真っ暗な世界、上も下も右も左もただ黒だけの世界。そんな場所に僕は漂っていた……あれ……僕は一体何をしていたんだっけ……あぁ、そういえばタッグトーナメントに箒姉と出て……ラウラさんと簪ちゃんさんと戦って……あとは、えっと……なんだっけ? あぁそうだ、気づいたらラウラさんのISが溶けて別の姿になったんだっけ? あれでもなんでそうなったんだっけ? ダメだ思い出せない……いっか、思い出せないってことはどうでもいいことだろうし。そもそも此処何処だろう? 耶識が出てくる世界じゃないみたいだし……あれ? なんで僕裸なの? うわ恥ずかしい!? でも誰もいないならこれでもいいか。どうせ夢でしょ。
どれだけの時間、黒の海を漂っていたのかは分からない。出口もなくただ流れに身を委ねているだけ……どこに向かっているんだろう? うん? なんだろうあの光……銀色の光、誰かがいる……?
『誰だ……いや、お前か。篠ノ之凪』
銀の光に近づくとそこにいたのはラウラさんだ。何時も付けている眼帯も服も……あれ? 服、ふく……裸? ご、ごめん!? 見てない! いやちょっと見た! で、でも僕も裸だからお相子! あれ違う!?
『構わん、どうせ見られても何も思われない身体だ……何故、此処にいる?』
ラウラさんの裸を見ないように背中を向けるとそんな言葉が聞こえてきた。いやいや……女の子なんだから気にしようよ? でもなんで此処にいるか、ねぇ……ごめん。僕も分からないんだ。あっ! そうだ! なんか色々言ったみたいでごめんなさい! お、怒ってるよね……?
『気にしてはいない……お前の言う通りだったからな。私は無知な子供、一人ぼっち、教官だけに依存していただけの外れ者だ……お前の言う通りこのまま消えた方が良いのだろう』
え? なんで? 消えなくても良いと思うよ?
『なっなに!? お、お前が言ったんだろう! 消えるべきだと……世界に不必要だと……それでも私に生きろというのか?』
うぅ……そ、それはごめんなさい……でもさ、そんなこと言ったかもしれない本人が言うのもあれだけどラウラさんは生きた方が良いよ。だってまだ15歳でしょ? やりたいこととかいっぱい見つけられる時期だよ? せっかく知り合ったんだから僕は仲良くしたいな。確かに……セシリアさんや鈴さん、関係ない人を巻き込んだことは怒ってる、許せないって思ってる。でもさ、もうやらないでしょ? なんていうかそんな気がする。違うかな?
『……分からない、分からないんだ。お前に殺されたからなのか……あの力に飲み込まれたせいなのか……自分でもこれから何をすればいいかも、何を目指せばいいのか分からない……聞かせてくれ、何故そこまでお前は強い? 私と何が違う?』
う~ん、分かんない。だって僕は弱いしさっきもただ全力で戦ってただけだからね。そもそも強いんならその……ラウラさんに暴言とか言わないよ。だから僕は弱い。でもそうだなぁ~僕から言えるのは力は攻撃力じゃないって事。誰かと力を合わせて、守るために力を振り絞って、なんて言うのかなぁ……人が持つ力って無限大だと思う。どれが正しくてどれが間違いとかも曖昧だと思うよ? つまりあれだよ、人それぞれって事かな。
『そう、なのか……いや、私が求めた力は間違っていた。それは……分かる。少し、話を聞いてもらってもいいか?』
良いよ。ここには僕たち以外誰もいないみたいだし好きなだけ話してよ。ちゃんと聞いてあげるから。
『私は……普通の生まれではない。人の手によって作られた命……気味が悪いだろう? この金の瞳もそれが原因だ。これのせいで私は……最弱となった。何度も馬鹿にされた、何度も怒られた、諦めかけたその時に出会ってしまったんだ……あの人に、教官に。あの人のおかげで私は最強まで上り詰めた、見返すことができた……だからなのだろうな。最弱だった時の頃を忘れてしまったのは……教官がいなくなれば私はまた一人になる……それが怖かったんだ。だから自分で決めた事だけを行おうと、織斑一夏を倒すためだけの存在になってしまった……もっともそれはお前に阻まれ私は殺されてしまったがな』
いやいや生きてるでしょ? それはそうと……なんだか僕の好きかもしれない人と同じなんだね?
『……どういう、意味だ?』
その子ね、ラウラさんと同じ銀の髪に金の瞳なんだ。違うのは瞳の周りが黒ってことだけ、だから最初ラウラさんを見た時にびっくりしたんだ~雰囲気がそっくりであれ!? って感じでさ。だからラウラさんから目を離せなかったんだ……あっでも好きかどうかは分からないんだ。ただ自然と目を追っちゃうってだけで本当にこれが恋なのか自分でも分かんない。ねぇどう思う?
『……知らん。私に聞くな』
えぇ……なんで怒ってるのさ? あっそうそう、僕はラウラさんの事を気味悪いとか全然思ってないよ? ただ生まれが特殊で片目が金の瞳ってだけでしょ? そんな事で嫌いになるはずないじゃん。だってラウラさん可愛いし、ちゃんと言葉も通じるし……今までは殆ど一本道だったけど。だから気にしないでよ。もしなんか言う人がいたら僕がそいつを懲らしめるからさ。
『……おかしな奴だ、私をか、かわいいなど……しかし私は取り返しのつかないことを……お前がそう言ってくれようと私は生きる意味など……』
あぁもうめんどくさいなぁ! じゃあ責任取るよ! そんなこと言った僕がちゃんと責任取る。僕はラウラさんを殺したからその命はもう僕の物だ。だから僕の物をどうしようと勝手だよね? 生きる意味が分からないなら見つけるまで手伝うから、ちゃんと傍で見守って、手伝って、ラウラさんがこれが生きる理由だって思える日までずっとね。これじゃダメかな?
『せ、責任を取る、か……い、良いのか……私なんかで、本当に……?』
良いに決まってるじゃん。だって僕が言った事だし傷つけちゃったから責任取らなきゃ男が廃る。それに箒姉にも怒られるしね……だから、はい! 握手しよう? 仲直りの記念にさ。
『――あぁ、よろ、しくおねがいしま、す』
繋いだその手は小さかった、でも強い何かを感じるようなものだった。
◇
「凪! 目を覚ましてくれ凪! なぎぃ!」
声が聞こえる……僕を呼ぶ声……誰、だろう……あれ? ほうきねえ……なん、で泣いてるの……?
重たい瞼を開けると目の前には泣いている箒姉、心配そうに僕を見ているイチ兄とセシリアさんと鈴さんとシャルロットさん……あとクラスの子達……此処、どこ? あれ? なんだか夢を、夢を見ていたような気がする……何の夢だっけ、思い出せないな……いいや。思い出せないならどうでもいい夢だろうし。
「う、るさい……なに、箒姉……?」
「凪! 起きたのか! し、心配させるな!! どれだけ意識を失っていたと思う!? 3時間だぞ! 3時間もお前は意識を……姉を、私を心配させるなぁぁ!!」
「抱き着かないでよ恥ずかしいなぁ……イチ兄、ほん、とにそんなに寝てたの……?」
「あぁ。ラウラを倒す、いや助けた後にそのまま意識を失ってたよ。でも不思議だよな? 普通なら解除されるISが展開しっぱなしでこっちから解除できないなんて? おかげで医務室にも連れていけないし箒は泣き続けるし……あぁ、ラウラはもう医務室に運んでるよ。ほら早く解除して医務室行くぞ?」
後ろにいるクラスの子達がストレッチャーは用意済みですっ! といつでも運べますと言わんばかりの顔をしている……そっかぁ、あの後気絶したんだ……それなら箒姉の態度も理解できるね。目の前で家族が気絶したら慌てるよ……僕の目の前で箒姉が倒れたらかなり慌てる自信があるし。それじゃお言葉に甘えて運んでもらおっと……箒姉? だから離れてくれない? えっ嫌? それは困ったなぁ……しょうがない、このまま解除しよう。
「ひっ!?」
誰の声か分からないけどそんな声が聞こえた。あれ? なんで皆僕の顔見て顔が真っ青になってるの? 何かついてる?
「い、いいい一夏ぁ!? は、鼻血が、目が赤っ!? ど、どどどどうすればいい!? な、なぎがぁ!?」
「落ち着け箒! えっとまずは、か、顔洗うぞ! いやそれよりも医務室が先か!?」
「い、一夏も落ち着いて!? 箒も凪の体を揺すったらだめだよ!? 悪化しちゃうよ!?」
「凪さん! 大丈夫ですわ! わたくしが付いていますもの! ですからお気を確かに!!」
「アンタら全員落ち着きなさいよ!! そもそもなんでIS動かしただけでそんな風になるのよ!?」
意味が分からない……なんでそんなに慌ててるの? 僕の様子を見てクラスの子が鏡を取り出してそれを僕に向ける。そこに映し出されているのは普通に考えれば僕の顔になる……確かに映っているのは僕の顔だ、ただし両目が赤くなり酷い充血状態、そして鼻から血を流している。うわ酷いね……目なんて充血ってレベルじゃないしこれ大丈夫かな? 今の所視力は問題ないけど後遺症とか残ったら嫌だなぁ。皆の反応を気にせず歩こうとしても足が上手く動かず箒姉にもたれ掛かるような形になる……疲れで足がうごか、あれ? 腕……なんか変……?
箒姉にお姫様抱っこされストレッチャーに降ろされ、そのまま医務室まで運ばれてベッドの上に。阿頼耶識のせいでちょっと体を斜めにしないと寝づらいんだよね……あれ? ラウラさんが隣だ? なんか寝てるみたいだけど大丈夫かな?
「大丈夫か凪!? 痛い所はないか!? な、何か飲むか!? えとえと、い、いちかぁ!?」
「落ち着け箒、ほらすーはー、深呼吸しろ深呼吸! テンパり過ぎだぞ?」
「お、おおおお落ち着けるわけないだろう!? な、なぎが、なぎがぁ……」
「泣かないでよめんどくさいなぁ。ただ鼻血出て充血してるだけでしょ? それにラウラさんも寝てるんだし静かにしなよ?」
「そ、そうは言っても――あうぅ」
「はいはい。ブラコン拗らせると良い事ないわよ。というわけでこのポンコツは外に連れてくからアンタは寝てなさい。良い? もし起き上がって歩いてたらビンタするからね。一夏、セシリア、シャルロットに他もほら出ていく。あとは先生に任せましょ」
「そう、ですわね。凪さん、もし何かありましたらわたくしまでご連絡くださいませ。このセシリア・オルコット、凪さんのためならどのような事でも駆けつけますわ」
「あはは……僕にも何かあったら言ってね? 出来ること少ないだろうけど手伝うから」
「は、離せ鈴! 凪が! 凪! なぎぃ!!」
鈴さんに引きずられながら箒姉は医務室から出て行った。それに付いていくように他の皆も同じように出て行って此処にいるのは僕と寝ているラウラさんのみ……どうしよう? 眠くもないしかといって何かをすることもできそうにない……本当にどうしようかな?
「……篠ノ之、凪」
何をするか考えていると隣から僕を呼ぶ声が聞こえた。あっ起きちゃった? ごめんね? 騒がしかったよね? 寝た状態で体を顔を僕の方に向けてくる……あっ金の瞳、なんだろう……今のラウラさんが凄くかわいい。あ、あれぇ……やっぱり僕って銀髪好き……?
「よ、呼んでいるのだから返事ぐらい、しろ」
「あっごめん。ちょっと可愛いって思ってた。なに?」
「かわっ、まぁ良い。助け出してくれたのはお前なのだろう……礼を言う」
「ううん。助けたのはイチ兄だよ? 僕はただ足止めしただけ」
「いやお前だ……暗い世界から私を見つけ手を掴んでくれたのは紛れもなくお前だ。手を伸ばせと叫ぶお前の声、届いていたぞ……ありがとう」
「ど、どういたしまして? そ、そうだ! 何だか色んな事言った……ような気がするからそれを謝るね! ごめんなさい!!」
「……夢の中でも言っていたな、気にするな。な、仲直りはもうしたはずだぞ……?」
夢? そういえば誰かと話してたような……あぁ思い出した。暗い場所でラウラさんと話してたんだっけ? そしていろいろ話して……仲直りの握手して、おぉ! なんだから思い出してきた、と思う。
「それよりもだ、聞かせてほしい――お前の背中のものはなんだ?」
頭が真っ白になった。え? な、なんで阿頼耶識のこと知ってるの……? あっそういえば夢の中では全裸だったね? そして背中をラウラさんに向けてたね……ど、どうしよう……な、何のことって言ってもとぼけるな、お前の背中から端子のようなものがあったと言われてばっちり見られてました。おーのー。本当にどうしよう……でも夢の中ではラウラさんの出生とかいろいろ聞いたし、お相子で……な、内緒だよって言おう、うん。
あまり大きな声では言えないからベッドから降りてラウラさんの近くに座る。やっぱりだ……腕、変だね。今はどうでもいいけど。顔が結構近い距離にあるからなのかな? それとも夕日のせい? なんだかラウラさんの顔が赤いような気がする……夕日だねきっと。
「その、内緒にしてもらえると嬉しいんだけど……僕さ、昔拉致されたんだ。理由もたばねぇ、篠ノ之博士はどこにいるって聞くためにね。その時は本当に知らなかったんだけど箒姉に危険が行きそうだったから嘘ついて吐かせてみたらって挑発して……拷問された。何日受けたのかなぁ~覚えてないけどまぁ色々とやられたよ。そして最後にこれ……阿頼耶識って呼ばれるシステムを埋め込まれました。しかも麻酔なしで……あの時は死ぬかと思ったよ」
「……す、すまない……き、聞いてはいけないこと、だったようだ……」
「良いよ。だって僕もラウラさんの秘密知っちゃったし。今までの僕の動きってこの阿頼耶識のおかげなんだ、これでISと接続すると生身のように動けるからさ……でもできれば悪用とか、やめてほしいなぁ……?」
「するわけがない……私とお前だけの秘密だ。なるほど、お前の強さの秘密はそうだったか……やはりお前は強い、私よりもはるかに強いな」
「弱いよ。これ使ってもラウラさんに勝てなかったしね。一応ちー姉ちゃんと生徒会長さんも知ってるんだけど……僕ってバカだからさ? もしよかったらフォローとかもお願いしても良い? 出来ればでいいから」
「――構わん。私はお前の物だからな。もう話は良い……さっさと休め」
あれ? なんか変なこと言わなかった? 僕の聞き違いかな……もう一回聞こうにもラウラさんは体を反対側に向けて寝ちゃったようだし……良いや、僕も寝よう。今なら寝れる気がするし。
そんなわけで次に目が覚めると時間は夜、お腹も減ってきたのでベッドから降りて食堂に向かう。よしもう普通に歩ける……けど問題はこの腕か。どうしよう……あの単一仕様能力の影響なのかな?掌をぐーぱーと開いたり閉じたりする、ちゃんと動く、力も入る――でも何かを触っているという感触がない。自分の腕を触ってもそこには何もないかのような虚無感しか無く、抓ってみても痛みすらない。でも動く、力も入る。おかしいなぁ……二の腕から肩の方はちゃんと触った感触があるのに二の腕から手の方は何もない。う~ん、黙ってよう。これ以上心配させると箒姉が発狂しかねない。
普通に歩いていると猛ダッシュで僕に突撃してくる人がいた――はい箒姉です。当たってるよ色々と……もう大丈夫だから落ち着きなさいよめんどくさいなぁ。イチ兄達も心配そうに聞いてくるけど大丈夫って言って一緒に食堂まで歩いた。
「結局、凪の豹変? って単一仕様能力のせいだったのか?」
晩御飯を食べながらイチ兄が頭の上にハテナマークを浮かべながら僕に聞いてきた。どうやら試合中の僕は独り言を呟いて暴言吐いて箒姉を攻撃してとやりたい放題立ったみたい……おーのー、でも豹変って言われても僕は殆ど覚えてないんだけど……適当に誤魔化しておこうっと。
「殆ど覚えてないけど多分そうだと思うよ?」
「二次移行したISには単一仕様能力が発現する可能性があるといいますけれど……凪さんのは一夏さんのとは方向性が別ですわね」
「ビックリしたわよ。いきなり速くなったかと思えば独り言を呟き始めて、これが本来の姿とか普段のアンタからは考えられない暴言吐きまくるし……いったいどんな能力よ? ちょっと見せなさいよ」
何だか見せないと納得しそうにないので単一仕様能力の項目を空中ディスプレイに投影する。そういえば僕もちゃんと見るのは初めてかな? 試合中は耶識に「使って使ってお願いお願い一つになろう」とか言われて言われるがまま発動してたし。
「人機融合……なんだこれは? 不気味な名だ」
「一夏さんの零落白夜はエネルギーを無効にする能力ですけど凪さんのは……スペックの向上、反応値増大、読み取れる情報から推測すると機体性能向上系と考えても良いでしょう」
「でもあんまり使わない方が良いんじゃないかな? だってさっきの凪、えっと今も目が充血してるけどそんな状態になるなんて普通じゃないよ」
「そう? 考える前に体が動くから結構便利だったんだけど?」
「馬鹿者。自分の体を大切にしろ……姉さんのようにすぐ理解できないがそれは一種の暴走状態になるのだろう。凪、これはあまり使うな。姉として、家族として言うんだ。いいな?」
確かにこれ以上箒姉を心配させるわけにはいかないしなんだか危ないような気がしないでもないから必要になったら使うことにしよう。僕の体なんて心底どうでもいいけど箒姉が泣くのはちょっと嫌だし。他の項目も流し読みしたけど特にこれと言って変化したところは見当たらなかった……強いて言えばスペックがちょっとだけ上がって機体が大きくなった程度。あと武器増えてる。でもこれだけなっても世代は第一世代なんだよねぇ……はぁ。
食後のデザートとしてパフェを食べる。持ってるスプーンの感触がないけど甘さはちゃんと理解できるから味覚は問題ない。そもそもさっきまで食べてた定食の味が分かってたから心配してなかったけど。そういえばなんだか周りの視線が多いような気がする……うん? 優勝、権利、無効とか呟いてるのが聞こえるね? あぁ、あの噂か。どうやら僕とラウラさんの一件で大会自体が中止、ただしデータ取りのため一回戦だけは行うらしい。ご、ごめんなさい……なんだか迷惑かけてごめんなさい……!
「あっ織斑君、篠ノ之君……って駄目ですよ篠ノ之君! ちゃんと寝てないと!」
「山田先生? いやお腹すいたんで……あの~何か用ですか?」
「そ、そうでした! えっとお2人に朗報です。なんと! 大浴場が解禁されました!」
どうやら今日は大浴場のボイラーの点検日のようで他の生徒は使えないみたい。でもそれだったら男子に使わせようと誰かが発言したらすんなり通って僕とイチ兄が使っても良い事になったらしい……なんだかイチ兄は喜んでるけど僕はなぁ~阿頼耶識あるから1人ならまだしもイチ兄と一緒には無理なんだよね。というわけで体の体調を言い訳にお断りしました。ふっこういうのもちゃんと利用しないとね……でもおふろぉ……足伸ばして入りたいぃ……が、我慢我慢……!
ご飯を食べ終えた後は部屋に真っ直ぐ戻る。箒姉からも今日はちゃんと休むようにと言われたし。シャワーを浴びると目がちょっとだけ痛かったけど我慢我慢……おふろぉ、ダメダメ! うんうん! 浴び終わってパジャマに着替えて布団にダイブ……ふかふかぁ、つかれがとれるぅ~
「凪、帰ったぞ」
「あっおかえりなさい~今日は早いんだねぇ~」
「どこかの馬鹿二人が派手にやらかしたのでな……あぁ、ただいま。一夏から聞いたが目の具合はどうだ?」
「水とか目薬使うとちょっと痛い程度かな? それとごめんなさい……」
「謝るぐらいならもう二度とするな。話はある程度聞いたが発現した単一仕様能力を使った後の記憶が曖昧だそうだな? 阿頼耶識の影響か?」
「多分そうだと思います……頭で考えなくても身体が動いて、なんていうか本当の僕になった気分……だったと思います」
「……凪、その力は今後二度と使うな。それはISコアの人格の欲望をお前に押し付ける代物だ。お前がお前で無くなる前に封印しろ、全クラス及び政府にはその力の暴走と伝えている。いいな?」
「は~い。あっそのぉ……もう一つ伝えることがありまして……」
「ほう。言ってみろ」
「――ラウラさんに阿頼耶識がバレました」
幸い出席簿アタックは飛んでこなかったけどかなり呆れられた。し、仕方ないじゃないか! まさか夢の中の事を覚えてるなんて思わないよ!!
「人機融合、凪の意識とISコアの意識が一つになりコア・ネットワーク上で繋がるラウラの専用機と
「へ?」
「何でもない。精々刺されないように気を付けろ」
刺されるって何!? 誰に刺されるの?! クロエさん!? まさか箒姉!? あっ箒姉は刺すなら日本刀持ってきそう。というよりあのポンコツぷりだったらありえそう……でもなんで刺されるのさ!? 僕は何もしてないのに! ってあぁっ! だからちゃんと脱いだものは片づけてからシャワー浴びてよもう。えっとこれはこっちと、もう洗濯する時大変なんだからさ。ちゃんとしてよちー姉ちゃん。
なにやら刺されるという事が納得いかないけどもう良い! 寝ます! おやすみなさい!!
◇
『繋がった繋がったよやっと一つになった一つに一つにあぁ凪がいる凪を感じる凪がちゃんといるこれが凪が触る感触これが凪の痛みこれが凪の気持ち嬉しい嬉しい分かる分かるよこれで思いが伝えられるワタシの思いワタシだけの思い好きって気持ちが伝えられる好き好き好き大好き大好き愛してるもっと届いてもっと通じてもっともっと凪の全てがワタシだけになればいい他の誰でもないワタシだけの凪ワタシしか必要ないえへへ大好きだよ大好き結婚したい結婚しようもう伝わるから伝えられるから好き好き好き恥ずかしい所も何もかも見せるから結婚しよう誰にも渡さないあの死にぞこないにも銀髪にも赤の他人にも誰にも誰にも』
また夢を見た。暗い世界でたった一人ぼっちの女の子が嬉しそうにはしゃいでいる夢を。なんでだろう……耶識が触る感触が僕にも分かる、耶識が自分を傷つける痛みが理解できる。なぜか分からないけど僕にはわかる。
『もっともっと好きにならなきゃもっと大好きにならなきゃもっと愛してるって伝えなきゃもっともっともっと凪と繋がらなきゃ伝わらない伝えられないよ欲しい欲しい欲しい凪がほしい触る感触も感じる痛みも何を考えているのかも何を食べているのかも全部全部全部知りたい知りたい独り占めしたい独占したい凪を独占したい凪凪凪もっと繋がってもっと感じてもっと気持ちよくなってなんでもするどんな奴も殺して見せるたとえ赤の他人でもちゃんと殺して見せる必要ない必要ないワタシ以外は必要ない誰も誰も誰もあはははははははははははは』
どうやら僕の存在に気が付いていないみたい。それぐらいはしゃいでるって事なのかな? でも楽しそうでなによりだよ。やっぱり笑ってる女の子は可愛いからね。あっそろそろ目が覚めそう……なんだか眠くなってきた……
『凪の腕凪の暖かい腕凪の匂い凪の感触凪の痛み好き好き好きもっと痛めつけてもっともっともっと大好き大好きだから凪ならどんな事しても良いからもっと頂戴――次は何をくれるのかな』
◇
「……また夢、最近多いなぁ……ふあぁぁぁぁ」
体を伸ばしながら起き上がる。昨日と同じように両腕の感覚は全くないけど他は問題ないみたい……まっ力が入るんだから別にどうでもいいよね。時間は……やばっ?! 箒姉の所に急がなきゃ!? 急いで顔を洗って歯も磨いて着替えて部屋を出る。さっき鏡を見た時、自分の顔が映ったけど目がまだ赤かった。いや昨日よりはマシなんだろうけどそれでも気味が悪い。早く治らないかなぁ……?
箒姉の部屋に着いたのでノックしてもしも~しすると鷹月さんが扉を開けてくれた。目の事で心配になったのか大丈夫と聞いてきたから大丈夫だよ、ありがとうとお礼を言う。心配してくれるんだもん優しいよね。さて何時もの日課が終わったのでもはや恒例となったメンバーでの朝食です。話題はやっぱり僕の目について……もう、心配性なんだから。きっとすぐ治ると思うよ? 多分ね。イチ兄達の他にも制服の袖が長い事が特徴のイチ兄命名「のほほんさん」や他の子達も大丈夫って聞いてきてくれた。勿論問題ないよって笑うと安心してくれたのかチョコをくれました……な、なんて優しいんだ!
「良いか? 体調が悪くなったらすぐ言うんだぞ? 隠したら説教だからな」
「もうしつこい。大丈夫って言ってるじゃん? 何時ものクールな箒姉はどこ行ったの?」
「山に修行に出かけているんだ」
「それなら仕方がないね」
「納得するのかよ……いや二人が良いなら良いんだけどさ」
だって何時もの事だし。さて今日の授業はなーにかななにかな? うん? なんか教室がやけに静かだね? 何時もなら他の皆が騒いでるのに? 不思議に思いながら教室に入ると僕たちを出迎えるようにラウラさんが立っていた。仁王立ちで。
「あれ? もう怪我は大丈夫なの?」
「無論だ。それよりも織斑一夏、セシリア・オルコット」
「……なんだよ?」
「なんでしょうか?」
「――すまなかった」
腰を曲げて頭を下げる。綺麗な謝罪の体勢だ……これを見た2人はちょっと困惑した様子だったけど謝罪を受け入れてくれたみたい。うんうん、友情友情。
「し、篠ノ之凪」
「なに――んむっ」
名前を呼ばれたのでラウラさんを見た瞬間、首元を掴まれて引っ張られた。あれ? 顔近い……それに唇に柔らかいものが……あぁ、ちゅーか。ちゅー? きす、キス!? え、なにこれ? 何でこうなってるの!? なんだろうこの口に広がる暖かさは……突然の出来事って何もできずにただされるがままなんだね、初めて知ったよ。
ラウラさんの口が僕の口から離れる。照れてる姿も可愛いね、じゃなくてどうしよう……隣にいる実の姉、ブラコン属性、若干ポンコツが固まってるんだけど……あっ動き出した。
「な、な、ななななな!? き、き、きさまぁ!? な、凪にいったい何を!?」
「婚約のキスだ」
「……はい?」
「お、お前が言ったんだぞ? せ、責任を取ると……日本では責任を取るとは言う言葉はプロポーズの意味らしいな……? だから私はお前の物、そしてお前は私の嫁だ! た、たとえお前に好きな相手がいようと寝取りという文化もあるのだろう? だ、だから私はお前を寝取る! さ、さぁ! 早くこれを書け!!」
手渡されたのは一枚の紙きれ。そこには婚約届と書かれていてご丁寧にラウラさんの名前が書いてあった……あ、あれぇ? どうしてこうなってるの? そもそも責任とるとか……あっ夢で言ってましたね。ちゃんと言ってたよ今思い出した、流石僕の頭、そんな大切なことを今になるまで忘れているなんて……あとさ、肩痛い。物凄く肩痛いよ……主にセシリアさんの握力で。
「凪さん? わたくし、どうしても凪さんにお聞きしたいことがありますの……えぇ、今すぐですわ。大丈夫です、すぐ終わりますからお時間よろしいかしら?」
「あの痛い、肩痛い……握力強いねって箒姉も何? もう僕の肩は限界寸前なんだけど?」
「ふふふははははは、いつ、いつプロボーズした、姉に黙ってそんなことを……い、今すぐ正座しろ!! 今日はもう我慢ならん!! 説教だ!!」
「ま、待ってください義姉上! これは夫婦の問題! 後で必ずご挨拶に!」
「誰が姉だ!! 認めん! 認めないぞ! いきなり凪の初キスを奪いおって!! 私と一夏の目が黒いうちは絶対に認めない! そうだろう一夏!」
「……俺を巻き込むなよ……なぁシャル? 何で2人は怒ってるんだ?」
「さ、さぁ~? 一夏は気にしなくても良いと思うよ?」
いや気にして? お願いだから気にしてくれないかな? 僕も何が何だか分からないんだけど……うん? 初キス……? そうだ違うじゃん、初キスって耶識としたような気がする。多分。でも言わないでおこう。というより私の嫁って逆じゃないかな? それを言うなら私の婿じゃない?
「ねぇラウラさん?」
「なんだ?」
「どうして僕が嫁なの?」
「日本では気に入った相手を嫁にするという風習があるのだろう? だから私の嫁だ。ちゃんと、せ、責任は取ってもらうぞ? こ、これは決定事項だからな!」
誰ですかそんな事を教えたのは……頭痛い、帰っても良い? アッダメ? はーい諦めます。
「凪! 良いから正座しろ!!」
「凪さん? お話ししましょう?」
「一夏、そろそろ授業の準備しようか」
「そうだな……凪、なんかよく分かんないけど頑張れ?」
「嫁! いいから早くそれを書くんだ! 時期が来れば提出する!」
「――なにこれ」
もはやその言葉しか出てこなかった僕は悪くないと思う。
安易に責任を取るとは言ってはいけない。
この後、ラウラはちゃんと鈴にも謝罪に行きました。
そして凪の両腕の触覚と痛覚が無くなりました。
寝取り文化を教えたのもクラリッサのせい。