篠ノ之家の弟は阿頼耶識使い   作:木の人

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僕のパートナー

「一夏、凪、本当にありがとう……今もこうして普通に通えてるのが嘘みたいに思えるよ」

 

「俺は何もしてないって。ただ考えただけでやったのは……あの人だし」

 

「むしろ身内がご迷惑をおかけしてごめんなさい」

 

 

 シャルルさんがシャルロットさんでしたと分かってから数日後、僕とイチ兄、シャルロットさんに箒姉、鈴さん、セシリアさんのメンバーでお昼ご飯を食べていた。話題は実の姉(たばねぇ)が暇つぶしで引き起こしたデュノア社のスキャンダル、ついでにシャルルさんがシャルロットさんでしたという事について。最初は一夏ぁ! と怒った鈴さんとダークサイドに落ちた箒姉がイチ兄を問い詰めたけどニュースの内容とちー姉ちゃんの出席簿アタックを喰らって沈静化、イチ兄と僕で説明すると納得したのか仲良しになりました。うんうん、友情は大事だよ。

 

 

「しかしシャルロットの家、いや会社だったな。大丈夫なのか? これだけ大きなニュースになったのだ……あまり詳しいことは分からないが経営などは……」

 

「うん。うちの会社でも類を見ないスキャンダルだからマスコミもいっぱい来てるみたい。でも原因の殆どは義理のお母さん、詐欺師だったって人だしお父さんは被害者だったようだからいきなり倒産とかそこまではないかな……でもスキャンダルのせいで経営が苦しくなったのは事実だけど前ほどじゃないってお父さんも笑ってたし、これからは頑張って立て直すって張りきってた。ありがとう箒、心配してくれて」

 

「なに。事情も聞かずに怒ってしまったのだ……それにと、友達ならば心配にもなるだろう」

 

 

 カッコいい、カッコいいよ箒姉……! でも確かにこの話題は世界中で取り上げられてデュノア社の経営にダメージがあったみたいなのは本当の事らしい。たばねぇからリークされた情報は匿名希望、職業不明、所在地不明という謎の人物からという事になっていてネットの掲示板でも面白がってあいつだって、いやこいつだろって具合に談義されてる様子。ただシャルルさん、いやシャルロットさんだったね。転入前にフランスの代表候補生だったけど間違って男で登録してましたごめんなさいとシャルロットさん名義に変更、フランス政府は完全に繋がりを隠蔽する気満々である……まぁ無理だったみたいだけど。たばねぇの情報網を甘く見ちゃいけないよ。詐欺師の人と繋がりがあった人物は全て捕まってシャルロットさんは無事、自由の身になりました。めでたしめでたし……はぁ、やりすぎじゃないけど暇つぶしで大事にしないでよね……友達が助かったから良いけど。

 

 

「でも女の子でしたってなってもまだ男の制服なんだね?」

 

「うん。女子の制服がまだ届かないからしばらくはこの制服かな。結構着心地は良いんだけどね」

 

「女物って結構複雑だもんな」

 

「うんうん。生地とか薄い物とかあってちょっと乱暴に扱うとすぐ破けちゃうし、洗濯も気を付けないといけないからね」

 

「そうそう。色物とか分けないと大変だよな? 千冬姉に何度言っても全部一緒に洗濯機に入れるから……そんで混ざってたら怒るんだぜ?」

 

「たばねぇもそんな感じだよ。もうそこらへんに放置、もしくは着てたもの全部渡してきてなっくん洗濯お願いって言ってくるんだよ? もう25なのに」

 

「大人なんだからもう少しな……ついでに千冬姉もいい加減彼氏作ればいいのにさ」

 

 

 僕とイチ兄は二人揃ってはぁとため息をついた。こればっかりは世話係の弟にしか分からない話題だね、しかしイチ兄……話せる! 女物の洗濯の仕方からアイロンのかけ方、部屋の掃除に節約術……なんてことだ……できる! 主夫だねイチ兄! 何時でも結婚できるよ!!

 

 そしてなんでだろう? イチ兄と話してると女性陣の視線がおかしくなってる……気がする? アンタたち男なのになんでそこまで女子力あんのよ、姉さん……後で殴る、凪さんは良い旦那さんになれますわ、一夏と凪って家事得意なんだね、これがこの場にいる女性陣の感想である。他は良いけど箒姉? なんでたばねぇを殴るの? 良いけど加減しなよ。と、とりあえずこの話題はやめよう。何故かは知らないけどアイアンクローされかねない! また自撮り画像を送られかねない……てか消したいんだけど? 本当に消したいんだけど? なんでフォルダ作られてロックされてるのさ……使っても良いなら使うけど実の姉のは……あんまりね。クロエさんなら――ゲフンゲフン。

 

 

「そういえば話変わるけどさ、トーナメントの内容が一部変更になったけど皆はどうするの?」

 

 

 今日のSHRの時にちー姉ちゃんが個人別からタッグ形式に変更になったと聞かされた。どうやら参加人数の関係上、時間がかかるから少しでも減らそうって事になったみたい。そんなわけで現在学園では3つの噂が飛びまわってます。まず1つは優勝者はイチ兄か僕のどちらかと交際可能、2つ目はデュノア君が女の子でした、最後がイチ兄と僕は誰とパートナーを組むのかです。最初以外はまともなんだけどねぇ……僕の発言に箒姉と鈴さんはチラチラとイチ兄を見てセシリアさんは何故か僕の方をチラチラ、シャルロットさんはあはは~とちょっとどうしようかなって顔、イチ兄は何も分かってなさそうな表情をしている。よし此処は弟として助け船を出しましょう。

 

 

「あぁ、個人からタッグになったって奴だろ?」

 

「そうそう。イチ兄は誰と組む予定?」

 

 

 なんて分かりやすい……3人の女の子が反応したよ、うん? 3人? あっまたか……はぁ、そうだよねスパイだったのを許したうえ何とかしようって言ってくれた相手だもん惚れちゃうよね……僕も女の子だった絶対に惚れてるし。はぁ……爆発しないかなぁ。

 

 

「俺か? う~ん、今の所はシャルかなぁ~」

 

「うえぇ!? ぼ、僕……で、い、良いの?」

 

「だって何でもできるし教え方上手だしさ。俺が前に出てシャルが後ろ、ほら結構バランス良くないか?」

 

「一夏? 私の甲龍も射撃できるんだけど? 見えない砲弾よ? どう! 他よりも凄いじゃない! 私と組みなさいよ!」

 

「わ、私は……打鉄で出場する予定だから一夏と被るか……ぐぅ、射撃さえできれば……!」

 

「箒さん。射撃でしたらわたくしがお教えいたします。今日から特訓ですわ!」

 

「セシリア……あぁ! 頼む! だが凪はやらんぞ」

 

「ぐぬぬ! な、凪さん! 凪さんはどなたと組まれるのですか!」

 

 

 僕かぁ……今の所誰と組みたいって事は考えたことないなぁ。だって誰と一緒でもやること変わらないし。むしろ邪魔かもしれない……うん? あれ何でこんな風に考えてるんだろ? ダメだよね邪魔とか思ったらさ。ちなみにシャルというのはイチ兄がシャルロットさんに付けたあだ名? なんかそんな感じの物みたい。シャルロットだからシャル、なんて分かりやすい。僕は呼ばないけどね……だってイチ兄に呼ばれた方が嬉しそうだし。

 

 

「特定の人と組みたいって事はないかな? ゆっくり決めるよ」

 

「でも確か期日までに決めないと抽選でしょ? アンタ戦い方はエグイけど地味に人気なんだから誘えば一発じゃない」

 

「エグイって……酷くない?」

 

「事実じゃない――何度私が死にかけたと思ってんの?」

 

「え? あれぐらいじゃ死なないでしょ?」

 

「箒、アンタの弟ちょっと頭おかしい」

 

「姉さんのせいだ」

 

 

 酷くない? 鈴さんと模擬戦内容を言ってるならあれはかなり加減してるよ! ちゃんと殺さないように手加減状態だよぷんぷん……でもパートナーの人はどうしようかな? どうせなら箒姉と組んで篠ノ之姉弟タッグチームをしたいけど箒姉はイチ兄だし……どうしようか本当に……しょうがない、地道に探そう。最悪セシリアさんに頭を下げてパートナーになってくださいって言えば何とかなるよね? たぶん、ダメだったらもう抽選でいいよ。

 

 お昼ご飯を食べ終えて残った授業を真面目に受け、時間は放課後へ。今日は生徒会長さんと会わないといけないみたいだからいつも耶識を整備している部屋に行かなきゃいけない。だからイチ兄達にちょっと用事あるから先に行っててと伝えて早歩きで整備室へ。此処って分からない代わりに遠いんだよね……はふぅ、疲れた。

 

 

「あら早いわね? もう来たの?」

 

「待ってる人がいるのにのんびりするのはダメかなって。それで何か用事ですか?」

 

 

 生徒会長さんは何時ものように扇子を広げる。そこに書かれている文字は「当然」それぐらい自分で言えばいいのにね? というよりそういう扇子ってどこで売ってるの?

 

 

「来月行われる学年別個人トーナメントがタッグトーナメントになったのは知っているわよね?」

 

「ちー姉ちゃんから聞きました~けどそれがどうしたんですか? 確か人数が多いから時間短縮のためって話でしたけど?」

 

「一応凪君には言っておこうと思ってね。変更理由だけどドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒちゃんがいるじゃない? 先日に凪君と一夏君に絡むためにISを装備していない一般生徒に砲撃、これがちょっと問題になってね~それに彼女のIS、アクティブ・イナーシャル・キャンセラーが1対1だと一方的になりかねないって事で急遽変更になったわ。ホントはこういうのダメなんだろうけど凪君なら理由も分かるでしょ?」

 

「……他人の事は気にしない、って所ですか?」

 

「まぁそう言う事。全て平等、どんな状況下でも対策出来て一人前と呼ばれるけど今の一年生にはちょっと早すぎる、そしてこれは織斑先生の発案でもあるから内容がちょっと変更されましたってわけ。それと当日だけど政府関係者が試合を観戦するけど全員凪君の存在を知ってるから安心して。思う存分、暴れなさい――やり過ぎない程度に」

 

「あっはい」

 

 

 何とか内容が変更になった理由は分かったけどごめんなさい……アクティブ・イナーシャル・キャンセラーって何ですか? え? PICを発展させた奴で前に僕が受けた奴? あぁ! あの停止結界って奴がそれなんだ、へぇ~なんかカッコいい名前だね。あれ何で呆れてるんだろう? 感想言っただけなのに……変なの。

 

 僕の用事も終わったから皆の所に向かうと何やら騒がしかった……どうかしたのかな? え? 第三アリーナで喧嘩? 誰と誰が……えっラウラさんと鈴さん、セシリアさん? ちょ、ちょっと何が何だか分からないけど早く向かおう! ダッシュで喧嘩が行われているらしい第三アリーナに到着すると丁度箒姉が中の様子を不安そうに見ているのが見えた……よし! 箒姉は無事!

 

 

「箒姉!」

 

「凪!」

 

「何があったの!? 鈴さんとセシリアさんがラウラさんと喧嘩してるって聞いたけど!?」

 

「あ、あぁ……今、一夏が……」

 

 

 よく見るとアリーナのシールドバリアを壊した跡がある……イチ兄か、視線を別の場所に向けると倒れている鈴さんとセシリアさんをシャルロットさんが助け出してイチ兄がラウラさんに斬りかかっている。でも途中で止まって動かなくなってる所を見ると停止結界って奴に捕まってるね……はぁ、なんだか初めてかもしれない……此処まで頭にキタのは……もういいよ、コロス、いい加減邪魔になってるし死んでも誰も泣かないでしょ? 無知な子供に説教してもいいじゃん、耶識の気持ち、少し分かったよ……これが相手を殺したいって思う感情なんだ。それじゃ殺しにいこっと。

 

 耶識を展開して中に飛び込もうとするとちー姉ちゃんがピットから降りてイチ兄とラウラさんの間に入るのが見えた。しかも来月のトーナメントまで私闘禁止という宣言付きで。ちぃ……また邪魔を……あっ関係ない、いや、ちー姉ちゃんをまきこ、ぐぅ……! あぁ、ぁ、頭が……!

 

 

「な、凪! どうした!? 凪!」

 

 

 頭に膨大な情報が流れ込んでくる……まるで僕を飲み込もうとするみたいに耶識が怒りを、殺意を、破壊したいという感情を阿頼耶識を通じて僕に教えてくる……ダメ、ダメだちー姉ちゃんを……ダメ! まだ駄目だ!!! 言う事を聞け! 耶識!!!

 

 

「だ、大丈夫……ちょっと立ちくらみしただけだから……」

 

 

 なんとか耶識が分かってくれたのか流す感情を止めてくれた……あぁ頭痛い……あのまま出て行ったらちー姉ちゃんを巻き込みかねないしそれはダメだよ……なんだか最近変だ……な、ホントに……殺すって事が当たり前って思いつつある……疲れてるのかなぁ? 今日は早めに休もう、うんそうした方が良さそうだね。最近色々と張り過ぎたみたいだし偶には何も考えないでぐでぇ~っとしたい、した方が良い。うん!

 

 耶識を解除して座り込む僕を心配した箒姉が医務室まで連れて行ってくれた。そこにはベッドの上で手当てを受けている鈴さんとセシリアさん、お見舞いに来ていたイチ兄とシャルロットさんがいた。箒姉に連れられてきた僕を見てどうしたって心配してくれたけどただの立ちくらみって言ったらほっとした表情になった。言えるわけないよね……阿頼耶識を通じて耶識が感情を押し付けてきた、なんてさ? とりあえず備え付けの栄養ドリンクを貰ってちょっと休むことにした。う~ん、栄養ドリンク久しぶりに飲んだけど結構おいしいよね?

 

 

「セシリアさん、鈴さん、二人とも大丈夫?」

 

「えぇ……お恥ずかしいところをお見せしていますわ」

 

「アンタと模擬戦してたおかげで慣れてるつもりだけどやっぱきっついわ……あいつ、容赦なく殴ってきたんだもん……今度は倍返し、いっつ!?」

 

「ちゃんと休めって。怪我酷いんだからさ? 凪も最近頑張りすぎてて疲れてたんだろ? 無理すんな」

 

「あはは~ごめんねイチ兄、箒姉もありがとう」

 

「……良い、今日はもう何もするな。ちゃんと休め……良いな?」

 

「は~い」

 

 

 ちょっとだけ休んで体も楽になったから皆にもう部屋に戻るねって言い医務室を出る。そして廊下を歩いていると後ろから誰かに、ううん、あの子に話しかけられた。

 

 

「篠ノ之凪」

 

 

 ラウラさんだ。さっきまで喧嘩してたのに疲れ一つないみたい……流石って言いたいけどもうそんな気分じゃない。今のラウラさんは嫌いだ、迷惑を考えず自分の我儘を押し付ける今のラウラさんは本当に嫌い。心からそう思うね。

 

 

「なに?」

 

「来月のタッグトーナメント、私と組め」

 

「やだ」

 

「……なに?」

 

「僕もさ、皆からやりすぎ、エグイ、加減しろとか言われるけど今日のラウラさんみたいに怪我はさせてない……と思う。それに友達を怪我させた人のパートナーになりたくない」

 

「ふんっ弱いからあの程度で怪我などする。私は貴様を認めている、光栄に思え。だからもう一度言うぞ――私と組め」

 

「ごめんなさい無理です絶対に無理ヤダ絶対にヤダ他を当たってください。ふぅ、それにね? 僕は今のラウラさんの事嫌いだから。それじゃまたね」

 

 

 早歩きでラウラさんから離れる。あんまり人に向かって嫌いとか言いたくないけど仕方がない……仕方がないと思う。あぁ痛いなぁ……胸、確かにラウラさんと組めばトーナメント優勝も夢じゃないと思う。だけど何かが違う……でもどうしよう? セシリアさんが怪我してISも来月まで修理が間に合わないようだし誰と組もうかな……う~ん。良い! 後でどうにかなる! 今日はもう休む!!

 

 部屋に着いたからシャワーも浴びずに布団にダイブ、ふかふか~あぁ~癒されるぅ~もう寝よう、ご飯もいらない、もう寝る、疲れたよもぉ~おやすみなさい……

 

 次に意識が目を覚ましたのは夜、時間は9時、ぐえぇ……せめて朝まで寝ててよ……どうしよう? しょうがない、何か買ってきてご飯食べよ……あれ? 着信ある? 誰かな~うん? 箒姉? 時間は大体一時間前か、何の用だろ? ピポパっと。

 

 

「箒姉? 今大丈夫?」

 

『な、凪か? すまない、寝ていただろう?』

 

「お腹すいて目が覚めたんだ。それでどうしたの?」

 

『う、うん……今、そっちに行ってもいいか?』

 

「良いけど?」

 

 

 何かあって話すことがあるみたいなので一旦電話を切る。そして数分後、扉をノックする音が聞こえたので開けると寝間着姿の箒姉が立っていました。とりあえず立ち話もあれだから中に入れてお茶を出す。でもなんだろう……僕何かしたっけ?

 

 

「……な、凪」

 

「うん?」

 

「来月の、タッグトーナメント、わ、私と出場してくれないか!」

 

「――へ?」

 

 

 多分今日一番の変な声を出したと自負しても良い。あ、あれぇ~? まだ寝ぼけてるのかな? なんで箒姉が僕に頼むの? 頼む相手間違ってるじゃん、これこそイチ兄に言えばいいのに? でも表情とか様子が真剣だしもしかしたら既にイチ兄はシャルロットさんとタッグを組むことを決めてしまったのかもしれない。そっかぁ……それなら仕方がないね。丁度僕も相手いないし箒姉なら喜んでパートナーになるって言える!

 

 

「い、一夏がシャルロットと組むと言ってだな……わ、私はあまり友達と呼べる相手がいなくて、め、迷惑なら諦める……」

 

「僕で良いなら構わないけど? そもそも箒姉の誘いを断るわけないじゃん。僕シスコンだし」

 

「お、お前は実の姉の前で……いや、お前らしいな。私もぶ、ぶらこん? というものらしいからお前の誘いは断らん、覚えておくんだぞ?」

 

「実の姉からブラコン発言されると引くんだけど?」

 

「な、なぎぃ!!」

 

 

 冗談だよ箒姉、こういう所も似てるんだから……流石双子? でいいよねこういう時ぐらい。ぷんぷんと怒る箒姉を宥めた後、トーナメントの事はまた明日話そうって事になり今日はお開きとなった。そんなわけで箒姉が帰った後、ちょっと遅めの晩御飯を買ってきて食べてシャワーを浴び、再び布団へ。安心したのか分からないけどずいぶん早めに睡魔が襲ってきたのでそれに逆らわず身を委ねると意識が薄れていった。

 

 

 

 

 

 夢を見た。真っ黒な世界にたった一人、僕だけしか存在しない夢を。右も左も上も下も視界に入る全てが黒で覆われている。壁もなく建物もない、ただ黒い空間が存在して僕がそこに立っているだけ……あぁ、これって耶識と初めて会った時にも見たな、もしかして耶識いる? ちょっと探してみよっかな……なんだか心配だし。

 

 

『どうしてどうしてどうしてなんでなんでなんでワタシの事嫌いなの嫌いになったのどうして怒ったのなんでなんでなんでワタシは間違ってない間違ってるのはあっちの方ワタシは普通普通なの普通じゃなきゃダメなの嫌われたくない嫌いになってほしくない嫌だイヤだよいやいやいやいや好きでいてほしい好きになってほしいワタシを見てほしいワタシを知ってほしいワタシを見てほしい』

 

 

 見える、黒い世界の中で一人ぼっちで泣いている女の子が……暗くて見えないはずなのに僕の目にはハッキリと見えている。耶識、僕の専用機で僕の半身。それが何故か体育座りで泣いている……どうしたんだろう? 何で泣いてるの? 僕が何か悪い事した? 耶識に近づくとビクッと体を震わせて光の無い眼で僕を見つめるから聞いてみた。何で泣いているのと。

 

 

『嫌われた嫌われた嫌われたワタシの思いを受け取ってくれなかった聞いてくれなかった感じてくれなかったなんでなんでなんでワタシが悪い事したのそうなのそうなんでしょ嫌だ嫌われたくない嫌われたくないよ許して許して許して』

 

 

 怒ってるつもりはないんだけど……もしかしてちー姉ちゃんを巻き込むから落ち着いてって言った事を気にしてるの? それだったら大丈夫だよ、僕は耶識を嫌いになったわけじゃない。ただ大事な人を、助けてくれる人を巻き込みたくなかっただけだからさ? だから泣かないで? 泣いてると可愛い顔が台無しだよ?

 

 

『大事な人大事大事ワタシよりも大事なのそうなの嫌嫌嫌ワタシは凪の一番が良い一番じゃなきゃヤダ一番しか生きてる意味ない凪はワタシのこと好き好きなのどうなのおしえてねぇねぇ教えてよ』

 

 

 体育座りだった耶識は立ち上がって僕を押し倒してくる。その手にはいつの間にか鉈が握られていてその刃を僕の肩に抉りこませるように殴ってくる。でも不思議と痛みはない、痛かったらそれはそれで嫌だけどなんだか不思議な気分だ。

 

 

『凪は誰が好きどんな子が好きあの子あの子あの子なのあの銀髪目を閉じたあの子そうなのねぇそうなんでしょ嫌盗られたくない盗らないでワタシを見てワタシだけを見てワタシの声だけ聴いて家族もいらない誰もいらないワタシだけでいいワタシだけ凪の近くにいればいい見捨てないで捨てないで大好き大好き好き好き好き愛してる大好きなの初めて会った時から好き繋がった時から好き凪しか見れないワタシに手を差し伸べてくれた凪しか見れないだからワタシを見てワタシだけ見てワタシだけ傍にいさせてお願いお願い愛してる大好き好き好きなのこの世界のだれよりも凪が大好き運命なの運命なんだよ出会うのも必然なのそうなのそうなんだよだからワタシを好きになって好きに大好きって言ってお願いお願いなんでもする凪のためならどんな奴も殺す殺して見せるだからもっとワタシを見てワタシを知ってワタシの声を聴いて大好きだから大好きだもんだから渡さない渡したくない奪わせない凪はワタシの物ワタシだけの物あの銀髪も姉とかいう他人もうさみみも誰にも渡さない』

 

 

 告白されながら鉈で殴られるのってある意味新鮮かもしれない。あっ右腕が飛んでった……でも痛くないんだよね、夢だからかなぁ? 左肩、左腕、わき腹、足、太もも、腹、首、頭、何度も殴られて抉られて色んな部分が無くなっていく。それでも耶識はやめない、告白もやめない、夢って凄い……普通なら発狂ものでトラウマものだよ。でも体が何故か動けないから何もできないし止めることもできない。いっか、耶識が楽しそうだし。でもね? 家族は大切だよ? 僕は箒姉とたばねぇ、父さんと母さんがいるけど嫌いじゃないし好きだ。こんな僕でも家族だって言ってくれてる人達だから恩返ししたいって思う。イチ兄とちー姉ちゃんも同じ、大切で憧れだから。IS学園の皆やクロエさんも耶識も大切。この身がどうなろうと皆のためなら死んでも良いって思えるんだ。

 

 

『嫌だ認めない認めたくない絶対に認めたくないワタシだけワタシだけで良いワタシだけが特別で良い凪凪凪一つになろう一つになろうよ声も考えも感情も痛みも悲しみも怒りも身体も何もかも一つになろうそれがいいよ絶対にそうだから認めて認めようねっねっしよっ痛くない寝てるだけでいい何もしないでいいからワタシが動くから頑張るから凪がほしい凪を感じたい凪になりたいねぇ良いでしょ良いよねうんそうだよね』

 

 

 どうしよう……両腕両足が切断されました。そして耶識が僕の体の上に乗ってきました……逆のあれ? あれなの? 夢って凄い。あ、あれぇ……たばねぇの画像のせいかなぁ……とりあえず落ち着こうよ耶識。えっ無理? そっかぁ……でもこれ夢だよね? えっ? ISコアの中にある精神世界だから夢と同じ? 良かった。両腕両足がないと戦えないもんね。一つになるとかならないとかとりあえず置いておいてさ、まずは来月のトーナメントで勝つことを考えない? だってラウラさんと当たるかもしれないんだよ? 嫌いなんでしょ? うわそこまで頷かなくても……えっ? 僕も嫌いって言った? いやあれは今のラウラさんであって変わってくれるなら友達になれると思うから言っただけで、あっお腹抉らないで? 起きたらお腹減っちゃうから。

 

 

『一つになりたくない凪はワタシと一つになりたくないの何で何で嫌いなの嫌いだからごめんなさいごめんなさい凪に嫌われたくない嫌いにならないで嫌われたら生きていけないだってまた一人ぼっちになるみんなから変って言われて仲間はずれされちゃう嫌嫌嫌もう一人は嫌なのお願い一人にしないで』

 

 

 落ち着いてよ? 僕は耶識が好きだよ? 嫌いだったら2年間一緒にいないし一緒に戦ってないよ。これからもずっと耶識と戦いたいって思ってるんだしさ。だから落ち着いて。ホントかって? ホントだよ。証拠? なにすればいい? 僕にできる事ならするけど? むぐっ。

 

 鉈で殴るのをやめた耶識は僕の顔をぐいっと自分の顔に近づけて――はい、ちゅーですね。まさか初キスが耶識とは……夢だからなのか動揺とか一切ないね。むしろ耶識って前髪で隠れてるけどやっぱりかわいいねとか思う自分が凄い。でも初キスかぁ……夢だからならノーカン? どうなんだろうね?

 

 

『――大好き』

 

 

 そして彼女は見惚れるほどの笑みを浮かべながら鉈で僕の頭を切断した。

 

 

 

 

 

 

「……うぅ、変な夢見た……あんまり覚えてないけど……ふあぁぁぁぁ~」

 

 

 なんだか怖い夢、良い夢? 分かんないけどそんな夢を見ていたような気がする……覚えてないからすっごく気になるなぁ。でも夢だしいっか。時間は……やっば!? そろそろ出ないといつもの日課に遅れる?! えっとISスーツ着て制服着て顔洗って歯を磨いて寝癖直してハイ終了! それじゃ行ってきます! ちょっと急ぎめで箒姉の部屋まで歩く。走ったらちー姉ちゃんに怒られるからね……出席簿アタックは喰らいたくない。そして到着! いつもの日課を済ませて食堂へ! 当然メンバーはいつもと同じです! 途中で合流するんだもしょうがないよね。

 

 

「へぇ、凪は箒と出るのか」

 

「うん。今まで離れてたからこういう時ぐらい一緒に出たいなぁって。ほら僕ってシスコンだから」

 

「な、凪がどうしてもと言うのでな! 姉として弟の頼みを無下にはできんだろう? つまりそういうことだ」

 

「セシリア……どう思う?」

 

「大方箒さんが凪さんに頼んだのでしょう……け、怪我とISの修理さえなければ……!」

 

 

 正解ですセシリアさん。あと怪我大丈夫? どうやら我が姉は自分から弟の僕に頼んだことが恥ずかしいので事実とは逆にしたい様子。良いけどね? シスコンなのは事実だし。

 

 朝ご飯を食べて教室に向かい授業を受ける。お昼休みになるのと同時に箒姉とちー姉ちゃんにパートナー組みましたと報告、これで登録は終わり。さぁて箒姉? やるからには優勝を狙うよ! 僕は意地っ張りだから負けたくないからさ! 放課後も二人で特訓、役割分担は僕が前に出て攪乱、その隙をついて箒姉が得意の剣で攻撃という攻撃こそ最大の防御作戦で試合に臨むことにした。そもそも僕の武装に射撃武器少ないし箒姉も近接が得意だから仕方ないんだけどね? でも流石双子なのか分からないけど此処でこうしてほしいとか思ったら箒姉が動いてくれたり逆に箒姉がしてほしい所がなんとなく分かって体が動く。うん完璧だね。だから耶識さん……お願いだから途中で機嫌悪くするのやめてほしいなぁ……いきなり挙動が重くなったりすると僕ビックリしちゃうからね。

 

 

「いよいよだな……し、しかし人が多いんだな……」

 

「そうだね。政府の人も来てるみたいだから猶更かな?」

 

「な、凪は大丈夫なのか? 公表はされていないのだろう……?」

 

「全員知ってるってさ。だから問題なし」

 

 

 そんなわけでトーナメント当日、今日まで放課後は剣道したりISに乗って動きを確認したり剣道したり剣道したりと特訓の毎日だった……あれ? 剣道多くない? 気のせいかな……うん、気のせい! イチ兄もシャルロットさんもラウラさんを倒すために特訓してたみたいだし負けてられないね! さぁ~てそろそろ対戦表の発表、僕たちは何回目に――そうきたか。

 

 

「――凪」

 

「うん。下手すると負けるかもしれないかな」

 

 

 イチ兄とシャルロットさんは別ブロックの第一試合、この2人と戦うには決勝まで進まないといけないんだけどどうやら僕たちの運がなかったみたい。試合の順番は一番手、相手は――

 

 

「ラウラさんか……」

 

 

 僕と箒姉の視線の先には『篠ノ之凪・篠ノ之箒ペアVSラウラ・ボーデヴィッヒ・更識簪ペア』と書かれた文字がある。最初からかぁ……あれ? 簪ちゃんさんも? あっきっと抽選だったのかな? うん、前に一回しか会ったことないけどラウラさんのようなタイプと組みたがるような人じゃなかったし多分そうだね。

 

 

「箒姉」

 

「分かっている。お前はラウラ、私はそのペアを相手にする。男なら勝ってこい」

 

「うん」

 

 

 行こう耶識、二度目の敗北は無しだって所を相手に見せよう。そして勝とう!




耶識ちゃんは凪の事が好きすぎてついやっちゃう素晴らしい子です。
愛が重い。
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