「くっ! やはり動きが読めん!」
ラウラさんのISから放たれる砲弾を病愛の刃で弾いて距離を詰める。接近してきたことに対処するためかワイヤーブレードが僕に向かって迫ってくるけど肩の機関銃で牽制、即座に瞬時加速する。懐に入り込むと視界の端でラウラさんがニヤリと笑ったので行動変更、滑空砲を呼び出して砲身で胴体に突きを放ってからゼロ距離発射。流石の停止結界でもゼロ距離からの貫通弾は止められるわけもなく後ろに吹き飛んだ……言っておくけどまだ終わらないよ。滑空砲を捨てて追撃を行うために吹き飛んだラウラさんの背後に回り右腕を伸ばして首を掴む……対応なんかさせはしない。杭を一発撃ち込んでから一瞬だけ手を放し、左手に病愛を呼び出して胴体、お腹の部分を抉るように殴りながら地面に叩きつけてドリルパンチを叩き込もうと――っ! 本能に似た何かが危険だと叫び始めた! 追撃を止めて即座に距離を取ると土煙が宙に浮いたまま止まった……あっぶないなぁ、停止結界か。
「ごほっ……やはり嫁には効かんか……前よりも反応が速くなっているからか……!」
「調子が良いんだよ。それよりもそろそろ終わらせる!」
2つ目の滑空砲を呼び出して拡散弾装填、ラウラさんから二歩ほど前の地点に撃って土煙と爆炎を起こす。流石ラウラさん……接近してくると思って距離を取るなんて僕の事を理解してるね。でも残念ながらそうじゃないんだ……滑空砲を一瞬だけ宙に放りすぐに掴んでラウラさん目掛けて投擲。さすがに武器を投げるのは予想してなかったのか停止結界でそれを止める――隙が出来たよ?
瞬時加速、ラウラさんの背後に回って病愛を振り上げると一瞬遅れて反応してきた……凄いなぁ。でも調子良いから無理だよ。ワイヤーブレードが放つ動作と同時に病愛を振り上げるのを止めてしゃがみながら足払い、体勢を崩した所に左手の甲から刃を展開後に手首を回転、ドリルパンチをラウラさんの脇腹に叩き込みつつ右手に持っている病愛を捨ててラウラさんの頭を掴んでバンカー射出――ふぅ、僕の勝ちだね。それを知らせる様に試合終了のブザーもなったし……いやぁ~強いね。何回か危ない場面があったし流石ラウラさんだよ!
「アンタやっぱり戦い方エグイわよ……私と一夏の試合を見習ってもうちょっとは加減覚えなさいよ。うちのクラスなんて引いてる子もいたんだから」
お昼休み、いつもの皆とご飯を食べていると鈴さんが呆れた表情で僕に言ってきた。多分さっきまで行ってたラウラさんとの実戦訓練の事を言ってるのかな? 失礼だよぷんぷん! だってあれぐらい頑張らないとラウラさんに勝てないんだから仕方ないじゃん。さっきまで行ってたのは授業の一環で専用機同士による実戦訓練、しかも1組と2組合同でだったから僕とラウラさんの戦いが鈴さんのクラスの人も見ていたというわけです……何で引かれるのかな? 普通に戦っただけなんだけどねぇ。
頼んだシュニッツェルを一切れ食べる。うん美味しい! 食堂の料理人さん……やるね! それは置いておいてどうやら他の皆も同じ意見みたい……むむむ! これでも頑張ってるんだから大目に見てよね! それに耶識がここ最近凄く機嫌が良いから体が今まで以上に動くから仕方がない、何が仕方がないのか分かんないけど。きっと夏休みの最後の方に人型になって僕と触れ合ったからだとは思うけど……あっ触れ合ったって言っても何もないからね? 精々押し倒されてチューされたぐらいだし。きっと嬉しくなってるんだろう……僕的には現実世界で病愛を二度と見たくはないけどね!
「そう言われてもさぁ~僕って弱いしあれぐらい頑張らないとラウラさんに勝てないんだよ? それにあの程度なら普通じゃん」
「ゼロ距離で滑空砲を撃って顔と首に杭を撃つのって普通じゃないと思うよ……?」
「どうあがいてもあのヤンデレの影響をもろに受けてるじゃない。ちゃんと言い聞かせたんでしょうね?」
「う~んどうだろう? 耶識って何時もあんな感じだからよく分かんないや。でもちー姉ちゃんにあの輪っかを献上したからもうあんな事は起きないと思うよ?」
「当たり前ですわ……ただでさえクロエさんという方やラウラさんというライバルがいるというのにISにまで邪魔されるわけには……!」
「しかし今日の嫁は凄かったぞ。まさか私が手足も出ないとは思わなかった……流石私の嫁だな」
隣にいるラウラさんは僕と同じメニューを口にしながら誉めてくれた。な、なんていい子なんだ……! 他の人はエグイとか引くとか普通じゃないとか言ってくる中で凄いって……凄いって……! うぅ泣いていいかな?
「でも凪って近接も遠距離も上手いよな……何で出来るんだよ?」
「感覚?」
「何でそれで出来るんだよぉ……俺なんて白式が二次移行したせいで今まで以上に燃費悪くなったんだぞ? 雪片と雪羅がエネルギー喰い過ぎなんだよぉ……しかも覚えることが多すぎてもう無理……」
僕とは対照的にイチ兄はテーブルに突っ伏していた。さっきの実戦訓練で鈴さんと戦って見事に負けたからかな? 最初は優勢だったのに後半はエネルギー切れを起こして逆転負け。確かに夏休みも何度か戦ったけどスラスターが増えて新装備もエネルギー消費系だから余計にガス欠しやすくなったみたいだね。でも瞬時加速の時に変に使いすぎるのも影響してるんじゃないかな? 僕でさえ結構気にしてるんだよ? 耶識は第一世代だからエネルギーが他よりも少ないしね。でもエネルギー切れは箒姉が居れば問題ないじゃん、だって紅椿の単一仕様能力って白式の逆の能力だし。おぉ……これがお似合い夫婦というものなのか!
「射撃とかは置いておいてスラスター周りの事を先にしたら? 変に瞬時加速でエネルギーを使いすぎてると思うしそれが解消されたらもうちょっとは燃費良くなるんじゃない?」
「確かに一夏って凪と一緒で瞬時加速を多用するよね。そこで余計な分を消費してるかもしれないから後で僕と練習する?」
「頼むよシャルぅ……マジでどっかにエネルギー落ちてねぇかなぁ……」
「箒姉とペア組めばいいじゃん」
「なっ!? そ、そうだな……私の紅椿と一夏の白式は対の存在だからな……うん、だからお前の傍に私が居れば、だ、大丈夫だ……!」
「てかなんでシャルロットと練習すんのよ! 私とやりなさいよ!」
「いやだってお前、瞬時加速使えねぇじゃん?」
「使えるわよ! 私を誰だと思ってるわけ! じゃあ放課後に見せてあげるから一緒に練習するわよ!」
「わ、私だって出来る……出来るんだぞ! だから私も一緒にだ!」
始まりました第何回目かになるイチ兄争奪戦。今回はイチ兄に誰が瞬時加速を教えるかという事で戦っております……はぁ、爆発すればいいのに。
「そう言えばセシリアさ、じゃなかったセシィ? なんか元気ないけどどうしたの?」
「わ、わたくしは何時もどおりですけども……元気が無いように見えますか?」
「なんとなくね。さっきも表情がちょっと暗かったし何か悩みがあるなら相談に乗るよ? それぐらいなら僕でも出来るしさ」
「……ありがとうございます。凪さんはお優しいのですわね」
「だって友達だもん心配するに決まってるじゃん――ひはいよ」
「わ、私も悩みがあるから相談に乗ると良い。それが嫁としての務めだろう……それはそうと何故セシリアは愛称で呼んで私は愛称で呼ばない? 理由によっては調教するぞ」
「えぇ~……そもそも愛称ってそう簡単に付けるものなの?」
「そうだ」
断言しちゃったよこの子……ふむぅ、ラウラさんの愛称か……なんだろ? たばねぇがクロエさんの事をくーちゃんと呼んでるかららーちゃん? おぉ! 何と呼びにくい! 恋人でもないののこんな事言ったら怒られるね! あとクロエさんが嫉妬モードに突入しかねないからやめておこう。ふふふ……僕だって成長しているんだよ! だからわき腹を抓らないでほしいなぁ~あと箒姉、貴方はイチ兄と絡んでなさい。やだ絡むってちょっと卑猥な表現……でもないね。う~む、耶識にキスとか押し倒されたりされてテンションおかしくなってるかもしれない……自重しないと。
「し、宿題って事にしたらダメ……?」
「……良いだろう。必ず私に愛称をつけるんだぞ」
「は、はーい。そ、それはそうとドイツ料理美味しいよね! IS学園に通ってると色んな国の料理が食べれるから飽きないよねぇ。あっイチ兄、サバの味噌煮一切れちょうだ~い?」
「いいぞ。ほれあーん」
「あむっ……うまうま。この白味噌どこの使ってるんだろう……まさか自家製?」
「どうなんだろうなぁ? けどサバも歯ごたえも良いしかなり合ってるよな。凪、俺にもそれ一切れくれないか?」
「いいよぉ~はいあーん」
「あーん……おぉ美味い! ドイツの肉料理って美味い奴ばっかりだよな」
「うんうん。あっそれじゃあ今度一緒に何か作らない? 最近ちゃんとした料理してないから腕が鈍ったら嫌だし――ちー姉ちゃんの夜のつまみは除くけど」
「別にいいぞ。やっぱり料理って何日もしてないと鈍るよなぁ――あとそれはホントにすまん」
話題転換で料理の話をしたけどイチ兄が乗ってきました。流石主夫……? でもイチ兄の言う通り料理しないと腕が鈍るんだよねぇ。しかしサバの味噌煮美味しかったなぁ……今度作ろうかな? 偶に食べたくなるんだよね! 何でか知らないけどさ……それはそうと何故皆さんは黙っていらっしゃるのかしら? 何でジトーな視線になっていられるのかしら? あはは……まさかイチ兄とはいあーんをしたから嫉妬したとか? 男に嫉妬してどうするんですかお三方……!
「何で自然とあれが出来るのよ……しかも男同士で……」
「一夏って男が好きなのかなぁ……」
「……弟に思い人を寝取られるなど女として終わりだ……!」
「一夏さんと凪さん……距離が近いですわ……」
「ふふっドイツの料理は凄いのだ! 他にもじゃがいも料理などがお勧めだ」
なんだか1人だけ別方向だけどそれ以外は確実に嫉妬してますよね……でも何故セシィまで嫉妬してるのさ? はっ!? まさか伏兵だった……! 今まで好きではない素振りを見せて実はイチ兄の事が――あっ違うの? なんか即効で否定されたんだけどなぜ考えていることが分かったし。そしてイチ兄――何故なんでみんな黙ってるんだって顔しないの。本気で恋愛ゲームさせるべきか……少しは女心が理解できるでしょきっと。ちなみに僕は理解してません。
そこから何故か他のクラスの子達も交えての料理談義が始まった。流石花の女子高生、話題はお菓子とか美味しい料理店とかの色んな情報を持ってるね! さて箒姉……その花の女子高生だけど何か言いたいことは? うん煎餅は冬に食べるとおいしいよね。それで他には? 分からない? うん知ってた。でも日本菓子の事は分かるんだからきっと覚えれるから頑張ろうね。
「今度はシャルロットさんが相手なんだ?」
「うん。高速切替が出来る人同士で実戦訓練をしてほしいんだって」
「そっかぁ。それじゃあ始めよっか――準備は良いよね」
「っ、うん……いつでもいいよ」
午後の実戦訓練はどうやらシャルロットさんと行うみたい。何気に珍しい組み合わせかもしれない……でも全力で行く。だって気を抜いたら遠距離からの射撃で落とされかない。相手はリヴァイブの改良型で僕の耶識よりも装備が充実してるだろうし出来るだけ接近して仕留めないと……!
試合開始の合図が鳴り響いたのと同時に瞬時加速、両手にロングレンジライフルとP90を持ってシャルロットさんに近づくと同じように重火器を呼び出して距離を取った。上空から降り注ぐ鉛の雨を踊るように躱しながらP90を乱射して牽制、本命であるライフルで狙撃を狙う――けど流石に思ったようにはいかないみたい。回避に重点を置いて火力の無さを手数で補うシャルロットさんらしい戦い方のせいで接近できそうにない……さてどうしようかな。僕が地上、シャルロットさんが上空、お互いがアリーナの中を縦横無尽に移動しながら射撃合戦してるけどどっちも被弾が無いから長引くだけ僕の方が不利になる……さぁて本当にどうしようかなぁ。
「撃っても当たらない……やっぱり機動性が違いすぎる……!」
「空からバンバンとめんどくさいなぁ。近づいてきてもいいんだよ」
「凪が得意とする距離で戦う気はない、よ!」
「あっそ」
その場で回転、すぐさま空へとジャンプしてシャルロットさんよりも上の距離まで飛んだ。ライフルとP90を戻し、滑空砲を2つとも呼び出しながら散弾装填。さっきまでのお返しとばかりにシャルロットさん目掛けて鉛の雨を降らす。広範囲に放ったから逃げられる距離じゃない……よし被弾させた。でもまだ接近できるほどのダメージじゃないからもっと痛めつけてからだ。
「射撃型の
「教科書に載ってた奴を真似してるだけだけど」
「それで出来るのが凄いんだよ! っ、躱しきれない……!」
滑空砲の照準をシャルロットさんの周囲に定めてジェットコースターに乗っているようにカーブを描きながら急下降、急上昇を行いつつ散弾発射。鉛の雨がシャルロットさんの身体に降り注いだけどラッキーかな……なんか驚いてくれたおかげで動きが一瞬だけ止まってくれたし。でも殺し合い中にそれはやっちゃいけないよ!
瞬時加速、一直線にシャルロットさんに向かう。雨のダメージから抜け出したのか僕から離れる様に別の方角へ移動し始めたけど逃がすわけがない……その場で急停止、横に回転して勢いを殺し滑空砲から散弾を発射すると予想外の動きだったのか油断したのか分からないけど躱す事が出来ずに直撃――さてそろそろ終わらせる!
「ま、だだよ!!――うそっあぁっ!?」
僕が接近してきたことに気が付くと重火器を捨てて盾を構えるとその先端が外れ大きな杭のようなものが露出した……パイルバンカーか。それを僕に当てようとシャルロットさんも接近してきたけど当たってあげるほど優しくはない。杭が身体に当たる直前に力を抜いて地面に落ちる。そのまま滑空砲の砲身をシャルロットさんに向けて散弾発射、動きを止めて再度急接近しながら武装を病愛に持ち替える。
「これで――終わりだ」
病愛の刃で太ももの肉を削ぎ落とし、その勢いのまま顎下から首を掻っ切る。痛みによって動きが止まった隙を狙い両足の指でシャルロットさんの両腕を掴み体勢を整えながらP90と武装を切り替えて肩の機関銃と同時にゼロ距離乱射。よし終わり! ふぅ~勝てたよ! あっ落ちないように支えないと……よし腕は掴んだしこのまま地面まで降りようっと。
「……凪は一度怒られた方が良いよ」
「なんで!?」
「凪の戦い方だって事は分かってるけど女の子相手にあんな乱暴なやり方はダメだよ! 箒に怒られる前に少しずつ変えていこう?」
「えぇ~……普通に戦ってるだけなんだけどなぁ」
試合が終わって観戦室に向かっていると先ほどの戦いの事でシャルロットさんがご立腹の様子になってしまいました。何でさ……病愛振るって重火器ゼロ距離乱射のどこが悪かったのだろうか……うむぅ、分からない。
「やっぱり凪のISのコアが原因なのかなぁ……ほんっとうに何も感じないの?」
「う、うん……だってあの程度って普通じゃない?」
「……凪の普通が分からなくなってきたよ」
「酷い!?」
そんなやり取りをしながら観戦室に戻ってきました! そしてそこでも鈴さんに同じことを言われる始末……なんで!? 僕が悪いの!? で、でもほらあの辺りで「私も乱暴されたい」とか「はぁはぁ篠ノ之君に攻められるのって素敵」とか言ってる……人、が……へ、変態だぁぁぁぁ!? 多分見ない顔だから2組の人だと思うけどなにあの表情……まるでたばねぇのように変態みたいな表情をしているよ。う、うん……ちょっとだけ戦い方変えようかなぁ……でもそうすると耶識が怒るし無理かも。よし現状維持! 僕だって命は惜しくないけど童貞は奪われたくないからね! 独り身コースまっしぐらとか言わない。誰も言ってはいけない。
次の試合はイチ兄VSセシィという懐かしい対決。クラス代表決定戦で戦ったのを思い出すよ……あれから色んな事があって記憶から消えかけてたけども。さて試合内容はというとセシィが上空から狙撃、イチ兄がそれを追いかける流れになってるね。と言ってもセシィの武装ってエネルギー系が殆どだからイチ兄と相性悪いんだよねぇ~だって二次移行した白式って零落白夜のバリアを展開できるようになってるしさ。ビットを飛ばしても直線しか放てないからすぐにイチ兄に対応されて……あっもしかして悩んでるのってこれなのかな? うぅ~んこればっかりはセシィ次第だから僕が何を言っても無駄なような気がするけど念のため後で聞いてみよっと。
結局試合はイチ兄優勢で進んで最後の方は僕と箒姉と同じ生身機動を行ってセシィを翻弄、その隙を突いて雪羅の荷電粒子砲をゼロ距離発射して試合終了。勝者イチ兄という結果で終わりました……こればっかりはISの相性だよね、もっと実弾系があれば結果は違うんだろうけど……うーん難しいね。
「……はぁ、ギリギリ勝てたけどやっぱ燃費悪い……どうにかしないとなぁ」
「でもそのやり方が分かんないんじゃどうしようもないよねぇ~」
「だよな……凪も瞬時加速多用してるのになんで燃費良いんだ?」
「燃費良いわけじゃないけど制御をマニュアルにしてるからその辺で調節してるかな。イチ兄もそうでしょ?」
「……それって変更できんのか?」
「知らないであんな機動してたの……あとでやり方教えてあげるね。それじゃおっさきぃ~」
実戦訓練が終わったのでイチ兄とロッカールームに入ってちょっとだけ雑談した後、ISスーツの上から制服を着て教室に戻る。イチ兄にはああ言ったけど殆ど阿頼耶識で操作してるからオートにする必要が無いんだよね……そもそも思い返してみても最初からマニュアル操作だったし。でもそう考えるとイチ兄凄いよね? だってオート制御で生身機動してみたいだし……これが才能の差かぁ。知ってたけど悔しいね。
そして次の授業が始まる……けどイチ兄は教室にやってこない。あれ何してるんだろう……この授業はちー姉ちゃんが担当だから遅れたら即死させられるのに……あっやってきた。
「――織斑、遅れた理由を言ってみろ」
絶対神ちー姉ちゃん降臨! 流石のイチ兄も恐怖状態に陥っています! あの威圧攻撃を耐えられる人ってたばねぇくらいだと思うのは僕だけだろうか……?
「あ、あのですね! ロッカールームに知らない女子生徒が現れまして……邪魔をされたというか……」
「ではその女子生徒の名前を言ってみろ」
「だ、だからですね……な、凪!? ロッカールームを出る時に誰かとすれ違わなかったか!? 髪が水色の女子とか!?」
「全然全くすれ違ってないけど髪が水色の女の人なら2人ほど知ってるよ? う~んと眼鏡かけてた? それとも扇子とかなんか持ってた?」
「せ、扇子! 扇子持ってた! あと2年生だったぞ!」
「あぁ。それだったら生徒会長さんだと思うよ? あの人なら悪戯でロッカールームに入りそうだね……後で何か用事だったか聞いておくよ」
「た、頼む……というわけでですねちふ、織斑先生! その人のせいで遅れてしまったというわ――いってぇぇ!?!?」
イチ兄の弁解もむなしく無慈悲な出席簿アタック。うわっ痛そう……あの音は久しぶりに聞いたね! そして箒姉? 生徒会長さんに嫉妬してるのは分かるけど落ち着こうか……そこは災難だったな一夏と慰めればいいと思うよ。うんだからちょっと落ち着こうか……えっなんで生徒会長さんの事を知っているかって? 知り合いだからだけど? うわこの姉めんどくさい!? 何処で知り合ったとか今聞かなくてもいいじゃ――痛そう。
別な事で取り乱していた箒姉の頭に出席簿アタックが落ちる。言っておくけど僕のせいじゃないからね? 授業に遅れたイチ兄は出席簿アタックを喰らうだけで済んだようで席に着いた後に目線でありがとうと言ってきた。大丈夫だよぉ~と返したけどそもそも助けたに入るのかな? うーん分からない。
「というわけでイチ兄に何か用事だったんですか生徒会長さん」
放課後、僕は生徒会長室にやってきていた。理由はイチ兄が入っているロッカールームに現れた件について聞こうと思ったから……だって気になるじゃん。空いている席に座ると虚さんがお茶を淹れてくれました。ありがとうございますとお礼を言うとニコッと笑って別に構いませんよと言ってきましたよ! なんて大人なんだろうか! どこかの姉にも見習ってほしいよ!!
「実は一夏君を生徒会所属にしようと思ってね。そのご挨拶で顔合わせしたのよ」
「へぇ~そうなんですか。でもそれなら後でもいいんじゃないですか? イチ兄が授業に遅れて大変だったんですよ?」
「うっそ、それは悪い事をしたのは分かってるんだけど……一夏君を見てるとちょっと悪戯をしたくちゃってね! 分かるでしょ!」
「全然」
「会長……年下をいじめるのもほどほどに」
「あぁっもう! 凪君も虚もなんで分かってくれないのよ! これじゃあ私がいじめっ子みたいじゃない!」
「事実だと思いますけど?」
虚さんの一言で生徒会長さんが撃沈、真っ白になって体育座りをしてしまいました。なんだろう……虚さんって怒らせてはいけない気がするね! うん! 良い子にしていよう!
「いいもんいいもん簪ちゃんに慰めてもらうもん嫌な顔されるかもだけど前よりはマシだしきっとお姉ちゃんの頭を撫でてくれるもん」
「あっ仲直りしたんですね?」
「えぇ。臨海学校前に篠ノ之君が話してみたらと言ったでしょう? それで本音と協力して2人一緒に街に行かせたのよ。もう見ててハラハラしたけどお互いの誤解というか……どう思ってるかを話し合ったみたいで前よりは関係が良好になったの。でも会長がこんな感じだから……」
「簪ちゃんさんが引いているってわけですね」
「その通りよ」
「……なんでお姉ちゃんってポンコツになるんでしょうか……?」
「知らないわ」
「落ち込んでる横でポンコツとか言わないでぇぇぇ!!!」
だってこれをポンコツと呼ばないで何と言えばいいのだろうか……姉属性持ちの皆さんは虚さんを見習ってほしいよ! 堂々とした落ち着きっぷり! 出来る女! これこそお姉ちゃんと言えるね! どこかの四捨五入三十代の姉属性持ちの大人2人組もこれぐらいは出来てほしいよ……でも虚さんがポンコツになる所も見たい気がする。
結局生徒会長さんが落ち着きを取り戻すまで十分ほどかかったのでその間はどこからともなく現れたのほほんさんと虚さんとでトランプしてました。いやぁ強いね! ポーカーだったけど初手でロイヤルストレートフラッシュとか初めて見たんだけど……のほほんさん、デキる!
「こ、コホン。それで話を続けようと思うんだけど凪君、貴方にお願いがあります」
「なんですか?」
「凪君ってまだ部活動に所属してないでしょ? 他の部活動からも一夏君と凪君をどこに入れるかで抗議されちゃって生徒会としてもどこかの部活動に入れないとダメになったのよ。一夏君はまだいいとしても凪君は……色々あるじゃない? だから先手として生徒会に入ってほしいのよ」
確かに阿頼耶識関連で運動部は無理、文化部はギリセーフって感じだけどあんまり知らない人と一緒にいるのは拙いよね。それにここの雰囲気って結構好きだし僕の事情を知ってるからちょっとだけ楽かも……あっ念のため言っておくけど阿頼耶識の事を知っているのは生徒会長さんと虚さんだけでのほほんさんは知らないです。だからその色々がなんなのか分からない様子で首を傾げてます。可愛い。
「別に良いですけど……空いてる役職ってあるんですか?」
「会長は言うまでもなく私、会計は虚、書記は本音だから空いているのは副会長……なんだけど凪君って真面目だから2人目の書記になってほしいの。副会長よりは目立たないから楽でしょ?」
「まぁ確かに……あっもしかしてイチ兄を副会長にしようとか考えてます?」
扇子を取り出して『大正解』という文字を見せてきた。だからそれぐらいは自分で言おうよ……そしてその扇子はどこで売ってるの? 出来ればちょっと面白いから買いたいんだけど……えぇ~教えてくれても良いじゃん!!
「しなのんも書記なんだぁ~頑張ろうねぇ~」
「うん。なんだかいきなりだけどよろしくね、のほほんさん」
「……これで生徒会にまともな子が入ってくれた……篠ノ之君、分からないことがあれば何でも聞いてね」
「はい。よろしくお願いしま~す」
「フフッ、後は一夏君だけね……楽しくなってきたわね。さてもうすぐ学園祭なわけだけど凪君は参加できないからそのつもりでね」
「ですよねー。たしか一般の人もIS学園に入ることができるんでしたよね? 当日は部屋で大人しく引きこもってた方が良いです?」
「出来ればそれでお願い。でもどうしても参加したかったら女装しても良いわよ? 凪君って女装したら可愛くなりそうだし……してみる?」
「遠慮します」
「えぇ~しなのん女装しようよぉ~」
「篠ノ之君。演劇部に女物の衣装があるからいつでも貸し出し可能よ」
「虚さん!? いやしないから! 絶対にしないから!! イチ兄がするならやるけど僕単体では絶対にやらないから!!」
何が悲しくて女の子の服を着なければいけないのか……もう学園祭当日は引きこもってやる! 絶対に女装なんてしない!! でも女装した姿が箒姉に似てたらそれはそれで嬉しいけど二卵性の双子だから似てないよね。
そんなわけで僕は生徒会に入ることになり業務内容はまた後日説明という事で生徒会室を出て部屋に戻る。すると夏休みにも見たような光景が目の前に広がってるじゃないですか……なんで僕のベッドの上に大きめな箱があるの? そしてテーブルにまた手紙……誰がやったかすぐに分かったけど一応開いてみると案の定キチガイ姉でした。ふむふむ……箱の中身は女装セットで女用のIS学園の制服とボイスチェンジャーとウィッグに化粧道具……おい実の姉。なんで弟に女装させようとしてるのさ? やっぱりあれはキチガイという言葉が良く似合うね! そしてまたクロエさんからお手紙ですよ……こ、今度はなんて書いてあるんだろうなぁ~あははは……あれ普通だったよ。
「……お、送るべきか送らないべきか……正直男としてのプライドが……!」
クロエさんからの手紙の内容は『女装した姿の写真、待ってます』という一文だけ。なんというかこの文面から分かってますよね? 送ってくれますよね? 信じてますよ凪様という言葉が込められている気がする……ま、まぁ一回だけ! 一回だけしてみよっか! そして自分の姿を見て吐こう。
ご丁寧に箱の中に化粧のやり方が書かれた本が入ってたのでそれを見ながら軽く化粧、何故かサイズがあっている女物の制服を着てウィッグをつけて鏡の前に立ってみた――あっ、案外いけそう、というかいけるね!! 流石篠ノ之遺伝子! 化粧すれば男でも女に見えるとか……見えちゃうとか……いやだぁぁぁぁぁ!?!?!!
その日、僕は激しい後悔と悲しさで包まれた。
凪の女装姿は表情の柔らかい箒をご想像ください。
天才の兎さん特製変装セットの効果は「男を男の娘に変える」となっております。なお実の弟にしか効果が無い模様。
余談ですが寡黙な少女の待ち受け画面がIS学園の制服を着た男の娘の写真に変わりました。