篠ノ之家の弟は阿頼耶識使い   作:木の人

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篠ノ之凪は苦労人

「せいっ!! はあっ!!」

 

「……やっぱり動きが速すぎる……!」

 

 

 放課後、僕と箒姉はアリーナで実戦形式の訓練をしていた。

 

 両手に刀を持ち、ソードビットを操りながら接近を仕掛けてくる姉を迎え撃つように病愛を握り応戦しているがハッキリ言って無謀に近い。襲い掛かる2つのビットの速度はセシィが使用するものよりも速く的確に防御が薄い部分を狙ってくる……それだけなら対策が取れるけど紅椿のものはたばねぇ作成のチート性能ともいえる代物、叩き落そうとしても一気に減速から距離を取られて別のビットによる攻撃でダメージを受ける。これがセシィのように使ってる間は動けないなんて言う制約があればいいんだけどそんなものはあるはずもなく現在も箒姉による斬撃の嵐を正面から受けている状況。

 

 

「……世代差、いや操縦者の実力差がありすぎる」

 

 

 ラウラさんやシャルロットさんの時のように滑空砲を展開する余裕もなく病愛と肩の機関銃のみでの戦いになるこの状況……何度も言うけど無謀に近い。器用に二刀流で近接戦を仕掛けてくる姉の攻撃を防ぎきるのがやっとだし。ホントウザい……離れれば斬撃が飛んできて接近すれば刺突からのレーザーが襲い掛かる始末だ。こっちも病愛から似たような事が出来ればいいんだけどそんな事も出来るはずもなくエネルギーを削られ続けるしかない。残りあと少しか……せめて一発ぐらいは叩き込む!

 

 一旦距離を取って体勢を立て直し、瞬時加速。病愛を強く握りしめ箒姉の懐に入り込もうとすると先ほどと同じようにソードビットを展開して僕を襲わせて来る。落ち着け……何度も受けて目が慣れてるはずだ。操ろうとするな、自分で動け、自分の頭で考える前に本能で動け、阿頼耶識なら……耶識と僕ならそれが出来るはずだ――今だ!!

 

 

「っ! 流石凪だな……! なにっ!?」

 

 

 迫りくるソードビットの刃を限界ギリギリまで引きつけた後、左腕のバンカーを地面目掛けて発射、その反動で横に移動して後ろから病愛で殴る。そしてすぐに病愛を戻してもう一つのソードビットはわざと胴体に受けてから両手で押さえつけてバンカーを同時は発射。ゴミをすぐに放り捨て、再び病愛を呼び出しながら箒姉に接近すると刀の刃を僕に向けていた――撃たせはしない。

 

 病愛を投擲して意識を逸らし、身をかがめながら懐に入る。片手には病愛、空いた手には鉈という装備で殴りかかると半歩下がって別の刀で僕の攻撃を防ぐ……そう簡単には当たらないよね。でも当てる! 箒姉の刀と僕の病愛、鉈の刃が何度も衝突しながら近接戦を繰り広げる。まだだ……まだ早い……ここしかない! 武器を捨てて刀の刃を手で弾き、箒姉の腕を取る。一度バンカーを撃ち込んでダメージを与えてからそのまま引いて一本背負い、地面に叩きつけて馬乗りになり首を掴んで止めを刺そうとする、けどちょっと遅かったみたい。復活したソードビットの攻撃を背中から受けてエネルギーゼロ。もうちょっとだったんだけどなぁ……!

 

 

「……負けかぁ。もうちょっとだったのに悔しいな」

 

「そう簡単には負けん。私は姉だからな! 全くお前は……私だから良いが他の者には今のような戦いはするな。馬乗りなど野蛮だぞ」

 

「えぇ~……仕方ないじゃん。箒姉に攻撃当たんないんだしさ。近づけばレーザー、離れればソードビット、挙句の果てには両方セットだよ? 何度人機融合を使おうと思った事か……使ってないんだからこれぐらいは許してよね。というよりそろそろ絢爛舞踏を自由に使えるようになりなよ」

 

「うっ……し、仕方がないだろう! 使い方が分からないのだから……それとお前の単一仕様能力は絶対に使うな。お前は今のままでも十分強いんだからそれに頼る必要が無い。そ、そもそもあのような輩に凪が頼る必要もない……うんうん、凪は私や一夏を頼ればいいんだ。そうすれば何も怖いものなどないぞ」

 

「何かあれば頼るけど耶識は耶識なりに僕の事を心配してくれる良い子なんだからあんまりそう言う事を言わないでよ。とりあえずドヤ顔で僕の事を心配する前に絢爛舞踏を使える様にしようか」

 

 

 タオルで汗を拭きながら箒姉と話しているけどどうやらこの見た目武士娘、中身ポンコツ&ブラコンの姉は耶識の事をあまり好きではない様子。確かに初対面が全裸で僕にキスしたり背中に抱き着いて威嚇してたら無理もないけどもうちょっとだけ好意的に見てもいいんじゃない? あっ無理、そっかぁ~それなら仕方ないね。

 

 さて本題だけどなんと箒姉、臨海学校で使った紅椿の単一仕様能力『絢爛舞踏』を今日まで一度も使う事が出来てません。そのせいでイチ兄と同じく燃費が悪いんだけど紅椿の性能と箒姉の操縦技術によりエネルギー切れになる前に勝利してるからあまり焦らなくてもいいんじゃないかとは思うんだけど……長期戦に弱く、イチ兄とペアを組んだ時に頼られたいという思いから結構ガチで焦ってます。でもそんなに難しいかなぁ? イチ兄だって零落白夜をバンバン使ってるし僕だって人機融合の項目が模擬戦中ずっと出現してるし……うーんなんでだろうね?

 

 

「そもそも臨海学校の時はどうやって使ったのさ?」

 

「……あ、あの時は、一夏と凪の力になりたいと……助けたいと思っていたらいつの間にか使える様になってたんだ……な、凪の場合はどうなんだ?」

 

「僕は戦闘中ずっと項目が出現してるよ。だから使おうと思えばいつでも使えるね」

 

「……使うなよ」

 

「ハイハイ分かってますよ~だったらその時の思いで使ってみればいいじゃん。たばねぇとクロエさんから教わったけど単一仕様能力は操縦者の精神状態がISと完全同調時にしか発動しないとかなんとかって言ってたし」

 

「そ、そうなのか……うん? ということはお前はあの女に気を許し過ぎという事ではないか……! お姉ちゃんは認めんぞ! 良いか! 一億歩ほど譲ってラウラやセシリアとお付き合いしましたならばまだ分かる! だがあのような輩とお付き合いだけは絶対に認めんぞ!」

 

 

 流石我が姉、発想が斜め上に飛んでったよ。でも確かにその理論で言うと僕と耶識は常時繋がってるって事だね! いや阿頼耶識で繋がってはいるんだけども……うーん、そもそも僕は耶識の事好きだし耶識も僕の事好きみたいだから人機融合が使えるのは当たり前なんだけどね。もう独り身確定したらたばねぇに頼んで耶識の待機状態を人型にして貰おう。そして僕を貰ってもらおうか……なんと言う事でしょう! 四肢切断コースの未来しか見えない!

 

 

「バカな事を言ってないで早く絢爛舞踏を使えるようになりなよ。もし使える様になったら1日だけお姉ちゃんと呼んであげるからさ」

 

「――やるぞ紅椿! 今こそお前と私の力を見せる時だ!! お前も私の専用機ならば呼ばれたいだろう!!!」

 

 

 流石扱いやすい方の姉だね。まさかこんな言葉でやる気になるなんて……なんかアリーナの中央で「やれる! お前と私ならば必ずできる! だから発動しろぉぉぉ!」と叫んでるけどそんな事で発動したら誰だって発動するに決まってるよ。はぁ……なんとバカなんだろうか。ふむぅ、箒お姉ちゃん、箒お姉ちゃん……あっこれ無理だわ。なんというかお姉ちゃんと呼べるほど姉力無いし。というよりあんなに叫んで喉大丈夫なのかな?

 

 結局この日は絢爛舞踏を発動することが出来ず箒姉はずーんと落ち込んだ様子で部屋へと帰って行った。当たり前だよね……あんな邪な気持ちで発動出来たら色んな人から怒られるよ。シャワーを浴びようと部屋に戻ると扉の前でイチ兄が立っていた……なんというか表情から苦労してきましたって感じがするんだけどどうしてだろう?

 

 

「ふぇ? 生徒会長さんがイチ兄の専属コーチに?」

 

 

 部屋の中に入れてお茶を出す。どうやらちー姉ちゃんに出し物を伝えた後で生徒会長さんに捕まり、組み手をさせられて敗北。そのまま専属コーチの約束をさせられたみたい……生徒会長さん、もうちょっとやり方無いの? きっとこれさぁ~箒姉と鈴さんとシャルロットさんから問い詰められる未来しか見えないんだけど?

 

 

「そうなんだよ……職員室から出たらいきなり現れて俺の専属コーチになるとか……箒や凪達がいますって言っても聞いてくれなくてよ。知ってるか凪? IS学園の生徒会長は最強の称号らしいぞ」

 

「知ってるよそのくらい。僕も戦った事は無いけど何でもできそうな感じだしねぇ~それで断り切れずにコーチしてもらう事になったんだ?」

 

「まぁな……組み手でも歯が立たなくて零拍子まで使ったってのに遊ばれるように空中コンボ喰らってさっきまで気絶してた」

 

「……零拍子って篠ノ之流古武術裏奥義のあれ? というよりイチ兄使えるの?」

 

「おう。昔、柳韻さんに教えてもらったんだよ。と言っても今日久しぶりに使ったんだが鈍ってなくてよかった……な、凪? 何で落ち込んでるんだ?」

 

 

 何で落ち込んでいるかって? 落ち込むに決まってんじゃん。だって篠ノ之流古武術裏奥義『零拍子』って僕が会得しようとしてた奴だよ? それをイチ兄が使用できることに驚きと才能の差を感じてるんだよ……! これはもう箒姉と結婚して篠ノ之の名前を継いでもらうしかないね! だって篠ノ之流を使えるんだからちゃんと形式に沿って織斑じゃなくて篠ノ之にならないとダメだようんうん。

 

 

「何でもない。ただやっぱりイチ兄に女装を押し付けて正解だったと思ってるだけだよ」

 

「酷くないかそれ!? そもそもなんで俺も女装しなきゃいけないんだよ!? 凪だけで良いだろ! 千冬姉なんて俺と凪が女装しますって言ったら固まったんだぞ!? あの千冬姉が!! 傍若無人で我は全ての支配者と表現できるあの千冬姉が!」

 

「大丈夫きっと可愛くなるから。たばねぇ制作女装セットに期待しててよ。もう発注済みだしキャンセル不可だよ」

 

「余計に酷くなってんじゃねぇか!? 束さん作成とかもう嫌な予感しかしないぞ!?」

 

「――イチ兄、人生諦めが肝心だよ。決して僕よりも先に零拍子使ってんじゃないよとか決して思ってないから。うん篠ノ之流を何で使えるんだよこらぁとか決して思ってない。だから女装するしかないんだよ」

 

「おい、絶対途中の言葉が本音だろ?」

 

 

 なんて失礼な。ただちょっとだけ嫉妬しただけなのに文句言わないでよね! とりあえず今日は諦めが肝心、学園最強の生徒会長さんに指導してもらえるだけありがたいと思いなよとイチ兄を説得して1日が終了。ちー姉ちゃんだけど夜中に「女装させろとは言ったがまさか本気でやるとはな」と自分の発言を後悔しながらお酒を飲んでたよ。もう哀愁が漂ってたね! そして酔っ払ったのか姉として弟がメイド服を着るのを何と言えばいいとか教師権限で今からでも無しに変えるかとか呟いてたけどとりあえず可愛いとか言えばいいんじゃない?

 

 さて翌日! 何と言うか夢の中で耶識がうふふあははと笑いながら病愛で切り刻んできた夢を見て今日は大変な事が起きる予感がしたけどまさにその通りでした……だって――

 

 

「さて、遺言はあるかしら?」

 

「凪? どうしても聞きたいことがあるんだけど良いかなぁ?」

 

「……」

 

 

 目のハイライトが若干消えかかってる箒姉、鈴さん、シャルロットさんに朝早くから拉致られて囲まれてるからね。なにこれ……なんで僕拉致されてるわけ? しかもここって箒姉の部屋じゃん。静寐さんはいったいどこに!? えっ? 席をはずしてくれと頼んだら快く引き受けてくれた? そりゃそうでしょ! 今の3人の姿を見たら断れるわけがない!! いーやー! 耶識助けてぇ!!

 

 

「あ、あの、なにこれ?」

 

「箒から聞いたんだけど一夏のコーチを生徒会長がするって聞いたんだけどホント?」

 

「箒から聞いたんだけど一夏のルームメイトが生徒会長になったって聞いたんだけど本当かなぁ?」

 

「凪。お姉ちゃんは悲しいぞ……まさか愛する弟に裏切られるとは思わなかった。まさか既に敵側にいるなんて思わなかった……な、なんで……なんで専属コーチが私じゃないんだぁぁぁ!!!!」

 

 

 いや知らないし。というより怖いんだけど……僕の肩に手を置いている鈴さんとシャルロットさんの力が非常に強い。もう痛いね! あははは! もうなんで僕が巻き込まれないといけないんだよぉぉぉ!! これもう直接イチ兄に言いに行けばいいじゃん!? なんで僕なのさ!?

 

 

「あの、痛い、肩痛い、というよりなんでイチ兄じゃなくて僕なの? 痛いからちょっと力緩めてほしいなぁ……ダメ?」

 

「ダメね。一夏に聞くよりも生徒会に入ってるアンタの方が知ってるでしょ。さて教えなさい……! なんで生徒会長が一夏の専属コーチなわけ? ほら早く言いなさいよ」

 

「なんで一夏のルームメイトが生徒会長なのかも教えてほしいなぁ。ねぇ凪、ねぇねぇ」

 

「……待って、ちょっと待とう。イチ兄って一人部屋じゃなかったっけ?」

 

「……昨日、一夏の部屋に言ったらあの女がいた。そして一緒に暮らすとも言っていた。何故だ凪、なんでだ。教えてくれ……! なんで私じゃないんだ!」

 

 

 ふむふむ……つまり生徒会長さんは専属コーチの他に部屋も一緒になったと。そして鈴さんとシャルロットさんは箒姉からその事を聞かされたと。ふ、ふふふふ……あんのポンコツ生徒会長さんがぁぁぁぁ!? 何してんのさ!? 何でそんな事してるのさ!? 初耳だよそんな事!? さてこの状況をどう潜り抜けようか……そもそも僕はつい先日生徒会に入ったばっかで詳しい事は何も知らないんだよね。と言っても今の3人は聞く耳を持たないだろう……長年キチガイの弟をしていた僕の感はこういうのは当たるんだよ。

 

 数秒、いや数分か分からないけど無言の時間が続く。時間が経つにつれて肩の痛みが激しくなってきてるし箒姉は修羅になりかけてるしもうどうしようか。よし、こうしよう!

 

 

「と、とりあえず生徒会長さんに頼んでみるから今日は解放、してほしいなぁ?」

 

 

 僕の分かりませんオーラを察してくれたのか3人はいつもの状態、うんいつもの状態に戻った! さて今日の僕はちょっと荒れるよ? なんせ理不尽に巻き込まれたからね! ふははははは! キチガイの弟を怒らせるとどうなるか思い知らせてあげよう生徒会長さん!!

 

 

「とりあえずイチ兄の部屋から退室してください」

 

 

 昼休み、長い長い授業を終えた僕は生徒会室で土下座をしていた。それはもう自分で言うのもあれだけど綺麗なものだろうと自負してるぐらいの土下座。目の前にいる本人はなんでそんな事をされるのか分からないようで箸を落としてるけどそんな事はどうでもいい! 僕の大事でもない命のためにどうしてもやらないといけないんだ!!

 

 

「あ、あの凪君……? 何で土下座をしているのかしら? そして綺麗な土下座ね! 流石日本人!」

 

「イチ兄の専属コーチを止めろとかは言いません。ですが! ですが!! 相部屋になるのだけはどうかご勘弁! もうヤンデレ気質有の3人に拉致られたくないんです! 怖いんです! 正直あの3人を相手にするぐらいならたばねぇを相手にした方が可愛いぐらいに嫌なんです! というよりちー姉ちゃんからあるものを取り返してください! それを僕にください! そうしたら耶識が僕を助けてくれるんです!」

 

「待って待って……とりあえず後半は関係ないとして一夏君との相部屋を止めてほしいというのは分かったわ。そうねぇ~確かに関係のない凪君が苦労するとは思ってたけどまさかこんなに早くなんて思わなかったわ。せっかく生徒会に入ってもらったんだもの後輩君には優しくしないと先輩として失格だもの。だから此処は凪君の真剣な土下座に敬意を表してこう言わせてもらうわ」

 

「そ、それじゃあ!」

 

「うん。断るわ」

 

「ですよねぇぇぇ!!!」

 

 

 知ってた。だってこの生徒会長さんが面白そうな事を自分から捨てるようなことはしないもんね。たばねぇもこんな感じだからそんな気はしてたけど……断りますよね! だって僕も断るもん!

 

 

「だって一夏君を鍛えるには常日頃から一緒にいないとダメなのよ。それに慌てる一夏君って可愛いし見ていて和むのよ……そう思わない?」

 

「いえ全く。それよりこれどうすればいいんですか? もしこのままあの3人の前に行って無理でしたてへっ♪ とかしたら殴られる未来しか見えないんですけど。ヤンデレ怖い。ヤンデレの相手はしたくないです」

 

「凪君の専用機、耶識ちゃんもヤンデレだって報告があったんだけど?」

 

「耶識がヤンデレなわけないじゃないですか。あれはただ愛情表現が過激すぎるだけで良い子なんですよ? もうちー姉ちゃんに土下座して待機状態変更の輪っかを返してもらって耶識に癒されようかなぁ……もう両腕両足が無くなったっていいや、もう童貞無くなっても良いよ、うん、いざ職員室へ」

 

「待った! とりあえず落ち着きましょう!? 虚! 凪君に紅茶!」

 

 

 我らがお姉さまこと虚さんが紅茶を淹れてくれたのでそれを飲む。美味しい……そして僕は何をやろうとしていたんだろうか? 危ない危ない、この年で両腕両足切断コースとか流石の僕でも嫌だよ。ふぅ~人間、予想外の事とか起きると焦るっていうけど本当だね!

 

 

「……ありがとうございます虚さん! 僕はあともう少しで耶識と結婚するところでした……!」

 

「むしろ何でそこまで発想が飛んだのか教えてほしいんだけど……虚! グッジョブ!」

 

「元はと言えば会長のせいだと思うのだけど? あと篠ノ之君、辛かったらいつでも言ってね? 紅茶ぐらいなら何時でも淹れてあげるからね」

 

「やだ虚が優しい……その優しさをもう少し私にも分けてくれても――」

 

「いやです」

 

「……うわーん! 会長なのにぃ!! 何で優しくしてくれないのよぉ!!」

 

「優しくしたらつけあがるからですよね?」

 

「えぇ。やっぱり分かる?」

 

「たばねぇに似てるんで」

 

「……お互い、苦労するわね」

 

「……はい」

 

 

 苦労人同盟此処に結成! きっと今まで虚さんはこの生徒会長さんに仕えて苦労したのだろう……あと簪ちゃんさんも苦労したんだろう。うんうん分かるよ! すっごく気持ちが分かる! さておふざけはこの辺で置いておいて本題に戻ろうか。そろそろ相手をしないと本気でいじけちゃうし……なんとめんどくさい人なんだろうか!

 

 

「それで何でいきなりイチ兄の専属コーチとか相部屋になろうとか思ったんですか?」

 

「……つーん」

 

「……生徒会長さん?」

 

「つーん、つーん」

 

「――虚さんお願いします」

 

「会長、塩紅茶――」

 

「その問いに答えてあげましょうか! 実は亡国機業が表立って行動し始めてるの。臨海学校で銀の福音と戦った時に凪君以外の阿頼耶識使いがいるでしょう? どうやらその子が各国の秘密裏に建造された研究所を襲撃して開発中のISやデータを強奪してるみたいなの。そしてもうすぐ学園祭というわけでもしかしたら一般人の中に紛れ込んで潜入もしてくるかもしれない。私や凪君が一夏君の傍に居てももしもという可能性もあるからこれを機にちょっとレベルアップしてもらおうと思ったの。あと同室になったのは面白そうだから」

 

「最後の一言で全て台無しです生徒会長さん。でもそっか……僕も午前中は女装してメイドになってるけど午後は部屋で待機だからイチ兄の護衛も無理、か」

 

 

 最近はたばねぇやクロエさんと亡国機業絡みの話をしてないから裏でどうなってるとか分からなかったけど結構激しくなってるみたいだね。あの織斑マドカという子を相手にできるのは国家代表でも難しいかもしれない……同じ阿頼耶識を持ってる僕だからこそあの強さが分かる。もし学園祭の途中で襲撃して来たら刺し違えてでも僕が倒すしかないか……頑張ろう。

 

 

「もし可能なら一般人の振りをして学園の中を歩いても良いわよ? だってIS学園の学園祭は各生徒に1人だけ招待できる券があるんだもの。それを利用して普通の学生、篠ノ之凪としてIS学園に入っても誰も文句は言わないわ」

 

「でも全生徒に口止めとか難しいですよね? だったら最悪たばねぇ作成変装セットで女装しますよ。見てもらえば分かりますけど多分バレないんじゃないかと思いますし」

 

 

 携帯を取り出して女装写真を数枚見せるとうわ凄い、篠ノ之君やりますねとか言われたけど全然悲しくない。悲しくなんかない! せめて似合わないわねぐらいは言ってほしかったけど悲しくなんかない!

 

 

「うん、これなら問題ないわね。でも何かあったら私か織斑先生にすぐに知らせる様に。良いわね?」

 

「……虚さんに知らせますね」

 

「ぜひそうしてください。そもそも会長? 当日は面白がって計画した『あれ』があるというのに随分と余裕ですね? 会長自ら考案したのだからもう終わっていますよね?」

 

「……さて凪君。生徒会書記としての最初のお仕事を――」

 

「あっ僕は箒姉の所に行かないといけないんでこれで失礼します。虚さん、頑張って!」

 

 

 紅茶を一気に飲み干してダッシュで生徒会室を出る。扉が閉まる直前、中から「逃げないでぇぇぇ!」という叫びが聞こえてきたけどきっと気のせい。気のせいだよ! さぁて地獄の一丁目にダッシュで向かわないとね! 震える足取りで箒姉達が待つ場所でと向かうと待ってたぞと言いたそうな表情で3人が待ってました。ちなみにラウラさんとセシィ、イチ兄も一緒です。流石の2人は察しているのか頑張れと言ってくれる視線だったけど当の本人であるイチ兄は呑気に遅いぞとか言ってきましたよ。もうこっちはどれだけ苦労していると……!

 

 

「結論から言いますとイチ兄の専属コーチと相部屋の撤回は無理でした」

 

「楯無さんに会いに行ってたのか? 大変だったろ……昨日の俺も苦労したからな」

 

「うん。流石の僕でも無理だったね。でも専属コーチはちゃんとした理由があったし断る理由もないと思う……だから怒らないでね箒お姉ちゃん」

 

 

 ごふぅとお茶を飲んでいた箒姉が噴出した。そして器官に入ったのか何度も咳をし始めたけど僕は悪くない。きっと悪くない。とりあえずプライベート・チャネルで全員に先の臨海学校で突然現れた謎のIS使いが襲撃してきてもいいようにイチ兄を強くするのが目的だよと説明すると如何にか納得してくれました……箒姉? なんかお姉ちゃんと呼ばれたぞとか別の方向に思考を向けてるから聞いてないかもしれないけど。

 

 

「まぁその理由なら……なら相部屋はどんな理由があるんだよ?」

 

「……面白そうだから」

 

「……そっか」

 

 

 イチ兄もなんとなく察してたのか僕の肩に手を置いて色々とありがとうとお礼を言ってくれたけどこっちこそごめんね……助けられなかったよ!

 

 そしてお昼休みが終わり、午後のIS実習の時間になる……けどもう箒姉無双としか言いようがなかったよ。だって今までより動きにキレがあるし強い闘志が浮き出ていた。まさかお姉ちゃんと呼んだだけであんな感じになるとは思わなかったよ……これたばねぇに同じこと言ったらどうなるんだろう? ちょっと試したくなるお年頃だから言ってみようかな。日頃の感謝を込めて嫌がらせとしてだけど。

 

 そして放課後、部屋に戻るとこれまた前と同じ光景が広がっていました。ベッドの上には大きめの箱、そしてテーブルにはお手紙……たばねぇ、仕事早すぎない? とりあえず電話しよっと。

 

 

『もすもすひねもす~やぁなっくん! ちゃんといっくん用の変装セットは見たかい?』

 

「うん。だからこうして電話したんだよ? 流石たばねぇ、仕事早いね」

 

『当り前さぁ! もういっくんの女装だよ? 天災なお姉ちゃんとしては大人の威厳を見せないとね! うひひ、きっと可愛く見えると思うよ? でもなっくんには負けるけどね!! あっそうそう、亡国機業所属の奴がどうやら学園祭に潜入するみたいだよ~えっとなんつったけ……夏休みになっくんがぼっこぼっこにしたあの蜘蛛みたいな奴を操縦してた奴。名前忘れたけどそいつが潜入するみたいだから気を付けてね』

 

「うん分かった。イチ兄を襲わない様にきっちり殺しとくから安心してね……あっそう言えば言いたいことがあったんだけど言っても良い?』

 

 

 ここで僕は嫌がらせの意味を込めてある言葉を言おうと思った。さて反応はどうなるんだろうか……!

 

 

『およぉ? 何かな何かな?』

 

「――いつもありがとう、たばねお姉ちゃん」

 

 

 数秒の間の後、突如轟音に似た何かが耳元で聞こえて通話が切れた。あ、あれ……大丈夫かな? クロエさんに何があったか聞いてみよう……うん? たばねぇが我が生涯一片の悔いが無いという表情で気絶してるの? まさかさっきのセリフでそうなったわけ? あははは……なんなんだこの姉妹。もうダメじゃん! なんで弟からのお姉ちゃん発言でやる気になったり気絶したりするのさ! もうバカみたい!

 

 そして夜中にちー姉ちゃんの反応が見たくなったので千冬お姉ちゃんと呼んだらお酒を噴出して優しく叩かれました。そうこの反応が見たかった! ありがとうちー姉ちゃん! これで僕はぐっすりと寝られるよ! やっぱりいきなりお姉ちゃんと呼ばれると焦るのが普通だよね! さてそれじゃあおやすみなさい!!

 

 気分良く眠りについた僕だけど何故か耶識にぼっこぼっこにされる夢を見る羽目になった……なんでさ。




凪の頼りになるランキング(身内編)
耶識>束=千冬=クロエ>一夏>>>箒

余談ですが凪のお姉ちゃん発言を天才の兎は録音に成功し作業用BGMにした模様。
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