機動戦士ガンダム外伝 E.F.F Navy SEALS 作:梅お握り
「嘘だろっ………」
マーセルは目の前の出来事が受け入れられずにいた。アーク──アーカージ・メフタ少尉のあまりに呆気ない死に様を受け入れられずにいた。死に際をちゃんと看取ってやることも出来なかった。
「アークがっ……! よりにもよって……!!」
届かなかったかもしれないが、せめて手を差し出してやりたかった。その前にこんな無茶苦茶をせず、大人しく投降していれば。そもそも自分のパイロットととしてのもっと腕が良ければ。
どこで間違えた。アークの死は自分の責任なら、どこで。自分で自分を攻め立てる負の感情が、獣のような慟哭になってマーセルから漏れだす。
喪失感や怒りや絶望が心の中でごった煮になる。錯乱し、いっそ自分も仕留めてくれれば。とマーセルが思うと、呼応するように獲物を仕留めたザクが立ち上がった。
重低音と震動を響かせながらザクはこちらへ近づき、暗いマシンガンの銃口がこちらを睨む。鹵獲し返す気なのだろうか。もうどうにでもなれと天を仰ごうとしたマーセルは、上から強い衝撃を感じてひっくり返った。
「なんだよ!?」
上側──倒れ込んだザクのコクピットとマーセル側とを仕切る壁が片側にぶら下がるように外れ、中のコクピットユニットが丸出しになっている。脱出用の機構が作動したのだろうか。
ということは──。覆い被さるように落ちてきた物をどけて、その正体を拝むとマーセルは言葉を失った。連邦制式の黄色いノーマルスーツを着込んだ兵士だった。
あのザクは連邦のかもしれない。その賭けが当たったわけだが、マーセルは喜ぶ気にはなれなかった。それどころか軍装に不釣り合いな小柄な体格に不気味な既視感を感じてヘルメットに視線をやる。
「どこもかしこも……何が"ジオンは兵なしだ"」
案の定、少年兵であった。黄色人種系で、幼いながらもすらりとした顔立ちに鼻から漏れた血液がおぞましいまだら模様を作っている。幸い息が有るようだが、予断を許さない状況なのは一目でわかった。
「こっちも大概じゃねぇか……」
マーセルは低い声で呟いた。このザクのパイロットや、「ラシュモア」航空隊の少年兵達。本来守るべき者を消耗させていく軍と、それを指をくわえて見ていた挙句、相方が繋いでくれた命を厭世的な気分で浪費しようとした自分に腹が立ってきた。
ならどうするべきか?答えも、それに必要な道具もすくそばにあった。マーセルは深呼吸を一つ。
「気をしっかりもてよ。必ず生きて返してやるからな」
パイロットに話しかける。反応はないが伝わったと信じたい。
「アーク。すまんがまだそっちには行かないからな」
かけがえの無かった相方に別れを告げて、マーセルはボルダリングの要領でコクピットの中に入り込んだ。胸部ハッチの閉じかたが分からないので、伸びてしまったパイロットが何かの拍子に転げ落ちないよう、膝にのせた上でハーネスを締める。
以前、海兵隊が鹵獲したザクの検分を野次馬した事があり、ざっくりとした配置は知っている。モノアイの映像を投影するスクリーンには既にザクが大写しになっている。銃口をこちらに向け、慎重に向かってくる。
「マシンガンは……こいつか?」
一対のI字型の操縦桿は、戦闘機のそれに似ているようだが、迂闊には触れない。しかし、勝手は違っても火器管制が一際目立つのは兵器の宿命。直感で操縦桿上面の赤いボタンを押すと、スクリーンにレティクルが浮かび上がり、腕の駆動音が唸る。
レティクルが黄色く光った。ロックオンしたと考えたマーセルは反射的にボタンを押し込む。
フライアローの機関砲とは段違いの轟音と共に、右手に構えたザクマシンガンが唸る。戦車砲並の砲弾がフルオートで撃ち出され、たちまちザクは穴だらけになっていく。
筈だった。
砲弾は明後日の方向に飛んでいき、ビルの角を打ち砕いていた。
なんで、とマーセルは動揺したが、直ぐに原因がわかった。ザクは片腕でマシンガンを制御仕切れないのだ。コンピューターは両手で保持しようと試みたらしいが、左肩が胴体と地面に挟まり動かない。間接への過負荷を告げるブザー音が、鳴り響いた。
「どうする!?」
幸いジオンのザクは突然の発砲に驚いたのか、スラスターを吹かして距離を取ったので、まだ仕切り直すことは出来る。
「スラスターでっ!」
見よう見まねでスラスターを吹かそうと、戦闘機のスロットルレバーのように操縦桿に力を込めるが、精々3cm程度しか動かない。戦闘機のように操縦桿が基部ごと自体が前後する訳ではないようだし、なによりもザクは駄々っ子のように腕を回すだけという事実が、マーセルをパニックに叩き込む。
「ああっ!もうっ!」
今度は幾つか並ぶフットペダルを押してみる。今度は足が自転車を漕ぐように空転し始めた。挙句の果てに左足の動力パイプが破損したらしく、そこの動きが鈍くなる。
「ちっくしょおぉっ!!」
相手のザクがマシンガンを撃ち始め、弾着の火花と警告音のパレードに急かされる。マーセルはヤケクソ気味にペダルを一気に全部踏んでみると、ジェットエンジンのような音が背後から響いた。スラスターが全開出力で作動したらしく、ガリガリと道路を削りながらザクが動き始めるのがわかった。
「立ってくれっ!立てぇっ!!」
そのうちザクは仰向けになり、操縦桿を両方前に倒すと、胴体が曲がり、ようやく視界が地面に垂直になった。そのまま10秒ほど掛けて30メートルほど飛び上がる。マーセルは足に向かう、都合二人分の重力の感覚を噛み締めながら、操縦桿の射撃スイッチに手を掛けた。
唖然としてこちらを見上げるザクに向かってマーセルは、絶叫しながらマシンガンを叩き込んでいく。ザクは胴体や腕を抉り取られた後、足を撃ち抜かれて前のめりに倒れると、黒煙を噴き上げてそのまま動かなくなった。
「ヤれたのか……?」
勝った。散々怯え続けてきた巨人が、こうも呆気なく。
地面にザクが足を着けてからもマーセルはしばらく呆然としていた。素直に喜ぶ気にもなれず、大きく息を吐いた。すると身体から力が抜け、膝がガクガクと震える。今更のように理性が戻ってきた。乱れた脈を整えようと深呼吸すると、幾分頭が冷えて頭の中に次にやるべき事が浮かんでくる。
「取り敢えず状況を把握しないと……」
マーセルは取り敢えず周りを見渡す。廃墟となった市街地だが、高層建築物が形を保ち続けているお陰で視界は良くない。眼前に護岸工事された川があり、ホノルル南部、アラワイ運河沿いであることは想像出来るが正確な位置の特定は難しそうだ。
「こいつが目を覚ましてくれればなぁ……無理そうだが」
昏倒してる所に急制動を掛けられたパイロットの容態が気になった。顔色を窺うことは出来ないのがもどかしい。幸い息はありそうなのが唯一の救いだ。
コクピット内に視線を巡らす。といっても簡単なボタンの意味すら判らない現状ではこうして立っていることすら奇跡に近い。
「どうするかな……おっ?」
マーセルはコクピットの天井に、見覚えのあるものを見つけて、まだツキはあるな。と唸った。
いかにも後付けされたような、箱状の物体。連邦四軍共通で用いられている無線機の基部ユニットだった。ご丁寧に連邦マークと「E.F.N.F」のシールが貼ってある。
「海軍にモビルスーツ部隊が有ったとはねぇ」
これで確証は見つかった。このザクは間違いなく連邦の機体だ。ヘルメットと無線機の再接続ボタンを押し、ヘルメット内の小型無線機と周波数を合わせる。これでこの無線機を傍受している部隊にコンタクト出来る筈だ。
「誰かこの無線を聞いててくれるといいんだが……」
僚機らしき機体が見当たらないことに今更のように気づく。出会ったとき既に敗走の途中では無かったことを祈りつつ、マーセルが救難メッセージを吹き込もうとしたその時、眼前の運河が白く大きく盛り上がり、そして爆ぜた。
目を見開いたマーセル。運河からこちらへ飛び込んできた茶色く、丸っこい「ソレ」は見覚えのあるものだった。憎きジオンの水陸両用モビルスーツ。
「ゴッグがっ!!」
一瞬の内に天地がひっくり返ったような大きな衝撃がマーセルを襲う。体当たりを受けたのだと理解した時、今度は背中から大きな衝撃に襲われる。固いシートとパイロットに挟まる形となったマーセルは吐き気が込み上げてきて、むせかえるままに鉄と、酸の塊を吐き出した。目が涙で霞む。
「げほっ……ごほっ……っ糞ぉっ!!」
バイザーの下半分が真っ赤に染まり、首筋にヌメりとした感触が広がった。悪臭と不快感に耐えきれずバイザーを上げ、外の空気を貪る。
数十メートルほど弾き飛ばされ、どこかの建造物に叩き付けられたらしい。
「よくもっ!」
余裕げに鎮座するゴッグ。ザクよりもなお一回りほど大きく、海軍兵なら誰も畏怖するシルエットだが、恐れはなかった。今なら倒せるかもしれない。いや、倒してやる。沸き上がる衝動のままにマーセルは叫んだ。
「くたばれっ!」
警告ランプが幾つか灯っているが、四肢を動かすのに支障はなさそうだった。マーセルのザクはザクマシンガンを両手で構えて120mmを叩き込んでいく。徹甲榴弾を一マガジン分撃ちつくし、硝煙がゴッグを覆う。
「やったか……?」
ザクが自動でマガジンを取り換えるなか、マーセルが呟くと、アラートが鳴り響いた。ヤバい。反射的にスラスターを吹かし、ザクは飛翔する。先程までザクがいたスペースに、拡散メガ粒子の雨が着弾。土煙と轟音とともに背後のビルが崩れると、マーセルのザクはその倒壊に巻き込まれて、腹を下に地面に落ちていく。
マーセルは咄嗟に目をつむる。再び大きな衝撃。胸にパイロットの体重が乗っかり、苦しくてたまらない。右側面のディスプレイが板チョコのように砕け、破片が視界を舞う。残るディスプレイもアスファルトを映しているだけで、四方八方も分からなくなったが、腕部を操縦桿がペダルが脚部を操ることは分かっていたので、立ち上がる事は出来た。モビルスーツは想像より遥かに頑丈らしい。
「ゴッグの野郎っ……どこだあぁっ!!」
だが、視界にゴッグは居ない。マーセルは左右を見渡す。見つからない。他にあり得そうな場所一つだけだった。
「後ろかっ!?」
その通り。と言わんばかりにアラートが鳴る。ザクを転倒させないようゆっくりと振り向かせると、肉薄したゴッグが蛇腹状の両腕を降り下ろさんとしていた。その先端のマニュピレーターは、五本の指が鋭い爪になっており、素人目にもインファイトを避けるべきなのは分かる。マーセルがザクを一歩後退させると、文字通りその目と鼻の先の空をゴッグの爪が切る。風を切る鋭い音がしたのは、気のせいではあるまい。
だが、とマーセルは思い直す。近距離なら。とマシンガンを再び撃ち込んでいった。しかしゴッグは痛くも痒くもないと言わんばかりに身動ぎひとつしない。それどころか更に間合いを詰めて今度は万歳のようなポーズでその腕を振り上げる。
「ヤバいっ」
マーセルは再びスラスターを吹かし、間合いを取ろうとした。が、ザクが地面から離れたとたん、ゴッグの爪がその両膝にめり込むと、力任せにその膝下が抉りとらるのが見えた。肉片の代わりに機械が、血液の代わりオイルが飛び散り、声帯の代わりに警告灯とアラートが叫びを上げた。
勢いを殺されたザクは地面に背中をうち、さらに不穏な爆発音がそこから響いた。
「……スラスターかっ!」
乱用したのが仇になったらしい。幸い動力は生きているが、この調子ではそう長くは持たないだろう。コンソールの液晶パネルには、弾切れ、スラスター、脚部損傷、動力パイプ切断、電装系高温異常など錚々たるトラブルが名を連ねている。
「……クソッ!まだだっ!!」
傍目にも分かる絶望的な状況。だが、マーセルは諦めたくなかった。諦められなかった。まだ、守れる命がある内は、生き延びる努力をしなければならなかった。そうでなければ、アークにも、この眼前の少年兵にも申し訳が立たない。
「何か無いのか……何かっ!」
コンソールを一別する。マシンガンは残り数発だが、他にも何か武器はある筈。マーセルはダメ元でコンソールのボタンやレバーを片っ端から弄っていくが、ソレらしいものは見当たらなかった。
ゴッグは腹部のメガ粒子砲でケリをつけるつもりなのか、その身体を屈めるこっちに向けてきた。銃床でぶん殴るという手段も無くは無いが、あの鋭い爪に腕を持ってかれていくのがオチだろうか。せめてこのパイロットだけでも助けられないかと思索を巡らせるマーセルの掌に、柔らかな感触がのし掛かった。
見るとマーセルの両手に、気絶した筈のパイロットの小さな掌が重ねられていた。一瞬茫然としたマーセルだが、「大丈夫なのか?」とパイロットに聞いた。だが、彼は答えずに、操縦桿の幾つかのスイッチを叩くと、ずるりと膝に滑り落ちた。眠りに落ちるように首がこくりと傾き、マーセルは思わずドキリとしたが、まだ小さく呼吸は続いていた。
マーセルは、悶々とした気分のまま、ディスプレイに再度目を向ける。そして「そう言うことか」と呻いた。
左手の保持火器に斧状の武器、ヒートホークが追加されていた。どうやらこのパイロットは、自分の心を読んだよんだのかもしれない。冗談めかしてマーセルは笑った。ほぼ同時にゴッグの腹のメガ粒子に光が灯るが、恐怖に気が狂ったわけではなかった。
「いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」
そして、力一杯操縦桿を倒した。ザクのヒートホークの握られた左腕が駆動音とともに振り上がり、降ろされる。しかし、ゴッグは両手でその一撃を受け止め、無駄な抗いだと言わんばかりにその腕を砕かんと、爪を食い込ませる。
それでよかった。マーセルはそれを狙っていた。ゴッグの意識の外にあった右腕を、ザクマシンガンを腹のメガ粒子砲に突きつける。
「ここががら空きなんだよっ!!」
そして、引き金を引いた。太鼓のような発砲音が響き、薬莢の落ちる音と共に、ゴッグその動きを止めた。
「やったか……?」
今度こそ本当だと思いたい。マーセルは固唾を飲んでディスプレイの風景を見守る。ゴッグのモノアイが消えたのは、その直後だった。
「よしっ!!」とガッツポーズを掲げたマーセルは、これまでに無いほど興奮していた。ほんの数秒後、警告音が響き渡るまでのことであったが。
今度は何だと身構えるマーセルを、白い光が包む。余りの眩しさにディスプレイがホワイトアウトしたのだと気付いた直後、マーセルをけたたましい轟音と閃光、そして高熱が襲った。
このとき、発射寸前の縮退しきったメガ粒子を格納していた発射器が、マシンガンにより破損。本来推力偏向ノズルのような役割を果たす砲口から放たれる筈が、四方八方に穴を開けた水風船のようにメガ粒子が拡散。当然稼働中の動力炉も直撃を受け、大爆発を起こしたのだがマーセルが知るよしもなかった。
ただ、目を覚ましたとき、コクピットの警告灯が片っ端から灯り、ディスプレイや隔壁にヒビが入り、何かの爆発に巻き込まれた事は確かだった。頭が割れるように痛く、朦朧とする。実際に割れているのかもしれない。
アラートが再び鳴った。これ以上なにを警告する事があるんだと吐き捨てたマーセルは、紫と緑の歪なモノクロのディスプレイに、二機のザクがこちらへ向かうのが映る事に気付いた。
終わりだ。マーセルの体から力が抜けていく。再び昏倒してしまった。あるいは既に死んでいるかもしれない膝に乗せたパイロットに、「ごめんな……」とだけ呟くと、マーセルの意識は闇に落ちていった。
当然、二機のザクが丸焦げのダルマとなったザクを引き摺り、ホノルルベースとは逆方向の、山間部の方へ歩き出してもマーセルは気付くことはなかった。
目が醒めたとき、マーセルの目に最初に入ったのは、赤く染まった視界と、低い天井だった。艦艇が夜間に実施する、灯火管制に似ていた。
「ここは、地獄か……」
こんなおぞましい色の世界が天国な訳もあるまい。マーセルは自嘲気味に笑った。そのため、「うんにゃ、潜水艦だ」と返答があった時、情けない悲鳴と共に腰を抜かしてしまった。声のした方を見渡すと、黒い人影が二つ、肩を震わせながらこちらを見ていた。
「笑うことはないでしょうに」
マーセルは唇を尖らせながらも、心中は安堵で満たされていた。どうやら自分はまだ生きているらしい。灯火管制のような赤い部屋は、灯火管制中の部屋そのものだったのだと直感した。
「電気を着けてもらえますか」
その声に「あいよ」と返された直後、通常の照明が灯った。眩しさに目を細めつつ、周りを見渡す。部屋は六畳程の医務室らしく、二段ベッドの下段に寝かされているらしい。
人影の正体も顕になる。幸運なことに連邦軍のクリーム色と黒の制服を着ており片方は齢三十いくつの、顎髭も相まって熊のような白人男性。階級章は大尉。もう片方も二十代後半の白人男性で階級は中尉。長い髪を後ろで束ねているのが印象的だった。
「どうも……えっと……」
「私は、エドワード・モーム」
大尉の階級章を付けた男が答える。
「俺はトレイシー・モホーク。トマホークって呼んでくれよ。連邦海軍特殊戦、SEALSチーム6所属だ」
トマホークがそう言うと、エドワードは肘で彼を小突いた。「別にいいだろ」とトマホークは小さくぼやく。
「どうも……海軍第3艦隊、第38空母打撃群同航空団、マーセル・グエルフィ少尉です」
SEALS。確か海軍の特殊部隊だったかとマーセルは思い出す。SEa(海)Air(空)Land(陸)Space(宇宙)の頭文字が由来の通り、全域で活動する部隊というのは聞いていたが、艦隊総軍とは別の指揮系統で動いているらしいの で、イベント以外で見るのは初めてだった。
マーセルが聞きたいことは山ほど合ったが、纏める頭が働かずに、「ここはどこですか?攻略戦は?例のパイロットはどうなりましたか?」と捲し立てることしか出来なかった。トマホークが「そんなに一気に聞かれてもなぁ」と苦笑したあと、チラとエドワードを見やる。彼は鼻息を鳴らすと、「順に答えよう」と腕を組んだ。
「ここは連邦海軍ジュノー級潜水艦、「アルバコア」だ。三日前、君は我が隊のザクのコクピットに居たところを保護、ザクと一緒に回収した。怪我も軽症だ」
言われてみれば。とマーセルは思った。頭に包帯が巻かれている以外目立った治療痕がない。頭はズキズキ痛むが、昏倒する寸前に比べたら可愛いものだ。
「そうだ。あのパイロットは?ザクのパイロットは!?」
マーセルは身を乗り出した。二人は再びアイコンタクトを交わす。まさか……と最悪の予想が頭をよぎる。身構えるマーセルに、エドワードは少し唸ったあと、言った。
「彼女も収容されたよ。同じく軽症だが、君より早く目覚めたんだが……そうだな、頭の異常が無いか確認するため後送されたよ」
少し歯切れの悪い言い方が気になったが、それを上回る安堵感にマーセルは胸を撫で下ろした。しかし、二人の顔は険しいままだった。その原因はマーセルにも薄々心当たりはある。
「最後に、ハワイ攻略戦の方だが……」
一拍おいてエドワードは続けた。「失敗したよ」半ば想像はついていた。問題はここからだ。マーセルはエドワードの目を見つめるが、エドワードはこちらの考えを見透かしたように、首を降る。
「航空隊が上がった直後、艦隊はジオン潜水艦隊の待ち伏せを受け壊滅。出撃した航空隊は全機未帰還。投降したかあるいは……」
そこから先は聞かなくても分かる。もはや絶望的だが、マーセルはそれでもある一言を聞きたかったが、それは叶わなかった。「君の……マーセル少尉の所属も調べた」マーセルは心拍数が跳ね上がり、息が苦しくなった。
「「ラシュモア」も、残念ながら」
「そう……ですか……」
マーセルはさっきまでの気力もどこへやら、ベッドに倒れこんだ。アーク、フランカ曹長、コック長、コアファイターの少年パイロット。その他、数十人の顔が浮かんでは消えていく。視界が滲んで、ポロポロと涙が溢れる。家族も、仲間達もみんな居なくなってしまった。覚悟はしていたが、その事実を突き付けられれば誰だってこうなるだろう。
「少尉」
十数分、啜り泣きだけが聞こえる部屋の空気を変えたのは、エドワードの一言だった。
「見せたいものがある。来てくれ」
マーセルは腫れた目を拭う。しばし無気力感と格闘したあと、ゆっくりと立ち上がった。「一応病み上がりだしな」とトマホークに抱えられる。その優しさがどこかアークを彷彿とさせて、また涙腺が危うくなった。
数分ほど歩くと、狭っ苦しい潜水艦にしては不自然に開けた場所に出た。ジュノー級には弾道ミサイルや巡航ミサイル、潜水艇を複数収容できる大型VLSが三つ合るので、恐らくその一つだろう。
「これは……?」
マーセルは入り口から入ってすぐ足を止めて、思わず目を見開いた。大型の円柱状のスペースには、所々に損傷と弾痕が見てとれるザクと、もう一機、見覚えのないモビルスーツが向かい合わせに駐機してあるのが目に入った。
全体的に角張った機体は、ザクとほぼ同サイズで、鳩胸を連想させるフォルムだった。頭部は丸みを帯びていて、凸の字型のゴーグルはオレンジ色。サムライのマゲを想起させる出っ張りと、可動式らしいフェイスガードにセンサーユニットがついていて、背中からは二本の太いアームが伸びている。脚部には増加装甲。色は四肢が黒く、胴体はペイルブルーに塗られていた。
ジオンのモビルスーツとあまりにもかけ離れた意匠を持つそれに、マーセルはまさか、と呟いた。
「連邦のモビルスーツ……?」
「そうだ」とエドワード。「RGM-79[G]陸戦型ジム。厳密にはその水陸両用カスタム型で、非公式にジム・アンフィビアンスと呼んでいるがな」
「英語で両生類って意味だ」
マーセルはその巨人を微動だにせず見上げていた。初めてザクと戦った時、乗った時に感じたモビルスーツという兵器の強さは今でもこの胸が覚えている。この力なら、ジオンと対等のステージに立てる。死んでいく仲間達を守ることが出来るかもしれない。
「出港寸前に持ち込まれたものでな、今作戦には投入しなかった。ただ、帰投すればこいつと同じ機体が三機届くことになっている 」
マーセルは、二人を見つめた。ここに連れて来た理由の、確証が欲しかった。
「君のザクでの戦闘記録を見させてもらった」
エドワードがその口角をゆっくりと上げた。
「重装甲のゴッグを撃破する機転、見事だった。わが海軍は今時大戦において、冷遇されつつある。海洋および沿岸域でのモビルスーツ運用を模索するとは言え、正規のパイロット課程は五期先まで陸と宇宙に内定していて、登用しづらくてな」
最早それ以上は語るまい。とエドワードは言葉を切った。こちらの目をみ、それにマーセルが頷き返すと、待ってましたと言わんばかりにトマホークが書類とペンを差し出す。
用意のいいこったと苦笑しながら、マーセルはそれにサインする。
「SEALSへようこそ。歓迎しよう。マーセル・グエルフィ少尉」
二人と固い握手を交わす。マーセルにはもう迷いはなかった。
「時に少尉」
トマホークがオホン、とわざとらしく咳き込んだのち、言った。
「帰ったら歓迎会をやりたいと思うんだが、何か食べたいものはあるか?」
マーセルは少し考え込んだあと、こう返した。
「ビフテキを、お願いできますか」と。
初めての連邦MSがオリジナル機っていうね