「運が悪かったな。私と組んでいればこんな所で負けることはなかったというのに。ましてや専用機でもない者と手を組むとは……失望したぞ」
「勝手に言ってれば? どうせキミはすぐ消えるんだから……簪ちゃんさんもお久しぶり。まさかラウラさんと組んでいるなんて思わなかったよ」
「抽選の結果……元々専用機開発のためのデータ取りが目的だから勝ち負けはどうでもいい」
目の前には既に戦闘態勢に入っているラウラさんと簪ちゃんさん。僕の隣には打鉄を纏っている箒姉……簪ちゃんさんも訓練機の方の打鉄だ。僕が強奪された専用機の方を壊しまくったから完成が遅れちゃったのかな? だとしたらごめんなさいだけどそれは言うのは後でもいい。今は出来るだけ早くラウラさんを倒すことが先決。開始前の立てた作戦では僕がラウラさん、箒姉が簪ちゃんさんと戦う事になっているけど戦闘中にはいろんなことが起きる。そして今回はタッグトーナメント、つまり2対2だからお互いをカバーし合って何が起きるか分からない。だから時間を掛けたらこっちが不利だ――だって片方は訓練機と言っても代表候補生なんだから。
「な、凪? ラウラのパートナーとは知り合いなのか……?」
「後でいい? 説明してるほど時間無い」
「……あ、あぁ。ちゃんと言うんだぞ!」
うるさい姉だ。誰と知り合いだろうと今は関係ないじゃん……すぅ~はぁ、落ち着け。機体の整備は万全、耶識も相手を殺したくてウキウキして機嫌がいい。思考もクリアになって今まで以上に動けそうだ……コロス、あの無知な子供を完膚なきまでに殺す。ただそれだけ考えていればいい。他は考えるな、脳のリソースを処理だけに使え、僕は耶識で耶識は僕だ。勝つ、勝って殺す。
――そして開始の合図が鳴り響く。
「殺す!」
「殺してやろう!」
即座に鉈を呼び出して瞬間加速、目指すはラウラさんの懐……その心臓だ。僕の突進と同時に箒姉も近接用ブレード「葵」を握り簪ちゃんさんへと向かう。この行動に片方は重火器を呼び出して撃つ、もう片方は腕を突き出すという動作を始めるが箒姉ならなんとか簪ちゃんさんが相手でも持つ、今の僕はラウラさんのみ狙う!
近づくにつれて背中が寒くなる、本能が危険だと叫んで止まらない。前回と同じように体一個分のスペースの所で一歩後退、身をかがめて一回転しながらマシンガン展開、カーブを描き抉りこむようにラウラさんの真横まで進んで胴体に目掛けて乱射。そして一気に後退……なに驚いてるのさ? 対策済みでしょ?
「ちぃ! 鉈ではなく重火器か! やはり一度見せた動きと同じことはしないか!」
「対策されてると思ったから変えてみた。今度は捕まらない」
「ふっ言ったな? 私も貴様の対策をしていないとでも思っているのか!」
肩の大砲が火を噴いた。一発、また一発と僕を撃ち抜こうと砲弾を飛ばしてくる。それらを背面跳び、回転、鉈で弾いて現在の距離を保つ。箒姉の方は……よし、重火器による射撃の雨をなんとか躱してる。流石僕のお姉ちゃん。でもなんだ……簪ちゃんさんは箒姉に集中というより別の事に意識を割いている気がする……どういうこと?
「これが篠ノ之凪の専用機……機動性が他と比べ物にならない、それにあの動き……」
「くっ、射撃しながら別の事に意識を向けるか! 何故近づけん!」
「分かりやすい――っ、えっ? 嘘……この距離で?」
ラウラさんからの猛攻を躱し続けながらマシンガンで簪ちゃんさんを狙う。結構前にセシリアさんのスナイパーライフルを撃った感覚を覚えているからそれ自体は簡単だ。銃器の特性上、一発じゃなく複数連射、だったら話は簡単だ。相手がいる所を感覚で把握して撃てばいい。それに丁度いいから簪ちゃんさんにも手伝ってもらおう。鉈とマシンガンを戻してハンマーを呼ぶ。砲弾を躱すタイミングで地面を抉り大きな砂煙を引き起こし一気に離脱、向かう先は簪ちゃんさん。さっきの僕の射撃に意識が向いてしまったのか箒姉が接近に成功、得意の近接戦闘でシールドを削ってる……ありがとう箒姉、足止めご苦労様。
「な、なんでこっち、きゃ!?」
「利用できるものはなんでも利用する性格なんだ」
瞬間加速で簪ちゃんさんの背後を取り、箒姉が刀を振ったタイミングで爪先を曲げて背中に向かってドリルキック。前からは刀、後ろからは蹴りを受けて大きくシールドは削れただろう……でもまだ役目は残ってるから殺さない。それじゃ盾よろしく。首を掴んで背後に放り投げるとその場で何かが当たり簪ちゃんさんが爆発、やっぱり撃ってきたね……ふぅ、躱すの面倒だったから役に立ってくれてありがとう。
「箒姉、簪ちゃんさんをよろしく。あとちょっと頑張れば勝てるから」
「あ、あぁ!」
「ちっ使えん奴だ。抑えるならまだしも盾にされおって……」
「味方を巻き込むつもりで撃ったくせによく言うよ」
「女を砲撃の盾にする貴様が言うか」
「使えれば男だろうと女だろうとどうでもいい」
「同感だ!」
即座に瞬間加速、接近と同時に手前をハンマーで殴って土煙を起こす。見えなくなる一瞬、手を前に突き出していた……つまり停止結界! ならやることは変わらない!! 持っていたハンマーを宙に放ってから背後に滑り込むように飛ぶ、よし! ラウラさんの意識は別の方に向いている! これなら!!
背後から首を掴もうと接近したタイミングでラウラさんは振り向いた……表情を何故か笑みを浮かべて。何で笑ってい、がぁ!?
「なにっ!?」
「掛かったな!!」
首を掴もうと接近しようとした身体が細長い何かに阻まれた……まさかワイヤー!? 何でこんな何もない所に……片方は地面!? じゃあもう片方は!? まさか――!
「停止結界!?」
「正解だ! この停止結界はIS専用というわけではないからな!!」
拙い! 砲身が僕を向いた……このままじゃ撃たれる! 早く離脱を……ちぃ! ワイヤーブレード!? 足を掴まれた!? このままじゃ……うあぁぁぁぁ!?!
ラウラさんの砲撃を至近距離で受けたことで僕の体が背後に吹き飛ばされる。それと同時にシールドエネルギーも大きく削られる始末……しかも足はまだワイヤーブレードで絡めとられているから逃げたくても逃げ出せない……! あの動きも読まれてたのかな? 拙いなぁ……箒姉、心配しなくていいからそっちに集中して。さっきから射撃を受け続けてエネルギー削られまくってんじゃん。
「地面に細長いワイヤーを突き刺して反対側を停止結界で止める……考えたね」
「喜べ。貴様用に要求した特注品だ。いかに貴様の機動が並外れていようと絡めとってしまえば!」
「つぅ!」
ワイヤーを動かしてラウラさんの所まで引っ張られる。なんとか斬ろうと刀を呼び出したけど空中を釣られた魚のように動かされて中々刃が食い込まない……近づいてきた僕を殴打、砲撃と動けないことを良い事にシールドを削られ続ける……たった一瞬慢心しただけでこれか……悔しいなぁ、でもこのままじゃ負ける……だったらもう賭け! 再度引っ張られて殴られようとしたタイミングで刀を捨てて片腕のバンカーを切り離す。それを手に取って殴られたのと同時にラウラさんの腕に手動で杭を発射、意識が一瞬だけ痛みに向いたので空いた手でラウラさんを掴む。
「離せ!!」
「諦め悪いから無理だね!!」
足に絡まったワイヤーで引き離そうとするけどそれに抗うようにラウラさんの体にしがみ付く。ふぅ……体は後ろに伸びてワイヤーもまた同じく真っ直ぐだ。つまりこれなら外すことも狙う事も簡単だ! マシンガンを呼び出して照準をワイヤーに合わせて全弾発射、銃弾が何度も当たったことで焼き切れたのかどうにか外すことができた……あとは――っ!? 動けない……停止結界か!?
「馬鹿め。ワイヤーに意識を向けすぎたようだな」
「そのようだね……まさかあんな細いワイヤーを用意してたなんて思わなかったよ」
「たった一瞬、貴様の動きを止めることが出来るなら何でもよかったが……用意しておいて正解だったようだ。貴様の動きは生身に酷似している分、拘束には弱い。前回の戦闘でそう判断したまでだ」
「凄いね……それもちー姉ちゃんの教え?」
「私自身の経験だ! 教官からはそれ以上の物をご指導してもらっている!」
「あっそ――じゃ死ねよ」
「なにっ――ぐぅ!?」
ラウラさんが背後から誰かに撃たれる。それをしたのは僕のパートナー、箒姉だ。慣れないはずの重火器を使って拘束している僕を助けてくれた……はぁ、助かったよ。
「射撃だと!? 貴様は近接一本のはず!」
「甘く見るな! 私とてIS操縦者の端くれだ! 弟を助けるためなら何でも使う!」
「この、ぐぅぅ!?」
拘束が解けた瞬間に反転、手首を回してラウラさんの心臓に拳を抉りこませる。後ろに下がらないように相手の体を掴んでただひたすら抉り続ける……ホント、剣しか頭にないのに射撃なんてよくやったよ。セシリアさんにでも教えてもらったのかな? いつの間に……でも助かったからありがとう箒姉。どうやら簪ちゃんさんに接近して武道で遠くに放り投げてから僕を助けるために射撃したみたい。だって相手が離れたところで転んだように横たわってるし……というよりISで武道って逆に凄くない? 流石箒姉。
「凪、エネルギーは?」
「半分削られた。箒姉は?」
「あと数発受ければ停止……と言ったところか。凪、勝ちたいか?」
「勿論……箒姉は?」
「無論勝ちたいさ! であれば卑怯ではあるが――」
「――うん、やるよ」
「ちっこの私がここまで削られるか! だが! 負けない! 教官が見ている前で私は負けるわけには……なにっ!?」
ラウラさんを無視して箒姉と一緒に離れたところにいる簪ちゃんさんに向かう。先行は僕、後ろに箒姉という並びだ。瞬間加速で一気に接近するとライフル、ミサイルといった射撃をしてくるけどその場で回転、体を斜めにして最小限の動作で躱して意識を僕に向けさせる。ちっ、背後からラウラさんが迫ってるか……マシンガンを展開して視線を簪ちゃんさんから逸らさず感覚で乱射、足止めを行って接近を阻む。箒姉がアサルトライフルで簪ちゃんさんを撃つけどバレバレの射撃だったのか簡単に躱されて逆に射撃武器の射線に入れられてしまう――だけど撃たせるわけないじゃん。
「っ、何……ハンマー、しまっ、きゃぁ!?」
ハンマーを展開、すぐさま放り投げて意識を逸らす。それと同時に瞬間加速で背後を取ってわき腹をバンカーの無い腕で殴ってから空いた手で頭を掴む。そしてすぐさま首に杭を打ち込んで絶対防御を発動させてから接近してきた箒姉に向かって投げる――なんか理解してくれたのかそのまま刀で斬ってくれた。流石双子、以心伝心。そしてどうやら今のでエネルギーが切れたみたい……ふぅ、これで2対1に持っていけるね。
「女子を物のように投げるな! そんな弟に育てた覚えはないぞ!」
「作戦なんだからしょうがないじゃん。ほら行くよ」
「ま、待て凪! 後で説教だからな!」
「ええい役立たずめ……まぁいい、貴様ら二人程度私の敵ではない!」
勝手に言ってろよ。さっきと同じように僕が先行してラウラさんをマシンガンで撃ち攪乱、箒姉がその隙を突いて斬りかかる。だけど訓練機のスペックのせいか箒姉の単純さが読まれてたのか分からないけど簡単に停止結界で固定される……でもさ、さっきまでと違って2人なんだよ? 背後から撃とうとすると箒姉を蹴り飛ばしてから肩の砲身を僕に向ける。そして一発の砲弾を撃ってくるけどこれぐらいは簡単に躱せる……と思っていたらいきなり小さな爆発が起きて網のようなものが僕に覆いかぶさってきた……なにこれ!? やばっ絡まって……!
「誰も用意したのがワイヤーだけとは言っていないぞ? 暴徒鎮圧用の特殊捕縛網だ、一時的だが貴様にも有効だろう?」
「凪! うあぁ!?」
「先ほどからウロチョロと目障りだ。先に消してやる!」
「箒姉!!」
拙い! この網から抜け出して急いで向かっても間に合わない……撃たれる? 誰が? 箒姉が撃たれる? なにで? 砲弾で? 躱せない撃たれる……殺される? 誰が? 箒姉が殺される? なんで? 誰に? アイツに殺される……恐怖が頭を支配して動けない。動け、動け、動け動け動け!! ぐ、あっ、阿頼耶識を通じて耶識の感情が流れ込んでくる……一つに、一つになれば間に合うの……? 良いよやれよ、頂戴、耶識の全てを全部。あぁ……生まれ変わる、変わる、体が再構築されていく。一つになるんだ……一つに、一つに!
「――まさか
覆いかぶさっている網から抜けると僕を見てラウラさんが驚愕の声を出した。二次移行……あぁ、そうなんだ。視界に映るスペック欄が結構変わってるし体もなんだかちょっと大きくなってる。肩も横に広がって色だってさらに深い色に……第二形態『耶識・
脳裏で耶識が笑う。僕の体と耶識の体が杭や剣で一緒に貫かれるイメージが浮かんだ。何でだろ……頭が真っ白になる、何も考えなくても良い、あぁそうか、そうなんだ、これだったんだ。
「やはり貴様は面白い。だが始末は後だ、まずはこいつか――なにぃ!?」
瞬間加速でラウラに接近、病愛と呼ばれる刀に似た武器を呼び出して首を殴る。なんで反応しなかったんだろうか……慢心かな? だったら馬鹿だね、僕と同じ馬鹿。吹き飛んだことで箒姉が拘束から解除されたようでちょっとだけ安心……でもこの武器なんだろ? 2つあるし持つ所は刀のようだけど刃が太くて分厚い、まるで中華包丁のようだね? でもリーチの長さも重さも丁度良い、耶識が僕のために作ってくれたんでしょ? ありがとう。使いやすいよ。
「な、何故センサーに反応が……ステルスか!? だがISのハイパーセンサーすら欺くなど――ぐあぁ!?」
起き上がった瞬間、即座に頭を割る。考えなくても身体が動く、理解できる、やっぱりそうなんだ、これこそが僕の本来あるべき姿、僕と耶識の姿、なんて良いんだろう、分かる、理解できる、何も考えなくても身体が反応してくれる。
「あるべき姿……き、きさまぁ……なにを言って、いる?」
「何聞こえてるの? へぇ凄いね、無知な子供の分際で心が読めるんだ? 凄い凄い、拍手してあげる。でもうざいから消えろよ、消えろ、お前なんて存在しなくても悲しむ奴なんていないんだからさ。死ねないなら僕たちが殺してあげる」
「なめる、ぐぅっ!? ちぃ!!」
放たれる砲弾を肩に閉まっている機関銃で撃ち落とす。爆風に紛れて接近するとワンテンポ遅れて僕に反応した……どうしたのさ? 遅いよ? 両腕に中華包丁のような刀を持って斬りかかるとレーザー剣で応戦、僕は蹴りを喰らって後ろに仰け反ってしまった……あぁ、突きを喰らいそう……でも無理、止めれるし。
仰け反った状態のまま腕が勝手に動いてレーザー剣を止める。すっごい、すごいすごい、あはははは、何も考えなくていいってこんなに楽なんだ。起き上がって相手の顔を見ると驚愕の色に染まっていた。どうしたのさ? さっきまでの威勢はどうしたの? ほら何かいいなよ? 威張って見せろよ? 無知な子供。
「あの状態で反応だと……いや、それよりも貴様! 無知な子供だと! 私が無知な子供だというのか!!」
「そうだよ? 本当の事じゃん。だって無知だし、我儘、相手の気持ちも考えない、自分の気持ちがすべて正しいって思っている無知な子供。オリムラチフユの汚点を無くす? 誰が汚点だって決めたの? キミじゃん。勝手に考えて勝手に決めて勝手に暴れまわって何が楽しいの? そこまで自分が特別だと思ってるの? ただの馬鹿じゃん、大馬鹿、死ねばいいのに。てか死んでくれない? 友達もアンタのせいで怪我したんだし死んで詫びろよ。死ねないなら殺してあげるから」
包丁刀に力を込めるとラウラは片膝をついた。なにこれ弱い、力が弱すぎる、はぁこんなのに苦戦してたのか……恥ずかしいね。
「お前が死んでも誰も泣かない、誰も悲しまない、誰も恨まない、なんて可哀想なんだろう。一人ぼっちで認めてほしかったの? 手を差し伸べてほしかったの? ばーかばーか、あははははは。今のキミじゃ無理だよ、無理、オリムラチフユにすら見捨てられるような存在風情が粋がってんじゃねぇよ。ばっかじゃねぇの?」
「き、さ、まぁ! 教官を愚弄、するかぁ!!」
「バカにしてるのはキミだよ。君の行動がどれだけ周りに迷惑をかけたか分かる? どれだけオリムラチフユが頭を下げたか分かる? 善意のつもりでも相手にとっては迷惑なんだよ、無知すぎて涙が出る、迷惑かけるなら帰れよ。誰も悲しまないんだからさっさと消えろ。お前にオリムラチフユがどれだけ期待してどれだけ手を差し伸べたか知らない。でも昔の事だ。今は違う。ニンゲンは変わる生き物だ、たった一つの事で性格も変わって些細な事で喧嘩してどうでもいいことで仲直りする。お前にはそれがない、一人だから、ワタシと同じ一人ぼっちだったから。でもワタシは違う。凪がいる、凪がいてくれる、凪が傍にいてくれる、お前なんかとは違う違う違う違う!」
ラウラの膝にドリルキックをねじ込みながら首、腕、肩、頭を殴る。殺すようにちゃんと全力で。死ね、死ね死ね! 良いから死ねぇぇ!!! うん? あれ? 腕が勝手に後ろに……何してんの箒姉? いきなり斬りかかってこないでよ? 相手が違うよ?
「……貴様、凪ではないな!」
「何言ってるのさ箒姉? 僕は凪だよ?」
「違う!! 私の弟は相手を否定するような男ではない!!」
「――へぇ、分かるんだ。でも赤の他人が所有物面しないで」
病愛で箒姉の首を掻っ切ってから肩の機関銃を展開してラウラを撃つ。怯んだ隙を突いて顔にドリルキックを喰らわせて背後に吹き飛ばす。うん? なんで周りが騒がしいの? うるさいなぁ……あれ? イチ兄? 試合終わったんだ? 早いね。それじゃ僕も早く終わらせよう。
一歩近づくとワイヤーブレードが伸びてくる。邪魔だから病愛で絡めとりそれを掴んで引っ張って僕の所までラウラを近づける。来たのと同時に膝蹴りして頭掴んで杭を撃ち込んで……あぁ~なんて快適なんだろう。今までこの動作するの大変だったけど今は違う、本当に何も考えなくていい。
「なに、も考えない、だと……何を言って……」
「何で聞こえてるのさ? てかまだ生きてるんだ……はぁ、無知な子供。お前は世界には不必要なんだ。僕と同じで世界の外れ者。自分の鎧に付けられた異物すら気づかない愚か者。だからもう楽になれば? 殺されても恨んで亡霊にならないでね? また殺すのが面倒だから――じゃ、さようなら」
包丁刀を振り下ろして息の根を止めようとした――でも無理だった。キンッという何かが通り過ぎる音と何かが弾かれる音が聞こえたから。あれ? なんで病愛が後ろにあるの? なんで刀が目の前にあるの? 何が、起きて……くぅ、あぁ……あれ……僕は何を……!
「私は負けない私は不必要なんかじゃない私は、私は、わたしはぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
僕の目の前でラウラさんが、正確には纏っているISが変形し始めた。黒く泥のようにぐちゃぐちゃとなりながらラウラさんを飲み込んで一つの姿に変わっていく……黒い全身装甲のISに似たなにか。でもその姿に僕はある人物を思い出した。あの刀……雪片……雰囲気がちー姉ちゃんに似てる……! 拙い! 何かよく分かんないけど止めないと!
残っている病愛を握りしめ接近すると迎撃するように刀が振るわれる……嘘、早い!? 予想では背面跳びで躱そうとしていたけどそれよりも早い速度で刀が僕の体を切り裂いた……うぅ!
「凪!」
「箒姉! ダメ! これ、何か変だ!」
「あぁ……先ほどのお前も変であったがこれは異常だ。お前はもう、大丈夫なんだな……?」
「……多分、単一仕様能力を使ったからだと思う。さっきまでの出来事が曖昧なんだけど……箒姉は簪ちゃんさんを連れて逃げて! 僕はこいつを食い止める!」
「何を言っている! これは教員に任せてお前も――」
「僕の責任だ!! 多分……僕の発言でこれが起きたんだ……だから僕が何とかする! ラウラさんを助けないと危険だ!!」
緊急事態と試合中止、生徒は避難してとアナウンスが流れているけどそんなことは関係ない……分かるんだ、泣いてる……奥底でラウラさんが助けを求めてる……僕が原因なら僕が助け出す! 耶識、嫌かもしれないけど僕に力を貸して。色んなもの持って行っても良いからあの子を助けるために……!
一歩前に踏み出すとピットから白式を纏ったイチ兄が目の前のISもどきに向かっていった。さっきの僕と同じように近づく者全てを敵として認識してるんだね……イチ兄が持つ雪片とISもどきが持っている雪片の刃がぶつかる。だけど力負けして袈裟斬りを受けてイチ兄が僕の方まで吹き飛ばされてきた……やっぱり早い、今までの動きじゃまず対応できないか……! イチ兄を追ってかリヴァイヴを纏っているシャルロットさんが重火器で射撃をこない相手を足止めする。
「イチ兄!」
「凪! もう大丈夫か!? なんか変だったぞお前!」
「単一仕様能力が原因かも……それよりラウラさんを助けなきゃ!」
「あぁ! 俺も千冬姉の刀を使われて頭にきてんだ!! 一発ぶん殴らない時がすまねぇ!!」
「一夏! まだ白式の補給が終わってないんだから無茶はダメ! さっきの動きを見たでしょ? 近づいてもあの速さには対応できないよ……」
「だからってただ見てるだけってのは無理だ! 俺たちが一斉に挑めば――」
「――無理だ」
さっきの動きで確信した。あれはちー姉ちゃんの動きそのもの、つまり世界最強を相手にしているといっても良い。だから普通のISで動きを処理してたらまず勝てない、そう普通なら……
「凪!? お前まで!」
「僕があれを抑えるからイチ兄は零落白夜で斬って。そして迷わずあれを殺すんだ」
「こ、殺すって……」
「あれはISが変形してる……分かるんだ、耶識が教えてくれる。エネルギーを無効化する雪片で斬ればあれは止まるはず……ちー姉ちゃんの亡霊を殺してラウラさんを助け出す。お願いしていい?」
「――あぁ。信じていいんだな? さっきの箒みたいに俺達にまで襲い掛かって来たら泣くからな」
大丈夫……大丈夫、すぅ~はぁ。耶識、聞こえる? 僕はアイツを殺したい、助けたい。助けたいからアイツを殺す。嫌なのは分かる、助けたくないのも分かる。でもこれが僕だ……お願い、一回だけの我儘を使わせて……ありがとう、じゃあ行くよ。『人機融合』、発動!!
繋がる、耶識の意識と僕の意識が混ざり合い一つになる。考えるな、感じるな、思うがまま体が動くままにあいつを殺せ。殺して殺して無知な子供を助け出す。武器は病愛のみ、リーチは負けている、だったらその分動けばいい。あぁそこにいたんだ。無知な子供……異物に気が付かなかった末路にふさわしいね? 泣いても叫んでも助けを求めても僕以外には届かない、そんな存在なんだよキミは……でも、だからこそ助け出す。無知なら知識を身に付けてただの子供に成れ、話はそこからだ。
「五月蠅いんだよ、ただの弱者の言葉に惑わされて癇癪を起してだから無知だっていうんだ。これ以上キミの罪を広げるな、増やすな、助けてほしいならもっと大きな声で言え。なんで諦めてる癖に助けてなんていうんだよ……あぁもう腹たつなぁ!!」
瞬間加速で接近するとそれと同等の速度で刀を振るってきた。病愛でそれを弾き、わずかな勢いを利用して回転、足払いを行い体勢を崩して倒れてくる体に空いた足で蹴りを叩きこむ。しかし相手も止まらない。受けた反動を利用して刀を振るい足を切断しようとしてきたけど再び病愛で弾く。考えなくても勝手に反射で動いてくれる……僕はただの生態端末、言葉を放つ機械、それでいい、僕はそんなちっぽけな存在なんだから。
目の前には宇宙、色んな星が光り輝いている。その中でたった一つだけ黒い光を放つ星がある。見つけた、そこにいたんだね……ヘドロのような何かに体を覆われ喰われようとしている銀髪の女の子、だから言ってるだろ? 助けてほしいならもっと大きな声で言えって。そんなんじゃ届かない、だれも見向きはしない。
「どうして理解できなかった! どうして分かろうとしなかった! どうして話そうと思わなかった! 君に似たあの子は、僕が好きな人はそんなことはしなかった! 自分の生まれも何もかも言ってくれた! 何で一人で勝手に決めつけた! なんで相手を知ろうとしなかった! 自分が思い描くものが全てじゃないって分かってるだろ! 話してくれれば……友達になれたのに!! まだ間に合う! いいから黙って戻ってこい!! 戻れって言ってるだろ!!」
物凄い速さで振るってくる刀を弾きながら何度も相手に届く様に叫ぶ。病愛で切りつけようとしても相手に弾かれ、相手の刀は僕が弾いて、ただただそれを繰り返すだけ。届かない、まだ足りない、良いからまだだ! 良いからさっさとよこせ!! あと少しなんだ……あと少しで手が届く、あと少しで手を掴めるんだ!!
「――いいから早く手を伸ばせ! ラウラァァァ!!」
手を伸ばすと腕ごと斬り落とされ、反対の腕を伸ばしても返しの刃で同じように斬り落とされる。シールドはある、両腕はあるのに頭では両腕が無い状態に感じている……訳が分からない、そして腕も動かない、だけどまだ諦めない。僕にトドメを刺すため刀を引き、突きの構えに入るのが視界に入る――ここしか、ない! 放たれた突きを胴体に直撃する直前、視界に『TimeOut』という文字が出現する。刀の刃を胴体で受けとめるとシールドが大きく削られるけど……これで終わるのはキミの方だ!! 動かなかった腕が動くようになったので刃を握り軌道をずらして前に前進、そのまま抱き着いて動きを止める……やっと捕まえた! 離さない、絶対に離さない!!
「イチ兄ぃぃぃ!!!」
「あぁ。これで、全部何もかも終わりだ!!」
一閃。ラウラさんを飲み込んだISもどきの背中をイチ兄が雪片で斬る。すると土が零れ落ちるように変異した姿が壊れていき僕の腕の中にはラウラさんの姿が現れる……よか、た。
「凪!」
「凪! おい! 凪!」
僕を呼ぶ声に反応できず、そのまま意識が沈んでいく。最後に見えたのは耶識が笑う姿だった……。
耶識専用単一仕様能力「人機融合」
反応速度、機動性、出力が最大稼働でISのハイパーセンサーすら欺くステルス状態になる半面、思考が駄々漏れかつ敵味方問わず殺意に似た感情に切り替わるデメリット持ち。
普通に言うと暴走状態。
傍から見たら独り言話しまくる危ない人です。