一人のカタナ使い   作:夏河

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第二章―リンクス―
第12話 仲の良い鍛治屋さん


   Ⅰ

 

 第一層の攻略より囚われた人々全員が「もしかするとこのゲームをクリアできるのではないか」という希望を持つことができた。こころなしか、プレイヤー全員の顔が活き活きしているような気がする。これはとても良いことだと思う。どうせゲームするなら楽しんだ方がいいし。

 またこれは余談なのだが、第一層攻略時に一人だけ死亡者が出たことを攻略後に情報屋が無料で配布していた新聞によって知った。それを見ることで第一層攻略の後に起こっていたイザコザが何なのかを悟った。この時のやるせなさは正直耐えられるものではなかったな。

 ――そしてそこからの攻略組の快進撃はすごかった。

 第一層攻略の時のように一ヶ月もかかることは一度もなく、ほとんどが一週間で一層クリアするという大幅なスピードアップに成功した。第一層の時に攻略組の下隅とでも言うべき、プレイヤーとしての質と単純に第一層の攻略する時の最低レベルより全員2〜3以上高かったことにより、レベル上げもさほど難しくなかった。

 個人的にも今生きているのはその時の知識やレベルのおかげで助かっているのが大きい。本当にコウとカイには感謝しかない。おかげで今もなんとか攻略組と呼ばれる程度の実力を身に付けることができている。

 ここでカイとコウについて少し触れておこうと思う。

 コウの失踪により、僕とカイもそれぞれ別々に行動することになった。あれからカイとは攻略の時に度々顔をあわせてはいるが、一度としてコウに会っていない。なんなら向こうから僕を避けている気すらしてくる。少なくとも今のところ第一層《はじまりの街》にある黒鉄宮に設置されている生命の牌に書いてあるコウという名前に横線が引かれていないので、死んではいないはずだ。

 フレンドを削除したコウはともかく、僕とカイはフレンドになっているので僕はたまにフレンドリストを覗いている。フレンドリストは誰がどこにいるのか判る上に対象のレベルを見ることができるのでいちいち連絡取らなくていいから便利だ。

 まあ、二人とも大丈夫だろ。僕がこうやって生きているんだ。死ぬわけがない。

 

 そして現在、アインクラッドの最前線は第二十八層。死亡者人数は約千五百人。

 それがこのデスゲームの状況だ。

 

   *

 

「――はあぁぁあ!」

 我ながら鋭い気迫と共に振りかざした輝きを纏う剣が甲冑の骸骨戦士の懐で炸裂する。ザシュウ! という鋭利な音がしたかと思うと骸骨戦士のHPゲージがガクンと四割ほど減少。これにより骸骨戦士――正式名称《イービル・バーサーカー》のHPが残り二割ほどになる。悲鳴のように叫びなから、骸骨戦士は大きくのけぞった。

技後硬直(スキルディレイ)が解けた仮想の体を動かして止めを刺そうと再び左手にある武器に光を灯す。

 曲刀カテゴリーソードスキル《リーバー》。第一層の時から使っている今のところ一番馴染みのある剣技だ。自分でいうのもなんだが、技の精度、スピード共にかなり高いし、基本技だから技後硬直も短い。

 止めを刺された骸骨戦士は、最後に大きな断末魔を叫んだあと己が身体を爆散させて小さな硝子の破片と化した。それと同時に目の前に獲得コルやドロップ品が書かれたウインドウが現れた。そして、それともう一つ、片手曲刀スキルの熟練度が一定値を越えた、というメッセージが流れた。

 それを見て、自分でも目を見開き口が無意識に開いたのがわかるほどテンションが上がった。

「よっし! やっとここまで上がったか!」

 思わず声を大きくしながら、押さえきれない喜びを噛み締める。なんなら大きくここで数回ジャンプしたあと辺りを走り回りたいと思うが、ここは最前線の迷宮区。さすがに危ないので自重する。

 いてもたってもいられず、その場でメインウインドウを開く。そして、自分のスキル欄を表示。すると、そこには予想通り《カタナ》と書かれたスキルが新たに追加されていた。さらに興奮すると同時に深く感慨する。

 ――ここまで本当に長かった。

 しみじみとそう思わずにいられない。最初は同じカタナって名前がついてるからいいや、と思って使っていた曲刀の熟練度を上げることが、まさかカタナスキルを手にいれるための条件だったとは。この情報を教えてくれたアルゴには本当に感謝だ(まあ、お代としてたんまりお金取られたけど……)。

 今すぐにカタナスキルをセットしたい衝動に駆られるが、今僕のスキルスロットは全て埋まっている。どれも大切なスキルなので外すことができない。痒いところに手が届かないような心境になりつつなるべく冷静に思考する。

「ふ~む、一旦町に戻ってカタナ買おうかな……」

 すでにカタナスキルを使っている人はプレイヤーの中にもちらほらいるし、カタナもどこかで売ってあるだろう――あ、そうだ、どうせなら……

「鍛冶屋に造ってもらおう」

 少し前から腕の良い鍛治屋さんと仲良くなったことだし、その人に造ってもらおう。きっとすっごく強いカタナを打ってくれるはずだ。

 そうと決まればさっそく町に戻ろう。有言実行だ。上着のポケットから転移結晶を取り出す。かざして行きたい町や村の名前を言うだけでその場所にワープできるという便利なアイテムだ。結構お高い品物なのだが、今日くらいはいいだろう。

 説明通り、透き通るようにきれいな青色をした結晶を頭上にかざして行きたい場所の名前を口に出す。

「転移、《アルーシュ》」

 言い終えた瞬間に体が淡い青色の光に包まれ、視界が端から真っ白に塗りつぶされていった。思わず、その眩しさにも似た純色の白に目を閉じる。次の瞬間、さっきまでの薄暗い迷宮区の中から人々が賑わう町の情景へと変わった。

 それを見てから今まで自然と自分に纏っていた緊張感から一気に解放され、思わず両肩を上下に動かしながら安堵の息を漏らす。

 第二十八層にある街アルーシュは、周りが野原に囲まれたところにある。この層の主街区ではないものの、豊富な品揃えと施設により主街区とほぼ同等の人口を誇っている。

 街の広さは第一層主街区《はじまりの街》の三分の一程度の大きさで、街の構造も似たようなものとなっている。もしかしたら、その造りを懐かしく感じてここに来る人も多いのかもしれない。

 豊富な品揃えと言ったが、それはポーション等のアイテム類に限った話ではなく、武具や防具の種類も含まれている。また遊び場となる施設も数種類存在し、いつもそこには人がたまっている。だから、個人的に人が多いところが得意ではない僕はあまり訪れたことがない。興味はあるのだが、人が多いからあまり寄らないのだ。

 ――さて、目的の鍛冶屋に行くとしよう。

 僕は目的地へと足を進める。今の時刻は午前十時半ぐらい。夜型の人ならばまだ寝ているだろうが、商売人であるあの人ならばもうとっくに起きているだろうし、なんならもう営業しているだろう。

 人通りの多い道をいつもよりゆったりとした速度で歩きつつ道の両端にあるいくつもの店を見わたす。やはり、第一層のときよりも周りの笑顔が多い。着実にアインクラッドの層がクリアされていき、大多数の人間が前向きになったということは良いことだ。そして、彼らの笑顔に貢献しているということが素直に嬉しい。これからもゲーム攻略を頑張ろうと思える。

 自分の顔もニヤけていくのを感じていると、目的地に辿り着いた。商人には必須の大きな灰色の絨毯(じゅうたん)を広げ、その上に自分が鍛えたであろう片手用直剣や両手槍などの数種類の武器を大通り側に並べていて、その奥に椅子や携行炉などが設置してある。たまに人が立ち寄るぐらいで行列ができていないところを見ると、そこまで人気ではないようだ。

 それでもその店の主人は決して暗くなることはなく、寄ってくれたお客さんに明るく接客している。僕は主人の接客が終わると、鍛冶屋の近くに立って主人に軽く手を挙げた。顔も軽く笑わせる。

「やっ、リズ」

 僕のフレンドリーな挨拶に少し疲れたような笑いを浮かべながら、返事をしてくれた。

「ユウ、あんたいなくなったと思ったら急に現れて……今まで何してたのよ!」

「いや、ちょっと迷宮区に一週間ほど……」

「一週間!? あんた本当になにしてんのよ!」

「いやー、ちょっと頑張っちゃいまして……あははー」

 笑ってごまかそうとするが、目の前の薄いブラウンのきれいな紙をしたそばかすが目印の少女店主は半目になって眉を潜める。それでも僕は懲りずに「あはは……」と笑うが、それは次第に乾いたものとなっていく。いや、なんかこえーっすよ。

 だが、向こうの方が折れたらしく、はぁっと大きくため息をこぼした。

「はあ……、まあ生きてたならいいわ。それで、一週間前あたしに言ってたカタナスキル、ゲットできたの?」

「そう、それだよ! そのことで今日来たんだ! それでさ、ここじゃなんだしご飯でも食べながら話そうよ。奢るからさ」

 ちょうど迷宮区に籠ってたから今懐暖かいし。

 僕は少し興奮気味にそう言うと、リズは少し戸惑ったようなそぶりを見せたあと、またため息をついた。

「はいはい、わかったわよ。……あんた、他の女の子にもそういうこと言ってるの?」

「なにが?」

「……こいつ、天然か……」

「いや、だからなにが?」

 そういうこと? 天然?

 なんのことだろ。

 ……………………あ、

「ち、違うよ! そんなナンパみたいなことじゃなくて、単純にご飯食べようってことだよ! か、勘違いしないでよね!」

「なんでツンデレなのよ……。わかってるわよ、あんたはそういうことするやつじゃないって」

「そ、そうだよ。そんなことしないよ」

 まずする度胸ないし。

 いくらリズがSAOで珍しい女性プレイヤーだからといってもだ。そこまで女子に飢えてはいない。僕的には女子の友達ができただけでもう十分なのだ。それにこう言っちゃなんだが、正直リズは僕の好みじゃないし。

「……なんか失礼なこと考えてない?」

「イエ、メッソウモゴザイマセン」

 不意を突かれて不覚にも声が裏返る。

 心を読まれた!? 嘘だろ!?

「覚えときなさい。乙女は勘が鋭いのよ」

「…………乙女……だと……?」

「……あんたを鍛え直してやろうか!」

「う、ウソウソ! 冗談、冗談だから! ちょっ、それ鍛冶のときに使うハンマー! 鍛え直すって物理的に!? おたすけーー‼」

 このあと数分間リズによる一方的な攻撃が続き、お昼ご飯を全て奢るということでケリが着いた。

 このことから僕は女の子には軽いノリで言っていいことと悪いことがあることを学んだ。……ていうか、最初から奢るっていったじゃん!

 

 

 少し時間が経過して、今の時刻は午前十一時。ようやく昼食にありつくことができた。なぜこの時間になったかというと、リズの午前の営業が終わるのを待っていたからだ。僕みたいにモンスターと戦うだけ(たまに人とも戦うが)のある意味能筋野郎は、リズのように時間に縛られるようなことがないのですごく新鮮な時間だった。

 そして今ようやく店の席に座り、二人で料理を選んでいるところだ。お互いにメニュー表をじっくりと睨みながら、今日食べるお昼ご飯を決める。SAOでは少し現実世界と違っていて、現実世界ならばどれが食べたいかで料理を決めるが、SAOでは『どの料理が正確な味を出しているか』で決める。少なくとも、僕はそうだ。

「……リズは何にするの?」

 メニュー表をじっくりと見ながら向かいに座っている同伴者に話しかける。

「……あたしはこの牛肉いっぱいのグラタンにしようかな」

「なるほど、確かにうまそうだ」

「……そういうあんたはどうなのよ」

「……正直、どれが美味しいのかわかんない」

 なんならどれもそこまで美味しくなさそうだ。

「……なら、どれも同じでしょ。もうあんたの好みで決めなさいよ」

「う~ん、ならこの和風ハンバーグっぽいのにするよ」

「決まりね。じゃあ、ボタン押すわよ」

「うん」

 ……やっぱり、こっちのカツサンドにしようかな。いやでもボリュームはハンバーグの方が多いし。

 なんて考えてると、ウェイトレスが来て注文を聞かれる。……タイムアップだ。ハンバーグのままでいいや。自分の注文を言おうとすると、リズが僕の分まで注文してくれた。

「このグラタンと和風ハンバーグください」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 全く機械らしくない口調でNPCのウェイトレスはそう言うと、店の奥へ戻っていった。

「なんかごめん。僕の分まで注文させちゃって」

「そんなの気にしないわよ。ていうか、これぐらいで謝らない!」

 男でしょ! とリズから叱咤される。……なんかリズ、母さんみたいだな。面倒見がいいというか……頼りになる。

「じゃあ、早速本題に入りたいんだけど……」

「なんだっけ、ああ、ユウがカタナスキルを習得したって話だっけ?」

「そう、それだよ!」

「あんた、テンション高いわね。とりあえずテーブル叩くのは止めなさい」

 そりゃそうだよ! 念願のだよ? ようやくだよ?

「で、スキルは手にいれたからリズにカタナをつくってほしいんだ。もちろん、お金は払うよ」

「ん~…………そうね~……」

「……あれ?」

 思ってたより反応悪い? なにか問題があるんだろうか。少し不安になってきた……。

 さらに、リズは腕組みをして眉を寄せて唸り始めた。それを見守っていると、リズの返答が返ってくる前にウェイトレスが僕たちの注文した料理を運んできた。

「まあ、とりあえずご飯食べようよ」

「……そうね」

 二人して「いただきます」と口にして各々が頼んだ料理の一口目を頬張る。……やっぱりなんか違うんだよなー。なんかハンバーグだけどハンバーグじゃないっていうか。なにかが足りない。見た目はバッチリなのに。

 リズも僕と同じ感想らしく、なんとも言えない顔をしながらスプーンで二口目のグラタンをすくった。リズが頼んだグラタンも湯気が出てあつあつの美味しそうなグラタンに見えるが、食べている彼女の顔はあまりいいものではない。

「……ちょっとあんたのハンバーグ分けてくれない?」

「いいよ。じゃあ、そっちのグラタンも少しちょうだい」

 目の前の鍛冶職人は頷いたあと僕の皿に自分のグラタンをよそった。僕も一口サイズにハンバーグをカットして、リズのグラタンの入った皿に入れた。取り皿があればよかったのだが、今このテーブルには無い。NPCのウェイトレスに頼めば持ってきてもらえるかもしれないけどたった一口サイズなのだからそれは大袈裟だろう。

 もらったグラタンを右手に持ったフォークですくい口に含んだ。少し熱かったが息を吹きかけて冷ますほどではない。食感は本物のグラタンと同じだが、ハンバーグと一緒でなにかが足りない――正直美味しいとも美味しくないとも言い難い。例えるなら材料をひとつ忘れて作ってしまったような……そんな感じだった。

「……なんかどっちも微妙ね」

「……そうだね。なにか足りないよね」

 それをカバーするために調味料があるといいけど、この世界にそんなものは存在しない。うぅ……デミグラスソースとかほしい。てか、デミグラスソースって調味料に入るのか?

 こうやって店の中なのに料理の悪口を言えるのは、人間ではなくNPCが営業しているからだ。向こうがコンピューターだから怒られるとか気にする必要はない。まあ、それでも店のものに悪口言ってることに代わりはないが。はあ、プレイヤーがレストランとか開いたお店はないのかなあ。

 二人でぶつぶつ愚痴りながら料理を完食する。いや別に食べられないほどじゃなかったし、今まで食べた中では結構上位にランクインするけどやっぱり現実世界の食べ物には負ける。……母さんの料理が恋しいな。

 食べたあとにテーブルに置いてあるナプキンで口元を拭ってから、話を戻すべく口を開いた。

「でさ、造ってほしいんだ」

「う~ん、そうね~……」

 女性らしく丁寧に口元を拭いたリズは、また食べる前と同じ顔をしながら唸り始める。

「なにか問題あるの?」

「あるわね」

「どんなのさ」

 率直に聞き返しながら、嫌な予感をしてしまいそうになる自分を抑える努力をする。造ってもらえなかったら僕はどうしたらいいんだ(ピンポーン、別の鍛冶屋にいけばいいんです)。僕が知っている鍛冶屋の中で一番信頼できるのはリズなのだが。

 目の前の鍛冶職人は、なおも難しい顔をしながら頬杖を着いた。

「いや、あたしの鍛冶スキルが問題じゃないのよ。ただ、造る材料が揃ってないからどうしようかな~って」

「そんなの僕が取ってくればいいんじゃない? 情報を教えてくれたら僕行くよ」

「……かなり危ないと思うわよ」

「え、ど、どこ?」

「大体二十五層以上にある場所ばかりよ」

「…………ふむ」

 僕は顎に手を添えながら思考を張り巡らす。

 現在の最前線が二十八層。安全マージンは十分取っている。とはいえ、安心はできても油断ができるというわけではない。

 ――でも、まあ、なんとかなる、かな。

 いざとなれば転移結晶使えばいいし。

「大丈夫。素材は僕が取ってくるよ」

「でも、友達を危険な場所にいかせるわけには……」

「大丈夫だって。一応僕も攻略組の端くれだよ?」

「……う~ん、でも……」

「安全マージンはしっかり取ってるよ。だからさ」

「…………そうね。ごめんなさい、本当はこんなこと頼むのは間違ってるんだけど」

「別に間違ってないさ、武器造ってもらうには素材を持ってくるのは当たり前のことだし。それよりさ、その素材で造れるカタナ……強いの?」

 そう僕が問いかけると、リズはニヤッと口の端を上げた。これは期待が持てそうだ。俄然僕のやる気パロメータもぐぐっと上がる。

「そうね、少なくともあたしは今まで作った武器の中でも上位に食い込んでくると睨んでいるわ」

「おお~」

 僕が思わず期待の声をあげると、またすぐリズは顔をひとつ前のものに戻した。

「でも、本当に危険よ。気をつけてね。……ちなみにだけど、あんた今レベルはどれくらい?」

「……おおぅ、割りと深く来るね~リズさん」

 この世界では暗黙の了解としてプレイヤーのステータスを聞かない、というものがある。少しでも他人に漏れてしまうと自分の弱点などがバレてしまうため本当に危険だからだ。携帯や財布を道端に落としてなくすことと同じだ。

 リズはそのことに気づいたらしく、まずったとでも言うような顔をして僕に謝った。

「あ、そうだったわね……ごめんなさいユウ」

「いや、別にいいよ。リズが誰にも言わないっていうなら教える」

「誰にも言わないわ!」

 ――絶対興味本意じゃないですかぁ~!

 僕は内緒話をするときのように(実際内緒話なのだが)、手を口の側に立てながらいつもよりも抑えた声量で自分の秘密を漏らした。

「48、だよ」

「嘘でしょ!?」

 いきなりの大声に周りのお客さんもこっちを一斉に見てくる。僕はいきなり目立ったことに髪の毛が逆立つような感覚に襲われるがなんとか堪えてリズの頭を手刀でペシッと叩く。そして、小声で注意する。

「ちょっと! 思いっきり言いそうになってんじゃん!」

「ご、ごめん! だってビックリするでしょ、そんな数字聞かされたら!」

「とにかく黙っててよお願いだから。これ僕のトップシークレットだから!」

「わかってるわよ。もうしないって。ていうか、なんなのよそのデタラメな数値。あんた一体どういう生活してるわけ?」

「どういう生活って言われても……普通だよ? まず携帯食料と武器の予備をたんまり買ってから経験値が効率よく貯まる場所に数日間籠るだけ」

「それのどこが普通よ!」

「え、マジで?」

 少なくとも攻略組はみんなしてると思ってたのに……。

 ここでの生活に慣れすぎちゃったかなあ。感覚が麻痺してる。向こうの世界に戻ったら大変そうだ。少し反省。

「あんたねぇ……今のうちに色々遊んだり休んだりしないと絶対に倒れるわよ。まあ、いいわ。じゃあ、素材の情報渡すからちょっと待ちなさい」

 そう言うとリズはメニューウインドウからキーボードを引っ張り出してカタカタと文字を打ち始めた。タイピングの早さを見る限り、向こうでは結構パソコンを使っていたように思える。SAO以外オンラインゲームもやらなかったし普段パソコンを使うことがなかった僕からすると、そのタイピングスキルは正直羨ましい。

 ちなみに、文字を書くのは実際にペンのようなもので書くのとキーボードで打って書く、の二つがあり好きな方を選ぶことができる。《作成》スキルがあれば色々な色や種類のペンを使うことができるが、なければ黒一色だけになる。まあ、情報屋でもない限り作成スキルを取る人はほとんどいないが。

 料理と一緒に出てきたお冷やに入っている氷をガリガリと噛みながら待っていると、

「よし、完成! じゃあ、これに全部書いてあるからよろしくね」

「りょーかい」

 僕は返事をしてから実体化された情報の細かく書かれた紙を受けとる。かなりの文字が書かれているからあとでじっくり見るとしよう。

「お詫びとして代金は半額で引き受けるわ」

「別に全額払ってもいいんだよ?」

「いいのよ。友達を危険な場所に行かせるんだから。せめてこれぐらいはさせて」

「…………そっか。ありがとね」

 目の前の友達の優しさに思わず少し笑いながら、「よし! 半分お金が俺のもとに!」と喜んでいる黒い自分に我ながら呆れていた。

 

   Ⅱ

 

 二人で「ごちそうさまでした」と合唱したあと、一緒に店を出る。もう少しなんか腹に入りそうだな、出店でまんじゅうでも買おっかな。この世界ではどれだけ食べ物を食べても腹壊したりしないし、太ったりもしないからすごく便利だ。女性にとってこれほど素晴らしいものはないだろう。まあ、食べ過ぎると食べた分だけまんぷくの時間が延長するのだが。

 あ、もちろん約束通り二人分のお代は払いましたよ。約束しなくてもそのつもりだったけど。女子にお金を払わせるわけにはいかない。

 それに迷宮区に引きこもってたからお金はまだ使いきれないほどある。SAOに入る前はこのゲーム画面上にあるお金全部こっちの世界に持ってこれたらいいなあ、なんて思っていたがまさかそれが叶うとは。結果的に手に余って少し困っているが。

「リズはこのあと営業?」

「ええ、今の時間帯が一番人が来るのよ」

「へえ~、夕方ぐらいまで続けるの?」

「そうよ」

「ふと思ったんだけどさ、リズっていつ武器を製作してるの?」

「大体夜にするわね。朝から夕方まで鍛冶屋の営業をして、宿に戻って夜の間に注文された武器やスキル上げをしているわね」

「……それってちゃんと寝てるの?」

「まあ、たまに寝ない日もあるけど、そこら辺はちゃんと考えてるわよ」

「あのさ、僕が言うのもなんだけどしっかりと休まないとダメだよ。一応リズも女の子なんだから」

「本当にあんたにだけは言われたくないわよ。それに『一応』は余計だっつーの」

 そう言ってリズは隣を歩く僕の腕に右ストレートを放った。……そういえばリズって筋力値に全振りだったっけ。めっちゃ衝撃強いんだけど。

「じゃあ、僕はこれに書いてあるとこに早速行ってみるよ」

「そう、本当に気を付けなさいよ」

「はーい。たぶん夕方にもっかい来ると思うから」

「無理して来なくてもいいからね、絶対に造るから」

「あいあいさー。じゃあ、またね!」

 僕はそう言って転移門に向かって走った。後ろからリズの「いってらっしゃーい」という言葉に背中を押されながら、僕は走るスピードをさらに加速させた。

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