「ん、ん~ふぁぁぁ……おはよーちー姉ちゃん……あれ? 居ない……早いな~もう仕事に行ったんだ」
重たい瞼を開けて背伸び、隣のベッドを見るとちー姉ちゃんの姿は無かった。時刻は朝の7時、普通の会社に通っている人なら出勤の準備をしながら朝ご飯を食べると思うけどどうやらちー姉ちゃんはこれに当てはまらないみたい。IS学園の先生って大変そうだしね~あと僕とイチ兄が原因で余計に忙しいんだろう。うん、ごめんなさい。とりあえず歯を磨いて顔を洗ってISスーツ着てその上に制服を着てはい準備完了。でもまだ時間あるから何やってようかな……とりあえず部屋の端にあるゴミを捨ててこよっと。あと昨日ちー姉ちゃんが飲んでそのままのお酒の缶も一緒に持って行ってと……よくこの量を飲んであのスタイルを維持できているよね? たばねぇもそうだけど大人の女の人ってスタイル維持のために何か特殊な事でもやってるの? あとでたばねぇにでも聞いてみようかな?
ゴミが入った袋を持って寮の外にあるゴミ捨て場へ。えっとこれはこっち、うわ、ちー姉ちゃん全部一緒に入れたね? 分別しようしようよ~はい、終わり。時間にして約1分、さてさてイチ兄と箒姉はもう起きてるかな? というより箒姉……ちゃんと眠れたのかな? なんか予想だと緊張して寝れなかったとかそんな感じになりそうなんだよね……いっか。その方が箒姉らしいし。
ゴミ捨て場から再び寮の中へ戻ってイチ兄達の部屋へと向かう。その途中で同じクラス……かまだ分からないけど起きてご飯を食べに向かおうとしているっぽい女の子たちとすれ違ったからおはようって言ったら何故か逃げられた。な、何故……? 寝癖は無し、歯も磨いた、顔も洗ったし着ているのは制服……なんでだろう? 男子が苦手だったのかな? そう言えばここ女子高だったね。気にしないことにしてはい到着! ではノックしてもしもーし。
「イチ兄? 箒姉? 起きてる?」
ガチャリとドアを開けてくれたのはイチ兄だった。あっ寝癖ついてるからさっき起きたばっかり? それとも寝てた? もしそうだったらごめんね?
「おはよう、イチ兄」
「あぁおはよう凪。悪い少し待っててくれ、今着替えるから……箒~凪が迎えに来たからちょっと急ぐぞ」
「ま、待て一夏! 凪! すまないが少し手を貸してくれ!」
「うん? 良いけど。イチ兄? 入ってもいい?」
イチ兄の了承を貰って部屋の中へ。奥に進むと着物姿の箒姉が鏡の前で必死に髪を弄っていた……あぁ、結構手強そうな寝癖だね? イチ兄は脱衣所に行って顔とかを洗いに行ったようで少しだけだけど僕と箒姉の二人だけとなった……うん、まずは一つ聞かせてね箒姉?
「ちゃんと寝れた?」
「む、無理に決まってい、いるだろう……! お前ならまだしも隣に、い、一夏だぞ……! 寝言や幻滅されるような姿を見せられないと思っているうちに外が明るく……うぅ」
「はいはい後でコーヒー飲もうね~それじゃ寝癖直すから髪触るよ?」
「た、頼む……」
櫛を借りて丁寧に箒姉の髪を梳いていく。う~ん、綺麗だな~さらさらしてるし枝毛もないし僕が居なくなってからも髪は大事に扱ってきたんだね。うんうん、髪は女の命、これを手荒に扱う人は死ぬと良いよ……あ、あれ……そう言えば今まで襲ってきた人の頭掴んで杭を撃ちこんでたような……気のせい!!
「ふふ、なんだろうな……お前にやってもらうと昔を思い出すな」
「弟なんだから姉の手伝いをしろって寝てる僕を叩き起こしたのは誰だっけ?」
「さ、最初だけではないか! それに凪もその次の日からは自分からやってくれただろう!?」
「そうだっけ? 覚えてないや――はい、寝癖治ったよ? それじゃポニーテールにするからリボンどこにある?」
「これだ。うん、明日も凪にしてもらおうか。今まで私に心配をさせたのだから嫌とは言わせないぞ?」
「良いけどむしろこれイチ兄にやってもらったらいいのに? ん、出来たよ。これでいい?」
2年ぶりとはいえ体は覚えているようでいつもの箒姉にクラスチェンジ。我ながら素晴らしい出来だと褒めてほしいね! 丁度制服に着替えたイチ兄が戻ってきたから箒姉どう? って聞いてみると凪がやったのか? 上手いもんだなって褒めてくれた。嬉しいけどそうじゃないんだよ……もっとほら可愛いなとか綺麗だなとかあるでしょ? 期待してなかったけど。そして箒姉もなんでそうだろうと自慢げなの? もっと違う所を褒めてほしいとか思わないの? 二人がそれで良いなら僕は別に良いんだけどさ~?
そして僕とイチ兄は部屋の外に出て箒姉を待つ。仕方ないよね? 女の子の着換えを見るわけにはいかないし……昨日のちー姉ちゃんは堂々としてたけど。
「凪? 千冬姉の部屋どうだった?」
「物凄かったから整理整頓したよ? あとさっき溜まってたゴミを捨ててきた」
「やっぱりなぁ~ごめんな? これからも苦労すると思うけど何かあったら言ってくれ。俺が出来ることなら何でもやるからさ」
「ありがと~僕も家事スキルは高いと思うけど無理そうなことが起こったらお願いするよ」
話しているとガチャリとドアが開く。制服を着た箒姉が待たせたなと笑顔で言ってきたから大丈夫だよと答えて3人一緒に食堂へと向かう。昨日の夕食を食べた場所だけどやっぱり広いなぁ~? 人も多いし……あっバイキングなんだ。う~ん、こういうのも良いけど偶には自分で作らないと腕が鈍っちゃうんだよね。あとで自分で作って良いか聞いてみよう。僕とイチ兄と箒姉は差異はあれど殆ど一緒のメニュー、やっぱり朝は白米だよね? 忙しい時はパンだけどやっぱり白米じゃないと食べた気がしないよ。
ちなみに座る席はイチ兄の隣に箒姉、そして僕の並びである。ここでイチ兄の隣を譲った僕の優しさに感謝するが良い……!
「あれ? 凪って甘いもの好きだったっけ?」
「最近好きになったんだ。糖分が足りないと辛いんだよね」
「だからと言って朝から食べるものでもないだろう……居なくなってた間、お前に何があった?」
「ん? 特に何もないけど?」
う~ん、イチ兄も箒姉も僕からやや視線を外してある物体を見ているけどおかしいかな? 白米、鮭の切り身、味噌汁、たくあん、チョコレートパフェ、何もおかしい所は無いと思うんだけど? あっご飯美味しい! このふかふか加減は……かまどかな? 一回それでやってみた時の感じに似てるし。でもかまどで炊く一番の理由はおこげだよね? あれ美味しいもん。鮭も塩加減が絶妙! ぐぬぬ……負けてられないな! たくあん美味し~! あぁもう最高……でも何か負けた気がしてきた……! これがクロエさんも味わったと言う敗北感という奴か! なかなかできるね! 此処の料理人!!
「あ、あの織斑君? 篠ノ之君? い、一緒の席、いいかな?」
「へ? あぁ、俺は構わないぞ? 箒、凪、二人は?」
「私も構わん」
「全然おっけ~」
どうやら周りの視線の中を突破してきた勇者が現れたみたい。だってさっきから周りで噂の男性操縦者とか強いのかなとか可愛いとかカッコイイとか……はい分かってます僕が可愛いイチ兄がカッコいいでしょ分かってるよ分かってますよでもね一度はカッコイイって言われたいんだよたばねぇ以外に……い~や、頑張ってカッコよくなってやるから!! そしてチョコパフェ美味しい!! あぁ糖分補給される……うまうま。
「織斑君と篠ノ之君ってよく食べるんだね? で、でも篠ノ之君? 朝からそれ食べて大丈夫なの?」
「甘いもの食べないと体動かないんだよ」
「だからって和食にそれはないだろう……いや凪が良いなら良いんだけどさ」
仕方がないじゃん。阿頼耶識の影響で糖分足りなくなるんだから……必要な時に取っておかないと必要な時に動かないからね。そして箒姉? さっきから黙ってるけどどうしたの? うん? 何を話せばいいか分からない? 別に何でもいいと思うよ? それでも分からない? こんな風に大人数で食事はあまり経験ない? そ、そっかぁ……でもごめんね? 手助けしたくてももう時間切れみたい。
食堂に声が響いた。声の主はちー姉ちゃん、流石に聞き取りやすいね? その声が聞こえた途端、周りも急いで食べ始めてそそくさと教室へと向かっていくのが見えた。
「もぐ。僕達も急いで教室行こう? 流石にちー姉ちゃんの出席簿アタックとランニングは辛いと思うし、あと痛いし」
「そうだな……はぁ、授業分かるかなぁ? 昨日凪や箒に教えてもらったとはいえまだチンプンカンプンなんだぜ?」
「だからまずは予習しよう? それならまだ何となく分かるからさ」
「そうだぞ一夏、予習復習は大切だ。模擬戦もあるのだから男を見せろ。私は応援している」
「お、おう! 頑張る!」
そんなわけで僕達は一緒に食べてた女の子達と共に教室へ。道中、イチ兄が篠ノ之さんと仲良いねと聞かれて幼馴染だからなと答え、女の子たちを驚愕させた。無論箒姉は少し恥ずかしそうに俯いてた……別に気にしなくてもいいのにね~? だって事実だし。
そして授業開始、内容も昨日やった範囲の復習とその続き。話しの種で山田先生が女性用下着を例題にしてISの話をした結果、周りがなにやら嬉し恥ずかしなにこれ状態に突入。分からないですよねって言われても箒姉の下着やたばねぇのは洗濯したことあるし見たこともある上、昨日もちー姉ちゃんの下着も見た僕には理解できますと声を大にして言う事が出来る。言わなかったけど。言ったら社会的に終わるしね。
「……」
そして休み時間になるとイチ兄は真っ白になっていた。なんてことだ! イチ兄がまるで息が無い、屍のようだ状態に……! くっIS専門用語め! よくもイチ兄を! 卑怯だぞ! レベル1のイチ兄にレベル5をぶつけるなんて!! なお最高は100ね。ちー姉ちゃん? たばねぇ? あ、あの人たちは∞だから……!
「一夏。まだ始まったばかりだ。焦らず、だな、ゆっくりとやればいいと思うぞ」
「ありがとよ箒……えっと、さっきの授業で言ってた事ってここからここだっけ?」
「あぁ。この部分の用語の解説から始まって……こ、ここになったはず、う、うん? お、覚えているか一夏?」
「えーと……たしかここの解説になって……凪!!」
もう良い雰因気だったのに。でもしょうがないな~箒姉も頑張ったみたいだし助け舟的なものを出してあげよう。傍から見てるともう恋人同士にしか見えなかったけど僕的にはいいぞもっとやれだからいつでもその状態になって良いからね? とりあえずさっきの授業はここからここ、そして解説はこの辺から中心にこの部分までです。何で二人揃って良く分かるなって顔するの? イチ兄は兎に角、箒姉……た、頼むよぉ?
前の授業で教わった所を二人に解説していると次の授業が始まる鐘の音が響く。が、頑張って! 分からなかったら夜にまた教えるから!!
「さて授業を始める――が、その前に織斑」
「は、はい!」
「模擬戦で使用するISだが学園で専用機を用意することになった。もう少し待っていろ」
教室にちー姉ちゃんと山田先生が入ってきて授業開始、かと思ったらどうやら違うみたい。おっこれってクロエさんが言ってたイチ兄専用のISか。どんなのなんだろうなぁ~? 楽しみだ! きっとたばねぇが全力で取り組んだものだろうし勝てるかな? い、いや頑張って勝つ! 専用機の存在が大きいのか周りからも凄いとか一年生のこの時期にとか色々驚いている様子。でもイチ兄はピンときてないみたい……昨日専用機の事も教えたのに? でも確かにISに関わって無かったらあんまりピンと来ないよね? そのことがち、織斑先生にも分かったのか教科書の専用機の項目が乗っているページを音読させた。イチ兄は「おぉ! これ昨日教わったとこだ」って感動してたけど違うよ……何かが違うよイチ兄!
「あ、あの織斑先生……?」
「なんだ?」
「すいません……その、篠ノ之さんと篠ノ之君は……その……」
あぁ、察した。多分名字が「篠ノ之」だからたばねぇの関係者じゃないかって疑問に思ったのかな? 織斑先生もどうするかという表情になってるけど僕的には別に気にしてないし言っちゃおうかな? あっ箒姉に一度聞いてからにしよっと。というわけで背中とんとん、ごめんね箒姉? 言ってもいいかな? うーん、やっぱり箒姉ってたばねぇのこと苦手なのかな? ちょっと難色気味……え? 良いの?
「そ、うだ。皆の、よ、そう通り、私と凪、はあの人の妹と弟、だ」
「と言っても今どこにいるか分かんないけどね。あっでもそういうの無しで仲良くしてほしいかな? ごめんね? たばねぇのことはあんまり話せないんだ。僕達も知らないしね」
「う、うむ……すまない……わ、たしもだな……姉と関係、なしで皆と交流を持ちたい、と思っている」
僕と箒姉の言葉に周りも一瞬だけ凄いとか大騒ぎになったけど箒姉の様子にみんな察してくれたのか謝ってくれた。僕は別に気にしてないから別に良いんだけどね? 箒姉もどうにか落ち着いた様子だし良かった良かった。でも今たばねぇとクロエさんは何やってるんだろう? ちゃんとご飯食べてるかな? 徹夜してないかな? 心配だなぁ~後で連絡してみよっと。でもこれで箒姉も友達増えるといいなぁ? 折角の学園生活なんだから楽しくやらないとね。
「ん? 千冬姉? 俺だけって凪は――いってぇ!?」
「織斑先生だと言っている。そもそも篠ノ之弟は既に専用機を持っている。学園で用意する必要が無い」
「「「「え~~~~!!!??」」」」
「あはは。これが僕のISの待機状態だけど皆の予想を裏切っちゃうと第一世代、セシリアさんも専用機を持っていると思うけどそれよりも性能は多分低いね」
「コホン。えぇ、わたくしの専用ISブルー・ティアーズは第三世代型のISですの。しかし篠ノ之凪さん、わたくしは貴方のISに関する理解力を認めていますから良い勝負ができると思っておりますわ。織斑さんも理解しようとする姿勢は評価しております。しかしわたくしに勝てなくてもそれは仕方がない事。なにせわたくしは代表候補生なのですから!」
「……」
「あはは……精一杯頑張るよ」
どうやら最初に比べてイチ兄に対する評価が変わったようだ。それは良い事なんだけど一言多いんだよね~それが無かったらイチ兄もあんな顔しなくて済むのに。でも第三世代か、耶識は第一世代。つまり世代差はかなりあると言ってもいいけど僕の頑張りで少しでも縮めて見せる!
そして授業も進み、時刻は放課後。僕とイチ兄と箒姉はIS学園内の剣道場にやってきている。理由? イチ兄がISに慣れるために訓練機を借りようって思ったら無理って言われてだったらせめて身体でも鍛えようって話になったから。でも剣道か……僕、刀の使い方へたくそなんだよね? 引いて斬るのは理解しているんだけどどうもそれが出来ないというかするタイミングが無いと言うか……鉈で割るように殴った方が殺すんだったら早いし。でも良いぞ箒姉! 今日から模擬戦の日まで一緒に特訓すればイチ兄も感謝してくれるはず! だってここに来るときもあんまり嫌そうな顔してなかったし。むしろあぁ! 行こうぜ! って感じだったし。よっぽど馬鹿にされたのが嫌だったみたい。
「先に聞いておくが一夏、剣道は続けていたか?」
「……いや、中学3年間ずっと帰宅部だったから体力とか落ちてると思う」
「そうか……ならば先に体力作りから始めた方が良いな。流石に竹刀の振り方は覚えているだろう?」
「おう! 今持ってみて身体が何となく覚えてるみたいだ。それじゃあ何回素振りする?」
「そうだな……衰えているようなら百回から徐々に増やしていこうと思うが……どうだろうか?」
「良いぜ! 凪はどうする……ってなんだその格好?」
「ん? ISスーツだけど? 僕はこっちの方が動きやすいからさ」
イチ兄と箒姉は剣道着だけど僕もそれ着たら背中がね……あとこのスーツって本当に動きやすいし汗とか吸ってくれるしもうこのままでいいよ。でも何度も言うけど青春だね! 良い感じだよ箒姉! 自分の得意分野だったら恥ずかしがらずにできるよね! それじゃ僕も竹刀振りながら二人を見て心の中でニヤニヤしてよっと。
それから数十分、僕達は休憩をしながら竹刀を振り続ける。やっぱりイチ兄は衰えていたようでかなり腕がつらそうだ……僕? なんとか大丈夫。問題なし。
「ふぅ……俺、勝てるかな?」
「最初から負けると思っていてはダメだぞ。勝てるか、ではなく勝つだ。昔のお前ならそれぐらいの事は簡単に行っていたぞ」
「そうだっけ? なんか箒に毎回負けてた記憶があるんだが? あっでも凪には勝ってたぞ!」
「そりゃそうだよ、僕って剣道の才能無かったもん。それに篠ノ之流は女の人の剣術だし男の僕はそもそも合わないの。でも今はイチ兄にだって勝てるかもしれないよ? ISならね」
「言ったな? じゃあ男と男の勝負だ! 俺が全力で挑んでもし勝ったら……飯奢ってくれ」
「それじゃ僕が勝ったら甘いもの奢ってね」
「……わ、私には、ないのか……?」
「だって箒、試合に出ないだろ? でも昨日も今日も世話になりっぱなしだし……そうだ! 中学の友達の家が食堂なんだけど結構美味いんだよ。そこで何か奢ってやる。勿論凪も一緒だぞ? 流石に甘いものばっかはダメだしな」
「……そ、そうか、そうかそうか。うん、良いだろう」
そこは箒姉と二人だけでしょう!!! あぁもう!! 背中痒い!! こうむずむずする!! なにこれなんなのこれどうしてこうなのいい加減くっつけよこらぁぁぁ!!! でも箒姉が嬉しそうだしいっか。まだまだこれから時間はまだたっぷりとあるんだし頑張って箒姉!!
そしてその日から模擬戦まで長い、長い特訓が続いた。朝は授業、休み時間は一緒に復習、放課後は剣道、夜は勉強しながら息抜き。結局イチ兄はISに触れなかったけど落ちてた体力はある程度取り戻すことが出来たみたい。あとはぶっつけ本番! 運命の当日になったんだけど――
「こないね」
「あぁ」
肝心のイチ兄専用機がまだ届いていないのだ……たばねぇ? もしかして寝落ちしちゃった? どうしよう? 確か第一試合がイチ兄VSセシリアさん、第二試合は僕VSセシリアさん、そして最後が僕VSイチ兄の順なんだけどこのままじゃいつまで経っても始められないね? もうセシリアさんは専用機を展開してアリーナ内で待ってるのに……よし、仕方がないね。あんまり待たせるのも失礼だしちょっと試合内容変更できるか聞いてみよっと。
ピポパと携帯でちー姉ちゃんに電話をかけるとワンコールで出てくれた。およ? 今着いたから向かっているんだ? でも初期化と最適化がまだだよね? 初期設定で挑むのはちょっと危ないから僕が代わりに出れるか聞いてみよう――あれ? もう来ちゃった。
「あ、ちー姉ちゃん? 試合内容なんだけど……って早いね?」
「無論だ。何の用だ?」
「うん。このままだとイチ兄は初期設定で戦わないといけないから先に僕が出てもいいかなって? できれば第二試合は僕とイチ兄、最後にイチ兄とセシリアさんにもしてくれると嬉しい」
「……理由は?」
「だってお互いの戦い方とかある程度知ってた方が恨みっこなしで戦えるでしょ? ダメなら諦めます」
「――良いだろう。山田先生、試合内容の変更をお願いします。先に篠ノ之弟とオルコットの対決を始めさせます」
「分かりました。それでは篠ノ之君、アリーナ内へ向かってください。織斑君は専用機の初期化と最適化を始めますのでこちらに来てください」
「は、はい! 凪! 負けるなよ!」
「そうだぞ! 私の弟なのだから負けることは許さん! 勝ってこい!」
「うん――行くよ、耶識」
上の制服を脱いでISを展開。阿頼耶識との接続は問題なし、学園に来る前にたばねぇに整備してもらったから変な負荷はかかってない。問題なし。
「……なんか不気味だな?」
「そう? それじゃ行ってきます」
ピットゲートに向かって勢いよく中へ。地面に着地すると上空に射撃武器を手にセシリアさんが佇んでいた。その身体は蒼い鎧を身に纏っているようで太陽の光に反射していっそう美しいって表現できるかもしれない。ブルーティアーズ、中距離射撃型、特殊兵装有、か。アリーナ内は広く天井が無い、つまり地上戦より空中戦メインになるかな……射撃型を確実に仕留めるには接近するしかないけど射撃を躱しつづけないといけない。大丈夫、僕は耶識、耶識は僕。繋がってる、分かる、怖いのは僕が払う、倒す。入場した段階で開始の鐘は鳴っているから注意しないと。
「あら? 貴方がお相手ですの?」
「うん。イチ兄のISが届くのが遅れちゃって今初期化と最適化を始めてるんだ。セシリアさんは第二試合はお休み、最後の試合でイチ兄と戦う事になったよ。お互いの手が分かって正々堂々と戦えるように織斑先生に言ってみました」
「なるほど……お心遣い感謝いたしますわ。では始めましょう! わたくしとブルーティアーズの戦いをお見せしますわ!!」
セシリアさんが射撃体勢に入り、引き金を引くタイミングで前へ。1秒もしないうちにさっきまで居た個所にレーザーのような弾丸が落ちる。理解した……あれには実弾は無し。
「っ、今のを躱しますの!? ですがそう長く続きませんわ!」
僕を標的に何度もレーザーを放ってくる。足と肩のスラスターから最小限のエネルギーを放出、ギリギリ当たるか当たらないかの距離感で躱しながら地上を舞うように移動する。たった一か所からの射撃だしそんなもの避けるのは簡単だ。でもどうしようかな……躱しているだけじゃ仕留められない。接近? まだそのタイミングじゃないから躱し続けて相手の疲労を誘う、今はこれだ。相手は手練れ、でも射撃はワンパターン。そんなアンバランスなものに当たってあげるほど僕は暇じゃない。
かれこれ5分くらいかな? 躱し続けてるけど被弾無し。たばねぇの所で訓練してた頃はこの倍の射撃武器のビットを相手にしてたんだし余裕だね。
「この動き……気持ち悪いですわね!」
「僕的には普通なんだけど?」
「そんな動きは初めて見ましたわ!! ならばこれで!!」
背中から4つの小型兵器を射出してそれぞれから射撃を行ってくる。ビット兵器……あれが名前の由来かな? でも当たらない、見える、聞こえる、音が、風が焼ける匂いが、そんなものに当たるわけがない。頭の真後ろからの射撃は軽く横に頭を倒して躱し、左足のふとももはスラスターを吹かして数センチ横に、四か所同時射撃はバク宙の要領で体を捻って躱す。なんてことは無い、躱せるから躱すだけ。でも何分も躱し続けるのは飽きてきたかな……攻めてみるか。
空を泳ぐようにセシリアさんを追う。背後からのビット兵器の射撃は今までと同じようにギリギリの距離でかわ――っ、背中に当たった? なんで? 油断してたな。次は気を付けない、と?
突如脳裏に包帯だらけで検査服を着た髪の長い女の子が浮かび上がる。その手にはナイフ、僕の背中に回って何を……するとその子は僕の背中に被弾箇所にナイフを突きつけて一気に下まで引き裂き始める。ついでに何度も刺してくる。っぁ……流れてくる、気持ちが、あぁ、怒ってるんだ? 怖いんだ? ごめんね……もう当たらないから。うん、大丈夫。ちゃんと殺すから。
「なんなんですの……先ほどは当たったはずなのに……! この対応力、本当に初心者ですの!?」
「怖いから慎重になるのは当たり前」
一発受けたのは恥ずかしいけどもう当たらない。空は海だ、僕は泳いでいる。水のような風に身を任せるように、感じるんだ、風の鼓動を、声を、音を。身体を捻り最短距離で四方から放たれるレーザーを躱す。そろそろウザいから壊すね? 瞳を閉じて全ての感覚を探知に使う……頭、腰、右腕、左ふともも、撃った、3、2、1。
「そんな!?」
背を向け
「なんなんですの……なんで、当たらないんです! あぁもう!!」
焦りからかビットの射撃が単調になった。もう終わりか、それじゃお疲れさま。頭と視線を動かさず、風の音がした場所と気配を感じた場所が合わさった地点に射撃すると予想通り命中。そして最後も射撃のタイミングで急旋回、乱射。全て破壊成功。
「焦りから動きが単調だったよ? それだったら見なくても場所ぐらい分かる」
「っ……! おかしな動きを!! その機体は第一世代なはず! 何故そんな動きが!!」
「普通に動いてるだけだよ――じゃ、行くよ」
ビットが無くなったからもう僕を止めるものは無い。本体からの射撃は引き金を引く動作と同時に斜線上から避けれる。でも流石に逃げられるな……乱射しよう。視界から彼女が消えても音で場所を特定、銃の引き金を引いて一度足止め。そのタイミングで瞬間加速で急接近、鉈は勿論展開済みだ。
「――かかりましたわね、んな!?」
何を言ってるのか知らない。どうせ当たらない。
腰部分についていたスカート状のアーマーが外れ銃口として僕を見つめる……けど不思議と見てから回避は余裕だった。即座に地面へ落ちて放たれるなにかの斜線から外れると出てきたのは実弾、それもミサイルだ。へぇ、使えそう。だったらやることは一つ。再び瞬間加速で接近して鉈で装甲の無く銃を持っている腕を斬り裂いて痛みを与えてから胸の装甲を掴む。一度バンカーを心臓部分に撃ちこんで再度痛みを与えてから鉈を持ち替え首、頸動脈を引き裂く。まだだ……まだ早い。横に吹き飛んだ頭を掴んで顔に再びバンカー、絶対防御発動。よしきた。
「怖いから代わりに喰らってね」
感覚で分かる。僕に向かってきているのはさっき放たれたミサイルだ。追尾型っぽいから邪魔だし、あと当たりたくないからキミを利用する。こっちに向かってきたミサイルに
「ごほっ……ひぃ!? こ、来ないで!?」
「これで終わり――」
瞬間加速、上空から地上に一気に下りながらハンマーを構えて目標を狙う。胴体、それも心臓狙い。あの子が望んでるんだし良いから死ねよ。そして僕はそれを一気にふりお――
『試合終了、勝者、篠ノ之凪』
「――え?」
不意の音声に体勢がズレて振り下ろしたハンマーはセシリアさんの身体の真横に叩きつけられドーンという大きな音を出した。終わり? そっか、終わりか……勝ったんだ、僕、代表候補生の人に勝ったんだ……なんか途中から頭がぐちゃぐちゃして覚えてないけど……あ、あれ? な、何故泣いてるの!? というよりこんな展開あったような……?
「あ、あの……だ、大丈夫……?」
「え、えぇ……す、すこしきょ、うふが……も、んだい、ありませんわ……」
「ご、ごめん!? や、やりすぎた!? 痛い所とかない!?」
「……大丈夫、で、すわ。不思議な方ですのね……先ほどまで、とは雰因気がち、がいますわ。も、もうしわけあり、ませんが肩をお貸し願えませんこと……? 恐怖で、お恥ずかしいで、すが動きませんの……」
「はい!」
肩とは言わずピットまで運ぶよ! お姫様抱っこの要領で身体に触れるとセシリアさんは隠しているようだけど震えていた……あ、あれぇ? これ絶対僕のせいだよね? と、とりあえず後でごめんなさいしよう……うぅ、なんでかなぁ?
「……お強いのですね」
「ううん。弱いよ? イチ兄の方がもっと強い」
「そう、なのですか……?」
「だって僕のあこがれだからね。ほ、本当にごめんなさい! ゆ、ゆっくり休んでね! それじゃあ僕は次の試合あるから!!」
セシリアさんを運び終わってから補給のため別の場所に
□
「何て言うかISってあんな動きもできるんだな?」
それが凪の試合を見た俺の感想だった。まるで生きてる、って凪は生きてるんだしおかしいんだけどセシリア、だったっけ? あんな風な機械のような動きなんかじゃなくて本当に生き物のような動き。例えるならかくかくとぬるぬるだな。うん、我ながら素晴らしい例えだ。
「……あぁ、恐らくあのISは姉さんが何かしたのだろう。あれのことだ、溺愛している凪のためならなんだってするはずだからな」
「あぁ~束さんって箒も好きだけど凪も大好きだからなぁ。でも気のせいか途中からなんか変じゃなかったか? 頭っていうかあの目っぽいのが赤く光ってからさ?」
「そう、だな。まるで何かに操られているような……いや、気のせいだろう。それよりも、だ! お、おおおお姫様抱っこだと!? 人が見ている前でな、なんとと破廉恥な!! 後でガツンと言っておかねばならないな!」
そう言えば束さんもだけど箒も凪の事大好きだよな? 昔の記憶だし曖昧だけどいっつも一緒にいた気がする。それよりも次は俺と凪の戦いだから準備でもするか。でも勝てるか? 俺の専用機「白式」の武器は刀一本という素晴らしい事になってるしさっきの戦いを見た限りじゃ斬りかかっても簡単に躱されそうな気がするんだが? いや当てる! なんて言うか分かんないけど出来る気がする! 箒と凪のお蔭で3年間で落ちてた体力も少しは戻ったし感もまた同じ。この刀は千冬姉が昔使っていた雪片と同じ名前のもの、つまりみっともない所を見せたら千冬姉の名前を汚すことになる。あと今日まで教えてくれた箒も。昔と違って落ち着いてるみたいだしきっと凪が頑張ったんだろう。確か昔の箒って怒りぽかった気がするし。
「――か、一夏!!」
「へ?」
「何を
「半分以上は凪が教えてくれてた気がするんだが……でもありがとよ箒、頑張ってくる」
試合の時間になったから俺もアリーナの中へ。既にISを展開した凪が待ってたけどやっぱり変な気がする……なんか言葉が出ないけどとりあえず幼馴染として分かるのはなんか変だ。何が変なんだ? うーんわからん。
「悪い、待たせたな」
「ううん。ゆっくりしても良かったのに? それがイチ兄のIS?」
「あぁ! 白式って言うらしい……凪、約束は覚えてるな?」
「勿論。勝った方にご飯を奢る、でしょ?」
「おう! 言っておくが負けないぜ?」
雪方弐型、それが俺の持つ刀の名前だ。凪、お前には此処に来てからたくさん助けられた。だからそのお返しに見ててくれ――俺はお前に勝つ!!
ISコアの人格は「当たらないって言ったのに!? 怖いんだからね!! この嘘つき!」という意思を肉を裂きナイフを刺し続けることで操縦者に伝える素晴らしい子です。
なおセシリアは持ち前のプライドで保ってましたが控室で恐怖のあまり泣きました。