真・女神転生デビルサマナー ~時と世界と魔法を超えて~ 作:ナベリウス
2/10 1:40 一部内容を変更
地下室での衝撃的な出来事から一晩明け、結局一睡もできずに俺は中学で所属している剣道部の朝練に出たものの、案の定集中力が足りないと何度も先生から注意を受けただけでなく、1時間目から最後までの大半を居眠りして過ごし、毎時間先生たちに叩き起こされてはクラスメイトたちから笑われてしまった。俺は放課後にある部活を休ませてもらい、そそくさと帰宅の途につくのであった。
「ただいま~」
「あ、兄さんお帰り」
「お帰り兄ちゃん!今日は早う帰ってきたんやな」
「あ、ああ。結局朝まで眠れなかったから、体調が悪いって言って部活休ませて貰ったんだ」
匠真とはやてが玄関まで出てきて俺に声をかけてくる。俺は靴を脱いで2人とリビングに行くと既に母さんも帰っていて、夕飯の準備をしていた。
「ただいま母さん」
「晃祐?荷物は自分の部屋に置いて来なさい!」
「……解ったよ」
洗面所で手洗いとうがいをした後、2階の自室に戻ってスウェットに着替え、再びリビングへ。
「そういや父さんは?」
「お父さんは今日から職場の研修で3日間いないわ」
「そっか。まあいない方が色々と楽だし良いか」
「……もう。其処の戸棚の中に煎餅が入ってるから食べてなさい。お茶は飲むんだったら自分達で入れて」
「ういー。2人ともお茶いるか?」
「私はいるで~」
「じゃあ僕も」
母さんが指差した台所の戸棚を開けると、そこには"ピーナッツ入り南部煎餅"が入っていた。それを袋から出して皿に移した後、お茶を淹れる準備をする。まずはポットのお湯を一度湯呑みに入れて、温度が80℃位になるまで冷まし、その後ゆっくりと急須に入れて1分ほど葉が開くのを待つ。こうすることで渋味が抑えられ、なおかつ旨味を引き立たせることが出来る。そして急須から湯呑みに移すときは少しずつ均等に注ぎ分けて美味しい煎茶の完成だ。
因みにこれは若干高級な煎茶の入れ方で、一般的に市販されている煎茶は湯冷ましをする必要が無く、ポットからお湯を急須に入れて30秒程で湯呑みに移した方が美味しく飲めたりする。
「前々か思っとったけど、兄ちゃんってやけにお茶の淹れ方に詳しいよねぇ」
「兄さんはお祖母ちゃんから何回も教えて貰ってたからね」
「よし出来た。さーて食べようか!」
俺達3人は煎茶を飲みつつ南部煎餅を口にする。煎茶の味と煎餅に入ったピーナッツの香ばしさが一体となって口一杯に広がる、正に至福の一時だ。匠真もはやても幸せそうな顔をして口にしているのを見て更にほっこりとする。
「兄ちゃんテレビつけてやー」
「おう」
俺はリモコンに手を伸ばして電源を入れる。すると、
「――いらはいいらはい!よーこそサトミタダシへ~おじちゃんの事"サートちゃーん"ってよんでねぇ~!!」
ちょうど"僕らの街のお薬やさん"こと"サトミタダシ"のCMが流れはじめた。CMはおろか、店に行ってもエンドレスで流れ続けているこの曲は"電波ソング"と名高く、一部店舗では演歌バージョンやテクノバージョンといったアレンジを加えたものまである始末。俺達の住む海鳴市や近隣の珠閒瑠市でこの曲を知らない者はいないと言われる位の知名度を誇る。
すると2人は声を合わせ、曲に合わせて歌い始める。俺もそうだけど、この2人も完全に洗脳されてしまっているのだ。
「♪石化回復ディ~ストーン~♪」
「匠真君そこは♪SP回復チュイ~ンソ~ル♪やで!」
「ディストーンだよ!」
「チューインソウルや!」
「まあまあ2人とも……」
「兄さんは黙ってて!!」
「兄ちゃんは黙っときや!!」
「……はい」
匠真とはやてはこのCMが流れる度に"ディストーン"か"チューインソウル"かで言い合いをする。CMやほとんどの店舗では"チューインソウル"で流れているんだけど、創業店のある御影町の全店舗やその他の街の一部店舗では"ディストーン"で流れていたりする。俺達は5年前に海鳴市に引っ越すまでは御影町に住んでいたから"ディストーン"の方が馴染み深い。
最終的にはいつも言い合いをしていたはずの2人は気付くと、
「♪サト~ミタダシはおくすりや・さ・ん!♪」
「♪サト~ミタダシはおくすりや・さ・ん!♪」
と、3番の最後までデュエットしている。仲良き事は美しきかな。
煎餅を食べ終わると皿と湯呑みをお盆に乗せて台所に持って行き、その後は夕飯が出来るまで3人でテレビを見ながら色々と話をした。夕食後、母さんが皿洗いを終えて戻ってくると俺たち3人をテーブルの所に呼び、昨日の話の続きを始めるのだった。
「……3人ともいいわね?昨日の話の続きだけど、はやてちゃんの持っている"あの本"は、所謂
「マジで?地下室ではやてに冗談でエロイムエッサイムって言ったけど、あれって本当だったのかよ!」
「正確には"エロイムエッサイム我は求め訴えたり"っていう呪文ね」
「ほな、この本には悪魔を召喚したり魔法の使い方が載ってるってことなんやな?」
「見ての通り鎖で封じられてるから正確な内容は解らないけれど、この闇の書は転生を繰り返しては主を換えて、"魔導師の魔力を奪い取って蓄積し、一定のレベルにまで達すると暴走を始める"というものらしいわ」
「ええっ!それってとんでもなく危険なものなんじゃ!?」
「そうね、そしてこの本のもう1つ質の悪い所は、一定期間魔力の菟集を行わないと主の命を脅かす」
「じゃあ、はやての半身不随はこの本のせいって事なのかよ」
「それは断定できないけれど、このまま放置しておくと間違いなく危険に晒されるわね。だから解決策が見つかるまで地下室に置いておいたのよ」
「なんで那緒実さんはこの本の事を知っとるん?」
「それは私達悪魔召喚師が所属する"ヤタガラス"という組織があるのだけれど、はやてちゃんのご両親が亡くなられた頃にその本の情報を持って接触してきた人がいたのよ。その人は闇の書の概要と危険性、そして"闇の書を狙う組織"について私達に教えてくれた。それで闇の書の主――即ちはやてちゃんをその"組織"から守るために白羽の矢が立てられたのが、ご両親と顔見知りだった私だったという訳」
「それなら闇の書だけ渡してしまえば一件落着じゃ?」
「そうはいかないからこうしてるんじゃない!"組織"の連中は主であるはやてちゃんもろともこの本を消すつもりらしいの。何が何でも絶対に阻止しなくちゃいけない。年端もいかない女の子の人生を奪うだなんて絶対に許すわけにはいかないわ」
「那緒実さん……いくら父ちゃんと母ちゃんと顔見知りやったとしても、わざわざ引き取る必要なんて無かったやん。私迷惑やろ……?」
はやては昨日と同じく目尻に涙を浮かべ、顔を俯かせてしまう。それを見た母さんもまた昨日と同じく隣に来て頭に手を乗せて語りかける。
「いいえ……私は若い頃からずっと"幸せな家庭"に憧れていた。私も両親を早い内に亡くして、ずっと悪魔召喚師として辛い道を歩んできたから、ご両親の代わりにたくさんの愛情を注いであげようと決意してあなたのことを引き取ったのよ?私には、私達"ヤタガラス"の悪魔召喚師には"力"がある。例えどんな相手であろうと守ってみせるわ。絶対に。」
母さんはその場で立ち上がるた時、その眼はまるで鋭利な刃物を彷彿とさせるかのような眼光を放っていて、こう言葉を続けた。
「――何か方法はあるはず。だから絶望なんてしないで。必ず、救ってみせるから」
母さんは今までも時折鋭い眼光を見せる時があったけれど、今思うとそれは悪魔召喚師としての仕事が舞い込んできた時だったのかもしれない。また同時に、"自分じゃはやてや母さんの役に立たないのでは無いか?"という事を認識してしまい、何とも言えない気持ちになる。そりゃあ、俺が悪魔や悪魔召喚師について知ったのは昨日だけど、ここまで聞かされると今までの自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。どうすりゃいいんだよ……
「兄さん、何そんな気難しい顔してるの?」
「……なんでもない」
「??」
匠真は気楽な奴だ。こんな話をされて何も思わない方がおかしいだろ。
話が終わると、そそくさと風呂に入って自室に戻るが明日の準備も進まない。こんなどうしようもない事で悩むだなんて自分らしく無い!って事は解ってるつもりだけど、上手く切り替えることなんで出来る訳が無い。
「晃祐……もう寝た?」
「いいや、まだ起きてる」
ドアがノックされ、母さんが中に入ってくる。
「晃祐、自分は無力だと思っているんでしょう?」
図星だった。
「……あなたと匠真ははやてちゃんの側にいるだけで十分私の力になっているの。勘違いしないで頂戴」
「でも母さんが昨日みたいに家にいない時はどうすんだよ。その間にはやてを狙う"組織"の連中が来たら意味なんて無いじゃないか」
「昨日はたまたまだったけれど、長く家を空ける時は私の"仲魔"を出して守らせて置いてるから心配要らないわ」
「でも相手が"仲魔"より強かったらどうするんだよ?」
「私の"仲魔"は絶対に負けない」
「でも「デモは機動隊が鎮圧しました!」」
「悩んでないでもう寝なさい。明日もマトモに授業を受けられなかったらどうするの」
「ちょ、なんで知ってんのさ!?」
母さんは部屋から出て行こうとしてこっちを振り返り、
「私に解らない事は無いわ」
全く、母さんには敵わないな……もういい加減寝よう。
それでもほとんど一睡も出来ず、翌日また学校で先生達に怒られたのは別の話。
次回に続く
ご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、実はアトラスが誇る偉大なる名(迷)曲『サトミタダシ薬局店のうた』は3番まであったりします。動画投稿サイトにアップされてあるはずですので、是非一度お聞きになってくださいませ。
次回は人物設定です。