危険な提督と娘達   作:片栗虎

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久しぶりの投稿です。




響と大潮 凶行

二人の再開の翌日……。

 

「どうです響ちゃん?」

 

大潮が自慢げに控えめな胸を張り、海辺を指差す。

 

大潮が指を指した先には、貨客船橿原丸(かしはらまる)が停泊していた。

 

「これは……」

 

(ヴェールヌイ)は驚いた様子で海上に浮かぶ橿原丸(かしはらまる)を眺めていた。

 

「ふふふふ、この船はですねー?来る!司令官さんとの新婚旅行(honeymoon)の為に内緒で建造しておいたものなのです!」

 

現在の世界では艦娘建造使用としても、通常の船舶しか出来ないという、設定を逆に利用して産み出されたのが、この貨客船橿原丸(かしはらまる)である。

 

本来であれば、酒飲みのヒャッハー(準 膺)さんが誕生する所を代わりに橿原丸(かしはらまる)が建造されたのである。

 

これ(橿原丸)で大湊警備府まで向かいましょう!!」

 

この大潮の提案に対して、(ヴェールヌイ)の脳内では疑問符が埋め尽くされていた。

 

それもそのはず、艦娘である自分達が何故通常の船舶に搭乗しなければならないのか、真面目で合理的な思考の(ヴェールヌイ)では、大潮の考えなど理解できるはずも無かったのだある。

 

「うーん?響ちゃん、なんですか?その顔は?」

 

(ヴェールヌイ)の表情は無意識のうちに、天敵である低脳提督を見下す時と同じものになっていたのだ。

 

「あ、いや!違うんだ……ただ、なんでわざわざ船に乗るのかなと思ってね?」

 

良いわけが出来る程、(ヴェールヌイ)の思考回路は柔軟ではなかったのだ。

「えー!?響ちゃん!!そんなの決まってるじゃないですかー!?」

 

「え?決まってるのかい?」

 

(ヴェールヌイ)はさも当然の様に言い放つ大潮の、得も知れぬ未曾有の気迫に押されて、一瞬だけ、解らないのは自分が悪いのか?と自問自答したが、すぐに思い直した。

 

「いや、決まってないとおもう……けど」

 

(ヴェールヌイ)は自らの思考に自信はあった、しかし、大潮のあまりにも自信たっぷりな態度に不安は隠せなかった。

 

「響ちゃん!?」

 

「はっ!はい!!」

 

「私が響ちゃんと船旅をしたいと思ったからですよ!!」

 

大潮のまっすぐな瞳とまっすぐな心に打たれた(ヴェールヌイ)の目尻には、うっすらと涙が滲んでいたという。

 

「あはっ、流石は大潮だよ……私の理解の更に斜め上を行っているね?」

 

(ヴェールヌイ)は心の底からこの大潮の事を愛していると、今更ながら実感し、感涙していた。

 

「えー?そうですか!?響ちゃんだって鎮守府の提督さんになれるなんて、凄いと思うよ!!」

 

「……その事何だけど……、少し長い話になると思うけど、聞いてくれるかい?」

「もっちろんですよー!!響ちゃんのお話だったら、何時間でも聞いちゃいますよー!?」

 

大潮は橿原丸(かしはらまる)を操縦して、10年間の思い出が詰まった名も無き孤島に、暫しの別れを告げるのであった。

 

 

そして、一時間が経過した。

 

「大湊警備府までは大体3日位でつく予定だね、夜間は20時までの航行としよう」

 

「わっかりましたぁー!!操舵は大潮に任せて響ちゃんは休んでいてください!!」

 

大潮は舵を派手ぶん回しながら言った。

 

「いや、私も一緒にやらせてくれないか?」

 

(ヴェールヌイ)は大潮の手と一緒に舵を握る。

 

「……響ちゃん」

 

「あ、ご、ごめんよ!」

 

(ヴェールヌイ)は慌てて手を離す。

 

この時(ヴェールヌイ)は、しばらくはこの手は洗うまいと、固く心に誓うのであった。

 

「い、いえ、大潮は大丈夫だから、あの、響ちゃんが大湊警備府を立ち上げたわけ、教えてもらえますか?」

 

「そうだったね、あれは今から大体4年程前にさかのぼるんだ……当時舞鶴鎮守府の秘書艦だった北上と喧嘩した時の事だった……」

 

(ヴェールヌイ)は大潮の背中を眺めながら語りだした。

 

 

 

 

ーー4年前舞鶴鎮守府ーー

 

(ヴェールヌイ)自室

 

「全く!まさか北上がアレ(回天)を使って大潮を巻き添えにしたなんて」

 

後に(ヴェールヌイ)の反乱騒動と呼ばれる、(ヴェールヌイ)の離反事件の前日、北上と(ヴェールヌイ)のいざこざにより、ハイパー大井ったが北上の砲撃を腹部に受けて、全治1年の重傷を負った。

 

この事件により、北上は戦闘行為(砲雷撃戦)が一切出来なくなってしまい今に至る。

 

「わ、私は悪くない……、北上が勝手にやった事だ」

 

(ヴェールヌイ)はぶつぶつと呟きながら自室にやって来て、ベッドに倒れこんだ。

 

「でも……こんな騒ぎを起こす奴を提督とは認めては貰えないかもしれない……ふふっ、提督になってからもずっと大潮の事だけしか考える事が出来ずに、提督としての責務は全て北上や大井に任せっきりと言う有り様であったのに、今更認めて貰える筈もない……な」

 

(ヴェールヌイ)は意味もなく笑いながら布団に頭を突っ込む。

 

現在は幾らかマシにはなったが、この頃の(ヴェールヌイ)は完全に精神を病んでいた為に、北上の決死の覚悟で語った提督発射の真実(回天発射)もただ火に油を注ぐだけという最悪の結果になってしまったのだ。

 

冷静さを取り戻した今ならば、多少の聞く耳もあるので、北上の話もこの後おこる出来事にも、理性的に対処出来た可能性が高かった、しかし人生にはifなど存在しない。

 

「それなら、自分のしたいことが自由に出来る、そんな鎮守府を作れば良いじゃないか?」

 

突然(ヴェールヌイ)の耳に悪魔の囁きが聞こえてきた。

 

これは(ヴェールヌイ)の心の声や幻聴等ではなく、実際にそいつは(ヴェールヌイ)のすぐ側にいたのだ。

 

「だ、だれだ!?」

 

(ヴェールヌイ)は布団から飛び出して、声のする方に主砲を向ける。

 

「ふふ、私はヴェールヌイ、久しぶりだね?」

 

そこには、刻輪台鎮守府所属(今は無き故郷)時代に演習で戦った事がある、この世に存在する筈の無い、二人目のヴェールヌイ(異次元鎮守府ヴェールヌイ)であった。

 

「お、お前は確か佐世保鎮守府の秘書艦の……」

 

「よく覚えていてくれたね?君と会うのは6年ぶりだと言うのに」

 

(ヴェールヌイ)にとって、このヴェールヌイ(佐世保鎮守府)は忘れたくても忘れる事の出来ない相手である。

 

演習と言えど初めて艦隊戦において、真っ向勝負によって敗北を喫した相手なのである。

 

「どうやって此処まで来れたのかは知らないけど……」

 

(ヴェールヌイ)は主砲をヴェールヌイ(佐世保鎮守府)に向かって投げつける!!

 

「お前は私が倒さなければならないリスの、上位にランクインしているんだ!!」

 

因みに、ランク1位は刻輪台鎮守府の元提督である。

 

(ヴェールヌイ)は、ここで主砲を射つわけにもいかず、しかも相手は非武装であることから、肉弾戦を挑んだのであった。

 

「うわっ、ちょっと待った!」

 

飛んできた主砲をキャッチしながら、(ヴェールヌイ)の切れ味抜群の抜き手をギリギリで躱した。

 

「いきなり仕掛けてくるなんて、提督ならもっと慎重に行動するべきだよ……私は貴女の助けになるために此処まで来たんだ」

 

ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)からは戦意が全く出ていなかった。

 

「助け?」

 

「そうさ、貴女は恋人の大潮を見つけ出して、ついでにあの泥棒猫(刻輪台鎮守府元提督)を殺害したいと思っているのだろ?当たらずとも遠からずと言ったところかな?」

 

当たらずとも遠からず処ではなく、まさにビンゴっ!!であった。

 

「流石だね?良く調べ上げられてるよ、そしてこのタイミング……この舞鶴鎮守府にも佐世保のスパイが潜んでいるってわけだね?」

 

舞鶴からも数名佐世保に対して、スパイを送っているので、それ事態は不思議か事ではなかった。

 

「でも、何故危険をおかしてまで事実上の佐世保No.1と言われるお前が単身乗り込んで来るんだい?」

 

彼女ほどの有名人でおれば、下手をすれば見つかって捕らえられるか、攻撃を受けて舞鶴と佐世保の関係が悪化しかねない、これほどのリスクを省みず此処までやって来た目的、(ヴェールヌイ)は少なからず興味が湧いて来ていた。

 

「まず、うちの鎮守府には単身誰にも悟られずに、舞鶴の中枢に侵入できる人材が私だけだった事、もうひとつはこの話は私の独断であり、佐世保鎮守府は一切関わってはいないと言うこと、利根さんは私がマグロ漁船に乗っていると思い込んでいるよ、可愛いだろ?」

 

そう、ヴェールヌイは秘書艦でありながら、提督である利根を欺き、数名の部下と共に秘密裏に活動していたのである。

 

「……そこまで話してよかったのかい?」

 

「あぁ、問題ないさ、貴女もこれから舞鶴を離れて独立するのだからね」

 

ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)は余裕の笑みすら浮かべて、(ヴェールヌイ)のベッドに腰かける。

 

「……とりあえず、話だけは聞かせて貰うよ?」

 

常識はずれなヴェールヌイ(佐世保鎮守府)の言動に(ヴェールヌイ)はもはや興味津々であった。

 

「話は簡単さ、貴女は恋人の大潮さんを捜しだしたいけど、鎮守府の皆は半ば諦めかけている、そして佐世保やアメリカ、世界連合の台頭で大潮さん捜索にかける人員や費用が削られ続けている」

 

「……」

 

ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)の言うことは全て事実であり、(ヴェールヌイ)は日頃から不満が募っていた。

 

「自分が提督なのに、何も思い通りに行かない毎日にうんざりしているのだろう?」

 

「……まぁ、そうだね……」

 

(ヴェールヌイ)は否定することが出来なかった。

 

今回の北上との騒動も、(ヴェールヌイ)の心に積もりに積もった不満と言う名の重油に、北上の言葉によって火がつけられた形なのだ、この時の(ヴェールヌイ)は北上が提督を(回天 )発射したことは、海軍本部の命令であり、逆らうことも出来なかった事はちゃんと理解していた、更に大潮が生きている可能性が高い事も解ってきた時で、喧嘩などする必要すら無かったことも理解していた。

 

「それじゃあ本題に入るよ?」

 

「…………」

 

(ヴェールヌイ)は何も言わずに頷いた。

 

「私の知り合いに、兎に角血の気の濃い3人の妹をもつとある艦娘がいるんだけど、その妹たちと言うのが本当に戦うことしか脳が無い艦娘達で、舞鶴と佐世保の平和思想とは正反対だと言う理由で今は何処にも属せずに、悶々とした毎日を過ごしているんだとか、それでその姉がなんとか妹たちを満足させてやりたくて、近々鎮守府の様なものを立ち上げたいと私の所に相談に来たんだ」

 

「……そこで私にその新鎮守府の提督になれってわけかい?」

 

「悪い話では無いだろ?」

 

ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)は立ち上がり(ヴェールヌイ)の顔の目の前に顔を近付ける。

 

「で、でも私は大潮に会いたいだけだし……その血の気の濃い妹さん達を満足させてやれるかどうかは……」

 

「大丈夫だよ、人捜しには人やお金ががいる、人やお金を増やすためには……戦いが手っ取り早いだろう?」

 

「……私に海賊の真似事をしろと言うつもりかい?そんな事をすれば他の鎮守府が黙って無い」

 

一対一(タイマン)での勝負ではあれば、例え相手が長門であろうとも勝てる自信がある(ヴェールヌイ)であったが、艦隊戦でしかも編成間もない艦隊が、精強な正規艦隊と戦っても相手にもならないと思ったのだ。

 

うち(佐世保鎮守府)が舞鶴をしばらくの間に押さえておくさ、その間に戦力を増強しておく、そうすれば舞鶴も手は出し難くなる」

 

ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)が言っている事は事実である、その事は(ヴェールヌイ)もすぐに理解することが出来た。

 

「確かにそれならば新鎮守府を立ち上げて、大潮の捜索に専念することもできる」

 

しかし(ヴェールヌイ)は1つだけ疑念があった。

 

「何故その話を危険をおかしてまで、私に持ってきたんだい?そのお姉さんでも良かったのではないか?」

 

同じヴェールヌイのよしみ、と言うにはこの潜入はあまりにもハイリスクなものであった。

 

「簡単な理由だよ、貴女の大潮捜索にかける信念は誰よりも強く、貴女ならきっと見つけ出すことが出来ると思ったから、というのと…………これが本当の目的、私は大潮と一緒にいると思われる(刻輪台鎮守府元提督)を捜しているんだ」

 

ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)(ヴェールヌイ)の両手を握る。

 

「何故あの屑(刻輪台鎮守府元提督)を?あんな奴は世界にとって害悪でしかない、どうしようもない屑だよ?」

 

酷い言われようであるが、真実なので仕方がなかった。

 

「たしかにそうかも知れないけど、アレ(刻輪台鎮守府元提督)はこの均衡された世界情勢に一石を投じ、再び世界は深海棲艦との苛烈な戦争時代へ進む切っ掛けを持っている……」

 

「ず、随分と物騒な事を真顔で言うね?……でも」

 

(ヴェールヌイ)ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)の言うことに多少ではあるが、共感させられる部分もあった。

 

(ヴェールヌイ)は普段から現在の、人間・艦娘・深海棲艦が一緒になってにらみ合いをして、小競り合いを繰り返し、時には艦娘同士で殺し合ったりもしているこの状況に疑問を抱いていたのだ。

 

その状況に比べれば、明確な敵が深海棲艦のみであった以前の方が、精神衛生上は良かったのではないかと思っていたのである。

 

「艦娘は深海棲艦を倒す目的で存在しているはずだ、だが今現在、その役目を見失い深海棲艦と共闘し、あまつさえ艦娘同士で傷つけあっている!!私はこんな世界の平和なんて、1ミリも興味は無いんだ」

 

ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)は何かに取り憑かれた様に自らの言葉に酔いしれている。

 

「それで、お前の目的は艦娘VS(バーサス)深海棲艦の構図を復活させる事、それだけなのかい?……そのあとはどうする気だい?」

 

(ヴェールヌイ)ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)から投げ付けた主砲を受け取りながらたずねた。

 

「そのあと?その後なんて考えてはいないよ?艦娘は艦娘と手を組み、深海棲艦は深海棲艦と共に戦う、それだけだよ」

 

そう断言するヴェールヌイ(佐世保鎮守府)に対して(ヴェールヌイ)は、別段興味無さそうに見詰めていた。

 

先程から公言しているように、(ヴェールヌイ)は大潮以外に全くと言って良いほど無関心であった。

 

恐らくは大潮と世界を天秤にかければ、迷わず大潮を選ぶだろう。

 

「それでこの話、引き受けてくれるかい?」

 

「……」

 

(ヴェールヌイ)はわざとらしく熟考する素振りを見せるが、この時の(ヴェールヌイ)の気持ちは決まっていた。

 

「寝食を共にし、共に命をかけて戦ってきた舞鶴鎮守府の皆は今でも大切な仲間だと想っているし、今まで私を支えてくれている事にも凄く感謝している……」

 

(ヴェールヌイ)ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)の手を握り返す。

 

「でも、此処には大潮はいない……」

 

交渉成立の瞬間であった。

 

そしてその日、(ヴェールヌイ)は舞鶴鎮守府の提督の辞任を表明し、ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)の仲介により、大湊警備府の提督に着任する。

 

「………………」

 

「…………」

 

「……」

 

 

「そんな感じだったかな?」

 

大潮と二人、真ん丸のお月さまを眺めて語る(ヴェールヌイ)……。

 

「あはは」

 

あまりに自己中心的で、あまりにも盲目的な(ヴェールヌイ)の気持ちを目の当たりにして、大潮はただ笑うしか無かった。

 

「……兎に角、恐らく今大湊警備府の提督をしているのは、ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)だ、恐らくあの(刻輪台鎮守府元提督)を使って何らかの形で、以前のような混沌とした世界を取り戻そうと画策しているはずだよ!私たちで彼女を止めないと!!」

 

大潮の手前ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)の行動に対して疑念や怒りを露にしている振りを魅せているが、(ヴェールヌイ)の本心は予定とは大分違ったが、多こうして大潮と共に二人旅をすることが出来て、ヴェールヌイ(佐世保鎮守府)には心の底から感謝していた。

 

「そう……そうですね!!響ちゃん!二人で何とかヴェールヌイさんを止めましょう!!響ちゃんへのお説教はそれが終わった後ですよ!!」

 

「う……なんでお説教?」

 

(ヴェールヌイ)本人からすると、ただ大潮を追いかけてきた結果なのだが、そのためには此れまで数々の艦娘が巻き込まれている、大潮はそれを嗜めようとして言っているが、(ヴェールヌイ) には全く自覚が無かった。

 

そんなすれ違いを交えつつ、二人の船旅はこのあと数日間続くのであった。




筆がもとい、指が重い。
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