機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ異伝 ~死の戦記~ <完結> 作:二円
ギャラルホルン月外縁軌道統合艦隊『アリアンロッド』の本隊が、
イサリビの前に現れた。
このまま近づけば、
敵艦隊の砲撃の嵐に飲み込まれる事になるにもかかわらず、
イサリビは前進し続けていた。
何時砲撃が始まってもおかしくない。
いやが上にも緊張が高まる。
その時、
イサリビから映像通信が入った。
そこに映っていたのはクーデリアだった。
「私はクーデリア・藍那・バーンスタイン。
私の声が届いていますか?」
同行した報道陣の協力で全世界に向けて、
クーデリアによる演説生放送が始まったのだ。
「皆さんにはこれから、
ドルトコロニーで今起きている事、
そこに生きる人々の真実を偽りなく伝えたいと思います」
「私は火星に生まれ育ちました。
厄災戦の時に地球と火星の間に結ばれた経済条約によって、
火星のハーフメタル等が地球に搾取され、
経済状況が悪化し火星に生きる人々は苦しみ、
『ヒューマンデブリ』と呼ばれる人身売買される孤児達が存在しているのです」
俺は首を傾げていた。
おかしい、
原作では火星について演説していなかった筈だ。
何が起きた?
だが悪くはないと思った。
クーデリアの存在は火星でも、
活動家以外からは名前だけ一人歩きしてる程度の知名度で、
ギャラルホルンによる情報統制が敷かれているために、
火星以外の知名度は皆無と言っていい。
コロニー労働者達が彼女の名を知っていたのは、
ノブリスがコロニー労働者達を煽るのに彼女の名を使ったからだ。
報道関係者ですら、
クーデリアの事を知らなかったのだから、
演説生放送を見ている人達は画面に映っているクーデリアを、
誰だこいつはと思っていたに違いない。
だから自己紹介の意味も兼ねて、
火星について話をするのは悪くはない。
「私はそのような人々を救いたいと願い、
行動してきました。
けれど私はあまりにも無知でした。
ギャラルホルンの支配に苦しむ人々は火星だけではなく、
宇宙の各地に存在していたのです。
そして地球圏内でも例外ではありません。
私はドルトコロニーで、
自分たちの現状に立ち向かおうとする人々に出会いました。
彼らはデモという手段をとりました。
しかしそれはあくまで経営陣、
そしてギャラルホルンとの対話を求めていました。」
ギャラルホルンも今頃慌てているだろう。
放送を止めようにも、
四大経済圏の一つ『アフリカユニオン』からの要請で、
放送を止める事は出来ない。
これにはノブリスが一枚噛んでいる。
クーデリアがノブリスに協力を要請していたのだ。
真相を知った上で己を利用しようとするクーデリアに、
ノブリスは殺すよりも生かすほうが利益になると考え、
暗殺を取り止める事になる。
「しかし彼らが行動を起こした際、
まるで示し合わせたかのように付近で謎の爆発が起こったのです。
その時の映像を見てください」
ドルト3本社ビル前で発生した謎の爆発シーンが流された。
「この映像を見ても明らかに、
外からではなく内側から起きたものと分かるはずです。
断言します。
謎の爆発はコロニー労働者達が起こしたものではありません。
けれどそれをきっかけに、
ギャラルホルンは労働者たちに攻撃を開始しました。
そしてその鎮圧という虐殺は今も続いているのです!」
爆発のシーンを検証している事に俺は驚いた。
これも原作には無かったものだ。
映像による検証には打ち合わせが必要だ。
原作より早くイサリビに合流できた分、
報道陣と打ち合わせするだけの時間が出来たのかもしれない。
だがおかしい。
何か変だ。
俺は違和感を感じていた。
「今私の船はギャラルホルンの艦隊に包囲されています。
ギャラルホルンに私は問いたい。
あなた方は正義を守る存在ではないのですか?
これがあなた方の言う正義なのですか?
このような小細工を弄する時点で、
それはもう正義とは呼びません。
真に正義であるならば、
このような小細工は必要ないのです。
正々堂々としていれば良いのです。
ではなぜこのような事を行ったのか?」
冷や汗をかいた。
戦闘でもかかなかった汗をかいている。
放送の発信源がバレたからではない。
クーデリアの発言に危険を感じたからだ。
「全てはギャラルホルンが、
コロニー労働者を反乱分子に仕立て上げ、
大義の元に殲滅するという計画だったからです。
そのような行為を正義と主張するなど私は認めません。
私の発言が間違っているというのならば構いません。
撃ちなさい!
私を今回の首謀者に仕立て上げ殺害し、
このような行為がこれからも、
まかり通ると本気で信じているならば、
今すぐに私の船を撃ち落としなさい!」
俺は絶句していた。
クーデリアの発言が啖呵を切るというよりも、
撃って来いと言わんばかりの挑発というレベルだった。
「……おいおい、
煽り過ぎだろう」
昭弘の文句に思わず俺は頷いていた。
「どっちにしろ、
やるだけやるさ」
三日月が迎撃に動こうとしていた。
気がつけばグレイズの部隊が接近し、
ライフルを構え始めているのが見えた。
まずい、
三日月を止めないと。
「動くな三日月!」
「シノ?」
「こっちから動かなきゃ、
向こうは撃ってこない。
だから動くな!」
「どういう事だ?」
昭弘が聞いてきたので答えておく。
「今イサリビを攻撃したら、
悪事を認めた形になる。
そうなればギャラルホルンの支配体制が崩れかねない。
だから世界中の人が見ているこの状況で、
こっちが下手に動かない限り、
向こうは撃ってこない筈だ。
だから動かないでくれ」
「分かった」
俺の言葉に三日月が
信じてくれたようだ。
「筈って何だよ筈って。
まあ構わないがよ」
呆れていた昭弘だが、
一応俺の言葉に従ってくれた。
後はこのまま過ぎていくのを待つだけだ。
しかし先程の彼女の発言を聞いて、
上手くいくか不安を感じていた。
実際これは賭けに近い。
向こうがクーデリアの挑発に近い発言に乗って、
攻撃してもおかしくはない。
絶対に攻撃されない保障がなかった。
何事も起きないように祈っていた。
その祈りが通じたのだろうか。
グレイズの部隊の動きが止まった。
ライフルの構えは解かれ、
銃口は上に向けていた。
「……これはいったい」
昭弘は呆然としていた。
どうやらギャラルホルン統制局が手を出すなと、
緊急命令を出したようだ。
動かなくなったグレイズの部隊をイサリビは通り過ぎていく。
背後から襲い掛かってくる気配は全く無かった。
「シノの言うとおりになった。
すごいなあいつ。
俺たちが必死になって一匹一匹プチプチ潰してきた奴等を、
声だけで止めた。
こんなのオルガだって出来ない」
クーデリアを褒めていた三日月だが、
俺は素直に評価出来なかった。
クーデリアは何故あのような挑発に近い発言をしたのか?
原作でノルバ・シノはオルガ達と共にドルトコロニー内に行っていたが、
俺が行かずにいた事が響いたのだろうか?
一体ドルトコロニーで何があったのか?
彼女に聞いてみる必要がある。
間もなく包囲中のギャラルホルン艦隊を抜けようとしている。
急いで帰艦したくて俺はうずうずしていた。
イサリビに帰艦し、
イナヅマ号をハンガーに納め、
ヤマギにイナヅマ号の整備を任せた後、
俺はクーデリアの部屋に向かっていた。
そこにいる確証はなかった。
フミタンの死に悲しんでいるかもしれないという予想だった。
しかしその予想は外れた。
向かう途中の通路で、
佇むクーデリアを見つけたからだ。
原作ではクーデリアと三日月がキスをしていた場所だった。
何かを握っているのを見つめていたクーデリアがいた。
おそらくフミタンの形見のネックレスだろう。
声を掛けるのを一瞬躊躇ったが、
ここまで来て静かに去る事は出来ない。
クーデリアに話をしよう。
「お嬢さん」
俺はお嬢さんと呼ぶ事にした。
本当ならクーデリアさんと呼びたかったが、
ノルバ・シノがお嬢様と呼んでいたので、
妥協した。
しかしクーデリアに反応が見られない。
聞こえていないようだ。
今度は肩に触れて話す事にする。
「お嬢さん」
「えっあっすみません!」
ようやく声に気づき、
こちらに振り向いた。
「何でしょうか?」
クーデリアが用を尋ねてきた。
「礼を言いに来たんだ。
ありがとう。
あの演説のおかげで助かったよ」
キョトンとするクーデリアだったが、
演説と聞いて浮かない顔をした。
「……お礼なんて。
あれは演説ではありません」
演説じゃない?
どういうことだろう?
「演説じゃないなら何なんだ?」
「あの時私は、
怒りに身を任せていました。
とても演説と呼べるようなものではありません」
顔を伏せて話すクーデリアの言葉に、
俺はある仮説を立てた。
目の前のクーデリアは、
人々の希望となる事を決意していないのではないか。
もしそうならば原因は何だろうか?
原作との違いがあるとすれば、
俺がドルトコロニー内にいなかった事だ。
原作でノルバ・シノは何かしていただろうか?
何か言っていただろうか?
クーデリアが希望となる決意をしていない原因だろうか?
……希望?
あった。
一つ思い当たる節があった。
確かギャラルホルンの鎮圧と言う虐殺が行われている映像を見て、
何か出来る事はないかと聞くユージンに、
テイワズに迷惑が掛かるからと拒否するオルガ。
そこにノルバ・シノが言った台詞がある。
「おっさん達言ってたじゃねーか。
俺達のこと騎士団ってさ。
英雄で『希望』の星なんだぜ」
それを聞いたクーデリアは宣言する。
「私は……私はこのまま地球へは行けません。
私が地球を目指したのは火星の人々が幸せに暮らせる世界を作るため。
でも火星だけじゃなかった。
ここの人たちも同じように虐げられ踏みつけられ命さえも。
それを守れないなら、
立ち上がれないなら、
そんな私の言葉など誰も聞くはずがない。
私は戦います。
たとえ一人でも。
もう逃げない二度と。
フミタンが言ったように私はあの本の少女のように希望になりたい」
形見となってしまったフミタンのネックレスを両手に握り締めながら、
決意を表明していた。
これはつまり、
ノルバ・シノが言った希望という言葉に、
クーデリアが反応したのではないだろうか?
それを俺がいなかったために、
クーデリアが希望となる決意をしていないのではないか?
その代わりに、
フミタンや目の前で亡くなったコロニー労働者の仇を討ちたいという、
感情的な気持ちで動いていたのではないか?
そう考えると、
あの挑発的な内容にも納得がいく。
まずいな。
俺が原因でクーデリアが激情に駆られた復讐者になろうとしている。
どうにかしないと。
「……あの」
クーデリアが声を掛けてきた。
「届いていましたか?」
聞いてではない。
届いてと言った事の意味を考える。
おそらく彼女の演説を聞いて、
どう思ったかと聞いているのだろう。
答えに迷ったが、
正直に思った事を口にする事にした。
「演説じゃないと言うけど、
俺はそう思わない。
あれは死んでいった者達の代弁に聞こえたよ。
感情的だった分、
それが強く伝わったな」
クーデリアは自身の演説を、
怒り任せの悪口と思っているようだが、
それは違う。
もしもクーデリアが何もしなかったら、
コロニー労働者達はクーデターを起こした反乱分子として仕立て上げられ、
処刑されていただろう。
あの演説の前半部分は、
彼等の汚名をすすいだ内容だった。
唯の悪口じゃない。
「……代弁ですか?」
クーデリアが意外そうな顔をしていた。
変な答えだったか?
俺が疑問を抱いている事に気づいたクーデリアは、
申し訳なさそうに答えた。
「……すごかったとか、
面白かったとかそういう抽象的な答えが返ってくると思っていましたので」
思わず肩を落としそうになった。
クーデリアから見たノルバ・シノは単純そうに見えていたようだ。
否定しない。
「すみません。
でも意外でした。
深く考えてくださるとは思わなかったので」
まるで自分の演説には、
高評価される程の価値はないように聞こえる。
自虐的というより自己嫌悪に陥っているようだ。
まずい事になりつつある。
少なくともあの演説に感動している人達がいる。
その事を知ってもらわないと。
「一言で片付けられないくらい凄かったって事さ。
あの三日月だって褒めてたよ」
「三日月が?」
「声だけで止めた。
こんなのオルガだって出来ない。
すごいなあいつって言ってたよ」
「そうですか、
三日月が……」
まだ弱いな。
もう一押しといこう。
「それだけじゃない。
コロニー労働者達はあの演説を聞いて、
希望を見出したと思う」
「えっ」
希望という言葉に反応するクーデリア。
「あの演説が無かったら、
コロニー労働者達はギャラルホルンに粛清され、
その先の未来は真っ暗闇だった筈さ。
でもお嬢さんの演説のおかげで、
それは食い止められた。
絶望的な状況を変えただけじゃない。
消えていく筈の彼等を救ったんだ。
それは誇っていいんじゃないか?」
クーデリアの握っている手が震えていた。
フミタンの事を思い出していたのだろうか?
「ギャラルホルンに囲まれて、
絶望的な状況に俺の心は真っ暗だったよ。
生き残れないと思ったからな。
でもあの演説が聞こえた時、
真っ暗闇の中から一筋の光が見えたような気がしたよ。
きっとあれは、
希望の光だったんだと思う。
コロニー労働者達も俺と同じものを見たと思うよ」
我ながらクサイ台詞を吐いたなと思う。
希望という見えないものを言葉にするには、
仕方ないと割り切る事にする。
クーデリアの手の震えが止まっていた。
何か考えているようで暫くの間無言の状況が続き、
ようやくクーデリアの口が開いた。
「ありがとうございます。
この後用事がありますので、
失礼します」
お辞儀をしてクーデリアはその場を去って行った。
クーデリアにはどう伝わっただろうか?
一応希望という言葉を言ってみたが、
それで希望の存在となる決意をするなんて、
単純な結果になるとは思っていない。
これを切っ掛けになってくれればと思っている。
俺に出来る事はここまでだろう。
後は三日月に任せよう。
タービンズの船『ハンマーヘッド』がイサリビに合流。
その後の話をする事になった。
当初はテイワズの船として地球共同港を経由して、
地球に降り立つ予定だったが、
先程のクーデリアの演説で、
ギャラルホルンにマークされその手は使えない。
他の手段を考えている中、
一隻の船が接近してくる。
その船から通信が入るので応じると、
何と白髪に黄金の仮面を付けた男が映っていた。
男は『モンターク商会』の者と名乗り、
彼らに商談を持ち掛ける。
その内容は地球までの降下船を用意しており、
その見返りとして、
ノブリスとテイワズのリーダー『マクマード・バリントン』が得るであろう、
ハーフメタルの利権に加えて欲しいというものだった。
返答は一時保留となり商談の席は解散。
イサリビはモンターク商会からの手土産と称する補給物資を受け取り、
確認作業を行っていた。
俺は何をしているかというと、
イサリビにはおらず、
ハンマーヘッドに格納している百錬に搭載されている、
MS戦闘シミュレーションを昭弘と共に行っていた。
百錬には阿頼耶識システムはない。
そのためグレイズと同じ操作で行う。
操作形態が違うので戸惑う事もあるが、
判断力や操縦技術が鍛えられる事もあって、
全力で取り組んでいる。
ちなみに今やっているのは、
宇宙を舞台にしたMSによる一対一の決闘で、
昭弘を相手に闘っている。
使用するMSはシステムの都合上百錬のみ。
今回は区別をつけるため、
昭弘の機体は赤色、
俺の機体は青色で設定されている。
使用武装はアサルトライフルに片刃式ブレードのみで、
同じ性能と武器をもつMS同士の戦闘のため、
勝敗はパイロットの技量によって決まる。
シミュレーション開始と同時に昭弘の乗る赤い百錬が、
アサルトライフルをこちらに向けて近づいて来る。
俺は付かず離れずの対応で迎え撃つ。
それが気に入らないのか、
赤い百錬はアサルトライフルの引き金を引いた。
三発の弾丸が放たれる。
距離は遠かったので、
スラスターによる平行移動で難なくかわす。
それだけで終わらず、
赤い百錬は射撃を続け近づいて来る。
距離が遠いのでかわせるが、
その分近づかれる事になり、
付かず離れずの状態が崩れつつある。
俺はアサルトライフルの射撃モードの変更を行う。
このアサルトライフルは一度引き金を引けば、
一発だけ発射される単発射撃、
三発連続発射されるバースト射撃、
引き金を引いた分だけ連続発射されるセミオート射撃、
全弾発射されるフルオート射撃の四つの射撃モードがある。
つまり昭弘は先程からバースト射撃している事になる。
俺は牽制のため弾薬節約のために単発射撃モードに設定し、
一発だけ射撃する。
赤い百錬は避ける事無く、
アサルトライフルを持つ腕とは逆の、
左腕の肩部分にあえて受けさせそのまま近づいて来る。
「それで止められると思うな!
シノ!」
昭弘からの通信が気迫と共に伝わる。
やがて二機の距離が格闘出来るまでに近づかれた。
こちらは回避に全力を尽くした分無傷だが、
赤い百錬の方は弾丸全てが肩に命中するも、
受け流すようにしていたために目立った損傷は見れらない。
赤い百錬が腰にマウントしている片刃式ブレードに取り替えようとする。
俺は今までの付かず離れずを止め、
左腕から片刃式ブレードを取り出し、
ブーストを吹かし近づいた。
「何!?」
いきなり近づかれ一瞬驚く昭弘だったが、
うろたえる事無く、
片刃式ブレードを取り出すのを止め、
アサルトライフルをこちらに向けて引き金を引く。
俺は片刃式ブレードを盾にし弾丸を弾き、
今度はブースとを全開にして近づいた。
撃たれる心配はない。
何故なら向こうのアサルトライフルは弾切れだからだ。
同じ装備なら当然残弾も同じだ。
それを利用して、
射撃数から残弾を計算していた。
そして弾切れ近くまでになったら近づき、
その射撃で弾切れにさせ、
武器を変える前に叩く。
それが俺の作戦だった。
射撃モードをセミオートに変更して引き金を引く。
バースト射撃以上の弾丸が赤い百錬を襲う。
咄嗟にコクピットを左腕で庇うようにしたため、
コクピットに着弾は阻止されたが他の部分に命中。
撃墜には至らずとも、
身動きが取れない状況になった。
これを見逃す手はない。
俺はコクピットを庇う左腕を払うため、
片刃式ブレードを振るう。
すると赤い百錬は弾が空となったアサルトライフルで、
片刃式ブレードを持つ手首を突いてきた。
てっきり盾にすると思っていたので、
この動きに対応できず、
アサルトライフルの銃口が手首に当たる。
振るう腕の動きが止まり、
切り裂く事が出来なかった。
だがまだ俺の攻撃が終わった訳ではない。
アサルトライフルを赤い百錬のコクピットに向けて撃つ。
この距離なら外さない。
これで上手くいくと思った時だった。
何と赤い百錬がコクピットを庇う左腕でアサルトライフルの銃口を掴み、
銃身を曲げたのだ。
引き金を引くのと銃身が曲がるのとは同時だった。
弾丸は銃身が曲がったために詰まり暴発。
まだ弾が残っていたマガジンもそれに巻き込まれ、
暴発の連鎖が起きる。
アサルトライフルを持っていた右腕は、
暴発に見事に巻き込まれ、
右手が使い物にならなくなっていた。
機体の状態をチェックするために、
目を逸らしていたのが拙かった。
赤い百錬が両腕で首を掴んだのだ。
どうやら暴発寸前に手を離したようで、
左腕は損傷しなかったようだ。
首を掴まれたために、
視界が封じられ、
密着に近い状態のために武器を振るえない。
掴んでいる腕を離そうとした時、
コクピットに衝撃が走った。
コクピット損傷判定の表示が出た。
一体何が起きたのか?
先程までのシーンが再生される。
それで何が起きたのか分かった。
赤い百錬が脚部のブーストを生かして、
膝蹴りを放ちコクピットに直撃したのだ。
負けた。
弾切れを狙って仕掛けたにも拘らず、
返り討ちにあった。
結局一勝も出来なかった。
悔しかったがそれ以上に、
次こそは勝ちたいという気持ちが強かった。
いや、
次こそじゃない。
次は絶対だ。
次はどのような戦法で闘うか考えていると、
昭弘が声を掛けてきた。
「おい!
大丈夫かシノ!?」
気がつけば操縦席が上がっていた。
どうやらシミュレーションが終了してもコクピットから出て来ないので、
強制的に動かされたようだ。
「すまない。
考え事をしていたんだ」
「考え事?
まあ無事なら良いけどよ」
「そろそろ一息つけようか。
訓練に付き合ってくれてありがとう。
次の戦いに備えて戻ろうか」
操縦席から離れる。
協力してくれた整備員達に礼を言っておかないと。
「……本当に変わったんだな」
昭弘の言葉に一瞬緊張が走った。
「何が?」
「前に今までの不甲斐ない自分を変えたいと言ったあんたの言葉。
俺は信じちゃいなかった」
オルガにMSを乗らせて貰うように頼んでいた時の話か。
確か隣に昭弘がいた事も思い出す。
「あれは口実だと思った」
「口実?」
何の事だ?
それを聞こうとすると、
昭弘はそっぽを向いて話しかけた。
「タービンズの人達を、
……口説くために」
おいおいおいおい!
ノルバ・シノ!
あんたって人は!
思わず叫びたくなるのを我慢した自分を褒めたくなった。
確か初めてハンマーヘッドに来た時に、
ユージンと一緒にタービンズ全員に口説いて、
玉砕し項垂れるシーンがあった事を思い出した。
成る程、
シミュレーション訓練を行うという口実で、
ハンマーヘッドに向かい、
何度もタービンズの人達を口説き続けようと思われていたのか。
ヤマギの時もそうだったが、
言動がおかしいからではなく、
女性を口説こうとしないからおかしいと思われるのは、
悲しくってしょうがない。
嫌悪感を抱いていた時だった。
「悪かったな疑って」
昭弘がこちらに顔を向けて頭を下げて謝った。
その行動に俺は慌てる。
「何で謝るんだよ昭弘?」
止めるように言うが、
昭弘は頭を下げたままだった。
「あんたが自分の言った事に真剣に行動するとは思わなかった。
勢いで言ってみただけだと思っていた。
いや違うな。
あんたの覚悟を俺は疑った。
だから謝りたい」
それは違うぞ昭弘。
昭弘に非はない。
全ては俺がノルバ・シノになった事が原因だ。
でもそれを言う事が出来ない。
謝るべきは俺だ。
だから謝る必要はないんだ。
言いたくなるのを堪えて、
昭弘の謝罪を止めさせる事にする。
「頭を上げてくれ昭弘。
あんたは全く悪くない。
今までの行動を見ていれば、
そう思われても仕方がないさ。
それとも、
今の俺はそんなに嫌か?」
「そうじゃねえ!」
昭弘が顔を上げた。
俺は昭弘の肩を掴み、
話を続けた。
「なら謝らないでくれ。
それは自分を変えて鉄華団を守りたいという俺の決意が、
間違っているって言ってるようなもんだ。
違うだろ?
だから謝らないでくれ」
しっかりと昭弘の目を見る。
最初は目を逸らしていた昭弘だったが、
やがてこちらに目を向けた。
「わる、
……分かった」
思わず悪かったと言いそうになっていたが、
あえて無視し肩を掴んでいた手を離す。
「それじゃこの話は終わりだ。
行こうか」
「待ってくれシノ。
一つ聞かせてくれ。」
昭弘が呼び止める。
何を聞きたいのだろう?
「何があんたをそこまで変えたんだ?」
変えようとし続けられる原動力は何かを知りたいようだ。
俺は答えをぼかす事にした。
「俺には叶えたい夢がある」
「叶えたい夢?」
「言わないけどな」
「何だそりゃ?」
「もし叶ったら、
教えるよ」
俺の目的は自身の生存と、
ビスケットを生存させて鉄華団の悲劇を回避させる事。
それを叶えたい夢として誤魔化した。
「へっ、
だったら死ぬんじゃねえぞ。
興味ないけどな」
昭弘がふっと笑っていた。
女好きとして知られるノルバ・シノが叶えたい夢となると、
そういう関係のモノと誤解しているのかもしれない。
誤魔化している都合上、
誤解を解く事はしない。
昭弘の想像に任せる事にする。
それよりもある事に気づいた。
死ぬんじゃないと昭弘に言われた先程の言葉、
それは夢を叶えるまで死なずに頑張れよという、
昭弘なりの声援ではないだろうか?
考えすぎかもしれないが、
そう思うと不思議と嫌悪感を抱かなかった。
「けど意外だな。
そんな単純なもので変わるなんてよ」
「そういうものさ。
どんなに凄い事を成し遂げた人も、
その動機も凄い訳じゃない。
至極単純だったりするものさ」
「そういうものか?」
少なくともオルガはその一人だと思う。
言ったらまずい事になりそうなので言わないけど。
「動機がどうであれ、
その結果みんなを守る事が出来る。
パイロット冥利に尽きるってもんさ」
「だな」
納得したような顔をする昭弘。
これで質問は終わっただろう。
この場を後にしてイサリビに戻り、
イナヅマ号のチェックをしておかないと。
次の戦いは、
この先の展開を左右する重要なものだからな。
絶対に成功させてみせる。
ここからが本当の戦いだ。
次回予告
「遂に来た。
来てしまった。
備えはしてあるが、
上手くいく保証はない。
もしかしたらそれが原因で死ぬかもしれない。
これがプレッシャーってやつか。
でもやるしかない。
この先の展開を知る俺にとっては、
なんとしてもやらなければならない。
次回『宇宙(ソラ)で果す願い』。
ここで倒す!」