「――ついに、来てしまった……!」
IS学園の夏休みもそろそろ中盤に差し掛かる頃、私はある家の前に立っていた。この家の持ち主であろう表札には『織斑』という名前が書かれている……つまり一夏の家だ。一夏の家なんだ。IS学園の寮にある一夏の部屋ではなく一夏の家、今まで住んでいた家なんだ。腕時計を見ると時間は約束の10分前、カバンからコンパクトミラーを取り出して自分を映す……うん変な所は無い。服装も大丈夫、だ、大丈夫……なはずだ……凪も変とは言わなかった! つまり大丈夫なんだ! な、なぎぃ……お姉ちゃんと何で一緒に来てくれなかったんだよぉ……! 用事よりもお姉ちゃんを優先しろぉ! 弟なら姉優先は常識だぞ!
「こ、これほど緊張すると、は……思わなかったぞ……!」
凪からの手助けで今日、一夏の家に遊びに行く……という名の逢引を約束しているため私が此処に立っていても何も変ではない。変ではないのだが恥ずかしい……凪と暮らしていたとはいえお、男の家に入るのはは、初めてなんだから仕方がないともいえる……そうだ、そもそも男の家に何度も出入りする方が間違っている。私は至って普通の事を思っているに決まっているんだ! だから凪! 良いから早く私の元に来てくれ! お姉ちゃんは倒れそうだ!!
現在私の隣には誰もいない。何故なら愛する弟は用事があると言ってこの場には来ていないからだ。私は心細いから傍にいてくれと頼んだが「邪魔者が居たらイチ兄と2人きりになれないでしょ? 頑張れ箒姉、僕は応援しているよ」と私の背中を後押ししてくれた。なんて出来た弟なのだろうか。うんうん、きっと全世界弟選手権というものがあれば優勝だろうな。むっ、そういえば一夏も千冬さんの弟だったな。では同率一位という事にしよう。凪と渡り合えるのは一夏ぐらいのものだからな! だからこそ私も姉らしくあろうと日々努力出来ているというものだ!
「ど、どうする……お、押すか……い、いやまだ時間よりも早いから迷惑だろうか……!」
呼び鈴を押す指が近づいたり離れたりしている。恐らく一夏の事だから早めに来たとしても何も言わないだろうが私は気にする。しかし遅めに来るのもそれはそれで私が気にする……今までと違い凪はこの場にはいない。つまり一夏と2人きりの状態で戦わなければいけないという事だ! む、無理だ……考えただけで帰りたくなってきたぞ……! なんて弱い心なんだ私は! こ、これでは鈴とシャルロットに差をつけることなど――
「あれ箒? もう来たのか」
背後から話しかけてきた男がいる。それこそ今日会う約束をしていた人物――織斑一夏だ。な、なんでお前は家の中にいないんだぁ!?
「い、一夏ぁ!? な、なかにいるのではなか、ったのか……!?」
「冷蔵庫開けたら飲み物無かったから買い出し行ってたんだよ。流石に箒が来るのに飲み物出さないのはダメだろ? 今開けるから入れよ」
「う、うむ。お、おおお邪魔します……」
玄関の扉が開いて私と一夏は家の中に入る。これが一夏の家か……一夏の匂いがする。こ、これが男の住んでいる家なのだな……いや千冬さんも暮らしていたのだから厳密には違うと思うが一夏が住んでいるのも事実。だからそう思っていよう。
リビングに入ると新しいとも言えず古いとも言えないなんとも普通な感じだった。思えば転校する前に住んでいた私と凪の家もこのような感じだった気がする。むっ、リビングとキッチンが繋がっているタイプなのか……凪が喜びそうな内装だな。そ、それにしても綺麗にしているものなんだな……凪と過ごしていた頃の話だが凪も私がいない時に掃除などをしていた記憶がある。そして私がするよりも綺麗になっていた気がする。お、男はこれが普通なのか? 本では汚いなどと書かれていたような気がするのだが……?
「今飲み物出すから座ってろよ」
「わ、分かった」
こ、この男は私が緊張しているというのに何故いつも通りなのだ……! す、少しは臨海学校で私の水着姿を見た時のように緊張しても良いだろう! も、もう少しスカートを短くするべきだったか……い、いや! あまりに露骨すぎるのもみっともない! うんうん! つまり今の長さで良いんだ!
「今日は箒だけなんだな? 凪は?」
「よ、用事があるらしく今日は私だけだ……凪がいなければだめだったか?」
「いやそうじゃないけどさ。凪が俺が家にいる日を聞いてその日に遊びに行くとって言ってきたからてっきり2人で来るもんだとばっかり。まぁ用事なら仕方ないな」
「そ、そうだろう! 私も誘ったんだが外せない用事があるらしくてな。だから今日はお前と私だけだ」
「だなぁ。なんつうかIS学園に入学した時以来じゃないか? あの時は焦ったぞ……部屋に入ったらその、箒がいたのには」
「そ、その時はす、すまなかった……」
「俺が悪いんだし謝るなよ……所でそれなんだ?」
一夏の視線がわたしが持ってきている荷物に向いた。そ、そうだった……これを出さずにいてどうするつもりだったんだ私は! 折角凪が「イチ兄の家に行くならお土産持っていきなよ? 普通ぐらいの値段のクッキーとかが良いよ」と教えてくれたのに渡すのを忘れるとは姉失格ではないか!
手ぶらで来るのもダメだと思ったなどと言いつつ一夏にクッキーを手渡す。この鈍感は「おぉ、サンキュー。一緒に食おうぜ」と嬉しそうに封を開け始める。よ、よし! 変には思われなかったようだな!! ありがとう愛する弟よ!! お姉ちゃんはちゃんと頑張れているぞ! だから離れた場所でも私を応援していてくれ!
「美味いな」
「あぁ。凪がお勧めと言っていた店で買ったんだ」
「そっか。なら美味いのも納得だ。それで……何する? 言っておくが俺の家って何もないぞ? あるとしても中古で買ったテレビゲームぐらいだが箒はやらないだろ?」
「ば、バカにするな! 私だってげーむとやらぐらいはする! それでいいからやるぞ!」
「大丈夫かよ……」
本当はテレビゲームというものを触るのは初めてだがここで断れば本当にやることが無くなってしまう。何故なら私は一夏と2人きりの状態で会話で繋ぐことなんてできないからな! 泣けてくるぞ……!
一世代前のものらしいが私にとっては古いのか新しいのかすら区別がつかない。ふむ、車に乗るキャラクターを操作してゴールを目指すゲームなのか。簡単そうではないか! これならば私でも出来そうだ! え、えっとこのボタンを押し続けると走り続けてこのボタンでブレーキ……このボタンがアイテムを使うんだな。なんと難しいものなんだ……凪ならば余裕で覚えるだろう。あいつは要領は良いからな。
「そんじゃ練習で一回やってみるか」
「そうだな。そうしてくれると助かる……おい一夏、キャラクターが多いぞ」
「そりゃ多くなかったらゲームじゃないだろ……どれ使うんだ?」
「ど、どれが良いのかが分からん……お、おすすめはなんだ?」
「初めてならコイツだな。癖が無いし使いやすいぞってどうした?」
「な、なんでもない、ぞ」
いきなり手を重ねてくるものがあるか!! ビックリし過ぎて心臓が止まるかと思ったぞ……し、しかし大きい手だな、うぅ……心臓の音が聞こえてないだろうか……そ、それよりもなんでお前は平然としているのだ! 後ろから抱き着くような体勢だというのに不公平だ!! しかしこの状態も悪くはないな……うん悪くない。このまま恥ずかしがらずに教えてもらうとしよう。そうすればこの状態が維持されるのだからな!!
「一夏……そのだな、このままやり方を教えてほしいのだが……ダメだろうか?」
「別にいいぞ。それじゃまずは――」
よし成功だ! どうだ弟よ! お前がポンコツと呼ぶお姉ちゃんはもうポンコツではないのだぞ! 私の作戦勝ちだな! 今の私の雄姿を見せてやりたいものだ。
練習として一夏が私の後ろに回り私の手に自分の手を重ねた状態でゲームが始まった。なるほど開始時にこのボタンを押していると早く出られるのだな……ダメだ覚えきれん!! 今の状態が恥ずかしくてそれどころではない!! なんでこいつはいまだに平然としているんだ……み、魅力が足りんとでもいうつもりか!? それとも千冬さんか!? あれを相手にするなら私は負けるぞ!! 勝ち目がない……うぅ年上には勝てないんだよぉ……!
思考が別方向に飛んでいる内にゲームが終わる。ま、拙い!? 何も覚えていないぞ?! ええいこうなればもう一度と言ってこの体勢を維持してやる!! そして恥ずかしいが体を預けてやる!! それでも反応が無ければ私は泣くぞ!! 泣いてやる!! そう決めた私は一夏にその事を言おうとする――がそれを邪魔するかのように呼び鈴が鳴る。ええい誰だこんな時に!! 私と一夏の邪魔をするな!
「うん? 誰だ……悪いちょっと出てくる」
「あ、あぁ。そうした方が良い」
嘘だ行くな行ってはいけないぞ一夏!! 居留守をしたって誰も罰は当たらない! しかしそれを言えば面倒な女だと思われる……一夏にそう思われたら私は生きていけない……もう凪に養ってもらうしか生きていく道は無い……それはそれで有りだな。
「……あはは」
「……」
「なんかシャルも暇だったみたいで遊びに来たんだってさ」
きっと私もシャルロットも同じことを考えているに違いない。ではその事を今ここで言ってやる――何故此処にいる?
「――箒も来てたんだ」
「――あぁ。約束していたからな」
一夏が飲み物を取りに行った隙に私とシャルロットの戦いが始まった。ふっ、舐めるなよシャルロット……! 私はお前のようにいきなりやってきてはいないんだ! ちゃんと正面から……うん正面から約束していたんだ! つまりちゃんと前もって話をして遊びに来ている良い女なんだぞ。社交性やその他では負けるが今の私は勝っている! 見ろ! シャルロットが放つ般若のオーラを負かしたぞ!!
「……ずるいよ。凪が手助けしたんでしょ?」
「うっ、わ、私と凪は双子だ。よって2人で1人だから何もずるくはない」
「一回だけで良いから凪を貸してよ……僕だって手助けしてほしい」
「ダメだ」
「はいシャルの分。うん? どうしたんだ2人共?」
「何でもないぞ」
「何でもないよ」
精一杯の笑顔で返答する。くぅ……笑顔では私に勝ち目はない……! なんという人懐っこそうな笑顔なのだ!
「そ、それよりも一夏! 私はまだやり方を覚えてはいない……もう一度教えてくれ、ると助かる」
「なにかやってた……あっもしかしてゲーム?」
「おう。シャルもやるか? これ4人まで出来る奴だしコントローラーも鈴とかが置いてったからあるしさ」
「それじゃあ僕もやってみようかな……これってどう遊ぶの?」
「あぁこれはな」
何と言う事だ……先ほどの私のように一夏がシャルロットの背後に回ってしまった。くぅ……既に一回練習済みだから後回しにされたとでもいうのか! ダメだぞ一夏! 幼馴染を大切にしろ!! シャルロットの幸せそうな表情が私にダメージを与えてくる……う、羨ましい、羨ましいぞぉ……!
シャルロットの練習が終わり私の番となったが残念な事に隣から指示を受けるだけになった……何故後ろに回らない! ええいこの男は……その気にだけさせて焦らしおって!! そんな風だから私が緊張したり心臓が止まりそうになったり倒れそうになったりするんだ! 全くこの男はその自覚が無いのが困る!
結局これといった出来事もなくゲームが始まる。結果から言うと私は3人の中で一番最後だった……何故初めてのシャルロットがこんなに上手なのだ!! 前々から要領の良い奴だと思ってはいたが此処までとは……!
「ぐぬぬ……!」
「シャル上手いな? ホントに初めてか?」
「一夏の教え方が上手だっただけだよ。それより箒がゲームって珍しいね? こういうのって凪のイメージだからちょっと意外かな」
「わ、私だってゲームをやりたくなる時もある。さ、流石に上手ではないがな……」
「まぁ初めてだし仕方がないだろ――うん? またかって鈴か? アイツ呼び鈴鳴らして開けようとするなって……」
「――シャルロット」
「――箒」
玄関に向かう一夏の両隣りを私とシャルロットが占領する。腕は掴んではいないがやってきた人物に効果的にダメージを与えることができるだろうと判断したからだ。流石はシャルロットだ、私の視線でよく気がついてくれた。そして思惑通り私達の姿にやってきた人物――鈴は驚いていた。どうだ? 少しはダメージがあっただろう。
「たくっ来るなら連絡しろよ。箒はちゃんとしてきたぞ」
「良いじゃん別に! それともなに? 何か隠さなきゃいけないものでもあんの?」
「何言ってんだお前? あぁでもこの人数だと箒が持ってきたお菓子じゃ足りないか……ちょっと買ってくるから留守番頼む」
「い、いってらっしゃい」
「留守番なら任せろ」
一夏を妻のように見送りこの場には私とシャルロットと鈴が残る。お互いがお互いの顔を見て同じことを考えているのだろう……このやり取りも先ほどしたばかりだがもう一度言わせてもらおう――何故此処にいる?
「なんっでアンタたちが此処にいんのよ?」
「そ、それは僕のセリフかなぁ~?」
「私のセリフでもあるぞ。全く、一夏に何も言わずに来るとは……私を見習うと良い」
「どうせアンタは凪の手助けがあったんでしょ」
「何故分かる!?」
「あれのしそうな事だもん。んで? その本人はいったい今どこにいんのよ?」
「用事があるらしいが場所は知らん……メールか、どうやらセシリアもラウラも凪の居場所は知らないらしいな」
携帯に届いたメールを2人に見せる。内容は『お義姉様、凪さんが今どこにいるか教えてもらえませんか』『義姉上、嫁の居場所を教えてもらいたい』というものだ。誰が義姉だ、お前たちは凪と結婚したわけではないだろうに……! しかし2人も知らないとなると私の愛する弟はいったい何処にいると――姉さんか。私の姉的直観がそう囁いている。となれば近くにはクロエも……ぐぅ! 探し出したいところだが一夏と一緒にいられるこのチャンスを捨てるわけにもいかない! が、我慢だ……なにあの凪の事だ。きっとあの貧相な胸の誘惑なんぞには乗らん。臨海学校で見た光景は夢だったんだ……凪があんなことをするわけがない。するはずがない!
「ふ~ん。まっ良いけど一回だけアンタの弟貸しなさいよ? アンタばっかり手助けされてるのって不公平じゃん」
「そ、そうだよ! 平等は大事だよ!」
「断る! 凪と私は2人で1人なんだから何も不公平ではない!!」
「こんのブラコン! いい加減自分の恋愛ぐらい弟の手を借りずにやりなさいよ!」
「う、五月蠅い! ならば勝負だ鈴!! 今の私はお前になんぞ負けはしない!!」
「へぇ~面白いじゃない。言っとくけど私このゲームは得意中の得意よ。一夏や弾に何度奢らせたか分かんないぐらい強いわよ」
「ふんっ! その威勢、どこまで持つか見せてもらおう!!」
「……箒、さっき僕達に負けてたよね」
五月蠅いシャルロット。これは意地と意地とのぶつかり合いなのだ……先ほどの負けは練習、練習だった! 故に今こそ本番なんだ! やり方は先ほどの練習で覚えた――さぁ鈴! 勝負だ!!
◇
「――死ね」
滑空砲の引き金を引きゼロ距離で発射する。生暖かい液体が僕の身体にかかるけど今日で3人目だからもう慣れた。ホントウザい……いい加減帰ってくれないかな? 疲れてきたんだけど。
『凪様。生体ビット残り2体です。お気をつけて』
プライベート・チャネルからクロエさんの言葉が聞こえる。あと2人か……亡国機業も阿頼耶識を利用してきてるって事だね。僕の足元で物言わないガラクタとなり果てた物体を踏みつぶしながら病愛と滑空砲を携えて前へを進む。
僕は何をしているのかというとたばねぇを狙ってきた亡国機業を撃退している。もうビックリしたよ……家でゴロゴロしてたらたばねぇから連絡があって襲われそうだから助けてぇ! と笑顔で言われたんだもん。普通は怖がるところを笑顔で言うのがたばねぇクオリティです。絶対楽しんでるよね……役に立てるなら僕はそれでもいいんだけどさ。そんなわけで人知れずたばねぇに回収してもらって現在こうして襲ってくる亡国機業を殺してます。前回とは違い建物の中だから僕の独壇場であんまり苦労せずに殺せたのはラッキーだね。
『くぅ! 貴様……人殺しを楽しんでいるのか!!』
『私達の仲間をよくもぉ!!』
「五月蠅いなぁ。殺されたくなかったら襲ってくるなよ」
1人は剣、1人は銃を持った生体ビットと出会ったので殺すために動き出す。剣を持った生体ビットが接近してきたので動きを止めるために滑空砲から散弾を放つとシールドと絶対防御が無いから装甲に穴が開く。動きが止まった隙を突いて瞬時加速、懐に入り込んで病愛で腕を斬り落とし距離を取る。そして滑空砲の砲身で突きを放ちゼロ距離で貫通弾を発射。よし終わり……残ったのは銃使いか。目の前の死体を前に放って銃弾の盾にしながら滑空砲を戻して病愛を両手に持って接近。相手も銃を捨てて剣に持ち替えて近接戦を仕掛けようとする――それが僕の狙い。前に進む力を一気に止めて後ろに下がり、ロングレンジライフルに持ち替えて射撃。腕と足をふっ飛ばして動けなくした後、一気に接近して胴体を掴んでバンカーを撃ち込んで終了。ヤバいなぁ……ライフルと滑空砲の使い勝手の良さがヤバい。室内での戦闘でこれほど役に立つとは……耶識も喜んでるし気に入った様子だしもう最高だね。
この前だって夢の中でいきなり押し倒されて両腕両足を病愛で切断されて逆レされたよ。多分楽しくて気分がハイになってたんだね。動けないことを良い事に好き好き大好き愛してるとか言われながら首絞められたり噛まれたりチューされたりと色々されたよ。そんな夢を見たら……目が覚めた時に何が起きたのかなんて察してください。
そんな事は置いといてこれで全部殺したかな? 他に人はいなさそう――あっ誰か来た。
「たくよぉ、あんだけ金使ったのにもかかわらずあっけねぇもんだな。くそったれ! ふざけんじゃねぇぞてめぇ!!!」
天井を突き破って現れたのは一匹の蜘蛛。名称『アラクネ』、第二世代型か……なるほどね。奪ったISを専用機にしてるってわけか。でも凄いねこのデザイン? だって背中から足みたいなものが生えてて動き方も蜘蛛っぽい。なんという悪役デザイン! きっと特撮ならば幹部クラスだね――じゃあ殺そうか。
病愛に持ち替えて瞬時加速すると相手は背中から生えている蜘蛛の足のようなものから射撃をしてくる。一発一発を病愛で弾き、身をかがめて近くに落ちている
相手の両腕と背中の足が動く動作をしたので頭から手を離してハンマーで胴体を殴って壁にぶつける。危ないなぁ……いい加減死ねよ。
「ご、んのぉ!! このオータム様を……コケにしやがってぇ……!!」
自分を様付けする奴って偉そうにしてるけど弱いって言うけどホントかもね。なんか喚きだしたからライフルで頭部と心臓に弾丸を撃ち込むと嘘のように静かになる……さていい加減殺そう。ウザいし五月蠅いし早く帰って寝たいし。
一歩前に出ると体中が震えだす。何かがこっちに向かってきているような変な感覚……たばねぇ! 逃げるけど良いよね? うんありがと。それじゃ撤退するよ――流石に阿頼耶識使いを相手にするのはまだ早い。
「――逃げるか」
隠し通路から脱出する際に見えたのは織斑マドカという女。逃げるに決まってんじゃん勝てないし……此処で死ぬ気もないからね。
◇
「――納得いかん」
「いや納得しなさいよ。どんだけ私に負けたと思ってんの?」
「10回やって10回とも負けたのに認めないってある意味凄いよね」
一夏の家で素麺を食べながら先ほどまで行っていた鈴との闘いを思い返していた。なんなんだあの動きは……全く歯が立たなかったぞ! スタートでは先手を取られアイテムで妨害され何故か知らんが一気に追い越され……卑怯だ!
「鈴、お前手加減ぐらいしろって。箒はこれ初めてだったんだからさ」
「勝負の世界に手加減は必要ないのよ」
全く持ってその通りなのが悔しい……こうなれば腕を磨いてリベンジをするしかあるまい。しかし私はこの手のものには疎い……どうする、いやいるではないか! 最愛の弟という最高の相談相手が! きっと凪の事だ、仕方ないなぁと言いながら手を貸してくれるに違いない。そうと決まれば今夜聞いてみるとしよう。
4人で話しながらお昼を食べていると扉が開いた。そこに立っていたのは私服姿の千冬さん……な、なんなんだあのモデル体型は……! スーツを着ている時から思ってはいたが夏服姿だと大人、大人だぞ……! あの千冬さんがそう見えてしまうという事は私は疲れているのだろうか……?
「おい篠ノ之姉。何を考えている」
「な、なんでもありません」
「お帰り千冬姉。昼は食べたか?」
「あぁ。世界一の大バカ者がまたやらかしたんでな……これからまたIS学園に戻る羽目になった」
「……姉さんですか?」
「それ以外に誰がいる? 全くあの駄兎め……弟を攫って行くとはな。箒、あの馬鹿に言っておけ。弟離れをしろとな」
やはり姉さんだったか……あの変態めぇ……! 私の弟に何をするつもりだ! 破廉恥な事をしようものなら紅椿を使ってでも止める! 息の根も止める! 大体あの変態は実の弟となんだと思っているのだ……血が繋がっているというのに結婚、結婚、結婚と! あんなのと結婚してしまっては凪の未来が無いのは明確だ! 最愛の弟だからこそ私がちゃんと見守ってやらねば――変態から護るために!!
「行方が分かんないと思ったら篠ノ之博士に攫われてたのね」
「凪って苦労してるよね……色々と」
「束さんだしなぁ」
「一夏。今日は帰れそうにないから晩はいらん。そしてお前達、止まるのは許可しないからそのつもりでいろよ」
何と言う横暴。これでは一夏と熱い夜を……あ、熱い夜を……過ごせないではないか!? 鈴もシャルロットも同じことを考えていたのか様子がおかしいが甘いですよ千冬さん――私から言わなくても一夏が泊まって行けと言えば解決するのだから!! さぁ言え! 言うんだ一夏!! 幼馴染なのだからその辺りを察してくれ!!
「いや泊めるわけないだろ……男の家にさ」
こんの鈍感がぁぁぁ!!! す、少しは期待させてくれてもいいだろう!? ぐぬぬ……し、仕方がない。プラン変更だ! 来週行われる夏祭りで勝負を仕掛ける!! 必ず成功させてみせるぞ……!!
言いたいことを言い終わったのか千冬さんは家から出て行った。やはり一夏を落とす上で一番の強敵は千冬さんか……分かってはいたが厳しい戦いになりそうだ。何故恋愛で世界最強の千冬さんを相手にしなければいけないのかが今も分からないが立ちふさがるというのなら必ず倒す!! お、恐らく女子力では勝っているはずなんだ……武力では負けるけども女子力なら!!!
「千冬姉も大変だなぁ。いや一番大変なのは凪か……」
「実の姉2人がブラコンってある意味最悪よね」
「あはは……と、ところでこの後どうする? またゲーム?」
「う~んと言っても俺ってあんまりゲームの種類持って無いんだよ。鈴、なんか持ってきてないのか?」
「ボードゲームとTRPGなら持ってきてるけど? それでも良いならやりましょ。飽きたらその時考えればいいし」
「い、良いだろう……! 鈴! それで先ほどのリベンジをするぞ!!」
「へぇ。面白いじゃない! んじゃ私がGMやるからアンタたちはPCやりなさいよ。はいルルブ」
「お前好きだよなTRPG。言っとくけど加減しろよ? 前みたいに失敗したら即リタイアとか嫌だぜ?」
「ダイス運が無いアンタらが悪い」
何だかよく分からないがてぃーあーるぴーじーとやらをするようだ。一夏は知っているようだがシャルロットは……名前だけ知っているみたいだな。つまり知らないのは私だけ……こ、これでは私は世間知らずと思われてしまうではないか!? くぅ……! もう少し凪と一緒にその手のものを知っておくべきだった……! しかし今は私一人! たとえ未知の強敵であろうと私は負けない!! 凪の姉として、一夏の幼馴染として! 未来の、つ、妻として!! ここで負けるわけにはいかないのだ!!! さぁ勝負だ鈴!!!
その日、私は自らの運の無さを呪った。な、何故1足りないことが多いんだぁ……!
箒が楽しく遊んでいる間、凪は亡国機業とデート(殺し合い)をしてました。
耶識ちゃんは嬉しくなるとつい凪を押し倒しちゃうそうです。