一人のカタナ使い   作:夏河

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第9話 予想外の事態

◆◇◇◇

 

 

 会議があった日から二日経過した。つまり、今日が念願のボス戦だということになる。

 不思議と緊張のようなものはしていなくて、むしろかなり落ち着いたほうだと言えるだろう。

 間にある一日――つまり昨日は、会議の続きがあった。続きといっても初日と比べたらかなり楽で、確認程度のものだった。

 特に会議については問題はなかったような気がする。会議についての感想を出すとしたら『楽観的に考え過ぎではないだろうか』というものだった。緊張しすぎなのもよくないが、あまり軽く考えすぎるのも問題ではないのか? そんなことを考えてしまう。まあ、何とかなるだろう。そういうところはディアベルはんに任せることにしよう。僕の考えることじゃない。

 一昨日の会議が終わってから三人でさらにコウの帰りを待つと、普通に帰ってきた――まるで何事もなかったかのように。

 だけど、僕にはそれは演じているようにも見えた。多分そう見えたのは僕だけではなく、カイもだろう。小さい頃からの仲だ、それぐらいは気付く。さすがにカグヤは気付かなかったようだが。

 一体何があったんだろうか? 気になって聞いてみたい気持ちもあるが、敢えて聞かないことにした。向こうから話してくることを気長に待つとしよう。きっと話してくれるはずだ。

 

「ふぅ……」

 

 悩みになっていそうなことを頭の片隅にどかし、装備の確認をする。

 僕の見た目は昨日までと少しだけ変わっていた。もう近頃慣れつつある初期装備の上にフードのついたいかにも素材の色! という感じである灰色の布製の上着を羽織っている。布なので革よりも防御が薄いかな、と思っていたが、袖の部分や肩の部分に小さい鉄のような金属が取り付けられていて、そのおかげでむしろ前の上着よりも防御力が高かった。まぁ、ここまで来てはじまりの街と同じ性能だと「やってられっか!」って感じだけど。

 防具で変わったのは上着だけで、ズボンや靴などは初期装備のままだ。《トールバーナ》は《はじまりの街》よりも防具や武器の種類は多いものの、大して性能は上がっていないので仕方がない。

 武器もはじまりの街で購入したスモールブレードではなく、別のものに変わっている。名前は確か《アイアンエッジ》といってスモールブレードよりも数段性能が高かったので予備も含めいくつか購入した。

 一昨日カグヤと一緒に武器屋を見た時にはこんな武器なかったが、会議が終わったあとコウが教えてくれた隠れ道具屋に行くとこれが売ってあった。アイアンエッジ以外にも今まで見たことないような性能の防具や武器が売っていてとても魅力的だったが、残念なことに経済的な問題(あれだけ余裕があると言っておきながら全然余裕がなかった)で断念せざるを得なかった。

 

「まあ……新しい武器が買えただけいいか………」

 

 ちなみに会議が終わってコウと合流したあと、カグヤはちゃんとコウから強い片手直剣――正式名称アニールブレード――を貰うことができた。カグヤはその分のお金をコウに払おうとしていたが、コウが頑なに拒み仕方なく、渋々と言った感じでカグヤは引き下がった。

 まぁ、例え貰えるほどの事をしようとお金を貰うってのは何故か躊躇ってしまうのは解る――それが女の子でなかろうと。

 

「おーいユウ、そろそろ集まる時間だぞー。準備できてるかー?」

 

 ドアのノック音と一緒にそんなカイの声がドアの向こう側から聞こえた。またもやちなみにだが、ドアの向こう側からはこちらの声や音は聞こえないが、こちら側からは向こうの声や音を聞くことができる。

 触れていなかったが、今僕は一昨日から泊まっている宿屋の部屋にいる。もちろん自分のだ。部屋で装備の確認などをしていたらカイの声が聞こえた、というわけだ。

 

 僕はベッドに立て掛けていた新しい武器を背中に背負いながら、ゆっくりとドアを開けた。

 

「うん、できてるよ」

 

 そう言ってドアの向こう側へ行くと、カイの後ろにコウとカグヤが立っていた。三人とも緊張した顔ではなく、むしろいつも通り。いつも通り過ぎて僕の方が拍子抜けしそうになったほどだ。

 カイが僕の顔を見て口元をニヤッとあげた。

 

「よう、よく眠れたか? 布団にくるまって震えていて気づいたら朝だったとかじゃねーよな?」

「……僕はそんなマンガでよくあるようなことはしてないし、したこともないよ」

「そうか、お前ならしそうだなって思ったんだけどな……」

「いや、そんな冷静に言われてもやんないからね? 僕はそんなリアクション上手じゃないよ!」

 

 朝から大声出させないでよ、すげー疲れるじゃん。何なの? 今日ぐらい真面目にやっていこうぜ? マイペース過ぎるよカイくん。

 どうでもいいことで頭を悩ませていると、コウがパン、パンと手を叩いたあと口を開いた。

 

「……準備できたなら、早く行くぞ」

「そろそろ時間だし、遅れたら嫌だからね~」

 

 修学旅行の日に遅刻した小学生みたいで、とカグヤが合いの手を入れる。……なんでそんな具体的で一生嫌な思い出として残りそうな例を挙げるの。

 

「わかったよ、じゃあ行こうか」

 

 僕がそう言うと、三人は談笑しながら目的地に向かって歩いていった。僕はいよいよ始まるんだなあ、と改めて思い、気を引き締めながら三人のあとを追った。

 

 

◇◆◇◇

 

 

 第一層攻略での僕たちのパーティー(レイド上ではG隊と呼ばれている)の役割は、『ボスの取り巻きの相手をする』というものだった。

 カイは「つまんね~」とぼやいていたが、僕たちはぶっちゃけ寄せ集めのようなものなので仕方がないと思う。

 なぜ寄せ集めなのかというと、元々僕たちはそれぞれの武器の特徴に合わせたパーティーのところに混ぜてもらおうと考えていた。

 しかし、どこのパーティーも人数が揃っていたので結果的に僕(曲刀)、カイ(両手槍)、コウ(片手剣)、カグヤ(片手剣)という特徴のバラバラなパーティーが出来上がってしまった。だから、一番(らく)……といえば聞こえは悪いかもしれないが、どの武器を持っていても対応することができる『ボスの手下の相手』を任された。

「マジでつまんねーよなあ、ボスを見てるだけで戦わせてもらえねーなんて」

「いつまで言ってるんだよ、お前は」

 

 まだ愚痴っているカイに対して僕は注意を入れる。今日会ったときからずっと言ってるぞ。

 

「だってさぁ、せっかくのボス戦だぜ? なのに雑魚(ざこ)と戦うとかマジありえねーだろ」

「まあまあ、ボス戦に加わらせてもらうだけいいじゃない」

 

 そう言ってカグヤが優しくなだめた。

 相変わらずフードを被っていて全く素顔が見えなくなっているが、微かに見える口元から笑っているのがわかる。ずいぶんと僕たちに心を開いてきているようで、単純にすごく嬉しく思える。

 

「……そうだぞ。それにお前、作戦とか関係なしにボスに突っ込んで死ぬパターンだろ」

 

 コウの言葉に僕とカグヤは「あ〜……」と思わず声を出してしまう。すごく想像できるなそれ。

 

「二人ともなんだよその反応! さすがに俺だってそんな自殺行為やらねぇよ!?」

「「……へぇ~………」」

「信用ねーな!?」

「……三人とも、そろそろだぞ」

 

 コウのその言葉に騒いでいた僕含む三人が一気に静かになる。

 言い忘れていたが、今僕たちはボス部屋のある第一層迷宮区最上階をレイドパーティーの最後尾の一つ前を歩いている。

 後ろをみてみると、僕と同じぐらいの身長で黒髪の片手剣使いとカグヤと同じようにケープを被った細剣(レイピア)使い――後に僕は彼らと友達と呼べる関係になるのだが、このときはまだ彼らに関心がなかった――が前にいる僕たちと一定の距離を保って歩いている。聞くところによると、今回のレイドで一番少ないパーティーらしい。彼らの役割は僕らと一緒でボスの取り巻きの相手。

 今度は前を見てみると、ちょうど最前列がボス部屋と(おぼ)しき大きな扉の前に到着していた。

 それを確認した瞬間、さっきまでのふざけたものから真剣なものに雰囲気が一気に変わった。それは僕たち三人だけではなく、レイド全体もだった。

先頭にいるディアベルが剣を掲げてレイド全体に向かって話しているのが背伸びをすると少しだけ見えた。

 僕はそれを確認しただけで、無意識に武器を持った左手に力が入ったのが自分でも分かった。

 

「いよいよ、だな」

「あぁ、緊張して動けないとかやめろよ? ユウ」

「さすがにそこまで腑抜けてないよ僕は。……多分」

「おいおい……」

 

 カイがオーバーリアクション気味に反応する。すると、今まで僕の左後ろにいたコウが僕の隣に立ってこっちを見ながら口を開いた。

 

「……大丈夫だ。俺たちは雑魚の相手をするだけでボスとは戦わない。つまりそこまで危険ではない、ということだ」

「分かってるよ、でもなんかねぇ~……」

 

 いまだに緊張が解れずにいる僕に今度はカグヤが僕の右手を両手でそっと握り、優しく声をかけた。

 

「みんな一緒だよ。だから、みんなで頑張ろ?」

 

 カグヤの行動に目を見開いて呆然としている僕の心に彼女の言葉がじわじわと溶けていく。気付くと、緊張で震えていた手がおとなしくなっていた。

 僕は笑顔を作りながら彼女の顔をもう一度見た。

 

「……うん、そうだね。みんなで……頑張ろう」

 

 そう言うと、僕の隣でカイがニヤニヤしているのに気づいた。いつの間にか僕の隣からカイの隣に移動しているコウも心なしか口の端が少し上がっている気がする。

 

「いやあ、いいねえ。甘酸っぱいねぇ、青春だねぇ、ユウ君。いいよいいよ~、お兄さん、そういうの嫌いじゃないぜ」

「……そっちの攻略も頑張れよ」

「なんの話だよ!」

 

 なんてふざけたことを言っていると、ディアベルの話が終わっていたらしく、彼は僕たちに背を向けていた。

「――――行くぞ!」

 

 ディアベルが武器を持っていない左手で大扉を思いっきり開けた。

 

 

◇◇◆◇

 

 

 ディアベルが大扉を開けた瞬間、レイドが雪崩れ込むように大扉の先へ突入していく。僕もそれに紛れていくが、何かデパートのバーゲンに群がるオバサマたちみたいだ、なんて思ってしまった。

 

 入ってみると、ボス部屋は僕が思っていたよりも奥に長く、広かった。そして何より暗い。僕たちが入ってきた扉からの光で大体どのくらいの広さなのかは判るが、正確には把握する事ができない。こんな暗いとこで戦うのか、と思うと無理な気がしてくる。

 そんな気がした直後、ボス部屋の左右の壁にある松明が手前にあるものから順に火がついていった。あぁそういうシステムなのね、と安心していると一番奥にある松明も火がついた。暗いときにはわからなかったが、今は明るくなったのでよく見える。

 ボス部屋の奥を見てみると、玉座に今まで見たこともないような大きさのモンスターが座っていた――おそらくあれが第一層のボスだろう。その姿を見るだけで体が勝手に武器を握る握力を強くする。攻略会議で名前は出ていた。えっと、確か……《イルファング・ザ・コボルドロード》だった……はずだ。

 なんて頭の中で攻略会議の内容を振り返っていると、最前列として突進した鉄板を思わせるシールドを掲げる戦槌(ハンマー)使いと、彼に率いられるA隊が玉座にかなり近づいていた。目測だが、多分玉座との距離は二十メートル切っているだろう。

 その距離がまるでスタートの合図だったかのように、玉座に座っていた《イルファング》が活動を開始した。

 イルファングはいきなり高く上に飛んだかと思うと、A隊のいたすぐ近くに空中で一回転しながら着地。ボス自ら距離を詰めてきた。

 オオカミを連想させる顔がはっきりと見え、イルファングはその口をいっぱいに開き、吼えた。

 

「グルルラアアアアッ!!」

 

 あまりの大きな咆哮に空間が震えているのか自分が震えているのか判らなかった。

 その咆哮が終わった瞬間、手下の《ルインコボルド・センチネル》がこの部屋の左右の壁に空いている数ヵ所の穴から三匹現れる。

 

「……ここまではβテストと同じだな」

 

 コウが僕の隣で独り言ぐらいの声量で呟く。僕は話しかけるかどうか迷ったが、まだ《センチネル》も近くにはいないので周りを警戒しながら話しかけることにした。

 

「……ってことは、あの攻略本を参考にしてたてられた作戦で問題ないよね?」

「……どうだろうな。まだわからないが、今のところそれで大丈夫だろ」

「そうか、ならよかった」

()()()()今のところだ。どこかしら変わっている可能性もある。油断はできないぞ」

「わかった」

 

 なんて話していると、センチネルの一匹がキバオウ率いるE隊をすり抜け、僕たちに向かって突撃してきた。

 もう一匹もE隊からすり抜けていくのが見えたが、おそらく、そっちのセンチネルの狙いは最後尾にいた二人だろう。

 僕とコウは自分達に向かってくるセンチネルをただただ見ていた。ちなみにカイとカグヤも近くにいるが、さすがに一匹相手に四人も必要ないので少し後ろで待機してもらっている。

 

「来たよ」

「……スイッチは任せた」

「任しとけ!」

 

 僕の言葉を聞き終えるや否やコウは背中に吊るしてある片手剣――アニールブレードを勢いよく鞘から抜きながら、センチネルに向かって疾走する。僕も左手にある曲刀をしっかりと握り締め、コウのあとに続く。

 

「………………ッ!」

 

 コウとセンチネルとの距離がほぼ無くなった瞬間、コウが気迫と共に単発斜め斬りソードスキル《スラント》を放った。

 スラントはセンチネルの持っている武器である長斧(ハルバード)に命中し、センチネルの手から武器が離れる。

 

「スイッチ」

「りょーかい!」

 

 掛け声と共にすぐさま僕はコウと場所を交代し、がら空きになったセンチネルの唯一の弱点である首元に向かって曲刀ソードスキル《ツインカッター》を発動させた。狙い通り首元に二連撃がヒットし、クリティカルヒット特有の強烈な色彩と衝撃音が僕の目と耳に届く。

 クリティカルになったお陰でツインカッターだけでセンチネルのHPゲージがゼロになった。

技後硬直(ポストモーション)が終わると、僕は手の中で武器のくるくると回転させながら、すぐ後ろにいるコウの元へ足を進ませた。

 

「……ナイスアタック」

「そっちも!」

 

 そう言いつつどちらからでもなく手を出し、ハイタッチする。コウとカグヤも僕ら二人の近くに小走りでやって来た。

「いやあ、さすがだね~。コウはともかくユウももう戦闘には慣れてる感じだね」

「まあ、一ヶ月経てば嫌でも慣れるよ」

「ホント、猪に股間体当たりされてたのからするとすごい進歩だよなあ」

「うるさいよ!」

 

 最初のときの話を引っ張ってくるな! 結構恥ずかしいんだから! しかも女子(カグヤ)のいる前で!

 

「あはは……それよりさ、ユウって武器を左手で持つんだね。私この一ヶ月で初めて見たよ」

「あはは、僕左利きなんだよ」

 

 そう言いながら僕は武器を持っている左手に視線を落とす。

 SAOではどちらが利き手でも変わりなく武器が持てることに少なからず安堵したのは今でも覚えている。だが、左利きだからといって右手でも武器が持てるというわけではないらしい。SAOでは必ず武器は片方の手だけだと決まっているようだ。

 最初は特に右で持とうが左で持とうが関係ないと思っていたが、この間トールバーナとは違う町であっていた《デュエル》を見て、人間相手になら少しは意味があるんじゃないかと思った。

 大体の人が右利きな分、逆である左は有利なのではないか?

 特にソードスキルに於いては、武器を持ってる手が逆だと当然ソードスキルの向きも逆になる。これならば周りに知られている技でも連続剣技――例えばさっき僕が出した二連撃の《ツインカッター》――ならば有効に使えるのではないだろうか。まあ、最低でも騙し討ち程度にはなるはずだ。

 

 なんて考えていると、コボルド王の近くにいるディアベルが「二本目!」と叫んだ。

 その声に反応し、コボルド王の方を向くと四本あるHPゲージの一つがゼロになっていた。

 

「はやっ!」

 

 思わず思ったことをそのまま口にしてしまう。確かに対策は万全だったが、こんなにもハイペースに進むだろうか? いや、でも一応最初のボスなんだからこんなものか?

 

「……今のところ順調だな」

「このままいくといいけど……」

「大丈夫だって! いざってときは来たときのドアから逃げればいいんだからさ!」

 

 相変わらずの楽観的な考えのカイの意見をカグヤが指摘する。

 

「いいえ、そんな簡単なことじゃないわ。ボスに後ろから攻撃されながらドアの方へ行かなきゃならないんだもの」

「……そうだな。やはり気は抜けないな」

 

 会話を聞きながら、神様かなにかにどうかこのまま進みますように……、と神様や幽霊の類いを基本信じていない僕だが柄にもなく祈った。

 

 

◇◇◇◆

 

 

 事件と呼べそうな事が起こったのは、ボスのコボルド王のHPゲージが最後の一本になったときのこと。

 

 三本目のゲージがゼロになった瞬間、さらにレイド全体の士気が上がった。もちろん僕もだ。

 コボルド王は両手に持っていた骨でできた斧と革で作られた盾を同時に放り捨て、高らかに吼えた。そして、腰に装備している武器の柄を無造作に握る。ここまでは攻略会議通りだ。対策ももちろん万全と呼べるほどされてある。

 

 しかし、ここで問題が発生した――。

 

 腰にあった武器が曲刀ではなかった。それは、曲刀と言うにはあまりにも刃が反っていて、まるで鍛えられたかのように鋭い輝きを放っていた。曲刀を扱う僕だから判るかもしれないが、あれは絶対に曲刀ではないということはわかった。

 あれは……あの武器は……僕が最初どうしても装備したかったのに武器屋に売っていなかった、あれは――

 

「…………かた……な……?」

 

 僕は思ったことをそのまま口にした。そのあまりにも予想外な出来事に自分の役割をも忘れてしまう。 僕がそう呟くと同時にコボルド王が大きく吼え、カタナを自分の頭上に高々と振り上げた。そして、カタナがまるで血のように黒の混じった赤色に染まる。

 次の瞬間、コボルド王が高く跳んで行き、落下と同時にすさまじい衝撃をもたらした。コボルド王の周りにいた人たちがそれをそのまま喰らい、一斉にそれぞれの後ろに吹き飛んでダメージを受ける。今まで安全圏のグリーンゲージだったディアベル含むC隊のパーティーのHPゲージがごっそりと半分以上減り、イエローへと変化した。

 呆然とそれを見るだけの僕の近くにいる三人も同じようにしているのがわかった。おそらく三人も目の前で起こっていることが信じられないのだろう。

 そして、コウの声らしき音を僕の耳が拾った。

 

「……やっぱり、か……」

 

 コウのなかで予想していたものが、最悪の形となって現れてしまった。コウの声もいつも通りのようでいて、少しだけ震えていたことに今さら気づく。

 

「……ならヤバイな、こっから状況がガラッと変わるぞ」

 

 カイも普段とは違う声のトーンだったが、落ち着いてるようだ。かなり切り替えが早いのはさすがと言わざるを得ない。

 

「ど、どうしたらいいのかな」

 

 カグヤは明らかに怯えていて、震える声でわたわたしている。僕は、二人の声を聞いてようやく正気に戻った。

 

「いや、どうするもなにも一回退散して態勢を整えた方がいいんじゃない?」

「それだと、ボスコボルドの攻撃を避けながら……もしくは受けながらだからほぼ不可能だろ」

 

 僕の意見にカイが冷静に突っ込む。しかし、そうなるともう逃げることは無理だ。もう、この予想外の事態に立ち向かうしかないのか……?

 こうなってくると、もう一昨日たてていた作戦は意味がない。僕はコウの方を向き、口を開いた。

 

「コウ。お前、コボルド王の使うカタナスキル……対応策知ってるか?」

「……いや、知ってはいるが対応はできん。βテストの時、第十層でカタナを使うモンスターと何度も出くわしたが、俺は出会ったら確実に……」

 

 死んだ、とコウは無表情だが細い目に何らかの感情をにじませながらそう口にした。

 こんな会話をしている間にも時間はどんどん進んでいく。くそっ! なにか良い手はないのか!?

 そんな焦っている僕の目に写ったのは、ライトエフェクトを纏った武器を手にするコボルド王の餌食になろうとしている青い騎士――ディアベルの姿だった。

 

「逃げっ――――」

 

 僕が叫ぼうとするも、その言葉が終わる前にコボルド王のソードスキルがディアベルを襲った。

 右下からの斬り上げによって騎士が高く上に飛ばされる。そして、そこからの三連撃の追撃。しかも運の悪いことにそのすべてがクリティカルヒットだった。

 

「………………っ!」

 

 声にならない悲鳴をあげながら、僕は今までにないほど目を見開く。

 だが、驚くべきことはまだ他にもあった。

 作戦では、コボルド王のHPゲージが最後の一本になるともう手下のセンチネルは出てこなかったはずだが、また出現し始めたのだ。

 

「……湧出(ポップ)回数も増えているようだな」

「まだ出てくんのかよ……」

「いや、うんざりされても……やるしかないでしょ」

「そうね、……ってあれ!?」

 

 今まで聞いたことないような声量を出しながら、カグヤが指を指した。

 その声の赴くままに指された方向を見てみると、センチネルが湧出する場所から出現していた。……なんだ、普通じゃん。

 なんて思ってると、

 

「あれっ?」

 

 何かが違うような気がした。

 さっきまで何度も戦闘を繰り返し、倒してきたセンチネルとは何かが違う。そう疑問に思い、さらにそれを見ることでとその『何か』が何なのか理解した。

 今までのセンチネルとは色々と違う。サイズならば僕の知るセンチネルのよりも一回りぐらい大きいし、持っている武器も違う――ハルバードから大剣に変化していた。そして、鎧の色も通常の鋼のような色から鉄鉱石のように黒さを帯びている。

 

「あいつは……どうする?」

 

 誰に聞いたわけでもなく、そんな言葉を漏らす。誰がどう見ても、あれは明らかに通常のセンチネルよりも強い。多分、今までのように簡単には倒さないだろう。

 僕と同じものを見ながらコウは静かに言った。

 

「……一番安全なのは他の人に知らせて、ある程度の人数で協力して倒す、だな」

「でも、さすがにボスほっといてみんなでアイツ倒すわけにはいかねーだろ。んなことしたらそれこそ終わりだ。仮に少しだけ人を寄越してもらうって言っても、ボスの方がパーになったら意味がねぇ」

「そんなこと言ったって……」

 

 となると、やはり一つの班でアイツを相手にしなくてはいけない。ちらっと回りを見てみるが、現状、あれの存在に気づいているのは僕たちだけのようだ。他のみんなはボスの方を見ているか別のセンチネルを相手にしていて、こっちを少しも見ていない。

 どうすべきだろうか? 素直に別の班に話して協力して倒すか?

 だが、みんなパニックに陥っているので、火に油を注ぐような結果になってしまう可能性が高い。

 ……ていうか、予想外な出来事が起こりすぎてて頭が全く働かない。全然アイディアが浮かんでこない。嘘だろ? 僕こんなに適応力低いの?

 そんな僕とは裏腹に同じSAO初心者であるカイの方が落ち着いていた。

 

「増援は無理、でもアイツを無視することもできねーし……こうなったら」

「なにか思いついたの?」

 

 そうならば早く教えてほしい。

 そんな焦る僕とは裏腹にカイはいつも浮かべる笑みを隠すことなくその顔に出し、提案した。

 

「――四人で倒しちゃお」

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