篠ノ之家の弟は阿頼耶識使い   作:木の人

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イチ兄の相談

「あぁもう!! いい加減当たりなさいよ!!」

 

「当たれと言われて当たる馬鹿はいない」

 

 

 ラウラさんに敗北してから数日が経ち、現在は放課後。僕と鈴さんはアリーナで訓練をしていた。

 

 目の前から放たれていると思われる不可視の砲弾を体を捻り、スラスターからエネルギーを最小限に放出、その場で回転しながら見えない砲弾を躱す。このやり取りはこれで数十回、時間的に言えば5分程度。目の前では砲撃が当たらずイライラが溜まっている鈴さんが見える……だって躱しやすいんだもん。正直、肩に浮遊してる物体と相手の視線に気を付けてれば躱せるよね? というより止まらずに動いてれば躱せるよこんなの……でもこんなのじゃダメだ。ラウラさんの停止結界をどうにかする訓練にはならない。受けた僕しか分からないだろうけど何かが向かってくるとかそんな次元じゃない、目の前で止まるんだ。まるで見ていた映像を停止させたようにその場で固定される……だから負けたあの日からこうして鈴さんに無理を言って付き合ってもらってるのに一向に対策らしいことが浮かばないんだよね……どうしよう。いいや、とりあえず潰してから考えよう。

 

 見えない砲弾を躱しながら鉈を握り、瞬間加速。横に逸れるとか上に飛ぶとかではなくただ真っ直ぐに向かうと鈴さんは少しだけ笑みを浮かべた。

 

 

「何狙ってるか知らないけど真っ直ぐ来るなら迎え撃ってやるわ――うっそ!?」

 

 

 二本の青龍刀を合体させ僕に向かってくる鈴さんを走り高跳びのバーに見立てながら加速の勢いを殺さず背面跳び、即座に体を捻って背中に刃を抉りこませてダメージを与える。地面に着地と同時に再度接近、振り向いた鈴さんの真正面で背中から地面に倒れて足払い、転んだ所を逆の足で回し蹴りを喰らわせる。そして鉈を放りハンマーを呼び出して態勢を崩している鈴さんを心臓を潰すように振り上げ――

 

 

「そこまでだ!」

 

 

 箒姉の声がしたので振り下ろす地点を外すとドーンという大きな音が鈴さんの真横から響く。なんだもう終わり? まだやれると思うんだけどなぁ……?

 

 

「ふぅ。鈴さん大丈夫?」

 

「あ、あ、アンタねぇ! 何本気で潰しにかかってんのよ!? 模擬戦なんだから加減ぐらいしなさいよ!! 何回これを体験しなきゃいけないわけ!?」

 

「えぇ……これでも加減してるんだけど……?」

 

「してないわよ!!」

 

 

 鈴さんはご立腹らしい。加減してとか言われてもこれでも最大限、僕が出来る限りの事をしてるんだけどどうやらまだ手を抜けと言いたいみたい……むむむ、これ以上は無理だよ。だってラウラさんに勝つために特訓してるのに意味ないじゃん。そう思わない箒姉? えっ? やりすぎ? う、うっそだぁ……?

 

 

「見てて何度も思うけど凪って凄いよね? あんな動きは代表候補生でも出来ないのに簡単にやってるしさ」

 

「そう? 僕的には普通に動いているだけなんだけど?」

 

「それでもだよ。しかもそれを第三世代じゃなくて第一世代のISでしてるから尚更。どういうセッティングにしてるの?」

 

「き、企業秘密です」

 

 

 だってそれ言ったら阿頼耶識の子とバレちゃうし言えないんだ。ごめんねシャルルさん。

 

 ちなみにだけどシャルルさんは転校当時は僕の事を篠ノ之君と呼んでたけど凪でいいよって言ったら凪って呼んでくれるようになりました。勿論イチ兄の事は一夏、これもイチ兄がそう呼んでくれって言ったんだってさ。こういう所は流石って思うね……コミュ力高すぎぃ! って叫びたかったよ。僕はそこまで社交性というかコミュ力ないしね。

 

 

「でもホント、凪の動きって凄いよな? ISってあんな動きできんのかってぐらい動いてるし。さっきも鈴を背面跳びで追い抜いたり倒れたと思ったら足払いだろ? あんなのやられたら流石に対応できねぇって」

 

「あのさ? あんなのって呼ぶ僕の動きに付いてきて一撃入れたのはイチ兄だよ? その理論で言うとイチ兄もおかしいことになるからね?」

 

「いや俺はおかしくないって。なぁシャルル?」

 

「そうだね……凪の場合は専用機の機動性、そして高速切替(ラピット・スイッチ)で瞬時に対応するに対して一夏はムラがあるんだ。凄い動きをしたかと思えば単純な動きに変わったり、しかも殆ど真っ直ぐだから確かに違うかも」

 

「それなぁ~……なんか白式の操縦が難しいんだよ。凪や鈴と戦った時は自分の手足のように動かせたんだけどさ、白式が要求する反応が高すぎて俺自身が追い付けないんだよ。だから単純になったりはそれが原因だと思う」

 

「でも僕や鈴さんの時は出来たんでしょ?」

 

「多分な……もしかしてただ本番に強いだけか?」

 

 

 いや知らないよ……でもシャルルさんの言う事も分かる。だってセシリアさんや鈴さん、箒姉と1対1で戦っている時はおっ凄い! って場面やなんでそんな風に動くの? って感じでバラバラで統一性がない感じだった。でもたばねぇが作ったISだからねぇ~……あれ? でもイチ兄からデータとかは倉持技研って所に行ってるみたいだって言ってたような……あれ? どっちだっけ? まっいっか。単純にイチ兄が慣れてないだけだろうし。

 

 ちなみに戦績は勝利と敗北が大体同じぐらい。仕方ないよね……負けの大半が遠距離からの攻撃を受けまくったからだし。

 

 

「う~ん、一夏のISって完全に近接型なんだよね? だからそれ用に特化してあるとか?」

 

「分からん。でもこれのおかげでセシリアとは相性悪いんだよ……遠距離から撃たれてたら躱せないし……凪ぃ、お前ってどうやって躱してるんだよ?」

 

「え? 感覚だけど?」

 

「何でそれでできるんだよぉ……」

 

 

 しょうがないじゃん。これ以外言いようがないんだし。でもシャルルさんって相手の事をよく見てるよね? 転校してきて約一週間位経ったけどもう僕たちの動き方を理解してるっぽいし。そのせいなのかイチ兄は僕と鈴さんが戦う前にシャルルさんと戦って負けたんだもんね……射撃武器、卑怯なり。そもそも皆羨ましいんだよ。射撃武器あるし特殊武装あるし拡張領域多いし……僕というか耶識は第一世代で特殊武装? ありませんがなにか? 射撃武器? それより相手を殺すために接近しましょう、という感じでほぼ接近戦主体になるからラウラさんのようなタイプは本当に相性が悪い。特殊武装羨ましいです。でも使わないけど……使ったら脳の負担が多そうだしね。

 

 

「一夏は射撃武器の特性を理解したら動き方は変わると思うよ? 凪のようにってわけにはいかないだろうけど……でも高速切替はどこで覚えたの? あれって簡単にできる技能じゃないと思うんだけど?」

 

「え? 感覚だけど?」

 

「何でそれでできるのかなぁ……」

 

 

 僕はなんでイチ兄と同じ反応するのか気になるんだけど……ほら見てよ、後ろで除け者扱いされている皆さんがご立腹ですよ。構ってあげてイチ兄! あぁもう! なに二人だけの世界になって射撃訓練始めてるんだよぉ! もう鈍感なんだから!

 

 

「……一夏め、何故私に教えてほしいと言ってくれないんだ……男がいいのか、男が好きなのか……それならば凪を近くにいさせるわけにはいかないぞ……!」

 

「はいはいブラコンお疲れさま。でもアンタ、なんで私ばっかに頼むのよ? そこのブラコンとセシリアに頼みなさいよね」

 

「だって見えない攻撃ができるのって鈴さんだけだからさ……ごめんね? ホントはイチ兄の方が良いのに無理言っちゃって?」

 

「べ、べべべ別に一夏が良いとかそんなんじゃないし! というよりなに? あのドイツの代表候補に負けたのがそんなに悔しいの?」

 

「うん。全力を出して負けたから悔しいんだ。だからリベンジしたくてね」

 

「流石私の弟だ。向上心があることは良いことだぞ」

 

「そうですわ凪さん。そ、それでは今度はわたくしと模擬戦を行いましょう。ビットによる射撃回避も何かの役に立つはずですわ」

 

 

 ありがたいんだけど今の僕は見えない系に慣れたいんだよなぁ……仮想敵としてラウラさんを脳内で設定してるけど近接、遠距離共にバランスが良くて攻めきれない。どうするべきか……どうしよう? でも先に言わせてほしいんだけど箒姉? とりあえずあっちで二人だけの世界になってるイチ兄達の方に行こうか。傍から見たら危ない関係に見えるから今すぐ止めるんだ! いけ箒姉! え? 無理? なんでさ……邪魔をすると空気が読めない女に思われる? し、仕方がないね……それは。

 

 呆れながらセシリアさんと模擬戦をしようとすると僕たちがいるアリーナに声が響いた。そのせいで僕やイチ兄達、周りで自主練していた他の子達も一斉に発生源を見つめることになる……ラウラさんだ。ご丁寧にISを展開して戦闘態勢に移行してる。恐らく切っ掛け次第で肩の大砲から砲弾が撃たれるかもしれない……前は僕だったけど今度はイチ兄か……! ふぅ、何かしようとしたらすぐ動こう――確実に仕留めるために思考を切り替えろ。

 

 

「なんだよ?」

 

「織斑一夏。私と戦え。逃げることは許さん」

 

「理由がねぇよ。それにそう言って凪とも戦ったんだろ? ドイツってのはそうやって絡むのが普通なのか?」

 

「ふんっ減らず口を。理由がないといったな? では理由を作ってやろう――ちぃ!」

 

 

 砲身がイチ兄とも僕とも違う場所に向く動作と同時に瞬間加速、射線上に割り込んでハンマーで砲弾を地面に叩きつける。ISを纏ってない一般人狙い……! でも流石だねシャルルさん、ほぼ同時に盾とアサルトライフルを呼び出すなんて……反応速いなぁ。

 

 

「篠ノ之凪、また貴様か……相変わらずの反射神経だと褒めてやる」

 

「誉めてくれてありがとう。今日まで何もしてこなかったけど何してたの? まさか機会を伺ってたとか?」

 

「そうだと言ったらどうする?」

 

「何も。ただイチ兄に用があるならこんな事しないで話し合えば? それぐらいできるでしょ」

 

「無理だな。教官の汚点たる織斑一夏との対話など不要!」

 

「千冬姉の汚点、か。やっぱり第二回モンド・グロッソの事でお前は頭にきてるってわけか?」

 

「理解していたか。そうだ、貴様がいなければ教官は栄光を手にしていた! 貴様が奪った! 貴様さえいなければな!」

 

 

 何のことを言ってるのか知らないけどなんかイライラしてきた……殺すか、今ここで。クロエさんに似てる似てないはもうどうでもいい、邪魔になってきたしいい加減ここで分からせよう。一回勝ったからって調子に乗られても困るしうざい、ぐっ、あっ、はぁ……分かっているよ、ちゃんとやるから!

 

 一歩前に出ようとすると邪魔者(教員)から放送で止められる。ちっ……しょうがないな、このイライラはトーナメントでつけよう。ラウラさんも興が削がれたとかで帰って行ったし……あっそうだ、怪我とかないと後ろにいる標的にされた子達に確認すると大丈夫と返事が返ってきた。よかった、怪我とかしてたら大変だもんね。お嫁さんになる前なのに大怪我とかは絶対にノー、ダメだからさ。守れてよかったよ。

 

 時間なのと訓練という空気でもなくなったので僕達は解散、その足で僕はラウラさんの言っている事が何なのか聞いてみたらどうやら長くなるみたいなので僕とちー姉ちゃんの部屋で話す事にした……此処なら誰にも聞かれないし安全だもんね。シャルルさんとは一旦お別れして部屋まで一緒に歩いて中に入る。イチ兄は嘘だ、綺麗すぎるって驚いてたけど僕がいるんだよ? ゴミ屋敷になるわけないじゃん。

 

 

「それでなにがあったの?」

 

「あっいや、まぁ俺が悪いんだけどさ……第二回モンド・グロッソ、千冬姉が出場して決勝まで残ったんだ。俺もその試合を見に行ったんだけど謎の組織に……攫われたんだよ」

 

 

 なんと……あぁ、だからたばねぇが亡国機業対策でイチ兄を学園に入れたんだ。そりゃそうだよね……攫われたのに対策なしじゃ危ないもん。イチ兄はテーブルに出されたお茶を飲んで一呼吸してから再度話し始める。

 

 

「俺が攫われたことをドイツから聞いたらしい千冬姉は試合を放って助けに来てくれたんだ。でもそのせいで二連覇はなくなって恩返しのためにドイツに……一年ぐらいはISを教えるために行ったんだよ」

 

「あぁ、だからラウラさんはちー姉ちゃんの教え子なのか。でもそれってイチ兄は悪くないよね? 攫う方が悪いし」

 

「そうなんだけどあいつ、ラウラは完全に俺が悪いって思ってるみたいだな。はぁ……俺だって責任感じてるんだぜ? あれのせいで千冬姉に迷惑かけたし……というより教え子だってなんで分かるんだ?」

 

「だってちー姉ちゃんから聞いたもん。ラウラさんは努力の天才、部隊最弱から部隊最強まで上り詰めたって誉めてたよ? でも確かに恩を感じてイチ兄の事を汚点だ! って言ってもおかしくないけどこればっかりはね。僕も攫われたことあるけど完全にあっちのせいだし」

 

「そうだよなぁ――ん? 攫われた? はぁ!?」

 

「え? 言ってなかったっけ? というより初日に箒姉が教室で泣きながら言ったじゃん」

 

「い、いや……なんか感動的な再会だなって思って話の内容までは聞いてないって……だから箒が泣いて、凪も部屋で泣いてたのか」

 

「そっ。酷くない? 部屋に帰ったらいきなり後ろからドンッと殴られて目が覚めたら変な部屋で椅子に縛られててさ。たばねぇはどこだって聞いてくるんだよ? 知らないよ僕だってって言っても嘘つくなって殴ってくるし。あっ一応言っておくけど大怪我はしてないよ? だってたばねぇに助けられたしね」

 

 

 最後のセリフで安心したのかそうか、よかったって安堵の表情になった。安心させたところ大変ごめんなさいだけど嘘だからね。拷問受けて阿頼耶識埋め込まれたし。でも言えない、言ったら巻き込んじゃうし。この後は何かあったらもう戦うしかないよって僕が言うとイチ兄はそうだなって頷き訓練頑張るかって張りきった様子。そして部屋に戻ると言って部屋から出て行くのを見送った後、シャワーを浴びて食堂に向かおうとするとセシリアさんが一緒に食べませんかと尋ねてきた。勿論返答はオッケー、イチ兄達と一緒でもいいって聞くと構いませんわと了承してくれた。うんうん、やっぱり皆と食べるのが一番だよ……時と場所によるけどね。

 

 そんなわけでイチ兄のお部屋まで一緒に歩いてドアをノックしてもしも~しすると中からイチ兄が焦った声色で返事が返ってきた。あっ察しちゃった……バレたかぁ。案外早かったね。それじゃ誘わない方が良いかもね……きっと混乱してるだろうし。

 

 

「イチ兄~? 今忙しい?」

 

『えっいや、そ、そうだな! ちょっと忙しい! な、なんか用か!?』

 

「ううん。御飯一緒にどうかなって思ったんだけど忙しいなら良いや。先に行ってるから後でね~あっ箒姉達にも忙しそうだって伝えとくから」

 

『お、おう! 悪いな!』

 

「良いよ別に~ごめんねセシリアさん、そんなわけでイチ兄とシャルルさん抜きで食べよ?」

 

「構いませんわ――運が巡ってきましたわ! あとは箒さんのみ!」

 

「へ?」

 

「なんでもありません。それでは一夏さん、お先に向かっていますからゆっくり、ゆっくりとして来てください」

 

 

 食堂に向かう途中、箒姉と鈴さんに出会ったのでイチ兄が忙しそうだから後で来ることを伝える。普通に言えば絶対、確実に手伝いに行きかねない2人だから待つ事も大切だよって力説したら納得してくれた……はぁ、イチ兄かシャルルさんのどっちかで良いから後でパフェ奢ってよね?

 

 結局4人で食べているとイチ兄が遅れてやってきた。なんでもシャルルさんが体調を崩したみたい……箒姉達はお見舞いにでも行こうかとか言い始めてイチ兄はちょっと困惑したからあんまり大勢で行くと逆に体調崩すかもしれないよ? 僕も昔そんな感じだったしと助け船を出した。セシリアさんや鈴さんは知らないだろうけどこれ実話、子供の頃風邪を引いてイチ兄やちー姉ちゃん、箒姉にたばねぇが大丈夫かって来たから大丈夫! って元気な姿を見せてたら悪化しました。それがあるからか箒姉は一番に理解してくれて助かったよ……セシリアさん達も例題を出されて同じことが起きたら大変だと勘違いしてくれたっぽい。僕は一応ちー姉ちゃん経由で怪しいから注意しろって言われてるから事情知ってるけど黙ってよっと。

 

 そしてイチ兄は2人分の食事をもって部屋へと帰って行った。大丈夫かな?

 

 

「……体調崩す、看病、距離が近づく、こ、恋……ぐぅぅ!!」

 

「相変わらずお人よしよねアイツ、そしてあんたは何想像してんのよ?」

 

「な、なんでもないぞ! 決して一夏とデュノアの距離が近づくとか決して考えてはいない!」

 

「ねぇ? アンタの姉でしょ? 何とかしなさいよ……ポンコツになってるわよ」

 

「昔からイチ兄限定のポンコツだから無理かな」

 

「実の姉をポンコツいうなぁぁ……!」

 

「箒さん。凪さんの事はわたくしにお任せください。ですので箒さんは一夏さんに集中を――」

 

「――ふっ」

 

「今の箒さんを殴りたくなりましたわ」

 

 

 仲良いなぁ~うん、カレーライス美味しい。隠し味はなに使ってるんだろう? まっイチ兄ならなんとかするでしょ。もう僕の出番はないかなぁ――って思ってたんだけどね。

 

 

「だ、騙していてごめんなさい……」

 

「シャルルは悪くないんだ! だから怒らないでくれ……頼む!」

 

 

 どうして2人が僕の部屋に来るんですかねぇ? しかも実は女の子でしたってバラすおまけ付き……此処に来るまでは男の恰好だったようで怪しまれることはないけどだからってその日のうちに僕に言いに来る? はぁ……もう驚きだよ。僕はきっとイチ兄とシャルルさんの2人だけの秘密的な事になるものだとばっかり思ってたからさ……いや良いんだよ? これのおかげで僕も手助けできるし僕自身もイチ兄達に嘘ついてるから文句言えないしさ。

 

 とりあえず怒ってないけどどうして変装してたのって聞くとどうやらお家、つまりデュノア社が原因らしい。シャルルさんはデュノア社現社長と愛人の子供でお母さんが亡くなったタイミングで迎えに来て養子に。その過程でIS適正が高くて容姿も中世的だったから男装行けるだろうと判断されたようでこうして男として転校……色々複雑すぎるよもう……でもさ、なんかおかしいよね? 気のせいかもしれないけどなんか引っかかったなぁ。

 

 

「一応言っておくけど僕、っていうかちー姉ちゃんと多分生徒会長は気づいてたからね? だから謝らなくていいよ?」

 

「えっ!?」

 

「本当かよ……じゃ、じゃあシャルルはどうなるんだ!? てか凪は知ってたのかよ!?」

 

「落ち着いて。退学とかはしないと思うよ? それにさ、シャルルさん悪くないじゃん。悪いのはお家なんだろうけど……一つ聞いていい?」

 

「な、なにかな……?」

 

「お父さんに会ったのって何回位?」

 

「に、二回ぐらいかな……それがどうしたの?」

 

「う~んとなんでシャルルさんの居場所分かったのかなぁって? まさか離れたところで見守っていたわけじゃあるまいしお母さんが亡くなったタイミングで出てくるのはちょっと不自然じゃない?」

 

 

 そう、引っかかったのはその部分。いくら愛人さんとの子供だからって四六時中監視なんて馬鹿っぽいしそもそも社長に愛人がいたってスキャンダルになりかねない。たばねぇじゃあるまいし衛星をハッキングしてとかも違うだろうね……だから不自然。タイミングが良すぎる……ような感じがする。

 

 

「で、でも! 引き取られた時にも何も言わなくて本妻の人には泥棒猫って言われて……あ、あれ? 今まで何も思ってなかったけど確かに……早かった? あ、あれ?」

 

「そう、だな……どこで知ったんだろうな? 普通会社の社長がお亡くなりになった人の名前見て愛人だった人の所に行くかな?」

 

「うん。もしかしてさ――本妻の人と愛人さん、逆なんじゃない? それだったらタイミング良く現れたのも納得できそうなそうじゃないような……どう思う?」

 

 

 あっなんか2人とも固まっちゃってる。そんなに変な事言ったかなぁ? でも一応僕も2年ぐらいは裏世界、亡国機業限定で知ってるからちょっと考えてみたけど外れたかな……でもこれ以外考えられないんだよねぇ。本妻の人との子供だったら陰から見守って亡くなったタイミングで引き取りに来ても父親としては何もおかしくないし。こういう時こそたばねぇに相談だ! ってなるんだろうけどあんまりこう言う事で手を借りたくないんだよね。だって僕や箒姉のようにたばねぇの関係者って間違われて大変な思いをしそうだし。

 

 

「えっとさ、一応これ推測だからね? 違うかもしれないからね?」

 

「お、おう……いや、その……」

 

「なんていうんだろう……当たってるんじゃないかって思って……うん」

 

「僕はたばねぇのように頭良くないから期待しないでね~それで? 話変わるけどこれからどうするの?」

 

「とりあえず3年間は安全だから……隠し通す? だから凪にも手伝ってほしいんだ! 巻き込むのは分かってる! でも頼む!!」

 

「いや良いけど……でも3年だよ? 色んな事が起きるかもしれないのに僕達だけで隠し通せるわけ――」

 

『じゃあなかったことにしちゃえばいいじゃん』

 

 

 あれ? なんか聞いたことがある声が聞こえたような……主に僕の布団に放り投げている携帯から。ま、まさか……ぎゃぁぁぁぁ?!? 通話状態になってるぅぅぅ!!!! なんで!? 何も弄ってないのに!? たばねぇ……まさか遠隔操作で!?

 

 

「た、束さん!?」

 

『やっほ~いっくん! そう! なっくんのお嫁さんの束さんだよぉ~? なんだかおもしろい話してるねぇ。いっくんの真剣さに免じて束さんが助言してあげようじゃないか! うわははははは!!』

 

「束って……もしかして篠ノ之束博士!?」

 

「たばねぇ……もしかして何日か前の画像のように遠隔操作した? あれ消したいんだけど?」

 

『だ~め、なっくんが辛くなったらいつでも見て使ってほしいからお姉ちゃん頑張ったんだから! それはそうとやぁ、初めましてだね「シャルロット・デュノア」ちゃん。そうだよ~みんなの束さんだよ~?』

 

「ぼ、僕の名前……な、なんで!?」

 

「たばねぇだもん」

 

「束さんだしな……」

 

 

 すべて解決する魔法の言葉。流石たばねぇ。この一言で大体は解決すると思うんだ。それにしては珍しいね? 他人嫌いのコミュ障のたばねぇが手伝うなんて? 何か心境の変化でもあったのかな?

 

 

『何もないよ? ただの暇つぶし~』

 

「心読まないでよ……それでどうする気? フランスを脅すとかだったら怒るよ?」

 

『なっくんからのお説教とかご褒美ですありがとうございました! じゃなくてさ、言ったよね~? 無かったことにすればってさ。そのまんまの意味で間違えて男子で入学しちゃいましたてへぺろ~って言えばいいんだよ。だって誰も文句言えないし。あぁ説明してあげるから何も言わないでね? でも簡単だよ? 転校手続きの書類を持ってきたのはデュノア社、存在しないシャルル・デュノアを代表候補にしたのはフランス政府、そしてそれを受理したのはIS学園上層部……もうわかるよねぇ? そうなのだ! 全員が共犯者なのは明らかだよ。腐ってんな。つまりぃ~シャルロットちゃんは相手を脅すこともできるし脅される立場でもある。でもダメージがあるのはフランスだけどねぇ』

 

 

 え、えーと……フランスもデュノア社もIS学園の上層部も全部悪い、よし理解できた! でも流石たばねぇ、コミュ障なのによくわかるね?

 

 

「あの束さん? 何を言ってるか全然理解できないんですけど……?」

 

『もうしょうがないなぁ~簡単に言うとね、女の子でしたってバレても誰も文句言えないってことさ! だって文句言ったらじゃあお前らはなんで分かんなかったんだ、お前の所の代表候補だろって各国から不審がられるでしょ? だからさぁ~もうバラしちゃいなよ。ちなみになっくんの推理は大当たり~! 社長はハニトラに引っかかったんだね。つまり今の本妻は愛人、というより詐欺師。本当の本妻はシャルロットちゃんのお母さんってことさ。もう馬鹿だね~この詐欺師、隠れて会社の金使ってブランドもの買い漁ってるしそりゃ経営が苦しくなるだろ。死ねばいいのに』

 

「え、え、えぇ!?」

 

「うわ~……」

 

「自業自得だろ……」

 

『なんかムカついたからリークしよっと。もうなっくんがいなくなって寂しいし変なのが襲ってくるしくーちゃんはなっくんの部屋を占領するしもう大変だよ! はいしゅうりょ~よかったね? これで自由の身だよ?』

 

 

 ……たばねぇ、僕の気遣いは? ねぇ? シャルルさんに迷惑掛かるからたばねぇの力は借りないって決めた意志はどこに置けばいい? ねぇ? ねぇねぇ? 見てごらん! シャルルさんが話についてこられなくて固まってるしイチ兄はあ~あみたいに頭抱えてる! もう何やってんのたばねぇ! グッジョブだけどそれはそれで問題じゃん!! はぁ? 勇気溢れる青年が漏らしたってことにした? 迷惑掛からないならいいけどやりすぎ。うん。

 

 

『う~ん、暇つぶしが出来てお姉ちゃん満足! あっなっくん! 約束のデートだけど後で迎えに行くからね! ぐふふ……ぐふふ……それじゃ~ばいなら~』

 

 

 通話が切れる前に何か固いもので殴ったような音が聞こえたけどきっとクロエさんだね。ありがとう……そしてたばねぇが迷惑かけてごめんなさい……!

 

 

「え、あの、え?」

 

「シャルル……束さんだからあまり深く考えるな。多分もうこれで全部解決したと思う……俺たちの悩みっていったい何だったんだ……」

 

「たばねぇだもん」

 

「だよなぁ……」

 

「……あ、あの、さぁ……もしかして僕、助かった、の?」

 

「うん。たばねぇが珍しく善意で動いたっぽいし……ほら、ニュースでも特番になってる」

 

 

 テレビをつけるとデュノア社に関するニュースでもちきりだった。といっても内容の殆どは社長夫人の金の使い方とかだけど……う、うわぁ~マフィアとの繋がりとかもあったんだ……確かにIS制作してるところだもんね。しばらく見ていたけどたばねぇが関わっている事とかは全く出てこなかったからひとまず安心、安心なのかなぁ……? あっどうやら会社から電話きたみたい。シャルルさんは戸惑いながらそれに出るとなんだか困惑した表情になった後、涙を流し始めた。どうやら解決したっぽい。だって社長さんからすまなかったって何度も謝られたって言ってるし……きっと脅されて何もできなかったんだろう。はぁ、疲れた……もう色々考えたのに全部水の泡になったから余計に……でもよかったよ、ホントに。

 

 シャルルさんには悪いけど僕も人の事言えないかな。3年間何があるか分からないから身を引き締めて……か。はぁ、大変だなぁ。

 

 そして翌日、シャルルさんは実は女の子で本名はシャルロットでしたと皆の前で発表して騙してごめんなさいと謝罪した。だけどニュースのおかげで皆は察してくれたのか全然気にしてない、むしろ男の子じゃなくて残念と怒っている様子は……約2人ほど怒ってたけどなんとかなりました。主にちー姉ちゃんの出席簿アタックでね。今日も良い音だった、凄く痛そうな音だった。

 

 

「――隠し事は僕だけでいいよ、よかったよかった」

 

 

 そう思わざるを得ない一日だった。




この作品ではデュノア社長は良い人、本妻は実は詐欺師、シャルロットのお母さんが本妻だったということになっております。
全ての悩みを解決させる魔法の言葉、流石たばねぇ。

余談ですがシャルロットの代表候補の資格は無くならなかった模様。
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