「眠い……」
あまりの睡魔に僕はテーブルに額を付ける。もはや頼んだ朝食すら喉を通しそうにない……それぐらいに眠い。ただひたすら眠い。あと動いていないはずなのに腰痛い。いや理由は分かっているんだよ……! クロエさんのワールド・パージで耶識の世界に入って逆レされたからだろうね……と言うよりもそれしかない身に覚えがない。だって病愛で襲い掛かられてそのままキャーヤメテーヤシキサンヤメテーな状況になったんだよ? あの時ほど箒姉に助けを求めた僕は悪くない。気持ちよかったけど。あはは……! それよりもなんという肉食系ISなんだろうか我が専用機は。夢のはずなのになぜ現実でも体に、主に腰が痛いんだろうか……分からない。目が覚めたらベッドの中にらーちゃんがいたから知らないうちに変な体勢で寝てただけかもしれない……どっちのせいか分かんないけど今は眠いからどうでもいいや。
「なんか眠そうだな? 昨日ちゃんと寝たのか?」
「寝たよちゃんと寝たよ寝たと思うよ……眠い……無理……ご飯入らない……腰痛い……」
「何で腰……? ねぇラウラ、昨日凪は耶識の世界に入ったんだよね? 何かあったの?」
「知らん。魘されてはいたがちゃんと寝ていたようだぞ。私も嫁と同じベッドに入って確かめたのだから間違いはない」
「ら、ラウラさん……? 何故同じベッドに入っているのかしら?」
「ふんっ。夫婦なのだから同じベッドで寝るのは当たり前だ――羨ましいだろう」
「……い、今に見ていらっしゃい! 次に悔しがるのはラウラさんですわ……!」
「……ぐぅ~」
「寝るな! ええいっ! 起きろ凪! 一体耶識に何をされた!? 起きろ!!」
ポンコツ姉が僕の両肩を掴んでぐわんぐわんと揺らしてきた。うぉぉ目が回る……でも少し目が覚めたかもしれない、ありがとう箒姉。何をされたと言われたら男女の営み、ぶっちゃけると子作りできなあれなんだけどもこれは果たして言って良いのだろうか? いやダメでしょ。もしこの場で「実は耶識と
「――言っておくが私に嘘は通じないぞ」
何と言う事だ。言葉を放つ前に潰された……! 視線で全てを物語ってるね、これは嘘をついたらズパァとやられる。弟の感はこういう時に当たるんだよ! さて本気でどうしよう……箒姉だけじゃなくてらーちゃんやセシィまでもが話しなさいオーラ全開なんですがなんででしょうか? はぁ……仕方がないからその時の事を話そうじゃないか。と言ってもあんまり面白くないけどね。
◇
「――いつも見る世界だね」
先ほど眠りについたはずの僕は気づけば真っ黒な世界に立っていた。そこは偶に夢で見る場所――耶識の世界。上も下も右も左も黒一色で他の色すら飲み込むような怖さがあるけど僕はもう慣れたもので怖がる事なんて一切ない。だって周りが真っ暗でも耶識の姿は見えるからね……ほら見つけた。この真っ黒の世界で1人ぼっち、何かを呟きながら待っているような様子……だけどどうしたんだろうか?
「耶識? どうしたの?」
「――凪」
「うん。凪だよ? 何か呟いてたみたいだけどどうしたのさ? もしかして他のISから何か言われた? それともたばねぇがまた何かした?」
「なんでもないなんでもないなんでもないよただどうすれば強くなれるのか考えてた凪のために強くなりたいからどうしたら良いんだろう何をすればいいんだろう分かんない分かんないどうすればいいのって考えてただけ凪が心配する事じゃないよでもありがとうやっぱり凪は優しいね優しい優しいワタシに優しい凪大好き大好き」
「あはは……ありがとう耶識。でもなんていうかこうして会うのって新鮮だよね。いつもは夢でおぼろげだしさ」
「うんそうかもそうだよそうだねどうしたの今日の凪は何か違うなんでなんでなんでどうしたの何かあったのもしかしてワタシに会いに来てくれたのやったやったえへへワタシも会いたかった会いたいよもっともっともっと凪と会いたいよねぇなんで現実の世界に呼んでくれないのどうしてどうしてワタシは凪と触れ合いたいよ繋がりたいよもっともっともっと一つになりたいよだから呼んで呼んでほしい早く呼んでよ凪の周りにいる奴はズルいよズルいズルいズルい早く早く早く凪凪凪凪」
体育座りをしていた耶識は四つん這いのままじりじりと僕に近づいてきた。うん! 今日も可愛いね! 何故こんな可愛い子を他のISは虐めるのだろうか……はっ!? もしかして嫉妬!? そうかもしれない! なるほど耶識の可愛さに嫉妬してるのかあははは――さて現実逃避は置いておいてどうしましょう? 既に僕の足元にやってきてズボンを掴んで上目遣いになっているんですがこれから本当にどうしましょう? 今までは夢だったから何も思わなかったけどこうしてみると恥ずかしいね! そして可愛いね!
「うんとね、耶識と話をしたかったからクロエさんのワールド・パージで意識を此処に飛ばしてもらってるんだ」
「そうなのやったやったやった凪凪凪お話ししたい話したい話そう話そう何を話す何を話せばいい分かんない分かんないワタシあんまり話すの得意じゃないそうだ凪の話を聞きたい聞きたいよねぇねぇ」
「僕の? 良いけど先に此処に来た目的だけ話すね。えっと……この前織斑マドカに敗北したよね? だからリベンジのためにたばねぇからリミッターを解除しようという話になったんだよ。それで今のままじゃ意識が混濁しちゃうから耶識と話してリミッターを解除しても自我を保てるようにしましょうって感じなんだけど……大丈夫?」
「――うん分かったじゃあ一つになろう」
真下から突然耶識が這い上がってきて僕を押し倒す。腰から落ちたから背中は強打してないけどビックリしたよ……もういきなりどうし、たの、さ。あ、あははは……や、耶識? 耶識さん? 耶識様? その手に持っているものは何でしょうか? はい! 病愛ですよね! 知ってます!
「オリムラチフユと同じ存在に勝つには一つになるしかないんだよだから一つになろう一つに一つにそうすればあんな重たいものを背負う事なんてしなくていいんだよもっともっと凪を知りたい凪を感じたいだからいいよねいいよねうんいただきます」
「待って!? 何か違うしそもそもまずはお話からじゃないの!? そ、そりゃぁ夢の中じゃ何回もしてるけど今は違くない!? だから耶識……そっと、そっとその手に持ってる病愛を置こう――ひぃっ!?」
僕の顔の横に思いっきり病愛の刃が振り下ろされた。うん置いたね! 置いたけど違うそうじゃない!? 持っとこう……横にしておくとか期待してたんだけど全然違うよ! そして耶識さん……何故美味しそうなご飯を食べる様に舌なめずりしてるのかなぁ? あのぉ……これ後じゃダメ? ダメデスカハイワカリマシタ!
「――いただきます」
◇
「――そんなわけで一晩中耶識に襲われてたから眠いんだよ……ふああぁ」
イチ兄達に昨日……いや今日の朝まで起きていた出来事を素直に話すと何故か分からないがしーんと静まり返ってしまった。うん知ってた。むしろこんな雰囲気にならなかったらどうしようと思ってたぐらいだよ……だから箒姉? ちょっと僕の肩を掴んでいる手の力を抜こうか。そろそろ限界なんだけどもいい加減離してくれない? ダメ、ダメかぁ~なら仕方ないね。
「――嫁、今すぐあの性根の腐った女を此処に呼べ。私が直々に調教する」
「あらラウラさん? ここは是非わたくしにもお手伝いをさせてほしいですわ。凪さんを押し倒すどころか一晩中だなんてなんて羨まし、いえ! なんて破廉恥な方なのでしょう! 一刻も早く性格を矯正しなければ凪さんが危ないですわ!」
「てかアンタ、そんな目にあってよく普通にしてられるわね?」
「だって今までもそんな感じだったし……今更逆レとかねぇ。そもそも僕はまだ童貞、あっごめんなさい。朝ご飯の時に話す内容じゃないね……うん寝ぼけてる」
「お、おう。とりあえず教室行ったら少し寝といた方が良いぞ? 千冬姉の授業の時に寝てたら叩かれるからな」
「凪? あのぎゃ、逆レが今更とかちょっと意味わからないかなぁ~あはは……少しは警戒した方が良いと思うよ?」
「その通りだ! お前にはまだそういうのは早い! 次からは私も一緒に行くぞ! 私と紅椿がお前を守ってやる!!――なんだこんな時に……く、クロエめぇ……!」
なんか知らないけど箒姉が自分の携帯を見て憤怒し始めたんだけどどうしたんだろうか? クロエさんからメールでも行ったのかな? まっ何でもいいよもう……とにかく眠い、寝かせてほしい、できれば安息の地で寝たい。
「……いちにぃ、教室までおんぶぅ」
「ホントに眠そうだな……いや良いけど少しは食っといた方が良いって。ほら口開けろ」
「あーん……うまうま……」
そんなわけで睡魔の魔力に負けた僕はイチ兄にご飯を食べさせてもらい教室まで運んでもらいました。なんという大きな背中だったんだろうか! これがモテる男の背中! 憧れるね! 爆発すればいいのに!
結局、少し寝た程度ではこの睡魔は取り除くことが出来なかったのでちー姉ちゃんからの出席簿アタックを喰らう始末。うぅ頭痛い……でもおかげで睡魔がさっぱりしたよ! ありがとうちー姉ちゃん! 今日の夜のつまみは少しだけ豪華にするよ! むっ少しだけニヤッとしたから嬉しいのかな――いったぁぁ!? 酷いよもう!! 起きてたのに叩かなくても良いじゃん! もういい! 今日は安っぽいのにす、るぅぅ!? また叩いた! 何が授業に集中しろなのさ! ハイワカリマシタゴウセイニシマス!
「と言うわけで生徒会長さん。何か良い手はありますか?」
時間は進んでお昼休み、僕はお弁当を持って生徒会室に訪れていた。何故かと言うと耶識と話をするために何か良い方法が無いかを聞くためだけどなんというかあんまり意味はなさそうな感じがする。でもこの生徒会長さんは偶にカッコいい生徒会長さんになるから期待しても良いよね! 僕と生徒会長さんと虚さんの3人でお昼ご飯を食べつつ雑談、そして相談を持ち掛けたんだけど……何故扇子の文字が『諦めなさい』なのかな? 少しぐらいは考えても良いと思うんだけど?
「だって良い手を思いつかないんだもの。流石の私でもあのような子を相手にするのは初めてだし凪君しか心を開いてないんでしょ? だったら凪君が何かしないとダメだと思うのよ」
「むっ……生徒会長さんが久しぶりにまともな意見を言っている……だと!」
「会長、その勢いのままこの資料に目を通してください」
「酷い!? 人がせっかく真面目に相談に乗ってるのに仕事を増やすなんてぇ!!」
「その仕事を放り出していたのは誰ですか?」
「……えっ? 何で仕事してなかったの?」
「だ、だって簪ちゃんが、あの簪ちゃんが! 今度のキャノンボール・ファストに出たいって! アドバイス欲しいって! 言って! くれたんだもん!! 簪ちゃんのためなら生徒会長の仕事なんてやってられないわ!」
「仕事してください」
「ちゃんと仕事しようよ」
「可愛い妹のためなんだから見逃してぇ!!」
そんな理由で放り出していいなら僕だって箒姉のために何かするから仕事とか放りだす……いや違うね、箒姉を養うために僕が働きに出る、あれ? これっていつも通りじゃない? き、気のせいだし! きっと気のせい! そして虚さんから篠ノ之君、これを読んでおいた方が良いわと本を渡されたんだけどなんだろうなぁ~きっとお姉様筆頭の虚さんの事だから素晴らしい本なんだろう。さて表紙には……ヤンデレな彼女との上手な付き合い方・上と書かれてるね。ふむぅ……なんと心が動かされないタイトルなんだろうか。い、いや……虚さんが渡してきた本なんだからきっと何か得られることが書いてあるに違いない!
『彼女が盗聴、盗撮をしてきていても焦ってはいけません。この時に貴方が取るべき行動は盗聴器に向かってひたすら愛を囁く、カメラに向かって笑顔を向ける事です』
『彼女が凶器を持って襲い掛かってきても焦ってはいけません。とりあえず刺されましょう。そうすれば二人の愛は深まります』
『彼女が貴方を押し倒してきても焦ってはいけません。とりあえず優しく抱きしめましょう、それ以外の行動は論外です』
『彼女が子供が欲しいと言って来たら一日中頑張りましょう。一回戦で終わってしまうと貴方の命が危ないです』
『彼女が貴方の周りに危害を加えようとしても焦ってはいけません。とりあえず刺されましょう。話はそれからです』
『彼女の手料理は残さず食べましょう。たとえ何かが入っていたとしても残さず食べる事に意味があります。貴方の身体が異常を訴えたとしてもそれは貴方の心が弱いだけです』
『彼女が貴方を監禁したとしても焦ってはいけません。とりあえず仕事をしなくても良いと喜びましょう。紐万歳』
『彼女の笑顔が大切です。そのためなら自分の命ぐらいは捨てましょう』
うん変な事しか書いてないね。なんだよとりあえず刺されましょうって? そんな事が出来る人がこの世界に……あれ? 思ったんだけど僕って夢の中で耶識に四肢切断されても何も思ってないから当てはまってる? ち、違うし! あれ夢だし! でも彼女の笑顔が大切っていうのは分かるなぁ~そのためなら命ぐらいは捨てれるもんね。とりあえず虚さん……ヤンデレな彼女との上手な付き合い方・下を貸してください。そっちの方も見てみたいです! あ、ありがとうございます! よしまずはこれを読んで勉強しようか――耶識はヤンデレじゃないけど。
「……ねぇ虚? あの本ってなに?」
「この前本音が面白がって買ってきたものです……変な事しか書いていないので逆に面白いと思いますけど会長も読んでみますか?」
「き、気が向いたら読んでみるわ……と、とりあえず凪君は凪君らしく頑張りなさい。どうしても無理なら私も手を貸すか、ねっ? ねっ! ねっ!!」
「――あっごめんなさい。何も聞いてなかったんですけど何か言いました?」
「……べっつにぃ~なんでもないわよぉ~もう刺されればいいんじゃないって言っただけだもぉ~ん」
何故か知らないけど生徒会長さんがいじいじし始めた。むっなんか知らないけどめんどくさいなぁこの人は……箒姉並みだよ。なんでお姉ちゃんと言うのはこんな風になってしまうのだろうか? 虚さん、何故でしょう? なるほど……妹離れ、弟離れが出来ないからか。流石虚さんだね! やっぱり頼りになるよ!!
「とりあえずこの本を読んで今日の夜にもう一回耶識に会ってみます。虚さん……本当に! 本当にありがとうございます!」
「良いのよ別に。だって篠ノ之君は苦労しているんだしね。また困ったことがあったら何でも言ってね」
「はい!」
「……ねぇねぇねぇ~私にはぁ?」
「会長なにかしましたか?」
「生徒会長さん何かしましたっけ?」
「――うわーん!! もう逃げてやるぅ! 簪ちゃぁぁぁん!!!」
多分嘘泣きをしながら生徒会長さんは生徒会室から走り去るように出て行った。残った僕達はと言うとお互いの顔を見合わせてはぁ、とため息をつくしかなかった。なんというかたばねぇを相手にしているみたいで本当に疲れるね。でもなんだかんだでお世話になってるし今日の夜にでも夜食を作りに行ってあげよう……そして此処にいない簪ちゃんさん、五月蠅い人がそっちに行ったけど頑張って!
虚さんとお別れをしてそのまま教室へを戻る。勿論手にはヤンデレな彼女との付き合い方・上と下を持っている。役に立ちそうにはないけどあの回答はどこか面白さがあるから最後まで見てみたいと思ったね。だってまずは刺されましょうなんて普通言わないよ……ヤンデレ属性持ちなんてそう簡単に出会わないだろうけどもし出会った時の対処法として覚えておいても良いしね。ヤンデレ怖い。
「あれ凪? 何持ってんだ?」
教室に戻った僕を見てイチ兄が不思議そうに言ってきた。ふっふっふ! これこそ今日の切り札になりうる代物なんだよイチ兄! 括目せよ! この神々しくもないタイトルを!
「ヤンデレな彼女との付き合い方っていう面白さしかない本だよ」
「……それなんて返せばいいか分かんないんだがとりあえず凪が本気だって事は分かった」
「うむ。あ奴をヤンデレと呼ばずに何と呼べばいいのか分からんしな。し、しかしそれは役に立つのか……凪、お姉ちゃんに見せて見ろ」
「良いけど借りものだから破いたりしないでね。あっのほほんさん! この本ちょっとだけ借りるねぇ~」
「いいよぉ~けっこうおもしろいことかいてるからおすすめぇ~しなのんしなのん! おかしたべるぅ~?」
「たべるぅ~」
のほほんさんからお菓子を貰いぱくり。むむむ! このお菓子は最近発売した結構美味しいと評判のチョコ菓子だね! 流石のほほんさん! 流行りに乗っかっていくスタイル……侮れないね!
「……なんなのだこれは」
「えっと……『彼女が貴方をストーカーしたとしても焦ってはいけません。逆にストーカーをしてあげましょう。2人の関係がぐっと近づきます』……え、えっとぉ……なんて言えばいいのかなぁ?」
「『彼女が料理の自分の血を入れたとしても焦ってはいけません。貴方から彼女の血を飲ませてほしいと言いましょう。2人の愛はさらに高まるでしょう』……そんなわけありませんわ!!」
「嫁、悪い事は言わない。こんなものよりも私を頼ると良いぞ。クラリッサからあの手の対処法を教えてもらっている」
「ラウラ……多分それってこの本に書かれてる事と同じだと思うよ?」
「なんていうか結構変な事ばっか書いてあるよなぁ……考えるだけでぞっとするんだが文章で和むのはなんでんだ?」
「疲れてるんだよきっと。イチ兄もヤンデレには気を付けた方が良いよ? 知らないうちにグサリ、グシャ、ザックザックにされるから」
「こえぇよ! なんていうか似たようなことを最近体験したから猶更こえぇよ!」
多分それは僕の精神世界に入った時だよね……でもねイチ兄、それに似たような事をしそうな方々がイチ兄の周りに3人ほどいるんだよ? 今はまだ落ち着いているけど下手すると逆レしに行くであろう我が姉に感情一直線の鈴さんにお淑やかなのが逆に怖いシャルロットさん……ヤダ! イチ兄が刺される未来しか見えない。頑張れイチ兄負けるなイチ兄生きるんだイチ兄! きっと明日が待ってるよ!
さてさてそんな事はどうでもいいんだよ! 僕としては耶識とお話をしてリミッター解除して訓練したいから今日こそ……今日こそは逆レなんてされないよ! 虚さんから借り受けしこの本を頼りに絶対に耶識とは話をして見せる! 死亡フラグ? そんなものはへし折るものだってキチガイの姉が言ってた。だから僕は逆レされないし話もできる。流石たばねぇ! 居ない所でも説得力がある言葉をありがとう!
「まぁでもイチ兄が刺されても箒姉が一生看病してくれるから安心してよ。とりあえず僕は放課後になったら耶識に会いに行くから訓練は出ないからね」
「……気を付けろよ? あとなんで俺が刺されるって確定なんだ?」
「一夏だからだ」
「一夏だからかなぁ」
「一夏さんだからですわ」
「……よ、嫁! なんなのだこの統一感は!? わ、私には何が何だか分からないぞ!?」
「とりあえずイチ兄だからとでも思っておけばいいと思うよ」
「いや待て! 俺だからって何だよ!? 一夏って刺される名前なのか!? ど、どうなんだよ凪!? 箒!? しゃ、シャル!? せ、セシリア……なんで皆こっちを見ないんだよ!?」
だってイチ兄だし。きっと今日までフラグを立ててはへし折ってきたでしょ? そのツケがいつか返ってくると思うから気を付けてね? ちなみにだけど箒姉は小さな声で動けなくなってもちゃんと看病するぞと言ってたから本気で安心していいと思うよ。しゃ、シャルロットさんも同じような事を言ってたけど目が、目がマジでした……一瞬だけだけど瞳の奥にどす黒い何かが見えたよ。きっと僕は疲れているんだろうなぁ。
「――らーちゃん。今日こそ僕は耶識と話をしてくるよ」
「期待している……とは言えないが嫁の武運を期待している。あ、姉め……! 嫁を独り占めなどと汚い真似を……!」
長い長い授業を終えて僕とらーちゃんは部屋に戻ってきていた。何故ならこれから僕は死地に向かわなければいけないからだ……ただ話しに行くだけなのにどうして足が震えるんだろうか? き、きっと寝不足だからだね! よし! 行くよ耶識! 今日こそお話をして見せる! ではくーちゃん、じゃなかったクロエさん! お願いします!
◇
『凪様、無事耶識の世界に到着しました』
ベッドに寝て意識を失うと気が付けば昨日も訪れた場所に立っていた。頭の中にクロエさんの声が響くけどなんというかロボットのアニメやゲームに出てくるオペレーターみたいでテンションが上がるね! でも何故かなぁ~? くーちゃんくーちゃんくーちゃんと小さな声が聞こえてくるんだけどなんで? えっ? 何も言ってない? で、でも今も……はい! 何も聞こえません! くーちゃんは心も性格も清らかで素晴らしいお方です! あれ? 実際その通りだよね……うん間違ってない間違ってない。
さ、さて! 気を取り直して耶識を探そうかな。この真っ暗空間の中を探すのは一苦労……に見えて案外簡単なんだよね。だってなんとなくだけど耶識がいる場所が分かるし。と言うわけでレッツゴー!
「凪見つけた凪見つけたまた来てくれた嬉しい嬉しいやったやったまた一つになろう一つに一つにえへへへ凪も男の子だもんね良いよワタシが何度も気持ちよくしてあげるだって凪はワタシのものだもん誰にも渡さない渡したくないよズルいズルいズルい銀髪2号がズルい凪の近くにいるヤダ渡さない渡したくない」
探そうとした瞬間、背後に耶識の気配を感じた。あ、あのぉ……こ、怖くて振り向けないんですが? 何故って首元に中華包丁ぐらいの刃が添えられてるんだよ? はい病愛ですね! ふぅ――クロエさん! 一旦ワールドパージ解除! 解除でお願いします!! あ、あれ? クロエさん? クロエ様? く、くーちゃん!? 声が聞こえないだと……! ど、どういうことなの!?
「ここはワタシと凪の世界だからあの銀髪は干渉できないさせない絶対に無理だから邪魔な奴なんていないんだよ」
「……へ、へぇ~す、すごいね耶識……そんな事も出来るんだ……」
「凪のために頑張った凄いでしょ誉めて褒めて」
「うん凄い凄いいやぁ耶識って本当に可愛いよねぇ~あははは」
「えへへ褒められた褒められた嬉しい嬉しいやっぱり凪は優しい優しいよ好き好き好き好き好き大好きだよもっと好きになる大好きになるねぇねぇもう良いもう良いかなダメなの良いよねもう我慢できない凪が欲しい凪がもっと欲しいホシイホシイ」
誰か助けてください。このままでは昨日と同じように襲われます……はっ!? こんな時こそ虚さんから貰ったあの本に書かれていることを試す時! 絶対無理だと思うけど試さないで襲われるより試して襲われた方が諦めがつく。よしやろうか! えっとたしか……押し倒されたら抱きしめるんだっけ? 耶識が相手だと逆効果な気がするけどもうどうにでもなれ!
体を反転、耶識と向かい合う。不思議に思ったのか耶識は首を横に傾けた。可愛い。というわけで腰に手を回してぎゅぅっと抱きしめる……いやいやこんな事で怯むわけないし話が出来るわけないよね? だってこれ以上の事してるんだよ? こんな事、我が専用機の耶識さんなら息をするのと同じくらいなも――なんですと?
「凪どうしたのいきなりどうしたの恥ずかしい恥ずかしいダメダメ立てない力が抜けちゃう……はずかしいよ」
どういう事なの……? 抱きしめた途端に耶識が大人しくなったんだけど? え? まさか自分からはグイグイと襲いにかかる肉食系になるけど逆パターンだと耐性がない女の子になるタイプなの? うっそだぁ~だって今まで逆レしてきたのに抱きしめただけでこんな風になるなんて卑怯だよね! ギャップがヤバい! そして虚さんはやっぱり頼れるお姉様だという事が判明した……まさかの大当たりだよ。
「耶識、お話ししたいんだけど良い?」
「するから見ないで恥ずかしい恥ずかしいよ凪カッコいいえへへ嬉しい嬉しいけど恥ずかしい恥ずかしい凪凪凪の匂い凪の感触嬉しい嬉しい」
「……確か愛を囁くんだっけ? や、耶識可愛い可愛いようん大好きだからお話ししようか。ちょっとだけ大事なお話だから逃げちゃダメだよ?」
「逃げない逃げるわけがないよえへへ可愛いって言われた大好きって言われた嬉しい嬉しいワタシも大好き愛してる好き好きもっと言ってもっと言ってワタシを見てちゃんと言って他の女よりちゃんとワタシを見て見て見てほしい恥ずかしいけどワタシも凪をもっと見る見るよえへへ」
「ありがとう耶識、僕も耶識が大好きだよ。えっとさ……織斑マドカに勝つためにリミッターを外そうと思うんだけど僕の意識、と言うか自我? それを保つにはどうしたら良いのか分かる?」
「分からない分からないごめんなさいごめんなさいでも今の凪なら大丈夫だよだってワタシと一つになったんだもん凪の頭が凪の脳が凪の心がワタシと一つになったから大丈夫だよ今までよりももっともっと殺せるねえへへ楽しみ楽しみ凪を傷つける奴は殺しちゃう殺してあげるだってだって凪にはワタシしかいらないもん凪にはワタシしか必要じゃないもんワタシも凪しかいらない凪だけで良いもん」
立ったままだとあれだから座り込んで耶識の背後からぎゅぅっと抱きしめてるけど思いのほか話が出来ていることにビックリです。なんというか……めんど、いや違う、少々特別な子だよね耶識って。だって逆レが良くて僕から迫るのがダメって……いや迫らないけど。とりあえずヤンデレな彼女との上手な付き合い方の続編が出たら買おう。まさかの耶識対策にピッタリなものだなんて知らなかったよ! 効果てきめんだよ!
「それじゃあ明日からリミッターを外してもらおっか。耶識、一緒に強くなろうね」
「うんうん一緒に一緒にずっと一緒にいるよ一緒に強くなるよもっと強く凪を守れるぐらい強くなるよ凪ねぇ凪あのねあのね――大好き」
その時の耶識の笑顔は今までで一番可愛かった。
耶識ちゃんは恋愛ゲームで言うと隠しヒロイン的立場です。
出会うだけでルートに入れる上、選択肢も全て好感度UPです。
ただし他のヒロインと会った瞬間、刺されますし逆レされます。
余談ですが凪と耶識の情事を見ていた寡黙な少女はそっと録画ボタンを押した模様。