頼れる仲間と相棒がいるんだ。
次回『イナヅマ号』」
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