この中に1人、ハニートラップがいる!   作:佐遊樹

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遅くなったってレベルじゃねーぞ!
いや、本当に久しぶりです。夏はペース上げていきます。


VS生徒会長系ハニトラ
7秒後のハニトラさんと、俺。/蠢動


「うっへぇ、人いねーなオイ。景観の無駄遣いだろ。IS学園は紅葉の名所100選に可及的速やかに立候補すべきレベルだぜ」

 

すっかり木の葉も紅く染まっていた。

両手に持つグリップを握り直し、俺は中庭を歩き回る。自然豊かなここはあちこちに秋の色を落としている。木の実とかあるぜ。自然公園かよ。

車椅子がころころと進む。紅葉を踏んでいく音は聞いていて心地よい。

校内を出歩くときは基本的に制服だが、簪は患者衣の上からショールカーディガンを肩がけに羽織っているので俺も私服にした。秋物のブルゾンをオックスシャツの上から着込み、チノパンを履いて準備万端。他人が見たらデートだぜ! やったね俺! 人生初のガールフレンド(仮)だ!

 

「簪ぃ、どーだよ、寒くねぇか?」

「う、ううん……だいじょう、ぶ」

 

俺からは水色の頭しか見えねえから、彼女がどんな表情をしているのか分からない。

せっかくの休日ということで外出している生徒も多いだろう。実はこの中庭の景観を知っているのは中々少ない。……まあ校舎が多すぎるだけか。ここも中庭って呼んでるの俺ぐらいだし。

 

「んじゃ飯にしようぜ。今日の弁当には自信があるんだ」

「…………」

 

頷くのが頭の動きで分かった。

ベンチに寄せて車椅子を停める。自分はベンチの端に腰を下ろした。

 

「あーと、卵焼きは塩派? 砂糖派?」

「………………甘いのが、好き」

 

今の空白なんだよ。どんだけ迷ったんだよ。表情も苦笑というかなんともいえない笑い顔だし。

念のため2パターン作っておいたのが功を奏したようだ。

 

「ほれ、あーん」

「ん、ん」

 

箸でつまんだ卵焼きを可愛らしく開けた口に運んでやる。

つっても誰も見てねえか。恥ずかしいのは、きっと、こういうことに少なからず憧れていたからだ。美少女にあーんしてあげるとかそれなんてラノベだよ。

え? インフィニット・ストラトス? ……なにそれぼくしらない。

 

「美味しいよ、一夏」

 

そう言って笑う彼女の顔にメガネはかかっていない。

もう必要ない。

視力なんて彼女にはないのだから。

視神経はズタボロにされ、回避しそこなった斬撃の余波は脳髄に深刻な障害を残していた。医者が俺に直に説明したわけじゃないが、楯無が泣きじゃくりながら生徒会室に転がり込んできた。物理的破損だけではなく、視神経が機能不全に陥っており、復活は難しいと。両足も、義足について考慮はすべきだが、本人の意思次第であると。

 

「お姉ちゃん……も、来れば……よかったの、に」

「あいつはねぼすけだからな。仕事がなくなって暇してるっつーか、仕事がないことに違和感感じてるワーカーホリックだぜ」

 

楯無本人にはPTSDの症状が見られている。夜中突然激しい号泣を始め、部屋のものを見境なく破壊し、ルームメイトは逃げるように引っ越した。

今彼女は一人部屋だが、ひどい時はISを展開して暴れだす。

そういう時は俺が呼ばれて、俺が止める。

その繰り返し。

 

「うっし、デザートだぜデザート。……ま、コンビニだけど」

「この香り……ティラ、ミス?」

 

当たりでーす。

本来なら事前リサーチで楯無から簪の好物聞き出しとくべきだったが、まあ仕方ない。本人があの調子じゃあな。

 

「今度俺の会長就任スピーチがあっけど、来るんだっけ?」

「う、ん……迷惑じゃ……なけれ、ば」

 

迷惑なわけ、ねーだろ。

俺は笑った。例え彼女に見えなくても、笑ってさえいれば、何かが変わるような気がして。

 

 

 

 

 

簪をベッドに横たえ、毛布をかぶせてやる。

もうすでに眠たかったのか、か細い声で「お休み」とだけ言ってきた。

 

「じゃあな。明日も来る」

 

病室を出る。ここの看護師さんたちともすっかり顔なじみだ。

ナース服越しにお尻様がふりふりと揺れるのを見て悦に入りながら、俺は病棟を歩いていく。

と、向こう側から簪の担当医が歩いてきた。白衣の下はだらしないしわしわのシャツだが、豊かな二つの双丘が存在感を示していて眼福眼福。先日の事件では鋼鉄の胸に惑わされかけてヤバかったがやはり現物は違う。惜しむらくは思う存分揉み尽くすことができないことだ。

 

「ん? 織斑か」

「どもっす」

 

ズパッと手を上げて挨拶。癖になってんだ、爽やかに挨拶するの。

担当医さんは眠そうな目でこちらを見てきた。こう見えて簪の大手術を成功させた凄腕だ。噂では日本で人気のない丘に立つ小屋に住むつぎはぎ顔の無免許医と会ったこともあるとか。手塚分注入されたら俺片腕になっちゃうよ……

 

「簪の調子はどうですか?」

「それは君もよく分かっているだろう。もしかしたら、私よりよく知っているかもしれないね?」

 

なぜ疑問系。薬品の香りを漂わせながら彼女は首を傾げる。角度が傾きすぎて俺を下から覗き込む形になった。この人身長あんま俺より変わんないんだよね。

目の下にどっぶりとくまをかかえて、彼女は言葉を続ける。

 

「なら気をつけてあげたまえ。無理をさせはしないと思うが、君は少々他人の心の機微に疎いところが見受けられるからね」

「はい?」

「ん? 彼女が今、とてもつらい時期というのはさすがに分かっているだろう。彼女の脳へのダメージは深刻でね……味覚もほぼ消失したと言っていい。今まで感じていた世界が一気に闇に包まれたんだ、その恐怖は私たちには量りようもない」

「、……、っ、は、?」

「うん? 君なら気づくか、もしくは彼女本人が告げていると思っていたが……」

 

『美味しいよ、一夏』

 

ガツン、と頭が揺れた。

 

「あー、……そっすかそっすか。あはは、了解っす」

「……すまないが、私はこれで戻るよ」

「あ、了解ッス。失礼します、あはははははははははははははは」

 

担当医さんは不憫そうに眉を落とし、去っていった。

……あーそうですかー。俺って、そうか。バカなんだな。簪も侮りやがってよぉ。俺のことが信用ならんか。

ふと壁に目を見やる。

 

「あああああああああああああああああああああああ!!」

 

ぶつける。頭をぶつける。

がんがん。

ぶつける。

がんがんがんがん。がんがんがんがんがんがん。

ぶつけて、ぶつけて、がんがんがんがんがん。

 

ああクソックソックソクソクソクソクソッ!! 

 

俺は何なんだ! 何様気取ってたんだ!?

打撃音以外何も答えてくれない壁から頭を離し、ずるずると床に座り込む。頭を抱え込んで、俺は泣いた。

誰も俺を糾弾しようとはしないだろう。それでも、自分で自分が許せない時が俺にもある。

うずくまっている俺に人影が近づいてきた。

 

「……おり、むら君よね? 何してるの、ってッ、頭から血が出てるじゃない! 壁にぶつけたの!? と、とにかくちょっと……」

「……別にいいですよ。これぐらいもう治ってます」

 

ふらりと立ち上がる。引き止める声を適当に聞き流し、ふらりふらりと歩き出す。もう限界だった。楯無は部屋で寝込んでる。

医療棟を出る。もう傷は完治している。ナノマシンの働きが、俺は誰とも痛みを共有できないと声高に叫んでいるようで、また自傷したくなってくる。

 

「ああ、ああクソッ……こんなこと本人に言える訳ねえだろーが」

 

生徒会長になった俺の初仕事は、日本政府から送られてきた書類の処理だった。

それは――更識簪の代表候補生資格の無期限凍結というものだった。

ISがない以上、もう、簪は世界を見ることはできないということだった。

 

「どうして……俺が守りたいと思った人たちは、みんな傷ついていくんだ……」

 

 

 

 

 

今日は朝のHRから一時間目の時間を使って、ホールでの全校朝礼だ。

全校生徒ひしめく大ホール。その壇上に俺は立ち、全校に向けてスピーチをしなければならない。今はまだ先生方の話なので俺は椅子に座っているだけだ。

とはいえステージ上、いろんな人の顔が見える。箒半笑いじゃねぇかぶっ飛ばすぞ。簪が最後尾にいるな。制服姿は久々だ。

椅子を押してるのは楯無。なんかあの落ち着いた表情久々に見たわ。

 

「……では、続いて生徒会長から所信表明があります」

 

と、俺の番か。立ち上がり一礼。演説用の演壇に進み出る。

 

「皆さんこんにちは。この度更識楯無さんの後任として生徒会長に就任することとなった、織斑一夏です」

 

人前でのスピーチとか慣れてない怖い。自分でもきちんと口が動いているか分からん。

壇上に並ぶ生徒会メンバー、布仏のやつ寝かけてないかオイ。布仏の姉さんはキリッとしてるのになんだこの差は。

 

「最初に言っておきます、前の会長の時みたいに、四六時中挑戦を受ける余裕は俺にはありません」

 

言葉を途切れさせない。

俺はあんな風にして生徒たちの挑戦を受け続ける暇はねぇんだよ。お前らみたいな暇人とはやることも違うし、見ている世界も違う。

 

「悪いがここから先は他言無用の極秘情報だ。……オイ姉さん、睨むなよ……あー、キャノンボール・ファストに妨害勢力が来てたろ? あれは世界制服を狙う悪の組織だ。普通ならヤッターマン辺りががんばってくれるんだろうけど、生憎向こうはISを持ってる。そして俺たちを狙っている。だから戦うしかない」

 

ざわざわ、ざわざわ。

それでも布仏は目を開けない。

 

「だからお前らみたいな暇人にかまってる余裕はない。俺は世界を守らなくちゃならない」

 

嘘だ。世界なんてどうでもいい。

 

「まあついでにお前らも守ってやるよ。……だから必要以上に俺に干渉するな。事務仕事もやる、世界平和も守る。こんだけやってあげてんだ、もういいだろ。頼むから、俺にかかわるな」

 

女の子に対してこういうこと言うのはとてもつらい。でもここらで一発言っとかないとな。

分かる人間なら分かるはずだ。

 

 

これはお前ら(ハニートラップ)への警鐘だ。

 

 

「お前らの相手をする暇はない。繰り返し言う、俺に干渉するな。……以上」

 

一歩下がって礼。生徒はみんな呆気に取られてる。

あらかじめスピーチ内容を伝えてた生徒会の面々はやれやれって感じの表情だ。布仏は……鼻ちょうちんがきれいにできていた。割るぞテメェ。

同様に内容を伝えていた姉さんも指先で眉間を揉んでいる。悪いな頭痛の種を増やしちまって。

この警告で少しぐらい俺の生活が楽になればいいんだけどなぁ。

 

「……では、続いて生徒副会長の布仏虚さんから、来月行われます専用機持ちタッグマッチバトルの説明が行われます」

「はい」

 

副会長の布仏の姉さんが壇上に立った。ひとまずは生徒も静かになる。

 

「参加条件は専用機持ちに限ります。ペアで登録してもらい、全組総当たり戦です。優勝者には……」

 

説明が続く。

ふと更識姉妹に眼をやった。いちゃいちゃしていて話なんざこれっぽっちも聞いてなかった。あいつら後でシメる。

 

 

 

 

 

放課後、第一アリーナ。

 

「遅い! 超間加速(オーバー・イグニッション)は無駄にエネルギーを食うんだ、ここぞという時以外使うな!」

「私のワンオフアビリティなら気にしなくともいいはずなのだが……」

「稼働率80%でわめくな」

「十分高めたほうだろう……なあ?」

 

AAICで壁に縫いとめられた箒が困った表情で俺に助けを求めてきた。

ISを展開せず制服姿のままの俺は、IS用の長刀を肩に預けて首を振る。この教官モードに入ったボーデヴィッヒが厄介なのは相川や谷ポンで実証済み。友達が少ないからそういう情報が入ってこないんだぜ、箒。自分の身を呪えや。

 

「なんかあんたの機体、少し色が濃くなったわね。コバルトに名前負けしてないじゃん」

「鈴さんこそ固定浮遊部位(アンロックユニット)が随分肥大化しましたわね」

「『覇龍砲』だなんてちょっと中二っぽくて恥ずかしいわよ。まあこの武装だけで貫通型と拡散型の切り替えができるのは嬉しいけど」

 

抜本的な改造には至っていないが、鈴もオルコット嬢も機体に改良が加えられている。年度最後のイベントだ、有終の美を飾りたいのはどの国も同じなのだろうか、それとも、謎の組織のワンマンアーミーにいいように嬲られたのが我慢ならなかったのだろうか。

オルコット嬢は全体的にカラーリングが深くなっている。『ブルー・ティアーズ』を発展させた『コバルト・ティアーズ』は燃費の効率化による長時間のビット使用を可能にしており、ここ数ヶ月で目覚しい進歩を見せたオルコット嬢の操作技術に見合うものとなっている。新たに支給されたレーザーライフル『スターライトmkⅤ』も出力向上と実弾装備を果たしている。

 

「あたしだって負けないからね!」

 

鈴がオルコット嬢に切りかかる。うまく距離を調節しながらオルコット嬢はダンスを開始。リズムを乗せられないよう裏拍を打って鈴が追いすがる。

確かに『覇龍砲』は厄介かもな。今までは直線コースオンリーだったから空間歪観測回避余裕だったけど、これからはそうもいかない。

 

「あ、あのさ織斑君。ISは使わないの?」

「ん? デュノア嬢はそのブレード使いこなしたいんだろ? かかってこい、相手になってやんよ」

 

デュノア嬢の片手には社長さんがデザインしたという新型のロングソード『ゲット・ライド』が握られている。

対して俺は『打鉄』などが装備する純日本製の一般的な長刀を構えた。名前は……『74式長刀装備』とかでいいんじゃないかな。

 

「さすがにバカにしすぎじゃない?」

「そういうことは俺と打ち合えてから言えよ」

 

構える。切っ先の延長線上にデュノア嬢の左目。

 

俺の体はもうボロボロだった。

『白雪姫』の侵食率が二割を超えた。

ISの展開が自由にできない以上は、こうするしかないんだ。我慢してくれよデュノア嬢。

 

「……行くよ」

 

デュノア嬢がブレードを振り上げた。加減された一閃。ナメんな。

腰だめからの抜刀、真横に『ゲット・ライド』を弾き飛ばす。

 

「ふぇ?」

 

返す刀で二撃目。

切り裂くのではなく削り取る。手首の返しで刀身を傾け、デュノア嬢のショルダーアーマーを裁断する。

 

「甘々だぜ、作ってくれた父ちゃんに恥ずかしくないのか?」

「え、あ、ぅ」

 

まだ頭がついていっていないのか、眼前に突きつけられた俺の切っ先にデュノア嬢の焦点が合っていない。

『ゲット・ライド』を握りなおさせる。

さあ、楽しい特訓の始まりだ。

 

 

 

 

 

「今日空いてる?」

 

デュノア嬢をボロボロにし続けて早一週間。近接戦闘についてはやはりこれから次第だろうか。

朝食の時間に納豆を混ぜながらそんなことを考えていると、最近になって少しずつ授業に出始めた相川が俺の正面を陣取ってきた。

うーん……やっぱりメンタルケアというより女子同士でのシンパシーというかテレパシーじみた慰め合いが有効なのだろうか。

 

「せっかくの休日だってのにデュノア嬢がダウンしてっからな。暇で暇でなんだかなあ」

「織斑君はシャルロットとペア組むの?」

「こないだあみだくじで決めた」

 

俺、箒、鈴、オルコット嬢、デュノア嬢、ボーデヴィッヒでやった。

正直俺は誰でもいい感じだった――ボーデヴィッヒ以外は俺を狙ってたのは思い出したくもない――ので、適当にくじにしたのだ。

結果として俺&デュノア嬢、オルコット嬢&ボーデヴィッヒ、箒&鈴となった。

 

「て、テキトー……」

「うるせえなこの野郎」

 

和食セットを着々と平らげていく。

相川はココア味のシリアルをもぐもぐしてた。

 

「リルフォートにでもいかない?」

「お前何なの? 引きこもっている間アニメばっか見てたの?」

 

勝手にオレンジジュースで酔ってろよ。俺は鈴から正中一本突きもらっとくから。

メインヒロインである弐型のデモンストレーターカラーが部屋に飾ってあると言えば、見に行く見に行く! とはしゃぐ相川。

 

……いつも通りで、本当によかった。

 

「へへっ、とにかくご飯食べたらどっか行こう! 私あれ欲しい、帝国軍仕様の弐型!」

「……自腹切れよ?」

 

 

 

 

 

紅葉生い茂る遊歩道を歩く。

数歩前を歩く相川はキュロットバンツから健康的な素肌を晒し、タンクトップとレースカーディガンのアンサンブルをひらひらと揺らしていた。

シャンブレーシャツにワークベストを重ねた格好の俺は、彼女がぶら下げているやたら角ばったビニール袋を見て嘆息した。

 

「おいテメー、いろんなもん買いすぎなんだよ。どう考えてもシナンジュとフルアーマーユニコーンは一度に買い込む量じゃねえだろ」

「いいじゃんいいじゃん、次の外出とかいつできるか分かんないし」

 

大概お前も言うことテキトーじゃねえか……

軽い変装用にかけた黒縁メガネとキャップのせいで、視界に違和感がある。インテリアピールは俺にはまだ早かったかもしれん。

 

「ねえ織斑君」

「んあ?」

「教室で話してた、『零楼断夜』の起動実験はどんな調子なの?」

 

……ああ。

『キャノンボール・ファスト』会場のカメラに映っていた、俺が振るった剣。

俺のログには何も残っていなかったが、監視カメラは捉えていた。

ウィンドウに表示されていたのは『零楼断夜』の文字。恐らくはワンオフアビリティの一種だろう。

ただ、ここで致命的な矛盾がある。

 

ワンオフアビリティはIS一機につき一つのはずである。

俺の『白雪姫』は『癒憩昇華』をすでに持っている。にもかかわらず発現したこの能力。

実際のところ、デュノア嬢と連携訓練をしている合間にどうにか起動させようとはしてみたが、うんともすんとも言わねえ。

 

「まあ仕方ないかな。これで自在に発動できるようになったらISの常識がひっくり返っちゃうし」

「まーな」

 

特に隠す理由もないしってことで、俺は教室というか学校で広く意見を募っている。

どんな能力かも分からんが、レーザーブレード二刀流っていうのはなかなかに魅力的だ。ロマン的な意味で。初トランザム直後かよ。もしくはスーパーパイロット君。

(性的な)無差別爆撃しか能のないハニトラの悪魔は、俺と『白雪姫』が分子に還元してやる!

 

「ん……あれ」

 

話題が打ち切られた。

相川の視線が一点にフォーカスされている。

つられて俺もそちらを見れば、公園で自販機と睨み合いをしている女の子が一人。EU系っぽい鼻筋のすっきりした美少女だ。テーパードのジーンズにスタッズ付きのライダースジャケットを着ている。背も高いしえらいモデル体系。

 

「あれは……うちの先輩か?」

 

頭の中に叩き込んでいた学園全体の専用機持ちの一覧にヒット。

二年生だ。ベルギー代表だったはず。

フォルテ・サファイア。

 

「……今度戦うんじゃないの?」

「なんで知ってんだよテメェ」

 

確か三年の別の人とコンビ組んでたな。

詳しくは知らん、さすがに専用機の詳細なスペックまでは分からなかった。

どうもシルエットから推測するに、汎用性はそこまで高くないだろう。腕部に何かを仕込んでいるっぽい。

噂ではあるが、ワンオフアビリティを発現させているらしい。もしそうならかなり厄介な相手だ。

 

「挨拶ぐらいはしといてもいいんじゃないかな?」

「へーへー。……っと、おい。向こうから来てくれてんぞ」

 

向こうも俺たちを見つけたようだ。ひょこひょこ歩いて、人懐っこい笑顔を貼り付けて近づいてくる。

耳につけたリングタイプのピアスが、彼女の専用機『コールド・ブラッド』の待機形態のようだ。『白雪姫』が解析結果を送ってきた。

 

「どーもどーも、織斑一夏クンっスよね?」

「はあ、はじめまして」

「お隣は彼女さんっスか?」

「はい!」

「堂々と嘘ついてんじゃねーよ」

 

相川の頭をはたく。

この野郎! ダンカンこの野郎!

 

「ははは、仲よさそうっスね。割と余裕あるじゃないスか」

「……どーも。先輩こそ、あんま油断してると俺以外の一年から喉食いちぎられちゃいますよ?」

「その辺は気をつけておくっス」

 

やる気ねーなこの人。

仕方ないので、ちょいと誘ってみる。

 

「まー俺とデュノア嬢のペアは基本的に無敵なんで、当たったらご愁傷様です」

「会って数分で挑発しないでよ……」

 

相川が呆れたように俺を見上げてきた。

先輩の顔からビキバキと華の女子高生が鳴らしてはいけない音が響く。

沸点低すぎだろオイ。

 

「ナメんなよルーキー。言っとくけど、学園最強の名前、事実としてどうかは今度思い知らせてやるっスよ」

「……簡単には譲れませんよ、こいつだけは」

 

そうだ。

個人的なコネでもらったも同然の、この有名無実の称号。

けれど、譲れないんだ。

あの少女が戻ってくるまでは。

あの姉妹が復活するまで。

 

この座は誰にも穢させない。

 

「……んじゃあ」

「本番に」

 

もう言葉はいらなかった。

 

立ち去る彼女の背中を見つめ拳を握る。

総当たり戦は一日に連戦を行うことになるから、ペース配分も重要だ。

けれど。

 

「容赦せずに勝たせてもらうぜ、先輩方」

 

隣で、相川がクスリと笑った。

 

 

 

 

 




・四組でトーナメントとかバカかよ総当たり戦でいいだろもう

・フォルテ「主役と仲良くなったらみんなが不憫な目で見てきたっス。ふらぐってなんスか?」
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