「たばねぇ、クロエさん? 朝ごはんできたよ~」
白米、ベーコン、目玉焼き、味噌汁という定番な朝食をお皿に盛り付けテーブルに置きながら二人を呼んだ。
僕が救出されてからもう一週間、最初は動くたびに痛みが走っていた身体も今や前と同じく普通に動かしても問題ないぐらいまで回復している。いやぁ流石たばねぇだよ! 拷問で剥がされた爪とか傷とかを再生治療カプセル? って奴に入って一日経てばもう治ってるんだもん。ここまで来ると医療方面はからっきしだよと言ってた事が嘘だよねと思いたくなる。あ、でも首辺りの阿頼耶識システムって奴は今もなお埋め込まれてます。これは僕が断ってるからだけどね。ベッドで寝たきりとかになりたくないし。
「はぁ~い♪ すーはーすーは……今日も美味しそうな匂いだねぇ~! もうなっくんてば料理上手なんだからぁ!」
「申し訳ありません凪様。本来であれば私がお作りしなければいけないのに……」
「いーよいーよ。だって箒姉との同居生活で家事全般は得意になったし今はこれぐらいしか僕が役に立てるのってないからさ」
そう! 今日まで何かの役に立とうと頑張ってみたものの朝昼夜のご飯を作る事しかできないことが判明した! 現在開発中のISの整備? そもそもISの知識すら曖昧で足手まといと邪魔になる。だったら掃除? 案外この隠れ家って広くて掃除したら一日終わるためこれも無理。だったらクロエさんのお手伝いをしてみようと思ってもたばねぇの手伝いで参加できず……結果、これしかできないことを僅か一日で察してしまったのだ。
いや料理とか掃除とか洗濯とか好きだけどさ……僕居る意味ある? と言われれば微妙と誰もが言うだろう。でも何でもできそうなクロエさんだけど料理すると何故か真っ黒になるんだよ、作った料理が。そしてそれをたばねぇは何事もなく食べてるんだよ……うん、これは僕がいる意味あるとその場で察したよ。
「いやいやなっくんは此処に居るだけで良いんだよ! このお姉ちゃんの原動力は箒ちゃんとなっくんとちーちゃんといっくんとくーちゃんで成り立ってるからね! う~今日もご飯美味し~♪」
「今日のお昼はサンドイッチの予定だけど晩御飯は何か食べたいものある?」
「なっくんが作った料理ならなんでもおーけーさ!」
「私もです。凪様、お時間があれば料理の手ほどきをお願いできませんか? なんというか……この一週間、胸の奥でなにか、こう……なんと言えばいいのでしょう? 負けたくないという思いがでてきてしまって……?」
「僕でよかったらいつでもいいよ。じゃ~晩御飯の時一緒に作ろっか」
「はい」
うんうん。クロエさんはいつも目を閉じてるけど笑うと可愛いよね。ん~でも僕なんかで対抗心だしちゃったら箒姉の料理食べたらどうなるんだろう? 何て言ったって箒姉はイチ兄のために料理の腕を磨き上げてるからね! 美人! 料理上手! 大和撫子! うん……あとはイチ兄を落とすだけだね!
「ぶーぶー、最近なっくんとくーちゃん仲良くなり過ぎ~お姉ちゃんを大事にしろー!!」
「そうかな? あとたばねぇ、僕はたばねぇのこと好きだよ?」
「女性として!?」
「お姉ちゃんとして。あ、飲み物おかわりしたかったら言ってね」
そして今日も仲良く朝食を食べる。それが終わればたばねぇはIS作成の作業に移りクロエさんはたばねぇの手伝いに入ってしまうため僕は昼まで暇になるわけだ……どうしよーかな? 此処の探検はもう終わっちゃったしやることないんだよねぇ。ISの勉強も一人でやるとなにが何だか分からなくてやる気が落ちるんだよなぁ。かといってたばねぇやクロエさんに教えてもらうのもどーかと思うし……というより忙しそうだし無理だよね。
「……なにしよー?」
洗い物も終わって本格的に手持無沙汰になった。うーん……勉強? それとも掃除? うーん……はっ! そういえば今日まであの黒いISを本格的に見てないじゃないか!! そーと分かれば探しに行こうそうしよう!! たしかたばねぇは今作ってる奴が終わったら本格的に調べるとか言ってこっち側に置いてたような……おぉ!! あったあった!! これだよこれ!!
小さな部屋の中には一週間前に見た黒い塊が置物のように静かに置いてあった。触ってみると思った通り硬い、そりゃ機械だもん当たり前だよね。この両腕についてる棒みたいなのなんだろ? 撃ちだす? ホントに? うーん見ただけじゃ分かんないな……どこかに説明書みたいなものないかな?
少し部屋を探してみるけど見当たらない。たばねぇだしそんなもの必要ないのか……凄いなぁ。よし! 勉強しよう!! こうなったら意地を見せてやる!!
「……? 凪様?」
「クロエさん――ISの事教えてください!!」
無理でした。分かりません。何を言ってるのか分からないし何のことを指しているのか全く分かりません。こんなの意地とか言ってる場合じゃないよ!! 大事なのは教えてもらおうと頭を下げる勇気!! 全てはこれだよ!!
「ISをですか? 別に構いませんがどうしたのですか?」
「いやぁ此処に来て一週間経ったでしょ? それなのにただご飯作ってごろごろして終わりってなんか男としてダメな気がするんだよ。だからISの事教えてください!! 時間がある時で良いので!!」
「そう、ですか。では良ければ今からでも大丈夫ですか? 束様も集中してしまって手が空いていますので」
「お願いします!!」
さぁ始まりました第一回クロエさんによるIS勉強会。先生はクロエさん、生徒は僕……あれ? 見た目的に逆じゃない? だ、大丈夫だよ……誰も見てないし僕男だしIS分からないし……!
ある程度の単語は独学で勉強してた時に覚えていたんだけどそこから何がどうなってどうなるのかが分からないと伝えたらでは基本から勉強しましょうと優しく言ってくれた。ありがとう! ふむふむ……PIC、パッシブ・イナーシャル・キャンセラーを略してるのか……これがISの飛行や加速減速を行うものと。これが無いとISがISとして成り立たないと……ふーん、なんて言うか車で言うアクセルとブレーキみたいなものだね。
ISで一番大事なのはコア、全部で467個しかないと。確かこれってたばねぇしか作れないんだよね? なんで途中でやめたんだろ? 飽きたのかな? まぁいいや、コアには独自の意識が眠っている、これによって形態移行を行うと……おぉ、凄く分かりやすい!!
「――と、ここまでがISの基本ですが凪様。分からない所はありましたか?」
「うーんと、第一世代がプロトタイプ。第二世代が量産型、第三世代が発展型……って認識で良いんだっけ?」
「はい。現在各国の代表、代表候補性が持つISが第三世代型のものとなっていますが中には第二世代型に手を加えて強化したものを使用している者もいます。これは主にISのコアが467個と少ない為、また第三世代型がまだ試作段階であるためでもあります」
「へぇ~確かあの黒いISって第一世代なんだよね? 性能的にはやっぱり弱い……って言っていいのかな? 第一世代と第二世代じゃ性能差みたいなものがあるの?」
「そうですね。もっとも操縦者の技量によっては性能差を埋めることもできるでしょう。しかしそれであっても世代差はあると考えてもいいです」
「なるほど~ってうわ!? もうお昼!? ご飯作らなきゃ!? クロエさん、次も教えてもらってもいい?」
「構いません。凪様のお役に立てるのであればいつでもお聞きください」
なんていい子なんだ!! もうこれは全力でお昼ご飯を作らなければいけない……! でもなんで目を閉じてるんだろう? 気になるなぁ~? でも聞かれたくない事だろうし我慢しよ。よし! じゃご飯を作りましょう!!
台所へ向かおうとすると警報音が聞こえ始めた。え? なにこれ? 何が始まるの!?
「これは……凪様、奥の方でお休みになっていてください」
「へ?」
「――どうやらこの場所も知られてしまったようです。追手が来ます」
追手? そういえばたばねぇって世界中から追われてたんだっけ? すっかり忘れてたよ……ということは此処に世界中からの刺客っぽい人達が来るって事!? あぁ!? クロエさんは一人でどこかに行っちゃうし休んでてと言われても二人が心配になるだけだって!!
「なっくん!?」
「凪様!?」
「はぁはぁ……休んでてって言われても心配で黙ってられないよ!!」
「でもでも危ないよ! 相手はムカつく事にISに乗ってるんだよ……もしなっくんが怪我しちゃったらお姉ちゃん泣いちゃうよ!!」
天井付近から吊るされてるモニターには機械の鎧を身に着けた人達が進んでいるのが見えた。三人……案外少ないね? もしかしたら外にいるのかな?
「ホントだ。たばねぇ? いつもはどうしてるの?」
「うん? 適当に時間稼ぎしてあらほらさっさーと逃げてるよ~? 偶にくーちゃんが時間稼ぎしてくれることもあるね~」
「私は戦闘能力は低いですが時間稼ぎには適していますので。凪様、束様。では行ってきます」
「うん~お願いね~」
え? クロエさん一人で行っちゃったけど良いの? なんかゲームとかで何度も同じことしてると聞きにくくなるやつとかあるし良いのかなぁ……あーもう!! 黙ってるのとか無理! 怪我するとかもうしてるし!! 機械埋め込まれて拷問受けてるし!! だから死にかけても何の問題もない! あ、あれぇ……なんでこんな状況で怖くないんだろう? うーん……ま、いっか。
「さぁなっくん! 今のうちに逃げる準備をしようか。なっくんとの逃避行――ありだね」
「いやいやいや。たばねぇ、思うんだけどさ? 対策とか取られてる可能性もあるんじゃない?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。くーちゃんの能力はそう簡単に……うーん効いてるけど今までより低いかな。まさか対策された? それとも操縦者? これは拙いかなぁ~……でも安心して! この天才なお姉ちゃんとくーちゃんならあんなの一瞬で撃退できちゃうのだ――あれ? なっくん?」
ごめんたばねぇ。途中から走ってたから最後まで聞いてなかった。とりあえずクロエさんの時間稼ぎはあまり効いてないってことが分かった! だからもうあれだね! 意地だね! 最終手段! 接続してみよう! こんな状況でだけど!!
走ってきたのはあの黒いISがある部屋。あのまま黙っててもなんとかなるかもしれない、むしろこの行動が邪魔になってるのかもしれない、でも黙ってられない。ここだけは箒姉とそっくりなんだよなぁ……多分僕の方が酷いんだろうけど。上を脱いで背中の端子をISについている尖った物に刺そうとするけどなかなかうまくいかない……そもそも大きさがあってない? 何か別なものがあるのかな……? あれ? これなに? この丸いの? 足を入れる所に落ちてたけどこの形、裏面の突起物……これか!! 背中の端子に合うかどうかやってみると思った通り上手く入った。よし後はISと接続するだけだ――怖い。けどやってみなければわからない!
「もう! そう言う所は箒ちゃんとそっくりなんだからぁ! ってダメーー!!!」
たばねぇの静止の声を聞きながら背中の阿頼耶識システムとをISに接続する。これで後はきど――っ!?
「あ、ぁ、ぐっ、ぁ……!!」
頭の中に色んな情報が流れ込んでくる。あまりの量に吐き気がする、意識が途切れそうになる、それをすればどれだけ楽になるか……ま、けるかぁ!! 鼻から血が出て頭の中はぐちゃぐちゃ……でもなんとか起動できた!
「なっくん!! ダメ! 今すぐ外して!!! なっくん!」
「……大丈夫、聞こえてるよたばねぇ。それに外すもなにもちゃんと起動、できてるでしょ?」
「う、うん……大丈夫なんだ、良かった……! 本当に良かったよぉ……!」
「じゃ、行ってくる」
僕の身体はたばねぇを見下ろせるように大きくなった。両腕は黒い機械の腕、爪先が四つになって分厚くなったことを除けば普通だ。腕も足もシンプルなんだろう。分かるんだ……背中は体を纏っている殻と繋がっているんだと言う事が。でもこのままだと男が動かしていると分かってしまう、何か手は――理解、頭部装甲を展開。顔が隠れた。問題ない。
何故だろう。こんな重たそうなものを纏っていても普通に走っているように感じる。ただ走っているだけ。重りもない。むしろ軽い。あぁ凄いなこれ。凄い、凄い。あれだけ長いと感じた廊下も駆け抜けられる。見つけた。侵入者。二人を襲う敵、ハイジョスル。で良いんだよね?
「IS!? くっ、協力者がいたか!!」
「怯むな! 相手は一人だ! 三人がかりで挑めば勝てる!!」
把握。リーダーはあれか。装備検索、収納されている装備発見、展開。両腕にパイルバンカー展開完了。声を出すのは得策では無い? あぁ、そうだね。どうしたらいいの? 光信号? あぁこれ? テキスト転送開始。
「……なに? 今すぐ引き返せば何もしない? 余裕だな!!!」
三機中一機接近。瞬間加速把握、背後に迫ってる。躱さなきゃ危ないよね?
接近し背後を取った人物の攻撃を避け、即座に肘打ちと蹴りを放つ。予想外だったのかな? 遅くない? これなら見える、というより考えなくても体が動く、教えてくれる、理解できる、じゃあおやすみ。
体勢を崩した機体の頭部を握り、首目掛けてバンカー射出。リロード、射出。
「な、なんだ今の動きは……!!」
「あんな動き……国家代表でも出来ないぞ!? なんなんだこいつ!!! そいつを離せェェェェ!!!!」
気絶している一人を放り投げ回避行動に入る。雨の様に降り注いでくる弾丸が視認できる。見える、躱せる、早く動けば躱せる、怖いの? 怖くしているのは誰? あれなの? じゃあ倒そう。
「なっ!?」
走りながら跳んで銃を撃つ人物の背後に回り、頭部を掴む。そして即座にバンカー射出、リロード、射出、リロード、射出。右腕展開中のバンカー、弾数ゼロ確認。あ、使い過ぎた。そうだ、もう一回テキストを送ってみよう。もしかしたら帰ってくれるかもしれない。試そう。
「……分かった。二人を連れてここから立ちさろう」
良かった。話し合いで如何にかなるものだね? あれ? 話し合いってこんなのだっけ? そっか、そうだよね。これが話し合いだよね。ありがとう――えっと、どなたですか? え? 名前無いの? それは困ったなぁ。
気絶したであろう二人を連れてリーダーの人は離れていく。これで良いんだよね? うん、なんだろう……頭痛い……あれ? 僕、何をして……あれ? なんだっけ……? いーや、眠いし寝て起きてから考えよう……。
□
「束様、凪様の容体は安定しています。命に別条はないですが未だISが展開されたままです」
「うん、ありがと~くーちゃん。ホントはベッドに寝かせてあげたいけど下手に停止させるとなっくんに何がある分からないし仕方がないよね~?」
「しかし……なんですかこれは?」
くーちゃんの言う通りなんなんだろうねこれ。モニターに映ってるのはさっきまでのなっくんと侵入者の戦闘シーン。異常、うん異常だよ。瞬間加速で接近し背後を取った相手の攻撃を滑らかな動きで回避、反撃に繋げている。確かに私が造ったISなら似たようなことはできるけどここまで生身の動きに酷似した動きは無理。いやちーちゃんならできるかなぁ? とにかく初起動初出撃初戦闘でこの動きはぜったいにぜーったいに無理!! 続く二機目の弾幕もまるでスケートしているように被弾無しで回避、即背後を取って攻撃している。なっくん的には走ってると思ったんだろうなぁ~いやはやとんでもないね。
「阿頼耶識システム。データ見たけどこれISから提示される情報を脳で受け取って動いてる。言っちゃえばハイパーセンサーとかに頼らないで自分の周りの状況を把握できる上、ISを展開した姿が生身の自分の体と認識してるから今のような動きもできる。いや~敵からしたら驚いただろうねぇ~あんな動きされたら気持ち悪くてすぐに動けないでしょ~? しかもこれまだ初期設定状態なんだよ? もう凄すぎるよ~」
「……束様」
「分かってるよ。こんなの世に広まったら最悪さ。しかもなっくん――ISのコアが持つ意識と同調してたみたい。操縦者は起動部品、う~ん他はとにかくなっくんが変わっちゃうのは嫌だね! よし改良しよう!!」
「改良ですか? しかし……これですよ?」
くーちゃんが見せたデータはIS適正値を示すもの。なんと映し出されていたのは「S」つまりちーちゃんと同じなんだよね。これは拙い、だってこの数値であんな風に動かしてたらなっくんが変わっちゃう。いっくんと箒ちゃん用の専用機開発が終わったらゆっくり調べようと思ってたけどダメだね。今すぐ改良しなきゃ。
「う~ん、じゃあBぐらいに落ちるようにリミッター付けよっか? それならなっくんの意識もそのままで起動できると思うし。ふふん♪ でもすっごいなぁ! まさかISを動かしちゃうなんて!! まっそう言う風に設定してたんだけどね♪」
「……」
「もうわかってるよ♪ 箒ちゃんとなっくんにだけは嘘はつかないしもう二度と傷つけたりなんかしない。うん、まずはなっくんが目を覚ますのを待とうか! これから忙しくなるぞー!! う~ん!! 頑張るぞー!!」
お姉ちゃんが変えちゃった世界。なっくん、キミはどんなふうに映るの? 怖い? 楽しい? いつか教えてね。どんな答えであってもお姉ちゃんは味方だよ。
念のためですが精神がおかしくなってはいません。
ただISのコアの意識と混雑していただけです。はい。
書きたくなった切っ掛けその2と3。
流れるようにラフタ機、アジー機を戦闘不能にするグレイズ・アインがカッコ良すぎた。