機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ異伝 ~死の戦記~ <完結>   作:二円

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次話でオリジナルMSが登場します。


第三話 フミタン・アドモスを助けない

 MSパイロットになる。

そう決めた俺は葬式を終えた後、

ブルワーズとの戦闘で鹵獲したMS、

『ガンダム・グシオン』が保管されているガレージに向かった。

そこに昭弘に呼ばれたオルガがいる筈だ。

 

 オルガに会う目的は二つ。

MSに乗らせてくれるように頼む事。

阿頼耶識システムを取りつける許可を得る事。

 

 原作では整備員の一人『ヤマギ・ギルマン』が、

『グレイズ改』に無理やり取りつけた阿頼耶識システムのテストに苦しむノルバ・シノを見て、

 

「やっぱり無理なのかな?

ブルワーズが使っていた阿頼耶識システムをこいつに組み込むなんて」

 

 と諦めかけていたシーンがある。

 

 これはグレイズ改には阿頼耶識システムを取りつける予定は無く、

誰かがそうしたいと強く要望した事になる。 

 

 誰かは分かっている。

ノルバ・シノだ。

 

 みんなを守れるくらいの力を欲した彼が、

こんな無茶な要望をしたんじゃないかと思う。

 

 残念ながらどのように頼んだのかは分からない。

何もしなくてもオルガの方から、

パイロットにならないかと頼まれるかもしれないが、

阿頼耶識システムの件は自分から話さなければ、

搭乗するMSに阿頼耶識システムがつけられない可能性がある。

それは避けたい。

 

 これから先の戦闘には阿頼耶識システムが必須だ。

あれが無いと上手く戦えない情けない自信がある。

 

 ノルバ・シノの技術的記憶から、

MSがどのように動かしているのかを知っている。

 

 MSはプログラムによって登録させた動作パターンを、

パイロットが選び操作する事で動かすようになっている。

 

 よって複雑な動きを行いたい場合は、

新たに設定する必要がある。

 

 この動作パターンの設定がとても面倒だ。

例えば腕を動かすならば、

間接を何度曲げるのか?

それを何秒で行い、

何秒間維持するのかをコンマ千秒の単位で設定しなければならない。

 

 しかしパイロットの神経と機体を直結させて、

機体の情報処理を脳内で行い、

高い操縦性を引き出す阿頼耶識システムならば、

複雑な設定を大幅に省く事が出来る。

 

 何としても導入しなければならない。、

オルガに会って許可を得る必要がある。

 

 目的のガレージに入ると、

予想通りそこには昭弘とオルガがいた。

 

「……俺はこれから、

あいつの思い出と一緒にいたい」

 

「……そうか」

 

 彼等の会話が聞こえた。

確か昭弘の弟を死に至らしめたグシオンに搭乗したいという話だった筈。

ちょうど良いタイミングに来たようだ。

彼等の前に出て話をしよう。

 

「それなら昭弘の乗ったMSに空きが出るよな?」

 

「シノ!?

お前何でここに?」

 

「オルガを探してたんだ」

 

「俺に?

何の用だ?」

 

「俺にMSを乗らせて欲しいと思って」

 

「お前がMSを?

……何でだ?」

 

 オルガはジッと俺を見ている。

ここで下手を打つわけにはいかない。

目を逸らさずにオルガの質問に答える。

 

「自分を変えたいんだ」

 

「なんだそりゃ?」

 

「俺が不甲斐ないばっかりに死んでいった奴等がいる」

 

「シノお前……」

 

 オルガが俺を睨む。

死んだ仲間の事を引きずっていると思っているのだろう。

死んだ仲間はあの世ですぐに会えると考えているオルガにとって、

許せない行為に違いない。

 

「三日月に言われたよ。

そういうのは死んだ奴らに失礼だって」 

 

「ミカが?」 

 

「それで思ったんだ。

これを機に自分を変えようって」

 

「それとMSに乗る事と何の関係があるんだ?」

 

「もしMSに乗る事になったら、

俺はグレイズに阿頼耶識システムをつけるつもりだ」

 

「何!?」

 

 俺の提案にオルガと昭弘は驚いていた。

 

「無理だシノ。

グレイズに阿頼耶識はつけられねえ」

 

 昭弘が反論する。

確かにそれが出来ていたら、

先の戦闘で取りつけていただろう。

 

「ミカのバルバドスに阿頼耶識がつけられるんなら、

グレイズでもと思ったんだろうが、

あれは『厄祭戦』の頃に造られた古い機体だ。

だから旧式のMWにも対応出来た。

だがグレイズは『ギャラルホルン』の最新鋭MS、

はなっからこれに対応するように出来ちゃいねえよ」

 

「だったら対応出来るモノから流用すれば良いさ」

 

「何?」

 

「ブルワーズのMSに搭載されていた阿頼耶識システムを使う」

 

「……本気か?」

 

「生半可な気持ちで言ってるんじゃない、

本気だ。

無理やり取りつけるからバルバトス程じゃないにせよ、

脳に掛かる負荷は相当なものになるのも覚悟の上だ。

今までの不甲斐ない自分を変えて、

その力で鉄華団を守りたいんだ。

頼むオルガ、

俺にMSを乗らせてくれ!」

 

 オルガの前で深く頭を下げる。

その状態のまま時間が過ぎていく。

 

「頭を上げろシノ」

 

 オルガに言われ頭を上げる。

 

「お前の覚悟は分かった。

そこまで言ったからには、

半端な結果は許さねえぞ」

 

 オルガから許可が出た。

思わずガッツポーズを取りそうになるのを堪える。

これでようやくスタートラインに立てる。

 

「全力でやってやるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルガの許可を得た後、

俺は整備員一人おやっさんこと『ナディ・雪之丞・カッサパ』に会い、

グレイズ改のパイロットになった事を伝え、

ブルワーズのMSに搭載されていた阿頼耶識システムを移植してくれるように頼んだ。

 

 そしてもう一つ、

やっておきたい事があった。

 

 グレイズ改を再改修したグレイズ改二、

ノルバ・シノ自称『流星号』。

俺が搭乗する事になるMSだが、

目標を達成させるためには流星号では力不足ではないかと考えていた。

 

 幸い改修前なので、

俺が考えていた改修案を提示した。

 

 俺が提案した主な改修案は、

可動式ブースターによる変則的な動きを可能にする機体だった。

 

 登録してある動作パターンによって動くMSにとって、

予想外の動きには対応しにくい。

これはMS戦闘では有利な武器になると思った。

 

 おやっさんにそれが可能かどうか話し合い、

戦闘で手に入れたパーツを照らし合わせた結果、

一応可能と判断された。

 

 一応とは、

取り付けられるが無茶な改造なので、

阿頼耶識システムで動かした時に、

脳に大きな負担を掛ける恐れがあるとの事だ。

 

 俺はそのリスクを受け入れた。

痛みを恐れていたら生き残るなんて出来ないからな。

 

 こうして俺の出した改修案を元に、

改修作業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時間が流れ、

俺は新しく生まれ変わったグレイズの最終チェックを行っていた。

 

 当初、

阿頼耶識システムを取り付けての操作は苦痛だった。

頭の中が焼ける様な痛みが走り回ってきて、

気を失いそうだった。

 

 原因はMSの情報量が多く、

システムの処理能力に脳が追いつかなくなっていた事だった。

 

 それに対処するために、

脳に入る情報量を制限するリミッターをつけ、

必要な行動以外の情報を処理しないように心掛けた。

 

 そうする事で、

脳に掛かる負担が軽くなり、

気を失う事なく操作を行う事が出来た。

 

「終わったよシノ」

 

 チェックしていたヤマギが声をかけた。

システムを終了してコクピットから出る。

 

「ありがとうヤマギ」

 

 手伝ってくれたヤマギに礼を言う。

 

「良かったのシノ?」

 

「何が?」 

 

「団長の方に行かなくて良かったの?

こっちのチェックなんて後でやっても良いのに」

 

 心配そうにヤマギは言う。

 

 

 イサリビは現在テイワズから任された仕事で、

『公営会社ドルトカンパニー』の一つ『ドルト2』に寄港。

 

 オルガ達はドルト2内に入り、

依頼人に工業製品を渡している所だ。

 

 原作ではノルバ・シノはオルガたちの一緒に行動しているが、

俺はMS完成を優先してイサリビに残っていた。

 

「オルガには無理を言って、

こいつに乗せてもらっているからな。

だから早くこいつを完成させたいと思ってな。

俺の無茶な要望に答えてくれて感謝しているよ」

 

「シノ……」

 

 ヤマギが俺をジッと見ている。

 

「なんか変わったねシノ。

いつもの話とかしないし」

 

 ……やっぱり不審に思うか。

MSの整備の話はしても、

プライベートな話はしていなかったな。

ノルバ・シノとは比較的親しいヤマギが異変に気付くのも不思議ではない。

 

 それにしても、

いつもはどういう話をしているんだろう?

 

「いつものシノなら、

フミタンさんやメリビットさんの胸の良さの話とかを力説したりするのに」

 

 ブッと思わず吹きそうになるのを堪えた。

 

 ノルバ・シノ!

あんたなんて話をしてるんだ!

そういえばあんたが女好きなのを忘れていたよ!

 

 ひょっとして、

俺が怪しまれてるのは下ネタを言っていないからか?

だとしたら凄く悲しいぞ!

やっぱり演じようとしなくて正解だった!

 

 ここは今までの自分を変えるために、

女好きを卒業した事にしよう、

そうしよう。

それで押し通す!

 

「俺は変わりたいんだ。

今までの自分から!

女好きの自分から!

ヤマギはそんな俺が嫌か?」

 

「それは……」

 

 ヤマギが考え始めていた時、

イサリビが動き始めているのが感じ取れた。

 

「何これ?

何でイサリビが?」

 

 ヤマギが混乱している。

普通船を動かす場合、

ブリッジから船を動かす連絡が入る。

それがないのに動いたのだから戸惑うのも無理はない。

 

 何があったのかは、

俺はある程度予想出来た。

 

 原作ではオルガ達が渡した荷物の中には、

工業製品ではなく大量の武器と武装したMWが入っていた。

 

 目的は依頼人であるコロニー労働者達が、

会社に武装蜂起するためだった。

 

 そこにギャラルホルンの歩兵部隊が乱入。

オルガ達はイザコザに巻き込まれる事になる。

 

 イサリビが動いたのは、

イザコザの現場にイサリビが停泊していれば厄介な事になると判断したオルガが、

イサリビを動かすよう命令したに違いない。 

 

「悪いヤマギ!

話は後だ!」

 

 俺は近くにある通信機でブリッジに連絡を入れる。

 

「あなたは……」

 

 メリビットさんが通信に応じた。

 

「メリビットさん、

何があったんだ?」

 

 あえて知らないふりをする。

 

「実は……」

 

 メリビットさんが先程まで起きた事を話す。

その内容は俺が予想していた内容と一致していた。

この後の展開に備えておかないと。

 

「俺はこれからおやっさん達に頼んで、

MSの発進準備をしておきます」

 

「ちょっと!

団長さんからの許可無く行動するのは駄目よ!」

 

「オルガ達が面倒事に巻き込まれてるんです!

万が一に備えるべきでしょう?

大丈夫ですよ。

MSを動かすんじゃなくて、

いつでも動かすようにしておくだけです」

 

「……分かったわ。

団長さんから連絡がきたらすぐに知らせるわ」

 

 通信が切れた。

俺はおやっさんの所に向かった。

 

「おやっさん!」

 

「どうしたシノ?」

 

「MSがいつでも発進出来るように準備を頼みます!」

 

「いきなりだな。

何があった?」

 

「オルガ達がギャラルホルンと、

コロニーの労働者達のイザコザに巻き込まれたみたいです。

何かあった時のために備えておかないと」

 

「つまりおめえの独断って事か。

それは不味いんじゃねえのか?

戦闘になると決まったわけじゃねえだろ?」

 

 おやっさんが腕を組む。

MSの発進準備の作業は簡単な事じゃない。

推進剤や弾薬等を満タンにしておいたり、

宇宙での戦闘なのでコクピットの機密チェックをしておく等、

簡単な作業ではない。

 

 それを俺の独断で行うのは問題だ。

おやっさんの指摘も当然だ。

 

 だがこの後戦闘になると知っている俺としては、

準備をしておく必要がある。

 

「何も無ければ俺が責任をとりますよ。

万が一のためにも備えた方が良いでしょう?」

 

「万が一にもねえ。

おめえのMSは出来たのか?」 

 

「はい、

チェックを終えたばかりです」

 

「発進準備をしておくだけだな?」

 

「はい。

オルガが戻ってくるまで待機していますよ」

 

「しょうがねえな。

責任をとるって言ったからには忘れんなよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 頭を下げようとしたが、

おやっさんが手を出していたので止めた。

 

「よせよ。

礼を言われる事をしてんじゃねえからよ。

それよりも、

こっちの手伝いをして貰うぞ」

 

「分かりました」

 

 これでいい。

気休め程度だが、

この後の展開が楽になるだろう。

 

 俺はこの先の展開を知っている。

そこで起きる悲劇も。

 

 今回の騒動の一連には、

鉄華団に自身の護衛任務を依頼した『クーデリア・藍那・バーンスタイン』の支援者、

『ノブリス・ゴルドン』が絡んでいる。

 

 彼の目的は、

クーデリアを抹殺することであり、

コロニーの暴動を鎮圧するギャラルホルンの仕業に見せかけて暗殺する予定だった。

 

 彼女は火星独立運動の中心人物であり、

もし彼女が死亡すれば、

火星独立派の人達が暴動を起こし、

やがて争いの火種となって火星全体に広がる事は想像に難くない。

 

 火星は地球の国家群が統合されて出来た四つの経済圏によって、

分割統治されており、

火星全体で暴動が起きれば、

地球市場経済の混乱は避けられず、

それを利用すれば莫大な利益を得る事が出来る。

それがノブリスの狙いだった。

 

 本来ならば火星で彼女は死亡する予定だったが、

鉄華団の活躍で生き延びた。

そこで予定を変更して、

ドルトコロニーで始末しようとノブリスは考えた。

 

 だがそれも失敗に終わる。

 

 クーデリアの侍女『フミタン・アドモス』。

その正体はノブリスのスパイで、

火星での失敗後は鉄華団の動きを常に報告していた。

 

 その彼女が、

クーデリアを暗殺しようとしたノブリスの部下から庇って死亡し、

暗殺は失敗するからだ。

 

 クーデリアにとって長年使えてくれた信頼できる人物の死。

 

 その悲劇が起きようとしている。

だが俺はそれをあえて見逃した。

 

 彼女を助ける事は出来た。

コロニー入港前に、

クーデリアを抹殺するための指示が送られた、

ノブリスからのメッセージを見つけたとでっち上げて、

彼女を拘束すればいい。

 

 しかしその場合、

クーデリアはコロニー内に行こうとはしないだろう。

そしてコロニー内の虐殺に近い鎮圧を目撃しない事になる。

 

 コロニーの労働者の実態を目の当たりしないままでは、

虐げられる全ての人々を救済する存在になる決意が生まれない可能性がある。

 

 親しい人の死とコロニー労働者の実態を目の当たりする事で、

心に深い傷を負うも、

火星だけではなく虐げられる全ての人々の希望となる事を決意したクーデリアは、

精神的に大きく成長する事になる。

 

 この先の展開を切り抜けるためにも、

成長したクーデリアの力は必須だ。

俺はそう判断した。

だからあえて見逃した。

 

 俺が今出来る事は、

この事態を早く収束させる事だけだ。

戦闘になると分かっているのなら、

早めに準備をしておく。

それが今の俺に出来る事だ。

悪く思うなよ。  

 

 




次回予告
「最初は色を塗るつもりは無かった。
名前をつけるつもりも無かった。
だが整備をしている内に、
愛着がわいてきた。
今なら分かるよノルバ・シノ。
これから共に戦う相棒はかっこよくないとな!
次回『決意新たに』。
初陣轟かせてやろうぜ!」
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