ULTRASEVEN AX ~太正櫻と赤き血潮の戦士~   作:???second

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第1部 熱き血潮に
第壱話 少年,帝都に目覚める / 1-1 目覚め


一人の少年が、真っ暗な闇の世界にいた。

光が何一つ差し込んでこないくらい闇の中にただ一人…。

いや、少年の目の前に、違う人間の姿が映る。

一人は男性、もう一人は少年に近しい年齢に見える少女。二人は最初、少年を見ていた。暖かな微笑を浮かべたまま、ただ静かに見つめていた。

 

---誰…?

 

少年には、目の前の二人が一体誰なのかわからなかった。

しばらく見詰め合っていたのだが、しばらくして男性と少女は二人揃って少年にを向けた。

 

----待って!

 

少年は手を伸ばしたものの、その手は決して届くことはなかった。男性と少女は少年に背を向け歩き出す。二人は暗闇で見えていないのか、足が水面下に沈み始めていた。

少年もまた足が濡れることを厭わず、水面に足を踏み入れて二人を追いかける。だが、どんなに歩いても、どんなに時間をかけても追いつくことができなかった。

気がつけば下半身が水面に浸り、二人の姿は完全に闇の中へ消えていた。

 

-----待ってくれ!!

 

返事はなく、少年の叫びは虚しくこだますだけだった。変わりに帰ってきたのは、二人が消えた方角から押し寄せてきた、大津波だった。

 

!!?

 

津波は、まるで壁のような高さを誇っていた。

少年は避ける間も与えられず、その大津波に頭から飲み込まれていってしまった。

波の勢いというものは人間に抗えるものでは決してなく、たちまち水の中へと呑み込まれてしまった少年。

 

静かだった。水の冷たさと、重力を感じない不思議な感覚、そして自分がだんだんと深淵に沈んでいく感覚だけが感じ取れた。

 

深く、深く沈むに連れて水がだんだんと冷たくなっていく。

 

このまま、自分は闇の底へと沈み、消えていくだけなのか…

 

視界も揺らぎ、少年の意識が薄らいでいく。

 

 

 

しかし、そのときだった。

 

水にただ沈んでいく少年の視界に、一点の光が見えた。

 

太陽でも昇ってきたのだろうか…?

 

 

冷たい水の中であることを忘れるほどの暖かな光だった。

 

 

あぁ……暖かい

 

 

その暖かな光は、やがて少年の姿を完全に覆い隠すほど包み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

少年は起き上がった。そこは、確かに水の中だった。でも、さっきの景色とはまるで違う。

どこか近未来的な部屋に安置されていた、水で浸されたカプセルだった。

 

さっきまで、眠っていたのだろうか?

 

しかし、自分が水の中に浸されていると気づいた少年は、おぼれる!と体の防衛本能が過剰反応し、カプセルのガラスを殴り始めた。

 

出してくれ!!

 

ガンガン!とガラスを殴りつける。しかしそのガラスは人の力では砕ける程度の強度ではなく、どんなに殴ってもびくともしなかった。

…が、いつしかガラスにひびが入り始めていた。

よし!

少年は一気に力を振り絞り、最後にパンチ一発をぶっ放してガラスを殴りつける。

ガラスは、ガシャン!!と音をたてて砕け散った。

「ぶはぁ!!はぁ…!!はぁ…!!」

た、助かった…。

少年は大きく呼吸を乱しながらもカプセルから外に出た。

すると、騒ぎを聞きつけたのか、部屋の扉が開かれ、見覚えのない人物が入り込んできた。

「な、何の騒ぎですの!?」

「何々?何の音!?」

入り込んできたのは…二人の少女だった。

一人は気品さ溢れる、そして若くも艶やかさを持つ女性。もう一人は外見から見てまだ10代に差し掛かったばかりの少女だった。

「…!」

少年は入り口の方を見やって、部屋に入り込んできた二人を見る。

この子達は…?誰?

それにしても…何か様子がおかしい。少年の姿を見て、顔が一気に赤らめ出している。

「い、いやああああああああ!!!」

「きゃああ!!変な人がいるうううう!!」

二人は少年の姿を見て酷く赤面し、一目散に逃げ出した。

なんなんだ。変な人とは。

僕だって好きでこんなところにいるわけではないのに。行き成り目が覚めたら水の詰まったカプセルの中だなんて落ち着けるわけがない。

っと、少年はここであることに気づく。今の自分は身包み1枚なかった。つまり…真っ裸だった。恐らく服を濡らさないためにこんな姿にされていたのだろう。通りであんな反応をされたわけだ。

しかし、このままでいるわけにも行かない。何か拭くもの…。出ないと風邪を引く。

タオルを探そうと周囲を散策し、ようやくタオルを見つけ、体を拭き終えたところで腰に巻いた。

(それにしても、ここは一体どこだ?)

見た事もない部屋だ。どうして自分はここにいるんだろうか。いや、んなことはどうでもいいか。さっさと帰って………

 

……?

 

少年の頭に疑問が走る。

 

帰るって、どこに?そもそも僕はどこに住んでいたんだ?

 

 

 

 

 

僕は…いったい…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの戦いからもう大分経っちまった。

かつて英雄ともてはやされた自分。だが、実態は決して褒められたもんじゃねえ。寧ろ無力感にさいなまれのうのうと生き続けてきた情けない男よ。

戦友も守れず、死なせ、傷つけた。そして何より…。

 

俺には妻も子供もいなかった。けど、こんな俺でも戦友とも家族とも呼べる奴がいた。

一人は、あの戦いを友に生きたあやめ君、そしてもう一人…あいつがいた。

いや、過去形にするのはおかしいか。一応生きてはいるんだ。血は繋がってはいなかったがよ。

けど…あいつはあの戦いで…俺たちのために…。

 

今じゃ、いつ目が覚めるかもわからねえ眠り姫状態だ。男のクセによ…。

 

俺はもうあの悲劇を繰り返さないためにも、共に生き残ったあの娘とともに新たな部隊を立ち上げた。『奴ら』が蘇るかもしれないし、それに変わる邪悪な連中が世界を覆うかも知れねえ。そんなの耐えられねえからな。

彼女…あやめ君も承諾し、自ら副指令に推薦してくれた。そっからはいつか訪れる戦いに供えての準備を続けてきた。

しかし、やっぱ俺は時々考えちまう。

 

俺は日露戦争で英雄とたたえられてはいたが、今じゃこうして支配人室に用意された椅子に腰をかけて、魔の力を払える若い娘たちを戦場に送ることだけだ。

老いには勝てない、その言葉がここ数年俺にはきつく感じ取れた。

その度に考える。俺も、あの時みたいに戦えたら…

 

遠い彼方の星からやってきた『せがれ』みたいな力があれば、とな。

 

けど、俺はしばらくぶりの幸福感を覚えることになった。

 

 

長くは…持たなかったけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『支配人室』と立て札の駆けられた一室に、二人の少女が入り込んできた。その部屋には金髪のショートボブのクールな外見をしている女性、そしてもう一人、初老に差し掛かり始めたような風貌の男性がいた。

「米田支配人!!」

「米田のおじちゃん!!」

「お、おおう!?なんだなんだ!?」

なだれ込むように入ってきた二人に、男性は目を丸くした。

「…すみれ、アイリス!行き成りノックもしないで。ここが支配人室だとわかってるの!?」

金髪の女性、マリア=タチバナが突然の来訪者に対して目を細める。

「おい、どうしたんだ?そんなにあわててよ」

一方でノックもせずに入ってきた二人に、落ち着きを取り戻した態度で、この部屋の主『米田一基』が尋ねる。

「へへへ…変人が…裸の男が…!!」

「米田のおじちゃん!なんとかして!!」

まるで恐ろしいものを見てきたように、すみれとアイリスと呼ばれた少女たちは懇願する。

「裸の男だぁ?そんなのどこで見たんだ?」

「そ、それが…行き成りガラスが割れたような音が聞こえて、気になって音をたどって地下に降りたんですの」

「地下…!?」

地下に知らない男がいる。そんなの彼らにとってありえない話だった。少なくとも入り口はこの建物の玄関しかないのだから。

「二人とも、あそこは米田支配人の命令で立ち入りを禁じている場所出ることを忘れたの?」

マリアの言葉からすると、すみれたちが訪れた場所と言うのは、彼女たちも立ち入りを禁じられている場所のようだ。

「いきなり割れた音が聞こえたら気になるじゃありませんの!もし侵入者が入ってきたとしたら、この『帝国華撃団』のトップシークレットが露呈されたことになりますわ!」

禁止事項を破ったことについては反省こそしているが、自分たちにも知る権限があることを主張するすみれ。

「それは確かに…」

マリアも組織の機密に関わるとのすみれの主張を聞いて、一理あると考え込む。

「おいすみれ。その男は地下にいるんだったな?」

米田が席から腰を上げてすみれに尋ねる。

「え、ええ…そうですわ」

「…わかった。俺が見てくる」

「支配人!?」

突然の米田の、自ら出向くという選択にマリアをはじめとした全員が驚いて目を見開いた。

「待ってください支配人!ちょ…!」

マリアの制止を振り切り、米田は支配人室からそそくさに立ち去って行ってしまった、

「米田のおじちゃん、どうしちゃったの?」

米田にしてはあまりにもオープンなアグレッシブさだった。アイリスは驚いたまま去り行く米田の背中を見ていることしかできなかった。

「とにかくついていきましょう。もし侵入者だったら、米田支配人が危険だわ」

「そうですわね。舞台の件で散々文句を言わせたくなるほどの人ですが、ほうっておくわけにも行きませんわ」

すみれは若干普段の、今回の件には全く無関係の話を付け加えつつ、米田の後を追うことに賛同する。

全力で米田を追い、地下へ向かい、すみれたちはさきほど少年が現れた部屋までたどり着いた。

すでに米田と少年は、真正面から向かい合っていた。

「米田支配人、危険ですわ!」

女性たちは自分の姿を見て警戒をしている。だが一方で米田はというと、少年の姿を見て固まっていた。

「支配人?」

「米田のおじちゃん…?」

マリアとアイリスが米田の反応に戸惑いを覚えていた。なぜ目の前の男に一切の警戒心を抱いていないのか不思議であった。

「おぉ……」

それどころか、少年の姿を見て、涙を流し始めていた。まるで、数年ぶりに再会した我が子の立派な姿でも見ているような、それほどの感激っぷりだった。

「ようやく目覚めやがったか!!ったくこの馬鹿が…心配かけやがって!!」

自分の今の顔の有様などまったく気に求めていない。彼は少年の元に歩み寄ると、すごい男泣き顔を晒している。

「……?」

しかし、少年はきょとんとしている。突っ立ったまま、ただ目の前で感涙し続けている男に。

「お、おい…どうした?どこか、まだ具合の悪いところでもあるのか?」

「あの、支配人。それよりも…この方は…その、どなたなのですか?」

マリアが米田に尋ねる。とはいえ、少年が一枚も服らしいものを着込んでいないので、目を背けることに必死だった。現に頬にわずかな赤みが差している。

「おう、すまねえな。あんまりにも嬉しくてよ、つい年甲斐もなく…へへ。こいつはな…」

米田は涙をふき取ると、改めてマリアをはじめとした3人の女性たちに、その少年のことを話そうとする。

 

しかし、次の瞬間…少年の放った言葉によって、その部屋の時間だけが、止まった。

 

まるで、その場だけ空間から切り離されたかのように…。

 

 

 

 

 

「教えてくれ…僕は、誰だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第壱話 少年,帝都に目覚める

 


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