一人のカタナ使い   作:夏河

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番外編01 しばしの別れと新たな出会い

◆◇◇

 

「――大丈夫、お前が悪いんじゃない」

 

 薬品臭い部屋の中で優しい声音でその言葉は私の耳に響いた。

 目の前には、私の大切な――私という人間を構成する一部になっている人が白いベッドの上で横になっていた。身体のあちこちにいろんな色のチューブがくっついていて、ベッドの横には精密そうな機械が。その機械の画面で規則的に波が立つ。ピッ、ピッ。ピッ、ピッ、と。

 そんな状態なのに顔を見ると、まるで眠っているように穏やかで――。

「……わたしのっ…………せいだ……っ!」

 力なくだらんと垂れた自分の手に力が入り、拳を作っていく。どうしようもない暗くて黒いものが内側に染み付いていくような感覚――罪悪感を感じ、目からは何の抵抗もなく涙が次から次へとこぼれていく。

 自分がどれだけひどいことをしたのかを実感し始める。黒いものが溢れんばかりに吹き出し、私の心を支配していく。

 そんな私の頭に手を置いて、お父さんはもう一度同じ言葉を口にした。

「大丈夫、お前が悪いんじゃない」

 涙で視界が歪んではっきりとは見えなかったが、見上げたお父さんの顔は何か痛みに耐えているようだった。

 お父さんは、ベッドをただただ見続けて私の方を見ずに言葉を続けた。

「これは事故なんだよ。たまたまがたまたまコイツになったってだけの話。お前がコイツのためを思ってしたことは、全く悪いことじゃない。ただ、運が悪かっただけなんだ」

 その声は少しだけ震えていたような気がしたけど、あくまで優しいものだった。まるで私を包み込むように。

 私はもう一度ベッドで横になっている人を見る。

 まるで縛りつけている拘束具のように頭をすっぽりとおおっているヘルメットのようなもの――《ナーヴギア》があった。ちょっと前まではゲームのする人の間で神のようにもてはやされていたこの機械も今では悪魔のように怯えられている。これのせいで、今も彼は何もできずに寝たきりの状態のままだ。顔も本当に眠っているだけのようだ。

 けれど、その表情の奥では泣き叫んでいるのかもしれない。絶望に染まっているのかもしれない。

 そう考えるとまるで心臓を何かに縛り付けられたような感覚がした。思わず胸を片手で押さえるけど、その感覚は痛みとなって私を蝕む。呼吸が不安定なものに変わっていくのが自分でもわかった。

 そんな私を後ろからお母さんが抱く。振り向かなくてもお母さんも私と同じように涙を流しているのがわかった。それでも必死に耐えようと体を震わせながらこらえている。これも後ろを見なくてもわかったことだ。お父さんの私の頭を撫でる手も少しだけ震えているのに今さら気づく。

「ごめんなさい……ごめん、なさい……」

 そんな二人に対して、私はただただ謝罪の言葉を口にするしかなかった。

 

◇◆◇

 

 あの日本中を震撼させた《SAO事件》から時間はあっという間に過ぎ、四月になった。冬の寒さから春の暖かさがすっかり顔を出す月。――そして、私の誕生日がある月でもあった。

 その日、私は学校から直接病院に訪れていた。

 別に私は怪我をしている訳じゃないし、病気にかかっているわけでもない。お見舞いしたい相手がいるのだ。

 その病院はとても大きくて、私もお世話になったことのあるなかなか思い入れのあるところだった。すごく大きいのは、総合科だからかもしれない。とにかく大きい――それこそ何百人という人が入院できるほどに。

 病院に入って、受け付けに行かず、まっすぐ病室へ向かう。もう何十回と来たことのあるので、覚えてしまっている。

「あれ、夏菜?」

 目的の病室へ行く途中、そんな声が聞こえた。私は反射的に声がした方向に体を向ける。すると、少し離れた場所で知り合いの姿をとらえた。

 向こうは私だと確信したらしく、口許を笑わせながらこっちまで小走りで来る。

「久しぶりだね、夏菜!」

「ちょっ、一応ここ病院だから!」

「そういう夏菜の声も十分大きいわよ」

 近くにいた看護師さんに二人で怒られてしまった。おかしいな、私注意した方なのに。

 彼女の名前は、西村(にしむら)可憐(かれん)。私の一番付き合いの長い友達だ。

 きれいに手入れされている背中まで届く黒髪(今は括られてポニーテールになっている)と相手に活発な印象を与えるぱっちりと開いた眼が特徴で、性格もその容姿から与えられる印象とまったく同じだ。

 家が隣同士だということもあり、結構な頻度で顔を合わせているが、私と可憐では通っている学校が違うので、じっくりと話す機会はそうそうない。

 ちなみに私は家の近くにある進学高校、可憐は隣町にある実業高校に通っている。

「……いやぁ~思ってた以上に怒られたね」

「まったく……気をつけてよね可憐」

「はいはーい」

 まったく気をつけている素振りを見せずに可憐は返事をする。

 本当に反省しているのだろうか……。すぐにスマホをいじり始めたし。

「夏菜もお見舞い?」

 いきなり投げられた質問に私は少し戸惑う。が、すぐに平静を装って応える。

「うん。そうだよ」

「実はわたしもなんだーえへへ!」

「だと思ってたわ……」

 その健康そうなのに来るとしたら、お見舞い以外にないでしょ。

「でも、可憐が来るなんて珍しいね。いつもあんまり来ないでしょ?」

「まあねー。そういうあんたはよく来てるらしいね~」

「うん」

「ほんとよく来るわよね~。感心しちゃうわ」

 まっ、とりあえず病室に行きましょ、と可憐が私の先を歩いてリードする。私もその後ろを続く。

 向かう病室は、三階にある奥から二番目の左側の部屋。そこに私と可憐がお見舞いする相手がいる。

「だけど、この病院来るのも久々だな~。最後に来たのは十一月だっけ」

「来なさすぎでしょ」

「そう言うあんたは来すぎなのよ。毎日来たところで、意味ないんだから」

 意味がない。

 その言葉は私の心に深く刺さったような気がした。私は無意味なことをずっとしているんだろうか。

「……そうかな?」

 私は、ごまかすように笑いながら可憐の背中に話す。

「そうだよ。お見舞いっていうのは入院してる相手を励ますためにすることだもん。でも、私たちの相手って私たちの声が届かないじゃない」

 最後の言葉には、笑うように言っていたが、少しだけ悲しみにも悔しさにも似た感情が混ざっていたような気がした。結局、あんたも同じじゃない。私は心のなかで小さく呟く。

「それでも私は来るよ。家も近いし、やっぱり心配だしね」

「心配性だね~夏菜は。ま、気持ちはわかるけどさ」

 なんて話していたら、目的の場所の前に到着した。

 その瞬間、鼓動が激しく高まる。悪いことをしてそれがバレそうになったときと少し似ている気がした。まるで、これから訪れるかもしれない不幸を予期するかのように、少しずつ鼓動が早くなる。

 そんな私を見て、可憐が笑い飛ばす。

「あんたなに固まってんのよ。大丈夫、いつもと同じだって」

 そう言って、バシッと私の背中を叩いたあとに病室のドアを開ける。

「お邪魔しまーす!」

「友達の家に遊びに来たように言ったわね」

 しかも、さっき大きな声出すなって言われたばかりでしょ。

 部屋のなかにはベッドが三つとそれぞれに洋服をしまう場所。それだけ。本当は、この部屋は四つベッドが置いてあったのだが、可憐がどうしてもと看護師さんに相談して三つにしてもらったのだ。

 この部屋を上から見たとすると、左上に私のお見舞いしに来た人、右上に可憐のお見舞いしに来た人、そして右下にもう一人入院している人がいる。

「さて、じゃあ、お顔拝見しますかね」

「そうだね……」

 私はお見舞い相手の寝ているベッドまで行き、眠っている顔を覗き込む。

「今日も来たよ――ユウ」

 静かに囁くように話しかける。しかし、向こうは変わらず眼を閉じたままだ。本当に眠っているように思える。

 彼の頭に視線を動かす。そこには、ナーヴギアが被さっていた。三つの小さなライトが緑色に点滅している。

 実際、ユウは眠っているわけではない。本当に寝ているだけならば、とっくに眼を開けて私に向かって「おはよう」などと言ってくるはずだ。

 ユウは――私の弟は、SAO事件の被害者だ。

 彼は今、ゲームのなかに意識を閉じ込められていて、そこから出られない状況にいる。ずっと寝たきりなのはそのせいだ。

 ユウがこうなってから、今月で四ヶ月になる。それだけの日数がたっているのに、事件はまるで解決に進んでいなかった。

 原因は、このナーヴギアのせいだ。

 この機器は、電子レンジに似た要素があるらしく、下手に取り外そうとして失敗すると被っている人の脳を焼き尽くすらしい。だから取り外しに失敗すると死亡者を出してしまうので、迂闊に触ることができないのだ。

 しかも、ナーヴギアを被っている人――つまり、SAOというゲームをやっている人がゲームオーバーになると、さっきの機能が発動し、殺すという恐ろしいことが判明していた。

 つまり、外部にいる私たちにできることは、ナーヴギアを被っている人がゲームがクリアするのを信じて待つしかできないのだ。

「ゴメンね、なにもできなくて……」

 小さく謝罪しながら、弟の手を握る。

 四ヶ月前までは私よりも大きかった手が痩せて私よりも細くなっている。それは手だけでなく身体にもいえたことだった。

 ――私が……このゲームを買わなければ……

 そう、このゲームはもともと私が買ってきたものだった。

 ユウがどうしても欲しいと親と話していたので、私が買ってきてあげたのだ。

 ――あの時、私が買ってこなければ、今が違っていたはずなのに……!

 自分に対する憎悪を抑えきれず、口を噛み締める。

 自分の胸の中からどす黒いものが溢れるような感覚がした。

「夏菜~、落ち着きなって」

 その言葉にハッと我に返る。

 振り返ると、反対の位置にあるベッドにいた可憐が私の後ろにたっていた。

「そんなに手に力入れたら、今のユウくんの手は折れちゃうぞ~」

「えっ……あ……」

 言われて自分の手を見てみると、ユウの手を持っていた方の手に力がこもっていた。どうやら無意識に力をいれていたようだ。

 すばやく手を離し、両手を背中の後ろにやる。そんな私を見て、可憐が呆れるように息を吐いた。

「まったく、あんた空手やってるんだから、か弱くないのよ?」

「失礼な! 私はか弱いよ!」

「握力三十もあって何言ってんの……」

 ユウくん、手大丈夫~? などと言いながら、可憐は私が握っていた方のユウの手を撫でる。その撫で方は、まるで小さい子の頭を撫でるような優しいものだった。

「わぉ、ユウくんもずいぶん痩せたね~。もともと細い方だったのに、もう私たちよりも細いんじゃない?」

「うん、多分」

 本当に文字通り触っただけで折れそうだ。

「そういう可憐の方はどうだったの?」

「こっちも同じだよ。蹴ったらボキッていきそう」

「例えが怖いよ……」

 そう言って、私は向かいにあるベッドの方を見る。

「海斗くんもまさか買ってるとはね……」

「いつもの三人で一緒にやろうって言ってたらしいよ」

「そうなんだ」

 ユウ、私には言ってないんだけど……。まあ、中学生にもなっていちいちそんなこと言うわけないか。

 ちなみに「いつもの三人」とは、私の弟のユウこと伊藤優佑、可憐の弟である西村海斗、そして中原滉希の幼馴染みの仲良し三人組のことだ。ちなみに滉希はこの病室の三人目だ。

「あんなに元気馬鹿だったのにさ、こんなに大人しくなるなんてね」

 お陰でうちの中も静かだよ、と少し悲しそうな顔をした。

「私さ、思うんだけどさ」

「うん」

「夏菜みたいにさ、毎日お見舞いに来るのも解るよ。だけど、それだと心が疲れるし、自分で自分を責めちゃうだけだと思うのよね。私だったら絶対にそうなるもん。だから、たまに来るぐらいがちょうどいいと思うんだ」

「…………可憐……」

 私はあらためて可憐の顔を見る。

 その顔には普段あまり人に見せないような表情が浮かんでいた。もちろんそれは小さい頃から付き合いのある私にもいえたことだった。

「あはは、キャラじゃないね、わたし」

 と可憐は少し照れたように前髪をいじる。

「ううん、そんなことないよ。私は可憐のキャラじゃなくてもいいから、可憐の本心を聞きたいって思ってるよ。……幼馴染みの私にぐらいは本音を漏らしても大丈夫だよ」

 私も心からの言葉を可憐に渡す。

 いつもの可憐の言葉を虚言と言うつもりはないけど、久しぶりに可憐の本音を聞けたような気がした。そのきっかけはあまり良いものじゃないけれど、すごく嬉しく思えた。

 私の言葉に可憐は少し驚いたように目を丸くしたあと、頬を赤らめながら照れくさそうに笑った。

「――ありがとね、夏菜」

 

 

「さて、じゃあそろそろ暗くなるし、帰りますか」

 あれから少し時間がたったあと、不意に可憐はそう言った。

 確かにもうすぐ日が暮れて外が真っ暗になりそうだ。夕焼けの空が静かに変わろうとしていた。

「うん、そうだね」

 私はそう応えて、もう一度ユウの顔を見やる。

 本当はもっといたかったのだが、暗くなると危ないし、今日は早めに切り上げた方が良さそうだ。

 ――じゃあ、また来るからね。

 心のなかでユウにそう言ってから、ベッドの近くにあったので座っていた椅子から立ち上がった。

「忘れ物はない? 可憐」

「ないない。夏菜は?」

「私もないよ」

 しっかり確認したし、間違いない。うん、ない。ないはず。

 二人でこの病室から出ようと私がドアに手をかけた瞬間、後ろにいた可憐が少し俯いて呟くように言った。

「……さっきわたし、たまに来るぐらいでちょうどいいって言ったじゃん?」

「……うん」

「多分わたし、怖いんだと思うんだ。この現実に向き合うのが。海斗が事件に巻き込まれて寝たきりになっているって言う現実に。……わたしはきっと、それから逃げようとしてたんだよ。だからここに来ても多少明るく振る舞うことができたんだ」

 だけど、と。

 顔をあげて可憐は言葉を続ける。

「もう逃げない。ちょっとずつだけど向き合ってみるよ。夏菜みたいに毎日は無理だけど、少しずつここに顔出して、向き合いきってみせる。――そうじゃないと、自分の自慢の弟に失礼だよね」

 ニッと歯を見せて笑う可憐の顔は、まるで憑き物がとれたかのようにきれいだった。

 私は可憐に体から向き合い、その顔を正面から見る。

「……私さ、可憐の言うように毎日お見舞いに来てるけど、ここに来てすることなんて自分のことを傷つけるだけ、責めるだけだったんだ」

 これはずっと――ここに来るようになってからずっと思っていたことだった。

 あそこまで可憐は私にさらけ出してくれたんだ。なら、私もしっかり向き合わないと。

「ユウの顔を見ると、『私があのとき……』って思って自分にムカついちゃって……。ひどいよね。自分の弟そっちのけで。でも、今日の可憐を見て思ったよ。私も頑張りたい。ただ、自分を傷つけるんじゃなくて、ユウのために何ができるだろう。何をしたら、ユウが目を覚ましたときに安心できるだろうって考えてみる」

 私の言葉に可憐はさっきとは違って、優しい笑みを浮かべて、

「そっか。なら、お互い頑張ろうね」

「うん……!」

 二人で決意して、私たちはこの病室をあとにする。

 自分達の大切な弟がいる病室を。

 

◇◇◆

 

「じゃあ、私はすぐに帰らなきゃいけないから、お先に~」

「うん、じゃあ、またね」

「うん、またねー!」

 そう言って、可憐は少し小走りになりながら先に帰る。……また看護師さんに怒られないかな~?

 その親友の後ろ姿に手を振りながら見送っていると、私と可憐がいた病室のとなりの病室のドアが開いた。そこから、私よりも頭一つ分ほど小さい女の子が出てくる。

「あ、直葉ちゃん」

「あ、こんにちは夏菜さん」

 出てきたのは、桐ヶ谷(きりがや)直葉(すぐは)ちゃん。中学二年生の女の子で、眉の上と肩のラインでばっさりカットされた青みがかった黒髪と少し勝ち気そうな目が特徴の女の子だ。

 病室がとなりだということもあり、たまにあっては少し話をすると言う関係ができていた。

 話を聞くと、彼女の兄もSAO事件の被害者らしい。似たような境遇であり、彼女が武道の剣道をしていることもあって、とてもシンパシーを感じた。

「夏菜さんもお見舞いですか?」

「うん。そういう直葉ちゃんもお見舞い?」

「はい。昨日は部活で来れませんでしたけど、今日は大丈夫だったので」

「そうなんだ。部活大変だね」

 私も一応小さい頃から空手をやっているが、それは部活ではなく習い事なので毎日というわけではない。

 私の言葉に、直葉ちゃんは笑いながら手を横に振った。

「全然ですよ。それに毎日のことなのでもう大変だと思いません」

「えらいね~」

 ほんと、私よりもしっかりしてるんじゃないだろうか。それはちょっと嫌だなー。

「あれ、直葉ちゃん、その袋ってなに?」

 私の言葉に直葉ちゃんは少しだけビクッとした。

 そう、彼女はスクールバッグと竹刀以外に買い物袋を持っていたのだ。割りとサイズも大きい。しかも大事そうに抱えるように持っている。袋をさらに見てみると、どうやら電化製品屋のものらしい。

「えっと……」

「あ、無理に言わなくていいよ! ゴメンね、デリカシーのないこと言っちゃって」

「あ、違うんです! そういうのじゃなくて……えっと、知りたいですか?」

「……うん、聞いても大丈夫なら知りたいかな」

「なら、今から少し時間あります?」

「大丈夫だよ」

 なら、向こうの椅子に座りましょう、と近くにある椅子まで移動する。そして、となり同士で座った。

「えっと、夏菜さんは《アミュスフィア》って知ってます?」

「うん、名前だけならね」

 あのSAO事件で使われたあの《ナーヴギア》の後継機だとニュースで少し話題になっていたから、知っていた。大手メーカーが「今度こそ安全」と銘を打たれていたが、弟がきた機器のせいでこんなことになっているということもあり、個人的にはあまり信じていないが。

「それを買ったんですよ。これです、これ」

 そう言って、直ぐ葉ちゃんは袋を開けて、私に中身を見せる。

「へぇー、直葉ちゃんやるの?」

「はい、そのつもりです。元々はお兄……兄をこんな目に遭わせているゲームなんか嫌いだったんですけど、最近は兄があそこまで夢中になるこのVRMMORPGに興味が出てきて……。試しにと思って買っちゃいました」

「なるほどね」

 なんて言っているが、直葉ちゃんの思っていることは私も少しだけ思っていたことだった。

 ユウが親と喧嘩になりそうになってまで買いたいなんてことは、少なくとも私が見てきたなかでは一度もなかった。だから、弟をそこまで動かせたゲームというのには、代わりに買ってきてあげるときから薄々興味はあったのだ。

 だが、私はあまりゲームが得意な人間ではない。

 両親、弟ともにゲームが得意であり、大好きな伊藤一家だが、なぜか私だけはゲームをうまく扱うことができなかった。別にゲームが嫌いなわけではないけれど、うまく操作することができないのだ。

「直葉ちゃんは、ゲームよくするの?」

「いえ、全然したことないです。コントローラーさえまったく持ったことないですよ。小さい頃から外でばかり遊んでましたし」

「あはは、私と同じだね」

「でも、このVRMMORPGって意識がアバターのなかに入ってプレイするそうなので、ゲームが苦手なあたしでもできるかな~って」

「ほぇ~、最近のはすごいね……」

 ていうか、それで私の弟がこんなことになっているのだが。

 しかし、あらためて聞くと、関心せざるを得ない。まさに「革命」って感じだ。

 そんな風にひとりで考え事をしていると、直葉ちゃんが私の方をじっと見つめていた。……もしかして、髪が跳ねてたりしたのかな。

「あ、あの……それで夏菜さんにお願いっていうか、頼みがあるんですけど……一緒にこのゲームやりませんか?」

「え?」

 思わずキョトンと呆けるような顔をしてしまった。

「あ、無理にとは言いません! 結構お金かかりますし、ナーヴギアと似たようなものだから、嫌だったらいいんですけど、知り合いと一緒にできたら心強いなあって思って……」

「う~ん。してもいいけど……一応お値段を教えてもらえる?」

 言うと、口元に片手を立てながら耳元で耳打ちしてくれた。なんとか手が届きそうな価格だった。誕プレってことで買ってもらえるかな?

「なるほど。なら、私もやってみようかな。少し興味はあったし」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 本当に嬉しそうに笑うね~この子。かわいいけどさ。あと、一応まだ病院だから、大きな声出すのは止めとこうね。

「それで、ソフトの名前はなに?」

「えっと……――」

 直葉ちゃんは、袋の中からソフトのパッケージを取り出して、私に見せながら名前を言った。

 

「――《アルヴヘイム・オンライン》です!」

 

 これが、私のVRMMORPGゲームであるアルヴヘイム・オンライン――妖精の国へ旅立つきっかけとなった。

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