ULTRASEVEN AX ~太正櫻と赤き血潮の戦士~   作:???second

10 / 24
2-5 救世主

さくら、すみれ、マリア。三人の花組メンバーたちは絶体絶命の危機に陥っていた。

「く、動きなさい!早く!」

すみれは自分の光武に怒鳴るも、ただでさえデビルアロンとの戦いのダメージが酷かったことで修理か間に合わなかったのだ。連続でそれほどの手合いを相手にすれば、早い段階でガタが来てしまうのも無理はなかった。

「く、ダメか…!」

マリアの光武も同じだった。すでに稼働限界を迎え、動くことができなくなっていた。

動けるのは、さくらのみだった。自分しか戦闘を続行できる者がいないことを認知した彼女は動けない二人の光武の前に立ち、背後の二人に向かって叫んだ。

「すみれさん、マリアさん!ここはあたしに任せて、早く逃げてください!」

自ら、二人が撤退するための囮になろうとするさくらに二人はギョッとする。

「何をおっしゃるの!新人のあなたにそのような真似、許しておけませんわ!」

「さくら、無茶はよしなさい!」

抗議する二人だが、すでにデビルテレスドンは口から炎を溜め込み、それを花組に放とうとしていた。

帝都に咲く三つの花を無慈悲に焼き払おうとする炎に対し、さくら機は刀を構える。

「あれを、やるしか…!」

この手で奴の炎をかわしきれるかの保証は望めない。だがそれでも、この二人を見捨てて退くこともできない。さくらは自身の体内に宿る霊力を溢れさせ、光武の刀に流し込む。

「北辰一刀流…」

だがそのとき、テレスドンが炎を放ってきた。それに対してさくらは、次に放とうとした技に必要な霊力のチャージが、テレスドンの炎より一瞬遅れてしまっていた。

だめだ!間に合わない!

 

と、そのときだった!

 

どこからか、銀色かつ鋭利な物体がさくら機の前に飛来、さくらが何かしらの技を披露する前に、風車のように高速回転しながらテレスドンの炎をかき消した。

「「「!?」」」

突然のことに驚く三人。その銀色の刃はテレスドンの方に回転を続けたまま向かい、そのまま体当たりした。

「グゴオオオオ!?」

銀色の刃の体当たりによって倒れるデビルテレスドン。

「い、今のは…?」

さくらは、何が起こったのかわからずその場で固まっていると、本部司令室から椿の通信が入った。

『高エネルギー反応を探知!これは…赤い巨人です!』

「赤い巨人ですって!?」

すみれがそれを聞いて驚きを露にする。光武の機内モニターを通し、外の様子を伺う。外に現れている銀色の刃は高速回転を続けながら、さきほど飛んできた方角へ戻り、巨大な赤い手に握られ、銀色のマスクに覆われた頭の上に乗せられた。

椿の言う通りだった。

 

 

 

赤い巨人が、長屋の中央部の路地の上に、再びその姿を現したのだ。

 

 

 

「まさか、また姿を現すなんて…!」

マリアは二度も正体不明の赤い巨人が現れたことに驚きを隠しきれない。

「…」

さくらも同じだった。まさか、こんな巨人がこの世に存在するなんて夢にも思わなかった。

 

 

避難していた長屋の人々も、赤い巨人の雄々しく巨大な姿に注目していた。

「な、なんだあれは!」

赤い巨人を初めて見る人たちには、彼が降魔とはまた別の驚異に見えていたのだろう。だが、逆に赤い巨人を見て、期待と幸運に満ちた眼差しを向ける者もいた。

「赤い巨人だ!」

「お、おやっさん知ってるのか!?」

「あぁ、降魔戦争でも俺たちの前に現れた、救世主だ!」

 

 

 

赤い巨人となったジンは、ジリッと身構える。

前回とは違う。あやめがくれた眼鏡で変身したからだろうか。今は自我がはっきり保たれている。一変した自分の姿を見て、ジンは自分の中から力があふれ出るのを感じた。

自分の破壊活動を邪魔されたことで、デビルテレスドンは怒り狂い、目の前の赤い巨人に敵意を向け、襲いかかってきた。

ジンは向かって来たテレスドンの体当たりを正面から両手で受け止めた。その状態から頭を両手で掴むと、テレスドンの顎に向けてニーキックを、今度は胸元に左拳を叩き込む。

テレスドンは宙に飛び上がったと思ったら、その体を横向きに高速回転したのだ。回転を加えた状態で、奴はジンに体当たりをかます。

「グゥオァッ!?」

体当たりを受けて一時ダウンしたジンはすぐに立ち上がるが、背後から再びテレスドンが体当たりを仕掛けてジンを押し倒す。

まずい!

馬乗りになったデビルテレスドンは、口から自慢の灼熱の炎を吐き飛ばし、ジンの顔に浴びせた。

「グアアアアア…!!」

今の炎で銀色のマスクと周辺の赤い肌に、こげみがついた。というよりも、火傷というべきか。デビルテレスドンには、こんがり焼きあがった肉料理のように見えていたのかもしれない。火傷だらけとなったジンの体を、よだれまみれのおぞましい口で噛み付こうと、飛びつくように顔を近づけた。

食われてたまるか!ジンは自分の体に奴の牙が食い込む直前、奴の上下の顎をガシッと掴んだ。

「グギギギギィ…!!」

自分が獲物を見定めた存在から抵抗されて不快に思いつつも、テレスドンは自らの顎を押し付けようとし、ジンは逆にそれを押し返そうとする。

敵の力は予想以上に強く、食われずにいる現状を維持するだけでもやっとだった。機能までの、迷っていた頃の自分だったら、力が入らず押し負けていたかもしれない。だが…!

 

―――ジンさんも、自分の心に従って答えを見つけたら、どんな答えが出ても、きっと後悔はしないと思いますよ

 

―――花組のみんなを、私を、米田さんを…信じて

 

―――行ってこい、ジン。花組のみんなを…俺の娘同然のあの子達を、守ってくれ

 

自分の迷いを振り払うきっかけをくれた人たちの言葉が蘇り、ジンの腕に力が入った。

「ヌウウウゥゥゥ……ゼアアア!!!」

ジンはその勢いでテレスドンの顎を押し上げ、がら空きとなっていた奴の腹にキックを叩き込んで蹴飛ばした。

「ガアアアアア!!」

体液を吐きながら舞い上がるテレスドンは、既に崩れ落ちた長屋の瓦礫の上に落下する。

ジンは跳ね起きて、立ち上がろうとするテレスドンの前に立つと、右腕を胸に当てる構えを取る。

すると、彼の額に埋め込まれた、縦長のエメラルドグリーンのビームランプから、一発の閃光が放たれた。

「デュワ!!」

その光線を受けたテレスドンは、槍を突き刺されたように胸に穴を開けられた。

「ガァッ……」

構えを解くと、なおもこちらに向かってこようと弱々しく、一歩ずつテレスドンは向かうものの、そのまま赤い巨人の前で倒れ、絶命した。

「ハアアアァァ…ダアッ!!」

自身の勝利、戦いの終わりを悟った赤い巨人は、光のごとき速さで夜空に消えていった。

 

 

 

「ち…忌々しいが、やはりやるな」

赤い巨人が勝ったことで、叉丹は憎々しげに顔を歪ませた。

「奴を殺すには、やはり………『覚醒』しなければならんな…。だが、まだそのときではない。それまで、せいぜい仮初の勝利に浸っているがいい」

叉丹は赤い巨人に向けて届くことのない捨て台詞を吐き捨て、彼が消えた夜空から背を向けて夜の闇に姿を消した。

 

 

 

後日…

支配人室にて、米田は一枚の写真を取り出し、それを眺めていた。その傍らには、あやめも控えている。

「一馬、すまねぇ。俺は危うくお前の一人娘を、その友達になるやも知れない娘たちもろとも殺すところだった。自分のエゴ…軍人にあるまじき理由でな」

自分は、花組のメンバーたちを実の娘のように思っていた。だが、降魔戦争で共に戦って、共に絆を紡ぎ合った、息子のように思っていたジンがあの戦いがきっかけで記憶を失ってしまった。仲間の死とジンの記憶喪失による、積み重ねのショックを理由に、間違った選択をとるところだった。

「どのみち俺は父親としても軍人としても褒められた奴じゃねぇ。結局、記憶を失ったままの息子を、あいつの力を頼りにまた戦場に駆りだしてしまった…」

写真に写る黒い髪の若い男を……今は亡きさくらの実父『真宮寺一馬』の顔を見ながら憂い顔で呟き続けるが、すぐに帝国華撃団司令としての、引き締まった顔つきに戻った。

「けど、それでもまだ俺は、お前らと一緒に守ってきた帝都を、これからも守っていきてぇ。そのためにもあいつらを精一杯支えて見せるからよ。もうちっとだけ、待っててくれよ?山崎もいるなら、寂しくはないだろうけどな」

「…支配人」

米田は最後にそう言うと、あやめもかつて共に戦っていた頃の景色と、そこで一緒に立った仲間たちに思いを馳せた。でも、感傷に浸ることが許された時間は少ない。自分たちは、帝都を守るために組織された…『帝国華撃団』なのだから。

「おぅ、分かってる。そろそろだな」

米田がそう言うと、とんとん、と支配人室の扉がノックされた。米田が入っていいぞというと、失礼します…とマリアの声が聞こえ、扉が開かれた。

扉から、さくら、すみれ、マリア、アイリスら花組の現メンバーたちが揃って入ってきた。

「支配人、お話とは?」

マリアが米田に、どんな要件で自分たちを呼び出したのかを尋ねると、閉められた扉から、再びノック音が聞こえる。

「まずは、帝国華撃団の新しいメンバーを紹介する。おぉい、入っていいぞ」

「失礼します」

米田の入室の許可を受けて、外から若い男の声が聞こえる。この声は!とさくらたちが反応を示すと、覚えのある男が入ってきた。

 

「紹介する。帝国華撃団に正式入隊した…米田ジンだ」

 

その男は、ジンだった。

「ジンさんが、新隊員!?」

さくらが思わず声を上げ、それに乗じてアイリスが米田に尋ねてくる。

「おじちゃん、もしかしてジンも花組に入るの!?」

「いや、ジンには花組の戦闘任務への参加、他にも様々な任務で頼むことが多くなる。よって特別隊員に任命し、お前らと一緒に戦うことになる」

花組と共に戦う以外にも、米田は組織の司令として、ジンにはあらゆる局面での任務を与え、彼女をはじめとした帝国華撃団の隊員たちの力とすることにしたのだ。だから花組の一隊員ではなく、特別隊員の役職を与えたのである。

 

「改めて、米田ジンです。まだ未熟なところが多々あると思いますが、よろしくお願いします!」

 

ジンは、これから共に戦うさくらたち花組のメンバーたちに向け、ビシッと敬礼した。

 

 

 

 

全てが夢ではないかと疑った。

記憶をなくしたことで自分が何者なのか、自分がどうしてこれほど強大な力を持っているのか…

 

けど、これは決して夢なんかじゃない。

 

僕は、僕を信じてくれた人たちのために、僕を受け入れてくれた人たちを、この力で守り抜く。

 

そう心に誓った。

 




次回予告


自分の存在理由、力の意味…迷いの果てに僕は、帝国華撃団の隊員として正式に入隊し、この力でみんなを守るために戦うことを誓った。

けど、華撃団の不戦果に賢人機関が不満を抱き、援助を渋りだしたみたいだ。
このままだと帝国華撃団が維持できなくなり、最悪解散することになる。

そうならないために米田さんは、近い内にマリアさんに代わる新しい隊長を抜擢するそうだけど一体どんな人が…

って、あなたは!?


次回、第三話!


『新隊長、大神一郎』


太正櫻に浪漫の嵐!



大神一郎、粉骨砕身の覚悟で、頑張ります!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。