篠ノ之家の弟は阿頼耶識使い   作:木の人

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お嬢様と夏祭り

「――帰ってきたんだねぇ」

 

「そう、だな」

 

 

 夏休みも中盤に差し掛かる今日、僕と箒姉はとある神社にやってきていた。

 

 大きな鳥居を超えた先にある神社は昔と変わらず独特な雰囲気を……出していない。至って普通の神社だと胸を張って言える。強いて違う所を述べるなら周りに存在している神社よりも大きいということかな? でも残念な事に僕は他の神社の大きさは知らないしもしかしたら違うかもしれない。何故僕達が神社に来ているのかというと夏祭りの手伝いをするためです。今までこれなかった分、今回こそはと箒姉を説得――しようとしたら何故か知らないけど張りきってたから案外簡単に帰ってこれました。なんでもイチ兄の家に遊びに行った際、鈴さんとシャルロットさんという敵の強さを再確認したらしく戦いに勝つためにもこの夏祭りを利用するそうです……なんという意気込み! 良いぞ箒姉! ちー姉ちゃんと生徒会長さんには実家に帰らせていただきますとお伝えし、無事に了承を貰ってこうして外出……というより家に帰ってきました。生徒会長さんはいってらっしゃいと笑ってたけど何故ちー姉ちゃんは動揺したのだろうか……? なんか持ってた缶ビールを落としかけてたけど疲れてたのかなぁ?

 

 懐かしいなぁ~あの大きな剣道場で昔はイチ兄と箒姉と僕の3人で一緒に剣道してたんだよね。だけど何故だろう……負けてた記憶しかない。そしてイチ兄も箒姉に負けてた記憶しかない。僕は仕方がないよ? だって才能ないんだもん。どれだけ頑張っても箒姉とイチ兄、ちー姉ちゃんには勝てない事はあの当時から知ってたことだし。

 

 

「夏祭りだからみんな気合入ってるねぇ。箒姉は神楽舞をやるんでしょ?」

 

「う、うん……雪子叔母さんが許してくれたら、だが……凪は私の舞を見たいのか?」

 

「あったりまえじゃん。巫女だよ? 箒姉の巫女姿だよ? 見たくないという人の方がおかしいね」

 

 

 何故巫女という人はあんなに神聖な印象を持つのだろうか。巫女万歳。そもそも僕が巫女服好きになった理由の昔箒姉が舞をするために巫女服着てたのを見たからです。その時の箒姉は凄く綺麗だったのを今でも覚えている。多分そのせいで巫女服好きもどきになったに違いない……いわば初恋に近いね――厳密には違うけども。だって僕の初恋って雪子さんだし。今でも不思議に思うんだけどなんで雪子さんに恋みたいな事をしたんだろうね? うーん分からない。きっと子供だったからよく分かんない理由だったんだろう。きっとそうだろう。よしそうしよう。

 

 箒姉の巫女姿の素晴らしさを熱弁していると頭を軽く叩かれた。痛いなぁ~なにすんのさ?

 

 

「恥ずかしい事を熱く語るな馬鹿者……実の姉の巫女姿など痛々しいだけだろう……」

 

「んなわけないじゃん。むしろ実の姉が巫女服着てるからこそ意味がある――痛いって?」

 

「お前が変な事を言うからだ。早く行くぞ、雪子叔母さんが待っている」

 

「はーい」

 

 

 先に歩き始めた箒姉の後を追い、神社の奥にある家に向かう。そこが転校するまで僕達が住んでいた場所……懐かしいなぁ、全然変わってない。あれから結構年月が経ったから痛んでる個所とかもありそうだけど見た目はあの頃のままだ。扉の前に立って呼び鈴を鳴らすと中からとある人が出迎えてくれた。年相応の落ち着いた雰囲気の女性で現在篠ノ之神社を管理している僕達の叔母さん――雪子さんだ。うわぁ~久しぶりに会ったよ。昔はお姉さんって感じだったけど今は……失礼だけどお母さんって感じだね。

 

 

「あら……お久しぶりね箒ちゃん、凪ちゃん」

 

「……お久しぶりです。雪子叔母さん」

 

「お久しぶりです! こんな風に挨拶するのって久しぶりだよね? あとこの年で凪ちゃんはちょっと……」

 

「いくつになっても私にとっては凪ちゃんなのよ。さぁ入って。久しぶりの我が家なのだからゆっくりしていきなさい」

 

「……はい」

 

「おじゃましま、じゃないね。ただいま~」

 

 

 玄関を通って居間に入ると匂いとか色んなものが懐かしく思えた。家具はちょっとだけ変わってるものもあるけど内装の殆どは変わってない……あの頃のままだ。うわっこの柱の傷とか懐かしい~これって箒姉と背比べして付けてた奴だもん。むふふ……あの頃から身長だけは勝ってたんだよね! 剣道の腕は負けてたけど身長だけは勝ってた!! ここ大事ね。

 

 箒姉も同じことを思っているのか立ち止まって辺りを見渡していた。そういえば僕達の部屋はどうなってるんだろう? と言っても箒姉と部屋一緒だったし物置にでもなってるのかな? そもそもたばねぇの部屋は今どうなってるんだろう? 確かパソコンとか色んなものが置いてあって汚かった気がする。きっと捨ててるかたばねぇが持って行ってすっからかん状態だろうけど後で見せてもらおっと。

 

 

「懐かしい?」

 

「え、いや……はい」

 

「なんか昔に戻ったみたいかなぁ。それよりも雪子さん、夏祭りの手伝いなんだけど何すればいいかな?」

 

「そうねぇ。箒ちゃんには神楽舞をお願いしたいのだけど良いかしら?」

 

「は、い。私でよければ……やります」

 

「やった。久しぶりに箒ちゃんの神楽舞が見れるわ……えっと凪ちゃんはそうねぇ~お祭りで羽目を外しちゃう子とかがいるから見回りをお願いしても良い? 有志で集まってくれた人達も警備をしてくれるんだけど手が回らないみたいなのよ」

 

「それぐらいならお安い御用だよ。これでも体は鍛えてるからね」

 

「あら頼もしいわね。でも危ないと思ったらすぐに大人の人に頼るのよ?」

 

 

 いくら女尊男卑の世界とはいえ夏だし中学高校大学生の方々はナンパ目的でやってくるに違いない。そして箒姉を見て絶対にこのセリフを言うんだ――ねぇこの後暇? 一緒に遊びに行こうよ。あり得る、絶対にあり得る。だって箒姉美人だし弟から見ても可愛いからナンパされるだろうなぁ……イチ兄呼んでおこう。きっとイチ兄が傍にいたら安心だし箒姉も嬉しいだろう。僕って姉思いの良い弟だね!!

 

 そんな事は置いといてどうやら箒姉は言葉には出さないけど僕が見回りをするのにはちょっと反対の様子。どうせ危ないとか怪我するとか考えてるんだろうなぁ。大丈夫だよ、僕に何かあっても世界に損害は……出るかも。主にたばねぇが引き起こしかねない。さて冷静になって考えてみようか! まず1つ目! 僕が怪我をする。うんダメだね! たばねぇがミサイル撃ち込んで怪我させた相手を蒸発させかねない。はい2つ目! ありえないだろうけど僕がナンパされる……死ぬね。主に僕の心が。クロエさん嫉妬モード到来でタイトル無本文無メールが連続で来るね! きっとそれに続いて無言電話もきそうだよ……それじゃ3つ目ぇ!! 普通に遊んでいる――平和だね。なんという平和な世界なのだろうか……きっとたばねぇも事件起こさないしクロエさんも嫉妬モードにならないし良い事だらけじゃん。でも残念ながらこの選択肢は却下します。だって雪子さんの役に立ちたいし。

 

 

「それじゃあ、神楽舞は6時からだから今のうちにお風呂に入ってちょうだい」

 

 

 というわけで箒姉はお風呂に入りに行きました。さて……普通の男の精神なら覗きに行くという選択肢も出るだろうけどそれをすると僕の命が消えてしまうからやりません。そもそも姉のお風呂を覗きに行く弟とかわけわかんないよ。

 

 

「ねぇ凪ちゃん? 折角の夏休みなのに夏祭りの手伝いをしてもらってもいいの?」

 

「今まで何もできなかったからやらせてほしいなぁ。箒姉もなんだかやる気になってるみたいだしその辺りは大丈夫だよ」

 

「そうなの? でも箒ちゃんも凪ちゃんも誘いたい子とかいたら困るじゃない? だって2人とも可愛くなってるんだものそういう子がいてもおかしくないだろうし……ねぇ、どうなの?」

 

「箒姉は今も昔も一途ですよ。僕はたばねぇと箒姉の遺伝子が混じってても残念ながらモテません」

 

「あら残念。それじゃあ叔母さんが立候補しちゃおうかしら」

 

「雪子さんなら喜んで……と言いたいんですけど年齢離れすぎてますよねぇ」

 

「そうなのよねぇ。あと二十年若ければよかったのに。凪ちゃん、箒ちゃんがお風呂に入っている間に家の中見て来たらどう? 久しぶりの我が家だから懐かしいと思うわよ」

 

 

 雪子さんと冗談交じりの会話をしていると家の中を見てきたらと提案された。確かに久しぶりのお風呂だろうし箒姉も一応女の子だから長いだろう。よし見て回ろうそうしよう!

 

 まず一番に向かったのは元たばねぇの部屋。確か記憶上ではパソコンとかよく分からない機械が大量にあったような気がするけど今はどうなんだろうか……お邪魔します。うん何にもない。当たり前だよね……あんな機械がいっぱいあっても使わないだろうしそもそも雪子さんって機械系が得意そうにも見えないしねぇ。見た感じ物置の部屋になってるっぽい……なんとつまらない。なんかたばねぇの嬉し恥ずかしの何かがあればよかったのに――うん? なんだろうこの凹み? 絨毯の下が凹んでる……? 気になるので物を少し動かして絨毯をめくるとなんということでしょう。隠し扉的な何かがあるじゃないですか! これは気になりますねぇ……いざ拝見!!

 

 

「……なにこれ?」

 

 

 蓋のような物を開けると出てきたのは一冊の本。見た感じアルバムっぽいような名前も書いてないし誰のだろうか……普通に考えたらたばねぇのだよね。んじゃ開けてみよっと。

 

 その場に座って本を開く。思った通りアルバムだったようでたばねぇの若い頃……って言って良いのかな? 今も十分若いけどアルバムの中の写真はたばねぇの子供の頃の写真だった。さすがたばねぇ、この時で既に天才ですか……何で小学生でパソコン使ってるんですかねぇ? それとこっちのは……うわちー姉ちゃんの子供の頃の写真だ。なんというレアもの! でも意外だね? これたばねぇが持って行っててもおかしくないのに何でこんな所に入れてたんだろ?

 

 

「――でも似てるなぁ」

 

 

 子供の頃のちー姉ちゃんの写真を見て臨海学校で出会ったもう一人の阿頼耶識使いの子と頭の中で見比べる。普通の姉妹と言って良いほどよく似てるような気がする……そういえばイチ兄とちー姉ちゃんの両親っていなくなったんだよね? もしかしてこの中にあったり……するわけないよねぇ。ごっそり無くなってるから既に処分済みだね。まぁ良いや、でも子供の頃のたばねぇ可愛い。今も可愛いけどこの頃も可愛い。

 

 ページを進めると幼い僕と箒姉がたばねぇと一緒に写っている写真を見つけた。3人共仲良く笑いあってるのを見てちょっと嬉しくなる……う~ん、今度3人揃ったら写真撮ろうかな? 篠ノ之姉弟揃ったよ記念でさ。他のはともかくこの写真だけはなんとなく手元に置いておきたくなったのでアルバムから抜き取って生徒手帳に挟んでアルバムは元の場所に隠す。そして部屋を出て次に向かうのは僕と箒姉の部屋です。なんと言う事でしょう……あの頃と全く変わっておりません! さすがに机とかは布団とかは無くなってるけどそれ以外は変わってない。懐かしいなぁ~ホラー映画を見て怖くなり一緒の布団で寝たりとか変な事で喧嘩したりとか一緒に勉強したりとかしてた気がする。何かお宝的なものは……ないね。そもそも僕も箒姉も何かを隠すようなものって持ってなかったし。

 

 

「あらもういいの?」

 

「うん。十分すぎるほど懐かしくなったからもう終わり。箒姉は長風呂だからここで待ってるよ」

 

「そう? それじゃあ叔母さんとお話ししてましょうか。久しぶりだもの色んな事を聞きたいわ」

 

 

 というわけで箒姉がお風呂からあがってくるまで雪子さんとお話ししてました。今まで何があったとか定年退職した警察の人がご厚意で剣道教室を開いているとか僕達が居なくなった後の事を聞かせてくれた。当然僕もここから離れてからの事を色々と話した――IS絡みは伏せてるけど。そして大体1時間ぐらいたってからようやく箒姉がお風呂からあがってきました……長すぎ。あとお風呂上がりの箒姉が色っぽいです。これを見ても何も思わなかったイチ兄ホント頭おかしい……なんでドキッ!? とか見惚れるといった行動をとらないのだろうか。あっちなみにイチ兄には箒姉が篠ノ之神社で巫女さんやるよ~とメールして此処に呼んでます。

 

 お風呂からあがった箒姉に雪子さんが化粧等をして神楽舞の準備を始める。口紅を塗り、化粧をした箒姉は今まで以上に綺麗で神聖な巫女そのもの……弟でよかったぁ、もし他人だったら惚れてるレベルだもん。

 

 本番まで時間があるので数年ぶりに箒姉が刀と扇を手に舞う……綺麗だなぁ。実に数年ぶりなのにここまで舞う事が出来るのって凄いよね? 確か転校してからも部屋の中で練習してたのは覚えてるけど今のように刀も扇も持ってない状態だから刀と扇有の舞は初めてのはずなのに……流石篠ノ之流継承者。ちなみに僕は継承してないので篠ノ之流剣術は使えません。使えたとしても無手の方、しかもちょっとだけという中途半端さです。せめて篠ノ之流古武術裏奥義ぐらいは使えるようになりたいよ……でももう武道が出来ないんだよねぇ。背中に阿頼耶識の端子あるからもし背中から地面に落ちたら危険だもん。

 

 

「――以上です」

 

「凄いわ箒ちゃん! 離れても舞の練習をしていたのね? 偉いわぁ」

 

「い、一応巫女ですから……似合わないと自分でも思ってるんですけどこれは、そのぉ……」

 

「大丈夫よ。ちゃんと似合ってるわ。ねぇ凪ちゃん?」

 

「当たり前だよ。僕が他人だったら普通に惚れてるレベルで綺麗だったよ」

 

「またお前は……ありがとう、凪。雪子叔母さんも化粧……ありがとうございます」

 

「良いのよ。さて本番まであと少しだから移動しましょうか。凪ちゃんは見回りの方が集まっているテントがあるからそちらに向かってくれる?」

 

「はーい」

 

 

 というわけでここからは箒姉と別れて行動することになりました。雪子さんから教えられた場所に行くと大柄な大人の人や大学生ぐらいの人など結構バラバラだった……あぁー! 商店街の肉屋のおじちゃんだよ!? 懐かしぃ~昔はおつかいとかで買い物に行ってたけど今日まで殆ど行く事できなかったから久しぶりに会うね!

 

 

「んぉ? おぉ! 篠ノ之ん所の倅か! いやぁデカくなったなぁ!」

 

「おじちゃんは相変わらず大きいねぇ。お久しぶりです! 夏祭りなので帰ってきました! そして見回り手伝いに来ました!!」

 

「そうかそうかぁ! 凪の坊主が帰ってきたとなると箒の嬢ちゃんも帰ってきてんのか?」

 

「うん。もうすぐ神楽舞をする予定だよ」

 

「なんだとぉ!? おしお前らぁ! 神楽舞が終わるまで何が何でも騒ぎ起こすんじゃねぇぞ!! もしサボりやがったらうちの肉を倍価格で買わすからなぁ!」

 

「マジすか……」

 

「おっちゃんのところの肉たけぇじゃないっすか!」

 

「うっせぇ!! ちったぁうちの稼ぎに貢献しやがれってんだ! バイトで稼いでんだろ!? よし分かった! もし神楽舞が終わるまで騒ぎが起きなかったら今日は奢ってやる!! これでどうよ!」

 

「あざっす!」

 

「ごちになりま~す!」

 

 

 何と言う統率力……! 凄いねおじちゃんは!!

 

 さて神楽舞まであと十分ぐらいか。腕に腕章をつけて会場を歩いてるけどやっぱり祭りだから親子連れ、恋人同士が多いね。泣いてない……泣いてないよ? 今は仕事中だからそんな恋人欲しいなぁとかこういうお祭りで一緒に来れたら楽しいだろうなぁとか全然! 全然思ってません! そもそも僕はイチ兄と違ってモテないんだからリア充イベントとは無縁なんだよ……泣いていいかな? ぐぬぬ……! 篠ノ之遺伝子のせいでカッコいいじゃなくて可愛いのがいけないのか……!

 

 

「――ですから人を探していると言っていますでしょう!」

 

 

 入り口付近でなにやら女の人の声が聞こえた。あれこの声ってセシリアさん……? 視線を向けると高校生ぐらいの男数人にセシリアさんがナンパされていました……なんという勇気! 女尊男卑の風潮があるとはいえこういうの偶にあるからねぇ。周りの人も我関せず的な感じだし助けよっと。腕章をポケットにしまって携帯を手に取り探していた様子を装いながらセシリアさんに近づいて声をかける。

 

 

「あっやっと見つけた……待ち合わせ場所に来ないから心配したよ?」

 

「な、凪さん!?」

 

「ごめんね。この人は僕の彼女だからナンパとかはやめてほしいなぁ。あと騒ぎになってるから警備の人もうすぐ来るみたいだし逃げた方良いよ? ほらセシィ、早く行かないと神楽舞始まるよ。見たいって言ってたでしょ?」

 

 

 流れる動作でセシリアさんの手を握って離脱。相手も彼氏持ちに加えて警備の人が来るというセリフに焦ったのかその場から離れて行った……ふぅ、喧嘩とかにならなくてよかったぁ。本とかで見たけど愛称呼びって効果的だね! 親しい間柄だって誤解させられるしさ。それにしても何で顔赤いんだろう……あぁ、恋人同士でもないのに彼女って言って手を握ったから怒ってる? それとも照れてる? いやないない。この程度で照れるなら腕にくっついてきたりしないし。きっと僕なんかに恋人面されて怒ってるんだね! 本当にすいませんでした!!

 

 

「……此処まで来ればいいかな。ごめんねセシリアさん、彼女なんて言って手を握ったりして……怒ってるよね?」

 

「い、いえ! むしろ、う、嬉し! コホン。助けてもらったのですから怒ることなどしませんわ」

 

「よかったぁ。なんか顔赤いんだもんてっきり怒ってるものだとばっかり……あっ今日は浴衣なんだね。誰かと一緒に来てるの?」

 

「きょ、今日はわたくしだけですわ! ま、前にこちらに帰られる日をお聞きしましたのでな、凪さんに会うために訪れましたの……ゆ、浴衣なのはチェルシーが祭りにはこの服装と教えられましたので……似合いませんか?」

 

「ううん。似合ってるよ。でも遊びに来てくれたのは嬉しいんだけど今仕事中なんだよねぇ」

 

 

 ポケットから腕章を取り出して見せる。目の前のセシリアさんは青系の浴衣を着ていて凄く綺麗でモデルさんかと間違えてしまいそうだよ……本当なら夏祭りの案内をしたいんだけど仕事だからそれも無理……むむむ、なんだかセシリアさんが残念そうな表情をしてしまっている! どうしよう……?

 

 

「坊主、入り口で騒ぎがあったようだが問題ないかぁ?」

 

「おじちゃん。うん、友達がナンパされてただけだから彼氏ですって嘘ついたら逃げてったよ」

 

「んぉ? ほうほうそうかいそうかい。よし! 今日の仕事は終わりだ! 祭りを楽しんでこいやぁ!」

 

「え? ついさっき始まったばっかりなんですけど……?」

 

「うっせぇ! 肉3倍価格で買わせんぞ!」

 

 

 何と言う横暴! おじちゃんの店で売ってるお肉がどのぐらい高いのか分かんないけど3倍はやめてぇ!

 

 持ってた腕章を取られ肩に腕を回される。何と言う筋肉……おじちゃんって50代ぐらいじゃなかったっけ? なんでこの筋肉を維持できてるの?

 

 

「夏といやぁ恋の季節、女の1人や2人ぐれぇ手を出しとかねぇと男として失格だぜ……こっちは良いから金髪姉ちゃんとランデブーしてきな」

 

「1人や2人に手を出したら節操無しで捕まると思うんだけど……」

 

「それぐれぇの度胸がねぇと男になれねぇってこった。おっちゃんも嬉しいんだぜ? いっつも箒の嬢ちゃんの後ろにいた坊主がこんなべっぴんさんと知り合うようになるなんてよぉ……年は取りたくねぇぜ。夏なんだから一発押し倒しとけ! 穴場ぐれぇは教えてやる」

 

「アッイイデス」

 

「面白くねぇなぁ。つうわけだお嬢ちゃん、この坊主にエスコートさせるんで祭りを楽しんできてくれや」

 

 

 がっはははと笑いながらおじちゃんは離れて行った。でもありがとう……と言って良いのかな? これでセシリアさんを案内できるし僕も祭りを楽しめる! そういえばラウラさんはどこにいるんだろう? 帰る日の事を教えてるからもしかしなくても居そうなものだけど?

 

 

「ラウラさんでしたら軍の用事で来られないようですわ」

 

「あっそうなの? それじゃあ仕方ないね。セシリアさん、良かったら一緒に祭りを見て回らない? 聞いた通り仕事が無くなって暇になっちゃったんだ」

 

「えぇ。こちらこそお願いいたしますわ……そ、それと、呼び方ですけど……さ、先ほどのように呼んでくれませんか……?」

 

「さっきの……あぁ、セシィって奴?」

 

「え、えぇ。一夏さんもシャルロットさんの事をシャルと愛称で呼んでいますしわたくしもそ、そういうのに憧れてましたので……ダメでしょうか?」

 

「セシリアさんが良いなら良いけど……それじゃあセシィ。う~んなんかさん付けしないから変な感じがする」

 

「――そ、そんな事はありませんわ! セシィ……セシィ……う、うふふふ」

 

 

 僕的にはさん付けじゃないから凄く変な感じだけどセシリアさん、じゃなかったセシィが喜んでるみたいだからいっか。でも思い返してみると愛称で呼ぶのって初めてかもしれない。そう考えるとなんだか恥ずかしい……イチ兄はなんでシャルロットさんの事をシャルと普通に呼べるんだろうか? 鈍感王子だからかなぁ。そう言えばイチ兄を呼んだけど今どこにいるんだろう……いいや、どうせ知らない間に出会ってるでしょう。箒姉とイチ兄は赤い糸で繋がってる人同士だし。

 

 もうすぐ箒姉の神楽舞が始まるからセシリ、セシィと一緒に会場に向かう事にした。人が多いから離れない様に手を握ってるけど手汗とか大丈夫かな? あと僕は普通の格好だけどセシィは浴衣だから歩く速度にも気を付けないとね。転んで怪我しちゃったら大変だもん。

 

 

「……素晴らしいですわね」

 

「やっぱり綺麗だなぁ」

 

 

 舞をしていた箒姉の姿を見てそんな感想しか出ない。きっと見ている人全員が同じことを思ったであろう……もし下手とか言った奴がいるなら篠ノ之流古武術の練習台にするからそのつもりで。シスコンを怒らせてはいけないという事を体に叩き込んでやる。そんな事は置いといて本当に綺麗だよねぇ~恋人と一緒に来ている男の視線を奪うほどの美しさ……きっとこの後彼女さんに怒られるんだろうなぁ。爆発すればいいのに。

 

 

「普段と違って本当にお綺麗でしたわ……普段からあのようにしていればよろしいのに」

 

「同意。でもイチ兄には効かないんだよねぇ、だって鈍感王子だもん」

 

「……それは凪さんもですわ」

 

「僕が何?」

 

「なんでもありませんわ! そ、それよりも早く別の場所を見に行きましょう!――箒さんに見つかって邪魔されても困りますもの」

 

 

 最後の方が聞き取れなかったけど確かに終わった舞の感想をいつまでも言ってるわけにもいかない。せっかくのお祭り、しかもセシィにとっては初めてかもしれない日本のお祭りだもん楽しんでもらわないと!

 

 再び手を握って金魚すくい、輪投げ等のお店を回る。初めての事でぎこちないながらも遊んでいるセシィを見て僕も楽しかった……でもやっぱりどのお店に行っても恋人同士に間違われるんだよね。確かに手を繋いでるけど僕とセシィじゃ釣り合わないと思うんだけど? 浴衣を着てるけどセシィってお嬢様って感じがするから召使いと思ってくれてもいいのにさ。さっきだってチョコバナナを食べてみたいと屋台に行ったら可愛い彼女さんと楽しんできなと2本頼んだのに1本分の値段で売ってくれたんだけど……恋人同士じゃないんだよねぇ。セシィはなんか知らないけど嬉しそうだったけども。

 

 

「夏祭り……なんて素晴らしい行事なのでしょう。し、しかも凪さんとこ、恋人に見られているだなんて……! チェルシーに自慢しなければ……!」

 

「楽しそうで良かったよ。あっ射的だ、セシィ? やってみない?」

 

「えぇ。狙撃ならばわたくしの独壇場ですわ!」

 

 

 何と言う意気込み! 大将さんに2人分のお金を払って鉄砲を受け取り、1本をセシィに手渡す。なんだろう鉄砲を持つセシィって凄く絵になってる。さて僕も負けてられないね! 男として! さて景品はどんな、やつ、が……ふぅ。負けられない戦いが出来たよ。僕がハマっているカードゲームの最新パック3箱が景品として置かれている。狙うはこれ一つ! ぬいぐるみ? テレビ? ダルマ? 知らないねそんなもの。決闘者ならカード第一だよ。

 

 

「セシィ、僕は負けられない戦いが出来たから少し集中するね」

 

「は、はい……なんと凛々しいお顔……か、かっこいいですわぁ」

 

「ほう。良い面構えになったな……だがこの景品をタダでやるわけにはいかねぇなぁ!」

 

 

 落ち着け。耶識を展開して滑空砲やロングレンジライフルを撃ってる時の感覚を思い出すんだ……射的だから速度も威力も実弾とは比べられないぐらい弱いけど当てる場所さえ間違わなければ札を倒せる。僕は耶識で耶識は僕だ。銃の使い方なんて学園で、戦闘で、殺し合いでいくらでもやってきた……たとえ妨害工作があったとしてもそれを強引に突破して見せる。すぅ、はぁ……弾数は5発だけどそれだけあれば十分だ。

 

 鉄砲を構えて札の上部中央に1発。少し動いたから細工はあまりなさそうだ……2発目、3発目と連続で最初に当てた部分を的確に当てると札が揺れた――これでトドメ!! 4発目の弾丸が札を倒し景品をゲットすることができた。ふぅ~疲れた。

 

 

「やるなぁ。ほれ新作パック3箱だ。にしても彼女がいるってのに別なものを狙う気はないのか?」

 

「見つけたからには狙わないといけないの。ありがとう大将、セシィはなにを……どうしたの?」

 

「い、いえ……射的をしている凪さんがカッコよ……な、なんでもありませんわ! では次はわたくしの番ですわね。ではあちらを狙いましょう」

 

 

 セシィが狙おうとしているのは小さめの猫のぬいぐるみ。そう言えば僕も1発残ってるし援護射撃しよっと。鉄砲を構えているセシィの横に並んで僕も構える。一緒に目標目掛けて弾丸を発射するとなんと! 倒れない。そりゃそうだよね札と違ってデカいもん。

 

 

「弾数が無くなっちゃったから援護できないや。頑張ってセシィ」

 

「えぇ。このセシリア・オルコットの実力を見せて差し上げますわ!」

 

 

 その宣言通り弾数1発を残して目標をゲットしました。この時は凄いと本気で思ったよ……あと鉄砲を構えている姿がカッコよかった。僕もあんな風にカッコよく撃ちたかったなぁ。

 

 

「あれ凪?」

 

「……イチ兄? それに箒姉、と蘭さん?」

 

 

 後ろから話しかけられたので振り向くとイチ兄と浴衣姿の箒姉と蘭さんがいました。いや来てるのは僕が呼んだんだから知ってるけど蘭さんは予想外だったなぁ。せっかく箒姉と2人きりだせヒャッハーとしたかったけど出会ってしまったのなら仕方がない。そして箒姉の浴衣姿可愛い。

 

 

「此処にいたのか。メールで遊びに来たらって言ってきたのに箒の傍にいないから探したぞ」

 

「いやぁ~セシィと遊んでたら箒姉に連絡するの忘れちゃってさ。蘭さんお久しぶり~弾さんは今日は来てないの?」

 

「は、はい! お兄は家にいます……凪さんはデート中ですか?」

 

「そんな所かなぁ」

 

「セシリア……凪にセシィと呼ばせて何をするつもりだ……!」

 

「いやですわお義姉さま、凪さんに愛称で呼んでもらっているだけですわ。おほほほほ」

 

「誰が姉だ……! 今日の所は見逃すが凪に変な事はするな……良いな……!」

 

「それは凪さん次第ですわね……!」

 

「なんで箒とセシリアが向かい合って笑いあってんだ?」

 

「あれを笑いあってるって見えるイチ兄は一度眼科に行った方が良いよ」

 

 

 どう考えても修羅場もどきです本当にありがとうございました。なんで背後で武士とお嬢様が戦っているんだろうね? ブラコン属性持ちのポンコツ姉だから仕方がないかぁ。しょーがない、ここは一時離脱して3人だけの空間にしてあげよう。睨み合っている2人を宥めてセシィの手を握って他の所に行くからまたねと別れる。聞こえない、背後から行くな凪! なぎぃという声なんて聞こえない。あんのポンコツはいい加減弟離れした方が良いよ。僕は姉離れしないけどさ。

 

 何故か勝ち誇った表情のセシィと一緒にある場所に向かう。もうすぐ花火の時間だから特等席で見たいからね。その場所は神社の裏の林に入りあるルートを進んだ場所……昔は余裕だったけど体が大きくなったから地味に通りにくくなったなぁ。そんな事を思いつつ目的地に到着、此処に住んでいた時にたばねぇと一緒に見つけたこの場所は昔から全く変わってはいなかった。大きな一本の木に寄りかかりながら夜空を見渡せる絶景ポイント、似たような場所が別の場所にあるけどそこは箒姉に譲るから行けないんだよね。

 

 

「凪さん……此処は?」

 

「僕とたばねぇしか知らない秘密の場所。この木に寄りかかりながら景色が見れるんだぁ。花火も綺麗に見れると思うよ」

 

「そう、なのですか……楽しみですわ」

 

 

 並んで木に寄りかかって花火の時間まで待つ。肩と肩がぶつかる距離だからちょっと恥ずかしいけどセシィは気にしてはいない様子……大人だなぁ。昔話とか色んな事を話して時間を潰していると目の前が明るくなった――花火が打ちあがったからね。綺麗だなぁ~やっぱりここにきて正解だよ!

 

 

「――凪さん」

 

「うん? どうしたの?」

 

「今日はとても楽しかったですわ。凪さんと一緒にお祭りを見て回れた事を一生忘れません」

 

「あはは大げさだよ。でもうん、僕も楽しかった。来年ももし時間が会えば一緒に回ろっか」

 

「えぇ。ぜひお願いいたしますわ」

 

 

 そこから僕達は花火を見続けた。会話もできないほど目の前の花火が綺麗だった……そして終わってから気がついたんだけどセシィと恋人繋ぎをしてたみたい。うわ全然気がつかなかった……やっぱり感触が無いって辛いね! でもいつの間に握ってきたんだろう? うーん、気になるなぁ。

 

 帰り道でイチ兄達と合流して一緒にIS学園に帰る。今日は本当に楽しかった! 箒姉も告白は出来なかったみたいだけど良い雰囲気になれたみたいで満足そうだったしもう言う事は無いね! 今日は良い夢が見れそうだ!!

 

 部屋に帰ってみると僕のベッドが変わっていた。シングルベッドなんだけど真ん中辺りがちょっと凹んでる……あれ手紙だ? 誰かなぁ~うわったばねぇじゃん。なんで潜入してるのさ? 手紙の内容はなっくんがゆっくり寝られるようにベッドを改造しといたよブイブイというもの、あと面白いものが出来たから身に付けてねという内容でした。面白いものって何さとか思ったけどテーブルに四角い箱が乗ってるからきっとこれだね。開けてみると銀色の輪っかのようなもの……なにこれ? 手紙の続きには『これを待機状態の耶識に取り付けると明日は面白い事が起きると思うよ!』と書いてるけど胡散臭い……付けるって言ってもパッケージを格納しているスズが付いててこれ以上は無理なんだけど? いいやこれ外してこの輪っかを付けようっと。何が起きるのかなぁ~?

 

 

「あれクロエさんからの手紙もあるんだ……ひぃぃ!?」

 

 

 白い紙、その中央に大きくもなく小さくもない字で一文だけ書かれていた手紙を見て僕は恐怖した。誰だって『愛称で呼ぶほど仲が良いんですね』と書かれてたら怖くなるって!? ヤバいヤバいヤバい!? も、もう寝よう! もう休もう! 怖くなったので僕はシャワーを浴びてベッドに横になる。おぉ……阿頼耶識の端子部分がちょうど凹みに入って寝やすい……ありがとうたばねぇ!! クロエさんの事をよろしくお願いします!! じゃっおやすみなさい!!

 

 次の日、僕の生きてきた中で一番の驚きと恐怖が待っている事になるなんて思いもしなかった。




世界最強は同居人から実家に帰らせていただきますと言われこの生活がダメだったかと本気で考えた様子。
余談ですが寡黙な少女の手紙に天才の兎は引いたようです。
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