「なんか元気ないけど大丈夫か? 体調悪いなら休んだ方が良いぞ」
いつものメンバーで朝食を食べていると元気がないのを察したのかイチ兄が心配そうに聞いてきた。大丈夫、元気なんだよ……元気なんだけどもうね、心が折れかけた。若干ノリノリで化粧して女の子用の制服を着てポーズ決めて自撮りしたまでは良かったんだけどそれが終わってからの僕は一体何してるんだろう状態がきつかった……いや確かに自画自賛になるけど可愛かったよ! 流石箒姉と双子だって言えるレベルで可愛かったよ! てか普通に箒姉だったよ! ポニテじゃなくてストレートにしてる箒姉だったよ! 表情が柔らかい我が双子の姉だったよ! 胸ないけど。クロエさんに写真送ったら『次に浮気したら1日そのままでいてくださいね』という返事が返ってきたことを除けば時に何もなかったんだけど……男としてのプライドが粉砕されたよ。だってカッコよくないもん可愛かっただけだもん。
そんな事をこの場で言うわけにもいかず単純にたばねぇの相手で疲れてるだけだよって言ったら皆が何かを察してくれたのか凄く優しくなりました。もう甘いもの食べるか? 何か飲むか? 添い寝してやろうかとか僕の疲れを癒そうとしてくれたわけですよ――だがそこのポンコツ、なんで弟と添い寝しようとしてるのさ。それはイチ兄としなさい。そして襲われなさい。いや逆に襲いなさい。
「というより篠ノ之博士と連絡取れるのね……」
「だってあのキチガイってブラコン属性持ちだからたとえ僕が携帯変えたとしても数秒で連絡先を入手してくるよ。あとIS学園に侵入できます」
「……束さんなにしてるんですか……千冬姉に怒られるぞ」
「怒るどころか千冬さんならばあの変態を滅してくれるはずだ。全くあの変態め……実の弟になにをしようとしているんだ……!」
「箒さん、貴方も似たようなことをしていらっしゃると思うのですが?」
「実の弟のデートを監視してる時点で同類よ」
「箒、お前何やってんだよ……」
「ち、違うぞ一夏!? そ、それはだな……そう! 凪を護るためだ! 私の弟は人を疑うという事をしないからな! デート先で危ない目に合ってはいけないだろう? だ、だから見守っていただけなんだ! 何もおかしくはないぞ!? な、凪は私に見守ってもらいたいだろう!?」
「正直ドン引きしたからしばらく距離を取っても良い?」
僕の一言で我がポンコツな方の姉は真っ白に燃え尽きたように崩れ落ちた。いや普通に考えて弟のデートを監視する姉って引くじゃん。何普通な事のように言ってるのさって話なんだけど僕が間違ってる? いや合ってるみたい。皆に聞いてみたら正しいって思いっきり頷かれたからね……というわけでしばらくイチ兄を落とす手助けはしない方針で行こう。というよりこの光景って昨日生徒会室で見たんだけど? やっぱりお姉ちゃんってポンコツになりやすいんだね! もっと頑張ろうよ生徒会長さんと我が姉よ。
「義姉上、私に嫁を任せると良い。嫁の浮気性を正すのは私の仕事だからな」
「ら、ラウラさん……? まだ凪さんとは結婚していないでしょう……? そもそもそれはわたくしの役目ですわ! なんせわたくしは凪さんから愛称で呼ばれているのですから! こ、恋人と呼んでもらいましたから!!」
「――おい嫁、どういうことか説明してもらおうか」
何と言う事だ……隣に座っているラウラさんの目が鋭くなりましたよ! いやいやいや違うから!? 多分セシィが言ってるのって夏祭りの事だよね!? あれは恋人と装っただけだから!?
「いやそれはそのぉ……夏祭りの時にセシィがナンパされてたから助けるために恋人のふりをしたといいますか……愛称もその時に呼んだのが気に入ったみたいでそのまま呼ぶことになったというか……」
「ですが凪さんから恋人と呼んでもらったのは事実ですわ……ラウラさん、貴方とわたくしではこれほどの差があるという事を知りなさい! オーホホホホホホ!」
「くぅ……! な、ならば嫁よ! 今すぐこれに名前を書け! いい加減私は役所に提出したいのだ!! そもそもお前から責任を取ると言ってきたというのに何故書かない! ど、ドイツは良い国だぞ……さ、寒いがそこは私が暖めてだな……良いから書け! 早く書け!!」
「え、えぇと僕まだ結婚というか婚約する気はないといいますか……あとドイツが良い所なのは知ってるから安心してね。だからそれをそっとしまっておこうか」
「そもそもラウラ、アンタどこでそれ手に入れてんのよ?」
「私の部隊からだ。これ以外にもあと30枚は残っているぞ。義姉上に破られても良いようにな!」
「……そうなのシャルロット?」
「うん……机にどっさりと乗ってるよ。しかも全部に名前書いてあとは凪が書くところだけのものが……もうあんなにいらないって何度も言ってるのにラウラってば嫁が書いてくれたなら捨てるって聞かないんだもん」
「シャルロット。確か3枚ほど分けてくれないかと言ってきたのはお前ではなか――むーむー?!!」
「あははは何を言ってるんだろうねラウラって! あははは、あははははは!」
なるほどシャルロットさんもラウラさんから婚約届を分けてもらって書いているわけね……なんと分かりやすい。多分皆察したよ? イチ兄はいつも通り仲良いなって顔してるけど……もうこれは箒姉も婚約届に名前書いてイチ兄に渡すしかないね! でも問題はそれをどこで貰うかだけど……そう言えばネットでコピーすればいいのか。後で箒姉に渡しておこう。
そしてシャルロットさん? そろそろラウラさんの口から手を離した方が良いよ? 顔真っ青になってるし。おぉ! なんというかぜぇぜぇと息を切らしてるラウラさんを見るのは珍しい。可愛いなぁ。
「こ、殺す気かシャルロット!?」
「ち、違うよ!? もうラウラが変なこと言うから! と、とにかくあの山を今すぐ処分すること! 良いね!」
「そのためには嫁がこれに記入する必要がある。そう言う事だ嫁よ、シャルロットの願いを聞き入れてほしければこれに名前を書くんだ」
「うわっ友達の頼みを人質にしてるわよ」
「ええい! 婚約など凪には早い!! こんなものはこうするべきなんだ!!」
スパーンと箒姉の手刀によりラウラさんが持っていた婚約届が真っ二つになる。なんという技術! 流石篠ノ之流継承者! でもこの1枚を斬った所であと29枚あるんだよね……だから多すぎるでしょ。
そんなこんなで楽しい朝食を送った後は全員で体育館に移動する。何故かというとSHRと一時限目の半分を使って全校集会をするからです。多分内容はもうすぐ行われる学園祭の事だろうなぁ~さて生徒会長さんはキリッとしているのだろうか不安ですね。一応僕も生徒会所属になったから生徒会長さんがポンコツ状態だと嫌なわけですよ! さて途中でのほほんさんに出会ったので僕達はどこに行けばいいのか聞いてみよう……えっ知らない? そ、そっかぁ~知らないなら仕方ないよねぇ~あはははは――虚さんにメールして聞いてみよう! おぉ流石大人筆頭の虚さんだ! 『篠ノ之君はクラスの皆と一緒に整列していてね。あと本音をお願い』という内容のメールが返ってきましたよ! 流石だね! そんなわけで僕は皆と一緒に並びましょうそうしましょう。
「にしても広いよなぁ~これだけの人数の中に男子が俺達だけって違和感しかないぞ……」
「そうだねぇ~例えるなら女性専用車両に間違って入っちゃったぐらい気まずいよね」
「おぉ! その例えは中々だな! 確かにあれは気まずいらしいぞ――弾と数馬が挫けながら言ってたしな」
「……よく捕まらなかったね」
「発車直前で教えてくれた女性が居たらしい。でも普通気づくよな?」
「まぁ……普通はそうだろうけど時と場合によるんじゃない? 多分イチ兄が乗っても誰も文句は言わないよ。イケメンだし」
「なんだよそれ……というより凪だって何も言われないんじゃないか? 男にしては可愛い方だし」
「……イチ兄、今日の訓練は覚悟してね? 全力で挑ませてもらうからさ」
今言ってはいけない事を言ったね? 確かに篠ノ之遺伝子によってイチ兄のようなカッコいい男より可愛い男になってる気がしないでもないけどそれは僕にとっては禁句なんだよ……! もう怒ったから徹底的に痛めつけてあげる……うふふ、ふふふふふふふ!! 所で皆さん? そう僕達の近くにいる皆さんです。なんで頷いているんですか? 一人くらいはカッコいいよって言ってくれてもいいんだよ?
全校集会特有のわいわいとした空気を我らがお姉さまこと虚さんが一刀両断する。と言っても普通にこれから全校集会を始めますって言っただけなんだけどね。そして壇上に上がって僕達を見下ろしているのは我らが弱ポンコツな生徒会長様です。キリッとしてる時はカッコいいんだけどねぇ。そしてイチ兄驚き過ぎでしょ。
「御機嫌よう。私が生徒会長の更識楯無よ。1年生の皆とは初対面ね。以後、よろしく」
何と言う事だ……! 生徒会長さんがちゃんと生徒会長をしているよ! いやなんか言ってる意味が分からなくなるけどポンコツじゃない!? キャーカッコイイー! ふぅ、口には出してないけどじんな感じで持ち上げればいいかな?
「今年は色々と立て込んでいたせいで挨拶が遅れてごめんなさい。さて長い挨拶は無しで本題に入ろうと思うわ。今月の一大イベントとも言える学園祭だけど特別ルールを導入しようと思うの。先に言っておくけれど運動部と文化部で差が出るようなものじゃないから安心してね。それじゃあその内容だけど――その名も各部対抗織斑一夏争奪戦!!」
「……え? なんだそれぇぇぇ!?!?!?!」
空中に現れたディスプレイにはイチ兄の顔写真がデカデカと映し出された。おぉイケメンだ……じゃなくてよかったぁ! 生徒会に入っておいてよかったぁ!! だって入らなかったらもしかしたらイチ兄と同じく顔写真を映し出されてたかもしれないし! セーフセーフセーフ!! その本人であるイチ兄も意味が分からず叫んでたけどそれを打ち消すように周りの女の子達も叫びだした。なんというかやる気、いや殺る気に満ち溢れているね! 怖い!
「静かに。毎年IS学園の学園祭では部活動ごとに催し物を出し、それを生徒が投票することによって順位を決定。上位に入った部には特別助成金が与えられる仕組み……なんだけどそれじゃあつまらないという事で! 1位になった部には織斑一夏君を強制入部させます!!」
「流石です生徒会長!!」
「よしみんな! やるわよ! 目指せ1位!! 大会なんて放っておきなさい!! どうせ毎年出れるんだもの!!」
「ま、待ってください生徒会長!!! 男子はもう1人います!! 可愛い系男子の篠ノ之君がいます!!」
「はっ!? そう言えばそうね……どちらかというと篠ノ之君が我が部に来てくれれば……うひひひ」
「お姉ちゃんと呼んでもらうためにも我が料理部は篠ノ之君を所望します!!」
何と言う事でしょう……矛先が僕に向かってしまったではないか……というより料理部とか普通に入りたいんだけど今から入部届出してもいいかな? あっダメなの? もう生徒会長さんってば意地悪なんだから。なんで分かったかというと扇子に『ダメよ』と書いてあったから……普通に心を読まないでください。そして箒姉、落ち着きなさい。そんなぐぬぬ的な表情とかしなくていいと思うんだけど……はぁ? 姉は私だけ? お姉ちゃんとか私も呼ばれたい? んなあほなこと言ってる暇あるなら落ち着けよこのポンコツ姉が。
「ふむふむ。織斑一夏君の他にも篠ノ之凪君を所望する声があるわね……でも残念ながらそれは無理なのよ! 何故なら! 凪君は既に生徒会メンバーに加わっているの! そう生徒会書記という役職があるので他の部には入部できません」
「……凪、いつの間に生徒会なんて入ったんだ?」
「昨日だけど?」
「……てことはさっきのも知ってだろ?」
「なんかやるなぁとは思ってたけどこんな感じだとは思わなかったよ」
「それに忘れている子もいるかもしれないけど篠ノ之凪君は世間には公表されていません。情報漏えいを防ぐためにも生徒会に所属してもらう以外は無かったの。でも……それじゃあつまらない! 生徒会権限で毎週1つの部に篠ノ之凪君のお手製料理を食べる権利を与えます! 最初の部はそうねぇ~うん、この学園祭で1位を取った部から開始、順位事にローテーションしていきましょうか」
「流石です会長! 一生ついていきます!」
「勝っても負けても天国が待ってるなんて最高ね!」
「良い皆! 狙うは1位! 織斑君も篠ノ之君も手に入れるのよ! 泣き言を言った子はお仕置きするからそのつもりでね!!」
あのぉ~言って良いかな? 僕その話何にも聞いてないんだけど? というより絶対アドリブで決めたでしょ? いや良いけどさぁ。料理とか好きだし喜んでくれるなら僕も全力で作るけども一言くらいは言ってほしいね。ちなみに反対ではないですから安心してください生徒会長さん。だから心を読んで『ごめんね』と扇子の文字で会話しようとしないでください、その扇子シリーズ何処で売ってるのか教えてください。
「凪、お前はいつの間に生徒会なんてものに入ったのだ……! 何故教えてくれなかったんだ……!」
波乱の全校集会が終わって休み時間、僕は前の席に座っている箒姉から問い詰められていた。あの肩痛い、握力強いんだからちょっとは加減してよ……そもそもなんで怒ってんのさ?
「だって昨日入ってと言われたんだし仕方ないじゃん。特に断る理由もないし……というよりなんで怒ってるのさ」
「あ、当たり前だ! 一夏を景品のように……! け、剣道部が総出で1位を狙いに行っているんだぞ!? ゆ、幽霊部員の私はどうすればいいのだ!!」
「行けばいいじゃん」
「それが出来ないから怒ってるんだよぉぉぉ!」
「そもそも剣道部に入ったのに部活動にでてない箒姉が悪いじゃん。これを機に部活動に顔を出すようにすればいいと思うよ? そもそも剣道好きなのになんで出てないのさ?」
「……い、一夏とお前との時間がた、大切だからな……し、仕方がなかったんだ……!」
「う~んそう言われると僕も怒れないよ。無理にとは言わないけど顔出しぐらいはした方が良いよ? ただでさえコミュ障気味なんだから少しは改善しないと友達増えないよ」
「ぐっ……う、うん……や、やってみる」
そんなやり取りを終えて授業が始まった。と言っても四時限目までは座学だから教室から出なくていいんだよねぇ~でも早く午後の実習時間になるんだ! 僕にはやることがある!! 昼休みには皆と一緒にご飯を食べながら僕が生徒会に入ったことに興味深々だったみたいだったから軽く説明をしました。ちなみにセシィとラウラさんが所属している部も全力で1位を狙いう様子……セシィはテニス部でイメージ通りだけどラウラさんは茶道部とは予想外だったね。何で茶道部なのと聞いたらちー姉ちゃんがいるかららしい、ラウラさんらしいねぇ。
「さてこの時間はクラスの出し物を決める場とするが先に言っておくことがある。学園祭には篠ノ之弟は参加不可だ」
「なん……だと」
「そんな……学園祭で篠ノ之君と触れ合おうというプランが……!」
「織斑先生! 救いは無いんですか!?」
「ええい静まれ馬鹿共。篠ノ之弟は織斑と違い世間には公表されていない。一般人も参加できる学園祭に篠ノ之弟を参加させてみろ……騒ぎになりかねん。よって当日は部屋で待機してもらう――がそこの馬鹿をどうしても参加させたいというなら女装でもさせろ。話は以上だ」
そう言ってちー姉ちゃんは話が纏まったら職員室まで来いと言って教室から出て行った……けど大きな爆弾を残して言ったよね? なんで忘れたいと思ってた女装を思い出させるかなぁ!! まさか見てた!? いやいやいやそんなわけはない……はず!! そしてなんで皆は女装することを確定させてるんですかねぇ? ちょっと箒姉! 弟のピンチだから何とか言って! キチガイ姉とは違ってまともなんだからお願い!! というより教師が女装勧めないでよ!?
「――凪、服ならお姉ちゃんのを貸すぞ」
あっこれポンコツ姉ですわ。なんで実の姉が揃って僕を女装させようとしてるのさ……流石姉妹、血は争えないね!!
「いやしないから。絶対にしないからね」
「篠ノ之君……大丈夫! 可愛くしてあげるから!」
「篠ノ之凪君はダメだけど篠ノ之凪ちゃんならきっと問題ないわ!!」
「凪さん……変装も男性操縦者として必須科目ですわよ。わたくしがお化粧などをして差し上げますわ」
「いや待って!? 待って!? なんで女装を押してくるの!? そ、そうだ山田先生!? 山田先生は反対ですよね!? ですよね! 普通の男が女装とか変ですもんね!!」
きっと大天使山田先生なら僕を救うために反対意見を出してくれるはず! そう信じてる!!
「え、えっとぉ……篠ノ之君――お、女の子の恰好も悪くはないと思います、よ?」
神はいない。なんと言う事だろう……大天使山田先生は堕天使山田先生にジョブチェンジしてしまっていただと!? というより堕天使山田先生ってなんてエロスな響きなんだろうか。いやそれはそれ、これはこれなんだけどなんで女の子は女装とかに興味津々なのさ!? もうおかしいよ!?
「よし分かった! もうこうなればクラス代表のイチ兄に決めてもらうよ! ちょっとイチ兄見てほしいものがあるんだけどあっち行こうか」
「いや良いけど何見ればいいんだ?」
「昨日あのキチガイ姉が部屋に忍び込んだみたいで変装セット一式置いていったんだよね。それ使ってみた写真があるんだけどそれを見て判断してくれない? イチ兄が吐いたら女装しない、吐かなかったら保留! という事でよろしく」
教室の端っこにイチ兄を呼んで携帯を開く。さて何を見せようかなぁ~よしこれでいっか。何枚か撮った中から選んだのは女装して鏡の前でピースしてる写真――さぁイチ兄! 早く吐いて!! さぁ! さぁ!!
「……可愛いな」
イチ兄から即座に距離を取る。ヤバい、今のヤバい、なんというかマジの感想だったからちょっとヤバい。
「なんで離れるんだよ?」
「いやだって予想外に本気の感想だったからつい……あのイチ兄、ちょ、ちょっと近づかないでほしいんだけどいいかな?」
「だからなんでだよ……でもこれなら大丈夫じゃないか? 流石箒と双子なだけあるよなぁ~でもなんで写真撮ってたんだ?」
「送ってくださいねと言ってきた人がいたから試しに着て見たんだ。よしイチ兄が混乱してるから女装しない方向で行こうね! 良いね! 良いよね!!」
「――嫁」
今まで沈黙を保っていたラウラさんが静かな口調で僕を呼ぶ。威圧感が凄いね? あ、あれぇ……足が震えてくるんだけどなんでだろうなぁ~あははは……ポンと肩に手を置かれたけど今の僕の表情はきっと引きつってるだろう。なんというか目の前のラウラさんが凄く怖い。逃げたいぐらいに怖い。流石クロエさんの妹さんだね! いやぁ姉妹ってやっぱり似るんだね!!
「また姉と浮気をしたな。死にたくなければ私の言う通り女になれ」
「……い、いやで、ひぃッ!? よ、よし分かった! イチ兄も女装するなら良いよ!」
「はぁ!?」
「はい決定! 織斑君と篠ノ之君の女装よ! ヒャッハー!!!」
「これは儲かる予感がするわ!!」
「これぞ学園祭! 女装した織斑君と篠ノ之君のキマシタワーが見られるなんて夢みたい!!」
「ちょ、ちょっと待て!? 俺は嫌だぞ!? 凪だけで良いだろ!! だ、だってこれだぜ!?」
僕の携帯を持ってたイチ兄が皆に女装した僕の写真を見せた。するとどうでしょう……半分ぐらい鼻から赤い液体を出して崩れ落ちたんですけど……そして気のせいかなぁ? その中に我が姉の姿があるんだけど? き、気のせいって事にしておこう!
「こ、これが凪さん……ま、負けましたわ……!」
「うわぁ~凄く可愛いね! しかも箒にそっくりだよ! と、ところで箒……大丈夫?」
「う、うむ……よ、予想以上の攻撃だった、もう大丈夫だ、さぁ凪、お姉ちゃんをお姉ちゃんと呼んでくれ。私は弟の他にも妹が欲しかったんだ。今こそその夢が叶うんだ」
「全然大丈夫ではありませんわね……ですがこの完成度ならば凪さんが男だとは分からないと思いますから安心して学園祭に参加できると思いますわ。さぁ凪さん、女装しましょう?」
「こ、これがクラリッサの言っていた男の娘というものか……胸が熱くなるな」
「そうだろうそうだろう。だから俺はそんなのしなくてもいいよな? よし決定! クラス代表として決定する! 俺は女装しない! そもそも凪ほど似合わないからな!」
「いや分かんないよ? もしかしたらちー姉ちゃんみたいになるかもしれないじゃん。一回だけ! 一回だけしてみよっか! 逃げられると思うなよ……! ここまで来たらイチ兄も道連れにしてやるぅ!!」
「嫌だって!! そ、そうだ山田先生! 先生も同じですよね!?」
イチ兄が堕天使山田先生に助けを求めた。ふふふ……残念だけどそれは悪手だよ! だって大天使山田先生はもういない! ここにいるのは僕の味方である堕天使山田先生なんだから!!
「……織斑君。女装しましょう」
勝った! その言葉こそ僕が今一番聞きたかった言葉だよ山田先生!! 流石我らが山田先生! 教師の鏡だよ! 頼みの綱の山田先生に裏切られたイチ兄は箒姉、シャルロットさんを筆頭とした女装させよう軍隊に敗北して学園祭当日は僕と一緒に女装することが決まりました! いえーい! キャーキャー! 良いぞー良いぞー! あははは……死にたい。もう引きこもりたい……なんで女装しないといけないのさ? こんな世界おかしいよ……!
話が脱線していたのでクラスの出し物を本格的に決めることになったけどシャルロットさんとラウラさんがメイド喫茶はどうだろうかと案を出した結果、普通に通りました。なんでも夏休みに一緒にメイドさんと執事になってバイトまがいな事をしたんだってさ。ちなみに皆はふざけていたよう見えたけど僕の事情を考慮して午前中だけ女装してメイドになり、午後からは部屋で待機させてもらえることになりました。なんて優しいんだろうか……! でもその優しさをもっと別な所に向けてほしかったよ! あぁそうそうイチ兄だけど可哀想なことに午前中は同じく女装してメイド、午後からは執事だってさ。何と可哀想に……巻き込んだのは僕だけど悪くない。悪いとも思わない。
「凪……お前のせいで俺まで女装する羽目になったんだがその辺りはどうなんだよ?」
「僕達は一蓮托生、どちらかが地獄に行くなら一緒に突き進む仲でしょ」
「いつの間にそんな仲になったんだよ……あぁもうぜってぇ笑われる……凪はまだ可愛いからいいけど俺は似合わないってのが分かるだろ?」
「大丈夫。頼りになる人を知ってるからさ……一緒に地獄を見よう。それじゃあちー姉ちゃんに報告よろしくねぇ~」
クラスの出し物を担任であるちー姉ちゃんに伝えるために職員室に向かうイチ兄と離れて僕は部屋に戻る。そして即効で携帯を取り出してある番号に電話をした――皆さんご存知キチガイにです。
『はいはいお姉ちゃんだよぉ~なっくんなっくん!! どうだったお姉ちゃん特性の変装セット!! いやぁもうなっくんはなっちゃんになるなんて夢みたいだよ!』
「五月蠅い黙れ」
『はぁはぁ罵倒ありがとうございます! これであと数千年は戦えるよ! さてさてお姉ちゃんに何か用事かな? も、もしかして愛の告白!? いやだもうなっくんたらぁ~』
「えっとねイチ兄も学園祭で女装することになったから変装セットよろしく」
『――喜んで! いっくんの女装とか何それご褒美じゃん! おまかせあれだよなっくん! いっくんがいっちゃんになるように最高の変装セットを作っておくね! うひひ! ちーちゃんもきっと驚くだろうね! さてそんな面白イベントがあるなら天才として頑張らないといけないね! 待ってろよぉいっくん! 絶対に可愛くしてあげるんだからぁ!!』
「よろしく~」
通話を切ると変な笑いが込み上げてきた……なんだろうこの気持ち、凄く泣きたいよ……心が痛いよ! でも仕方がないんだ! 僕だけ女装とかやりたくないし! でもたばねぇに任せたからきっとイチ兄も可愛くなるよね。だってたばねぇ作成だもん。もういいや、泣くぐらいなら楽しもう! 折角の学園祭だし午前中だけしか出られないんだもんね! よし頑張ろう!!
その決意をした僕は人知れずに……泣いた。もういやだぁ……女装したくないぃ……!
世界最強は実の弟から女装してメイド喫茶をすると聞いた瞬間、数分間思考が停止しました。